オーバーロード~幸福な悪夢~   作:焼酎ご飯

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真面目…やで?





第四話

 

「おおぉぉぉ………すごいな、これが本物の星空か…しかも満月ときた」

 

 

 

フォーサイトの四人が寝静まった頃、コテージの扉を開くと少しひんやりとした夜風が頬を撫でる。

入口前にあるちょっとした階段に腰掛け、生前では絶対に拝めないような絶景の星空を堪能する。

 

この世界に飛ばされた直後のテンションのままならば、まず間違いなく四人をたたき起こしていただろうが、流石に落ち着きを取り戻している。

なにより、俺の分の食事も快く用意してくれた恩を仇で返すわけにはいかない。

食事中、各々の自己紹介を終えたあとは、こちらの世界とあちらの世界について談笑混じりに話し合い、時に驚き、時に笑うといった、とても有意義な時間を過ごすことができた。

 

 

 

「にしても携帯食料とは言え、めっちゃ美味かったなぁ…意地汚く食っちゃったけど気にしてないようだったし、あいつら本当にいい奴らだな……グェェェェェッップ…ふぅ」

 

 

 

この数年はゲル状の病院食しか口にしておらず、その上弱りきった体は味すらもまともに認識できなくなっていた。

そんな状態で彼らが用意してくれた物は、インスタントのように固形物を溶かして作った味の濃いスープと、塩味のきいた干し肉だった。

長らく味というものを忘れていた俺にとって、その刺激の強い味と天然素材独特の風味は、今まで食べたなによりも美味しく感動的だった。

 

自然と涙が頬を伝っていたが、俺はそれにすら気づくことなく夢中で食事を続けていた。

そんな俺の様子を見たフォーサイトのメンバーは、量に余裕があるわけでもないのに俺に対しては多めに用意してくれた。

食欲というのは恐ろしいもので、平常時ならば遠慮するぐらいのことはできたはずなのだが、俺は気遣いを気に留めるまでもなく貪り食ってしまった。

だが彼らは嫌な顔一つせず、むしろ美味しそうに食べる俺を喜んでくれた。

 

 

 

微かに感じる乾きこそ癒せなかったが、彼らの優しさはそれ以上に心を満たしてくれる素晴らしいものだった。

 

 

 

「ヘッケラン、イミーナ、ロバーデイク、アルシェ…そのうちあの四人には恩返ししないとないけないな。当分は借りを作りまくることになりそうだし」

 

 

 

裸一貫というわけではないが、この世界の物を何一つ持たない状態で放り出されたのだ。

 

今回の食事の件でもそうだったが、衣食住に関しては彼らを頼らざる負えない。

そして彼らはそれを許容するだろう。

それは彼らとの会話と身に染みる優しさから容易に想像できることなのだが、それに甘えるのはやはり心苦しい。

彼らが知る限りで教えてもらった、この世界の強さや価値の基準から考えると、マジックアイテムの一つや二つ質に入れてしまえば一生遊んで暮らせそうなものだ。

そうなれば彼らの世話になることもないのだろうが、この世界では完全にイレギュラーな物品が他人の手に渡るというのは何が起きるかわかったものではない。

それに理解したつもりでいても、文化の違いというものは簡単に順応できるものではなく、ましてや人間ではない俺は、現地の人間である彼らの協力がなければ必ず綻びが生まれてしまうはずだ。

 

ある程度の生活基盤を得ることができれば、彼らに瞳を…与えることは俺にはできないが、何かあげるのもいいかもしれない。

 

 

 

「そもそもナザリックやギルドの人たちはどうなってんだろ?少なくともモモンガさんはログインしているはずだし…それかここは異世界とか関係なく辺獄だったりして…」

 

 

 

ふとログインするきっかけとなったアインズ・ウール・ゴウンの事を思い出す。

死ぬ間際に一人は嫌だという独りよがりな考えでログインしたにも関わらず、今になってようやく意識がそちらに向く。

 

自分の薄情さと自己中心的考えに嫌気がさす。

 

きっと彼らは許してくれないだろう。

病とは言え断りもせずに勝手にギルドを離れ、自分の都合だけで戻ってきたのだから…

だがもし彼らがこの世界に来ているというのであれば、せめて謝らなければ自分という存在が腐ってしまうような気がする。

 

 

 

「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは…ダメか。〈伝聞(メッセージ)〉もダメ…あとは~…あ!」

 

 

 

あるアイテムに思い当たり、虚空に手を突っ込みアイテムボックスの中を探る。

目的のものを見つけ引き抜く。

 

