オーバーロード~幸福な悪夢~   作:焼酎ご飯

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まだふざけます





第三話

 

 

「落ち着いたか?」

「は、はい…取り乱してすみません」

 

 

 

銀の光沢を放つ小さな鐘をテーブルの上に置き、ゆっくりと腰を下ろす。

先程までちょっとしたパニック状態だった四人は、ある程度の落ち着きは取り戻していた。

だが横目で訝しむかのように鐘と俺をチラチラと見ていることが分かる。

 

 

 

「いやいや、私も驚かせてしまってすまなかった。アイテムを使用する前に一言声をかければよかったな」

「い、いえ…勝手に驚いたのはこっちですし…それにしてもすごいですね、この家もその鐘も…」

 

 

 

口調や態度から、察するまでもなく萎縮していることが分かる。

ここに至ってようやく自分のやった事がどれだけ浮いていたのかを気づかされる。

どうやらこの世界ではマジックアイテム自体が珍しいようだ。

さっきまで卒倒していたアルシェという女の子が魔法を使っていたところから考えて、魔法という概念自体は存在するハズなのだが、魔法の規模やアイテムに魔法を付与したりする技術があるのかは、驚き様を見る限り定かではない。

 

実際彼らの混乱を鎮めた”聖歌の鐘”というマジックアイテムは、範囲や効果の悪効率から、使う人を選ぶ稀少性の低いファンアイテムなのである。

それでも彼らの興味を引いているということは、私と彼らの間には文字通り価値観の違いが存在するのだろう。

 

 

 

(このまま認識の違いを放置すると、どこかで何かやらかしそうだなぁ…よし、全部ぶっちゃけて聞いちゃおう)

 

 

 

おもむろに聖歌の鐘を手に取り、手の上で転がす。

 

 

 

「この鐘はそんなに珍しいものなのか?」

「はい。俺は魔法に明るいわけじゃありませんが、家が突然現れるなんてマジックアイテムは見たこともなければ聞いたこともありません。アルシェは何かわかるか?」

「ん、わからない。私が魔法の勉強をしていた頃に探知魔法を発動させる鐘なら見たことがあったけど、鳴らした瞬間に体や精神を癒す効果があるなんて破格すぎる…と思います。ましてや家を生やすなんて今だに信じられな…ません」

「えぇと?アルシェ…ちゃん?」

「アルシェ・イーブ・リイル・フルトです。アルシェで大丈夫です」

 

 

 

 

 

「ならアルシェ、ほれ」

「っ!?うあわわわっ!?」

 

 

 

 

 

どっかの王族や貴族のような名前の長さだな…などと考えながら、聖歌の鐘をアルシェに軽く放り投げる。

アルシェは顔色を真っ青にし、ワタワタと焦りながらもなんとかキャッチする。

やはり彼女は少し加虐心を煽るような可愛気があるようだと、一人満足しながら頷く。

 

 

 

「な、なんてことをするんですか!!こ、壊してしまったりなんかしたら…」

「はっはっは、すまないすまない。だがそんなに気にする必要はない。その鐘はまだいくつも持っているんだ」

「こ、これが…いくつも」

「まぁ投げ渡したのは悪かった。所でアルシェ、君は〈道具上位鑑定(オール・アプレーザル・マジックアイテム)〉はできるか?」

「おーる…?あ、〈道具鑑定(アプレーザル・マジックアイテム)〉ですね。できますが…いいんですか?」

 

 

「え?あ、うむ。私も気になることがあるから頼む」

「…では」

 

 

 

彼女が目を閉じると手に持った鐘が淡い光を放ち、〈道具鑑定(アプレーザル・マジックアイテム)〉が発動する。

エルダーリッチに苦戦していた時点で予測はしていたが、おそらく第5位階以上の魔法は使えない…もしくは存在していない可能性もある。

これは価値観同様に、この世界の強さの基準も確認する必要が浮上してくる。

エルダーリッチ程度の雑魚ならば問題はないのだが、モンスターが跋扈する世界である異常、もっと強力な存在もいるはずなのだ。

それらから身を守るためというのもあるのだが、自身の力をセーブしなければならないという可能性も存在する。

この世界の戦士である彼らと自分の実力差が圧倒的に開いていることから、彼らが特別に弱かったりしない限り自分はそれなりに強者ということになる。

だがその強さがあまりに過ぎるともなれば、何者かに目をつけられ最悪捕まって人体?解剖なんてこともありえるのではないだろうか?

