オーバーロード~幸福な悪夢~   作:焼酎ご飯

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絵画世界で腐ってました。


ごめんなさい!



第十二話

「雨がきそうだな…チッ」

 

 

陽が陰り数時間、雨天独特の湿度を含んだ匂いと肌寒さが漂い、顔の傷が痛むような幻痛が走る。

そんな湿度のせいか、"隊"が身にまとう戦闘に特化したローブのような外套は心なしか重く感じる。

馬車であればそれほど雨に悩まされることもなかったのだが、法国から随伴していた馬車は竜王国領に入った時点で引き返している。

 

隊長ニグン・グリッド・ルーイン率いる陽光聖典の気は重かった…しかしその根本的な原因は天候ではなく、任務の"内容"にある。

こんなことで士気が低下するのも馬鹿らしく、安全確保の為に隊に指示を飛ばす。

 

 

『ーーーーー』

 

 

人の可聴域をわずかに超えるような名状しがたい音と共に、曇天の下を進む"騎馬隊"の頭上に光の粒子が収束する。

それは人型にも似た、しかし決定的に何かが異なる無機物のような異形を形成していく。

 

 

 

第三位階天使召喚(サモン・エンジェル3rd)

天使《炎の上位天使(アークフレイム・エンジェル)》の召喚

 

 

 

召喚魔法によって光から顕現した天使は一体ではなく、数人の隊員の詠唱に合わせて複数体姿を現す。

光が噴出すように形作られた剣を構える天使たちは、一定間隔をゆっくり回転するように騎馬体を満遍なく防衛するように陣取り、遅れなく併走している。

 

そして時折姿を現すケダモノーーー任務の討伐対象であるビーストマンに数体の天使が対処し、残りの天使はより防御と警戒を固めながら目的地へと進んでいく。

散発するビーストマンに対して、炎の上位天使は神の威光を知らしめるように屍を築くが、召喚主である騎馬隊はそれに嬉々とすることもなく冷静に対処する。

 

 

 

「召喚者のローテーションを切り替えろ。陣形をそのままに天使の防御体制を厳にしたうえで早急に交代せよ」

 

 

 

前衛中ほどから指示を出す。

隊の機能としては後衛にいても良いのかもしれないが、以前に隊の仲間が何人も殉職している任務だ…本格的な戦場ではない今だけでも積極的に前線に立ち士気を向上に努める。

 

 

 

「ケダモノが…例年と違って随分と散発して現れるな。まさか主要都市が陥落したなどあるまいな」

「いえ、風花聖典からはそういった報告はあがっていません。いくつかの村を含めた領地が押さえられているらしいですが、すでに放棄されたものばかりとのことです」

 

 

 

竜王国は現在ビーストマンの進行によって大きく疲弊している。

最早戦力を自国で賄えなくなった竜王国は多額の費用を法国に支払うことで、陽光聖典を始めとした法国の戦力を借り受け、なんとか存続を続けているといった具合だ。

現に陽光聖典が戦力として投下されるようになってからも三つの都市が落ち、何人もの隊員が殉職している。

人類の守り手という立場であるが、逃れられない滅びへと向かう国への派遣というのは焼け石に水とも言えなくもないが、莫大な国家予算を必要とする法国の試金石である以上仕方がない。

 

 

 

「そうか。しかし前回よりも被害が拡大しているのは良い気分ではないな。道中ビーストマンに襲われる機会が多くなっているのもやつらの行動範囲が広まっていることが原因だろう」

「確かに、昨年に比べて随分出現頻度が上がっていますね」

「嘆かわしい…こんなところで消耗するわけにもいかん。各員馬の速度を少し速めーーーーーむっ、雨か…ともかく雨も降り始めた、体力の消耗に気をつけつつも速度を上げろ!」

 

 

 

曇天はついにこらえきれなくなり、ぽつぽつと雨を降らせ始めた。

陽光聖典は外套に雨を受けながらも、天使の陣形を調整しながら足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた左側に森が続く雨でぬかるんだ道。

