こっそりと ボツネタ(7話のボツネタ)
トリニティには、シスターフッドと呼ばれる部活動があるの。私はてっきり、妹、もしくはお姉様を育成するお嬢様校特有の部活動だと思っていたんだけど、実際にはボランティアとかが主な活動の宗教的な部活らしいよ。怖いね?
それでね、そんなシスターフッドには、後ろ暗い噂が流れまくっているんだって。拷問だったり、洗脳だったり、私刑だったり。そう言うことを秘密裏に地下で行う、トリニティの暗部を担っていた組織で、過去の出来事とはいえその本質は現代にまで受け継がれている……可能性がある。だから、シスターフッドにはあまり近づきすぎない方が良い。現在も秘密主義は一貫していて、何を企んでいるのか分かったものではないから。
そんな話を、シミコちゃんに掃除をするために古書館を追われて落ち延びて来た古関先輩から聞いたんだ。半笑いだったし、女の子らしくこう言う噂話が好きなのかもしれないね*1。……言うほど女の子らしい噂話なのかな?
でも、お世話になっている古関先輩には悪いけど、シスターフッドの人達がそんな陵辱ゲーの悪人集団には微塵も見えない*2。宗教と聞くと反射的に構えてしまうけど、クラスにも所属している子はいるし、その子はとても親切だ(定期的に、保健室へと連れて行かれるけれど)。なので、古関先輩から聞いた話は完全なるデマ……とも断言できない。だって、あの賢くて尊敬できる古関先輩の言葉だから*3。
そういう紆余曲折な考えの中での結論は、なんか人に言えない秘密を隠しているけど親切だし悪い人じゃないと思う! という感じに落ち着いた。私やコハルちゃんだって人様に言えないことあるし、誰にだって秘密はあると思う。
――でも、人の秘密って何だか気になるよね?
色々と想像すると、とっても捗りそう。……けど、コハルちゃんとの約束で、生徒のみんなでえっちなことを想像するのは禁止されてしまっている。でも、それでは困る事態になっていたから。
想像じゃなくて、それが真実なら問題はないよね、と。あるキッカケを元にして私の中でシスターフッドはえっちな隠し事をしている集団と認定していた。いや、私自身がそうしちゃったんだけど。
それは、シスターフッドの代表の人と会う機会があった時のこと。大聖堂でお祈りしまくっている折のできごと*4。
「あら、あなたは……」
あの日の夕暮れ時に見た、ないすばでーなスク水美少女を讃えてお祈りを捧げていた私に、声を掛けてきた先輩がいた。シスターフッドの制服を可愛く弄っている人で、見た目のお清楚力はかなり高い。
もし全トリニティお姉様協会会長ですと名乗られたら、うっかり信じてしまいそうなくらいの綺麗な人だ。私の妹におなりなさいと言われれば、イマジナリーお姉ちゃんに助けを求めてしまいそうなほどだった*5。
「あ、あの、お祈り中で……」
でも今は、あの日の感動を神様に伝えている最中なのだ。スク水美少女女神様のことを、そして神頼み教からスク水女神教へ転向したことを*6。
信仰を共にするならともかく、シスターフッドはスク水女神教徒ではないので、このお姉様(仮称)の相手はすぐにはできそうになかった。あの日に感じた感動を、まだ全て神様に伝えきれていないから*7。
「失礼致しました。どうぞ、このままお祈りください」
けれども、彼女はそのまま私の横へと座って。そのまま、両手を合わせてお祈りの体制に入っていた。
「え、あの?」
「あなたの祈りを妨げてしまった償いを。どうか私も、あなたと共に祈らせてください」
「そんな、悪いですよ」
「どうか、私の罪を許されてください」
そこまで言われてしまうと、強く断れない。私が頷いたのを確認して、私たちは二人で両手を合わせた。スク水美少女女神様への感謝を、深く深く捧げた。きっと、この人にもスク水女神教の加護が発生したに違いなかった。
「えっと、初めまして?」
「はい、初めまして。春風メブキさん」
初めましてで、私の名前を何故か知っている人だった。やっぱり前世でのお姉様? あ、前世はお兄ちゃんしかいないんだった。……もしかすると本当に、私のことが大好きになって妹として迎えに来た今世でのお姉様なの?*8
「お、お姉様?」
「えっと、貴方のお姉様ではありませんね」
困ったように笑う彼女は、私を妹として見てくれないみたい。おかしいね? エロゲーだったら、そうよメブキ、と顎クイされてオープニングが流れるところなのに*9。
「それなら、どうして私の名前を……」
ふと、古関先輩の言葉が過った。シスターフッドは後ろ暗い、近付くなと。
もしかして、私を妹に仕立て上げるために近付いてきたのかな。前髪も伸ばさせて、メカクレ妹にする欲を満たすために来たのか。戦慄が迫り来る中で、彼女は話を始めた。
「前から気になっていたのです。熱心に礼拝に参加してくださり、こうして義務でもない時に祈りに来てくださる。では、シスターフッドに興味があるのではないかと。それに……いえ、何でもありません」
違った、でも覚えもあった。確かに私は礼拝堂に来て、神様なんとかしてくださいと祈り倒していたから。そっかそっかと言う気持ちと、ちょっと気になる世界に連れて行かれなかった安堵から溜息を吐いた。えっちなものを見るのは好きだけど、えっちなことをされるのは経験なくて怖かったし。
ここで乱暴されて、"女の子同士でも両思いなら孕みますことよ、ワタクシの指技で到達なさい、アガペーッ!"……なんてされたら、頭がおかしくなってたと思う*10。
「そう、ですね。たくさんお祈りしてます。でも、もう図書委員会に所属していますから」
「それならば、仕方ありませんね」
幸いにも、直ぐにお姉様(仮称)は引いてくれた。怖い人なのかなって警戒してたけど、全然そんなことはなさそうでホッとする。でも、なんで私の名前知ってたんだろうね、不思議だね?
