新訳 機動戦士Oガンダム   作:なかのあずま

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またしても長い時間がかかってしまいましたが何とか書き終えました。
最初は何も書くことが無いなと思っていたのですが不思議なもので書いているうちにあれも書かなきゃこれも書かなきゃと書いているうちに結構な量になってしまいました。笑

終盤がとても駆け足になっておりますがご了承ください。笑


第10話 黄昏の渦~Twilight tourbillon~

ニュータイプ―――――

 類人猿からの急激な進化を経た人間の、宇宙への環境適応能力が生み出した次なる段階の萌芽である。

 常人よりはるかに高い空間認識能力と超感覚的知覚を持ち合わせた次世代型の人間と言えばわかりやすいだろう。

 ここでいう超感覚的知覚は超能力よりも第六感の事と思っていただいてもかまわないのだが、世間では千里眼のようなエスパーとして捉えられていたりもする。

 人類が棄民をきっかけに宇宙へ進出してから早半世紀以上の刻が経ち、そう呼ばれる人々が現れていた。

 しかしそれは時としてオールドタイプと呼ばれる者たちの、まだ目覚めていない者たちの餌食になってしまう。ニュータイプの数が圧倒的に少ない故に、彼らは強制的に戦場に駆り出されることすらあるのだ。

 さて、ここで一つ問題

ニュータイプが戦争の道具にされないためにはどうすれば済むだろう?

 答えはいたって簡単。

限られた同種をかき集め、目覚めていない者たちは覚醒させる。つまり数を増やせばよいのだ。

 あるいは、力を手に入れる。

力とは立場であり、権力である。

 しかしその力を手に入れるにはとても険しい荊の道を歩むことになる。たとえ人より感覚が優れていたところで、力が無ければ道具で終わってしまうのだ。

 ところが時折その道を歩む靴が手に入る事がある。その靴は自分で探し出すか、偶然にも見つけるか

 さて、この物語の登場人物にはそんな者が2人いる。一人はタロ・アサティ、

そして―――――

 

 エスタンジア――――――かつて第二次大戦以降、ナチスの残党が逃げ延びた幻の地としてまことしやかに囁かれていた。

 その名は今、反地球連邦と反ネオ・ジオンの連合義勇軍の名として水面下で根を伸ばしている。

 その徒党を束ねるのは齢十一歳のアドルフ・ドゥカヴニー。

 彼はなにも急にこの地位に就いたわけではない。かつてニュータイプ研究所に被検体として身を置いていた彼への、一つの実験が事の始まりだった。

 ニュータイプ実験開発にサイコミュ搭載モビルアーマーなどが主流になっている中で、(サイコミュとはニュータイプの発する特殊な脳波を利用した機体制御システムである)

 彼のいた研究所ではモビルスーツなどの白兵戦闘空域におけるサイコミュシステム搭載新型戦艦の開発計画が秘密裏に進められていた。

 それに伴うニュータイプによる指揮系統の形成データ採集のためにアドルフにエンドラ級巡洋艦バレンドラが与えられたのだ。

 アドルフは、研究員という大人のいうことを静かに聴いている内に次第にこのような思いが芽生えた。

 『なんでこいつらに利用されてるんだ?』

 そして、自身の担当研究員が地球圏を離れたのをいいことに彼は、与えられた巡洋艦で海賊宙域への逃走を図り、今に至った。

 ひとえにニュータイプと言っても所詮は子供、ある程度の精神的年季が無ければ力も発揮することはない。彼がもう少し歳を経ていたらもっと狡猾なやり方ができただろう。

 

 一方、もう一人の靴を与えられた少年、タロ・アサティの中では緩やかな葛藤がおきていた。

地球降下作戦時「戦争が無けりゃ平和なのか」とニロンは訊いた。

 確かに戦争で流されたコロニーに戦争はなかった。しかしコロニーで過ごした日々は平和だっただろうか?

