ガンダム つきのはね   作:なかのあずま

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 序章~彼方より~

 こちらタイターン
 全域に告げる
 土星圏内に異常熱源体発生
 処理へ向かうも目標消失
 核エネルギーではない
 要、注意されたし

 土星衛星の一つ、タイターン。外惑星開拓時代に移民の一時的居住地、物資貯蔵庫、軍事施設などの役割を担い、今では土星の衛星国になっている。土星本国への危機を素早く捉え、防御、迎撃態勢に移ることができ、主に大型のデブリや隕石の接近にアラートを発する。しかし今回、隕石ではない正体不明のナニカが異常ともいえるエネルギー物質を放出しながら急接近していたため太陽系全域にわたる発令となった。

 アラートは、タイターンの発令から一分とたたないうちに、
木星や火星の衛星からも発せられた。
そして、

 「こちら地球、インダストリア、機影確認」


 人が、宇宙に憧れを抱いてから、どのくらいの夜を越えただろう
 人が宇宙を目指してから、どのくらいの朝を迎えただろう
 宇宙を掴んでからいくつもの暦を重ね、どこへ向かうのだろう




第一話~Awaken~

 ギアナ高地、南アメリア大陸北部に位置し、原生林が色濃く残っている。この時代の地球上の自然環境は殆どが人工的に再生された物であり、人の手がほとんど入らず今に至るのはここくらいだろう。ギアナ高地の最大の特徴としてテーブルマウンテンがあげられる。その名の通り真っ平らな地面がそのまま浮き彫りになったような形をしておりロライマ”山”と呼ばれているが垂直にそそり立っている。

 

─────テーブルマウンテンの壁を3匹の巨大な蜘蛛が下っていた。その蜘蛛はよく見れば奇妙な形をしており、蜘蛛の下半身に人間の上半身をくっつけたシルエットをしている。

3匹の巨大な蜘蛛は壁を下りながらそれぞれに散らばっていった。

 蜘蛛の一匹が地面につき、しばらくあたりをうろうろして腰をおろした。足を折り曲げ下半身を地に着けたという事だ。腹部らしいところが開き、中から男が降りてきた。男の名はクロード・ファウスト、巨大な蜘蛛はアラクネと言う。元は戦闘兵器だったが目立った戦闘がなくなった今となっては利便性に長けた八本の脚を活かす作業用スーツとなっていた。

 

鬱葱と生い茂った森に入ってからどのくらいの時間が経過しただろう、クロードは狩りの最中であった。彼は麻から作ったヘンプスーツを身に纏っている。

風が肌を撫ぜる―――――

とはいえ熱帯のジャングルの中、神経を張り巡らせながらの単身での進入は体力の消耗を加速させる。

 

  ガサササッ

 

 前方で何かの動く音、クロードは即座に猟銃を構え辺りに神経を張り巡らせた。

中型の動物だろうか、こんなところに・・・?

 ギアナのジャングルは主に虫と小動物と植物が生態系の大半を占めている。クロードの持つ猟銃はあくまで護身用である。

何かが動くのを待つが相手もその気配を感じ取っているのだろう、互いに探り合う膠着状態になった。

 隙を作っておびき出そうか

途端、クロードは背後に気配を感じ、銃を構えながら恐る恐る視界を気配のする方へ移していく。

 

 ピューマがいた

挟み撃ちにされてしまった

 