「あの、お名前聞いても良いですか?」
不思議なのはさておいて、私だけ一方的に名前を知られていると言うのは落ち着かない。というより、このままだとずっとこの人のことを、お姉様(仮称)と呼び続けなくてはいけなくなるから。気が付いたら、身も心も妹にされてそうで怖いので、早急にこの人の名前を知る必要があった。
「あぁ、名乗りもせずに失礼致しました。私は歌住サクラコ、シスターフッドで信仰に励む身です」
「あ、ありがとうございます。私は春風メブキ、図書委員会でライン工を勤めてます!」
「ライン工?」
あ、しまった、違った。確かに毎日、沢山の新着図書や寄贈本にバーコードや請求番号ラベルを貼り付ける仕事は流れ作業で、噂に聞くライン工みたいだなぁって思ってたけど。そんな事情知らない人が聞いたら、図書館は本の組み立てとかもしてるんだって思われちゃう。中には、図書館がえっち本工場だと思い込んで、裏取引を申し出てくる子も出てきちゃうかもしれない。
は、早く訂正しないと、図書館が有害図書の総本山として勘違いされて、いにしえのアンティオキア図書館みたいに灰燼にきしてしまう。せっかく正実からは守れたのに!
「違うんです、えっちな本なんて流通させてないから、図書館を燃やさないで……」
「え、えっちな本!? 燃やす!? い、一体何なことでしょうか」
「し、しませんか?」
「勘違いされているのかは分かりませんが、私たちはその様なことは致しません」
「異教徒燃やしません?*11」
「燃やしません!」
あまりに力強い言葉に安心して、肩の力が抜ける。そうだ、そこまで心配しなくても、そんなに悪い人たちではない。シスターフッドにはクラスメイトもいるけど、とっても親切だったし。怖がって、勝手に憶測で変なことを言いすぎてしまった。この前、シミコちゃん相手にもそんなことしちゃったのに。
「変なこと言って、ごめんなさい」
「いいえ。誤解を解いていただけた、それは分かり合えたということ。メブキさん、こちらを理解してくださりありがとうございます」
空気が弛緩して、穏やかになる。今この瞬間は、私たちは誤解なくやり取りできる空気感が漂ってる気もしてる。
「それから、ヤなこと言ってごめんなさい」
だから慌てずに、誤解したこととは別の部分のことを素直に謝れた。急に放火魔扱いしちゃったから。いきなり悪者扱いされるなんて、傷つくに決まってる。私も変な子って言われると、そんなことないもんって言い返すし。
「ふふ、メブキさんは話しやすい方ですね。誤りを認めることと、それを直ぐに改めること。簡単なことのようで、意外と難しいことなのです」
しみじみと言う歌住先輩の姿は、沢山の実感が込められていた。シスターフッドのお姉様として、これまでも沢山のそういったことに触れ合ってきたんだと思う。けど、そんな歌住先輩が疲れているように見えて。
「歌住先輩も、間違っちゃったりするんですか?」
相談に乗りたいな、と身を乗り出した。初めて会う人とお話しなんて苦手だけれど、それでもって思ったから。
だって、一緒にスク水美少女女神様にお祈りした仲だもん! 一緒にお祈りしてくれて嬉しかったから、歌住先輩の力になりたいよ。
「ええ、私も間違うことは多々あります。ですが、それは直ぐに悔い改めれば良いことです」
歌住先輩はそこで言葉を区切って、少し微笑んだ。他に何かないのかなと話してくれるのを待っても、沈黙が続くだけ。先輩も、初めて会ったばかりの私に話すことでもないと思ってるかもしれない。
でも、それはちょっと寂しいなって。私の時は、コハルちゃんもシミコちゃんも、どうしたのって聞いてくれたから。私も、誰かが困ってる時、どうしたのって言ってあげたいなって思ったから。
「歌住先輩。私が困ってた時、友達がどうしたのって聞いてくれたんです。だから先輩、困ってるふうに見えるから……その、ど、どうしたんですか?」
い、言えた! あの時、二人にしてもらった時みたいに!