 

 

「ランプが使えればいいんだが…」

 

 

 

取り出したのは歪な弧を描く金属の柄。

その先端には小さな鈴と、鎖で吊るされたランプが揺れている。

 

その小さな鈴を鳴らしながら立ち上がると、腰を下ろしていた階段を下りて、柄を地面に突き刺す。

しっかりと刺さったことを確認すると、ランプに向かっておもむろに指を弾く。

 

 

 

「やっぱり点かないか…ま、指輪がダメな時点で予想はしてたけど」

 

 

 

望んだ結果を得ることができなかったランプを引き抜くと、再びアイテムボックスへとしまう。

 

このアイテムは自分の所属するギルドを拠点として、各エリアに設置することによってポータルを開設するといった転送系アイテムであり、使用条件としては一定距離内に敵対反応が存在しないことである。

ギルド内の自室にも同様のアイテムが設置されており、それが機能していればランプが点灯するはずだったのだが、やはりそう簡単にはいかないようだ。

当然このアイテムは破壊可能であるため、最悪俺の部屋ごと撤去されているが故に使えないという可能性も十分に存在している。

 

 

 

「もし俺の部屋がなくなってたら、”あいつ”も消されちゃったのかなぁ…はぁ」

 

 

 

再び腰を下ろして空を見上げる。

空高くに見える満月が、その月光で辺りを照らしている。

満月は人を昂ぶらせ狂わせるという話をよく聞くが、そんな話とは反対に俺の心情は少しばかり落ち込んでいる。

 

ナザリックに存在する自室は、ギルメンのブループラネットさんの手伝いによって完成したこだわりのあるものだった。

そびえる塔の頂上にある小さな家と、白い花が咲き乱れる庭園。

薄い雲が白い天幕を作り出す夜空には巨大な満月が浮かんでおり、その塔の頂上は包み込むような月光によって照らされている。

 そんな異様な空間だったが、俺はそれを愛していた。

手伝ってくれたブループラネットさんの自然を愛するこだわりとは相反するものだったが、完成した際は彼もこの空間自体は気に入ってくれた。

そしてその空間には、俺が作り出したNPCが一体。

彼女はほとんど寝ているか、墓石に祈りを捧げるモーションをしている印象しかなく、効率的に必要な存在かどうか問われれば疑問が残るNPCだった。

だがモーション模倣によって、俺のしょうもないジェスチャーを真似てくれる彼女は、ささやかな癒しのような存在だった。

 

そんな彼女もろとも消え去っているのかもしれないという想像は、大きな喪失感を感じさせる。

アインズ・ウール・ゴウンがこの世界には一切関係なく、それが故にあの空間に戻ることができないと言うならば仕方がない。

だが俺がログインをしなかったがばかりに、彼女やあの部屋が消えてしまったのだと考えてしまうと、申し訳なさがふつふつと湧き上がる。

 

 

 

「…あぁ~…寒っ。もう入ろうkーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、こ…こんばんわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このままネガティブな思考に引きずられていても仕方なく、たいして寒くもないのに戻る口実を作ったところでドアへと振り返ると、そこには杖を持った金髪のかわいいのがいた。

アルシェ・りーぶ…なんとか…ともかくアルシェが、ちょうど扉から出てくるところだった。

 

 

 

ーーーーーもしかして…聞いていたのか?」

「あ、あの…”溜息”吐いてるのを聞いちゃったんですけど…ごめんなさい」

「…溜息?あぁいや別に聞かれたくなかったとかではないんだ。謝ることはないさ」

「あ、はい」

 

 

あのくっそ汚いゲップを聞かれていたかと思うと…

聞かれていたら聞かれていたでロールプレイをやめる切っ掛けになっていたかもしれないが、取り敢えず胸をなでおろす。

色々とやらかしてはいるのだが、未だに畏敬の念を感じるあたり、威厳ある老人はなんとか保てているのだろう。

ちゃらんぽらんな中身なうえに飯を集るような迷惑なじいさんなので、騙しているような申し訳なさも感じるのだが、今後彼らの助けを受けることになるかもしれない以上、あまり素の部分や弱い部分を見せるわけには行かない。

 

 

 

「あの…何かなさっていたんですか?」

「ん?あぁ、星を見ていたんだ。私のいたところでは空気が汚くてね、月も満足に見ることができなかったんだ」

「…さっきも聞かせてもらいましたが、本当に壮絶なところから来たんですね…」

「あぁ…それに比べるとここはすごいな。星がここまで輝いているものだとは知らなかった」

「…星ですか。確かにここには街のような明かりもありませんし、雲もないんで随分綺麗に見えますね」

「あぁ、本当に綺麗だ…」

「ですね…」

 

 

 

 

 

「「…」」

 

 

 

 

 

二人して空を見上げる。

 

…正直なところ沈黙が痛い。

 

これが若い男女であるばロマンチックと言えるかもしれない。

だが中身がちゃらんぽらんのおっさんで、外見が小汚いじいさんと、まだ幼さのあるちっちゃいお嬢さんとでは、色々とちぐはぐである。

ダンディズム溢れる…セバス、だったっけ?