竜王国の主要都市の一つが見え始めた時点で、雨は本降りとなり始めた。

耐水加工されている法衣とはいえ、打ち付ける雨風による体力の低下は免れなかった。

 

幸い、時折現れるビーストマンは統率もなにも無く、何かから逃げるように森から現れるだけにとどまっていた。

 

 

 

「隊長、書簡はどうしましょうか?」

「あのトカゲ娘が各聖典の長の顔など覚えてはいまい、代表が顔を出す必要もないだろう。拠点到着後は二人選抜して首都に向かわせた後、早朝まで休息に入るーーーーー

 

 

ーーーーーうぉっ!?」

 

 

 

命令を下そうとしたところ、突然馬が落ち着きなく暴れ始める。

落馬するわけにもいかずぬかるんだ地に足をつけると、他隊員の馬も同様に暴れ狂っていることが見て取れた。

眼が血走り、唾液を撒き散ら、中にはその場で倒れながら暴れる馬までいる始末だ。

 

 

 

「一体なんだというのだ…各員馬を一箇所に集めろ!精神抑制の魔法を行使すr-----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『キャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッッ!!!!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーぅぁ、あ…い、今のはーーーーーうおっ!?お、落ち着け!!」

 

 

 

 

 

突然響き渡る空を揺るがすほどの奇声のような咆哮。

咆哮の残響と森から一斉に鳥が飛びたつ音の中、臓腑全てが圧迫されたかのような急激な吐き気が込み上げる。

全身から脂汗が噴出し、心臓が破裂しそうなほどに早鐘を打ち、全身の筋肉が緊張する。

その原因が得たいのしれない巨大な咆哮による恐怖だと気がついたところで、馬が泡を吹いて倒れる。

 

 

「な、なんだというのだ!各員状況を報告ーーーーー

 

 

 

 

『『『-----ァァァァァァァァァァッッッ!!!!!』』』

 

 

 

 

 

尚も強くなる吐き気と三半規管の異常によろめきながら、状況把握に努めようと周囲を見渡した時点でーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー恐ろしいものが見えるーーーーー見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ、オェ、ーーーーー

 

 

 

 

 

 

ついに胃酸が逆流し吐瀉物が法衣を汚す。

だがそんなことすら気にならないほどに、ソレに眼を奪われ続けた。

隊員が眼を剥き、過呼吸を起こして倒れ付す隊員たちはもとより、その遥か先ーーー森の中腹辺りにある切り立った丘の上で、一体の怪物が空に向かって吼えている。

 

 

 

「う、ぁ…」

 

 

 

あれだ。"アレ"こそがこの狂乱の根源だ。

 

ビーストマンが散発していた理由は活動範囲が広がっただけではない。

今だからこそわかる…"アレ"から逃げていたのだ。

 

距離のせいなのか、雨のせいなのか、はたまた脳が認識を拒んでいるのかアレの仔細はわかりかねたが、その巨大な四肢と角を持つソレは全てを呪うかのような怖気の走る咆哮を吐き散らしている。

決定的に違う。

アレは人類が認識できる領域を逸脱した恐ろしい存在であるということを本能的に感じ、直視するだけで脳が何かに蝕まれていくような、自分が作り変えられていくかのような間隔に陥る。

 

 

 

 

 

「ら、《獅子の如き心(ライオンズ・ハート)》!!」

 

 

 

 

ただ脳を虫に食われるようなおぞましい間隔から逃れたい一心に魔法を発動する。

途端に恐怖は収まり、体の不調も随分と軽くなる。

砕けそうな程に噛締めていた奥歯から出血しているこちに気がつく。

 

そして先の恐慌状態で集団としての機能を失っていた隊員達は、ようやくノロノロと起き上がる。

 

 

 

「隊長?い、いったいなにg-----

 