 記憶の底に微かに残る戦争以前の、父と母がいた、まだ家族で暮らしていた頃の方が心に安らぎがあった。

 戦争さえなければと何度思ったことだろう。

 家族を引き裂かれ、ファナと二人で何とか生き延びる道を探し、タロは誰に頼ることも甘えることも出来なかった。コロニーの乾いた大地は、心をやせさせていった。

 

 いつからか、ファナを守るという思いが心のよりどころになっていた。

 そんな中、突如として垂らされた赤い蜘蛛の糸は、彼をいつの間にかこんなところにまで引き込んでいた。

 戦争が終われば本当にあの頃に戻れるんだろうか

 父さんも母さんも、もういないのに

 なんで俺はここにいるんだろう

 戦争を終わらせるため?戦争が終わってからは?

 あのコロニーからファナを連れてどこへ行けば・・・

地球降下作戦以来、そんな漠然とした思いがタロの中で湧き上がっていた。

 「聞いているのか?タロ・アサティ」

 「えっ?あ、あぁ」

エスタンジアを率いる少年、アドルフ・ドゥカヴニーの声でタロは我に返った。

 「次の作戦は君のアウターガンダムにかかっているんだよ」

 「わかってる。で、ダカール制圧は?」

 「え?」

 「あ、いや…魂を引かれた奴らがダカールにいたから・・・あいつらが戦争を引き起こしてんじゃないかってさ」

 「・・・・・そのために戦力を補充するのが今回の作戦だ。

 ただでさえ少ない戦力を君に半分も削られたんだ、その分きっちり働いてもらう」

その靴を手に入れたとしても最後まで履き潰さずに歩けるとは限らない。

 

 宇宙世紀0088、ジオン残党勢力アクシズがネオ・ジオンとして蜂起し、後に第一次ネオ・ジオン抗争と呼ばれる歴史の傍らで、記録に残らない小さな戦争があった。

 

                    ≠

 

