「全・・・滅・・・?」「はい。ただいま捜索隊を派遣させていますが生存者はゼロかと」冷淡に話すアンナにドルドレイはよほど自分が事態を甘く見ていたのだと痛感する。こうなれば本格的に事態の収拾に向かわざるを得ない。「ヤーパン支部から何か報告は?」「特にありません」
「クロード…本当に奴が?人間は地に足をつけるべきだとか言ってた奴らではないのか?あるいは3年前の…そういえばジュピトリスに動きは?」
「今のところ目立った動きはありません」
「とにかく開発に今以上に力を入れなくては、次のは今までの技術を総動員し量産化するようそしてプレア「コード・プレアデスの解析は以前より進んだもののさらに不明瞭になったそうです」
「う、うむ、というのは「太陽系に存在しない物質できているらしいとの事です!」「ほう、ではその太陽系に存在しない物質とやらも次の量産型に組み込むように伝えなさい」
「かしこまりました」
砂漠の中を全長60メートルほどの蠍のような物体が這っていた。
「あーーー、ったく、なんでこんなあっついとこで時間かけなきゃなんないんだよ」早速メイはイライラしていた。
「まぁまぁ、しょうがないじゃぁないですかぁ!」
アラウダがメイをなだめようとするも「くっつくな!ただでさえ暑いんだから!」と一蹴した。
もちろん彼女らはこの蠍に乗っているわけで、この蠍のような物体はアラクーダと同じスリチュアン内蔵小型飛行艇でアドネスクといった。
「500年ぶりだからぁ?の割には自信ありげだったなぁあの坊や」
アドネスクの飛行系統が故障し灼熱の大地を歩く羽目になった。といっても飛行艇の脚で歩くのでそれなりの速さはあるのだが。何も最初から壊れていたわけではなく太平洋を過ぎたあたりから出力が落ち、大陸に緩やかに足をつける形になったのだ。
「えーっと・・・ここはまだモンゴルぅ?」今現在アドネスクが歩いている場所は地名はモンゴルだがかつては、地球上に国境があった時代では中国と呼ばれていた地域である。
人口の増加、貧富の格差、人為的な環境・大気汚染、数々の重荷に耐えられなくなった中国は崩壊。結果的に、北部をモンゴル、中央部をウイグル、南部がチベット国となり、それから数世紀も経てば中国という名前が風化し跡形も無くなるのは至極当然だろう。
「しっかしほんっとなんっにもないじゃない。蟻塚みたいなのがちらほらしてるけどさ」
中国崩壊以降、大気・土壌の浄化のために一度更地にし人口的に環境の回復を図るも超自然的気候変動により旧中国地域一帯は砂漠化していた。そのため人々は地中に移り住み生活を始め、先ほどの蟻塚みたいなものは地中にコロニーがあるせいだった。
「っついあっついあっついあっっっつい!!!」「そう暑い暑い言わないで下さいよぉ、外出たらこんなもんじゃないんですからぁ」アキラはうんざりしていた。
「マニさんも何か言って…はぁ」
マニ・クルバルカは瞑想にふけっていた。
「おはようごさいます」
一室で睡眠をとっていたシルルが暑さで起きてきた。彼女はネオ・カンブリア、アベニールの側近だがアベニールの命でチベット班に同行していた。先ほどのメイのアベニールへの御言葉は聞こえていなかった。
「あ、お、おはようございます!」≪こんな人だったんだ…≫
シルルは普段、いかにもな民族衣装、金の刺繍の入った青いドレスに臙脂色のベストを纏っており、さらには深くスカーフを被っていたので全身像を見ることはなかった。今は砂漠の真っただ中にいるせいで黒のタンクトップにパンツと非常にラフな格好をしており殆ど露わになっていた。
「で、でもこんなに何もないと嫌でも見つかっちゃうよなぁ」「こんなにおっきいんだから何かあっても無理でしょ」
「…じゃあさ、潜れると思う?」メイが静かに言った。
「えっ、こいつでですか!?」「思いまーす!」
「じゃあどっか掴まっていな!!」
舵はメイが握っていた。アドネスクの船尾、サソリで言えば尻尾の先端から前方50メートルにベノムカノンを放った。針が着弾すると半径20メートルに砂塵を巻き上げ、砂漠にぽっかりと穴をあけた。「もう一丁!」もう一発放つとさらに穴は深くなった。
