>>SIDE OTHER
深夜の公園。ジジジッと音をたてる水銀灯の下には、ベンチに腰掛ける黒いフードパーカー姿の男性の姿があった。疲れはてたように両肘を太ももにのせつつ項垂れている。フードを目深くかぶっているが、病的な白い肌が水銀灯によって、より不気味な色合いを垣間見せている……
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
苦痛交じりの荒い呼吸は、なにも体を酷使したことが原因ではない。
すでにして、彼の体は限界なのだ。
(はは……俺はいったい……なんのために…………)
彼は深く絶望していた。
想いを寄せていた女性──
しかし、それが間違いだった。
遠坂時臣と彼女の間には二人の娘が生まれた。そのうち
間桐家固有の魔術は忌まわしいの一言に尽きる。その修練は拷問に等しく、虐待そのものであり、魔道と呼ぶにふさわしい代物だ。事実、桜は髪の色も変わり果て、幼子とは思えぬほど感情が稀薄になり、自分がどれほど異常な状況においやられているのかも理解できないありさまになっている……
助けなければ。あの子を、葵の娘を、桜を、助けなければ!
その一念で雁夜は即席の魔術師になった。その結果、数年どころか数週間で死ぬであろう状況においやられた。それでも聖杯戦争に勝ち抜けば、桜を解放すると、あの“化け物”が約束したからこそ……それなのに……それなのにッ!!
(聖杯戦争は無期限中止だと!? 俺は! 俺はなんのために…………)
このまま戦うことすらできず、死ぬしかないのか。
桜を助けられないのか。
蟲に食われるだけで終わるのか。
理不尽だ。
どうして、どうしてこんなことに……
(……とき、おみ)
脳裏をよぎるのは、あの忌まわしい男の顔だった。
(時臣……遠坂時臣……貴様だけは……貴様だけは…………)
死にゆく雁夜の中で、最後の命の灯火が燃え上がろうとする──その時だった。
──今にも死にそうね。
不意に女性の声が響いた。ギョッと顔をあげると、水銀灯が生み出す影とはまったくの別方向、雁夜の足元からまっすぐ前方に向かって不自然なまでに黒い女性の影が浮かび上がっていた。
ハッとしつつ振り返るが、背後に誰もいない。
改めて影を見て、ようやく雁夜は、それが魔術によるものであると理解した。
「誰だ……」
──私はキャスター。取り引きをしたいの。いいかしら?
その言葉を、雁夜は鼻で笑い飛ばした。
「こんな死にかけのバカを相手に、なにを突然……騙しやすい鴨にでも見えたのか」
──間桐桜を救えるとしたら?
雁夜は一瞬、息をのみ込んだ。だがすぐに、クククッと笑い出す。
「よく調べがついたな……で、その代償に、なにを奪うつもりだ?」
──バーサーカーの支配権。
「はははは、騙しとるには最高の商品だな!」
──今ならサービスで、あなたと間桐桜の体からけがらわしい蟲を一掃してあげるわ。
雁夜のゆがんだ笑いは、その言葉でピタリと止まった。
キャスターはさらに告げてくる。
──それとマキリ・ゾォルケン……
「……殺せるのか」
地の底から響いてくるようなささやきを、雁夜は干からびた唇から紡ぎだした。
「あれを……あの化け物を……殺せるのか」
──殺せるわ。簡単ではないけれど。
「救えるんだな。桜ちゃんを」
──えぇ、救えるわ。記憶も消してあげる。余計な魔術的才能も潰してあげる。
「……なぜそこまでする」
──それだけバーサーカーの支配権が魅力的なだけよ。こっちであなたたちを助けたあとは、遠い土地でやりなおしなさい。そこまでは面倒見きれないわ。
「俺の体も……治るんだな」
──以前より健康になるわよ?