ともかく”たっち”さんが作ったあの執事みたいな感じのじいさんなら、ここで小粋なセリフで場を盛り上げたりするのだろうが…

超次元的思考はおろか、メロンパン以下の脳しか持たない俺にはあまりにもハードルが高すぎた。

”彼方への呼びかけ”でもっと綺麗にしてやろうか等と馬鹿な事を考えていたところで、ある疑問が浮上する。

 

 

 

「そういえば、アルシェはこんな夜更けに何故外に出たんだ?ゴキブリでも出たのか?」

「いえ…今日倒したスケルトンが気になったので」

「あぁ、それで様子を見に来たのか」

「はい。倒していただいたエルダーリッチの死骸もあるので、アンデットの特性でまた動き出したらと思うと眠れなくて…」

「アンデットが集まると更に強いアンデットが現れる…だったか?」

「はい。でもこのエルダーリッチは魔力を感じないし、動き出したり別のアンデットが現れたりはしないと思うんですけど…気になって」

 

 

 

アルシェはコテージの横に積まれた箱をしゃがんで覗き込む。

当然のことながら骸が動き出したりしている訳もない。

まず何かしらの動きがあれば、感覚が鋭敏化している俺が気づかないはずがない。

 

 

…と、思っていたのだが…アルシェの存在に気づけていない時点で俺の索敵能力はガバガバなことが判明してしまった。

おそらく落ち込みまくっていたために気づかなかったのだろうが、俺の感覚器官の鋭敏化はパッシブスキル等ではなく、精神に左右されていることから自身の身体能力なのだろうと予測する。

そもそもスキル等は使えるのだろうか?

 

 

 

 

『パッシブスキル:〈血液回復(リゲイン)〉』

 

 

 

 

脳内でそう唱え、片方の手袋を取り払う。

親指の腹を口につけ、”普通より少し大きく見える犬歯”で、皮膚を切り裂く。

すると口の中にジワリと鉄の味が広がり、指を赤い血が伝う。

 

次にアイテムボックスではなく、俺の職業特有の”スロット”から”輸血液”を取り出し、その一滴を手の甲に垂らす。

すると手の甲に付着した血液は、皮膚に溶けるように沈み、跡形もなく消失する。

それと同時に、切り裂かれた親指の傷はふさがり、口の中に広がっていた鉄の味と、指を伝っていた血も同様に消失する。

 

 

 

(なるほど…スキルは使えるが、すこし変質しているのか?自分から出た血を吸収するなんてユグドラシルではなかったな…そして予想通りすこし”乾き”が癒せたな)

 

 

 

色々と検証が必要なことは増えたが、取り敢えず手袋をはめなおす。

血をどうこうしているのを他に見られるのはあまりよろしくないだろう。

 

ちょうどアルシェが立ち上がり、腰を伸ばしている。

異常は見当たらなかったようで、杖を下げて持ってこちらに戻ってくる。

 

 

 

(スキルで思い出したが…”魔力の反応”がどうこう言っていたのは彼女のスキルなのだろうか?)

 

 

 

箱をチェックしていた際に、”エルダーリッチの魔力”を感じないと言っていたことから、魔力…おそらくMPを計測する手段を彼女は持っているようだ。

第3位階までしか使えない彼女では〈魔力の精髄マナ・エッセンス〉は使えず、グリーンシークレットハウスであそこまで驚いていたところから考えても、マジックアイテムという線は薄いだろう。

それともこの世界の人間は全員MPが見えるのだろうか?