構えていた銃を降ろそうとした瞬間、見えぬ相手が姿を現し、襲いかかる。

反射的に目をつむり姿勢を崩したクロードはそのまま仰け反り、押し倒されてしまった。

背中に地面の感触、続いて首回りにガブリと歯が食い込む感触、死を覚悟した。

だが、それは違和感へと変わる。

「・・・・?」

牙にしては生ぬるく、皮膚が食い破られてもいない。うっすら目を開けた。

ピューマが覗き込んでいる。次に首の方を見るとピューマでないものが噛み付いていた。

《なんだ?毛むくじゃら・・・子供か?人間の?》

人の子とわかるには時間がかかった。

この密林の中に人間の子供がいるはずもなく、容姿も伸びきった髪に顔が隠れており、人間とは思えない。

《近くに集落が・・・ピューマ・・・?》

 しかしいくら人の子と言えど顎の力は野生のものだ。牙でなくとも頸動脈を噛みちぎられるかもしれない、クロードは先ほど降ろしかけた銃を探した。幸いにも右手が届く所にあったので引き金に指をかけ、威嚇射撃を放った。

重心の反動でクロードは指にダメージを負い、絶叫した。

発砲音と絶叫により体が硬直したピューマに子供が抱きつく、その姿はまるで親子そのものだ。

改めて子供を見る

顔を覆い隠す赤く長い髪、

そこから覗く口元、

一糸纏わぬ褐色の裸体、

女の子・・・10歳くらいだろうか?

言葉は、通じなさそうだ

女の子は四つん這いになり「ウゥ〜ッ」と唸った。

とりあえずはこの場を去ろう。いつ襲われるかもわからない。

 ある事に気づく。

子供はともかくとして母親のピューマは何故襲ってこないのか?それどころか威嚇の姿勢ですらない。そう思っていると急に姿勢を崩し、そのまま地面へと倒れ込んだ。

 クロードは即座に駆け寄り症状を見た。少女はその彼を見つめていた。

 「緊急回線こちらクロード、ポイントE-26、すぐに来てくれ」

 

 かつて人類は、宇宙に人工の島を浮かべ、その中で暮らしていた。

しかしそれも今は昔。

外惑星が開拓されてから人類は、本格的に地球圏から外へと生活圏を拡げた。

西暦、暦がまだそう呼ばれていた頃、地球という一つの惑星の中で何百もの国家があった。宇宙世紀、地球外に進出してからその国家は次第に意味をなさなくなり、

やがては地球に留まったアースノイドと、地球外に進出したスペースノイドの国家へと移り変わっていった。そして今、それは惑星単位へと肥大化している。

地球も例外ではなく完全に一つの国家として機能しており、かつてあった国家は地区と化した。

その地球上をエブリオ族という遊牧民が這っていた。遊牧民と言っても原始的なものではなく、ある程度の文明を持ちながら地上を歩いている。彼らにはそれぞれの役割が与えられており、

族長、その下の補佐官、それに次ぐ僧、食物を狩りに行くハンター、治療の手当てをする医療班、そして科学技術班などだ。

ここ一か月ほどはギアナ高地のテーブルマウンテンに集落を構えている。

 クロードがピューマと女の子を連れてテーブルマウンテン上の集落へ戻るとエブリオ族一同にざわめきが起こった。

「レト!いるか!」「は、はい!」

クロードに呼ばれた若い娘が彼のもとへ駆け寄った。

「こちらを・・・ですか?まずはメディカルの方が」

「メディカルと合同で頼む。」

「クロードさんも一緒に」

「今から長のもとにこの子を連れて行くから…それが済み次第向かうよ」

クロードは女の子を連れ族長のもとへ向かった。

 

「ネオ・カンブリア様、クロード・ファウストがめのこを連れて参りました」

補佐のオルドビスが二人を族長のネオ・カンブリアのもとへ案内した。

 集落には直径10メートル程の居住ドームが散らばるように設置されている。その中心に族長のドームがあり、その中の一部屋に長がおり、守るように部屋の前に補佐がいる。

『その者は、使いのようだ。そなたが上の名を、余が下の名を与える』

カンブリアは全身に布を纏っていた。顔は隠れ声に抑揚がなく、仄暗く静かな室内では鼓膜を通過し脳髄に響いてきた。

『イノセンシア』

「・・・・・マオ」

 

 女の子はマオ・イノセンシアと名付けられた

 

 

 