「わかった。応じる」
──ふふふ。じゃあ、今すぐ間桐桜を連れて屋敷の外に出なさい。ただし持ち出したいものがあるなら一緒に持ち出すこと。バーサーカーの受け渡しも、間桐臓硯の殺害も、屋敷の浄化も、全部、屋敷の前ですませるわ。あっ、治療はそのあとよ。落ち着いたところで少し時間をかける必要があるから。
「わかった」
乾坤一擲だ。すでに絶望しかない雁夜にとって、騙されている可能性など考慮する必要性すら感じなかった。キャスターの“ささやき”という意識を誘導する力が影響している部分もあったが、それを抜きにしても、もう彼には他に選択肢がなかったのだ。
だからこそ。
間桐家に戻った雁夜は、身分証明書や通帳の類をかき集めると、自室で寝ていた桜を抱きかかえ、大急ぎで屋敷の外へと出た。
そこに待ち受けていたのは獅子の外套を羽織る黄金甲冑のサーヴァントだった。
「あんたは……」
「間桐雁夜。時間がない。急ぎ、これを間桐桜に食べさせろ」
投げ渡されたのがナツメヤシのようなドライフルーツ。ただし黄金に輝き、ただものではないことは一目瞭然だった。
「これ……を?」
「ほぅ。珍しいものを持っておる」
ゾクリとする声が雁夜の背後から投げかけられてくる。
振り返るまでもない。
あの老人だ。間桐臓硯だ。
黄金のサーヴァントは、ちっ、と小さく舌打ちをした。
「急げ」
「──! 桜ちゃん、これを…………」
ぼーっとしている幼女に雁夜はそれを食べさせた。言われるがまま、数度噛んだ桜は不可思議なドライフルーツをゴクリと飲み込んでいく。
直後、病的なまでに白かった肌に血の気が走ったかと思うと、幼子は声にならない悲鳴を張り上げつつ全身を痙攣させはじめた。そればかりか、皮膚の下で異物が這いまわりだすが早いか、白い肌を食い破り、醜悪な虫という虫が桜の体内から逃げ出すかのように次々と姿を現すではないか!
「桜ちゃん!? おい、騙したのか!?」
「な──ッ!?」
雁夜は桜を心配するあまり激昂するが、一方の臓硯は予想外の出来事に──桜の心臓に寄生させた己の本体が不可思議な力で押し出されていくことに──驚愕していた。
刹那、黄金のサーヴァントが桜の胸元に手を伸ばし、何かを摘み上げた。
「これか」
「貴様! 桜ちゃんになにをした!」
「治療だ。今、その子の体内にいる蟲という蟲を追い出している」
「おいだ──えっ?」
「全部追い出せば、健康な体に戻る。むしろ、蟲が戻らぬよう、全部叩き落とせ。服の中に一匹でも残すと、また潜り込まれるぞ」
「そ、それを早く言え!!」
雁夜は慌ててパジャマ姿のままだった桜の服を脱がし、外に出てくる蟲という蟲を払い落としていった。常であれば、ここで何かしらの妨害をしかけてくるのが間桐臓硯という化け物なのだが、今回ばかりは、そうもできない状況に追いやられている。
「初めまして、だな。マキリ・ゾォルケン」
黄金のサーヴァントは老人に対してではなく、左手で摘み上げている一匹の蟲に対してそう告げていた。
「おまえに引っ掻き回されると、何かと面倒なのでな。悪いが、ここで退場してもらう」
彼は右手に、どこからともなく取り出したガラス瓶を持っていた。
「さようならだ。マキリ・ゾォルケン」
その蟲を、ガラス瓶の中に落とし、蓋をする。何らかの液体で満たされた瓶の中で、蟲はしばらくもがき苦しむが、その動きも徐々に緩慢なものとなり、ついいはピクリとも動かなくなる──そのタイミングで、老人だったものがザーッと崩れ去った。
あとに残るのは蟲の塊だった。
「あとは掃除ね」
と、今までいなかった、紫の外套を羽織る女性が、スッと全裸の桜を抱きかかえた。
「さく──」
「待て。取り引きを忘れたのか?」
黄金のサーヴァントが雁夜を止める。
そこでようやく、彼はサーヴァントが二騎いることに疑問を抱いた。
「……えっ、あ、いや、キャスター、と……えっ?」
「俺はアーチャー。キャスターのマスターだ」
