オーバーロード~幸福な悪夢~   作:焼酎ご飯

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第一話

 

「うぅ…ごめんなさい…ごめんなさいぃ…」

 

 

「…なんだコレ?」

「どうしたのヘッケラン? ってうわ!…なにこの爺さん?」

 

 

 

真昼にも関わらず濃霧が立ち込め日光ですら遮られ、辺は薄暗い。

 

この薄暗く赤茶けた大地が広がるここはカッツェ平原と呼ばれ、ある一時期を除いてアンデットが発生し続けるまさに呪われた地だった。

 

この近づくだけで心身ともにすり減りそうな土地で、ヘッケラン・ターマイト率いるフォーサイトは、ワーカーとして依頼を遂行していた。

 

依頼内容はアンデット化したスケルトンの全身回収となっている。

アンデットが大量に出没するカッツェ平原にて、スケルトンを中心としたアンデット狩りを行っていたのだが、歩合制ということもあり切り上げの準備に入っていた。

いくつものカットアウトを通していたために、依頼人の詳細はわからなかったが、ワーカーへの依頼というものは往々にしてそういうものだ。

そしてヘッケランとイミーナが担当する辺りを狩り終えた所で、あるものを発見する。

それは濃灰色のコートのような衣服に身を包んだ枯れた声で呻く人型の何かだった。

 

 

 

「イミーナか…いや、わからん。俺も今見つけたところなんだが、うめき声をあげているあたり死んではいないようだ」

「見たところ血も出てないみたいだけど、なんでカッツェ平原で生きてるのよこの人…もしかしてアンデット?」

「こちらは終わりましたよー。おや?何かありましたか?」

「ーーー早く帰りたい。私の魔法にも限界はある」

 

 

 

目の前に落ちていた呻きげを上げる物体に困惑していると、スケルトンの討伐を終えたロバーデイクとアルシェがやってくる。

アルシェは今回の依頼である骨の回収のために魔法〈浮遊板(フローティング・ボード)〉を用いて、骨を収納した箱をいくつも運搬している。

それが原因だろうか、それとも普段からなのだろうか、若干ふてくされているようにも見える。

そんなアルシェとは打って変わって、片手にメイスを携えフルプレートに身を包んだロバーデイクはいつにもまして爽やかである。

 

 

 

「ん、お前たちの方も終わったのか」

「えぇ、問題ありません。回収のためにアンデット退散を使用できないのは面倒でしたが、スケルトン程度であれば問題の起きようもありません。それで?そちらもあらかた終わっているように見えますが…その倒れている方は?」

「多分人間。ここに来たときには既にこんな感じだったが、死んではいないみたいだ。そもそもイミーナが言うようにヴァンパイアみたいなアンデットの可能性もある…どうする?」

「ふぅむ…それでしたら〈軽傷治癒(ライト・ヒーリング)〉」

 

 

 

ロバーデイクは手に持ったメイスを腰にかけ、右腕をかざして軽く魔法を唱える。

倒れふしたそれは淡い光を放ち、軽度の回復が発生したことが見て取れる。

 

 

 

「苦しんでいないところを見ると、どうやら人間のようですね。ほうっておくわけにも行きませんし、街まで運ぶことを提案します」

「まぁそうね。回復させちゃったわけだし、起きたら治療費と運搬費もらわなきゃいけないしね」

「お前バッサリ言うなぁ…それにロバーはお布施とかそういう神殿のしがらみが嫌だからワーカーやってんのに」

「それでもタダで運ぶなんてまっぴらでしょ?今から戻ったら日をまたいじゃうし」

「まぁそれはそうなんだが…」

「私の〈浮遊板(フローティング・ボード)〉はもう積載量オーバー…運ぶなら私は無理」

「なら私が背負います。幸いそれほど疲労もありません」

 

 

 

イミーナとヘッケランが老人を起こし、それをロバーデイクが担ぎ上げる。

それでもなお意識を取り戻さない老人は、力なくもたれかかっている。

 

 

 

