ラスト2話です。
ぶっ飛んだ機体が出てきますがどうか最後までお付き合いください。
『ねえ…どこ行くの』
お兄ちゃんがきてるの
『行っちゃだめ!』
どうして?
『そっちにいったら…あなたは・・・』
いいの、せっかくここまで来たんだから
『まって・・・まって・・・!!』「行っちゃダメぇっ!!!」
パトリシアが目を覚ますと、そこにファナの姿はなく
『・・・行っちゃった―――――』彼女の目からは涙が流れていた。
機械仕掛けの暗室で、ヴィルヘルムは眼下に広がる対伝説巨神用決戦兵器の開発ドックを見下ろしていた。
モビルアーマー、もはや超巨大モビルスーツと言ってもいい機械の塊には、防弾チョッキのようにサイコファイバーが織り込まれた装甲が着々と取り付けられていた。
「スパイラル・コードは全てエラー・・・わかりました。ではこちらは破棄しましょう。」
宇宙世紀〇〇八八、十二月二十四日
アリエス全域に敵勢力の接近を告げる警報が発せられた。
≪所属不明勢力がわが軍の新型戦艦を奪いこちらに向かっている。配置につき迎撃態勢をとれ!≫
居住ブロックから軍事ブロックに向かう途中、キューベルは聞き覚えのある声に足を止めた。
「この声…ハマーン様の・・・!」
シャアが木星へ発ってからヒトーリンもすでにいないアリエスで、総統の地位に着く人間といえば彼かもう一人
「てっきりヴィルヘルムが指揮を執るかと思ったがな」
「ただの操り人形かもしれねぇぜ」
「それはないわ!だって彼は…」
「すでに脳をいじられてるんだろ?いつあいつの手に堕ちたって」
「と、とにかく行きましょ・・・・というか」キューベルの脳裏にファナとパトリシアの姿がよぎった。「あの二人どこに行ったのかしら」
「え?知らないんですか?」
「今朝二人の部屋に行ったけど・・・誰もいなかったの」
≠
「第一陣は先行して不明勢力を待ち伏せ、第二陣は一陣の後に続きゼーレーヴェ隊とR・P・D部隊はいつでも出撃できるよう配置しておけ!ハチカは命令があるまで待機!」
ブラッド・ワインスタインは、今もなおカーン・ジュニアとして総司令の地位に着いていた。
≪やぁ、中々うまくやっているじゃないか。≫
唐突に、温度の感じられない声が鼓膜をついた。≪失敗作だと思っていたが、ハマーン・カーンの記憶は君にいい副作用をもたらしたようだ。≫
「・・・・・・えぇ」
≪もう少しだけ、持ち場を頼むよ。テスカトリポカの最終調整がまだかかるからね。≫
「・・・・・わかりました、兄さん」
アリエスから、十機のグランド・ザックを筆頭に第一陣が迎撃へ向かった。
≠
スクリーンに赤い星が映し出されるほどまでに、エスタンジアは目的地に差し掛かっていた。
マイクロ・アーガマ、今ではエスタンジアの所有物であるこの艦に少しの間、あるべき姿が戻っていた。艦長であるジョブ・ジョン、オペレーターのオスカとマーカーを始めとするマイクロ・アーガマ艦乗組員の姿があった。
「これより作戦が始まる。流れに乗って来てしまった我々に、意味のある戦いではない
だからどうか生き延びてほしい
再びこの場に集まることを誓って・・・マイクロ・アーガマ隊、解散!」
ジョブ・ジョンの声が行きわたる空間には、彼の言葉を外部へと流す機具が仕掛けられていた。アドルフはただ一人、艦隊のしんがりを務めるサイコミュ搭載新型戦艦ケツァルコアトルの中で、奥歯を食いしばった。
全方位ダイヤ型に展開した艦隊の隊列の中心をバレンドラ艦が務め、アドルフの腹心であるハインリヒが艦長の座に就いて指揮を執っていた。