「えっ? いや、だが、サーヴァントが……サーヴァントの?」
「そうだ。それより、バーサーカーの支配権を寄越せ。そういう取引だったはずだぞ」
「あ、そう、そうだな。えっと……どうやれば……」
「令呪で命じろ」
「そうだ。あぁ、そうだな。──バーサーカー! 令呪をもって命じる!」
雁夜は戸惑いながらも、バーサーカーの支配権を黄金のサーヴァントに委譲。不思議な棒により、残る2画も奪われたうえで、桜にも食べさせたドライフルーツを食べるように言われた。言われるがまま食べたところで、彼の意識はプツリと途絶えた……
>>SIDE END
>>SIDE ギル
虫集めの宝具で蟲という蟲を集めたあと、メディアに結界をはってもらい、新たに配下となったバーサーカーに送魂魔術の原典を使わせ、間桐邸を完全に洗い流した。ついでにメディアが核爆発にしか思えない松明の魔術とやらで爆破消毒、地下空洞も埋めてしまい、魔術師としての間桐の家は、ここに途絶えてしまう形となったわけだ。
で、なにやら監視の使い魔がうざいので消し去ったうえで俺たちは洋館へと帰還。
新たに二台の【
こうして翌朝、健康的かつスッキリとした様子の雁夜が姿を現した。
「何から何までお世話になりました。本当に、ありがとうございます」
間桐雁夜は、原作の不幸おじさんの印象など欠片も残していなかった。
良きかな、良きかな。
「これからどうするつもりだ?」
「渡米します。昔のツテで、新しい戸籍を手にいれてからになりますが……」
そんなこんなで、雁夜は一度、桜を洋館に残して冬木を離れた。隠蔽用の宝具を預けておいたので、遠坂や教会に追いかけられた形跡はない。戻ってくるまで間桐桜の世話はメディアが担当。記憶を丁寧に消したことで感情表現こそ乏しいながら、子供らしい反応を時折みせる桜の姿にメディアはめろめろ、俺もでれでれ。
そうこうしているうちに、まずアサシンが【聖娼婦の天蓋付寝台】から出てきた。
「数々の御配慮、改めて深く感謝申し上げます」
俺の前でひざまづいているのは、なぜか長い灰青髪を束ねているアサシンの女性型だった。アニメで登場した際に、アサシンに女がいる、ということで話題になった記憶がある。
「アサシン。人格の統合は、完了したんだな?」
「はい。楽園の愉悦により、男性人格は昇天いたしました」
するなよ。
「我らは私と、幼子の私とを核として統合いたしました。以前の私より外見の年齢が若干下がっておりますのは、そのためにございます」
そうか? 全然変わってないように見えるんだが。
「以後は陛下のご命令とあれば、この身、この命、この魂の一かけらまでも、すべてをささげる覚悟にございます」
「そうか……まぁ、そこまで気張る必要はない。張りつめた弓はいずれ壊れるように、ほどほどに緩めておかないと狩りのひとつもできないからな」
「御意」
「しばらくはこの屋敷の警備を任せる。侵入者が現れたら俺かメディアに伝えろ。あー、それとメディアにも会っておけ。あれは俺の伴侶だ。メディアの言葉は俺の言葉だと思え」
「御意」
これで良し──と思ったら、その後、百人に分裂した女アサシンがメイド服姿で洋館の掃除や庭の手入れ、洗濯や料理などをしていた。なぜだ。
「やることがないと落ち着かないみたいだったから、私が命じておいたの」
「まー、本人が楽しそうだから、別にいいか」
そんなこんなで日時は流れ……
>>SIDE END
>>SIDE OTHER
冬木市の倉庫街──原作序盤においてサーヴァントたちが一同に介したその場所は、この世界においてもサーヴァントたちの来訪を受け入れることになった。
「待たせたな」
遅れて現れたのは白いシャツに黒のパンツとジャケットという、ラフな格好をした金髪紅眼の青年だった。耳につけるピアスといい、首にさげるペンダントといい、手首を飾るブレスレッドといい、アンティーク的でありながらも高級感と気品を漂わせるトータルコーディネートをそつなく着こなしている。
