第三話
木造の保健室のようなところで目覚めた。
そして僕はベッドの上で縛り付けられていた。
「なん…で、ここは…」
必死にこれまでの記憶をたどっていく。
確か、教員採用試験を受けて電車の待ち時間に鎮守府の中を見回っていたはずだ。
そして…小さな小人のようなのを見つけて追いかけていたら船のようなものを見つけた。
そして、女の子に襲われて、別の女性が部屋に来て助けてくれたから安心して気絶したんだった。
でもどうして縛られているんだ?
混乱する僕、動けない体、なぜだか珍妙すぎる状況に頭がついていかない。
そのとき助け舟のように扉越しから声がした。
「目が覚められたようですね、神原春臣君」
扉の方に頭だけ動かすとそこには軍服の女性が二人立っていた。
少し茶髪がかったセミロングの癖っ毛で温和そうな顔立ちの女性と墨汁の川のような長い黒髪を一つに束ねた凛々しい顔立ちの二人組で雰囲気からなんとなく海軍でもそこそこ上の役職の人物だと察した。
「君には深海棲艦、及び他国スパイの容疑がかけられていますので念のため縛らせていただきました。あと、君が寝ている間に少々検査をさせていただきました。」
茶髪の女性はスラスラと僕の罪状(全く身に覚えがないが)を述べていった。
「あの…えっと、僕が深海棲艦でスパイですか?海軍の人」
なんだか訳のわからないことになっていか?
すごく嫌な事に巻き込まれてしまった。正直早く解放されたいという一心で僕は弁明をした。
「いやいやいやいや、僕はこれでも善良な一般市民ですよ。生まれも育ちも日本ですし、ちゃんと人から生まれた人間ですよ。」
必死の弁明もどこ吹く風といった表情で茶髪の女性は言葉を紡いだ。
「ええまぁ、君がスパイではなく、ヒトである事の確認はとれています、ここの教員採用試験を受けた帰りだという事も分かっていますよ。」
僕の弁明の必死さがおかしかったの茶髪の女性は楽しそうに破顔した。
あ、この人笑うと可愛いな。
思わず女性の笑顔に見惚れて、和んでいると静観を決めていた黒髪の女性が口を開いた。
「しかし、あの場所に入ってしまったのは頂けない。立入禁止の看板を掛けていたはずだが見えなかったのか?」
厳しく詰問するような風で黒髪の女性は僕に問いかける。
その目は逃さないぞと如実に語っていた。
「それは…その…」
流石に口籠ってしまう。小人が見えたなんてこんな突拍子もないことを言って信じてもらえるのか。いや艦娘なんて突拍子も無いのがいるんだ小人くらい居てもおかしく…ないよね…。
色々どうしようもなくて戸惑っていると、女性はさらに力強く問いかけてきた。
「どうした!
答えるならはっきり答えんか!」
あまりの強制力に圧されて僕も慌てて答えた。
「あの、信じてもらえるか分かりませんが小人が見えて追いかけて行ったらあの部屋の前でそこからは吸い込まれるように…」
その後はもうよく分かりません。と尻すぼみになりながらことの経緯を話した。
きっと頭おかしい奴だと思われているだろうなと思いながらも二人の表情を見てみると不審と言うよりも驚愕していた。
「な、貴様妖精が見えるのか!」
掴みかかってこられても縛られている僕になす術などなく衝撃に喘ぐことしかできなかった。
「あの、長門さん彼、今にも死にそうですよ。妖精が見えて艤装に導かれたという事はきっと何か私達と縁があるのでしょう。」
茶髪の女性が黒髪の女性…長門さんをなだめすかしてくれたおかげで、長門さんは僕を解放してくれた。…長門さん?
「あの、俺を襲ったあの長門さんは貴女の妹か何かですか?」
確かに言われてみればなんとなく雰囲気も似てる、馬鹿力なとことか。
「妹…か。むしろ娘のようなものだな」
少しの哀愁と愛情を含んだような顔をして長門さんは呟いた。
そんな長門さんの感傷を他所に大事なことを思い出したとばかりに茶髪の女性が割って入ってきた。
「そう言えばまだ私たちは名乗っていませんでしたね。私は日本国海軍少将樋代瑛奈今は訳あってこの横須賀に来ているけど佐世保鎮守府の責任者でそこで提督をしています。そしてこちらの方が」
「日本国海軍艦娘総司令の長門だ、貴様を襲ったあの"長門"のベースになったものだと思ってくれればいい」
少将に総司令…なんだか凄いのに囲まれているんだと改めてこの場に僕がいる事の違和感が顕著になってしまった。
「縛り上げておいて名乗りもせず、まして緊急事態だったとはいえうちの"長門"が失礼しました。真っ直ぐでいい子なんですけど…」
と後半は顔を赤らめてうつむいてしまった。
やっぱりこの人可愛いな、年下っぽいな。とか考えながら樋代さんを見ていた。
「話が脱線してしまいましたね、あなたが見たという小人は私たちの中では妖精と言って艦娘たちの装備の管理や整備の全般を担ってくれています。私たちも視認できていますが、一般人で見えるのはごく稀なんです。」
と樋代少将が言った言葉の後に付け加えるように長門総司令が
「そのような人物は大抵艤装の技師や司令といった私たちと共に戦うだけの力を持った人間が多いがな」
と言った。
「だから教師の身でありながら見えるなんてほんと不思議なんです。
艤装に導かれていた事からして、もしかしたらあなたも艦娘の素質があるのかもしれませんね。」
ありえない話ですが、と語尾につけて彼女は苦笑した。
「まぁ艦娘は男がなることが出来ないから"艦娘"ですからね。
歴史的にも男の艦娘を作る計画があったとか無かったとかって話がありますけど、成功していれば"艦娘"と呼ばれていませんでしょうからね。」
そう艦娘は"少女"たちがなれるから艦娘と呼ばれている。艦娘が出てきた当時はかなりの倫理問題になっていたらしい、年端もいかない少女たちを危険のある戦場に駆り出していくことは相当良くないことだと言われていた。いや、現代においてもそれは問題視されているし、教師としての僕の考えでも艦娘は許容しきれない。
しかし、現状としては艦娘以外が深海棲艦に太刀打ちできる術は無い。
だからこそ、僕はその子どもたちが血生臭い戦場だけでなくしっかりとした日常を過ごしていけるようにと思って僕はここに教員として志願した。
女所帯でなんかいいこと無いかなと言うささやかな下心を込めて…。
樋代少将はそんな僕の心の内を知ってかしらずか、言葉を紡いだ。
「あなたは面接では艦娘を許容ができないと。だからこそあなたはここで教師をして子どもに日常の重みを感じて欲しいと仰っていたそうですね。」
一呼吸間をおいて樋代少将は言葉を続ける、まるで僕を試すかのように。
「そんなのは私たちも日頃から感じています。あの子たちは常に日常として戦場に身を預ける身なんです。兵器として死と隣り合わせの日常。その中であなたたちが教師としてヒトとしての日常を与えるということが…どれほどの物なのか覚悟できていますか?」
面接の時の面接官の迫力以上の圧迫感を持って樋代少将は僕に問いかけた。
この質問からは逃げられない、いや僕が子どもを育む人間としての道を志したときから逃げてはいけないことだ。だから僕は。
「僕…は…」
そのとき、僕の言葉を遮るようにサイレンがけたたましく鳴り響いた。
新年初投稿です。
あけましておめでとうございます
更新が大変遅くなりました。
少しずつですがまた頑張っていこうと思うので辛抱強く読んでいって頂けると幸いです
今年も一年よろしくお願いします。