 「あんた何考えてんの?」

クロードが自分のドームにマオをつれて帰ると妻のメイが静かに怒りを向けた。スレンダーな割に筋肉質な躰から出る声は芯が通っている。

「い、いいじゃない、俺になついてるし」

クロードがメイをなだめている中、マオはメイに対し威嚇の体制をとっていた。

「いい?私たちは研究とか発掘とかでろくにナユタの面倒も見れてないの!その上もう一人、しかも野生児・・・誰が面倒見んの!!!」

「ナユタが面倒見ればいいよ」

「は?」

あまりにもあっけらかんとした回答でメイは一瞬怒りを忘れた。

「あの子はまだ13よ!?ペットならともかく女の子をいきなり面倒みれますか!」

「もう13だろ?それくらいできるよ」

「何がそれくらいなの!?まともに面倒見た事ないから簡単に言えるんだよ!」

「簡単には言ってないよ、男として託して」

「あんた自分で何言ってるかわかってんの?だいたいあんたはいつもいつもそうやって」

食って掛かるメイと人を食ったようにかわし続けるクロードとの夫婦喧嘩とも言い切れないやり取りが続くので、マオは態勢を解いて家の中のものに興味を移していた。

 

「ただいまー・・・あれ?」

ナユタが帰ってきた。作業の手伝いをしにいっていたようだ。

「おかえり、今日から一緒に暮らすマオだ。面倒見るんだぞ!」

クロードがナユタにマオを紹介しがてら押し付けたのでメイはため息をついた。

「このバカ…」

 

 

 クロードがマオを保護してから三日後─────

「クロードさん!」

レトが慌てふためいていた。

「どうした?」

と言いつつもあらかたの予想はついていたが、ラボのドームへ向かうと事態は想像以上のものだった。

「昏睡状態から、目を覚ましたと思ったら、急にあ、暴れだして、そ、それで・・・」

レトは今にも泣き出しそうに取り乱していた。凄惨な光景があった。

 ピューマの身体中に金属のような触手がうねうねと蠢いており、ピューマは息絶えていた。

「・・・データをたのむ。それとこれは保存する、手伝ってくれ」

あまりの凄惨さ、得体の知れなさから誰も手を貸せず、その場にいる皆が硬直していた。クロードはふぅと一息つき、保存液の近くまで引き摺った。金属の触手がいくつかちぎれ落ちた。

「て、手伝います」

レトはある程度落ち着きを取り戻していた。

 

 金属触手を電子顕微鏡で見るとナノの世界が広がっていた。断面は禍々しく、じわじわ再生してゆくその様は肝を冷やす。

「再生、しているんですか?」

レトが尋ねてきた。

「リペアジオジウムが先祖返りを始めているんだ…」

のんびりしていられない、しかし動けないのが今の状況だ。

 

ガツガツムシャムシャバクバクベチャベチャ!

マオは素手で夕飯の肉や魚をほおばっていた。

「あーもうまた食い散らかして!」

ナユタはマオの世話役を任せられてから日々務めをこなしていた。ナユタのおかげでマオは犬食いから手づかみでものを食べるようになった。

 

 

 テーブルマウンテン、太古から重ねられた地球の歴史が露になっている。山の頂にエブリオ族が集落を構えている。奇妙な事にその山の標高2800mより上の地層は一つ、層と呼べるものではなく一枚岩のようになっている。族長であるカンブリアが「あの中に目指す場所がある」と告げたこともあり、一族は発掘作業を始めて今に至る。

