鍍金の英雄王が逝く   作:匿名既望

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正直、ここからの展開が自分でも今一つと思っていたがゆえに長々と寝かせていた部分があります。ちゃんと『Fate/Zero』の話として完結させるために改めて手を加えているのですが……なぜだろう、直せば直すほど長くなっていく件。これ、ちゃんと全10話で終われるんだろうか?


第07話 征服王(真)と英雄王(偽)

>>SIDE ギル

 

 ケイネス先生と雑談の興じること数時間、ランサーことディルムッド・オディナ──本人がどうしてもランサーと呼んでほしいとごねるので以後もランサーと呼ぶ──を手に入れた俺は、そろそろ大神殿になりだしている洋館に戻ることにした。

 

 そこで待ってたのは、ちょうど【聖娼婦の天蓋付寝台(シャムハト)】から出てきていたバーサーカーことサー・ランスロットだった。

 

「お待ちしておりました、マスター。聖杯戦争による【狂化】が原因とはいえ、碌にご挨拶もできず、申し訳ございません」

 

「気にするな。それより、ちょうどよかった。ランサーも仲間になったことだし、おまえら全員に見せたいものがある」

 

 アサコ──アサシンのこと──にも虚像を全部消させた上で、アサコ、ランサー、バーサーカーに影絵灯による原作鑑賞会を実施。セイバーが登場したところでバーサーカーが暴走しかけたが、それをどうにか抑えつつ鑑賞会を続行。二期を含むすべてを終えた頃には、ランサーとバーサーカーがいい感じで遠い目をしていた。

 

「あなたが介入しなければ、私は前のマスターの命令で……」

「世界を呪いながら自害してたな」

「orz」

 

 ランサー撃沈。

 

「そんな……あぁ……やり直すなんて……あぁ…………」

「落ち着け、バーサーカー」

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 バーサーカー撃沈。

 

 続けてテキストノベルのPS2版『Fate/stay night Re'alta Nua』の鑑賞会がスタート……と思ったら、UFO制作のアニメ版になっていた。どうしてこなった、もっとやれ。

 

 これはメディアも初見なので食い入るように見ていたわけだが、やはり自分が出てくるところ、というか原作マスターの葛木宗一郎との関係が描かれると、何かを訴えるように俺の腕に抱き付いてきた。

 

 ふむ。これが「()い奴」という感覚か。

 

 鑑賞会は数日にわたったので、休憩ごとにメディアを言葉責めしながら可愛がった俺はなにも間違っていないと思う。

 

 そうそう。バーサーカーがセイバーと士郎の関係を見て激昂したり、セイバールートのラストで号泣したり、第五次ランサーにこっちのランサーが武者震いしまくったり……と、他にもなかなかカオスがことになってしまった。

 

「……とまぁ、以上が観測次元にいた俺が見知った観測情報だ」

 

 他にも『Fate/hollow ataraxia』や他のシリーズ作品などもあるが、『Fate/Zero』と通じているのは『Fate/stay night』だけなので、今更他を見せる必要もないだろう、というのが俺の判断だ。

 

 いや、メディアには『Fate/hollow ataraxia』を見せておこう。

 

 あれは聖杯の根幹にかかわる物語だ。

 

 すでにメディアには大聖杯に宿る“この世全ての悪(アンリマユ)”対策を頼んでいる。最初は【王の財宝】に解決策を期待したが、直接的にどうにかできるものがなかったためだ。とりあえず大聖杯の解析を行ってもらっているが……

 

 でも、『Fate/hollow ataraxia』も、長いんだよなぁ。

 

 それに構造が特殊だから、どう見せればよいのやら。

 

 いっそゲームそのものを俺が自作するか? といっても、パソコン雑誌をみたら『FM-TOWNS』とか『X68000』とか『DOS/V』とかレトロネタで聞いたことしかないような機種が最新機種扱いされているような時代だ。OSだって『MS-Windows 3.0』とかいう聞いたこともない粗雑なもの。これでゲームを自作とか……ないわぁ。

 

「──っ ギル」

 

 と、メディアが声をかけてくる。

 

「んっ? ──あぁ」

 

 どうやら客人のようだ。メディアが構築してくれた洋館の結界が、侵入者の存在を教えてくれている。これは全員が感知できる仕様にしてあるが、やはり構築者であるメディアが一番敏感に反応するようだ。