「あーもう!どこよ総統室は!!」

 ゼーレーヴェ隊がアリエスに着いて数日、ネオ・ジオン総帥であるシャア・アズナブルからの呼び出しがあった。

 人が出払っているのか、案内人すら確保できていない彼ら、主に艦長であるキューベルはシャアを探し当てるのに躍起になっていた。

 「だいたい赤い彗星をとうとうこの目で拝めるって時になによ身体検査って!失礼だと思わないのかしら勝手に人を病人扱いして!」

 「そりゃこんなへんぴな場所で変な病気が流行ったら困るからじゃないですかねぇ」

 「うるさい!」

迫水はこういう時になだめ役のつもりなのだがご覧のとおり火に油を注いでしまう。

 「そういえばシャアって少し前にダカールで演説してたよな?」

 迫水は特にリアクションもせずに話題を変えた。エヴァが「それ見たぁ~」とのんきに返すのをよそに

 「あぁ、その時は名前を変えてエゥーゴにいたらしいが」東條が応えた。

 「そんで次はネオ・ジオンの総帥かぁ・・・お忙しい人だ」

 「あ、ここじゃないすか?」ギュンターが指さした先には、総統室と書かれた扉があった。

 キューベルはゴクリと生唾を飲み込み「ゼーレーヴェ隊隊長キューベル・ポルシエ以下4名、総帥にごあいさつに伺いました!」「艦長じゃないの?」

「入りたまえ」

扉の向こうからテレビやラジオで聞いた声に胸を押さえ、ゆっくりと扉を開けた。

 部屋には総統執務室よろしくソファーと木彫りのテーブルが両脇に置かれ、ソファーにはその声からは似ても似つかないあどけない少女が座っていた。

「みっ、ミネバ様・・・・?!」

 予想外の人物に一同が呆然としていると「そこで固まられるのは困るな」奥の総統机に、声の主であるシャアの姿があった。

 「え、えと…あの・・・」憧れの赤い彗星よりも近くの距離にいる王女を目前に、キューベルの思考回路は停止していた。

 「座りたまえ、君たちの話も聞きたい」

 その言葉に従い、ゼーレーヴェ一行はちょこんと座っているミネバの向かい側のソファーにドカッと座った。「ちょっ、何も全員こっちに座ることないじゃない!」

 彼らが一先ず落ち着いたのを見計らうと

 「さて・・・君たちがここまで来た訳を聞かせてくれないか?」シャアの猫撫で声が静かに響き渡った。

                    ≠

「あれ?」

 パトリシアが身体検査を終えるとキューベルたちではなく、オペレーターのアルマと数名のメカニックがいた。

 「あ、あの」ファナがアルマに尋ねた。「あ!ファナさんとプルさん!」

 「キューベルさんたちは・・・?」

 「艦長なら総帥からお呼びがかかってましたよ?てっきり一緒に行かれたのかと」

 「総帥・・・?」

「えぇ!私も初めて知ったんですけど総帥ってあの赤い彗星のシャアなんですよ!」

                    ≠

 「ほう、ヴィルヘルムが?」

 キューベルはニュータイプの被検体の護送任務により紆余曲折しながらアリエスへ辿り着いた経緯を話していた。

 「えぇ、私たちは彼から指令を受けてここまで来たんです」

 「そうか・・・」シャアはチラリとミネバを見て声を落とし「実をいうと私がここに来たのもほんの数週間前でな、彼らの素性が少しでも知りたい」

 「で、では、その2人の情報収集のために私たちを・・・?」

 「それもあるが…それよりも気にかかるのは先ほど言っていた2人だ」

 「リモーネ・パトリシア・プルッカとファナ・コ・アサティですか?」

 「そうだ。彼女たちをヴィルヘルムに近づけない方がいい」

 「えっ?それってどういう・・・」

 「君たちも知っている様にヴィルヘルムはニュータイプ研究所の」シャアが言葉を言い終わらないうちに、ドンッと重く鈍い打音が室内を巡った。

 「・・・誰かいるんですか?」

 「あぁ、私の秘書だ。今は少し気が立っていて・・・」シャアに突然黙り、眉間に皺をよせ顎に指を当てた。

 「あの~・・・・」

 訝しげな視線が突き刺さる中で

 「いや、やはり彼にも加わってもらおう」おもむろに部屋の左奥へと歩いていき戸を開けた。

 そこに現れた人物にキューベルらは目を疑った。

「ハマーン・・・さま・・・?」

 「カーン・ジュニア、ハマーンの弟ということになっている。ここから先の話には君にも参加してもらう、いいな?」

ハマーン・カーンと瓜二つの顔がこくりと頷いた。

「えっ?!お・・・弟?!!」

 キューベルとギュンターは口々に騒ぎ迫水とエヴァは呆気にとられ東條は信じられないといった表情で三白眼になりかけていた。

 何も言わずにこちらを睨む彼を前にキューベル達の声は小さくなっていった。そして一同が静かになると、カーン・ジュニアが初めて口を開いた。

 「私がヴィルヘルムについて話す」

 

                    ≠

 

 サイド3、月の裏側に位置し地球から最も遠いコロニー群である。その中の一つに、かつて一年戦争時代にニュータイプの研究機関として名を馳せたフラナガン機関の流れをくむニュータイプ研究所が密かにあった。

 エスタンジアは小型輸送艦に白兵部隊とアウター・ガンダムを乗せて、狭いドックへ入港していた。

 

 「これよりサイコミュ搭載新型艦の奪取を始める。第一段階で遂行に支障が出た場合、先行した五番隊がガスを散布し四番隊が後に続く・・・作戦開始」

 ≪こちらカルヴィン、五番隊、行きます≫

 

 「ミゲル所長代理、アクシズからの定期輸送便が入港しました」

 「・・・いつもより早いわね」

 現在、研究所の所長代理をナナイ・ミゲルという女が勤めていた。彼女は今朝起きてからというもの、ざらついた感覚が頭から離れなかった。俗にいう女の勘、とも違うものだった。