「何か見つかったかい!」

メイは声を張り上げた。音がうるさい、さらにクロードがマオを連れてきてから気が気でない。

 発掘は人力だけでなく掘削機やアラクネが使われている。アラクネは手首から先をドリルやナタなどに換えて作業を行っている。

「姐さん、ありました!」

部下の元へ向かうと、平らな頂上にあけられた穴の中のその奥に扉があった。

「・・・開くの?」

「どうやら何重にもなっているみたいで…手だけじゃ骨が折れますよ」

作業用の軍手の手のひらについた疣上のセンサーによってわかった事だった。

「はぁ・・・コレは?」

扉の中央に手のひら大の十字の窪みがあった。窪みには波紋が描かれ、よく見れば波紋の線一つ一つは何かの文字の羅列のようだった。

しばらく睨むとメイは踵を返して場を離れた。

「どちらへ?」

「長なら何か知ってんじゃない?」

 

「ネオ・カンブリア様、メイ・カルネアが参りました」

『何用か?』

ネオがメイに尋ねた。

「えーっとぉ、掘ってたら扉を見つけましてぇ、模様のある十字の窪みがあったんすけどなんか知りません?」

「貴様っ!」

側近が激昂しかけたので咳払いをした。さすがにいい加減だったか。

「我々が発掘調査を続けていたところ扉らしきものを見つけその中央に手のひら大の十字形の窪みがあり私はこれを何かの差し込み口ではないかと考えネオカンブリアさまなら知っているのではないかと思い馳せ参じました!」声を張り上げ早口で捲し立てた。

『メイ・カルネア、案内を』

側近の二人が族長を専用の駕籠屋にいれると、メイは3人を引き連れ扉へ向かった。

 

  扉の向こうには人ひとりがくつろげるだろう空間があり、奥の方に円形の台座があった。どうやらエレベーターのようなものであり下へ降りる事ができそうだ。メイを筆頭に発掘班はエレベーターで深部へと下りていった。

上は外からの明かりで薄暗い程度だが、

降下していくうちに次第に光はなくなってゆき、まるで深い海の底へ落ちてゆくようであった─────

メイたちは酸素が薄くなっていくことを感じ、下で息はできるのだろうかと不安が募った。一人は息を止めていた。五人でも余裕はあったが暗闇と酸素の薄さ故に圧迫感があった。

「ぷはあっ!」

班の一人が暗闇の閉塞感、圧迫感に耐えられなくなり息を吐き出した時、深部へ到達した。時間にしておよそ45秒程度だったがその何倍もの体感時間があった。

 

 ウウウウウゥゥゥゥン

 

 扉が開き、一行は頭に装着したライトを点灯した。深部の捜索へ乗り出す手始めとしてスキャナーという手のひら大の球体を飛ばした。レーザーを発して辺りを照射し、建造物などの構造を読み取りデータ化するといった優れものである。マニュアルモードとオートモードがあるが操作をまともに出来る者が少ないため殆どオートしか使われない。

「かなり…広そうですね」

班の一人、アラウダ・アヴェンシスが手首に着けた長方形の受信デバイスを見て唾をのんだ。女性と見間違うほどの顔立ちと長い髪、色白で細見であり声を聞いても男とわかりづらいが力はある。ちなみに先ほど息を吐き出したのは彼である。

「速度あげて!この程度で壊れないでしょ、それと近くにブレイカーがないか探して!」

 

 『パンッ』

 

乾いた音が響き「痛ってぇ!何ではたくのさ!」と声がした。どうやらアラウダに頬をはたかれたようだ。声の主はアキラ・パルト、黒く少し長めの髪はぼさっとしており色白の肌に赤い瞳が特徴的な17歳の好青年である。キキルという妹がいる。

 

「あった!これじゃないですかね!?」

どうやらアキラがブレイカーらしき物を見つけたようだ。

「そうみたいだけど・・・」

そこには扉と同じような十字形のボタンがあった。

 アキラがボタンを押すとウゥーンと唸り次第に暗闇が晴れてきた。扉の事があったせいかメイにはあたりまえのことも一コンマ置かなければならなかったようだ。

彼らは次第にやわらかな光に包まれていった。どうやら壁そのものが発光しているらしい。

 

