鍍金の英雄王が逝く   作:匿名既望

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皆さんのご想像通り、セイバー組との一戦は避けられません。
ついに偽ギルも戦うのか……!?(答:本人は戦わない)

※最終話は31日中に投稿予定……だったのですが、29日に引っ張り出されてから帰宅したのがついさっき(31日午後11時)だったりするので、公開は三箇日中ということでご容赦を><
※三箇日は遠方の親戚がきて、連続作業そのものが無理だったよ……(遠い目 と、とりあえず今月中に終わらせるという方向でご容赦くだしあm(__)m


第09話 終局

>>SIDE ギル

 

 緊張をはらんだ交渉の後、アインツベルン城は強固な結界により閉鎖された。今日まで入念な準備を進めていたのだろう、メディアをして力技以外での破壊は不可能と判断せざるをえないほどの結界だった。

 

「とはいえ、予想の範疇(はんちゅう)だ」

 

 洋館地下の魔術工房。ギリシア風の円柱に囲まれた空間の中央には、メディアが作り上げた大聖杯の鏡像投影体──透明なガラス箱の中で可視化した大聖杯の挙動を確認できるもの──が光の粒子の流動によって、円錐的な台が球体を支えるトロフィーのような形となって形作られていた。

 

 準備を進めていたのはアインツベルンだけではない。こちらは俺たちだけではなく、時臣の黙認を得た上で、アインツベルンの森を除く冬木全体を陣地化している。地味に【偉大なる神々の家(バビロン)】との相乗効果でサマージャンボ宝くじの上位当選者が何人も出るなどの副次的効果も出ているが、その本質は侵入者の検知と【源の淡水を写せし扉鏡(アブズ)】を連動させた鏡面界の現出と転移にある。

 

 別名“切嗣を隔離してボコるための結界”。

 

 だが切嗣は結界の範囲内に一度も足を踏み入れてくれなかった。それ以外の不逞魔術師どもはホイホイされまくりでランサーとバーサーカーの気晴らしに使えているから悪くはないのだが……やはり侮れないな、衛宮切嗣。

 

 もしかすると大聖杯の浄化を先にした方が……いや、冬木全体の陣地化も先月終わったばかりだ。間桐臓硯(マキリ・ゾォルゲン)の標本から知識を抽出・分析しおえたのも先月のこと。浄化に専念すれば、多少は作業時間を短縮できただろうが、メディアの話だと小聖杯の実物が無い限り、その後の作業は最低でも一年以上かかった可能性が高い。

 

 やはり、現状がベストか。いや、ベターか?

 

「マスター」とランサー。「彼らはアヴェンジャーの召喚を決行するのでしょうか」

「向こうにしても他に方法がないんだろう」

 

 大聖杯の浄化──これを実のところ、簡単に成し遂げられる方法がある。

 

 アヴェンジャーこと反英霊アンリマユそのものの召喚。つまり、大聖杯の中にある泥のすべてをサーヴァントとして呼び出すことで浄化してしまう、という方法だ。

 

 イレギュラークラスを意図して呼び出せるのか、という根本的な問題もあるが、相手はあのアインツベルンだ。それ以前に、アインツベルンこそが、アヴェンジャーを呼び出す術式を大聖杯に紛れ込ませた元凶でもある。そんな彼らなら、意図してアベンジャーだけを呼び出すことも可能かもしれない。そして、もしそれが実現すれば、どれほど規格外のサーヴァントとなるか……制御方法も用意していることを信じたいところだ。

 

「よほど準備に時間をかけてきたみたいね……」

 

 メディアが鏡像投影体の大聖杯を凝視しながらポツリとつぶやいた。

 

「おまえからみても、そう見えるか?」

「えぇ。大聖杯はただでさえ奇跡のようなバランスの上でなりたっている緻密な術式よ。正直、私でも百年くらいかけないと作れそうにないほどの……それを、ここまで巧みに干渉するなんて、かなり綿密に計画を立ててきたとみていいわ」

 

 その言葉に、俺はひとつの疑問を抱いた。

 

「いつ頃から、準備を始めたと思う?」

「あなたが大聖杯の汚れを指摘してすぐ……でしょうね」

 

 そうだろうか。場合によっては、もっと前から準備していた可能性はないだろうか。

 

 アインツベルンには不可解な点が多い。

 