 「あの子が帰って来たわ、警護体制を強化して」

 

「こちらが今回の分です」

「あれ?いつもより早いですね」

「えぇ、ちょっと立て込んでましてね」

 カルヴィン率いる五番隊が作業員に成りすまして研究所職員と手続きを行っている中、輸送艦の中でフランチェスカ率いる四番隊が完全武装でスタンバっていた。

「では、物資搬入しますので後はお任せください」

五番隊のブレアが突入の合図を送ろうとしたその時、

 「いえ、その必要はありません」

 「え?」

 「それよりも」職員は懐から銃を突きつけ「あなた方を調べてもよろしいですか?」

いつの間にか輸送艦はドックの4方から警護隊に囲まれていた。

 「くそっ・・・散布開始!!」

隊長のカルヴィンの合図により、狭いドック内が白煙に満ちた。

 

 「あのコロニーの時もこうやってたんだな」

 「そうだよ、今回は血を流さずに済ませたいね」

タロ、そしてアドルフがアウターのコックピットで出撃を控えていた。

 「なぁ」

 「なに」

 「いや、別に・・・」

アドルフはなぜこんなところにいるのだろう?タロはそう思っていた。「・・・・・・」

 「すぐ探ろうとするその癖、やめた方がいいよ」

 「あ、あぁ…」

 「ま、一応言っとくと」アドルフは振り返り「“ここ”にいたからだよ、君にはわからないだろうけどね」

 その時、五番隊隊長カルヴィンから通信が入った。≪少佐…勘付かれてしまいました・・・直ち、に・・・四番、隊をっ・・・・≫

 「仕方ない・・・こうなったら強行突破だ、アウター出すよ」

 「ま、待てよ…今アウターを動かしたら・・・!」

 「大丈夫だよ。彼らは生身でガスを使えるんだから」その言葉が意味するところに、タロの中に晴らしどころのない感情が渦巻いた。

満ちた白煙の中に、18メートルの巨人の影が立ち上がった。

 

 「ミゲル所長代理!ドック内にガスが撒かれ警護隊は撤退、さらに貨物艦からモビルスーツが現れたそうです!」ナナイ・ミゲルのもとに報告が入った。

 「モビルスーツ?」

 「えぇ、こちらがその画像です。ガスでよく見えませんが」

 渡された端末には撤退間際にとられたドックの様子が映っていた。

 「帰ってきたのはあの子だけじゃなかったみたいね・・・・・できるだけ時間を稼ぐように伝えて」彼女は唇を軽く噛んだ。「この事を所長に報告しないと」

 

                    ≠

 