「む?老体と聞いた割には少し重たいですね」

「この装備のせいじゃ…なさそうね、見るからに軽装だし。それにしても見たことのない装備ね」

 

 

 

ロバーデイクに背負われる老人…老人といっても、その枯れたうめき声と唯一素肌が見える目元に刻まれた深いシワ判断したものだ。

そしてその老人の服装は、地味ながらもどこの文化圏でも見かけないものであり、ただのコートではないとひと目で分かるものだった。

目元以外を全て覆い尽くされたその装束は、手甲を除きそのほとんどが生地でできていいるのだが、その全てがレザーアーマー以上の防御力を感じさせる一品であり、機動性を重視した鎧であるということが日々戦いの中で生きる彼らには判断できた。

そして最も目を引くものが、彼のかぶる帽子であった。

その帽子は左右の鍔を意図的に千切りとったかのように逆立っており、鎧同様に防御面に優れると同時に何か象徴的なものを感じさせる形をしていた。

 

 

 

「確かに見かけない装備だな。王国でもなければ法国っぽさもないしな」

「外から来た人かもね。あるいは降ってきたとか…まぁ何にせよ”厄介事”を持ち込まないでくれるといいけど」

「…」

 

 

 

アルシェが微かに肩をビクつかせたが、全員の意識が老人の話へ向かっているため気がつく者はいない。

彼女がワーカーとして働いていることこそが厄介事そのものであり、それを隠していることに触れられたかのような、軽い緊張がアルシェを襲う。

そんな事には意も介さず、イミーナとヘッケランは背負われた老人のことを考察している。

 

 

 

「気になるのはこれよねー…よっと、お!やっぱり爺さんみたいね。グリーンリーフんとこの爺さんよりは若そうだけど」

「人の帽子勝手にとるなよ。これでこの爺さんがハゲとかだったらどうするつもりだよ」

「別にどうもしないわよ。ハゲどころかポニーテール作るぐらいふさふさじゃない…にしてもパッと見た時から思ってたけど、随分いいもん着てるわね。この帽子にしたって何の素材使ってるかは知らないけど、かなりいいものよ?」

「あんまりこういうこと言うのはアレなんだが、追加報酬も見込めるかもな」

「やっぱりあんたも期待してんじゃない」

「はいはい二人共、打算的な考えはそこまでにしてとりあえず戻るとしましょう」

「「了解ー」」

 

 

 

イミーナ、ヘッケランは先ほど倒したスケルトンを箱詰めにし、浮遊板へと追加すると、ロバーデイクとアルシェを挟むように立つ。

先程までの浮ついた空気を切り替えると、真剣な面持ちで各々目を合わせて口を開く。

 

 

 

「とりあえずカッツェ平原を出る。場合によっては帝都に戻る前に野営をすることになるから、ロバーとアルシェは体力に気をつけておけ」

「わかりました」「わかった」

「それじゃあ隊列維持したまま行動開sーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「シッ!…静かに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれ歩を進め用とした瞬間、イミーナの張り詰めた声が通る。

パーティ内でレンジャーに該当する彼女の発した緊張を含んだ声に、パーティメンバーは即座に周囲への警戒を高め、各々の武器へとそっと手をかける。

そしてそこに至って全員があることに気づく。

 

 

 

「霧が…濃くなってる。見通しが効かない」

 

 

 

身の丈以上の杖を構え直したアルシェはポツリと呟く。

先程までかろうじて辺りを照らしていた日光は、濃度を増した霧に阻まれ、日没のような暗さを作り出していた。

それ故に急激に気温が下がり、鎧等の金属部にはわずかに結露ができている。

だがそんな気温変化とは裏腹に、パーティの全員がじっとりと嫌な汗をかいていた。

そんな緊迫感が張り詰める中、状況を確認すべくひっそりと口を開く。

 

 

 

「…いくらなんでもこの一瞬で霧が満ちるのは…イミーナ、敵なのか?」

「ーーーちょっと待って……ッ!右斜め前方…足音は軽いけど、ただのスケルトンとは何か違う感じ」

 