 第三次では召喚不可能なはずの神霊を呼び出そうとして失敗。第四次では戦闘に特化した外来の魔術師をマスターとして騎士王を呼び出し吶喊させて失敗。第五次では最高傑作のホムンクルスに大英雄をバーサーカーとして呼び出して吶喊させて失敗。成否うんぬんではなく、どうにも場当たり的に“強者”をぶつけていくだけの無策ぶりを呈している。

 

 万全を期すなら、もっと違った対応策があったはずだ。だが、アインツベルンはそれをしなかった。フィクションであればバカの一言で片付けてよいが、それが現実になっている俺としては、そこに何かしらの意志が介在しているように思えて仕方がない。

 

 いったいアインツベルンは……いや、八代目(アハト)の人間型端末筐体を用いている人造魂魄“ゴーレム・ユーブスタクハイト(ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン)”は、何を考え、何を狙っているのか…………

 

「マスター」とランサーが声をかけてきた。「この場合、我らはいかようにすれば」

 

「最悪の事態を想定する」

 

 俺は大聖杯の鏡像投影体をにらみつけた。

 

「メディア。予備のシステムは、どうだ?」

「案の定、動かそうとしているわ」

「だろうな」

 

 『Fate/Apocrypha』に登場した、七騎による個別戦の聖杯戦争を七騎対七騎の陣営対決へと拡大する予備のシステム。サーヴァントの数で負けているアインツベルンが最初に使おうと考える対抗手段だ。

 

 向こうにしてみれば、知られていない術式を用いて一気に味方のサーヴァントを増やそうと企んでいるのだろうが、チート転生者(ゲイリー・ストゥ)であるこの俺が秘された術式を知っていることが奴らの失点になってしまう。

 

「やれるか?」

「任せて」

 

 右手に召喚時から持っていた魔術礼装【月の女神の錫杖(ランパース)】、左手に俺がプレゼントした【原初碑文(アサルルヒ)】を持ったキャスターは、応接間の卓上に展開する大聖杯の鏡像投影体に対して長い神言を囁きかけた。

 

 何が起きているのかは、門外漢な俺たちには皆目見当がつかない。

 

 だが、ほどなくしてメディアは吐息を洩らしつつ、詠唱を止めた。

 

「予備術式に全ての英霊が連帯していないことを認識させたわ。もう、平気よ」

「さすが我が后だ。ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」

 

 これで策のひとつは潰せた。だが、他にもある可能性がある。油断はできない。そう思いながら観察を続けたのだが、アインツベルンは他にこれという策を用意していなかったらしい。いや、大聖杯に干渉する策がこれで打ち止めだった、というだけのことだろう。

 

「次の懸念は、アヴェンジャーだ。暴走状態で召喚された時は、ヴィマーナで殲滅する」

 

 ヴィマーナ──原作でも登場した古代インド由来の空飛ぶ船だ。『Fate/Zero』では“輝舟”、『Fate/EXTRA CCC』では“黄金帆船”と漢字表記されているが、ある意味、当然の結果でもある。なにしろ【王の財宝】にあるヴィマーナ、一隻ではないのだ。

 

 とりあえず原作登場版を【輝舟(ヴィマーナ・ゼロ)】としておくが、あろうことか、これにしても原作小説や原作アニメで描かれていた以上の性能が秘められていたのだから、もう笑うしかない。

 

 そもそもヴィマーナはヒンドゥー教などに登場する空飛ぶ宮殿や戦車のことだが、ギルガメッシュが貯蔵していたそれは偽書『ヴィマニカ・シャストラ』に記されていたものを典拠としているらしく……まぁ、なんというか、おもいっきりUFOなのだ。

 

 慣性制御は当然として、光学迷彩、ステルス機能、通信傍受や通信妨害、さらには光線兵器やら感染すると瞬く間に全身が腐敗する呪詛が込められた生物兵器っぽいものまで搭載されていたわけで。

 

 これをバーサーカーに使わせると、どういうことになるか──わかるよな?

