シャルル・デュノア。本名をシャルロット・デュノア。
フランスのIS代表候補生であり、性別を偽り、二人目の男性操縦者としてIS学園に入学してきた。彼女はフランスのIS企業、デュノア社の社長の娘であり、その父の命令で来たのだ。
目的は世界唯一の男性IS操縦者である織斑一夏に近づき、その機体データなどを盗み出すという、産業スパイのようなものである。
シャルロットが自身の父親と初めて顔を合わせて、まだそれほど長い時間は経っていない。生母の庇護を失い、父親の元に赴くことになったが、そこは安住の地には程遠かった。
偶々ISに高い適性があったからこそ、テストパイロットという立場を得ることができたが、親の愛情は注がれることはなかった。ただただ、便利な道具だった。
そのデュノア社が第三世代ISの開発に遅れをとっている現状、フランス政府にとって面白い状況ではない。
今やISは治安維持と超常側と一般側のパワーバランスの維持に不可欠なものとなっている。そのISの性能が他国のものに大きく引き離されるとなれば、国民から治安に不安の声が出る可能性がある。超常側に治安維持を多く委託せざるを得ず、彼らに過度に政治的な力を与えることにはならないか、と。
十数年かけた超常側と一般社会の融和政策も、互いの不信感や持たざる者の不安を払拭するには短すぎるのだ。
そんな事情もあり、フランス政府はデュノア社のIS開発許可を取り消す可能性を示唆した。
IS産業はその政治的重要性と比べ、信じられないほど利益が少ない。それは開発及び製造コストの高さに対し、ISコアの数の上限により絶対数が余りにも少ないという事情があった。そのため、多くのIS関連企業は国家の各種支援を受けねば事業が回らないものがほとんどなのだ。
そんな中での男性IS操縦者の登場。もしその秘密を手に入れ、男でも操縦できるISが造れれば、或いは新型ISを上回る利益を生み出せるかも知れない。
だから、シャルロットをシャルル・デュノアという男性操縦者に仕立て上げ、織斑一夏に近づけさせたのである。
「そんなのって、ありかよ。実の親が、自分の子供にこんな……」
シャルルの、いや、シャルロット・デュノアの告白に、一夏は歯噛みした。一夏には両親の記憶がない。理由は触れたくないので、敢えて触れないが。それでも、こんなのが普通の親である筈がないと、怒りを覚えた。
「一夏は優しいんだね。知り合ったばかりのボクの為に怒ってくれるなんて」
シャルロットは、知り合って間もない彼女の為に感情を昂ぶらせている一夏に、悲しみと諦観の混じった微笑を浮かべて、そう口にした。
「シャルはいいのかよ!自分のことなんだぞ!どうしてそんな笑っていられるんだ!?」
一夏はストレートに感情を表に出してしまう人間である。シャルロットにはそんな一夏の様子が好ましく見えた。だから次の言葉が彼からどんな感情を引き出すのか、少しわくわくしながら告げた。
「いいんだよ。だってそういう設定ってだけだもん」
「いくら設定だからって……うん?設定?」
さっきまでと違い、ニコニコと笑顔を崩さずそう言い切ったシャルロットに一夏の目が点になった。
「うん、本当の所、お父さんにも、お義母さんにも、良くしてもらってるよ」
「え、じゃあ、今の設定云々の話は学校には……」
「勿論話は通してあるよ。いくら経営が悪化してきてるからって、こんな穴だらけな計画に社運を預けるわけないよ。日本の学園ラブコメじゃないんだから。一夏もノリがいいよね、本当に騙されてるみたいなリアクションだったよ」
アハハ、と無邪気に笑うシャルロット。一夏は目を反らした。
「クラスの皆も、EU圏の人は知ってると思うよ?ドラマにもなってるし」
「ドラマ!?」
「うん、さっき言った内容で。流石にボクの役、他の役者さんだけど。今度日本でも放映される予定だから、良かったら見てよ」
設定、ドラマ、最早一夏は事態についていけなかった。余りにも衝撃が連荘しまくったせいで、軽いパニック状態である。
「……お、おう」
引き攣った笑顔で、ただただ反応を返すだけで精一杯だった。
「あ~、えと、なんでそんなことを?」