 アリエスの総統執務室でキューベル達の頭は、カーン・ジュニアの話が進むにつれ重くなっていた。

「そして、奴は務めていたオーガスタ研究所から自身の研究資料と共に突如行方をくらました。

 新たな偽名でフラナガン機関の流れをくむジオンのニュータイプ研究所で、自身の研究を続けた。そうしているうちに・・・奴は悪魔のような閃きが・・・!」

彼はこみ上げてくる吐き気をこらえるように事の始まりを語った。

 「強化人間の記憶操作とクローンの技術を用いれば・・・他人の記憶を植え付けることができるんじゃないか」

 その刹那、キューベルの中で今まで不明瞭だった言葉が鮮明になった。

 「それが・・・メモリー、クローン・・・・・・」ただ唖然と、愕然と、茫然としていた。「なんで、そんなこと・・・・」

 「・・・君たちは、アドルフ・ヒットラーと言う人物を知っているかな?」カーン・ジュニアの代わりにシャアが口を開いた。

「確か中世期の独裁者でしたね」東條だ。

 「そうだ。彼が率いたナチスは第二次世界大戦を起こし、ヒトラーの死をもって敗戦。

その後解体され、戦後しばらくはその残党が世界各地に逃げ延びていたそうだ」

「なんていうか・・・ジオンみたいだな」ギュンターがぽつりと言った。

 「あぁ、歴史は繰り返すとはよく言ったものだ。そのナチス残党にはある一つの計画があった」

 「・・・・・・・・」

 「アドルフ・ヒトラー蘇生計画」シャアのあまりにも突拍子もない発言にキューベルはフッと力が抜けた。

 「あの…今はそんな話をしているんじゃ・・・」こんな時に何を言っているのかと少し馬鹿にされたような気分でもあった。

 「もちろんこれは冗談さ。しかし」シャアはカーン・ジュニアをほんのわずかに一瞥した。

 「彼らの行った非人道的な人体実験が医学を飛躍的に発展させ、軍事技術がコンピューターや宇宙開発の元を築いた科学力を考えればあり得ない話ではない。それに、既にナチスの登場以前から遺体を冷凍保存する技術はあったそうだ」

 キューベルが「えっ」と小さく息を吸った。「で、でもそれがどうメモリークローンに」

 「わからないか?」

 語り部は再びカーン・ジュニアへ移った。

 「指導者を生き返らせれば軍隊を動かす脳として、群衆を扇動するプロパガンダとして利用できる」

 徐々に混沌と怒りが露わになってゆく彼の姿にキューベルの胸はざわついた。

 「強化人間とクローンの技術があれば人工授精も必要ない・・・・脳と身体をいじれば生きてようが死んでようが限りなく本人に近い複製人間を造ることだって出来てしまうんだ!!」

「・・・・ちょ、ちょっと待って、じゃあ…あなた、やっぱり・・・!」

 「あぁ…そうだ」カーン・ジュニアはこくりと頷いた。「私はその実験体だ」

 

「そんな…そんなことって・・・・」

 

                    ≠

 

「次のブロックを左」

 タロはアドルフにされるがままにアウターを手足としていた。

「そしてまっすぐ、その先にあるはずだ」彼の言うとおりに進んでいると、目的地までのブロックのハッチが次々と閉まり始めていた。

 「いそげ!」いちいち防壁を溶解する時間はもうなかった。

 バーニアを限界までふかした。ブロックが次々と隔離されていく中、ついに最後のブロックに達した。しかし既に、奥から漏れる光はわずかになっていた。

 「さすがにもう無理か・・・こうなったら!」アウターの左腕に取り付けられたシールドを外し右手に持ち替え、ぶん投げた。

 シールドは矢のように飛んでいき防壁の隙間に突き刺さる。しかし、それでもアウターが通るには光が足りなかった。

 「ここまで来て下がれるかよぉっ!」アウターが衝突する直前、どういうわけか隙間が開いた。

 「よし!行ける!」

 「いけない!罠だ!!」

 アドルフの警告がタロに届いた時には、既にアウターは敵の術中にはまっていた。

 奪取目標物であるサイコミュ搭載新型艦があるはずのドックにはドムの最終形態であるドライセンが3機、モビルスーツ用宇宙移動砲台スキウレとガトルが4台づつ、そして海ヘビとビーム・バズを装備した高出力のドラッツェ2機が待ち構えていた。

 踵を返そうとすると、シールドの抵抗もむなしく、防壁は完全に閉まっていた。

「やられた・・・・」アドルフが茫然自失していると

 グヴォォン

モノアイが一斉に点灯した。

 

                    ≠

 

 キューベルだけでなくギュンターも、迫水も、さらにはエヴァまでもが言葉を失っている中で

 「一つよろしいですか?」一人冷静な東條が口を開いた。「まさかとは思いますがそちらにいらっしゃるミネバ様は・・・」

 「ん?あぁ、この方は御本人だ。私がお呼びした」

 「では、ネオ・ジオンの本拠地をこちらに移す、と言うことでしょうか?」

 「彼女はもうジオンとは関係ないので気にしないでいただきたい。それに、ここはジオン再興のための一時的な施設にすぎない」

 「・・・・では、いずれまた地球圏へ?」

 「あぁ、今はハマーンがよくやってくれている」

 シャアの青い瞳が深くなった。そして、それを視たのはザビ家の忘れ形見であるミネバのみであった。

 