「後はこの腕で掘り進む!」
アドネスクを蠍のようなと形容したからには当然腕のようなものがあるわけで、それで地中を掻き分け、下への方向も加えながらひたすら進んだ。
「ん?」
しばらく進むと障壁に突き当たった。
「なんかの施設かな?」
アドネスクのスクリーンは今、船体から発する音波の受信を基に構成されたグラフィックであり実物ではない。何らかの影響でグラフィックが正確に出来ていないかもしれないとふんだメイがスクリーンをCGからカメラに切り替えライトアップすると、砂の壁だった。両アームで前方の砂を掻き分けると
「機械…?みたいですね」「邪魔なんだよったくさぁ!ぶっ壊してやろうか?」
「一度、地上へ上がった方がよろしいかと思われます」シルルの提案だ。
「あんたさぁ、そろそろ服着てくださらない?」
「服なら着ておりますが」「はいはい上に行きますよ!行けばいいんでしょういけば!!」
アドネスクは状態を反らせ、機械伝いに地上へと這い出た。
地上へ出ると機械の姿が直径5メートルの筒状の物だろうということが推測できた。その筒には皿が埋め込まれており、あたりを見渡すとそのようなものが5メートルおきの等間隔にあった。表面上はわかったものの、あらましはわからなかった。
ブシュウウゥゥゥ
突如砂塵が舞った。
舞った辺りまで近づこうとすると目の前でまた砂が舞いあがった。
「また潜るよりこのまま進んだ方がいいですね」
「…………全ッ速ッ!前ッ進ッ!!」
メイはアドネスクに鞭を打ち続けた。
そうこうしているうちにいつの間にかチベットに入り、エンジンのポイントに近づいていた。しかし辺りには何も、それどころか人っ子一人見えない。
アキラがポイントの位置を見ると5メートル皿の群があった。
「またありますね、あれ」「あの下にあるって…どうすりゃ…」
「こうすりゃいいの!」
アラウダが舵を奪いアドネスクを皿の上に置いた。
「なるほどね…」ややこしい事にならなきゃいいけど、と言葉は続くがメイの口からは出なかった。
しばらく待っていると何もない砂地に穴が空き、全身防具をつけた3人の人間が現れた。3人はアドネスクを見ると肩にかけていたライフルを構えた。
「え~っと…お手上げ!」
アラウダはアドネスクの両腕を降参の意味を込めてあげた。防具服は構えたライフルからビームを乱射した。
「何で撃つのよぉっ!?」「おろせよばかぁっ!!」
「いいんじゃない?このまま過ごしゃあ」
メイが能天気なのも防具服の撃つライフルはアドネスクには虫刺され程度にすらならなかったからだ。
アドネスクの動きを完全に止めると防具服が近づいてきた。
「…こっちに来ましたね」アキラが窓から確認した。「彼らは同種です、私が行きます」シルルがそう言うと「わたくしもよろしいですか?」マニが同行の許しを求めた。
「おねがいします」
当然だがシルルは服を着ていた。
「本当に任せていいんだろうね…開けるよ!あんた達は隠れてて」
アドネスクの搭乗口が開き防具服へ手を差し伸べた。
シルルとマニの格好を見た防具服は銃を降ろし、互に顔を見合わせていた。
「武器はないよ」
メイがマニとシルルの間から何も持っていないという手振りを見せた。
「…………お迎えですか?」防具服の一人が尋ねた。
「はい」シルルが答えた。「では、ご案内します」「中へ」シルルは3人をアドネスクへ招き入れた。
アキラとアラウダは非常事態の時のために一室に隠れていた。
「大丈夫なの!?」「何もなけりゃね」
やがて振動があった、アドネスクが動き出したようだ。
「どこに向かって…」「地下でしょ」アラウダの顔は緊張で引き締まり端正な顔立ちを一層際立たせた。
「随分まじめだね」「しぃっ、当たり前でしょ」
身に危険が及ぶかもしれないのだ、アラウダも呑気にはしていられない。
「おわぁっ!」