 

 

イミーナの指す方向に警戒を強め、ゆっくりと後退する。

敵の正体は今だにわからないが、これほど急激な環境の変化を引き起こせるとなると魔法の類と推測できる。

スケルトンのような足音と魔法のような現象ーーーーーここカッツェ平原ではたったこれだけの組み合わせだけで冷や汗が吹き出る程の最悪の考えがよぎってしまう。

 

 

 

「エルダー…リッチ」

「…いや、単に空が曇っただけかもしれない。もし曇っただけだったとしても敵かも知れない何か突っ込むのは愚策だな…イミーナ、相手はこっちに向かってきてるのか?」

「えぇ、ゆっくり近づいて来るわ」

「よぉーし…ロバー、アルシェ…さっきは体力をセーブしろと言ったが、そのことは忘れてくれ」

「「…」」

 

 

 

その言葉に他メンバーも次の行動を理解して、若干姿勢を低くする。

 

 

 

「アルシェは依頼品の運搬がある。俺たちに魔法をかけたあとは最悪フライを使って先に安全圏に出てくれ」

「…いやd「ここから平原外までそんなにかからない。フライを使ってもそこまで俺たちと距離が離れるわけじゃない」

「…わかった」

「次にロバー、たまたま見つけたとはいえその爺さんをここで見捨てるのは胸糞悪い。まぁお前ならそんなことはしないと思うが、本当に危なくなったらわかっているな?」

「…了解しました」

「最後にイミーナ、相手の位置を探知できるのはお前だけだ。むちゃくちゃな事言うが、できるだけ相手の位置を補足し続けてくれ」

「舐めないでよね。そんなの余裕よ」

「それは良かった。それじゃあアルシェ、頼む」

「…〈早足(クイック・マーチ)〉」

 

 

 

ほのかな光がそれぞれの足を包み、わずかに体が軽くなったかのような感覚が付与される。

これは移動速度を上昇させる早足という魔法であり、第3位階まで行使可能なアルシェが発動したことにより、並以上の効果が得られていた。

 

 

 

「全員準備はいいな?行くぞ?3、2、1…ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー走れっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘッケランの声を合図に、低くした姿勢から飛び出すかのように全員が駆け出す。

先ほどのように潜むかのような動作は完全になくなり、それぞれが全身の筋肉をフル活用して平原の外を目指す。

だが当然人一人を背負っているロバーデイクの歩は体格も相まって、魔法の効果があるとは言えほかと比べると遅い。

だがその後ろをカバーするようにイミーナが追走し、前方をヘッケランが先行する。

 

 

 

「イミーナ!!相手は追ってきてるか!?」

「いや!!多分追ってきてないわ!」

「わかった!だが全員速度を落とすな!」

 

 

 

相手が追って来ていないという事実に安堵するが、すぐに気を引き締め足に力を込める。

そもそもこの逃走劇自体が勘違いの産物という可能性もあるのだが、ワーカーとしての経験か、戦う者としての直感か、この場にいる全員が嫌な予感が拭えないでいた。

最悪勘違いであれば笑い話で済む。

だがこの嫌な予感が的中してしまう可能性を考えれば、容易に気を抜くことなど出来るはずもなかった。

 

 

 

「アルシェ!飛行で出口まで障害がないか先に見てくれ!このまま突っ切る!」

「わかっtーーーーー

 

 

 

 

 

 

「っ!!??全員上空警戒!!でっかい風切り音がーーーーー

「キャァッ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

イミーナの警告が走った瞬間、何か巨大な物が落下してきたかのような、とてつもない地響きと旋風が巻き起こる。

結果、飛行を使用した直後のアルシェが数メートル程吹き飛ぶ。

そしてその旋風によってあたりに満ちていた霧は一気に晴れ渡り、轟音と旋風を巻き起こした主が姿を現す。

 

 

 

「グヴオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッッッ!!」

 

 

 

