遅れてすみません。
切るタイミングが無かったので、少し長めになっております。
「ほぉ、ここが帝都か…新しい…惹かれるな」
「そうですね。ここは王国とかと比べるとだいぶ街の整備が進んでるらしいんで、街並みとしては随分新しく感じるかもしれないっすねぇ」
「いやそういう意味では…まぁいいか」
早朝にコテージを出発し、今は昼ごろだろうか?
フォーサイトにつれられた俺は、ついに目的地である帝都アーウィンタールへと到着した。
都と呼ばれるに相応しく、何かしらの祭りなのかと錯覚するほどの人々でごった返している。
真新しい街灯や舗装されたレンガの道は、この都市の発展具合を象徴するかのように整えられている。
活力あふれる人々とその街の活気を肌身で感じれば、あの腐った世界の住人ならば惹かれないはずがなかった。
都ということもあり、街に入るためには当然ながら関所を通ることになった。
「怪しいものを持っていなければ問題ないです…」とヘッケランに苦笑いで言われ、この世界では怪しさの化身である俺は、衣服以外の所持品をスロットも含めてすべてアイテムボックスへとしまいこんだのだった。
退いてください、あなた達は帝都の領域を侵犯しています…等と言われることもなく、どういう経緯でここに来たのかと、軽い持ち物検査を受けただけで後はすんなりと街に入ることができた。
「なんかずいぶん久しぶりに帰ってきた気がするな」
「たった二日であれだけ色々と体験すればねぇ…私もずいぶん久しぶりに戻ってきた気がするわ」
「そうですね。私は戻ってこれるかと自体が奇跡のようなものです」
「ーーー私も一生分ぐらい驚いた…気がする」
巨大な門を背景に、各々全身のこりを解すように伸びをした後、ため息をつきながら脱力する。
その心労のほとんどが俺の頭の悪さが引き起こしたことだというのが本当に申し訳ない限りだ。
「なんかすまんかったな…特にアルシェには…」
「い、いえ、私もマジックキャスターの端くれですし、とてもいい経験になりました」
「しかしなぁ…我ながら隕石はなかったなと…」
「「「…隕石?」」」
他三人の奇妙な視線が一斉に集まる。
目から隕石出してアルシェをびびらせたなんて知れたらここで見捨てられるかもしれない…
まぁさすがにそんなことはないだろうが、気味悪がられるのは間違いないだろうということで、とりあえず話をそらす。
少なくとも俺なら目から隕石を射出する爺さんと仲良くなりたいとは思わない。
「んっん゛ー…それにしても、君たちには本当に感謝してもしきれないな。こうしてわざわざ街まで連れてきてくれたんだ、何かお礼をしたいところなんだがなぁ…」
「それを言うなら我々の方です。あなたがいなければ今こうして帝都に戻ることも叶わなかったんですから」
「あれはたまたまだったんだが…このままでは堂々巡りだな」
「命を救われた身としては礼を欠くわけにはいかないのですが…」
「よし、ならこうしよう。活動拠点を教えてくれないか?これからしばらくはここで生活することになりそうだからな、何かしら頼らせてもらうことがあるかもしれん」
「"歌う林檎亭"という宿屋ですが…あの、もしかして別で宿を探すおつもりですか?」
「うむ。相場はわからないが、できるだけ安い宿泊所を見つけなければいけないからな。…あと宿泊費を貸してもらえるとありがたい。返済は約束する」
正直なところ彼らと同じ宿を取るのが望ましいのだが、この世界の金銭を持ち合わせていない以上、あまり余計なことにお金を使うわけにはいかない。
しばらくは彼らに金をせびるような生活を続けることになるかもしれない上に、最悪お金を借りられない場合は街の外でグリーンシークレットハウスを使うことになるかもしれない以上、節約するに越したことはないのだ。
…節約という面で考えるとシークレットハウスで外泊するのが一番いいような気がしてきたが、毎日関所を通る変な爺がいると噂になっても困る。
恥を忍んで金を貸してくれないかと頼んだところで、ヘッケランが三人にアイコンタクトをとって口を開く。
「ストレイドさん」
「む?」
「ここでの生活についてなんですが、もしそちらがよろしければしばらくの間俺たちと一緒の宿屋に宿泊しませんか?お礼も兼ねて食費や宿泊費はしばらくの間出させてもらいますし」
「それは凄まじく魅力的な話だが…さすがに悪いような…それにこの街に疎い私は食い扶持を見つけるのにどれだけかかるかわからないぞ?」
「助けてもらったのに、その人を捨て置くような真似は俺たちとしても寝覚めが悪いです。それにあなたの試金石についてもちょっとした提案があります」
こいつら天使か!