 翌日から総動員による探索活動が始められた。スキャナーで採取、解析したデータによれば、この建築物は少なくとも3kmを超える長さがあり、エレベーターの昇降時間と速度からおよそ500Mの高さがあると思われた。壁を調べると地球上に、それどころか太陽系上に存在するどの物質とも完全には一致しない材質から造られていた。それでも部分的な一致は見られ、パーセンテージが最も高いのは彼らの居住ドームの素材であった。

 

「わたし達と関係があるんでしょうか?」

「あるしかないでしょうね。」

メイの答えにレトはクロードがかつて自分にした話を思い出していた。

「わたし達ってなんなんでしょう?」

「さぁね」

レトは沈黙した。

「ふぅん、アンタも感じてんだぁ」

「わたし達だけですかね?」

「どーだか…それにしてもすごいなここは」

 

彼女らは奇妙な場所にいた。3メートルほどの高さの土で出来た物体が草原の中に建っていた。

「大昔のスペースコロニーってやつかもね」

 

 

 建造物の解析も進み、どうやら人が暮らしていける程の設備はあることがわかった。居住スペースはもちろん食料の自給自足のためのプラント、さらには医療施設や科学研究室までがあった。カンブリアの命もあり一族は地上から地中へ、というよりは山頂から山中へと移り住んでいった。

そして、

「これは・・・旧世紀の・・・すごいな・・・」

クロードの目には何体もの巨大な人形の機械が映っていた。静寂の中に機械の巨人が佇む光景は荘厳であり、圧倒される。

「博物館かな?」「違うでしょう」

 フィリアス・パスパルトが即座に否定した。彼は地中へ移ってからクロードと行動を共にしている。白金髪のおかっぱ頭であり色弱のため特殊な眼鏡をかけている。

「これではっきりしました。この建造物は船だ、それも巨大な。」

「・・・・・でかすぎじゃないか?設備も贅沢だ」

「おそらく移民船じゃないでしょうか?客船だったらこんな物いらないでしょう」

「・・・移民船が何で埋まってんの?それにどこへ行こうと?」

「はぁ…」フィリアスはため息をついた。「逆ですよ」

「逆?これからどこかに発つってこと?」

「それか出戻りってとこでしょう」

「へぇ、こんな物引っさげてなぁ」

クロードは機械の巨人に手をつけていた。搭乗口はどこか、動かせるのか、さらに巨人の足下を調べ出した。

「どうしました?」フィリアスが訪ねた。

「いや、ほら」地上から10メートル程の胸の搭乗口らしきところを指差した。

「なるほど」フィリアスは壁を調べ始めた。

「これかな?」

 フィリアスが壁にセンサーらしき物を見つけ手をかざした。するとクロードの周辺、というよりも巨人の足下に3Dホログラム状のパネルが現れた。そのパネルには殆ど使われていない文字が表示されていたがクロードは何とか読むことができた。

 パネルの指示に従って操作を進めていくとクロードの身を囲うようにレーザー状の柵が現れ、足下からドーナツ型の金属が浮き出てきた。それが腰の位置までくると「ピピッ」という音とともに上昇、巨人の左胸、心臓部へと彼を導いた。そこがコクピットらしかった。その前までくるとコクピットの扉が開き、巨人へ乗り込むことができるようになった。

 コクピットのシートに座るとまたしてもホログラム状のパネルが目の前で作動した。TYPE SELECTの文字とともに3つの図が出てきた。左から、人がシートに座っている図、脳みその図、人が直立している図だった。どうやら操縦の方法を選択するらしい。一番左の図を選ぶと収納されていた操縦レバーやフットペダル、VRヘッドが出現、『グヴォォゥン』と音がした。

 「何の音だ?」

 「こいつ…」

 巨人は音と共に巨大な一つの眼を開けた、と同時にコクピット内には360度全面に外の景色が映し出された。その景色は巨人の至る所にあるカメラによる物で、その内の主要部分は眼から取り込んでいた。この眼はメインカメラの役割を果たし、モノアイと呼ばれていた。

「基本はアラクネとあまり変わらなそうだな」そう言いながらフットペダルを軽く踏み込む。

 

ズシン・・・一歩、ズシン・・・また一歩と一つ目の巨人が足を踏み出し

 

シュウウゥゥゥと口から息を漏らした。

「おぉ・・・・!」その様子を見ていたフィリアスも吐息を漏らした。

 

「わああああああああ!!!」マオが全速力でやってきた!!