 

「客人か。アサコ、案内してくれ」

「よろしいのですか?」

 

 とアサコが確認してきた。

 俺は半ばあきらめつつ、頷き返した。

 

「かまわん。どうせいつかは向き合う相手だ」

 

 感じられる侵入者の種別はサーヴァント。原作と異なり、セイバーがいまだ冬木に入っていない以上、この地に残る俺ら以外のサーヴァントはウェイバー・ベルベットに召喚されたライダーこと征服王イスカンダルだけだ。つまり、面倒くさそうなので後回しにしていたライダーと向き合わなければならなくなった、というだけのことである。

 

 ……まぁ、あれだ。

 

 宝具の相性を考えれば戦いになると俺のほうが上になる。だが知名度補正、いや世界に刻み込まれた印象という意味だと、おそらくギルガメッシュはアレクサンドロス三世に遠く及ばない存在だと言える。

 

 神話上の大英雄がヘラクレスだとすれば、歴史上の大英雄は間違いなく彼だ。

 

 ナポレオンやカエサルをはじめとする歴地上の著名人が大英雄であると賛美し、旧約聖書、コーラン、ゾロアスター教などのさまざまな経典にも登場。近代にも紙幣の肖像として使う国があり、さらにはトランプのクラブのキングのモデルでもある。

 

 ちなみにアレクサンドロス三世はアラビア語やペルシア語だとイスカンダルと呼ばれている。そちらが真名になっている以上、二つの角を持つ大王、“双角王(ズー・アル=カルナイン)”としての英雄伝説の影響が色濃いことを示唆している。

 

 下手をしたらイスラームの預言者としての特性まで付与されていたというわけだ。聖杯戦争の舞台が日本だったからこそ、そこまでの補正はなかったわけだが……

 

 ライダーの宝具、【王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)】の恐ろしさは、こうした背景があるこそでもある。おそらくだが、あの軍勢にはアレクサンドロス三世が直接率いた軍勢以外の面々も加わっているはずなのだ。

 

 いわゆるアレクサンドロス・ロマンスに魅入られた英傑たち。

 その数は……考えるだけで頭が痛くなる。

 真っ向勝負では、まず勝てないだろう。しかし、あくまで固有結界であるがゆえに、対界宝具を持つ俺との相性は最悪と言っていい。宝具の特性ゆえに、ライダーはなにをしようと俺には勝てないのだ。

 

 ほんと、よかった。この世界が『Fate/Zero』の世界で本当に良かった。もし『Fate/stay night』の直接的な過去だったら、イスカンダルは本気のギルガメッシュと拮抗する存在だったはずなのだ。それってどんだけトンデモないことなのか、【王の財宝】のチートっぷりを思えばわかろうというもの……

 

 って、そういえばセイバー組、まだ冬木に現れていなかったな。

 

 ……やばい、まだ気が抜けないってことか。

 

 守りを固めよう。俺は、死にたくない。死なないためにも、守りを固めよう。

 

 だからこそ──ライダーは、どうにかしないと。

 

>>SIDE OUT

 

 

 

>>SIDE OTHER

 

 ライダーは一升瓶を片手にアーチャーの洋館を訪れていた。

 身だしなみはラフそのもの。

 胸元に『Admirable大戦略』とプリントされたティーシャツを着込み、サイズ的な問題でピッチピチになっているジーンズを履いただけのマッチョな大男。一九九〇年代の日本では、その巨大すぎる体躯も相まって、確実に敬遠されるであろういでたちでの訪問である。

 

「たのもー!」

 

 それが日本での訪問を告げる言葉である。という正しいのか間違っているのか微妙な知識を仕入れていたライダーが声を張り上げた。

 

「我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した! この館の主であるアーチャーに会いに来た! たのもー! たのもー!!」

 

 サーヴァントは真名を秘すのが常識──ということをツッコむ者はここに誰もいない。

 

 ほどなくして玄関扉が開かれた。

 

 出てきたのは漆黒の肌を隠さず、淡い桜色のメイド服を身に着けているハイティーンの少女だ。ただ、顔には白骨の仮面をつけている。ついでに灰青色の長い髪は、某キャスターのコーディネイトによってツインテイルにされている。すなわち、ハイティーン版萌えアサコである。