天の使い…というと悪いイメージがあるが、とにかくいいやつらすぎる。
金を貸してもらうだけでも心苦しかったのだが、こちらも死活問題…ではないのだが、平穏な生活のためには仕方ないのでその話に飛びつく。
「試金石か…それは気になるところなんだが、本当に私のような老いぼれが甘えてしまってもいいのか?」
「もちろん構いません!それに、老いぼれだなんてそんなことはないですよ。俺たちワーカーや冒険者というのは戦いに身を置いているので、強い人というだけで少なからず尊敬を抱きます。それが英雄級の強さで優れた人格者であるのなら尚更です」
ーーーーーものっすごく恥ずかしい。
真面目な顔で俺を英雄だの何だの言っているヘッケラン…
そしてこれまた真面目な顔で頷いている他三人なのだが…
その実中身が干からびたおっさんには、心地いいのやら悪いのやら黒棺に放り込まれたかのようなむず痒さが全身に走る。
俺自身恥ずかしいというのもあるのだが、関所の前という人通りの少なくないこの場でこんなことを言っている四人は恥ずかしくないのだろうか?
「私が英雄とかそういうのは…やめてもらってもいいか?」
「あ~その、すみません」
「いやいや、怒っているわけじゃないんだ。しばらく君たちの世話になるんだ。なのに英雄だのなんだのともてはやされていては私も君たちも居心地が悪くなってしまうだろう?」
「そうですね…そういう風に扱ってほしくないって言っていたことを忘れていました。では改めてよろしくお願いします」
「あぁ、こちらの方こそよろしく頼む。では今から宿屋に向かうという具合か?」
「そうですね。俺とアルシェは依頼人に品物渡してくるんで、え~っとそうだな…ーーーーー
ーーーーーイミーナとロバーでストレイドさんを林檎亭まで連れて行ってくれるか?」
「了解しました」
「それなら私たちのほうが先に着きそうだし、向かうついでに帝都をちょろっと案内するわ」
歌う林檎亭という名前に、林檎が旨い店なのかという安直な思考を巡らせていると、イミーナからうれしい提案があげられる。
彼女の、さばさばした性格なのに、こちらを気遣ってくれる心遣いにはもはや感激である。
見た目もかわいらしく、生前の俺だったら惚れていたかもしれないのだが、どういうわけかあまりそういった感情はわいてこない。
外見年齢に精神が引っ張られているのか、それとも…
「何から何まですまんな」
「いいのよ。ついでに市場も回らせてもらうつもりだし、それじゃあいきましょ」
その声に俺たちは街の喧騒が大きくなる大通りへと進みはじめた。
そして大通りへと歩を進める度に、未知の感覚が俺を興奮させた。
時折通る馬車の車輪が、レンガの上を転がる硬い騒音
香辛料をまぶした肉が焼けるような、食欲をそそる香ばしい香り
鍛冶屋でもあるのだろうか?重い何かを打ち付けるような、甲高い金属音
通りを行きかう人々の様々な感情にあふれた会話や表情
少し歩いただけで様々な情報が五感を刺激し、自然と足取りは軽やかなものになる。
街にあふれる人の営みは、自然に対する感動とはまた違った新鮮さを感じさせた。
『イミーナってすげぇな。俺あそこまで砕けて接することできないわ』
『ーーわかる。本人はいいといっても恐れ多い』
『あのあっさりした性格が彼女のいいところでしょう…ですよねぇヘッケラン?』
『…何で俺に聞いたのかは置いておくとして、ロバーはいいよな~普段から敬語だし』
『ーーうん、ずるい』
『それは私の性分なので仕方がありません。あなたたちも早く打ち解けて接しないとどうなっても知りませんよ?』
『チクショー、俺もあいつぐらい図太かったらよかったのに』
『ーーヘッケラン、そろそろ…』
そんな喧騒に混じって、少し前を歩く三人の小声が耳に入る。
盗み聞きしているようで悪い気もするのだが、鋭敏化した感覚では聞こえてしまうので仕方がない。