対して待ち続けていたのは痩身の男性と、彼に寄り添うようにして腕をからめる蠱惑的な赤毛の女性だ。神経質そうな痩身男性は緊張の色を隠そうとしないが、彼に寄り添う女性の方は安心しきた様子で男性の顔だけを見つめ続けている。
その様子に、金髪の青年は苦笑を漏らした。
「なかなか励んだようだな、ケイネス先生」
「貴様に先生などと呼ばれる筋合いはないぞ、アーチャー」
痩身男性──ケイネス・エルメロイ・アーチボルトはこめかみに青筋をたてながら口早に言い返した。
「これは失礼」
金髪の青年──アーチャーことギルは肩を竦め、さらに近づいた。
と、不意に足を止める。
ケイネスが同時に顔をしかめ、声をはりあげた。
「控えよ、ランサー」
見ればギルの真横に、赤い槍を彼へと突きつけている騎士の姿が忽然と現れている。
ランサーことディルムッド・オディナ。“輝く貌”の異名を持つフィオナ騎士団屈指の戦士だ。二剣二槍の担い手とされるが、彼について語られる逸話は“若い男、若い女と壮年の男との三角関係”の係累であるがゆえに、悲しいかな、聖杯戦争における知名度補正は他の英霊と比べ物にならないほど低い。
それでも二剣二槍の担い手としての力量は並の騎士をはるかに上回る。なにより、フィアナ騎士団といえばローランの歌に登場する十二勇士やアーサー王の円卓の騎士の原型とされる存在。そんなフィアナ騎士団で最強とされたディルムッド・オディナが、たかだか知名度補正だけで弱いと判断するのは愚考にすぎるというべきだろう。
「しかしながらマスター、いかにマスターの御判断とはいえ、サーヴァントでありながら真っ先に仕えるべきマスターを裏切り、あまつさえ他のサーヴァントを手駒として集めているような輩との取引など──」
「控えよといったはずだぞ、ランサー!」
「……くっ」
ランサーは顔をしかめ、ザッと軽く地を蹴るだけでケイネスの斜め前まで飛びのいた。
「失礼した」とケイネスが詫びる。
「いや、いい」とギルが軽く流した。
「それよりも本題だ」
ギルは左手を腰にあてつつ、十メートルほど離れた先にいるケイネスに尋ねた。
「すでにキャスターから聞いていると思うが──こちらはランサーの支配権が欲しい。令呪に命じ、
「アーチャー。疑念がいくつかある」
ケイネスが尋ねた。
「魔術協会と聖堂教会からいろいろと情報が流れてきている。それによると、貴様はキャスターのマスターとなり、アサシンと再契約し、間桐家を滅ぼし、バーサーカーすらも軍門に下しているとか。いったい、なにをするつもりなのかね」
「当面は現代社会を堪能するつもりだ」
「……当面、という時期がすぎたあとは?」
「その時は、どこかに隠れ里でも作って、そこに引きこもるつもりだ。元より
「……なるほど。叙事詩に語られる古代ウルクの王であらせられるのであれば、何よりも死を疎いなさる性質であるわけですな」
「だからこそ、
ひとつは、今のままの冬木の聖杯戦争では、サーヴァントが落ちるたびに、その魂が小聖杯に蓄積され、穢れた大聖杯をあけ放つ鍵になりかねない。世界の破滅など願い下げだ。だからこそ鍵が開く可能性を減らす意味で、サーヴァントを手元に置きたいと考えている。
そしてもうひとつは……この世界には英霊を凌駕する化け物がいる。少なくとも、死徒の一部とは、ことをかまえたくない。それでも否応なしにそうなった場合、対抗できる戦力がほしい。そうした意味でも、前衛を任せられる騎士は
「そのために……」
ケイネスは婚約者を一瞥した。彼女は微笑み返すと、満ち足りたまなざしをなぜかギルへと向け、口を開いた。
「アーチャー。キャスターに礼を言ってほしいのだけど、お願いできるかしら」
「ソラウ……」
「いいでしょ、ケイネス。私はようやく、愛を手に入れたのよ」
香木という霊薬による魅了と発情に後押しされた六夜七日。最初は抵抗したソラウだったが、発情したがゆえにプライドをかなぐり捨てたケイネスの求めによって、自分がどれだけ彼に求められていたのか、ようやく気付くことができたのだ。