アドネスクが傾斜を下ったのだろう、部屋全体が傾いたおかげでアキラはバランスを崩しアラウダに馬乗りの形になった。
アドネスクが地中へ潜る様子をはるか上空から見ていた者がいた。
「こちらカント、彼らの物とみられる船が再び地中へ潜りました。引き続き様子を」『いや後を追え見つからずに』「了解」
アドネスクが目的地に着き、メイがアラウダとアキラを呼び出しに向かう。
「着いたよ、ってアンタら……行くよ!」彼らはあの態勢のまま硬直していた。
防具服に連れ出されるとそこにはコロニーが広がっていた。コロニーには太陽の光が差し込み地下とは思えないほど明るい。地面に埋め込まれた皿から太陽光を取り込み地中へと送り込んでいるお陰でコロニーの人々は太陽の恩恵を授かることができる。
コロニーへ足を踏み入れると水先案内人の3人は防具服を脱ぎ自らをさらけ出した。防具服越しではわからなかったが年端も行かない少年2人と少女であった。
「先ほどはご無礼を…私たちは永い間あなた方を待っていたというのに…」
少女たちに先導されながら街並みを眺めると土の壁に覆われた建築物の中に機械仕掛けの片鱗が垣間見えた。原始的かつ電子的なその有様はどこかスリチュアンで感じたものに近かった。
「………長い間?」
メイは少女の背後を歩いていた。
「私たちは上古より伝わる理想郷へ赴くため微かな手懸りを頼りに住処をこちらに移しました。」
「砂漠化のせいじゃないんですか?」いつの間にかアキラも先導者に追いついていた。
「それだけならば場所を移せば済むことです。」少女の声色に変化はなかった。
「理想郷ねぇ〜」メイの目線ははるか遠くを見通していた。「そこは魂の安らぐ場所とされ、現世と来世の狭間にあり、はるか地下深くにあると言われています。」
「なぜ地下だと?」
シルルが降船後初めて口を開いた。感覚的には納得していたようだが地下深くと妙に現実的な言葉に違和感を覚えていた。
「言い伝えではこちらの、私たちの世界からそこへ招かれたものは『地上人』と呼ばれていました。そこへ行くには『オーラロード』を通らなければなりません。私たちは何代にも渡ってこの『オーラロード』を探しています。そしてそれは地下深くにあるのではないかと」「それで何で私たちをずーっと待ってたのか?」メイが遮った。
「もう一つの可能性です。」少女は初めて振り返った。
「あなた達が乗ってきたあの船です。」「船ぇ!?」アキラが素っ頓狂な声を出した。
「あなた達の船は理想郷にある船と近いのです。あの船が、あの船より来るものたちこそが、私たちを理想郷、バイストン・ウェルに導いてくれるとされているのです。」
「か、変わったところなんですねぇ…あはは、理想郷ってそういう…というか、どこへ向かってるんですか?」「中枢です、降下します、気を付けてください。」
コロニーの中枢は地中深くにあり、彼らは今にも壊れそうな昇降機で降りて行った。
「バイストンウェル?・・・アガルタの事だろうが、引き続き頼む。
さて」トルストイは通信を終えると正面に立つ男、ジン・ヒノモトに畏まった。
「君の送ってくれたデータはこれから非常に役立つことだろうそれを讃え君には…アンナ君、案内を」「こちらへ」トルストイに促され、アンナはヒノモトを連れ出した。
「バイ何とかというのは・・・アガルタなら聞いたことはある。確か地球の内側の」「こちらです」
ヒノモトの問いは沈黙を破ったが一瞬に過ぎなかった。
案内された先には『インダストリア開発部第3実験室』とあり、実験室という割りにはかなりの大きさがあった。ゲートをくぐるとヒノモトの目に突如として巨人が映り込んできた。
「ジン・ヒノモトさん、あなたにはこちらの先行型次世代試作機、スプウェル・フェムーリオに乗っていただきます」
「スプウェル…フェムーリオ……」
ジュラルミン色に包まれた装甲、流線型を基調としたボディは無機質な妖しさがあった。
「私が…これに…」
ヒノモトはゆらりと取り憑かれたような錯覚に陥り立ちくらみ、そのまま視界がゆっくりと暗転していった。完全な闇に堕ちた途端、次第に異様な光景へと場面が転換した。