 

 よって、もしアヴェンジャーの召喚に失敗し、黒い太陽こと泥の聖杯が顕現してしまった場合は、バーサーカーに操縦させた【輝舟(ヴィマーナ・ゼロ)】で吶喊して飽和攻撃。それでもダメなら乖離剣エアにお出ましいただき、速攻で全部潰してしまうことにした、というわけだ。

 

 だからこそ、俺は続けてバーサーカーに目を向けた。

 

「バーサーカー。いや、ランスロット。おまえがセイバーと、アーサー王と向かい合いたい気持ちはわかっている。だが──」

「そのお気持ちだけで充分です」

 

 バーサーカーは微笑みと共に片膝をついてきた。

 

「どうぞ私のことはお気になさらずに。あなたのおかげで【狂化】から自由を得た今の私は、我が君の責めを受けることこそが望み。されど、此度においても忠義より私心を優先させるなど、私の矜持が許しません。どうぞ、お気になさらずに」

「……騎士というのは、難儀な生き物だな」

「頑固なだけです」

 

 バーサーカーのその言葉に、ドア際に控えていたランサーが苦笑を漏らしていた。

 彼らはよく二人で語り合っていた。

 ともに主君に不義を働いた騎士だ。生前に許され、衝動的であろうとはいえ見捨てられるという罰を受けているランサーに対して、主君の死後も修道院で祈りの日々を過ごすしかなかったバーサーカーの境遇は、平成日本人のメンタリティと古代ウルクの王のメンタリティを同時に兼ねそろえている俺には察することしかできない。

 

 そう。今の俺は前世の俺でもギルガメッシュでもない。

 ギル・ゴールデン。

 おそらくメディアという伴侶がいたおかげだろう。今生の俺は、今生の俺としてのアイデンティティを確立できるまでに至っている。一時はギルガメッシュの魂に引きずられるかもしれないと恐れていた部分もあったが、神様チートによる魂の補強は、凡人をして英雄王との融合を良しとする奇跡を起こしたらしい……

 

「確認する」

 

 俺はメディア、アサコ、ランサー、バーサーカーに語り掛けた。

 

「アイリスフィールは聖杯戦争の勝敗に抜け道があるといった。だが、メディアが調べた限りにおいても、さらには俺の観測情報からしても、大聖杯を願望器として機能させるには、小聖杯に死したサーヴァントの魂を集め、これを鍵として穴をあけるという段階が必要不可欠と考えられる。すなわち、アインツベルンが聖杯戦争の勝利者となるには、大聖杯の鍵となりえる程度にサーヴァントの魂を集める必要があると推察される」

 

 俺はそこまで言うと、ひとりひとりを見つめながら言葉を続けた。

 

「さらに聖杯戦争の勝利者としての権利を行使するには、セイバーの支配権をアイリスフィールが保持している必要がある。つまり、取り引き通りに俺が城に向かった場合、まず敗北の宣言をし、勝者の権利をあいつらが行使したうえで、セイバーの支配権と令呪を受け取るという段階を経る」

 

 思わず、苦笑が漏れ出た。

 

「俺が慢心していれば、さっくりと騙されたんだろうな」

 

 その言葉に、皆も同様に苦笑を漏らしあうのだった。

 

>>SIDE END

 

 

 

>>SIDE 衛宮切嗣

 

「彼らは騙されてくれるでしょうか」

 

 僕の相棒、久宇舞弥は不安げに小さく、そうこぼした。

 僕は何も語らず、ただ静かに、目のまで行われる儀式を見つめ続けた。

 

 城の地下にあつらえたアヴェンジャー召喚の魔法陣。その一角に立ち、“天の聖杯(ヘブンズフィール)”と名付けられている小聖杯としての魔術礼装を身に着けたアイリは、一心不乱に手にした分厚い魔導書の呪文を唱え続けていた。

 

 計画の第四段階だ。

 

 第一段階は僕と舞弥が誰にも知られることなく城に入ること。キャスターのものと思われる濃密な探知結界を潜り抜けるのは至難の業だったが、時間をかけ、魔術的な要素を一切用いていない城の抜け穴も使うことでどうにか成功した。これはセイバーのマスターをアイリだと誤認させておくために必須だったため、予想外に手こずった印象が強い。

 

 第二段階は資材の搬入。トランクケース2つ分とはいえ、アヴェンジャー召喚に必要な聖遺物と、アーチャーこと英雄王ギルガメッシュに対する切り札となる魔術礼装を運び込めるかどうかは大きな賭けだった。幸いにも持ち込めたわけだが……はたして、例の魔術礼装の存在が露呈しているか否か。ここには、大きな不安が残ってる。