さっきまでの悲しみの表情も、演技だったということだろう。それはまだいいとして、態々そんな労力を割いて、変な設定を付与するというバカげた事に、一夏はその理由が理解できなかった。
「一夏もISでコアからエネルギーを引っ張りだす為に萌えが重要なのは分かるよね」
シャルロットの確認に、一夏は頷いた。萌え要素なるものを理解できているとは言い難いが、それがISで重要な要素であることは理解している。ついでに言えば一夏は自分にそんなものがあるとは思いたくなかった。
先ほどまで空気を読んでか、部屋の隅で大人しくしていた待機状態のラファールを抱きかかえながら、シャルロットは説明を続ける。
「で、ファッションや語尾みたいな分かり易い萌え要素が今の主流なんだ」
ISの登場から約十年。コアの出力向上の手っ取り早い方法として様々な萌え要素が投入されてきた。それは多くの関係者達によって研究されてきた。そして『妹』や『メイド』などといった本人に付随するもの、『ケモ耳』のような一般人にはファッション的な方法で取得するもの、そういった『属性』に重きが置かれている中、語尾という最も簡単そうな要素は敬遠されていた。
それはその語尾を使う操縦者が、それを口にする際照れが混じるなどの不自然さがあると、コアが反って萎えて出力が下がってしまうのだ。
尚、中国代表候補、凰 鈴音の場合、それがツンっぽく見えて逆にいい感じになっているが。
さて置き、語尾などと同様に多くのIS操縦者たちから敬遠されている出力向上法、それがシチュエーション萌えである。
シチュエーション萌えが敬遠される問題は、語尾等と同様のリスクを負いながら、その萌が本人の萌え要素ではないため、ブーストも一時的なものであることだ。だが、他の出力向上法と比べ向上の振れ幅は寧ろ広かったりする。何故なら本人の萌え要素に頼らないからこそ、コアに新鮮な萌えを提供できるのだ。
故にデュノア社は他のどの企業も、国家も試したことのない奇策に出た。第三世代機の完成に後れを取り、他の専用機持ちに対し性能で優位に立てないことを前提に、出力で差を縮める方法を。
常に新鮮なシチュエーション萌えを提供できるように、いっそドラマやっちゃうんだZE☆
そして繰り返される萌えシチュエーションによるブーストを途切れさせないという荒業を実現したのである。
もうぶっちゃけ役者でも食っていけるレベルまで、シャルロットの演技レベルに向上している。
「という訳で偶に撮影でいなくなるけど、よろしくね、一夏」
屈託のない笑顔を浮かべるシャルロットに、さっきまでの勘違いの気恥ずかしさから、苦笑いを浮かべながら一夏は返事を返した。そんな一夏の心情など知らぬとばかりにラファールは同じく待機状態の白式とじゃれあっていた。
尚、通常専用機の待機形態は操縦者をデフォルトしたような姿になる筈なのだが、白式は何故か小さい千冬であった。結果多くの千冬ファンが御菓子で釣って誘拐を試みたりしているとかいないとか。
「でもシャルはさ、撮影とIS操縦者同時にやって大変じゃないのか?」
一夏にとっては純粋に興味だった。テレビとかでしか見れない芸能人に直接会ったような気分が、彼にはあった。
「大変って言えば大変だけど……僕の場合これもIS関係みたいなものだから」
確かに大変ではあった。だが、多くのIS操縦者が己の萌え要素を磨くのと、その本質は変わらない。第三世代に分類される専用機が実用段階に至りつつある現状、如何に名機とは言え第二世代であるラファール・リヴァイブのカスタム機である自身の専用機。基本性能の差は如何ともしがたい。
それを補うためのシチュエーション萌えブーストである。ジャパニーズコミックや、ライトノベルを参考にドラマなんて手の込んだ方法をとったのは。これは他のIS操縦者たち以上に多くの時間拘束され、勉学や訓練の時間も確保するとなると、必然的により長くプライベートを犠牲にすることになる。
他の代表候補生と同じだけの結果を得るのに、より多くの努力が必要となるのだ。
「それでも、僕にも目標があるから」