「待てよぉぉぉ!!」ナユタも後を追ってきた!!

「オイ危ないぞ!来るんじゃない!」

 フィリアスが全速力でやってきたマオに声を張り上げた。せっかくのエクスタシーを邪魔された苛立ちもあった。

マオはぴたっと止まり犬座りをした。フィリアスに怒鳴られたからではない、目の前にいきなり18メートルもの巨人が現れれば怒鳴られなくとも止まってしまう。

「うおぉ!」クロードが慌ててフットペダルから足をどかした。

「ったく、急に走り出すなよなぁ、ん?」

一息ついたナユタの目に巨人が映った。

「あ・・・あぁあ・・・」

ナユタはついた息を一気に吸込んで固まってしまった。

「ほら、戻りなさい」

フィリアスが落ち着いた声で言うとマオがすくっと立ち上がり巨人を指差し

 「ザク!!」

と呼んでまた四足で走り出した。

 

 

 

「—————と言うのが私の見解だ、いかがかな?」

「移民船ねぇ…確かにそれなら合点行くけど…」

「いくらなんでも大きすぎるというか…」「とべないですよぉ」

フィリアス、メイ、レト、アキラが話し合っていた。

「おっ、何だどうした?」クロードも加わった。「フィリアス坊やがここを移民船だってさ」

クロードは手をパンと叩き、

「俺もそう思ってんだ。思ってんだけど、そうだとすれば見つけなきゃ行けない物がある」

「操舵室と」「エンジンね」

フィリアス、次いでメイが答えた。

「そーと決まれば」「探しましょう!」

アキラ、レトがハイタッチをした。

 

 インダストリア、北アメリア東海岸部のメトロポリス中心部に本社を構える国際企業である。元は国際技術革新機構、通称WTOとして国際連合により設立された国連機関だったが、地球外惑星への移住が可能となり300年余りが経過した今では地球一国の企業組織となっていた。天に向かって伸びゆく螺旋状の円錐形と言うメタボリズム的デザインをしたバベルの塔を彷彿とさせる。

その一室であるやり取りが行われていた。

「こちらをご覧ください」

「これは?」

「衛星で捉えた永久保護区域ギアナ地区の一部分を拡大した物です。ここ2ヶ月あまりを早回ししています」

「ギアナ高地か、何だこいつらは」

「ここ2ヶ月住み着いているようです。消息を絶っていた遊牧民族エブリオではないかと」

「消息を絶っていた?対象ではなかったのか?」

「特に目立った動きもないので数年程前に対象から外れていました」

「これがどうした?」

星間貿易部長官ドルドレイ・トルストイが空気中に投影された映像を間違い探しのように眺めながら訊いた。

「ここに映っている男をご覧ください」そう言いながら秘書のアンナは映像をズームさせ、別ウインドウに行方不明者リストを映し出した。

「なるほど…ん?」

行方不明者の誰かが映っているのだろうと映像の男をよく見ると、もはやリストを見る必要はなくなった。

「久しぶりだな、クロード・・・」

「お知り合いですか?」

「かつての同僚さ…。開発部に連絡を、せっかくの機会だ、実験も兼ねて今の内に芽を摘んでおこう。そういえば」

秘書に滝のごとく命じながらあることを思い出した。

 「アレに進展はあったか?」

「いえ、太陽系外の物質「もういい何回目だ、全くなんなんだ3年も経っているのにこの体たらくは‥‥‥

しかしアレは、あの形はどう見ても伝説の‥‥なんだったかな?」

秘書は既に部屋を出ていた。

 