生前の死に体ならばいざ知らず、自由を手に入れた今、首輪をつけられるなど御免こうむりたい。

 

 

 

「魔力消費…回数制限なし…一定範囲内の味方の治癒…解毒…精神安定…す、すごい…あれ?魔力消費?」

「そんなにすごいのか?」

「これすごいよヘッケラン。これ一つで軽く家が建つ…それでも持て余しちゃうと思う」

「さっき…物理的に建ったな…」

「…そうだね」

 

 

 

 

「「「「「…ふぅ」」」」」

 

 

 

 

俺が今後どうしようかと物思いにふけり溜息をつくと、どこか遠いところを見つめる四人も同時に溜め込んだ息を吐き出す。

気まずさを伴った一瞬の静寂が訪れる。

 

 

 

「ん゛ん~…まぁアレだな。自慢みたいになってしまうが、私はどうやらこの世界ではすごいアイテムをたくさん持っていることになるらしいな」

「そ、そうですね」

 

「いやほんと自慢とかじゃないんだが…確認のために鑑定してもらったわけで…こういったアイテムは私からすれば貴重でも何でもなくて…何かと脅かしてしまった訳なんだが…えーっとなんというか…」

 

 

「「「「…」」」」

 

 

 

いい年したじじいがもじもじと気持ち悪い動きをしながら煮え切らない様子を、四人は固唾を飲んで構えている。

これ以上いらん心労をかけるのも申し訳ないので、潔く本音をぶちまけることにする。

 

 

 

「…あまり萎縮というか…構えないでもらえると、ありがたい」

「…へ?」

 

「その~なんだ?すごい感動に満ちた世界に来れたのは嬉しいんだが、右も左もわからないというのはやはり心細くてな…君たちは帝都というところまで連れて行ってくれるという話だが、もしよかったら…そこに着いてからも仲良くしてもらえないだろうか?」

 

 

 

 

「「「「…え?」」」」

 

 

 

 

「あ、やっぱダメ?」

 

 

「も、もちろん構いません!俺たちの命を救ってくれた上にそんな!!」

「む、むしろ我々の方こそご迷惑にーーーーー

 

 

「そこの野郎二人!ストレイドさんはそういうのを無しにしてくれって言ってるんじゃないの?…合ってますよね?」

 

 

 

恐る恐る俺の方を見るイミーナ。

恐縮しまくりな二人をよそになかなか肝が据わっており、いい渡し舟に思わずサムズアップ。

ふと見せた安心したような彼女の表情は微笑ましい。

萎縮しているのは俺の表情が原因なのだろうか?と、笑みを作ったところで、ようやく狩装束によって口元が覆われていることに気が付く。

頭上のメガネを探すおじいちゃんのようなうっかり具合である。

 

 

このままでも居心地が悪いので帽子と口布を取り払うと、後ろにまとめていた髪が首にかかる。

改めて自分の体が別のものになってしまったのだと実感させる。

 

 

 

「あぁ、間違っていないとも。もっと砕けた感じでも構わないぞ?私の事は”おじいちゃん”とか”じじい”みたいな感じで呼ぶといい」

「えっと、流石にそれは恐れ多いというか…あはは。一応目上の人だからストレイドさんと呼ばせてもらうわ」

「そうですね。年長者に対してそういった呼称はこちらが心苦しいですし、私もそう呼ばせていただきます」

「…ロバーがそれを言ってしまうと、私たちはロバーに対しても言葉を改めなくちゃいけなくなる」

「まぁ私に対してはあまり気を遣う必要はありませんが、やはり年長の方には敬意を持つべきかと」

「そうよね~、いくら砕けたように接していいといってもリーダーみたくハゲ呼ばわりするのは問題あるわよねぇ~」

「バッk!?お前それはちgーーーーー

 