 

「ようこそおいでくださいました。マスターがお会いになるとのことです」

「うむ、ご苦労。案内を頼む」

「こちらへどうぞ」

 

 ライダーは敵地であるはずの洋館に、ひるむことなく足を踏み入れた。

 

 案内された先は二階の一室。

 

 部屋には向かい合わせのソファーがひとつ置かれているだけであり、室内には誰もいない。だがライダーは気にすることなく、ソファーの扉側に腰を下ろした。

 

──ガチャ

 

 彼が腰かけるのと同じタイミングで、部屋に隣接する廊下とは別の扉が開いた。

 姿を現したのは簡素な丸首シャツにスラックスといういでたちの金髪青年ひとり。

 

「ほぅ。貴様がアーチャーか」

「ああ。ギルガメッシュだ」

 

 ギルは座ったままのライダーの対面に向かい、そこに腰を下ろし、足を組んだ。

 ライダーは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「これはこれは……まさか最古の英雄王と出会えるとは」

「こちらこそ光栄だ、アレクサンドロス三世。(オレ)の亡き後、世界の果てを目指した大王と出会えただけでも、聖杯の招きに応じたかいがあるというもの」

「そこまで言われては照れるではないか。あぁ、これは差し入れだ」

 

 差し出されたのは、それまで手にしてた一升瓶。大吟醸だ。

 もっとも、近くの酒屋で買った程度の品であるため、それほど貴重でもない。

 

「ありがたく。──アサコ、これを。あと冷やしたアレを」

「承知いたしました」

 

 扉際に控えてたアサコが一升瓶を受け取る、退室していく。

 

「話には聞いていたが──」

 

 ライダーはにやりとギルに笑いかけた。

 

「──サーヴァントでありながら他のサーヴァントのマスターでもあるようだな」

「ああ。すでに受肉しているからな」

「なんと!? 聖杯に頼らずとも受肉できるのか!?」

「その程度できずして、なにが王か」

「これまた手厳しい。して、どのようにして受肉を?」

「秘密だ」

「ケチくさいではないか、英雄王」

「この世のためだ。貴様が受肉したら世界征服ぐらい、やりかねん」

「やらんさ。せいぜい征服戦争ぐらいだ」

「なにが違う」

 

 そうギルが告げたところで、失礼します、とアサコが入室してくる。

 ギルとライダーが黙している間に、盃と酒瓶が用意された。

 冷やされた神酒の類だ。

 最初の一杯はアサコが注いでくれたが、ギルの目配せを受け、アサコは退室する。

 

「我が財として所蔵している極上の酒だ。まずは一献」

「かたじけない」

 

 乾杯は軽く盃を掲げあう程度。盃をぶつける所作は中世騎士物語が盛んになってから生まれたマナーだ。ギルガメッシュとライダーが生きた時代は、そもそも乾杯の風習すらなかった頃でもある。

 

「──ほぅ、これは!」

「うまいだろ」

「うむ。うまい!」

 

 ライダーは悪びれることなく、極上の美酒を賛美した。

 

「さすがは最古の英雄王。これほどの酒を饗するとは、まっこと恐れ入った!」

「だからといって、(オレ)に下るつもりもないのだろ?」

「然り。貴殿よりすべての財を奪える日が待ち遠しく思えて仕方ないわ」

「さすが征服王……と、あきれておくべきところか」

「はーっはははは、貴殿にそういわれるとは逆に誇らしく思えてくるな」

 

 そうやってひと笑いするライダーだったが、一瞬で真顔になり、ギルに真剣なまなざしを向けた。

 

「時に、聖杯が穢れているというのは、誠か?」

「誠だ。(オレ)の后──キャスターが確かめた」

 

 ギルは盃を干すと、酒瓶を手に、まずライダーに酌をする。

 

「かたじけない」

 

 礼を告げつつ受けとったライダーは神酒を一口飲むと、こう告げてきた。

 

「なればアーチャー。我が軍門に下らんか」

「貴様は馬鹿か」

 

 ギルは自らの盃に手酌で酒を注ぐ。

 