夜の闇を飛んでいた。ジュラルミン色の妖塊が辺りを埋め尽くし、冷たい風が吹いている。
艶やかなボディから無数の禍々しい塊が放たれ、どす黒い赤が一面に広がった。
『熱い…熱い…溶ける…熱い…助けて…
うわあああああああああああああああああああああ!!!!!」
ヒノモトは身体中から燃えるような汗が噴き出し、涙を流していた。いつの間にか幻覚にうなされていた。
「ここは…」
「簡易医務室です」
「そうか、私は…」
「突然倒れられここへ運ぶ最中に今のように暴れられて」「迷惑をかけてしまった、すまない」
「いえ」
「しかしあれは、あの機体は」どういうものなんだ?とは続かなかった。続けるにはためらいがあった。求める答えはないだろうという思い、そして自分自身の肉体に魅せられた光景が質問をうまく形にできなかった。
ヒノモトは思考を巡らし、なんとか一つの質問を捻り出した。
「誰が造ったんだ、アレは」そして、「あの機体の設計者に会わせてほしい」
『ということですがよろしいですか?』アンナの声には艶があった。「任せる・・・動きはあったか?」トルストイは再びカントに赴いた。
『データを送ります』カントは焦っていた。さらに続けて『ジブラルタルに兵を派遣してください』と言い、通信は途切れた。
《ジブラルタル・・・?》
トルストイはホログラムマップを一瞥するとアンナに「ジン・ヒノモト、スプウェル・フェムーリオでジブラルタルへ向かえ」と告げた。
「ジブラルタル?地下から??」
「我々はかつてチベット全域にわたって生活しておりました。しかし、百五十年ほど前に争い、内戦が起こりましてな・・・ここから追い出しはしたものの、彼方の地で我々のように国を築き、そこから水面下で泥沼の戦いが始まったのです。いつの間にか一世紀以上の時が経ってしまいました」
一族の長であろう男が語った。男はその場にいる誰よりも、というより唯一、年老いていた。
「そして今、我々には迎えが来た…今宵がその『時』なのです、バイストン・ウェルへゆく時が来た」「ちょっと待ってよ!なんでジブラルタルからバイストン・ウェルになるの!」
「私たちは一世紀以上にわたる戦いを続けておりました。」少女がメイを制するように口を開けた。「3年前のことです。私たちは皆、同じ夢を見たんです」
「どんな?」アキラだ。
「その夢は、その夢の中では、私は不思議なところにいました。辺りは暗く、体が常に浮いているような、漂っているような感覚の中、黄金の光が遥か前方から迫ってきました。そして、その光に包まれた時に・・・『いずれ迎えにゆきます』とのお告げがありました。」
少女の説明はかなり大雑把ではあるが、これ以上詳しくもできなかった。そのおかげでメイ達にもイメージの共有はしやすかったのだが肝心なところはそこではない。
「それは戦いをするなってことで、バイストン・ウェルとは関係ないんじゃ」アラウダが指摘するが「言い伝えによれば、オーラロードは命のやりとりをしているときに最も開かれると言われています。人の闘争本能がオーラロードを開くのです。」
こじつけではないか?そう思っても彼らは長く積み重ねてここまで来ているのだ。今更とやかく言ったところで止められはしない。
「メイさん、アラウダさん、よろしいですね?」シルルが二人の目を交互に捉え諭すように言った。「仕方ないか」「行きましょう!」
メイはやれやれといった拍子だがアラウダは気合を入れた。
突然、マニが後方を睨みつけた。「どうしたんですか?」「・・・・・」アキラには何も返さずにその方へ数歩歩むと
「お前も来るか?お前の情報はインダストリアにも届くんだろう?貴様ら一国が理想郷にまでも手を伸ばすなら・・・それはこの世の理を犯すことになる!これがどのような因果と成るか・・・・知りたければついてくるがいい!」声の先にはカントがいた。言い終わると向き直り「ゆきましょう」と言った。「えぇ!?いいんですかぁ!?」アキラが慌てる中シルルはマニを視ていた。