 

 第三段階は大聖杯に組み込まれているという予備のシステムの起動。これが実現すれば、聖杯戦争は七騎対七騎の聖杯大戦へと切り替わるらしい。だが、この術式そのものがすでに歪んでいる可能性が高いことがわかっている。起動できれば儲けもの。そう考えつつすでに試してみたが、術式がまったく反応しなかったそうだ。

 

 無論、最初から想定されていたことなので、これについては残念だとは思うが、大勢に影響はないと断言できる。そのため計画は、そのまま次なる段階に移行した。

 

 第四段階。今現在、アイリが挑んでるアヴェンジャーの召喚。第三次聖杯戦争では死にかけた乞食の青年のような、なんの力もない最弱の英霊が呼び出されたという話だが、あれから長い月日が経っている今、大聖杯の中で力を蓄えてしまったアヴェンジャーがどうなっているか、未知数な部分が多い。それでも、これを成功させないことには聖杯に願望器としての権能が蘇らない。今は、成功すると信じるしかない。……信じるしかないのだ。

 

「……すみません。余計なことを」

 

 黙っている僕の様子から、舞弥は謝罪を口にしてきた。

 そうだ。余計なことだ。

 不安を口にしたところで状況が変わるわけではない。

 

 召喚が成功すればアイリがアヴェンジャーのマスターになる。つまり、令呪を手に入れる。彼女が持つ令呪を見れば、アーチャーもより騙されてくれるだろう。セイバーのマスターが僕ではなく、アイリであると……

 

 計画の第五段階。綱渡りの最後の一歩。

 

 聖杯戦争を終わらせるには、小聖杯をサーヴァントの魂で満たさないといけない。そのためには、それなりの数のサーヴァントが死ななければいけない。これは、聖杯戦争という儀式を完遂するために必要不可欠な要素だ。

 

 だからこそ、アーチャーを倒す。

 

 おそらくアーチャーは会談の場にランサーかバーサーカーを連れてくるだろう。アサシンも連れてくる可能性は高い。キャスターは洋館に残すだろう。キャスターは後方にあって初めて力量を発揮するサーヴァントだ。双子館が大神殿の域にあることを考えれば、そこにキャスターを残す可能性は高い。

 

 狙うのは絶対優勢な状態にあるアーチャーの慢心。

 

 英雄王ギルガメッシュの情報は必至になって集めた。その結果、過去に一度だけ、バビロニアの秘奥に触れた魔術師が英雄王の残滓に排斥された事例を見つけ出した。それによると英雄王の性格は唯我独尊の一言。高慢にして独善的、矜持によるものなのか約定は必ず守るようだが、約定の解釈は自らが定めるという暴君ぶりを示す。そして、なによりも慢心しているという。孤高の絶対者であるがゆえだろう。今回の聖杯戦争においても、それらしき振る舞いは魔術協会を介した報告に散逸されている……

 

 だからこその作戦だ。

 

 最善は慢心したアーチャーが単身で現れること。だが、それはさすがにないだろう。霊体化させたランサーかバーサーカー、もしくは両名を近衛として引き連れている可能性は高い。しかし、全員を連れてくることはないはずだ。

 

 逆を言えば、慢心していない場合も、拠点である西の双子館にはキャスターを残す可能性が高い。そこがねらい目だ。向こうにとっての最善の配置を狙いうつ。

 

 KGB崩れのロシア系マフィア。去年の12月に崩壊したソ連には、行き場を失った軍人や工作員が掃いて捨てるほどいる。その一部を金で買い集めた。依頼内容はただひとつ、双子館を破壊すること。

 

 神秘によらない純然たる鉄の暴力。

 

 おそらく、ろくな相手にならないだろう。大神殿の域にある魔術要塞としての力が発揮されれば、あの程度のチンピラ、たやすく一掃されるはずだ。だが、これを行うことで、アーチャーに揺さぶりをかけることができる。

 

 今現在、アーチャーは魔術協会・聖堂教会との間に協定を結ぼうとしている。だからこそ、協定が結ばれる前にアーチャーを仕留めようと考える魔術師も少なくない。なにより。格こそ高いがアーチャーはサーヴァントだ。しかも真名が知られている。対抗策を用意すれば、いかに英雄王と言えども無傷ではいられない。