「スーーーーースケリトルドラゴンッ!?くっそ、この霧の正体はコイツの仕業だったか!!」

「アルシェ!大丈夫っ!?」

「も、もんだいない!ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーーーっ!?みんな後方からファイアーボールッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

アルシェが大勢を立て直し、他メンバーのところまで戻ろうとした瞬間、霧が晴れたことによって自分たちが来た側から炎の塊が迫ってきていることが視界に入る。

いち早い警告によって直撃を受けることはなかったが、ファイアーボールが地面に着弾したことによって、肌を焦がすような熱気が頬を撫でる。

着弾を見届けたかのように、晴れた霧の先から薄汚れた黒いローブをかぶったスケルトンに似た何かが現れる。

干からびたように張り付く皮膚と、皮膚が剥がれ落ちところどころ露出した骨が異様さを引き立たせる。

一見白骨化したゾンビのように見える…だがその本質はただのアンデットとは大きく異なっており、アルシェの持つタレントがその答えを明確にしていた。

 

 

「エルダーリッチ!!」

 

 

優秀なマジック・キャスターの死後、その体に負の生命が宿って生まれるアンデットモンスターであるエルダーリッチ。

それは先に出現したスケリトルドラゴン同様、もしくはそれ以上に高難度の極めて危険なモンスターとされている。

 

腐臭と憎悪をまき散らしながら、エルダーリッチはその腐り落ちそうになった瞳と、むき出しの眼窩をフォーサイトへ向けながらゆっくりと歩み寄る。

同様に人骨と怨霊の巨大な集合体である骨の龍、スケリトルドラゴンがその長くうねる尻尾を地面に叩きつけ、全てを呪うかのような四つの眼光でフォーサイトのメンバーを捉える。

 

こうして強力なアンデット二体に挟まれる形となり、アンデットの特性上、生者である四人が狙われていることはもはや火を見るよりも明らかだった。

そしてフォーサイトの面々が落ち着きを取り戻す間も無く、スケリトルドラゴンの白い前足が、四人に対して振り上げられ、エルダーリッチの掌が赤い光を放ち始める。

 

 

 

「全員退避ぃっ!!依頼は無視だ!!全員平原入口まで全力で向かえっ!!」

 

 

 

混乱を極めたフォーサイトの四人だったが、熟練のワーカーである彼らはリーダーの咄嗟の指示を聞き入れ一斉に散開する。

 

 

 

「ふ、〈飛行(フライ)〉!!」

 

 

 

アルシェは指示通りに浮遊板を解除し、飛行を使用して仲間を視界に入れながらも一直線に平原の外へ向かって加速した。

当然浮遊板を解除したことによって、集めた骨はあたりに散らばり、取りに戻ることはもはや絶望的だろう。

だが骨ごときと命が釣り合うわけもなく、故にアルシェの決断は一瞬だった。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

だが一方で、ロバーデイクの場合は事情が異なっていた。

彼が運んでいたのは、依頼ではないにしろ命そのものであった。

当然骨などとは比べようもないものではあるが、普通の人間ならば危機的状況に陥れば見ず知らずの人間の命と己の命など天秤にかけるまでもない。

しかしロバーデイクの場合はそういうわけにもいかなかった。

彼の人格上、見ず知らずの人間とはいえそう簡単に見捨てる訳にもいかず、それは自分の命が危機に貧していようとも変わることはなかった。

 

スケリトルドラゴンの巨大な腕が振り下ろされ、地響きに足を取られることもなくギリギリの所で回避に成功する。

だがそれと同時に、動きの遅いロバーデイクを狙いすましたかのように、赤黒い炎の塊が飛来する。

スケリトルドラゴンの回避に気を取られてたが故に、ロバーデイクがファイアーボールの接近に注意が向いたときにはもはや回避は絶望的だった。

 

 

 

(これは…もう間に合いそうもありませんね。うぅ~む、まさかこんなことになるのなら蓄えも全て寄付に回しておけば…)

 

 

 

回避ができないということがわかり、生命の危機に貧したロバーデイクの心象は研ぎ澄まされており、尚且つ穏やかなものだった。

 

