ふざけます
「あいむしんか~とぅーとぅーとぅーとぅとぅ~♪あいむしんか~とぅーとぅ~~~♪」
「なんだか随分機嫌がいいみたいですね」
「あぁ!こんなに晴れやかな気分は初めてだ!!空気がおいC!!!」
「そ、そうですか…」
カッツェ平原というアンデットが出没する平原で骨集めを終え、帝都と呼ばれる場所への移動の最中、異常なテンションを振りまくジジイに若干引き気味のヘッケランをよそに、俺はこの世の春を謳歌していた。
手は自由に動き、息は苦しくない。
足は大地を踏みしめ、体は生気に満ち溢れている。
青々とした草木が放つ植物の匂いが鼻腔を刺激し、一切の汚染を知らない新鮮な空気が肺を満たす。
何もかもが新鮮で、最早得ることのできない幸福で満たされていた。
最近の事情は知らないが、最新のDMゲームであったとしてもここまでしっかりとした感覚再現は不可能な上に、依存性を防ぐために慎まれるものだろう。
では何故このような感覚を得ることができていいるのか?それは…
「異世界万歳!!」
字体で表すのなら”Y”のように両手を上にあげたポーズをとり、全身でこの世界を賛美する。
そう、俺は古今物語において王道と言われる程オーソドックスな展開である異世界転生を果たしたのだった。
満身創痍で血反吐を吐きながらアップデートを待っていたはずが、尻に走った痛みで唐突に意識を覚醒させる。
するとどうだろうか?目の前でプレート装備の大男がエルダーリッチに襲われているではありませんか。
エルダーリッチに苦戦する程の初心者が何故サービス終了直前に狩りをしているのか?あと何故尻が痛いのかという疑問はあったが、あまりにも迫真のロールプレイに手を貸さ(茶々を入れ)ずにはいられなかった。
『ねぇアルシェ…あの人やっぱりちょっとヤバいんじゃないかしら?ボケが始まっているようにしか見えないんだけど…』
『強い人は人間的な部分がどこか欠如している事が多い…ってどこかで聞いた気がする…』
『二人共あまり人の陰口をいうものではありませんよ』
『…それもそうね。ロバーの事ももちろんだけど、あのストレイドっていう爺さんがいなかったら私たち死んでたかもしれないしね』
少し後ろを行くロバーデイク、イミーナ、アルシェ…どれが誰だかはまだ覚えていないが、そう呼ばれる三人の声を潜めた会話だったのだが、”何故か”丸聞こえだったので少しテンションを抑える。
一行を助けたことによって感謝はされているようだが、このままクソじじい扱いされるのは遠慮願いたい。
だが…もしかしたら手遅れなのかもしれない。
「え~っと、ストレイドさんは”ユグドラシル”という”世界”から来たんですよね?そこはそれほどまでに荒廃していたんですか?」
「ストレイドで構わないよ。ユグドラシルが荒れ果てていたというわけではないんだが…私の置かれていた環境は空気ですら汚物に塗れていてね。あぁ、それと対比してしまっているかもしれないが、ここは何もかもが感動に満ちている」
「…なんか凄まじい所から来たんですね」
やめるタイミングを失ったロールプレイで、ユグドラシルではなく汚染され尽くしたリアルの話を織り交ぜる。
しかしながら威厳有りげな老人…を保てているかはいささか疑問ではあるが、ジジイという外見上変な態度を取るわけにはいかない。
そしてボケ老人というレッテルを回避できない理由というのが、まさに先の会話で出たユグドラシルの話だ。
今ヘッケランに向けられている哀れみを含んだ目は、俺の境遇への同情などではなく、”何言ってるんだこの爺さんは”的な感じなのだろう。
命の恩人という手前、老害とまでは思われていないだろうが、どこか悲しいモンスターを見る視線を向けられている気がする。
こればかりは銀髪の老人をアバターとして使っていた自分が悪いのだが、老人キャラというのはカッコイイから仕方がない。