 メイ、レト、アラウダの3人は奇妙な物体を見つけていた。草原のような場所の土の塔の中のさらに下にあった。その空間はドーム上で空中にあらゆる映像が、そして壁にはプラネタリウムのように星空が映し出されていた。部屋の中心に人ひとりが入れる程の透明な卵型のそれがあった。

「濁ってて、ていうか光ってて何もわかりませんね」

「もしかしたらここが操舵室‥‥なわけないか」

「つめたぁい」

2人が部屋を探しまわる中アラウダは卵に張り付いていた。

「アラウダ、その中何か見えるか?」

「ふぁい?」

目を凝らせばぼんやりと何かがあるように見えたがあまりにも不明瞭であった。

「なにもみえませぇん」そう言うとまた頬を張り付けた。

「それにしてもこの映像は‥‥」「メイさん!」

声がした方を見るとレトが恐ろしい物を見た顔で手を振っていた。ただ事じゃないと駆け寄るとそこには

エブリオ族長ネオ・カンブリアの朽ちた姿があった。

 

「きゃああぁぁっ!!」

アラウダが悲鳴を上げた。張り付いていた身体は腰を抜かし地べたに女座りをしていた。朽ちた族長の姿を見たばかりのメイとレトにとってアラウダの悲鳴は心臓を貫いた。そしてアラウダが見た物を見たとき、《もうどうにでもなれ》とメイは思った。

 濁っていた液体が澄み渡り卵の中身が露になった。そこには透き通るほど白い肌の美しい少年、いや青年が生まれたままの姿で胎児のように眠っていた。中性的な顔立ちのせいか幼さと神秘的な雰囲気を纏っていた。髪の毛、眉毛、まつげ以外の体毛はなかった。

「なんでしょう、これ」

「なんでもいいよ、とにかくみんなに知らせる…行くよアラウダ!」

アラウダが我に返り立ち上がると卵の中の青年と目が合った。鼓動が撃たれたように激しくなった。アラウダは目を逸らせず、永い間見つめ合っているのではないか、そう思い始めたとき、自分の身体の変化に気づいた。慌てて両手でそそりたったモノを押さえ、そのまま青年に目を戻すと

 『いかないのかい?』

と声が響いた気がした。否、響いた。底がみえない程の深みを持たせた声がアラウダの身体に快感をもたらした。

「……ダ‥‥ウダ、アラウダ!」

はっと気がつき幻想的なエクスタシーはおさまったが、かわりにメイの怒声に対する俗物的興奮が分泌された。

 

 ギアナ高地の遥か上空、2つの球体がエブリオ族の集落へと向かっていた。

「こちらギアナ上空、目標らしき一団確認致しました。ターゲットの捜索に移ります。」

 

「ん?何だありゃ」

ディーコン、彼は部族の中でハンターの役割を担っており、食料の調達を終え休んでいた。

「どうした?」

空を見つめるディーコンにテイラーが気づいた。彼もハンターだ。

「なんか来る」

ディーコンの指差すその彼方から2つの発光体が接近しつつあった。テイラーは族長に、ディーコンは皆に知らせに向かった。地中に避難する者、発光体を確認しようとする者、アラクネに乗り込む者様々だった。そしてついに2つの発光体が集落へ踏み入れた。

 実際に発光はしておらず、そう見えたのは銀色の球体が太陽光を反射していたからにすぎなかった。3メートル程の大きさがある。

「突然の訪問、無礼を詫びる。こちらはインダストリア、この男を捜している。クロード・ファウストという男だ」

女の声だ、熱は感じられないがどこか硬い印象を受けた。球体から投影されたホログラムにはクロードの姿があった。わざわざギアナ高地のテーブルマウンテン上まで来ているのだ、クロードがここにいるのはバレている。それでもせめてもの抵抗として「知らない、ここにはいない」と口々に言った。