だが今の俺にはそんなことを気に留めていられる程の余裕はなく、まるで幽鬼のような足取りで、今向かっているであろう市場の方角へと引き寄せられていく。
「おっと、それじゃあ俺らはこの辺で別れるから二人とも案内よろしく」
「えぇ、了解しました」
「あんたらのほうも追加のエルダーリッチ分はしっかりもらってくるのよ?」
「ーー問題ない。運がよければスケリトルドラゴンの一部も売りつけてくる」
「ならそっちは頼んだわよ。それじゃあロバー、ストレイドさん、行きまーーーーー
「うむ、めっちゃうまいな。これは何の肉なんだ?」
「おいおいちゃんと看板見たか?ま、旨いってんなら俺も気にしないけどよ」
「あぁ、今まで食べた中で二番目に旨いな。ところで何の肉なんだ?」
「まぁ~俺の焼いた肉がまずいわけないか!それにしても爺さんあんまり見かけない格好だな、旅の人か?」
「そんなところだ。ところでこれは何の肉なんだ?」
「旅人か…年なのにすげぇなぁ…ところで爺さんもうそれ食っちまってるけど、金持ってるのか?」
「え?あぁ~…え?」
「え?」
「え?」
ーーーーー…ストレイドさんもあんな具合だし、あんたらも別に気張らなくていいんじゃない?」
「…なんか俺もそんな気がしてきたわ」
「ーーうん…私も素のままで小細工はいらない気がしてきた」
「とりあえずなにやら必死にジャスチャーをしているので支払いしてきますね。-----すみませーん!それ私が支払います!」
匂いに釣られて屋台の商品に勝手に手をつけるという、畜生以下の自分に驚愕するも、その料理の旨さに開き直る。
ロバーデイクがすぐさま支払いをしてくれたことによって事なきを得たが、もう借りどころの話ではなくなってきた気がする。
結局俺が何の肉を食べていたのかわからぬままに、イミーナの帝都ツアーが始まったのだった。
~~~~~
「あんまり目ぼしいものは無かったわね」
「中古品の集まりですし、上質なものとなれば難しいでしょう」
「まぁ消耗品を買い足すのが目的だったし、そこまで期待はしてなかったわ」
「…」
「…それでストレイドさんは急に落ち着きだしたけど、何かあったの?」
「うむ、少し気になることがあってな…まぁ悩んでいても仕方がないことなんだが…」
食事処や各種生活施設を適当に回り、今は帝都北市場を見終えた所だ。
そこで私は露天に並べられた小さな箱のようなマジックアイテムのひとつを持ち上げていた。
この場にある露天のほとんどが手作り感のあるものであり、並んでいる商品の数も少なく、そのどれもが少しくたびれている。
ここは冒険者などの戦いを生業にしている者たちのバザーのような場所であり、商品のほとんどが中古品である。
まれにある掘り出し物や安い消耗品などを求めていつも賑わっているらしい。
目ぼしいものは見つけられなかったとの事らしいが、俺にとっては非常に興味深いものがいくつも並んでいた。
「なるほど、魔法で再現しているわけか」
「それは冒険者用に改良された"冷蔵庫"ね。まぁ小さくて持ち運びやすくはなってるけど、遠出以外ではあんまり出番がないんじゃないかしら?」
「冷蔵庫…冷蔵庫ねぇ」
「先ほどから生活品系のマジックアイテムに興味をもたれてますけど、やはり珍しいのですか?」
「珍しいというか、馴染み深いというか…これも"賢者"伝来のものなのか?」
「そうですね、口だけの賢者と呼ばれるミノタウロスから伝わったものと聞いています。口だけと揶揄されていますが、戦士としては恐ろしく強く、ミノタウロスの国では人間の地位向上に尽力した英雄だと伝わっています」
「とんでもなく強い上に、訳のわからんことを口伝していた…か、なるほどな」
俺が持っている小さな箱
ふたを開けると魔法によって発生した冷気が漏れ出し、手甲を伝う。
イミーナが言っていたようにまさに冷蔵庫というわけなのだが、冷蔵庫以外にも扇風機や加湿器、果てには食器洗い機もどきのようなものまで並んでいるところもあった。