 

 

 

「アルシェ、すこし聞きたいことがあるんだが」

「なんですか?」

「君は魔力が見えると言っていたが、この世界の人間は皆それができるのか?」

「えっと…流石にそんなことはありません。私は相手の魔力をオーラのように視覚化する”タレント”という…えぇっと…生まれついての才能を持ってます」

「ほぉー…皆何かそういった才能を持っているのか?」

「いえ、フォーサイトでタレントを持っているのは私とイミーナだけですし、国全体で見てもタレントを持っている人は1割程度だと思います」

「そうなのか。ちなみにイミーナのタレントというのは?」

「確か…水に浮きやすい能力って言っていたと思います」

「それはまぁなんというか…泳ぎがうまそうだな」

「…その、タレントというのは必ずしも自分にあったものを授かるというわけではないので…私はたまたま運が良かったみたいです」

「タレント、タレントか…教えてくれて助かったよ。引き止めて悪かった、もう夜も遅いし寝たほうがいいだろう」

 

 

 

「あ、はい…」

 

 

 

アルシェは杖をぶつけないように持ち直すと、私の横を通り家の中に戻っていく。

 

丁寧に教えてくれたタレントの情報を考えていると、ふとすぐ横から視線を感じた。

 

 

 

「…どうしたんだ?」

 

 

 

そこには扉に手をかけたままの姿でこちらをジッと見つめるアルシェの姿があった。

 

生前、女の子にこれほど熱い視線を向けられたことがあっただろうか?

恥ずかしさを感じながら身悶えしそうになっていると、アルシェの方から口を開く。

 

 

 

「…ストレイドさんは…魔力を持っていないんですか?」

 

「え?ーーーーーあ、あぁ多分持ってるはずなんだが…それがどうかしたのか?」

 

 

 

俺の言葉に困惑した様子のアルシェ。

魔力=MPではないのだろうかという思考の渦にはまりそうになった瞬間、彼女の困惑に合点がいく。

 

 

「なるほど、魔力が見えないから不思議だったんだな?」

「…はい。あの時ストレイドさんが使っていた鐘は魔力を消費して使用するものだったんで、何故使えていたのか不思議だったんです」

「私は確かに魔力を持っているんだがーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーまぁ見てもらった方が早いか」

 

 

 

 

 

 

 

先ほど外した方とは別の手袋を外し、五本の指にそれぞれ付けられた指輪の一つに触れる。

課金やらなんやらで両手で計10個も指輪を装備しているわけだが、正直課金してまで十個装備できるようにする意味はあまりなかった気がする。

二個…多くて四個が普通だった俺は最初こそ喜んだ。

だが実際に装備できるとなると何を付けたらいいのか困るのが現実だった。

 

今外そうとしている指輪も対人戦で相手に神秘の残数を悟らせないためにつけているだけだったので、アルシェに魔力を見せるためにも取り敢えず指輪を外して手のひらを転がす。

 

 

 

「まぁこんな具合で魔力の認識を阻害する指輪をつけていt……アルシェ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーおぉー…す、すごい魔力量ですね。ストレイドさんの世界の話を聞いて少し覚悟をしていましたけど…師匠ぐらい…いや、もっとありそう」

 

 

 

たじろぐぐらいに驚かれたので、取り敢えず落ち着かせるためにも隣に座らせる。

指輪を自慢してやろう…程度気持ちで外してしまったが、もう少し慎重になるべきだった。

俺自身の強さや、マジックアイテムの驚き様から容易に想像出来たにも関わらず、まったく学習しない俺の頭は本当にメロンパンが詰まっているんじゃないだろうか?

だが件のアルシェはというと、こんなメロンパンが詰まっているじいさんを尊敬に満ちた瞳で見つめている。

こんなかわいい娘に尊敬の眼差しを向けられるのは非常に気分が良いのだが、騙しているようで申し訳ない。

 

 

 

「ス、ストレイドさんはどんな魔法が使えるんですか?」

「期待してもらっているところを悪いのだが、私はほとんど魔法が使えないんだ。〈伝 言(メッセージ)〉と…あと一つ程度だったか」

「…えっ?じゃぁ何故それほどまでに膨大な魔力を?」

「膨大なのか…まぁアレだ、私に魔力が備わっているのは、あの鐘のように魔力を消費しないと効果を発揮できない触媒を多く所持していることが理由だな」

「へぇー…あんなマジックアイテムが他にも…」

「例えばコレだ」

 

 

 

俺のMPが膨大なら”ウルベルト”さんなんて見た日には脳が吹き飛ぶんじゃないだろうか?