 総統執務室からゼーレーヴェ一行が去り、静かになった。

 「シャア、いつまで奴を野放しにしておくんだ。彼らにあいつを殺させることだってできるだろう」

 「人には適材適所というものがあるからな。それに、ヴィルヘルムが死んだところで何が変わるというわけでもあるまい」

 「あなたは・・・いつになったら仮面を外すんだ・・・・」

シャアは少しの沈黙の後「タロ・アサティという少年を覚えているか?」と聞いた。

「・・・当たり前だ」

 「彼のような若者が新しい時代をつくらなくてはな」

 

 

「木星圏の様子はどうなっている」

 シャア・アズナブルがネオ・ジオン総統に就任し、アリエス拠点長であるヒトーリンは水面下で蠢いていた。

 「えぇ、やはり例の“遺跡”と見て間違いありません。」

 「そうかぁ」ぐひひと下卑笑い「これで我の神聖ジオン帝国が現実のものに・・・」

 独り言をいう醜い後ろ姿をヴィルヘルムは冷めた目で、というより何も感情のない眼で眺めていた。

 「ゼーレーヴェ隊の機体性能向上案が出ておりますがいかがいたしますか?」

 「あぁ?やっておけ」

 「わかりました。」

 「おぉそうだ」ヒトーリンは何かを思い出し獣人のような図体の割には素早い動きでヴィルヘルムに振り向いた。「なぜミネバ様がこられたのだ?」

 「総帥のご意思によるものなので私にはわかりかねます。」

 「ふむぅ・・・・今はどちらにいる?」

 「ミネバ様なら今は総統室にいらっしゃるかと。」

 「そうかぁ・・・よし、木星へ立つ準備をしろ」

 ヒトーリンの脳内でろくでもない歯車が回り始めているのをよそに、ヴィルヘルムの持つ端末には一通の知らせが届いていた。

 

                    ≠

 

 アウターは降りそそぐ鋼弾、光弾を躱し続けるも、開発用ドックという閉ざされた空間では限界があった。

 コックピットに2人いるせいか、うまく動かせないことも原因の一つだった。ガトルの四方包囲射撃に翻弄されていると

「ぐぅあっ!」

背面からジャイアント・バズ改の弾が背面に直撃した。そこを見計らったようにスキウレの大型ビームがコックピットに迫るのを全天周モニターが映していた。

「くそぉっ!」

両脇にはドラッツェのビームサーベルが待ち構えていた。

「上だ!しまっ・・・」

 高度少ない天井へ逃げると一機のドライセンがアウターへ鉄槌を振り下ろした。

アウターが真っ逆さまに堕ちていくその先に、別のドライセンがヒートサーベルを振りかざしていた。タロはビームサーベルを握った。

 ピカッ

スキウレのザクから放たれた閃光弾がまばゆい光を放った。

「めくらましなんてぇっ!!」

 スラスターをわずかに吹かして機体をずらし、アウターはそのままサーベルでドライセンを貫いた。

 ≪そこまでにしなさい、アドルフ≫女の声と共に、攻撃が止んだ。≪あなたが欲しかったおもちゃをあげるわ≫

 

 ≪なんだって?≫

 「好きに使うといいわ、持っていきなさい」

 「い、いいんですか?」

ナナイ・ミゲルはマイクのスイッチを一時的に切った。

 「ワインスタイン所長から新型戦艦を譲渡するよう示達があったのよ。戦艦の形をしているだけで戦艦としての機能は期待できないわ。それに、すでにお払い箱みたいだし」

 サイコミュ搭載新型戦艦開発計画は開発途中から分岐し、より戦闘に特化したモビルアーマー、ゾディ・アックがすでに開発されていた。

 それでも、一度開発した兵器はなんとしてもニュータイプ開発に一役買わせる研究所の意地があった。ナナイは再び外部スピーカーと各機に繋ぐマイクの電源を入れた。

「すぐに出すわ、外に出ていなさい」

 