「各員傾聴!!現在をもって竜王国における任務を中断!現在我々に向けて行われている精神攻撃への対処を行う!大凡の敵影は部隊左翼に見える丘の上にいるデカブツだ!目視する前に気を引き締めろ!!」

「「「っ!---了解!!」」」

 

 

 

流石精鋭である陽光聖典の隊員だけあり、すぐさま状況を持ち直す。

息を呑みながらも彼の怪物を見据え、精神安定させても未だに暴れる馬をなだめる。

 

 

 

「相手はデカブツだ!だが我々精鋭であr-----

 

 

 

 

『『『ーーーーー!!!!!』』』

 

 

 

 

 

整い始めた部隊に再び恐怖が伝播する。

先程までの奇声のような咆哮が鼓膜を引き裂くような高音になったかと思った瞬間、水袋が破けるようなーーー肉が裂けるような水気のある音が聞こえる。

 

 

 

「な…なんだ…あれは…」

 

 

 

想像を絶した。

巨大な四肢を持つ動物的特長を持っていた"アレ"は異形と化した。

 

頭部と思しき場所からは二方向に分かれる角があったはずなのだが、片側の角が変形したのか、はたまた無くなってしまったのか、別の"ナニ"かが蠢いていた。

全長にも迫りそうなほどに伸びた触手のような"ナニ"がのたうち、そしてーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

本能的にそう感じた瞬間、異形の怪物は視界から消え、地響きと共に数キロほど離れた場所に降り立っていた。

再び怖気が走るような絶叫を上げると、木々が根こそぎ吹き飛ぶような、森を破壊し尽しかねない暴力が振るわれ始める。

 

 

 

 

 

「「「、…」」」

 

「任務を変更する」

 

 

 

思いのほか冷静に声が出せたことに驚きながらも、慌てて振り返る部下たちに指示を出す。

ある者は顔面蒼白で震えており、ある者は顔中の穴という穴から汁があふれ出していた。

もしかしたら自分もそうなのかもしれないが、最早どうでもいい。

 

 

 

「三人…いや二人でいい。私に続いてほしい」

「…」

「残りの者は法国へと帰還しろ」

「…た、隊長に続く者は…?」

「私と共に化物の詳細の観測に向かう。はっきり言おう…おそらく生きては帰れまい」

「では皆で帰還する方が…」

「人類の守り手たる我々があのような…絶対的脅威を見逃すわけには行くまい。今は人類種の過渡期だ…その礎となれるのであれば喜んで首を差し出そうじゃないか」

「し、しかし」

 

「では私一人でも構わないーーーーー

 

ーーーーー作戦を説明する!!今回の目的はあの怪物の情報を持ち帰ることだ!先の恐慌状態の誘発から考えて相手は何かしらの精神攻撃手段を有していることは明らかだ。だがその攻撃に一瞬でも耐えられるのは先程の状況から見て私しかいない。魔法による精神耐性を有しているのも私だけだ。よって私を中心とした偵察を行う」

 

 

 

何か言いたげな隊員を制して説明を続ける。

言わなくてもわかる。死ぬのであれば偵察など何の意味もなさないというのだろう。

 

 

 

「だがこれによる生還率はきわめて低いだろう。又あの怪物を仔細に観察するだけで発狂してしまう可能性もある」

「…」

「そこで私に随伴する者は私の後方に控え、対象を目視するな!そして私が撤退命令を出せない状態にあると判断したならばーーーーー

 

 

ーーーーー私を殺し、分割してでも法国に持ち帰れ!」

 

 

「そ、そんなkーーーーー「無論コレの成功率も極めて低いだろう。志願する者がいなければ、帰還する際に相互のメッセージが正確に伝わる距離を維持しながら、私から送られてくる情報を出来る限り早急に法国へと持ち帰ってほしい」

「ーーーーーとを…」

 

 

隊員の顔に幾分か生気が戻るーーーーーが、怪物の注意が別に向いているとはいえ未だ絶望的状況には変わりない。

しかし…

 