心臓がバクバクする。もし嫌がられたらどうしようって、そんなことまで考えちゃう。
怖いよぉ、人に親切するってこんなにも不安になることなんだ。目を閉じちゃいそうで、でも歌住先輩から目を逸らすことも出来なくて。ハラハラしながら、先輩を見つめる。キョトンとしている先輩と目があって、見つめ合っている内にお目々がグルグルとしてきて*12。
「うにゃあ……」
「め、メブキさん?」
何かクラクラする。緊張が張り詰めすぎて、ぐにゃぐにゃな感じになっちゃったのかな。うぬぬ。
「ご、ごめんなさい。相談にのるぞぉって思ってたら、緊張してぐにゃってなっちゃって」
うー、これじゃあ相談どころか、逆に心配されちゃう。酷いグダグダすぎて、歌住先輩にも呆れられちゃってるかもしれない。そう思いながらチラッと彼女の方を見ると、呆れるよりも心配そうにしていた。本当に、ごめんなさいだね……。
「た、頼りにならなくて、ごめんなさい……」
「いいえ、その慈愛に心に感謝を。体調を崩されたのなら、保健室に向かわれますか?」
「ううん、だいじょーぶです。緊張し過ぎて、パンクしちゃっただけです、から。少し休ませてもらえれば、多分治ると思います!」
「そう、ですか。ではせめて、こちらの方へ来て下さい」
「? はい」
私は歌住先輩の元へフラフラと向かうと、先輩は礼拝堂にある長椅子に座って、ポンポンと自らの膝を叩かれていた。その姿勢はまさか、ひ、膝枕!? ほ、本当に? あの、エロゲーで主人公とヒロインがイチャイチャする時にするあれなの!? あ、しまった、興奮したら余計に気持ち悪くなってきちゃった……。
「せ、先輩。良いんですか?」
「硬いところで横たわるより、こちらの方が良いかと思いまして」
先輩の言葉に誘われるように、その膝へ沈み込む。ぽふっと頭を預けると、とっても温かくて居心地の良い場所がそこにはあった。気分が悪いのが、溶けてくみたいだよぉ。
「大丈夫ですか? 何かあるのなら伝えて下さい」
「ポカポカしてて、お日様みたいに温かい、です」
目を瞑って、先輩の暖かさに身を任せる。すっごく落ち着く、このまま寝ちゃいたいくらいだけど、そんなの先輩に悪すぎるから我慢しなくちゃだね。歌住先輩が優しくお手々で髪の毛を整えてくれるのも、凄く居心地が良くて。そのまま身を任せてほんわかしていると、歌住先輩がそのままで聞いて下さいと言って。
「私は、人に誤解されてしまうのです。立場がそうさせてしまうのか、それとも私の言動に問題があるのか。改善しようにも、上手くいかなくて……」
胸に秘めていた困りごとを、私に話してくれていた。それにウンウンと私は頷いて、じゃあどうしてだろうと原因を考えてみる。歌住先輩はとっても優しくて、私にもこうして丁寧にお話してくれてる。キチンと話せば、良い人だっていうのが分かる。なら……やっぱり、お顔と雰囲気?
「えっとね、歌住先輩はトリニティの中でもすっごく綺麗な人でね」
「き、綺麗? 一体どういう……」
「うんとね、だから、その、近くに来られると妹にされちゃうんじゃないかって、みんなそう感じちゃうんだって、思います*13」
「……待って下さい、私が誤解される理由についてのお話でしょうか?」
「? はい、そうですけど」
私と歌住先輩は同時に首を傾げた。あれ、もしかして話が噛み合ってないのかな?