≪熱源接近、機影は・・・≫宇宙塵も捉えているレーダーに前方から来る五つの機影が目立つ。
「ミノフスキーの影響が出始めている、慎重に行け」
マイクロ・アーガマ艦はバレンドラ艦とケツァルコアトルの間に位置し、乗組員たちは再びバレンドラに捕らえられていた。
先鋒艦マゼラン改級タカナミ(エスタンジア特別仕様)から二機のザクフリッパーと五機のネモ強襲型が出撃
「こ、これは・・・うわぁっ!」
赤い星を目前にした真空の闇に、青い閃光が迸る。≪海蛇です!ウミヘビが張り巡らされています!!≫
宇宙ゴミに混じって設置されたワイヤーから広がるプラズマが合図となり、艦隊前列を囲むように起動した敵機の集中砲火が始まった。
「既に瓦礫に混じっていたか・・・第二陣、出撃!」
第二警戒隊とムサイ改級のクロシオ、オヤシオなどの駆逐隊からジムⅢ、マラサイ改から編成された二十機、ガンキャノン・ディテクター、ザクⅢから編成された十五機が出撃した。
≠
アリエス第二陣に出撃命令が下り、五隻のムサイ改級から頭部と下腹部から長い角のようなものが生えた三日月のようなシルエットのキタラが五機、両肩のシールドにより丸みを帯びたシルエットのヌバフォック、二十五機が蜂の巣をつついたようにズワァッと展開した。
≠
エスタンジア艦隊を取り囲むように姿を現したグランド・ザックに対し、キャタピラの代わりに巨大なバーニアとメガ粒子キャノンを装備した高機動宇宙戦特化型ガンタンク十機で編成された砲撃隊が円状に展開していた。
そして、艦隊前方では
「何だあの機体は・・・・」
ジムⅢの全天周モニターが、海蛇から逃れたネモ強襲型が敵新型モビルスーツ、キタラの展開したビームの刃に溶断される様を映す。
三日月に手足が生えたようなモビルスーツは、自らの前面に展開したビームの刃により半月型になっていた。そして手足を折りたたむと、狙いをこちらに切り替え弾丸の如く迫ってきた!
「クソッ」ビームライフルを放つも、キタラは機体を回転させビームの刃で粒子の弾を弾いた。「そっちが刃物で来るなら・・・!」
ジムⅢはビームサーベルを構え、弧を描くようにキタラの側面へ迫る。しかし
「なっ!?」別のモビルスーツがモニターの下からぬるっと現れ「・・・ガスマスク」
彼はヌバフォックのビームダガーに焼かれた。
丸いヘルメットにゴーグル状のデュアルアイと円形ラジエーターのついた頭部はガスマスクを思わせた。
ずんぐりとした黒いボディにビーム・マシンガンやショットライフルを構えたその姿は、もはや生身の人間が重武装しているだけのように見える。しかし、18メートルの巨体をみれば、やはりモビルスーツなのだ。
ジムⅢとマラサイ改はキタラとヌバフォックの猛威の前に次々と倒れていった。
「後衛迎撃隊出撃、ジムⅢ、マラサイ改は艦隊周辺の処理に迎え。砲撃隊とガンキャノン、ザクⅢは前方に集中、マイクロ・アーガマ隊を前衛に出撃させろ」
バレンドラのカタパルトデッキで、出撃の時を迎えたマイクロ・アーガマ隊をオリガが送り出していた。
≪ジム・セークヴァはほかの機体のパーツを流用してなんとか改修しといたわ≫
「お~サンキュー。んじゃあニロン・アラダール、ジム・セークヴァ、行ってきます」
「じゃあ、行ってくる」≪まって、傷はどう?≫「痛みならもうとっくに引いちまったよ」≪・・・・気をつけてね≫「あぁ、グラン・マックイーン、出る!」
バレンドラから二機のジム・セークヴァリペアが戦域へと向かっていった。
≪Z Mk-Ⅱは可能な限り改造して機体の性能をあげておいたからやれると思う。