「すでに大勢は決している。こちらはアーチャーである(オレ)のみならず、キャスターである后、さらにアサシン、ランサー、バーサーカーがいる」

「ぬぅ……バーサーカーも貴殿に下っていたのか」

「そもそも戦いの果てに得られるトロフィーは、今のところ世界を滅ぼす泥だけだぞ」

「そこよ。監督役とかいう者から聞いたが、此度の聖杯戦争、このまま勝者を決することなく終わる公算が高いとか。──真か?」

「真だ」

 

 ギルは神酒を舐め、足を組みつつ背もたれに片腕を伸ばした。

 

「もとより聖杯戦争は、地脈より吸い上げたマナが大聖杯を()たすことで開始される。ところが、此度の聖杯戦争ではサーヴァントこそ召喚されたが、願望器となるに必要なマナを泥が横取りしているらしい。

 問題は、その掃除方法だ。キャスターの公算では、たとえどのような形になるにしろ、元の願望器に戻そうとするのであれば、泥に奪われた分のマナ、つまり燃料が足りなくなってしまうそうだ。すなわち、掃除したところで貴様がこちらの全騎を消そうとも貴様が受肉することはない、ということだ」

「なんと……」

「だが(オレ)麾下(きか)に加わるというのであれば、慈悲をくれてやることもやぶさかではない」

「愚問だな」

 

 ライダーは熱い胸板をそらしながらギルを見下げるかのように腕を組んでみせた。

 

「そのような言葉を投げかけられては、是と言えるわけがないではないか」

「どうせ、そうでなくとも受肉の方法、力で屈服させて手に入れるつもりだろ」

「然り!」

「だろうな。貴様はそういう(いきもの)だ」

「褒められても手加減はせんぞ」

 

 ギルの口からは、もう溜息しか出てこなかった。

 

 予想通りと言えば、予想通りでもある。奸計を用いれば話は別だが、まっとうな取り引きでライダーを麾下に加えることは不可能だろうとギルたちは結論づけている。たとえ令呪をもって配下にしても、この征服王がまともにギルの言うことを聞くとは思えない。

 

 天は一つ。王は一人。つまりは、そういうことだ。

 

「だがな、ライダー。大聖杯がおかしくなっている以上、下手にサーヴァントが死んでしまえば、それだけで何が起きるかわかったもんじゃない。だからこそ(オレ)はこれまでサーヴァントを殺さず、麾下に加えることを優先してきた」

「まさか!」

 

 ガタッとライダーが立ち上がる。

 

「おぬし、余と戦わぬつもりか!?」

「あぁ。大聖杯がどうにかなるまでは、挑まれようとも戦わん。逃げるぞ」

「つまらんではないか!」

「今を楽しめばいいだけの話だろ。それとも現代はつまらんか?」

「いや、そうでもないが……」

 

 ライダーは大きなため息をついてソファーに腰を下ろした。

 

「……なぁ、英雄王」

「なんだ、征服王」

「それはつまり、なにをどうするにしろ……大聖杯がどうにかなるまで、余はウェイバーと共にあり続けるしかない、ということなのか?」

「なんだ。あの小僧といるのが嫌か?」

「そうであったのなら、どれほど楽なことか……」

 

 ライダーは重々しく溜息をついた。

 予想外の反応だ。

 ギルは顔をしかめつつ、深刻な表情をみせるライダーに尋ねた。

 

「なにがどうした」

「ナニが、どうにかしそうなのだ」

「……はぁ?」

「貴殿は直接、余のマスターを見たことがあるか?」

「直接はないが、キャスターの使い魔を通して姿を見たことなら──」

「ならばわかろう」

「なにをだ」

「あれの凶悪さだ」

「………………………………凶悪?」

 

 ウェイバー・ベルベットは凶悪どころか華奢でヘタレ気味な少年だ。原作ファンからヒロイン扱いを受けるような人物であり、ライダーが「凶悪」と呼ぶような要素などかけらも存在しない。それはこの世界でもそうだ。それなのに……凶悪?