そんな事を考えながらアイテムボックスから取り出したるは”精霊の抜け殻”と、”スローイングナイフ”である。

アイテムボックスに手を突っ込んだ際にアルシェはぎょっとした顔をしたが、忘れていたとかそういうのではない。

 

 

 

「これは”精霊の抜け殻”と言ってな、軟体生物の…まぁ説明するより実践だな。アルシェ、まずはこれで足元の板を傷つけてみろ」

「そ、そんなことしていいんですか?」

「その程度のナイフではこの家は削りきれんよ」

「いえ、そこまでやるつもりで聞いた訳では…」

 

 

 

なんやかんや言いながら、アルシェに持たせたナイフで階段の板に傷をつけさせる。

元々投擲用であり、刃の部分がキザ刃であるためスッパリ切れてしまうということもなく、階段には2mm程の深さの傷が出来るだけだった。

ここでアルシェの怪力が発揮され、階段が粉々に粉砕されるんじゃないかという心配は稀有に終わったようだ。

 

 

 

「できました」

「なら一旦ナイフを返してくれ」

 

 

 

アルシェからナイフを受け取り、格好をつけて手の上で一回転させる。

精霊の抜け殻を手のひらに起き、それに受け取ったナイフを押し付けるように這わせる。

すると抜け殻に残った粘液を纏ったナイフは青白い光を纏い、その刀身に神秘の力を宿す。

アルシェが興味津々といった具合に釘付けになっているのが見ていて楽しく、性懲りもなく誘惑に負けて自慢をしてしまうのだった。

 

 

 

「次はこれで傷をつけてみろ」

「…光ってますね〈武器魔化(マジックウェポン)〉に似てるけど…うわっ、さっきよりも簡単に刃が沈む…」

 

 

 

先ほど付けられた傷の横に突き立てられた刃は、軽くなぞっているだけにも関わらず1cm程沈んでいる。

精霊の抜け殻は武器に対して魔法攻撃力を上乗せする効果があり、言わばエンチャントを行える。

凄まじい威力を発揮するようなものではないが、魔力消費が少ないため使い勝手は良い。

そんな上質ではないエンチャントであるのだが、アルシェは刀身に付着した粘液を手袋越しに触り、興味深そうに観察している。

 

 

 

「そういえば、アルシェは魔法を学んでいると言っていたが…そこにはこんなマジックアイテムはないのか?」

「…数年前にやめてしまって…魔法学院ってところに行っていたんですけど、そこでは見たことありません」

「ほぉー…何故やめてしまったんだ?」

「それは…その…」

 

 

 

顔を伏せて口ごもるアルシェ。

 

その様子に、乙女とは対局の存在に位置する俺でも流石に理解することができた…

 

 

 

 

俺は見事地雷を踏み抜いてしまったようだ。

 

 

 

 

地雷によるスカートめくりが発生しなかっただけマシなのだろうが、会って数日のジジイに根掘り葉掘り聞かれれば嫌な思いをするのは当然のことだろう。

 

ここは早急に話を変えなくてはいけない。

彼らの話を聞いている限り、このアルシェはメンバーの全員から可愛がられている様子である。

そんなお嬢の気分を害したとあれば、俺はいつ追放されてもおかしくない…

手をこまねいていても状況は悪化するだけと判断し、俺は早急に行動に出た。

 

 

 

「アルシェ、空を見ろ!流れ星だ!!」

 

「へ?ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーうおわああぁぁぁぁっ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れ星というものは願いを叶えると言われている。

 

それは流れ星が作り出す尾が天の裂け目のように見え、その間に願い事をすれば天の上に居る神に届くからだという説が存在する。

 

そして俺の知る神のような存在は、次元を超えたあまねく宇宙に存在しているという設定を持っている。

 

 

 

 

だから俺はそいつらに願うため…

 

 

 

 

あと流れ星って綺麗だし、機嫌直してくれるんじゃないかなという淡い希望を元に…

 

 

 

 

その流れ星を作り出すために、”目から発射”したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれは最悪の結果に終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あわわわわ…あわ…」

「あの…アルシェさん?…ほんとすみませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

あんな自分勝手にすき放題する奴らが願いを叶えてくれるワケもなく、アルシェは腰を抜かして涙目になっている。

それもその筈だ。

いきなり空を見ろと言われて顔を上げてみれば、顔のすぐ横から天空に向かって隕石が飛翔するというわけのわからない状況に直面したのだから。

綺麗だなんだと感じる余裕がある方が異常と言えるだろう。

 

結局俺のメロンパン脳に付き合わされたアルシェは、聖歌の鐘で落ち着かせて先に家に入って眠ってもらうことにし、俺は翌朝どのように侘びを入れようかと悩みながら、異世界に来て初めての夜を過ごしたのだった。





フェイントでした。


一部ブラッドボーンの設定を独自にオーバーロード設定に置き換えています。
今後も獣や血に関係したものは、今回のリゲインのように書かせていただく可能性がございます。あしからず

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