そしてなにより”別の姿”を見られて発狂されるよりははるかにマシである。
『空気まで汚物に塗れてってどういうことかしら?』
『うぅ~む、先ほど空気がおいしいと言っていた所から考えて、酷く空気が悪い所だったんじゃないだろうか?汚物というからには想像を絶するのだろう』
『そういえばあの人、口元覆ってたわね。カッツェ平原の近くってそんなに空気がいいって感じでもないのにね』
やはり本来聞こえない程の声まで耳に入る。
耳だけではない。
日が沈みかけているにも関わらず、遥か遠くまで見渡せる。
恐らく各々の武器や防具から香るであろう微かな血の匂いを感じ取ることができ、それが心地よい。
鋭敏になった感覚はもちろんだが、自分の中に説明不能な感情や僅かに”乾き”も感じる。
それがどうしようもなく己が人を超えてしまったのだと実感させられるのだがーーーーー
ーーーーー死を待つしかなかった俺にとっては歓喜でしかなかった。
(ただ苦しみながら生きるだけの肉袋だったはずなのに…今は人を超え、また人の理を失わずにいる…都合が良すぎるし、もしかしたらここは死に体の俺が作り出した一時の悪夢なのかもしれないなぁ。というか舞い上がりすぎてナザリックの事忘れていたな…)
「ストレイドさん、そろそろ暗くなってきましたので日が有るうちに野営の準備にはいろうと思います」
「んお?もうそんなに時間が経っていたか。少しはしゃぎすぎてしまったようだな。何か手伝えるか?」
「いえ、火を焚く程度なんで大丈夫です」
「おぉ!キャンプファイアーというやつだな!」
「あはは、キャンプというにはお粗末なものです。寝床も薄い布を敷く程度ですし」
「ん?それは流石に体に障るんじゃ…!!確かいいものがあったはずーーーーー
非実体であるアイテムボックスはどのように開くのだろうかと考えた瞬間、脳内にアイテムインベントリがホログラムのように思い浮かぶ。
ゲームと同じように何もない空間に手を突っ込むと、脳内のアイテムインベントリからアイテムを取り出せると直感的に感じる。
「「「「…ぬぁっ!!??」」」」
野郎二人はともかくとして、女の子が出しちゃいけに声が聞こえた気がしたが、老人特有の難聴だろう。
取り敢えず目的のものである小さな木の箱のようなものを取り出す。
それを適当に放り投げ、おもむろに指を弾いてアイテムを発動させる。
すると木材が軋むような音とともに、しっかりとした作りのコテージが、まるで最初からそこにあったかのように現れる。
「ちゃんとアイテムボックス機能してよかったぁ~…コホン。と、いう訳でこっちで夜を明かsーーーーー
「うぅ~ん」パタッ
「ーーーーーハッ!?ア、アルシェ!!しっかりしてください!!」
「あわ、あわわわわわわわおわわ…」
「イ、イミーナ!?おち、おおおおおちおちおちつっっ」
ーーーーーたほうが…いいと思うんだが…何があったんだ!?」
この上なく錯乱しているフォーサイトに、思わず仰天する。
四人が錯乱するのも無理はなく、今発動したグリーンシークレットハウスという拠点作成アイテムは、ユグドラシルにおいてはそこまでレア度の高いアイテムでは無く特筆すべき点もないものなのだが、この世界においてはここまで劇的な変化をもたらすマジックアイテムというのは滅多に存在しない。
先ほどのアイテムボックスも同様であり、傍から見れば手が消えるという怪奇現象にほかならず、その上地面から家が生えてきたともなれば歴戦のワーカーであれ腰を抜かすのは不思議ではない。
そんな事とは露知らず、意図せず大混乱を起こして自分まで混乱に巻き込まれるという滑稽な姿を晒しながらも、なんとか四人を家の中に押し込めることに必死になる老人が、そこにはいた。
あはは
人間性限界の心ですが、コメント、感想、指摘など是非お待ちしております。