 

 

「「志願致します」」

 

 

 

決意に満ちた表情の二人の隊員が挙手し、騎乗する。

慌てて他の隊員も挙手するが、それを片手で制す。

 

 

「選抜はこの二人とする。後のものは情報伝達と生存を肝に銘じ、帰還せよ!」

「「「りょ、了解!!」」」

 

 

 

 

 

「総員状況開始!!」

 

 

 

 

 

 

こうして地獄へ邁進するかのように、陽光聖典の作戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーるいな」

 

 

 

煌びやかとまでは言わないものの、この世界においてはそれなりに荘厳な部屋…しかし一国の王の執務室としてはいささか事欠けているそんな一室で、やる気の無い間延びした声が発せられる。

 

大国と山脈に囲まれるように立地し、その国の一つにはビーストマン国という頭痛の種…というよりも国の存続に関わる亜人族の国が存在していた。

七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)によって建国されたこの国は、現在ドラウディロン・オーリウクルスによって統治されており、先の間の抜けた声はこのドラウディロンによって発せられたものである。

 

 

 

「いつもですけど何言ってるんですか?いつ陽光聖典が来るかわからないんですからシャキッとしてください…もしかして酒飲んでんじゃないでしょうね!?」

「いやオマエが手紙書けって言うから態々今飲んでr-----

「いやソレ言ったの昨日ですから!まぁ急ぎではないんで、へべれけになる前にやめてくださいね。そんなんだったら更に法国に足元見られますよ?」

 

 

 

一国の女王に対して随分とあたりの強い声が響く。

 

僅かに酒気を帯びた幼女から少し離れた席で執務をこなしている人物がその当人であり、竜王国の宰相である。

大凡臣下とは思えない言動だが、普段から言い合いや乱闘まがいの小競り合いが常習化していることから、それに抗議する者は場内に誰一人としていない。

 

 

 

「むぅ、それは冗談でなく困る…にしても予定を随分過ぎてるが、やつら本当に来るのか?国民の血税の殆どを払ってるんじゃから来てくれないとなると流石のワシでも!…うむぅ…どうにもできんな…」

「まぁ確かに我らが竜王国にも抑止力はあるにはありますが、それと同時に国が滅びますからなぁ」

 

 

 

8分の1程竜王の血を引くドラウディロンは広域に効果を持つ破壊魔法「始原の魔法(ワイルド・マジック)」を行使することが出来るのだが、竜王そのものとは異なり、魔法には犠牲が必要だった。

100万人もの人間の魂が犠牲にしたうえでようやく発動できるという、とてつもないコストが必要だった。

このコストについてはもちろんのこと、そもそもこの魔法を行使できること自体あまり知られていることではなかった。

しかし特殊な情報機関を有している法国にはこの情報は筒抜けだろうし、アーグランド評議国と敵対している法国が知らないはずがない。

 

もっとも、ビーストマンの進行によってその数を大きく減らした竜王国にとっては、発動即ち滅亡という図式が完成されてしまっている以上、法国の提示する金額を支払い防衛力を借り受ける…その都度国力は徐々に減少する…矛盾を抱えた延命手段ではあるが、竜王国は最早これに縋る他にないのだ。

 

 

 

「竜王の力というのも惨いものじゃ…一国の王に国を滅ぼす力を与えるなど、本当に過ぎたる力じゃ………嫌じゃー!こんな力があるから使えんのに胃に穴空くほど悩まにゃならんのじゃー!」

「穴空いてるんなら飲まんでください。それにその力が無いとただのちんちくりんですよ?」

「おうおうな~にがちんちくりんじゃぁ!これもオマエが士気向上の為にって言っとるからじゃろうが!ホントはバインバインのところを態々変身してやっているものを…おかげでアダマンタイト級のヘンタイにも目をつけられる始末じゃ!」

 