恋は狂うもの。愛は浸るもの。
家名も何もない。
ケイネスという男が、ソラウという女を求めた。
ソラウという女が、ケイネスという男を求めるようになった。
事実はそれだけ。
だからこそ彼女は満たされ、ケイネスもまた以前にはない落ち着きを手にいれている。
彼はもう、武功を求めない。ソラウにふさわしい男になろうと背伸びすることもない。時折、ソラウがランサーの【愛の黒子】にひかれても、解呪の魔術をかけてこちらを向かせる。ランサーを見るなと。自分だけを見てほしいと。それがソラウの心を見たし、彼の愛を自覚できるがゆえに、彼への愛も自覚できる……
「あぁ。伝えておこう」
ギルは幸せいっぱいの婚約者たちに笑みを浮かべずにいられなかった。
雁夜おじさんを救ったのも、
ケイネス先生に救いの手を差し伸べたのも、
原作ファンだったからこそのギルのわがままといえる部分が大きかった。
こんな世界があってもいいだろ、と。
みんながハッピーエンドな『Fate/Zero』な世界があってもいいだろ、と。
ギルはそう、考えていたのだ。
「ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが令呪の3画すべてをもってランサーに命じる」
不意にケイネスが宣言を始めた。
これにはランサーも、ギルもギョッとした。特にギルは、何も令呪3画すべてを、という意味で驚いていたが、その間にもケイネスは宣言を続けた。
「これよりアーチャーのサーヴァントとなり、彼の者を主君とし、彼の者に仕えよ!」
ケイネスの手に宿る令呪が強い輝きを放った。
解き放たれる莫大な魔力。
そのすべてがランサーへと向かい、ついで強制的にランサーとギルとの間にサーヴァントとマスターのパスが接続される。
「……御意」
ランサーは最後にケイネスに対して片膝をついた。
騎士としてのけじめだった。
次いで、ギルの前に向かうと、同じように片膝をついた。
「これより貴方様を我が主君、我がマスターとし、この世より消え去るその時まで絶対の忠誠をここに誓います……」
「…………」
ギルは最初、無言だった。
だがひとたび目を閉じると、カッと眼を見開き、己の装いを一変させる。
獅子の外套を羽織る黄金甲冑の英霊王。
それまで降ろしていた癖のない金髪がすべて逆立ち、意図的におさえていた【カリスマ】も隠すことなく解き放たれている。
「槍を出せ」
「はっ」
いわれるがまま、ランサーは赤と黄の二槍を差し出した。
束ねて握りとったギルは、これでランサーの左右の肩をたたいた。
「ディルムッド・オディナ。これよりウルクの王、ギルガメッシュの騎士として、かつて果たせなかった終生の忠節を果たしきれ」
「……はっ!」
ランサーの体は震えていた。
真名で呼ばれたのも予想外なら、ギルが自らの真名を告げたのも予想外だったのだ。
だが、そこのこめられた意図は瞬時に理解できた。
騎士として受け入れられたのだと。
王が公明正大にも、自分を迎えいれてくれたのだと。
「……ケイネス。これが【柔らかい石】と香木だ。あとはさっさとここを出て、さっさと子供を作って、さっさと幸せになれ」
「ふん。言われずとも、このケイネス・エルメロイ・アーチボルト、我が愛しき妻と幸せになるのは当然のこと!」
「それでこそケイネス先生」
「貴様に先生呼ばわりされる覚えなどない!」
そう言い張るケイネスだったが、愛する婚約者ともども、口元が笑みを浮かべてしまうのはどうしようもないところのようだ……
>>SIDE END
作者は雁夜おじさんもケイネス先生も大好きです。
でも間桐臓硯、てめぇはダメだ。
なお瓶に入れられた臓硯は『Fate/stay night』のバッドエンドな士郎がなったように、メディアのコレクションとして保存され続けます。令呪システムを作り上げた天才を滅ぼすなんて、もったいないお化けがでちゃうからNE!