話に出てくる賢者と言うのが冷蔵庫を思いついただけならば偶然かもしれないが、これらすべてともなると瞳どころかメロンパン脳の俺でも答えがわかると言うものだ。
「間違いなく同郷だろうな、そのミノタウロスというのは」
「同郷…といいますとストレイドさんの話していたユグドラシルのことですか?」
「うむ、それ以外考えられないな。それにしても、まさかそんな古い時代にあちらの"人間"がいたとはな」
「人間じゃなくてミノタウロスだけどね。もしかして十三英雄とかもユグドラシルって所から来たとか?」
「…もしかしたらそうかもしれんな」
口を滑らせたことに少し焦ったが、彼女の言葉にふと考えさせられる。
悪夢だ辺獄だのたまっていたが、俺以外にもユグドラシルプレイヤーが存在していたのは確かだ。
だが今現在はどうなのだろうか?
過去のプレイヤーが英雄として認識されているということは、現代にそれと同等の力を振るう存在がいれば当然目立つだろう。
だが彼らの口ぶりからして、俺と言う存在は最強クラスで、そんな奴は見たことが無いというような具合だ。
「過去の伝説のような強さを持つ存在と言うのは、現代でもいたりするものなのか?」
「どうでしょうか…人間という種族で考えるのであれば王国にいらっしゃるガゼフ・ストロノーフが英雄と肩を並べると言われていますが、それ以外にはあまり聞きませんね。人間以外となるとやはり竜がそれにあたるかもしれません」
「なるほど、存在するにはしているのか」
「…」
「ん?イミーナ、どうかしたか?」
「え?…あーっと、なんでもないわ。気にしないで」
一瞬アインズ・ウール・ゴウンもこの世界に存在している可能性に喜びかけたが、あんなDQNギルドが来ていて有名にならないはずが無く、希望は一瞬にして粉砕される。
そしてそれと同時に、隣にいたイミーナがハゲに蹴落とされた不死人のように悪感情むき出しの顔をしていたので声をかける。
また地雷を踏んでしまったのかとも思ったが、どうやらそういうわけでもないようだ。
まったくもって乙女と言うのは難しいものだ。
「さて、興味は尽きないがここはもう大丈夫だ。次の場所へ案内をーーーーー
と、次の場所への催促をしようとした時、通りの先から匂いなれたような、そうでないような匂いが漂ってくる。
芳しいような、それでいて不快なような…
ーーーーー少し気になったんだが、この先に何か特別な…建物や施設があったりしないか?」
「この先ですか?道が分かれていますが、片方は神殿区画で、もう片方はーーーーー
ーーーーー闘技場がありますね」
微かな鮮血の香りが鼻腔をくすぐり、俺の中の何かが感応するように体が乾きを訴える。
「そうか…それは興味ぶkーーーーー「あ、ストレイドさん林檎亭つきますよ」
「え?…あぁ、そうか…それじゃあとりあえず入るか…うん」
目的地に着くことを告げられたことで、痺れるような感覚に支配されていた脳が、ふと我に帰る。
数分前の愚行を繰り返さずにはすんだが、これは頭が悪いどうこうの話ではない気がしてきた。
どうにもこの体になってからと言うもの、欲望に正直になりすぎている気がする。
そんな自分に反省しながら、ついに目的の歌う林檎亭の扉をくぐるのだった。
~~~~~
「戻ったぞー。っと、やっぱり先に帰ってきてたな」
「ーーただいま」
陽が沈みかけ、空が鮮やかなオレンジに染まり始めた頃、ヘッケランとアルシェが酒場特有の両開きのドアを開けて入ってくる。
彼らが戻ってくることは匂いでなんとなく察することが出来ていた。
「あぁ二人とも。お帰り」
「お帰りー。ちょうどストレイドさんの長期宿泊の手続きが終わったところよ」
「お帰りなさい。全員そろったところで昼食にしましょうか。皆も空腹のころあいでしょう?」