 タロはアウターをコロニー外へと走らせていた。アドルフは状況が終了したことを知らせていた。

 「四番隊各位、五番隊を回収して撤収。どうしたの?」背後で操縦桿を握るタロが震えていた。

 「さっきから頭の中で呻き声がしてるんだ・・・魂が溶ける音を聴いてからずーっとだ・・・ずっと」その音を聴いたのはアウターがドライセンにビームサーベルを突き刺した時だった。

「いいんだよ、望んだことなんだから」そういうアドルフの声も、僅かに震えていた。

 

 コロニー外へ抜けると別の港のハッチが開き、グワンバンを基に設計された艦体の船尾から船首にかけて400メートルを超える流線型のフォルムがズズズズズズと姿を現した。

 宇宙の闇に浮かぶ漆黒の姿は、暗黒星雲を思わせた。

 ≪アウターと直結することで性能を十分に引き出せるわ≫という言葉を残し、ナナイは通信を切った。

 「だから取りにきたんだよ」

 

                    ≠

 

 ゼーレーヴェ隊のモビルスーツはどれも試作段階のもので、地球圏では少し型落ち機体となってしまっている。

 ドックではそれぞれのモビルスーツを基に木星圏で想定される戦闘を考慮した新機体の開発プランが実行に移されていた。

 

 迫水とエヴァのガ・ゾウムはガザ系モビルスーツの発展系である。ネオ・ジオンの主力機として量産され戦場に投入されているが元より新たなガザタイプの開発計画が二つあり、それを実行に移している。機体名はガザX、ガザY

 

 東條の乗るべルドルフは『ガンダムMk-V』のデータを基に開発された機体であり、その別系統の発展機にドーベン・ウルフという機体がある。ネオ・ジオンではこちらが正式採用され、当機は完全にバニシングマシンとなってしまっている。この機体の新開発プランは分岐の再統合である。機体名はヴェルデ・エア

 

 R・ジャジャ、ネオ・ジオンで正式採用されており先行試作型であるギュンター機よりも性能が向上している。しかしやはり白兵戦特化機体であり、乗り手を選ぶモビルスーツである。一年戦争時代、ゲルググに開発競争で敗れたギャンの正統発展後継機ともいえる機体であり、この機体の新開発プランはギャン最終型である。機体名はガルヴァドス

 

「お前これ改修ってレベルじゃないだろ・・・」

 ギュンターの目には自身のモビルスーツが跡形もなくパーツレベルで分解されている光景があった。

 「いやぁすごいですよ!ここに来てよかった!」

 当然のごとくゼーレーヴェ艦にもメカニックがいるわけで、彼らもアリエスの技術班に加わってモビルスーツの大幅な改修を行っていた。

 「完成したらテストしないとな」

 「あぁ・・・そうだな」

 キューベルたちはファナとパトリシアの捜索中にメカニック班にとっつかまっていた。

 機体スペックについて熱弁をふるうメカニックのシュペーアにノれずにいると、「あ!いた!」タイミングよくパトリシアの声が響き渡った。彼女の後にはファナもいた。

 「ねぇ、私はどうすればいいの?」

第一声とはうってかわって温度の下がった声がキューベルに向けられた。

 ところがキューベルはパトリシアをギュッと抱きしめ

 「絶対に私たちから離れないで、いい?」今にもこぼれそうな涙を浮かべる目とは裏腹に決意の色を宿していた。

 「・・・わかった」

キューベルの思いを受け取ったパトリシアの声は穏やかだった。

 

 「ねぇ」

 居住ブロックに戻るなかで、キューベルがファナに尋ねた。

 「ずっとわからなかったんだけど・・・なんできたの?」

 「え?」

 「悪いとかそういうことを言ってるんじゃなくって…なんていうか、ニュータイプだからっていうのがわからなくって・・・」

 「あぁ、それは」ファナは澄んだ瞳でキューベルを見た。「そうすればお兄ちゃんにもう一回だけ会えるって思ったんです」

 「・・・・・・お兄ちゃん」

 「はい、それだけです」

 