・・・タロのこと頼んだよ≫
「うん・・・ありがとう
クシナ・カーデンロイド…行きます!」
ZガンダムMk-Ⅱフルブーストが真空の闇へ飛び立った。
≪アウターは下手にいじれなかったからコックピットのカバーだけ変えといた≫
オリガの言葉にタロは思わずこけそうになった。「は、はぁ…そうっすか」
≪血ぃついてたシートのまんまってのも気分悪いだろ?≫
「わざわざ言わなくったって・・・気分悪くなってきた」
≪・・・・・あんたさぁ≫「はい?」≪抱かれたろ?≫
「
はぁ?!なんですか急に!」
≪抱いたのか?≫
「いや…それはぁ・・・」
≪今のあんた、なんか軽くてさぁ・・・まぁいいや≫息を吐くノイズがした。
「そんなこと・・・あるわけないじゃないですか」
≪とにかく死ぬんじゃないよ≫≪がんばってください!≫オリガの奥からフィアの声が聞こえた。
「・・・・はい!タロ・アサティ、アウター・ガンダム行きます!!」
タロ・アサティとしての、最後の戦いが始まった。
≠
アリエス総合指令室にはレヴァハン・M・ヴィルヘルムが入室していた。
「アウターガンダムは出てきたか?」
何故その名が今出るのか、ヴィルヘルムがアリエス全域に影を落としてゆく。
「いや、アウターがいるかは・・・」
「なら餌を撒こう。イルダーマを出撃させなさい。」「餌・・・・?」
「そろそろデータを取ろう。」
「・・・・・わかりました。全艦発進」
ブラッドの命でアリエスの全残存艦隊が発進し、やがてイルダーマが五十機解き放たれた。
グランド・ザックをベースに開発されたものの、そのフォルムはガンダムタイプであった。変わったところと言えばリユース・サイコ・デバイス搭載機体であることと、眼が単一ということである。その中の一部に手と脚からだけでなく、脳からの電気信号も直接読み取って動かす特殊仕様の赤い機体もあった。
「ハチカMk-Ⅱの出撃準備を指せておきなさい。テスカトリポカの準備ができ次第ともに出撃させます。」ヴィルヘルムが総合指令室からそう指示を送ると
「これでニューロタイプ、ステロタイプへの革新が始まる」
彼の無機質な目が躍動していた。
彼にとってこの戦場はあくまでもニュータイプの実験場でしかないのだ。それでもブラッド・ワインスタインは、まだ逆らわなかった。
ゼーレーヴェ艦が戦闘宙域に差し掛かかり、キューベルが声をあげた。
「前方で戦闘を確認したわ、全機発進して!」
≪迫水新一、ガザY、出撃≫
≪エヴァ・アルバトロス、ガザX・・・出る≫
≪ギュンター!ガルヴァドス!行きますッ≫
≪東條、ヴェルデ・エア、行くぞ≫
ゼーレーヴェ艦からモビルスーツが発進し、先行する迫水のガザX、エヴァのガザYの後方で、ギュンターの駆る漆黒の機体、ガルヴァドスがランスカクタスの柄を握った。
再び、ゼーレーヴェ隊にアウターと邂逅の時が訪れた。
≠
「このぉっ!」
出力を上げバーニアの数を増やしより高機動となったZ Mk-Ⅱの機体はニュータイプではない彼女の異常な集中力を十二分に補っていた。キタラの襲撃を直前でかわし、側面からビームサーベルを刺すほどまでに。
「ビーム・コンフューズ!!」
クシナはヌバフォックが数機固まっているところにビームサーベルを投げて狙い撃ち、粒子の拡散で彼らが怯んだ隙を突き急接近し、着実に撃破していった。
ニロンとグランの駆るジム・セークヴァリペアは、ロングレンジプラズマライフルで防衛ラインに迫る敵機体を迎撃していた。
「数が多いなぁくそったれが!」
その時、背後から強烈な光が瞬いた。「なんだ!?」