「…フッ」

「オラァッ!!」

 

 

 

机をバンバンとたたいて文句を垂れていた女王は、宰相が鼻で笑うや否や机を飛び越えドロップキックを繰り出す。

宰相は咄嗟に防御するも、幼女とは言え全体重が乗った攻撃に僅かに怯む。

 

 

 

「グゥッ!…そういえばアダマンタイト級で思い出しましたけど…ハァッ!…なんでも前線の一つで信じられないぐらい暴れまわったワーカーがいるらしいですよ…フンッ!」

「ぬぁっ!…なんじゃ、そのワーカーのせいで部隊に被害でも出たのか?…イタタタタ!!」

「逆ですよ。部隊の損害はゼロ…信じられないことに四人で600近くのビーストマンを討伐したとの報告を受けてます」

「ハァ!?なんじゃそりゃ!!…ってイタタタタタ!ちょっと待てマジでイタイ!イタイから!」

「あぁすみません、流石にやりすぎ…ですかね?…あと部隊長がワーカーと契約したらしいんですが、経費削減のために歩合制にしたところ完全に裏目にでて来月分の部隊運用費を全額回しても足りないらしいです。というわけでコレがその書類です」

 

 

 

ドロップキック後素人が受身を取れるはずも無く床にたたきつけられた女王に対して、胡坐をかくように足を動かした後その間に足を差し込み、相手の上側の足に自分の足を引っ掛けるようにして技がかけられていた。

所謂インディアンデスロックなのだが、女王の必死のタップにより流石に中断される。

先の戦闘?によってドラウディロンは涙目になりながら肩で息をしている。

服のはだけ具合からも、その場だけ見れば色々と勘違いされてしまいそうな場面なのだがそんなことには一切介さず、倒れ伏す女王の頭にそっと宰相はそっと書類を置くといった容赦の無さを見せている。

 

 

 

「ハァハァハァ…えぇい頭に置くな!法国の部隊は来ぬし、そのワーカーは手痛い出費じゃ!じゃが…これはチャンスではないか?」

「確かに、ワーカーであれば冒険者と違い雇用できる可能性もありましょうな」

「じゃがなぁ…それ程の強者にも関わらずワーカーをやってるぐらいじゃ…期待は出来んじゃろうなぁ」

 

「ですが定期契約ぐらいは出来るやも知れませんぞ?報告には誇張もあるでしょうけど、明らかにクリスタルティアや法国部隊よりは戦力たる逸材でしょうし」

「それほどまでに凄いのか!ますます欲しい逸材じゃな!…うまくいけばアダマンタイトヘンタイと金喰い虫の法国から開放されるかもしれんのぅ!」

「ビーストマンの戦線を押しのけるまではどちらの戦力も手放せませんのでソレは諦めてください」

「ちょっとした冗談じゃ。しかしのぅ…件の…なんちゅうワーカーじゃったか?」

「フォーサイトという四人組のワーカーですな」

「なんと、たったの四人でその戦力か…これではそのフォーサイトを勧誘する為にこちらが提示できるメリットがますます見つからないのぅ」

「それにそのフォーサイトなんですが、どうやら帝国に拠点を置いているようです。こちらから提示できるメリットは限りなく少ないでしょうな」

 

「それを提示できるような国であれば今の地獄は生まれてなかったんじゃろうが…それもワシの力不足が招いたことじゃからなぁ…」

「そうですね」

「いやそこは『…いえ、私が不甲斐ないばかりに…』じゃろうが!おりゃっ!」

「ぐえっ!?」

「ふんっ!…はぁ」

 

 

 

起き際に宰相に蹴りを入れ、ドラウディロンは溜め息をつきながら自席へと戻る。

奇跡とも呼べるようなチャンスが舞い降りたにも関わらず、竜王国にはソレを手繰り寄せる手札が無いのだ。

考えに耽りながら事務作業を続ける二人だったのだが、ドラウディロンが酒に手を伸ばしながらつぶやく。

 

