いんふぃにっと・あかでみぃ   作:郭尭

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  そのさん、セッシーと待機形態なんですけど

 

 

 

  セシリア・オルコットは後悔していた。

 

 

  「やぁぁって、しまいましたわぁぁぁ……」

 

 

  IS学園の生徒寮の自室で頭を抱えていた。

 

  セシリア・オルコットはイギリスの名門貴族に名を連ねる一門の現当主である。両親の不幸により早くに家を継ぐこととなったセシリアは、オルコット家の資産を狙う輩から、家を守り続けてきた。頼れる大人は周囲にはおらず、信用できる人間が幼馴染のメイドだけ。

 

  そんな環境の中、交渉事に於いて相手のペースを崩す為にわざと相手が気分を害する物言いをすることが何回もあった。

 

  結果、祖国イギリスではボッチに近い状態だったのである。

 

  そしてIS学園入学を機にボッチ状態からの脱却を決意。学生デビューも最初が肝心とばかりに気合を入れた結果、所謂外交モードが表に来てしまい、英国淑女にあるまじき侮辱的発言をしてしまった。

 

  そして言ってしまったことに内心で焦っている所に、世界で唯一男性にしてIS適正を持つ織斑 一夏のイギリス料理まずい発言に反応してしまい、いつの間にか決闘という話になっていた。

 

  誰が悪いかと言えば、寸分の疑いもなくセシリアが悪い。それが分かっているからベットの上で身悶えしていた。決闘などと、口にしてしまった以上、自分から謝りに行くのも憚られた。自分はオルコット家当主、弱みを外に見せることはできなかった。

 

 

  「も~、どうすればいいんですの?どうすれグホっ!?」

 

 

  いつも実家ではキングサイズのベットを使用していたセシリア。それと同じ感覚で左右にゴロゴロしていたセシリアは寮のベットの端っこから落っこち、英国淑女にあるまじき潰れたカエルのような声を出した。

 

  地面に打ったアバラを抑えながら起き上ったセシリアはプルプル震えながらベットに戻る。

 

 

  「くっ、兎に角、どうにかうまく謝りませんと」

 

 

  このままにしておくと、オルコット家の家名に傷が付く。それも自分の行為によって、だ。それだけは避けねばいけない。

 

  ベットの上に座り、両手を握って気合を入れるセシリア。尊敬する母親の残したものを守る為にも。

 

  そんなセシリアに近づいてくる、小さな影。高さ四十センチ超の、セシリアを二頭身にしたかのような物体だった。

 

 

「ああ、この異国の地で、貴女だけが私の癒しですわ。私の可愛い『ブルー・ティアーズ』」

 

 

  『ブルー・ティアーズ』。蒼い雫という名を持つ、セシリアの専用機の、つまりISの待機形態と呼ばれる姿である。

 

  人間が装着すれば三メートルを超えることもあるIS。戦闘が想定される魔法使い等に対し、輸送や装着時間等の即応性の問題が指摘されていた(一応戦闘機等よりは優れてはいるが)。

 

  それに対する一つの答えが、ISの待機形態と呼ばれる半擬人化形態である。

 

  魔法用語に『疑似精霊』と呼ばれるものが存在する。

 

  一定量以上の魔力を長期間浴び続けることにより、無機物が疑似的な人格や身体を手に入れることがある。この現象を指して『疑似精霊化』とされ、結果生まれた存在が『疑似精霊』である。

 

  その中でもそのアイテムの特徴を残しつつ、可愛らしい女の子の姿をした疑似精霊は『萌え精霊』としてその手の輩からは絶対な人気を誇るのである。

 

  そしてISの待機形態とは、佐久間栄太郎謹製の人工精霊『プチネウス』のデータをベースに、専任装着者のパーソナルデータを合成。その合成データをパーソナリティとして、ISコアの生成する魔力によってISを意図的に疑似精霊化させるのである。

 