即座にその方を確認すると先鋒艦マゼラン改級タカナミが二つの粒子に貫かれていた。さらに第二射がダイヤ状に展開した艦隊の外側を削り取ってゆく。一機はモビルアーマー形態としてX状になり腹部から、もう一機は閉じた脚部を一つの砲塔とし、メガ粒子を発射していた。
≪上方十時と二時の方向に敵機あり!迎撃に迎え!!≫
G・ザック群を片付けた高機動宇宙戦特化型ガンタンクが下半身のバーニアを噴かし、二手に分かれ両ガザタイプに向かっていき、ニロンとグランも二手に分かれ後に続いた。
マラサイ改のパイロット、ドミンゴは目の前の戦争をただ眺めていた。≪おい、何ボサッとしてんだ≫
接触回線がザクⅢのパイロットより繋がった。
「いや、俺たち何をやってんのかなって・・・なんの意味があってこんな・・・」
≪…んなもん終わんなきゃわかんねぇよ、今は目の前に集中しろ≫
「・・・なぁ、一つ聞いていいか?」
≪あ?≫
「この戦いが終わったらどうするんだ?」
≪まぁ・・・とりあえず郷に帰って…≫
ザッというノイズを最後に声が消え、通信が途絶えた。
「・・・・・え?」
ドミンゴがその方を見ると、ザクⅢのコックピットをランスが貫いており、漆黒の影の中から妖しく光るモノアイがこちらを見ていた。
ランスの尖鋭な切っ先から流れるように太くなった剣身から、無数のビームの針がサボテンの様に突き出し、ザクⅢはパイロットの亡骸と共に無に還った。爆ぜるその姿はまるで、サボテンが花をつけているようだった。
「う…ううううあああああああ!!!!!」
絶叫と咆哮が入り混じった弾を乱射するも、漆黒の騎士はふわりと避け、ランスの無数の針でマラサイ改をドミンゴごと溶かした。
さらに2機のザクⅢを鮮やかに葬ると、漆黒の騎士ガルヴァドスはガンキャノン・ディテクターの展開する防衛ラインに向かっていった。
そんな中で、タロのニュータイプとしての感覚は、これまでにないほど研ぎ澄まされていた。リボーコロニー空域でエスタンジアと衝突した時のような、アウターの持つサイコファイバーの力に呑み込まれていくというよりは、溶け合い、同化してゆくような感覚だった。
肉体としての意識が、神経が、アウターガンダムを動かす器として鮮明に澄みわたってゆく。
それは、敵機を鮮やかに葬ると共に、死の一瞬の苦しみと魂が溶けてゆく感覚を刻み付けられる代償を払うことでもあった。
ニロンは、ガザXの機動力に翻弄されていた。ジム・セークヴァリペアもそれほど劣っているわけではないが、主武装であるロングレンジプラズマライフルで戦うには距離が近すぎる、かといって遠くから狙えば優に躱されるだろう。メガ粒子を一発の弾としても発射できるガザXは遠距離だろうと近接距離だろうと関係がない。
そんな相手への有効な一手を模索している間にも、高機動宇宙戦特化型ガンタンクが撃破されていた。
「・・・・・・ま、これしかねぇか」
ニロンはメガ粒子砲の真正面で、ライフルを構えた。
既に十三隻、エスタンジア艦の約半数が骸と化した。アリエスのモビルスーツ群の三日月とガスマスク歩兵のシルエットは気が付けば、モノアイの白いモビルスーツに塗り替わっていた。
「なんなの・・・これ・・・・」
クシナはそのガンダムタイプの群れから黒い血が滲み出ているような錯覚を覚えた。ビームライフルを放ちながら、絡みつくツタを引きちぎる様にその中へ飛び込もうと脚を踏み込んだ時、行く手をアウターの背が塞いだ。
「タロ・・・・・?」
彼は何も言わずにイルダーマの群れへと向かっていった。そして、光が広がっていった。