 

「たまらんのだよ。ああも無防備で眠られては」

 

 消沈するライダーのその言葉に、ギルは嫌な予感を覚えた。

 

「まさか……」

「余の趣味ではないと思っておったのだがな……性欲を持て余す」

「あー」

 

 史実におけるアレクサンドロス三世は虹彩異色症(ヘテロクロミア)の両性愛者で、どちらかといえば男色をより好んだという話が残されている。おまけにアイリアノスの『ギリシア奇談集』には、優秀な部下に対しては重用する一方で優れた能力に嫉妬心を抱いており、そのせいか、将軍としてぬきんでたところのないヘファイスティオンを寵愛していたと語られている。

 

 ギルは詳細こそ知らなかったが、大枠は覚えていたため、こう思わずにいられなかった。

 

(まさかヘタレ好きだからこそウェイバーに……?)

 

 などと心の中で彼がつぶやいた──まさにその瞬間、それは起きたのだった。

 

「うっ……」

「んっ?」

 

 見るとライダーが、胸元を片手で抑えつつ小さくうめいていた。

 

「どうした、ライダー」

「わからん。わからんが……なんだ、これは。チカラが抜けていく……?」

 

 ほぼ同時に、メディアからの念話がギルの脳裏に響く。

 

(ギル。大聖杯が閉じたわ)

(閉じた? どういうことだ?)

(ちょうど、そこにいるライダーの魔力の流れを観察してたおかげでわかったの。どうやって英霊なんてものをこの世につなぎとめていられるのか疑問だったけど、今の今までは大聖杯が抑止力を誤魔化す術式を動かしていたみたい。それが止まったのよ)

(待て。だったら、俺たちはどうなんだ?)

(私たちは微妙ね。そもそもあなたはサーヴァントであってサーヴァントではない、“なんでもあり”な存在でしょ? そんなあなたのサーヴァントである私たちが、あなたの生み出した陣地の中にいるのよ? 大聖杯に頼らずとも抑止力ぐらい、どうとでもなるわ。でも、どうして急にこうなったのか……今は誰も大聖杯に近づいてすらいないのよ?)

 

 瞬間、ギルは思い至った。

 

「そうか。奴らかッ!」

 

 ギルは立ち上がり、【王の財宝】から【豊穣の神乳(アルル)】を取り出した。

 

「ライダー。これを飲み、今すぐ貴様のマスターをここに連れてこい」

何故(なにゆえ)だ」

「先ほども言ったはずだ。今は一騎たりともサーヴァントを落とすわけにいかない。だが、このまま放置すれば、貴様が干からびて死ぬか、貴様のマスターが魔力不足で干からびて死ぬかのどちらかだ」

「なるほど。では、同盟ということか」

「……そうだな。とりあえずは、そういうことにしておく」

「よかろう。その申し出、受け入れる!」

 

 立ち上がったライダーはギルの手から黄金瓶を奪い取ると、【豊穣の神乳(アルル)】を喉を鳴らして飲み込んだ。

 

「うまいッ! なんだこれはッ!」

「神の酒だ」

「なるほど、これが名高き【天上宮の酒(ネクタル)】か!」

 

 ライダーは喝采をあげつつ再び一口。

 

「して、英雄王。何か仕掛けたという(やから)、心当たりがありそうだが?」

「ある」

「セイバーとそのマスターか」

「その上だ」

「上?」

「聖杯戦争という仕組みを作り上げた御三家の一角──アインツベルンだ」

 

 ギルは眉間にしわを寄せながら、遠く西の方向をにらみつけた。

 

「奴らは冬木(ここ)から遠く離れた自らの領地で英霊を召喚している。その事実を軽んじるべきではなかった」

「どういうことだ?」

「わざわざ冬木を訪れなくとも令呪を宿し、英霊を呼び出す……それらを可能とする裏道、大聖杯と結びつく何かを、奴らは領地に隠し持っていた可能がある。わかるか、征服王。聖杯戦争には英霊にすら秘された部分がある。奴らはそれを使い、仕掛けてきた。文字通りの戦争だぞ、これは」

 

 ギルが召喚されてから六日──第四次聖杯戦争は誰もが予想しなかった“長期戦”へと駒を進めることになるのだった。

 

>>SIDE END




修正前は性欲を持て余したライダーが悩みを打ち明けたあと自分勝手に吹っ切ってしまい、ウェイバーをアーッして「戦いもないんだから旅に出ようぜ」とばかりに諸国漫遊に出てしまってフェードアウト──というものでした。我ながらヒドイ。