 

 実際、僕は対抗策を用意した。

 

 おそらく魔術師ではなく魔術使いである僕だからこそ用意できた対抗策だと思う。

 

 “斬首刑宣言(ボワ・ド・ジャスティス)”──フランス革命戦争時、国王ルイ十六世や王妃マリー・アントワネットの首をはねたギロチンの刃を素材とする魔術礼装だ。

 

 マダム・タッソー館に飾られている()()ではなく、魔術協会から王冠の位階を認められている某貴族が保管していたものを手に入れ、アインツベルン家が総力をあげてフリードリヒ・ラウンの『怪談集』にある“魔弾の射手(デア・フライシュッツ)”の概念まで練り込んで作りだした逸品でもある。

 

 射出には、僕のツテで手にいれた英国軍のボーイズ対戦車ライフルを使用。相手が王侯貴族であれば確実に死をもたらすこの魔弾には、扇動と恐怖政治によりフランスを地獄と化したジャコバン派の狂気が宿っているため、ひとたび放てば、いかに相手が防ごうとも地の果てまで追いかけ、確実に王侯を穿ち、死を与える効果がある。

 

 アーチャーの正体は最古の英雄王ギルガメッシュ。

 古代ウルクの王。

 その属性こそが、彼の弱点だ。

 

 具体的には、まず令呪をもってセイバーにアーチャーを襲わせる。護衛の一騎はこれにあたるだろう。続けて僕と舞弥が“斬首刑宣言”で狙う。仮に他にも護衛のサーヴァントがいたとしても、魔術そのものを解体しない限り、破片になった魔弾が確実にアーチャーを呪い殺す。

 

 恐怖政治(ラ・テロル)の狂気は王族を逃さない。

 

 アーチャーが城に現れた時が、僕らの勝利の瞬間だ。それは同時にアイリとの永遠の別れの時でも……いや、それについては充分に語り合った。別れも済ませている。あとは聖杯に僕の願いを遂げさせ、イリヤに平和な世界を見せてあげるだけだ。

 

「舞弥。休めるうちに休め」

 

 僕は答えを聞く前に寝室へと移動した。

 召喚は必ず成功する。

 アーチャーは必ず姿を現す。

 僕らは必ず、目的を達成する………………

 

>>SIDE OUT

 

 

 

>>SIDE OTHER

 

 深夜。アインツベルン城がある森は静寂に包まれていた。

 

 城の外、ちょうど門の真下には椅子へ腰かけたアイリスフィール・フォン・アインツベルンの姿がある。その傍らには青いドレスに甲冑を身にまとい、不可視の剣を床につきたて、その柄に両手を乗せて黙想しているセイバーの姿もある。

 

 切嗣と舞弥の姿はない。遠く離れたところで狙撃体制を整えているのだ。

 

 と、不意にセイバーがカッと眼を見開いた。

 アイリスフィールがそれに気づき、ぐっと口元を引き締める。

 直後、正門から百メートル近く離れたところに濃密なマナが渦巻く。霊体化していたサーヴァントが姿を現したことで生じた現象だった。

 

 麻の半袖シャツに黒いパンツというラフな格好をした金髪の青年が、そこにいた。

 

 彼はゆっくりと彼女たちのもとに近づいていく。

 警戒はしていない。

 セイバーの目が細められる。

 

(──マスター。他のサーヴァントの気配があります。数は不明)

(警戒を怠るな)

 

 パスを通じた念話。セイバーと切嗣の会話は、実のところ、これで四度目だ。

 最初がマスターを問う問答。

 次は待機を求める指示。

 三度目はアイリスフィールを守り冬木に移動しろとの指示。

 

 他には何一つ会話していない。指示も受けていない。不満に思うところもあるが、もとより亡国の運命を覆すために魔術師(メイガス)使い魔(サーヴァント)になることを承知したのはセイバー自身だ。ゆえにセイバーは一切の不満を口にせず、己をひとふりの剣と定め、命じられるがままに行動してきていた。

 

 そして今夜、すべてが終わる。

 

 囮役のアイリスフィールは、無事、アヴェンジャーのマスターになった。彼女がどのような指示を切嗣から受けているか、セイバーは聞いていない。しかし、今夜の邂逅ですべてを決する構えだということぐらいは把握している。