光の中を、タロが歩いていた。彼の声がクシナの中に響いた。
『きみは・・・未来へ・・・!』
我に返ると、変わらぬ戦場があり、アウターが単身でイルダーマ群へ向かっていた。
「あしたへ、って・・・」彼女は思わずおなかに手を当てていた。
Z Mk-Ⅱの元に、ガザXが近づいていた。
ガンキャノン・ディテクターとザクⅢの計六機が一斉にビームキャノンを構えた。「撃てぇ!!!」
ガルヴァドスに弾群が向かうも、ひらりひらりと黒い体を蝶のように翻し、光弾は彼方へと消えていった。
≪どこ狙ってんだァ!≫ガルヴァドスの殺人的な加速が虚をつき、ガンキャノン・ディテクターを貫いた。
≪さぁ次は・・・ん?≫
パイロットの執念が、体を貫通しているランスをがっしりと掴み、肩の砲塔をガルヴァドスに向ける。
≪逃が…す…かよ≫
≪!!!コノヤロッ・・・≫
ランスの無数のビームニードルが出てコックピットを焼くと同時に、砲塔から射出た一発の光弾がガルヴァドスをかすめていった。
タロは、まるで時が止まったような、冷たい深海を泳いでいるような感覚の中にいた。
アウターを動かす器となり果てた彼は、ただぼんやりと、自らが敵機体を葬る光景を眺めていた。
『あぁ・・・命が溶けてゆく』
宇宙に混じる人の思念をごく当たり前に感知しつつも、もはや干渉することはない。
一瞬の苦しみを受け続けているうちに、いつからか自らを透明な殻で閉ざしていた。
ニューロタイプ、それが彼のニュータイプを超えた一つの形だった。
タロ・・・!
自閉した意識の中で鮮明な声が聞こえ、刻まれた声の方を見るとZ Mk-ⅡがガザXの四肢に捉えられていた。
彼女を背後から掴むガザXが今にも粒子で焼こうとしている、迂回している時間はない。
タロは空虚な意識の中でアウターに逆らい、彼女の下へと向かった。
ドオォンッ
ガザXに後方からの流れ弾が命中し、機体が揺らめく。それは、ガンキャノン・ディテクターが死の間際に放った物だった。
その隙が死角となり、ガザXは切り裂かれ、タロはクシナを手元に引き寄せた。
ガザXの機体が崩壊していく中で、エヴァの安らぎに満ちた顔をタロは見た。そしてそれは青い蝶となり、飛んでいった。
『そうか…ケンの面倒、見てくれてたんだな・・・』
「エヴァが・・・・死んだ」
ゼーレーヴェ隊に、衝撃と共に喪失感が走った。そのショックが一番大きかったのは、迫水だった。
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
ガザYは目の前のジム・セークヴァリペアに、ビームサーベルを叩きつけた。
≠
モビルスーツが、生身の四肢と直結しパイロットの手足の代わりとなれば、その性能は著しく上昇し本来の機能性をほしいままにできる。
そしてイルダーマの場合、一年戦争時のリユース・サイコ・デバイス実験と違い機体にサイコファイバーが使われている。故に、イルダーマは数を減らせども厄介な機体だった。
その様子を、アリエス総合司令室から実験台のように見つめる目があった。
「やはりイルダーマの動きにばらつきがあるようだ。」
「下がらせますか?」
「身体能力の差だ、その必要はない。それにリユース・サイコ・デバイスによるパイロットの肉体反応がニュータイプに何かしらの影響を及ぼしているはずだ。」
ブラッド・ワインスタインはヴィルヘルムへの視線を背に受けながら緩やかに反旗を、半旗を掲げる。
「・・・・・あなたは…なにをしたいのですか?私をこんな体にし・・・人を、こんな人体実験をしてまで・・・」
「こんな実験?」