そう応えたシャルロットの笑顔は一夏には眩く見えた。決して望んでIS学園に来た訳ではない彼には明確な目標など持ちようもない。今の彼女の輝きは、今の自分では持ちようのない物だと理解できてしまったのだ。
魔法とは技術である。生まれ持っての適性がなければ習得できないが、それは魔法に限ったことではない。適性がなければなれない職業は一般社会にも少なくない。航空機のパイロットなどがそうである。ただ、魔法ほど顕著ではないだけのことだ。
一方で神魔の発揮する超常の力は魔法ではない。神魔は力は彼らの機能である。魚が水の中で呼吸ができるのが当然であるように、鳥が空を飛べるのが当然であるように。神魔の能力は生まれ持ったものであり、それが変化することも、新しく増えることもない。生物の後天的に手足が増えたりしないのと同じように。だからこそ、人が神魔に追いすがる為に生み出された魔法という技術を、態々学ぶ神魔もいるのだ。
魔法使いの技巧たる魔法、神魔の器官たる能力。これらはそれを振う者たちが一般社会に出てくるようになってからその存在を実在するものだと認識されるようになった。
だがそれより以前から、一般社会全体とは言えないが、存在を知られていた超常の力があった。
超能力。
数多のフィクションは言うに及ばず、テレビ番組でのスプーン曲げや透視、予知等の映像。更にはそれを研究する某国の国営機関の存在。
その全てが本物だった訳ではない。だが確かに本物がその中に存在していたのである。
フランスのIS関連事業の最大手、デュノア社。世界シェア第三位を誇る量産型IS『ラファール・リヴァイブ』を主力商品に持つ軍需産業全体でも割と高い評価を受ける企業である。
そのデュノア社社長にはスキャンダラスな秘密がある。所謂隠し子である。
如何に大企業、それも治安に関わる企業とは言え、他人の恋愛事情。関わりのない人間はそうっとしておいてやってもいいだろうに、そんなことを好きなのも大衆というものだ。芸能人や政治家のと同等の関心を受ける人物になったということでもあるが。
そんな相手に子供が生まれていたと彼が知ったのは、相手の女性と会えなくなってから数年してからだ。その女性の部下、のような仲間の一人が女性本人に了解を得ずに勝手に伝えたものだった。
彼女は自立した女性だった。権力や地位に興味を示さず、スリルと財貨を愛する豪放な性格に、他の女性にはない魅力を感じたのだ。
男と女の関係になったのは、政治的な理由で現在の妻との婚約が決まる少し前の事であった。
彼女の仲間の一人、ミハイルという名の青年には殴られた。もう一人のガントというがっしりとした体格の男も、言葉こそはなかったがその視線に言いたいことが籠っていた。
だが彼女は、さっぱりとしたものだった。気持ちのいい笑顔で、それが当然だと言うように。そしてその日以来、彼女たちは彼の前に現れることなく、十数年が過ぎて行った。
連絡を寄越したのはミハイルからだった。互いに既に中年と呼ばれる歳になっていた。向うから連絡を取ってくることはないと思っていただけに。懐かしさに喜びが混ざっていた。
「それで、その子が私と……」
「はい、あんたと姉さんの娘ですよ」
再会の場所はとあるレストランの個室。そこそこ高価な食事が並べられたテーブルを挟んで、彼らは対面した。
不機嫌そうなミハイルと共にいたのはハニーブロンドの少女だった。可愛らしくも中性的で、中々の容姿と言えるだろう。気の強さが容貌にも出ていた彼女とは、その辺似なかったようだ。
彼、デュノア社長はミハイルに嫌われていることに納得している。姉と慕った女性と寝た男が、無恥にも他の女性と一緒になったのだ。それでも直接口にしていないのは女性本人がそれで善しとしているからだろう。
「そうか、私の子か……」
ぽつりと漏らした言葉に、ミハイルの眉間の皺が少し深まった。
対してデュノア社長は、嬉しいと言う感情を覚えると同時に困惑もしていた。何故今になって、と。
もし、彼女たちが生活に困窮して、援助が必要になれば喜んでしよう。だが、彼が知っているあの女傑はそんなものに頼ろうと考える人間ではない。仮に、この日初めて出会った娘のためだとしても、彼女なら直接頭を下げてくる気がした。