 

 自分は命じられるがまま、アイリスフィールを守るだけでいい……

 

「来てやったぞ」

「御足労いただきましたこと、深くお詫び申し上げるとともに感謝いたします」

 

 距離は15メートル。セイバーにすれば一足の距離。

 

「ふん。王たる(オレ)を呼び出したのだ。さっさとことを終わらせろ」

「はい。それではまず、降伏の宣言をお願い致します」

「戯けが。(オレ)がなぜ、そこまで譲歩せなばならん」

「セイバーにも勝利者の権利を譲られるのが約定であったかと存じ上げます。そのためにも、こちらが勝利者になった時点でセイバーがこちら側にいる必要が──」

「随分と(オレ)を甘くみているようだな。それほど慈悲深い王に見えるか?」

「申し訳ありません。それでは──」

 

 アイリスフィールは令呪が宿る左手を見せつけた。

 

「この令呪をもって、セイバーには貴方様を害することを禁止します」

(オレ)だけを?」

 

 アーチャーは腕をくみつつ、楽しげにそう尋ね返した。

 やはり護衛として他のサーヴァントを連れてきているのだろう。

 だが、それは想定の範囲内だ。

 

「貴方様の陣営に、という形ではどうでしょう」

「拘束力が弱まるが……よかろう。だが譲渡とは別に、もう一画残ることになるな」

「それにつきましては、私を守ることを命令したいと」

「なるほど。保険か。かまわん。好きにしろ」

 

 高慢な暴君そのままの態度に、セイバーの中で嫌悪感が膨れ上がった。

 だが、それを表に出すような愚は侵さない。

 ここにいるのは王でも騎士でもない。ただひとりの剣なのだ。

 

「それでは──アイリスフィール・フォン・アインツベルンが令呪をもって命ずる。これよりアーチャーと彼に味方する者を傷つけることを禁じる」

 

 キンッと硬質な音が響き、令呪の一画が輝きと共に消失した。

 

「重ねて命じる。私を守れ」

 

 再び令呪が輝く。これで残る令呪は一画。譲渡の分だ。

 ということになる。

 無論、それは偽りだ。そもそもアイリスフィールのサーヴァントは昨夜召喚に成功したアヴェンジャーだ。令呪の束縛を受けるのはアヴェンジャーであり、セイバーではない。

 

(なるほど……)

 

 と、セイバーは得心する。これが衛宮切嗣の狙いだったのか、と。

 

「これで、いかがでしょうか」

「いいだろう。では──」

 

 英雄王は苦笑まじりに告げてきた。

 

「セイバーにも同じことを命じてもらおう」

 

 アーチャーのその言葉に、アイリスフィールも、セイバーも、息をのんだ。

 

 英雄王はなおも苦笑を漏らし続けている。

 

「大方、そんなことだろうと思っていたが……いや、よくぞやったと誉めてやる。さすがにアレを暴走させずに召喚できるか、分の悪い賭けだと思っていたが、さすがはアインツベルン。よくぞ召喚し、よくぞ制御した。重ねて告げよう。よくぞやった。誉めてやる。

 して、どうする? 約束を守らないのか? アヴェンジャーに命じたのと同じことを、セイバーに命じるように、衛宮切嗣に伝えろと言っているだけだぞ?」

 

 直後だった。

 

(令呪をもって命じる! セイバー! 宝具でアーチャーを討て!!)

 

 パスを通じてセイバーに令呪の力が注ぎ込まれた。

 

>>SIDE END




果たして偽ギルはタイトル通り逝ってしまうのか!?

という感じで次回は「最終話 斯くして鍍金の英雄王は逝く」です。
ついでに最後の宝具ネタ~♪


【源の淡水を写せし扉鏡(アブズ)】
ランク :A
種別  :創界宝具
レンジ :─
対象  :─
 創世以前より存在する全ての起源としての水なる世界に通じる水鏡。本体は黄金製の輪だが、その内側には常に薄い水の膜が張られている。水膜の向こう側には、水(鏡)に写しだされた世界そのものが存在しているが、これはあくまで【源の淡水を写せし扉鏡】が生み出した固有結界のような隔離世界であり、その広さは注がれ続ける魔力に比例する。隔離世界を生み出す神秘の原典のひとつ。名の由来はバビロニア神話の神々が創世以前に住んでいた場所にして『エヌマ・エリシュ』において最初に生まれた夫婦神の夫アプスー(妻はティアマト)そのもの。【原初碑文(アサルルヒ)】を持つハイパーキャスターに使わせると、『魔法少女リリカルなのは』の封時結界や『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』の鏡面界みたいなものを展開できる。というか、それをやれるように登場させたネタ宝具だったが、まともに使われないまま本編が終わった不遇ネタのひとつだったりする。