「時間的にもちょうどいいか。実はさっきストレイドさんが食ってるの見たときから腹減ってたんだ。なんか適当に頼もうぜ」
宿泊手続きを終えた俺は…ほとんど二人に任せただけだったが、とりあえず手近な長テーブルへと向かう。
ヘッケランが適当な注文をし、皆一様に手や肩の装備を外し席に着く。
建物や床は黒檀のように黒っぽい木製で統一されており、その空間をを淡い橙色のライトが照らしている。
同じ木材で作られたテーブルは年季が入っているものの、蜜蝋で丁寧にコーティングされており、うっすらと光を反射している。
豪華絢爛と言うわけではない…だが古いながらも手入れが行き届き落ち着いた店内は、居心地のよい酒場そのものだった。
だがそんな店内の様子に心落ち着かせている間もなく、俺の興味のすべては夕食へと注がれる。
宿泊施設兼酒場と言うこともあって、注文の料理はすぐにテーブルに並べられた。
帽子と口布、手袋を外した俺は、とりあえず手近なバスケットに積まれたパンのひとつに手を伸ばす。
香ばしく焼けた茶色いパンを両手で持つと、焼きたてなのか、硬い外側からほのかに暖かさを感じる。
バリィッ
そのままでは食べにくいためパンを二つに割ると、小気味良い音とともに芳醇な香りがあふれ出し、俺の食欲を一気にあおる。
「それで?報酬のほうはどうだったの?」
「おう、基本報酬に関してはまったく問題なかったぞ。これが全員分の分け前だ」
「ふむ、まぁこんなものでしょうか?普通にアンデットを狩るよりははるかにいいものですが」
だがそこは我慢と言うもので、バケットの近くにおいてある小皿からバターをひとかけら取る。
白くふんわりとした弾力がある内側にバターをつけ、それを木製のスプーンで引き伸ばしていく。
パンの熱によって溶け出したバターは色を変え、白い内側は美しい黄金へと色を変える。
スプーンを小皿に置き、再びパンを両手にもつ。
そしていよいよと言った具合に、大きく口を開けてパンにかぶりつく。
「ーーーーーうむ、うまい」
思わず声に出てしまうが、そんなことは構わず二口、三口と口へ運んでいく。
口の中に広がるバターと焼けた小麦の香りは、最早俺の食欲を止めることは叶わなかった。
「ーーエルダーリッチも買い取ってもらえた」
「おっと、そうだった。エルダーリッチは結構いったぞ…ほれ」
「どれどれ…おぉ!金貨がえ~とーーーーー」
パンを二つほど食べ終えたところで、別のものに手を伸ばす。
おそらく鳥であろう手羽のような肉を焼き、香辛料で調理したと言うだけのシンプルな料理なのだが、これまた食欲をそそるものだ。
手羽を三つほどと、副菜として盛られていたサラダを少し小皿に取り分ける。
ナイフやフォークを使うのも煩わしかったため、そのまま骨の部分を手に取り、かぶりつく。
「ーーーーーうむ…肉だな」
口の中いっぱいに肉汁は広がり、香辛料特有のピリリとした辛さが舌を刺激する。
やはり肉ということで、飲み込むと胃袋にたまる感覚がなんとも心地よい。
濃い塩味と焼いた肉の風味と言うのは更なる食欲を掻き立て、二個三個と食べ終える。
「ーーーーーまぁーー金はーーーしようとーーー」
「ーーーはーーいいけどーーーどうなの?---」
「ーーーーー一概に損ーーーないからなーーーー」
小皿に骨を避けると、口を直すことも兼ねて先ほど盛ったサラダに手を付ける。
詳細はわからないが盛られた葉野菜は新鮮さを保っており、薄い黄色のドレッシングによってトッピングされている。
こういった手で直接触れないものは箸がほしいところではあるが、とりあえずフォークで適当に突き刺し口へと運ぶ。
「ーーーーーー」
「ーーーーーー」
「ーーーーーー」
シャキッーーーっというみずみずしい食感が子気味よい。
口の中をさっぱりと入れ替えるドレッシングの程よい酸味によって、青い野菜のほのかな甘みが引き出される。
野菜がこれほどおいしく感じられたことなどかつてあっただろうか?