『面白いじゃないか続けなさい』「しかしそれでは挑発にのったようなものでは」『招待されたのだろう?行かねば失礼に当たらないかな?』癪に障る言い方だ、カントは沈黙を貫いた。
『心配はない、ジブラルタルには最新機体を向かわせる。お前は中から壊せばいい』
カントは引き続き任務の遂行を決めると両手を挙げ、白旗の意を表して彼らの前に名乗り出た。「私はカント!争う気はない!が、これより私の任務をインダストリアによる監察へと切り替えさせていただく!」
カントの声が静寂を生んだ。
「ついてこい」マニは口元を微かに曲げた。
メイは持っていた銃を突きつける。「少しでも変なことしたらコレだからね」
「えっ!?」レプリは今、マオ、ナユタと共にいた。彼らの面倒を見ながらカントにリンクをかけていた。
「???」マオはレプリをまじまじと見つめ、その視線に気づいたレプリは『大丈夫だよ』と取り繕うとナユタに
「クロードさん呼んできてくれる?」と頼んだ。
しかしナユタが連れてきたのはアベニールだった。
「クロード君は手が離せないみたいで」レプリは一息つくとリンクして得た情報を話した。
「カントが裏切るかもしれない・・・と」
「断言はできないけど…それに、カントがそう言ってから急にリンクできなくなった。なんていうか、ジャミングがかけられて…」
アベニールはしばらく考え込み「そこにいる誰かがバイストン・ウェルの干渉を受けている…とか」と一先ずの結論を出した。
「ジブラルタルへ急いだ方がいいかもしれない」と言い残しアベニールは部屋を出て行った。
アドネスクは大型地底艦に収納され遥か地下深くを西へ進んでいた。その地底艦も独特な形をしており、左右に二つずつ、計4つの輪が付いていた。
「これは私たちの住む地底都の近くで発掘された乗り物を改良したものです。」
先ほどまで姪たちを案内していた少女、セナは地底艦のメインブリッジでさらに説明を続けた。
「この四つの輪は何のためにあるのかわかりませんが、おそらく法輪を模したものではないかと思われ、この船は神々の下へ行くために作られたと私たちは見ています。」「ホーリン・・・?」
アキラが聞いた途端、船体を浮遊感が包む。船はもう一人の案内役の少年セルムが操縦している。スラスターを噴かせ、船体がホバリング状態になる。目の前、そして足元の暗闇に、より一層深い闇が、虚空が広がっていた。
「…何、これ」アラウダはぽっかりと口を開けた闇に震えた。
「ここには文明の墓があります。」
セルムはそれだけ言うとレーダーで周辺を探りながら虚空の中へ船を沈めて行った。
穴の底に着く寸前、船は再びホバリング状態になった。セルムが船のライトを辺りにかざすと光が一気に弾けた。穴の壁は鍾乳壁と化しており、一度光を当てれば乱反射してあたりがしばらく明るくなった。空洞はそのまま前方に下るように続いていた。メイたちは息を飲んだ。よく見れば鍾乳壁は一面残骸が凝固して出来ていた。
「文明の墓場はここだけではなく世界中にあります。ここはその一つなんです。」
壁には建築物や施設の内臓的な部分が剥き出しになっており、美しくも気味の悪いものであった。前方へ下ると壁の景色の模様の移り変わりがあり、壁の中身は奥へ行くほど古いものになっていた。「あれは…?」
「モビルスーツ、マン・マシーンなど呼び方はありますが、旧時代の戦争の道具です。ここには人々の過ちとされたもの達が捨てられてきたのです。」
「墓場というよりゴミ捨て場ね」
セルムは船を止め、前方の巨大な施設だったものを照らした。「旧世紀、第一西暦時代末期の負の産物、原子炉です。」「何です?げんしろ?」
「この時代の人間は毒をエネルギーとして使っていたのです。やがて手に余って使えなくなり処分に困った人々は、このように、地下深くに埋めるということで解決した気になっていました。」
「じゃあ毒が漏れてたり充満してるんですか!?」アラウダが声を荒げた。