【月の女神の錫杖(ランパース)】、
ランク :─
種別  :魔術礼装
レンジ :─
対象  :─
 メディアが所持する錫杖。月を模した飾りを持ち、所持者が常に月光を浴びている状態にする効果を持っている。由来は冥界神としての女神ヘカテーとともに松明を掲げて照らす冥界のニンフの名。原作では特に設定されていないものの、後に自らも冥界のエリュシオンで暮らしたとされるメディアなら宝具に準ずるぐらいの魔術礼装ぐらい持ってるだろうという作者の独断と偏見で持たせたものだったりする。なお、エリュシオンは神々に愛された英雄たちが暮らす冥界の楽土とされたこともあるため、ある意味、英霊の座の古代ギリシア版と言えなくもない場所だったりする。

【輝舟(ヴィマーナ・ゼロ)】
ランク :EX
種別  :飛行宝具
レンジ :─
対象  :─
 古代インドの二大叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』に登場する飛行装置。ヴィマーナそのものは何種類もあり、巨大な飛行宮殿型や牽引牛馬を必要としない戦車(チャリオット)型が一般的だが、これは黄金とエメラルドで形成された空飛ぶ舟の形をしている。いわゆる世界中の神話伝承に登場する天の舟の原典にあたり、どうやらギルガメッシュの持つこれは悪魔の王ラーヴァナのプシュパカ・ヴィマナのレプリカである可能性が高い。また、本編中にも書いているが、20世紀初頭に記された偽書『ヴィマニカ・シャストラ』の影響もみられる。というか、こっちに書かれてるトンデモ説より、『ラーマーヤナ』での記述のほうが凄いので、むしろ偽書のおかげで弱体化したらしい。なお、【輝舟(ヴィマーナ・ゼロ)】には光学迷彩、ステルス性能、通信傍受・通信妨害の機能があり、さらには光線兵器や呪詛ミサイル(腐敗して死ぬ)まで付いている。迎撃宝具が付いた『Fate/strange Fake』版は、また別の機種、ということにしてある。

【斬首刑宣言(ボワ・ド・ジャスティス)】
ランク:─
種別:対王族用魔術礼装
レンジ:5~1000
最大捕捉:1人
 フランス革命戦争時、国王ルイ十六世や王妃マリー・アントワネットの首をはねたギロチンの刃を素材とする魔弾。フリードリヒ・ラウンの『怪談集』にある“魔弾の射手(デア・フライシュッツ)”の概念も練り込んでいるため、撃てば必ずあたり、その呪いからたとえサーヴァントであろうとも王の属性を持っていれば、かするだけで首がもげおちるという呪詛物でもある。
 まともに本作のギル一党と戦ってもセイバー組に勝ち目がない以上、切嗣なら、なにかやらかすよなぁ……と妄想した瞬間に思いついたもの。名の由来はギロチンの当初の正式名称「正義の柱(ボワ・ド・ジャスティス)」。当時、平民の死刑は縛り首、王侯の死刑は斬首となっていたため、「人道的」に一発で首を斬り落とせる機械的な道具として開発されたのが後のギロチンだったりする。
 なお、似た装置は13世紀にはすでに存在している。名の由来となった医師ジョゼフ・ギヨタンもあくまで死刑執行人シャルル=アンリ・サンソンの訴えで問題視された「斬首の残虐性」について、議会でアレコレと動いた政治家にすぎない。だが実際にギロチンを開発した外科医アントワーヌ・ルイの存在が目立たぬ一方、装置の人道性と平等性を大いに喧伝したギヨタン博士が有名になってしまい、「ギヨタンの子(ギヨティーヌ)」という呼び名が定着。その英語読みのギロティーンが訛り今ではギロチンと呼ばれるようになった。博士はこれを不名誉として改名運動を起こしたが成果が出ず、最終的には改姓したんだとか。


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