「それならばこちらにも考えがある!」と声が響くと球体からゼリー状の金属のような物が滲みだし球体を覆い、さらには金属の繊維が根を生やし、みるみると形を変えていった。やがて繊維とゼリーが絡み合いながら一つの巨大なヒトガタへと変貌した。

 

 一方、当事者のクロードはメイに案内され卵の中の青年を眺めていた。

「アラウダが言うには目開けたりなんか言ったらしいけど…」

「ピクりともしないな…どっか開かないの?これ」

「やめときなよ、変にいじったら爆発するよ?」

「お、ここに何かあるぞ」

卵の台座の後ろ側にあったスイッチらしき物をいじりかけた時、フィリアスが砂埃を巻き上げながら塔の階段を下ってきた。

「クロードさん!インダストリアがッ!!」

そう叫ぶと息も絶え絶えになりインダス、インダスと繰り返した。

「落ち着け、深呼吸だ…インダス‥‥トリアが?」

フィリアスは指差し大きくうなずいた。クロードとメイは血の気が引いた。いつ起きてもおかしくはない事態だったとはいえ、すっかり安心しきってしまっていた彼らは口から臓物が出るような気がした。

「ボールが2つ現れて『インダストリアだ、クロードを出せ』と…」

大雑把だが概ねその通りだった。察するや否やフィリアスを連れあの格納庫へ向かった。

 地上では火蓋が切られようとしていた。今やヒトガタとなった2つの化物に対しハンター達が10機のアラクネで挑もうとしていた。18メートルのヒトガタに対し9メートルのアラクネでは10対2の多勢に無勢でも散弾銃を持った人間に小型犬が立ち向かっているも同然だった。

 

「オラアアァァァ!!」

一機のアラクネがそれまで眠らせていた闘争本能を呼び覚まし先制攻撃を仕掛けた。掘削使用のため手首から先はドリルに換装されていた。

敵前まで来ると八本の脚で踏ん張りを利かせ、垂直にジャンプするとともに脚の付け根、八本の脚の中心部にあるスラスターを噴かすと一気にヒトガタの頭部まで舞い上がった。そのまま頭部にドリルを突き刺し、脳をえぐり出すかの如く手首を高速回転させた。

キュイイイィィィィィ‥‥‥ィィ…ィ…ィ‥ン

「ハッハッハッハッハァッ…………は?」

ドリルの回転速度が急激に落ち、完全に止まった。普段から血の気が多いせいでもはや興奮状態に陥り先制突撃をしたシドだったがさすがに冷静になった。燃え盛る炎が突如鎮火したおかげで物事の分析、判断にいち早く移行した。

ギッ…ギッ…という感触に「掴まれている」感覚があった。狙われている、喰われる——そうよぎった瞬間、ズズッとアラクネの胴体が動き、即座に自身の右手首をトカゲの尻尾よろしく切り離し化物から離脱した。残った手首はずぶずぶと飲み込まれていった。シドは意識が飛んでいた。

その光景を傍観していたハンター、アラクネ部隊は圧倒され動けずにいた。何しろ戦闘なんぞ初めてなのだ、初陣がこんなにも訳のわからない相手では分が悪すぎたというほかない。

 

「クロード・ファウストを引き渡してもらおう。こちらも事を荒立てるつもりはない。早くしてもらおうか」

その声には次第にストレスがかかっていた。闘うか引き渡すか、時間の猶予はなかった。ハンターのトップ、現時点で隊長のプラント・ペイジは唾液を飲み込み一呼吸すると「かかれぇー!」と狼煙を上げ、部隊は一斉に突っ込んでいった。

 

 ドオオォォォン

 

化物とアラクネとの間に爆発が起こり砂塵が待った。

 息吹が聞こえ、

  砂塵が晴れていく

 

 「悪い、待たせた」

 

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