「なぜ・・・今になってリユース・サイコ・デバイスなんてものを・・・」
「サイコファイバーを直結させたことによる生体への反応、影響を」「そういうことを言ってるんじゃない!!」
ブラッドの激昂を手のひらで遮ると彼は続けた。「・・・・なぜカピラバストゥコロニーの人間を使ったと思う?」
そんなことわかってたまるか、という視線を送るもヴィルヘルムには届かない。
「スペースコロニーの役目は人の生活を守ることが大前提だ。人が手入れして初めてその環境を保つことが出来る。しかしそれがなくなったコロニーはどうだろう?」
ヴィルヘルムはブラッドの目をやっと直視し
「長いこと放置されば機能は次第に衰える。ましてやカピラバストゥコロニーは最初期に作られたものだ。」
次第に彼の言わんとすることを悟り、ブラッドの瞳孔が開く。
「今でも宇宙放射線を完全に防いでいれば何も問題はないがね。」
ブラッドはただ立ちすくむことしかできないでいた。たとえ微量だとしても、長い間それを浴び続ければ・・・
「未来のない者達を私なりに供養したにすぎないんだよ。人の革新の萌芽のためにね。」
エスタンジア艦隊の殿に、暗黒星雲を思い出させる400m超の荘厳なフォルムが宙に鎮座している。タロはイルダーマを一掃するためにアウターを、サイコミュ搭載艦ケツァルコアトルへとドッキングさせていた。
「アドルフ、舵はまかせた」
≪わかった・・・・エスタンジア全艦隊に告ぐ!これより、敵機の一掃のため我が艦の主砲を解き放つ、巻き込まれたくなければ道を開けろ!!≫
「そしてお前自身について、現段階においてのメモリークローンの実験についてはこれを見るといい」ヴィルヘルムから受け取った冊子には『ZEON CONTINUE OPERATION』と書かれていた。
「やっぱり・・・アンタは・・・!」
戦場に眼を焼くほどの一筋の閃光、一瞬の静寂、爆炎
「なんだ?!」
「おぉ…ケツァルコアトルの反陽子収束が上手くいったようだな。」ヴィルヘルムは一瞬瞳を輝かせるとすぐに無表情に戻り「ではこちらも白いテスカトリポカを出そう。」と言い残し総合指令室を後にした。
「・・・・・ウィノナ、しばらくここを頼む」
ブラッドは彼女に通信機を渡し、ヴィルヘルムを追った。
≠
エヴァが散った。
戦場から見れば主力モビルスーツの一機が撃破されたにすぎない。
ゼーレーヴェ隊にとってもまた、ただ漠然と『何かが消えてしまった』という印象でしかない。
人の死の直後というのは得てしてそういう物で、あとになって初めて実感が沸きあがるものである。それが戦争であれば、まず哀しさより先に怒りがわき、その矛先は仇である相手へ向けられる。悲哀に浸っている余裕はないのだ。
彼女の死を一番近くではっきりと見届けたのはギュンターだった。自信を掠めていったガンキャノン・ディテクターの放った死に弾の弾道を追った視線の先で、エヴァの乗るガザXが白い悪魔に切り裂かれ、爆ぜた。
「・・・・・・エヴァ?」
しばらく茫然としていた。人の死を頭でわかっても、すぐに心で受け入れられる者はいないだろう。そしてそれが親しい中であればあるほど、時間はかかる。
「あいつが…やったのか・・・ガンダムが・・・・」
気が付けば、エヴァを殺した白い悪魔が彼の目の前に迫ってきていた。「てめぇが・・・・・・」
ギュンターはランスカクタスの出力を最大限にして矢のごとく、大胆に真正面からアウター・ガンダムへと向かった。
「てめぇがあああああああああ!!!!!」
彼の慟哭は空振りに終わった。