                    ≠

 

それから、数週間が経ったある日のこと

 「なに!ミネバが!?」

 「私がお世話をしていたのですが今朝お部屋に伺ったら・・・」

 ミネバ・ラオ・ザビの部屋はもぬけの殻になっており、行方知れずとなってしまっていた。うつつを抜かしていたわけではないシャアだったが、自分の甘さを呪った。

 ミネバの世話係のジュリアがしどろもどろしている横で、シャアは手掛かりを探っていた。

 彼女が誘拐されたとすればその心当たりはただ一人、昨日から今朝にかけて木星圏へ一足早く発ったヨドルフ・ヒトーリンだった。

 シャアは「君のせいではない」とジュリアの肩に手を当て、もう一人の重要参考人のもとへ走った。「ちぃっ、こうも仇になるとは」

 ヴィルヘルムに注意を向けていたばっかりに、ヒトーリンがそのような行動を起こす事を考えていなかった。

 その男を見つけると出会い頭に胸ぐらを掴んだ。「ミネバをどこへやった!」

 「私は存じ上げませんが。」ヴィルヘルムは表情筋一つ変えずに答えた。彼に心臓があるのだろうかとすら疑う反応だった。

 「そんな事はわかっている…!ヒトーリンは?!」

 「ヒトーリン司令なら6時間前に木星へ発たれましたが。」

 「ッ・・・えぇい!」

 シャアは掴んでいた胸ぐらを突き離し総統執務室へ駆けて行った。その様子を見送るとヴィルヘルムは部下へ次のようなことを伝えた。

 「ファナ・コ・アサティを呼び出してください。ニュータイプのテストをします。」

 

 

 「行くのか・・・シャア」

 「あぁ、奴を野放しにはできん。準備が整い次第木星へ発つ」

 「そうか・・・」

 総統執務室で、シャアの離別とも取れる言葉にカーン・ジュニアは目を伏せた。

彼とはもう二度と会うこともない、そう感じていた。

 「ここは、お前の好きにするといい」

 「・・・・はい」

 

                    ≠

 

 エスタンジアという勢力下にいるものの、再び火星圏へ向かう中でマイクロ・アーガマ隊には安息の時が訪れていた。

 地球圏を脱してしてから面倒を起こしても、どちらにも利益はなかった。それに面倒を起こす気力もない。

 そんな環境の中、与えられた部屋でクシナが休んでいると

 「・・・・タロ」

 「おれ、どうしたらいいんだろう」

 「・・・・いいよ、来て」

宙の冷気が伝わる部屋で、タロは愛の肉体に包まれた。

 

                    ≠

 

「カーン、ジュニア様…もうよいのですか?」

 シャアはアリエスの勢力の1/3を引き連れ木星へ旅立っていた。

 それからカーン・ジュニアはしばらく塞ぎ込み、自室から総統執務室に、ウィノナの前に姿を現した彼は幾分か痩せていた。

 「あぁ・・・なんとか整理がついた」彼は総統机からナイフを取出し、手にしていた。「ウィノナ、今まで世話になった」

 「カーンジュニア様?!」

彼はそのナイフで、自身の後ろ髪をバッサリと切り落とした。

 「カーン・ジュニアじゃない・・・ブラッド・ワインスタインだ」

 

                    ≠

 

アリエス全域に、敵勢力の接近を告げる警告がワインスタインより発せられた。

 「所属不明勢力がわが軍の新型戦艦を奪いこちらに向かっている。配置につき迎撃態勢をとれ」

 




これで最終3話が終わり残すところあと2話です!最後までお付き合いいただけると幸いです、よろしくお願いします!

ちなみにシャアが木星に行ったのはなんとしても逆襲のギガンティスにつなげたいという思いがありこのようにいたしました。
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