「あ、あの、初めまして、お……父さ……ん」
おずおずと、ハニーブロンドの少女は絞り出すような声で挨拶をした。恐らく、彼女もデュノア社長と同じなのだろう。血が繋がっていながら、初めて出会った二人。どう接すればいいのか、お互いに分からないのだ。
「そう、らしいな。いや、彼女の事で君たちが嘘を言う筈がないか。そうだな、君は間違いなく、私の子なのだな」
ミハイルとガントが、彼の女傑を貶めることなど有り得ないのだ。それを自覚すれば、戸惑いの感情は薄れ、目の前のハニーブロンドの少女が愛おしく感じてくる。
「私とマリエラの娘か、良ければ名前を教えてくれないかい?」
緊張で、娘の名前すら聞いていないことに、彼は漸く気付いた。
「……シャルロット、です」
「そうか、良く似合う名前だな」
未だ『親子の絆』と呼ぶには、余りにも儚くか細い繋がりが、今紡がれた。それをミハイルは面白くなさそうに見つめ、ガントはただ黙するだけだった。
親子の対面は然程長いものではなかった。四人で運ばれて来たディナーを口にし、デュノア社長とシャルロットがぎこちない会話を、そしてそれを男二人が見守り続けた。
そして食事を終え、シャルットはガントに伴われ、近くに借りたというホテルに戻っていった。そして残ったミハイルはこう伝えた。
シャルロットを引き取ってやって欲しい、と。
シャルロットが母から離れ、会ったことのなかった父親の元に来たのには、なんとしてもやり遂げたい目標があるからだ。
母のような超常の力を持たずに生まれたシャルロットは、金銭ではなく刺激の為に窃盗を繰り返すの身を危ぶんでいた。だが、娘と言えどマリエラの生き方を説得するには至らなかった。
それでも引下がらない娘に、マリエラは一つの条件を出した。
なら、お前が私を力ずくで止めるんだ。
そんな一言が、シャルロットの未来を決定づけた。母親を止める為の力を得る為に、彼女は『家出』を決行。色々な所に頭を下げてでも、母と相対することのできる力を手に入れる為に。
「大体こんな感じかな、ボクの事情は」
シャルロットは、学園に男装の許可を申請した時と同じ内容を一夏に説明した。特に脚色もない、包み隠さない事実である。
「苦労してるんだな、シャルル……じゃなくってシャルロットは」
それを聞いて、目尻に涙を浮かべる一夏。学園への説明の際、話を聞いていた千冬と同じ反応に、姉弟だな、と感じた。
「よし、そういうことなら、俺も協力する。手助けが必要なことが有ったら何でも言ってくれ」
「うん、そうさせてもらうね。もでもボクが頼るには一夏がもっと勉強しなきゃいけないと思うけど」
「おうふっ」
少し意地の悪いシャルロットの返しは、一夏にクリティカルした。
「でも、ありがとう。真剣に考えてくれて。何か有ったら頼りにさせてもらうね」
「おう」
二人は握手を交わす。お互いに屈託のない笑顔を無壁合いながら。
(そう、頼りにさせてもらうよ。一夏の主人公体質をね)
女子にもて、わざとやってるのか疑いたくなる突発性難聴、そして女しか動かせない筈のISを男でありながら動かした特異性。まさにラノベ主人公そのものである。
付け加えるなら、ついさっき風呂場でシャルロットの裸を見てしまうというラッキースケベもこなしている。女バレする以前は壁ドンっぽい状況もあった。最早主人公以外のなんだと言うのか。
一人専用機の中で基本スペックに劣る彼女の機体。新型の専用機と互角に戦うには萌えシチュエーションブーストは大きな武器になる。
(フッフッフ、これからもラッキースケベやラノベ主人公ムーブ、期待してるよ、一夏)
シャルロット・デュノア。目的の為に手段をあんまり選ばない、ちょっと腹黒属性持ちだった。
明けましておめでとうございます。どうも、郭尭です。
今年最初の更新はネタが思いついたのでISになりました。ネタのストックはないので次がいつになるかは、分かりませんが。
本作のシャルと実家は仲がいいです。そして意識してあざとい、ちょい腹黒です。
さて、後はラウラのネタをやれれば、メイン所は一通り完了ですかね(すっとぼけ)。
それでは今回はこの辺で。また次回、お会いしましょう。