「なぜ妹にされると?」
「歌住先輩が美人さんだから?」
女の子は年上の綺麗な女の子に話し掛けられると、”私、もしかして!?”と妹にされてしまう物語が始まってしまうのだ*14。更には、修道服まで纏っている歌住先輩に話し掛けられると、お耽美な百合ゲーへの扉は間違いなく開いちゃう。多くの百合エロゲーで見てきた展開、私には間違いないと断言できてしまう*15。
「ほ、本当にそんな理由なのでしょうか?」
「はい、間違いありません!」
「……そういった時、どうすれば良いのでしょうか?」
言い切った私の言葉に、歌住先輩も自分がお姉様気質なのだと遂に認めた。これで一歩解決へ前進だね! 私は畳み掛けるように、歌住先輩の取るべき行動を伝えていく。人の為になれることを出来てるのが、とっても嬉しいから!
「はい、お姉様になってしまいましょう!」
「は、え? ど、どういうことでしょう? 妹にされてしまうと思うから、怖がられているのでしょう? それなのに、姉になってしまうのは本末転倒のような……」
「違います、誰か一人の姉なんてスケールの話ではありません。シスターフッドの人たち全員妹にしちゃんうんです!」
テンションが上がりきって、私は遂に歌住先輩のお膝から起き上がった。感じていた暖かさが、ちょっと寂しい気持ちにさせられるけど、今はそれ以上の情熱を持って語る。歌住先輩ほどお姉様に向いている人はないなのだと!
……ちょっと、そんな光景を見てみたいって趣味も入ってたりするけど。
「そ、そんなこと、同級生だって居ますし」
「大丈夫です、歌住先輩は最強のお姉様になれる資質があります!*16」
「えぇ……」
それから、私はとても熱く歌住先輩、ううん、サクラコさんに語った。勇気づける為に、サクラコお姉様って何度も呼んで。きっと大丈夫、自分の才能を信じて、今までの誤解される自分とはバイバイしようと。お話は1時間以上に渡って、そして――。
「分かりました、やってみようと思います、お姉様を*17」
「はい! サクラコさんなら、何だって出来るはずです!」
吹っ切れた顔のサクラコさんに、私はキラキラした視線を送っていた。きっとこれから、サクラコさんは素敵なお姉様になって、色々な妹たちと素敵なことを沢山していくんだ! そんな百合色の未来を想像すると、楽しくて仕方がなかった。シスターフッドは隠し事が多いって古関先輩に聞いたけど、見えない部分が全部そういった感じだったら、とっても素敵だなって思っちゃうから。
「頑張りますね、メブキさん!」
「応援してます、サクラコさん!」
シスターフッドでない私には、サクラコさんのことをサクラコお姉様とは呼べない。それは寂しいけれど、サクラコさんなら必ず部員の子達を妹に出来ると確信して。いずれ、また聖堂出会いましょうと別れたのだった。
ちょっと心臓がバクバクドキドキしてる。だって良いことをして、素敵なことがこれから起こるって知っているから。
シスターフッドの隠し事。沢山あるかもしれないけど、私はその内一つだけ知ってる。姉と妹、そういう関係がある部活動なんだって!
後日、サクラコさんがお姉様~と、一年生の子に呼ばれてる場面を見かけた。何故か二人共お顔が真っ赤で、もしかして遂に物語が始まってしまったのか*18。
「さ、サクラコ様。やはりおかしいと思います! こんな……罪深いことです!」
「やはり……そうなのでしょうか」
「私、サクラコ様のことは尊敬しています。ですが、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうでっ」
「ど、どうしてこんなことに……」
遠くからであまり声は聞こえなかったけど、罪深いことですってセリフだけはちゃんと聞こえて。私はドキドキしつつ、足早にその場を去った。コハルちゃんとの約束で、もう悪いことはしちゃダメだったから。
今日、私は久しぶりに生徒同士のえっちな妄想をしちゃっていた。サクラコさんは甘々優しい系のお姉様で、あのケモミミ下級生の子は、サクラコさんが大好きな清楚な女の子。……間近に見ちゃったのもあって、悶えすぎてベッドから落ちて頭を強打して。
その後、夢の世界で待っていたイマジナリーお姉ちゃんに凄いお説教をされちゃった。他人に関係性を強要するのは、酷いことなんだよって。コハルちゃんが姉になって、お姉様ぶってきたら嫌だよねって言われると、確かにその通りだって思った。そっか、サクラコさんにお姉様の才能があっても、他の子に妹の才能があるかは別だもんね*19。
ごめんなさい、サクラコさん、シスターフッドの皆さん……。
翌朝、何故かシスターフッドに謝らないといけない義務感があったので、カレースープを詰めた魔法瓶を沢山用意して大聖堂へと出発した。多分、イマジナリーお姉ちゃんが何か言ってたんだと思う。
これの書き直しのせいで、執筆予定が大分狂いました。
歌住サクラコを許すなー!
……でも、代わりにマリーと対等の友だちになれたので、怪我の功名だったのかもしれません。