  疑似精霊化したISはコアとなった神魔の性格とは別に、装着者に似た二頭身の体と独自の人格が与えられるのである。プチキャラ好きには堪らないね♡と言うわけで『ブルー・ティアーズ』の待機形態は、メイド服を着たプチセシリアとなっている。

 

んしょ、んしょ、とベットによじ登り、『ブルー・ティアーズ』は爪先立ちになってセシリアの頭に手を伸ばす。頭を撫でて慰めようというのは見て取れる。身長と手の長さが足りず、プルプルするだけに留まってしまっているが。

 

 

  「るー、るー」

 

 

  「……もう!可愛らしいですわ!私のブルー・ティアーズ!」

 

 

  力いっぱい背を伸ばす『ブルー・ティアーズ』を抱きしめ、感極まったセシリアはまたしてもベットの上をゴロゴロと。そして再びセシリアの体はベットの端を超えていく。それも今回はより勢いが付き、この場にいないルームメイトのベットに背中をぶつけた。

 

 

  「グホッ!?」

 

 

  再びセシリアの口から出てくる淑女にあるまじき声。ぶつけた背中を抑えてよろよろと立ちあがろうとする彼女を、『ブルー・ティアーズ』は心配そうに見つめる。

 

 

  「るー?」

 

 

  「フフ……、し、心配は無用ですわ。明日はちゃんと織斑一夏に非礼をお詫びして、改めて決闘に挑みますわ」

 

 

  「るっ!」

 

 

 アバラと背中、短時間で打った場所の痛みを堪えつつ、立ち上がったセシリアは胸を張る。AIとは言え、幼子のような『ブルー・ティアーズ』に心配をかけまいと、すぐに心配事を解決すると伝えた。もっとも、『ブルー・ティアーズ』は純粋にセシリアの怪我の心配をしているわけであるが。

 

  そして翌日。

 

 

  「また、やぁぁってしまいましたわぁぁぁ!むしろ何故挑発してしまったんですの!?」

 

 

  セシリアは再び自室のベットの上で身悶えていた。両手で羞恥に熱くなる顔を隠しながら、例の如くゴロゴロと。そして、

 

 

  「ゴッホ!?」

 

 

  例の如く落っこち、ある意味芸術的かも知れない呻き声をあげた。

 

  自分の言動に頭痛を覚えていたセシリアは、しかし背中の痛みにより、嬉しくない形でそれを柔らる結果となった。

 

  「るー、るー」

 

 

  「だ、大丈夫ですわ。今度チェルシーに実家のベットと同じ物を注文させませんと」

 

 

  背中を擦りながらベットに戻るセシリア。この場にいないルームメイトの受難は、この瞬間決定された。

 

  それは兎も角、このままでは埒が開かない。

 

  周囲に人がいると素直に謝れず、結果として挑発になってしまうセシリア。放課後に呼び出そうにも、決闘の為の特訓をしているらしく見つからない。このままではグダグダと時間だけが過ぎて行ってしまうと彼女は考えた。

 

 

  「仕方ありませんわ。今日お部屋を訪ねてみましょう」

 

 

  幸いなことに、織斑一夏の部屋はクラス中に知られている。『ブルー・ティアーズ』に留守番を任せ、一夏の部屋へ向かおうとした。だが、そんなセシリアの行く手を遮る者達がいた。

 

  それは蒼い髪の、見覚えない眼鏡少女。さして、彼女と対峙する着ぐるみっぽいパジャマを着たのほほんと緩んだ顔つきの少女。

 

  蒼い髪の少女に覚えはなかったが、着ぐるみパジャマの少女は、のほほんさんと仇名されているクラスメイトだった。

 

 

  「……お願い、本音。そこをどいて」

 

 

  「駄目だよ~、あの人に会わせちゃいけないって、会長の命令なんだよ~」

 

 

