2050年7月16日横須賀某所横須賀海軍艦娘基地、通称"横須賀鎮守府"
気が付いた時、僕の目の前には船の模型があった。
周囲には何もなく、ただ部屋の真ん中にと一つだけまるでこの艦のためにある部屋の感じた。プラモデルにしては大き過ぎて、まるで人が"身に付ける"為にあるものだと思ってしまうほどだった。
「あ…れ…?」
なんで僕はこれを"身に付ける"モノなんだと思ってしまったんだ。そもそも艦は乗るものだろう?
いやと言うよりもなんで僕はこんなとこにいるんだ?
教員採用試験の帰りだったはずじゃなかったか?
自問自答の中で自分の頭が混乱していた。なぜ、この艦の模型の用途を勘違いしてしまったのか。そして、どこかで感じたことのある温もりをこの無機質な模型に感じとってしまったことがさらに僕の頭を混乱させた。
「あれ?なんで涙なんか…」
不意に頬を伝ってきた涙に僕は驚気を隠せなかった。
マダダメダ
オモイダシチャダメダ
キヲクニフタヲ
ヤミニハメヲソムケロ
『ア……ニ…ダツ…………アラ……トヲ…』
記憶の中から溢れ出してきた懐かしさと恐怖、僕はコレを知っている?
いやコレを知っているワケじゃない。
じゃあ何を?
繰り返される答えのない自問自答を繰り返してきた時、不意に背後のドアが力強く開け放たれた。
「深海棲艦め!艤装を破壊はさせんぞ!
この連合艦隊旗艦の長門が相手を仕る!」
開け放たれた扉の先には巨大な姿をした女性が仁王立ちしていた。
正確には巨大なのは彼女の周囲を守るように取り囲んでいる砲塔のようなものたちであったが、彼女自身も相当な長身であったためそれこそ放っている殺気も相まって仁王のような威圧感を感じた。
「ぎ…そう……?」
それがこの艦の模型のようなモノなんだということはわかった。
ただ疑問も残った。
僕がコレを壊す?
どうして?
「あの…ぼくはただここに迷い込んでしまっただけでコレを壊すつもりなんてないんです」
「そのような言い訳は聞かん!」
なんだか誤解されているようだから一応の反論を試みたが聞く耳を持ってもらえなかった。
彼女…長門さんは不敵に笑って言葉を続けた。
「どのようにしてここまで姿を隠して忍び込んだかは知らぬが詰めが甘かったようだな。最後の最後で反応を漏らすとはな!」
覚悟!と彼女は一足飛びでぼくの元へと距離を詰め、拳を握りしめて振りかぶってきた。
「ちょ…っ、いきなり何するんですか!
落ち着きましょうよ!
僕は一般人です!深海棲艦みたいなバケモノじゃありませんって!」
間一髪で避けられたが彼女の追撃は止まない。
未だに僕のことを深海棲艦と勘違いしているらしい。
「敵の言い訳など聞かぬ!
問答無用ぉ!」
完全に僕の言葉は耳に届いていない。
確実にあの身のこなしからして確実に僕よりも腕っ節は強い事は確信できる。彼女の一撃一撃が大振りのおかげでなんとか避けられているものだと、逃げ回っているうちに気づいたときには僕は壁の隅に追い詰められていた。
長門さんは獲物を追い詰めてあとは首に噛み付くだけといった様子で少しずつ距離を詰めてくる。
「よく今までの攻撃を避けたが残念だったな深海棲艦の男、最期だ言い残すことは無いか?」
「そうだな…こんな美人さんに看取ってもらえるってだけで悪く無いけど弁明として一つだけ、一応コレでも立派な人間だから。」
『あ…死んだな…』と心の中で思いつつ人間としての尊厳も捨てきれないのでささやかな抵抗をする。
「び…美人だとこの減らず口がぁ!」
死ねぇ!と大きく振り上げて顔面めがけてのストレートが飛んでくる。
やべ…本当にこれでおしまいか…
そう思い強く目を閉じた。
拳がいつまで経っても自分に届いてこない。
これはアレか、今際の際では一秒が永遠に感じるというアレか。
などと思いながらも一向に拳は届かない。
おかしいな、まさか痛みも感じずに死んだのか?
「じゃあもうここ天国か…」
「そうではありません、そもそもまだ貴方は死んでなんかいませんよ?」
さっきの長門さんとは別の女性の声が聞こえた。
「へ?」と目を開けるとそこには拳があった。
「あぁ、すみません。この子を止めるのにこちらも必死でしたので。どうやら本当に人間のようですね。」
ゆっくりと横に避けつつ、その拳を止めた主をみやるとそこには長門さんよりやや長身が低めの女性がいた。
てか、そもそもあの長門さんの外目からでも分かる馬鹿力を止めるってこの人どんだけ…。
「た…助かったぁ…」
緊張の糸が切れたからか僕はそのまま崩れ落ち、意識も途切れていった。
「あぁ、気絶してしまいましたね
一応一般人の方のようですがここに立ち入ってしまった以上は困りましたね。
万一他国のスパイということもありえない話では無いですから縛っておきましょうか」
途切れる意識の中であの長身女性から物騒な言葉が聞こえてきた。
第2話でした
そして年内最後の投稿です。
読んでいただいた皆さんが少しでも楽しんで頂けると嬉しいです。
それでは良いお年を。