 

 

「思ったんじゃが、何故帝国にいるのにアイツに徴用されておらんのじゃ?それに帝国にいるのに態々危険地帯である竜王国にくるのも解せん話じゃ。金が欲しければ皇帝に自らを売り込めばいいだけの話ではないか?」

「確かに鮮血帝であれば腕の立つ者は犯罪者であろうと金を積んででも雇用するでしょうな」

「じゃがフォーサイトはワーカーとして竜王国に来ておる…な~んか訳がありそうじゃな」

「この際直接聞いてみたらどうですか?一応女王という立場ですし、よほどのことでもない限り召喚には応じると思いますが…とりあえずダメもとでもコネクションを作るのは悪くないかと」

「そうかのぅ?ワシから向かわんでもよいのかのぅ?」

「一応女王なんですから下手に出すぎるというのもあまりよろしくないかと思われますが?」

「そうじゃったな。最近状況が切迫しすぎて忘れ気味じゃったがワシ女王だったな!もっと威張り散らしてもいいんじゃないかの?」

「あぁもう更年期が来てしまったんですね…おいたわしや…」

「おん?ワシ女王ぞ?ワシにそんな口聞いてmーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椅子の上で立ち上がり、何とか宰相を見下す形でポーズを取っていたところでーーー

 

 

 

 

 

 

ーーー唐突にドラウディロンは硬直する。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしました陛下?まさか本当に更年期でs-----「すぐにメッセージを使える者を呼び出せ」

 

「…陛下?」

 

 

 

 

 

ドラウディロンは椅子から降りると窓へと向かい、雨で霞んだ遥かかなたを見つめる。

 

顔の血色は悪く、脂汗をにじませながらかすかに肩を震わせている。

何かを察した宰相はすぐさま外の衛士を召喚に向かわせる。

 

 

 

「…尋常ではない御様子ですが…如何なさいましたか?」

「なんじゃ…その、何か…とてつもなく恐ろしいものが…突然現れたような…」

「…恐ろしいもの?」

「わ、わからぬ…わからぬのだが…何かがいるような気がするのじゃ…とても恐ろしい何かが」

 

 

 

先程までの遊びの混じった雰囲気は霧散し、緊迫感が支配する。

 

竜の血を引くドラウディロンは常人とは異なり、第六感のような何かを有している。

それ故に彼女の予感というものは馬鹿にできず、迅速に対処を行わなければいけなかった。

確実に的中するわけではない。だが今回の彼女の怯え様は、長く仕えている宰相にとっても異常に感じる程だった。

 

宰相が問いかけようとも、ドラウディロンはただただ恐怖したように雨の先を見つめるだけだった。

 

 

 

「もしやビーストマンの進行以来の感覚ですか?」

「…それ以上かもしれぬ…ただ圧を感じるのではなく、何というか…ともかく気色の悪い何かを感じるのじゃ…」

 

「…あちらの方角となると、件のワーカーがいる都市ですな…メッセージで確認する内容をまとめましょう」

「う、うむ…気のせいじゃと良いのじゃが…」

 

 

 

異常が起きていないかの確認をまとめ、冷や汗を垂らしながら竜王国女王はようやく椅子に深く座り込む。

 

 

 

 

 

「何故こうも問題が湧き出してくるのじゃ…ウゥェっ」

 

 

 

 

 

 

積み重なる不幸のせいか、謎の気配のせいなのか、はたまた飲みすぎたのか、彼女は眼を潤ませながら小さい背中を震わせながら嘔吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陛下………吐くならゴミ箱にしてくださいね」

 

「ーーーーー」

 

「ちょ、陛下!?!?陛下!!!!!?????」

 

 

 

 




要約:竜王国になんかいる。
いったい何レイドなんだ…




柵の中にコメントを投げ入れてください。
喜びます。
あと今回誤字脱字ひどいかもしれません…ゴメンナサイ

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