  「……永年探し求めた『劇場版アニレオン! 光臨!進撃の美幼女神』の初回限定DVD。それを佐久間先生は同人誌のアシスタントで譲ってくれるって。それがどれだけ得難いチャンスなのか、本音、分かって!」

 

  「それタイトルの時点で色々と駄目な気しかしないよ~!」

 

 

  対峙する二人の会話に、IS操縦者としての知識で『萌え』関連の話題だとセシリアは判断した。だが実力と容姿に恵まれたセシリアはその手の小細工じみた手段を好まず、詳しく知っているわけではないのだ。なので空気を無視するようでアレだが、二人に退いてもらうために声をかけようとし、

 

 

  「……本音が分かってくれないなら、無理矢理にでも……罷り通る!」

 

 

  「これもかんちゃんの為なんだよ~!」

 

 

  蒼髪少女が本音を避けようとし、本音はそれを遮る。眼鏡少女逆方向に避ける、着ぐるみ少女それを遮る。俎板少女避ける、巨乳少女遮る。ちっぱい揺れない、デカパイ揺れる。

 

  その動きはやがてスピードを上げ、対面高速反復横跳びとなる。

 

 

  「あ、あの……そこの貴女方、ちょっと、そこを退いて……」

 

 

  何とか声をかけようとするセシリアだが、目の前の二人は対面高速反復横跳びにのめり込んで、セシリアに気付いてすらいない。

 

  何とか気付いてもらおうと右往左往していると、反復横跳びする二人の頭に正確に拳骨が落とされ、二人が動きを止める。

 

 

  「もうすぐ消灯時間だ、珍妙な奇行はそこまでだ」

 

 

  拳の主は織斑 千冬、ISに於いて世界最強と呼ばれる寮長の登場を持って、セシリアの冒険は幕を閉じた。

 

 

  そして結局謝罪の言葉を出せたのは決闘の後、織斑一夏のクラス代表就任を祝うパーティーでのことだった。

 

  結果として試合に勝ったのは大方の予想通りセシリアだったが、その内容は一夏の予想外の大健闘があった。思う所のあったセシリアは自ら代表を辞退し、結果一夏がクラス代表となったのである。

 

  その際初めて皆に披露された『ブルー・ティアーズ』の待機形態。普段のメイド服ではなく、ISを纏ったプチセシリアの姿。流体形で構築された優美なシルエット、妖精の羽を連想させるクリアパーツを持つアンロックユニット。SFとファンタジーが美しく調和したそれを可愛らしくデフォルトした姿は多くの生徒にもみくちゃにされてセシリアの視界から消えてしまっていた。

 

  ちなみに一夏の専用機、『白式』は何故かデフォルトされた姉の姿で具現した。「ぴゃっ、ぴゃっ」と鳴くこの『萌え白式』は具現化してすぐさまクラスの女子たちに奪われて祭りが始まってしまった。

 

  可愛い物を目の当たりにした大量の女子の前では、男など無力なものなのであった。『WAっしょい』してる女子たちを見て、一夏は思ったそうな。

 

  余談であるが、色々あって一夏の周囲に専用機持ちが増えるにつれ、彼の幼馴染である篠ノ之箒はある思いを抱くようになる。

 

  『私も可愛いの欲しい』という、乙女チックなものを。

 

  これより大分後のことであるが、箒は色々とわだかまりのある姉にこのことを相談してしまう。結果、束は愛する妹との関係改善と身内贔屓の為、専用機を送られることになる。専用機を勝ち取るために努力している他の生徒たちに申し訳ない気持ちもあったが、それ以上に可愛いのが自分の所にも来たという喜びが勝っていた。

 

  そして発現した待機形態の姿は……

 

 

  「モッピー知って(AA略)……」

 

 

  「何故だあああぁぁぁぁ!」

 

 

  箒、orzる。且つわだかまり深まる。

 

  「うわーん!何でこうなるの~~!?」

 

  姉、同じくorzる。

 

 

 

 

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