肉やパンもそうだったが、あの世界で食べていたものとは何かが違う。
味気…空気とでも言うのだろうか?ともかく何もかもがすばらしいの一言に尽きるのだ。
「ーーーーんーーー」
「…ふむ」
「ーーーーレイーさんーーー」
「これもなかなか…」
「ーーーーストレイドさん!!」
「んおっ!?」
ごてっとしたチーズやかぼちゃのスープなどなど、片っ端から手を付けていたところ、ヘッケランの大声に我に返る。
「いやすまん。食うのに夢中になっていた…我ながら恐ろしく学習能力が無いな」
「ここの飯はうまいですからね、つい食べ過ぎてしまうのもわかります」
「うむ、凄まじくうまい。……それで?どうかしたのか?」
「え~っと、そうですね…当分の生活費として、今回の報酬を全額渡してしまおうという話と…」
そこはかとなく重要な会話が行われていたようだ。
記憶に薄いのだが、金貨がどうとか結構高額だとかいう話をしていたような気もしなくも無い。
だが四人分の給金全額ともなればかなりの額とみて間違いないだろう。
「む…それはさすがに受け取りすぎのような気がするんだが?」
「はい。確かにこの金額はおいそれと出せるような額ではありませんし、メンバー全員の金ではあります」
「なら受け取る訳には…」
「ですので条件があります」
「…条件?」
思わず固唾をのむ。
紳士で周回…などというデーモンの所業を命じてこられた場合、俺は野垂れ死ぬかもしれないのだ。
せめて…せめて鉄骨渡りぐらいの条件であることを、何かも知れぬものに祈るのであった。
「はい。条件と言うのはーーーーー
ーーーーー我々フォーサイトのメンバーという形で、仕事を手伝ってもらえませんか?」
「ーーーーーえ?」
「どう…でしょうか?」
「あ、あぁ。是非引き受けさせてもらおう」
「…おっし!ふぅ~緊張した~」
予想していた数千倍は軽い条件に、思わず安堵する。
すると今まで気を張っていたのか、ヘッケランはどっと脱力して椅子に沈み込む。
どうやら俺が断るのを危惧していたようだが、稀有に終わったようだ。
「しかし私なんかを入れてしまっても良いのか?それに今回の報酬も全額と言うのは少しやりすぎな気が…」
「ーーストレイドさんはこの世界での自分の価値を知るべきだと思う」
「私の価値?」
「そうだなぁ…アダマンタイト級冒険者をこの額で長期雇用できると考えれば破格すぎる。その上実力は英雄級となれば俺たちの方が得をしすぎなぐらいです」
どうやら俺の強さというのは、ひよこ鑑定士の免許のようなものらしい。
つまり彼らは俺への情けで動いている訳ではなく、打算的な選択をとった結果、俺を仲間に入れたいようだ。
そのほうが安心できる上に、彼らを見る限り職場環境は悪くなさそうだ。
「そこまで見込んでもらえるのなら張り切らなくてはいけないな」
「ストレイドさんに張り切られるとちょっとした伝説になりかねないわね…ま、何はともあれ…ーーーーー
ーーーーーようこそフォーサイトへ。歓迎するわ」
木製のジョッキをそれぞれが持ち上げ始めたので、なんとなく空気で察した俺もジョッキを手にする。
俺は料理に手を付けてしまっていたのだが、ここで改めて乾杯が行われた。
途中ロバーデイクがぶっ倒れるも、俺は物理的にも精神的にも人生で最も充実した卓を囲んだのだった。
もう早々に何がしたいのかわからないです。