アウターはガルヴァドスに指一本触れることなくエスタンジア艦隊の中を突っ切っていった。
「刺し違うことすら・・・・できないのかぁっ・・・!!」
怒りよりも哀しみよりも、彼は悔しかった。どんなに優れた機体に乗ろうと、望みが叶えられるわけではない。星が輝く時を映した全天周モニターを叩き割りたい衝動に駆られつつもその拳は、自分の頬を殴った。
我に返ると、エスタンジアの艦隊と連邦、ジオン機入り乱れたモビルスーツ隊が道を開け、その中を光が飲み込まれる程の黒い巨大な物体がゆっくりと前線へ赴いていた。
グワダン級大型戦艦というよりは一年戦争時のモビルアーマー、エルメスを彷彿させるフォルムだ。
やがて進行が止まると、艦首が大きく花のようにゆっくりと開き、5つの花弁の中心に眩い光輪が瞬いた。
パウッ
目を焼くほどの閃光が輝いて、モビルスーツを、人を、魂を無へと還した。
振り返ると、戦闘域を埋め尽くしていた白い機体が半数に減っていた。
「ベル・・・・!」
ギュンターはガルヴァドスの俊敏性に助けられ、後方にいるゼーレーヴェ艦へと向かった。
≠
敵機体の半数を葬り、ケツァルコアトルはすぐに第二射の装填を開始していた。しかし 宇宙に漂う反陽子を集め、レーザーとして完全に照射させるにはニ十分の時間を必要とした。
「くそっ、失敗した!」
その間にも残ったイルダーマ共がこちらへ総攻撃を仕掛けてくる。敵勢力を殲滅できなかったのはエネルギーの充填が不十分だった上に、十分な照射範囲がとれなかったと考えたアドルフはケツァルコアトルをゆっくりと敵勢力の中へと進めた。
「他に何か武器は・・・タロ!」
≪・・・・・・≫
タロからの返答はない。しかし無言の代わりにアウターからの信号が送られると、ケツァルコアトルの滑らかな表皮が割れ、中から20枚の巨大な円盤が射出された。
それはもはや無人モビルアーマーと言ってもいいほどだが、これこそがこのケツァルコアトル、アウターガンダムにとってのニュータイプ専用兵器ファンネルだった。
ビーム射出装置である通常のファンネルとは違い、こちらはビームの刃を回転させて攻撃する対戦闘用兵器である。残っているイルダーマ達は、次々とその光輪に八つ裂きにされていった。
切り裂かれたイルダーマの痛みがタロを再び襲った。
≠
ガルヴァドスが引き返すと、反陽子収束砲により塵芥となった艦の残骸が漂う中に、右舷をやられたゼーレーヴェ艦の姿があった。
「ベル!大丈夫か!」
≪え、えぇ…なんとかね・・・でも、もうこの艦は・・・≫
「ノーマルスーツは?!」
≪一応着ているわ≫
「全員?」
≪さ、さぁ・・・≫
「とにかく生き残っている奴はノーマルスーツを着て左舷のハッチまで急いで!いつ二射目がくるか」
≪お前、ここでなにやっている≫
ガルヴァドスに、ヴェルデ・エア、隊長である東條からの接触回線が繋がった。
「い、いや・・・艦がやられたと思って・・・」
≪お前は前線に戻れ!≫
「いやです!!」
≪・・・・なんだって?≫
「艦長を・・・ベルを死なせるわけには行きません!安全圏まで誘導してから前線に戻ります!」
東條は、接触回線の切れたコックピットの中で「幸せな奴だな」と呟いた。
≠
ヴィルヘルムの後を追っていたブラッドは、気が付くと暗い機械まみれの部屋、ヴィルヘルムの研究室へ辿り着いていた。
その中で彼は、コンピューターの画面から振り向くこともなく「指揮はいいのか?」と声だけやった。
「しばらくは放っておいてもよさそうなんでな」
「そうかい。」
「最終調整とやらはもういいのか?」
「あぁ、そっちはもう終わっているよ。」