「いえ、もう何千年も昔の話ですから・・・さて、ビームシールド展開、気圧維持装置作動、皆さん、衝撃に備えてください」セルムは全砲台を前方上方へ向けると一斉射撃をし、原子炉もろとも壁を破壊した。途端、墓場全体が震え洪水が押し寄せ、地底は深海と化していた。
「ここ、海の下だったんだ」「このまま進みます」
鍾乳壁の輝きも消え、明かりは地底艦のライトのみとなった。あたりは再び静寂に包まれた。
「何も見えないや…」「クソッ、さっきから!」
アキラ達が景色を眺めている中カントはイラついていた。
「あんた、何やってんの」メイは銃を突きつけた。
「頭がザラザラするんだよぉ!さっきからなぁ!!」
そう言うとカントは一人づつ睨みつけていく。突然、地底艦が揺れた。
「なんだ!?」「後ろから!?」たった今破壊した文明の墓のある方向からだった。
「あたしはベルポットに乗る!誰か一人タイヤ付きで!!」「私が行きます!!」
メイはヴェルポッドに、アラウダはタイヤに入りながら移動する変わったモビルスーツで迎撃へ向かった。
「私に従ってください。」アドネスクから地底艦へ移った2機はセナに従い地底艦のドックに取り付けられていた耐重水圧スーツを纏った。
「局部注水開始…ハッチオープンします。」
「行ってきます!」「い、行きます!」
地底艦の後方、墓場には先ほどまで無かったはずの人型の影があった。
「あいつか!」
メイがべルポッドのライフルを相手に放とうとした時、人型の影はライフルを構え引き金を引いた。射出された弾はべルポッドを目掛け向かってきた。
ベチァッ
べルポッドのライフルに撃たれた弾は飛び散り耐重水圧カプセルスーツに泥のようにこびりついた。泥はスーツの表面に薄く伸び覆ってゆく。
「目くらましなんてぇ!」視界不良になりながらも墓の主に続けてライフルを向けた。
スーツにこびりついた泥が明らかにおかしいことにアラウダが気づいた。「メイさん!そのスーツを脱いで!」
「えっ!?」「早く!!」「でも、潰れちゃう…」「いいから!」アラウダはスーツ上の泥の広がりが速くなっているのを見た。
メイはスーツのパージをためらっていた。
「でも、潰れたら、こんなとこで潰れたら・・・」
「少しの間なら大丈夫です!私が食い止めますから早く!」
「少しの、少しの間なら・・・」メイは腹を括った。「あああああっ!!」
べルポッドはスーツを脱ぐと一気に地底艦のハッチへ向かった。その時、メインカメラが地底艦の装甲にこびりついた『泥』をとらえた。メイはべルポッドの深海の水圧耐性を確認すると両アームの先からビーム状の粒子を4本づつ、巨大な爪を生やし、そのまま手首を高速回転させ装甲の泥を削り取って行く。アラウダのゲドラフはタイヤを振り回し墓の主にぶつけた。その瞬間、タイヤを飲み込むように人の形を崩した。本能的に危険を感じたアラウダはタイヤを離しライフルによる攻撃に切り替えた。
メインブリッジのウインドウからアキラとカントがその様子を見ていた。
「あれってあんたたちが前に乗ってきたやつじゃないの!?」カントは答えなかった。「知らないの!?そんなわけないだろ!」カントは答えない。
泥をすべて排除したメイはべルポッドを墓の主に向け切り掛かって行った。主をビームネイルで切り裂き、破片を手のひらから放つ粒子弾で消し炭と化して行った。アラウダの集中攻撃もあわさり影はみるみる欠けていく。順調に消滅に向かうかと思われたその時、アラウダをとてつもない寒気が襲った。
主の背後、瓦礫と化した文明の墓場が蠢いた、蛆虫のように、じわじわと2機に迫ってきた。
「アラウダ、戻るよ!」「は、はい!」二人は地底艦へ戻った。
メイはブリッジに殴りこむように入ると「速度限界まで上げて浮上してここを離れて!!」とセルムに言った。
「速度は上げますが浮上せずに潜行します。」
「いくら地底艦て言ったって」
「この船の名前はアドラスです。」
「名前はどうだっていいから早く!!」
セルムはアドラスの速度を上げ、レーダーで空洞を頼りに更に西へと進んだ。