なお、今回紹介するステータスは修正前の「弱体化したけどウェイバーと旅立った」バージョンです。本作中では原作と同じという形になります。


【無銘の麦酒】
ランク:─
種別:財宝
レンジ:─
最大捕捉:─
 最古の黒ビール。そもそも最古の酒の記録は紀元前四〇〇〇年頃のシュメール人のもの。いわゆるビールやワインを作っていたことが確認されているが、現代的な意味での酒とは違い、アルコール度数も低く、どちらかといえば「安全に飲める味のついた水」か「ドロドロの飲用食料」という感覚に近い。だが後世の影響を受けまくる型月世界では、バ○ワイザー以下という古代の麦酒が極上の逸品に昇華されている!……ということにしておきます。


■ステータス
【騎座】ライダー
【主師】ウェイバー・ベルベット
【真名】イスカンダル
【性別】男性
【体躯】212cm・130kg
【属性】中立・善
【能力】筋力D 耐久C 敏捷F 魔力E 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】
・対魔力 :E(D)
・騎乗  :B(A+)
【固有スキル】
・カリスマ:B(A)
・軍略  :C(B)
・神性  :D(C)
【補足】
 東地中海文化圏が生んだ世界に名だたる征服王。王位についてから蜂に刺されて死ぬまでのわずか十二年でギリシア、エジプト、ペルシアという当時の先進地域を全て征服した覇王。ヘラクレスとアキレウスの末裔であり、数々の聖典にその名を残し、歴史上の偉人たちも称えるなど、およそ“王”としての格で言えば最上位に位置する大英霊。あまりに勇猛すぎたせいで、死後、蹂躙したはずの中東世界で逆にイスカンダル双角王(イスカンダル・ズルカルナイン)として英雄視されたほどの規格外。名前からするとアレクサンドロス・ロマンスの影響を受けているはずなので、本当ならエジプトの王子で、世界の果てを求めてあらゆる国々をさまよい、裏切りによって殺されたはずだが、『イーリアス』を好んでいたところを見るとアキレウス万歳なアレクサンドロス三世の影響が強いらしい。まぁ、型月世界なので細かいことは気にしない方向で。いずれにしてもギリシアの覇者で、ペルシアの支配者で、正式なファラオでもある。
 本作では原作同様、ウェイバーに召喚されたが、偽ギルの介入で無辜の日々をすごさざるをえなくなる。最終的に偽ギルから【抑制の装身具】を受け取り、ステータスとスキルをダウンさせた状態でウェイバーの使い魔となり、諸国漫遊の旅に出立している。この主従の関係は、薄い本が厚くなる方向なので深く追求しないに限る。がんばれ、ウェイバー。
【宝具】
【遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)】
ランク:A+
種別:対軍宝具
レンジ:2~50
最大捕捉:100人
 ゼウスに捧げられた【神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)】による蹂躙走法。【神威の車輪】そのものは二頭の飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)が牽引する戦車(チャリオット)であり、空も稲妻を踏みしめて駆けることが可能。個人的には、どうして人喰い馬なブケパロスではないのか首を捻ったが、ウェイバーを伴うことや、ちゃんとラストでブケファロスに乗っていたあたり、虚淵先生うまいなぁ、と感心させられた要素でもある。なお、FGOではちゃんとブケファロスのほうが宝具化されていたが、あの紅顔の美少年がこうなるとは……【神の祝福(ゼウス・ファンダー)】の罪は深い。
 本作中では弱体化後、魔力不足で【遥かなる蹂躙制覇】そのものは使えなくなっているが、【神威の車輪】は普通に出せるので便利な移動手段として利用している。ことにしてある。
【王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)】
ランク:EX
種別:対軍宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000人
 アレクサンドロス・ロマンスの体現と言ってもいい規格外の逸話型宝具。蒼穹の大荒野からなる固有結界を展開し、生前率いた兵たちを独立サーヴァントとして連続召喚、数万の軍勢で敵を蹂躙するという征服王の征服王たる所以をあますところなく現した代物。アニメ版での展開シーンで「然り!然り!然り!」と連呼した人は多いはず。作者はした。ただし本作では弱体化後、魔力不足で使えなくなっている。それでもブケファロスは呼べば普通に出てくる。

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