 

 

ヘッケランはその場で立ち上がり、ダラダラと脂汗を流しながら言い訳を始める。

ハゲどうこうは置いておいて、物怖じせずに場を解そうとするイミーナの努力には思わず涙がちょちょ切れる。

何を思ってしてハゲ呼ばわりされたのかは気になるところではあるが、悪意を持っての言い草ではないのだろう。

 

 

 

「ハゲ、ハゲか…ハゲは怖いぞ?30過ぎたら急に来るらしいからな。あとハゲてる奴には注意しろ…今まで出会った詐欺師の全員がハゲだったからな」

「なるほど、ハゲは詐欺師…と」

「あ、あと髪染めてるとハゲるという話を聞いたな」

「ヘッケラン…あんた一部分だけ変に染めてると思っていたけど…いくらお金が好きだからって詐欺はダメよ?」

「いやいやいや!!ハゲてもねぇし詐欺師でもねぇからな!!ストレイドさんちょっと怒ってます?」

「そのピンクの部分落としてこないとハゲるぞ?」

「絶対怒ってるじゃないですかぁ~…ていうかハゲる云々は冗談ですよね?」

「よぉし、そろそろ晩飯にしようか!」

「う、嘘ですよね!?冗談ですよね!?」

「ロバー、確か保存食はあなたが持ってたわよね?」

「ちょっと話聞けぇぇぇぇぇ!!」

 

 

「ふふ…」

「ははは。えぇ、保存食は私が預かっています。そろそろ夕食の準備をしましょうか。せっかくですので食事の際にストレイドさんの事を色々聞かせていただいてもいいですか?思っていたよりも随分優しい方みたいですし」

「そうね、私も聞かせてもらいたいわ。お互い自己紹介もまともに済んでいない訳だし、ちょうどいいかもね」

「…賛成」

「期待に添えるような面白い話はできないぞ?」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。異世界というだけで我々の興味はつきません」

「ちょっと放置は”よろしく”ないのでは!?」

 

 

「ヘッケラン…あんた…んふっ」

「プッ…」

「フフ…ハハハハ!!」

「笑われた!?もうリーダーやめるわ!!」

 

 

 

悪態をつくヘッケランだったが、その口角はわずかにつり上がっている。

本心からの言葉ではないようで、この空気を楽しめているであろうことに安堵する。

 

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

 

「…あ」

 

 

 

 

 

安堵の瞬間、ある事実に気づく。

 

 

 

 

 

 

(これは…あれ?結構深刻にまずいんじゃないだろうか?)

 

 

 

 

 

 

「…ストレイドさん、どうかしましたか?リーダーだったら放っておいて大丈夫ですよ?」

「んあ?あ、あぁ…すまんすまん。私もいらんことを言いすぎたな、フフ。まぁさっきのは冗談だ」

「ふぅ…では準備していきましょうか。ここで火を焚くわけにも行きませんし、一度そとにでましょうか」

「うーい…というか放っておいてってひどいな…」

「はーい」

「わかった」

 

 

 

「…あの、すまんが…一つ相談があるんだがーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー飯を…分けてくれないだろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…え?」」」」

 

 

 

 

単に空腹というだけでなく、”乾き”を癒せるかどうかの検証でもあるのだが…

家に招待した客人に飯を乞うという情けない状況に、なんとか保とうと画策していた威厳ある老人像はもろくも崩れ去ったのだった。

 

 

 






次回ちょっと真面目に戻ります
人間性限界の心ですが、コメント、感想、指摘など是非お待ちしております。

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