 

 

(私が死ねば彼らに迷惑がかかりますね…神官の代わりが見つかれば良いのですが…この地で死ぬとアンデットになるのでしょうか?あぁ、それは少し嫌だ…ですがまぁそんな事を考える前にーーーーー

 

 

 

ロバーデイクは老人を背負っていた手を離し、首から下げている聖印を力強く握り締める。

 

 

 

「へぶっ!?」

 

 

「アンデット共!!私はここです!〈下位物理防御(プロテクション)〉!!」

 

 

「ロバーッ!!お前バカやってんじゃーーーーー

 

 

 

ヘッケランの怒声…と何か聞こえた気がしたが、接近する火球の生み出す音に何も聞こえなくなる。

自身に耐性魔法をかけ、ファイアーボールを受け止めるように両手を広げる。

この一撃で死ぬことはないだろうが、間違いなく再起不能になる。

 

 

 

(この老人には申し訳ない限りだが、どうせここで命を散らすのであれば!時間を稼ぐぐらいは!!)

 

「ぐうぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー…?」

 

 

 

 

 

 

 

覚悟を決め、全身を覆い始めた熱に耐えるために、喉が裂けるほどの咆哮を上げる。

しかし、待てども待てども炎が体を包むような熱を感じることはなく、むしろ先程まで感じていた熱は一切感じることはなくなっていた。

一瞬自分が既に死しているのではと思い、うっすらと瞼を開ける。

 

 

 

「…え?」

「手こずっているようだな、…手を貸そう」

「なっーーーーー

 

 

 

思わず目を見開く。

自分が死んでいないということはもちろんのことだが、目の前には信じられない光景が広がっていた。

それは自分が背負っていたはずの老人が、円形の盾と曲剣を構え、炎を打ち払っていたからだ。

老人の盾にファイアーボールが触れると、その炎はまるで最初からなかったかのように霧散する。

気づいたときには盾はどこかしらへと消え、曲剣の柄は火花を散らすと、どういうわけか一瞬にして弓のような形へと変化した。

 

 

 

「…”ストレイド”の狩りを知るがいい」

 

 

 

老人は弓を引き絞る。

エルダーリッチは第一射が無効化された事を知り、第二射を打ち放たんと再び手に火球を宿す。

それはアンデットに対して弓のような刺突系攻撃の効果が薄いということを知っているが故の行動であり、知性あるエルダーリッチは回避の素振りすら見せない。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーだがその知性こそが…致命的なものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「シッ!」

 

 

 

 

「!?ーーーーー」

 

 

 

 

 

引き絞られた弓から、視覚化するほどの衝撃波を纏った太矢が放たれる。

瞬間、腐敗した脳髄と頭蓋が辺りに爆散し、後方へと地面を転がりながら吹き飛ぶ。

頭部を失ったエルダーリッチは何が起こったか認識する事もできず、物言わぬ本来の姿へと変わる。

 

 

 

「いい的だな、貴様。…ってあれ?なんか妙に生々しく死んだな…これがアップデート?いやでもサービス終了がーーーーー

「え、エルダーリッチを一撃で…あ、貴方はいったい?」

「ん?あ、ロールプレイですね。んっん゛~…私の名前はストrーーーー

「ろ、ロバー!!爺さん!!まだドラゴンが残ってるっ!!」

 

 

 

急に老人の放つ威圧感が霧散したかと思うと、ヘッケランが必死の形相でこちらへ駆け寄ってきているのが目に入った。

そして上方から凄まじいプレッシャーが迫ってきていることが目を向けずともロバーデイクには理解できた。

 

 

 

「グゴォオオオォオォォォォォォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

「ロバー!避けろおおおおぉぉぉォォォォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…クズが。空気にもなれんか」

 

 

 

 

 

叩きつけられる直前にまで迫った白く巨大な骨の腕は、突如鳴り響いた切断音とともに、ロバーデイクが見つめる老人の後ろの地面へと突き刺さる。

 

 

 