【蟲の宮(ツィル・エ・カル)】
ランク :E
種別 :魔術宝具
レンジ :─
最大捕捉:─
害悪をもたらす虫の類を集める小箱。シュメール版害虫ホイホイ。厳密には「虫歯は歯の中にいる虫の仕業」という考え方のもっとも古い事例がシュメールにあることと、確か18世紀頃の医療詐欺に「部屋に置くと虫歯の虫が逃げ込む箱を売った」というものがあったと何かで読んだ記憶があったので、それを組わせたうえで、効果を虫全般に広げたというネタ宝具だったりする。名前はアッシリア語の虫(ツィル)に宮殿(エ・カル)をくっつけただけの造語。虫退治にまで権能を広げると孔雀明王とかに通じかねないので虫集めに留めておいたが、別にそっちでもよかったんじゃね、と思わなくもない。
【流るる魂を見るもの(ジウスドラ)】
ランク :C
種別 :魔術宝具
レンジ :─
最大捕捉:─
局所的な霊的な洪水を起こすことで迷える魂を消し去る杖の形をした送魂魔術の原典。型月世界的には埋葬機関の火葬式典の元素に寄らないオリジナルに近いもの、という位置づけにしてある。いってしまえば強制除霊宝具。英霊や精霊、力の強い亡霊・怨霊などには通用しないが、雑霊であれば一掃できる。大して重要でもないので本編中に名前を出さなかったという意味では不遇の宝具。実は王か巫女であればだれでも使えるが、作中ではランスロの力を確かめる意味でわざと使わせている。という裏話も書き出すとものすごく長くなりそうなので本編ではバッサリとカット。名の由来はシュメール神話においてエンキ(エア)に大洪水の警告を受けたシュルッパクの王の名。原義は“命を見る者”。大洪水神話の断片と言うべき宝具だったりする。
【巨神炎葬(クリュティオス:Κλυτίος)】
ランク :─
種別 :神言魔術
レンジ :─
最大捕捉:─
宝具ではなくメディアの魔術、というか神の業。ギカントマキアで女神ヘカテーがギガースのひとり、クリュティオスを松明で殴り殺した逸話の再現。WIZのティルトウェイトとも言う。ちなみに十二神を除くとオリンポスの神々の中でギガースを倒せたのはヘカテーとモイライのみであり、地味にゼウスの雷霆に匹敵する松明(物理)だったらしい。ただしギガントマニアの巨人の死因は、だいたい「ヘラクレスに射殺される」だったりする。第五次でヘラクレスがアーチャーだったらどれだけやばかったかよくわかる逸話でもある。本来はメディアでも使えない神秘だが、【神性】を取り戻したのと【原初碑文(アサルルヒ)】を借りることで行使可能になっている。
■ステータス
【騎座】アサシン
【主師】アーチャー(ギルガメッシュ)
【真名】ハサン・サッバーハ
【性別】女性
【体躯】─
【属性】秩序・中庸
【能力】筋力C 耐久D 敏捷A+ 魔力B 幸運A 宝具B
【クラス別スキル】
・気配遮断:A+
【固有スキル】
・蔵知の司書:B
・専科百般:A
【補足】
アサシンの語源となった暗殺教団の指導者のひとり。多重人格者でもあったことから生前は“百の貌のハサン”と呼ばれていた。聖杯に願っていた人格統合を偽ギルの【聖娼婦の天蓋付寝台(シャムハト)】によって女性人格を核に統合されたことで、属性が悪寄りの中庸に変化、ステータスもダウンしたが、ギルと契約したことで、むしろ本来より敏捷と魔力と幸運がブーストされている。大望をかなえてくれたギルに絶対の従属を誓っており、統合された【専科百般】と相まってHSN48からASK48に華麗に変身、最強の諜報員にして至高のメイドに超進化している。
なお男性人格が昇天(?)したのは、十四世紀にイスマーイール・イブン=カスィールが編纂したクルアーン注釈書『タフスィール・イブン=カスィール』の天国に関する記述の影響。詳しくはwikiで「フーリー」を検索してみるとよくわかる。イスラームもまた、シュメールに始まる中東文化を受け継いでいることがよくわかる事例とも言えたりする。
【宝具】
【妄想虚像(ザバーニーヤ)】
ランク:B+
種別:対人宝具
レンジ:─
最大捕捉:─
百の虚像を生み出せる逸話型の魔術宝具。人格統合が果たされたことで魔改造されてしまった。“百の貌”の逸話に由来しているため、己および虚像を幼子から老人まで、性別を問わず変装させる効果もある。この変装は衣服を含めた物理的なものであり、触れた程度では確認できないが、高ランクの【耐魔力】や真実を見抜く神秘で見破れば“白骨の仮面をかぶる黒い人型”という本性が看破できる。なお、虚像のステータスは等分されていくため分かれすぎると弱体化するが、48分割なら常人以上サーヴァント以下の枠におさまるため、基本的にASK48で活動することになる。デビュー曲は“恋するフォーチュンハシシ”。……えっ?