「なら」何をしているんだ、と尋ねかけたとき
「キミの思う理想的なシャア・アズナブルを聞かせてくれないか?」というヴィルヘルムの唐突な問いに、ブラッドは言葉が飛んだ。
「少し違ったかな。」彼はおもむろに振り返り「ハマーン・カーンの記憶からではなく一般的な、大衆を率いるための理想的なシャア・アズナブル像を聞きたい。」
「何を…言っているんだ・・・・?」
「シャアという男は指導者としては素晴らしいが人間的に大きな欠陥がある。一見至極冷静な人格の内にあるとても人間的な感情、それが今回の様にミネバの後を追ってわざわざ木星まで行く勝手な行動につながる。」
「・・・・・それで?」
「自分を見なさい。女であればまだしも男であるお前が記憶によってシャアに」
「うるさい」
「彼が木星へ行ってからおまえは自暴自棄になった。これでは何のためのメモリークローンかわかったものじゃない。」
「ひ…人を勝手にしておいて・・・・!」彼の無意識の悪意がブラッドを辱める。
「メモリークローンは素体と僅かな記憶のゲノムさえあればいい。後はこちらで人格をプログラミングすれば感情に左右されない指導者が出来上がる。」
「人格を・・・プログラミング・・・・」
「思考を電気信号に変換できるならその逆もできるはず、私はそう考えた。
そして僅かな記憶を用いてゼロから作る手間を省き、第三者などから対象のパーソナリティ情報を集めこちらで取捨選択して設定する。そして理想的な一人の人間をつくる。」
「そんなものはすでに人間じゃない!人の形をしたエゴの器だ!」
「それがジオン・コンティニュー・オペレーションだ。」
「・・・・兄さんの目的はなに?」
沸々と血を滾らせるブラッドの右手が腰へと伸びたとき
≪リモーネ・パトリシア・プルッカ、ハチカMk-Ⅱ、出撃します≫
アリエスのハッチからパトリシアの乗った巨大モビルスーツが出撃した。
「今出撃した彼女も我々の実験に協力してくれた人だ。きっと今頃は彼女のクローンが地球圏で戦場に出ているだろうね。」
「ッ・・・貴様・・・!」
≪ワインスタイン卿、サイコガンダム・テスカトリポカを出撃させますがよろしいですか?≫
もはや彼はヴィルヘルムという偽名ではなく、本名であるスティーブン・ワインスタインを名乗っていた。
「彼女と回線を。」≪わかりました≫
少しして、回線は彼の部下からサイコガンダムのパイロットへと繋がり、彼は温度のない声から猫撫で声をつくった。
「気分はどうだい?」
≪・・・はい≫
「がんばれそうかな?」
≪はい≫
「いい子だ。君のやりたいことをやってきなさい。」
≪はい≫
二人の兄弟が対峙する研究室が揺れた。ブラッドが奥の窓から見下ろすと、超巨大モビルスーツがゆっくりとハッチの外へ流れ出ていった。彼はその中に一人の少女の姿を見、同時にタロ・アサティの影を見た。
「おまえ・・・・・なんてことを・・・・・!!!」
ケツァルコアトルの主砲により、残イルダーマ群の半数が塵となった。それでもまだ、二十機程が空域を彷徨っていた。
反陽子収束砲に応えるように、アリエスの一角から40m程の菅笠を被ったような女性的なフォルムの巨大モビルスーツが、巨躯に見合うライフルを両手に現れた。
かと思えば、その背後で、
100mを超える規格外の白い巨人が目覚め、空域にいる誰もが目を奪われ、恐怖した。
「なんだ・・・・・あれは・・・・・」
対伝説巨神用最終決戦兵器サイコガンダム・テスカトリポカがついに起動した。
日付が変わり、12月25日になった。
次回で最終回です!