「ろ…ばー?…え?ーーーーーは?」

 

 

 

風を切る轟音が響く。

老人の右手にはいつの間にか波打つ鞭のような物が握られており、それは火花と複数の金属音を発しながらその形を変えていく。

やがてそれは巨大な鉈へと変形し、鉈を振り払うと同時に、そびえ立つように五人を見下ろしていたスケリトルドラゴンの眼窩から光が消え、巨大な頭部が首から分離して落下する。

一拍の間を開けてスケリトルドラゴンの体は、空洞音とともに地面に倒れ伏す。

ロバーデイクを助けるために必死にその場へと走っていたフォーサイトのメンバーは、取り敢えず到着するも完全に呆気に取られていた。

 

 

 

「ロ、ロバー…無事なのか?」

「え、えぇ…幸いに傷一つありません」

「ほ、ほんと無事で良かったわ…うん」

「…そ、そうだね」

 

 

 

命の危機を脱したにも関わらず、四人の声は晴れやかではなくこの上なく動揺していた。

それもそうだろう。

先程まで死にかけていた老人が、ミスリル級でも手こずりそうな危険度のモンスターを、ものの数秒で打倒したとなると動揺しない方がおかしいというものだ。

そんな超人ぶりを見せつけた老人は、地面に鉈を突き刺すとゆっくりと視線を向ける。

 

 

 

「では改めてーーーーー私の名はストレイド。悪夢に囚われた哀れな狩人だ…よろしく頼む」

 

 

 

ストレイドと名乗った老人は、赤く全てを見通すかのような瞳をこちらに向ける。

血のように赤い瞳と、落ち着き払ったその態度にどこか異様なものを感じ、口調も相まって凄まじい圧迫感に襲われる。

 

 

 

「う、あ…えっと、ロバーが危ないところを助けて頂きましてありがとうございました!!」

「い、命を救っていただき、どうお礼を申し上げtーーーーー

「あぁいや、お礼はいい。頭を下げないで欲しい。代わりと言ってはなんだが、少し教えて欲しいことがあるんだが…いいか?」

 

 

 

ヘッケランを筆頭に、各々我に帰ったかのように急いで武器をしまい頭を下げる。

その様子に困惑したストレイドは四人の姿勢を正し、各々がそれに従い目配せをする。

 

 

 

「我々に答えられることであれば…良いのですが」

 

 

 

仲間の命を助けられた上に英雄級の力を振るう相手である以上、質問というのはヘタの対価要求よりも緊張を強いられる物故に、四人は思わず生唾を飲み込む。

 

 

 

「えっとそれでは申し訳ありませんがロールプレイは省かせて頂きまして~ーーーーー

 

 

 

 

ーーーーーココってどこら辺のマップですかね?コンソールが開かないんで現状ユグドラシルがどうなっているかわからないんですが、何かアップデートが来たんでしょうか?さっきのモンスターのダメージエフェクトも随分と生々しくなっていましたし、アバターの表情変化も随分と精巧になっていますし…サービス終了間近と聞いていたんですが、もしかしたら私の勘違いかもしれませんし…メッセージで運営に確認することもできませんしどうしたものかとーーーーー」

 

 

 

全てを見通すかのような瞳と態度は柔和し、先程までの厳格な老人の姿は跡形もなく消し飛んでしまった。

 

 

そして極度の緊張を強いられていた四人はストレイドの態度の変化にどっと脱力し、同じ考えを巡らせる。

 

 

 

 

 

 

 

((((ーーーーー海の外の人だな!!))))

 

 

 

 

 

 

 

瞳の色や服装、そして先程からつむがれている意味不明な言葉の羅列にそう結論づけた四人は、理解を放棄して再び頭を下げるのだった。

 

そんな姿に恐縮してやめるように言う老人と、それに対して更に恐縮四人組という…傍から見れば滑稽な空間、四人からすればちょっとした悪夢が作り出されていた。

 

 

 





次は一切シリアスがありません。

人間性限界の心ですが、コメント、感想、指摘など是非お待ちしております。
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