オセアニア上空、フィリアス・パスパルト率いる少数部隊が飛行していた。眼下には『大地のへそ』と呼ばれる巨大な一枚岩、エアーズロックが広がっている。テーブルマウンテンほどではないがほぼ垂直であり、周囲は9,4キロメートル、標高は868メートルを誇る。エンジンの反応をズームするとこのあたりに反応があったのだが、
「何もないな・・・」
それらしき街はおろか、集落も船も人も何も確認できなかった。
フィリアスは黄金の機体、アルサザーを駆り5人編成の小部隊を率いていた。アルサザーを降下させエアーズロックの麓に降り立とうとした時、高エネルギー反応が現れた。
「各自散らばれ!」
各機が散開した途端、大型の粒子が通過していった。粒子の来た方向に一機の巨大な、ロマネスコの様な巨大なフラクタル構造の物体が浮かんでいた。
「ここに来るのか!させないぞぉ!」
外部通信によりその中にいる者の声が響いた。
「なんだあいつは・・・」
「私はベジェル・ウル・コーマ!そしてこれはティアドールという!」
フィリアスはボリュームを絞った。
「貴様は何なのかと聞いているんだ私は!」
「私はベジェル・ウル・コーマ!ここの番人だ!他に質問は!?」「馬鹿だな」「死ねぇっ!!」
ベジェルはティアドールのマイクロ・ソーラ・レイをガトリングの様に連射した。
「避けつつ接近して取り囲め!」「避けられると思うなよぉ!」
マイクロ・ソーラ・レイの光が一本、また一本と消えていき、ベジェルは焦燥感に駆られた。
「遊び過ぎたら壊れるんだよ、おもちゃはなぁ!」
散らばっていた小部隊はすっかりティアドールを取り囲む形になっており、一斉に四方からティアドールへと迫っていった。フィリアスはサーベルを突き刺した。
その一太刀に手応えはなく、サーベルは空を切った。
「あ、あれぇ…?」
ベジェルは自身と機体とのズレを感じていた。次第にフラクタルの影が薄くなっていき、中から一機のモビルスーツが現れた。
「見掛け倒しが…こなせないなら使うなぁっ!」
フィリアスはその勢いでティアドールに斬りかかる。が、ティアドールはそれを躱すと背後に回りこみアルサザーのボディを掴むと半回転し真っ逆さまに急降下した。地表に届く寸前、アルサザーを放り投げた。
「くっ・・・!」
フィリアスはなんとかアルサザーの体勢を水平にし地面への直撃を免れた。
「・・・ん?」フィリアスはエアーズロック近くの地面に穴を見つけた。「各機に通達、そいつの足止めを頼む」
その穴はモビルスーツが一体入る程度の広さがあった。アルサザーが降り立つとその重みに応える様に底が下がっていき、底に着くと辺りが明るくなった。
「地下施設か…」フィリアスは施設に人の気配がないことを確認し、アルサザーを降りて詮索を開始した。
「こちらフィリアス、アルサザーの信号を辿ってくれ」
一方的な通信を入れ更に奥へ進むと重い扉がポッカリと口を開けていた。扉をくぐると施設の中枢であろう部屋があった。部屋には二つの空のガラスの円柱が離れてあり、その間の床には蓋が三つ並んでいる。フィリアスが一番真ん中の蓋のグリップを掴み引き抜こうとすると空中に3Dホログラム状のタブレットが現れた。
「パスワードか…」
腰から小型ビームサーベルを取り出し、出力を最大限にして蓋に突き刺した。空気が中に入ると蓋が上昇しガラスの円柱が姿を現した。
円柱の中には人間がいた。男とも女とも区別のつきづらい風貌であった。しばらく眠っていたようだが、目を開けフィリアスを見た。口を開け、目を見開き、手を伸ばし、掴むような仕草をした。
フィリアスは『少し下がれ』と合図し、サーベルで円柱の側面を削り取り、人間大の穴をあけた。
中から血色の液体が流れだし、柱の中の人間が外へと足を一歩踏み出した。
脚が崩壊した
そのまま崩れ落ち肉塊となった。
フィリアスは茫然と肉塊を見つめていたが、突然寒気が押し寄せた、胃液がこみ上げた。嗚咽が止まらなかった。
ヴンッ
円柱の前方にホログラム映像が現れ、画面には女性が映っていた。カプセルが開くと作動するようになっていたようだ。
『おはようございます。体の調子はいかがですか?』そう尋ねるや否や彼女は眉をひそめ怪訝な表情になった。
『あなたは…ナンバーはいくつですか?』
「…ナンバー…?あんたは?」
『アンナです。まだ目覚めて間もないあなたのサポートをいたします。あなたの個体ナンバーはカプセルに刻印されています』
フィリアスがナンバーを探している間、アンナは他のモニターに目を移し、何やら指示を送っていた。
「しばらくそこでお待ちください」
と言うと通信が切れた。
フィリアスが一刻も早くその場を離れようとした時、手元のアラームが鳴った。ズゥンっと重い音がし、施設全体が震える。
揺れがおさまり辺りが物静かになった。耳をすますと微かに足音が聞こえてきた。一歩、また一歩と次第に音が大きくなる。
「アイツが向かいました!気をつけて!」
フィリアスは手元の通信機のボリュームを慌てて絞り、物音をたてぬよう物陰に隠れる。
「ここかぁっ!隠れさせん!」
ベジェル・ウル・コーマが声を荒げながらフィリアスのいる部屋にたどり着いた。途端、彼は真ん中の円柱に駆け寄り、足元の肉塊を確認した。
「こ、これは・・・・・どこの誰だか知らんが代わりにぶち込んでやる!!」
「すまない!扱いがわからずやってしまった!私をどうしてもいい」
フィリアスは両手を挙げベジェルの前に姿をさらけだした。
「ただ一つ教えて欲しい!ここは何なんだ!」
ベジェルは出会い頭にまくし立てられ勢いを削がれた。
「こ、ここは…いや、お前が知ったって」
「インダストリアだろう?」
「………どこまで知っている?」
ベジェルの眼つきが鋭くなった。
「今見たところまでだ、」
「・・・私はここの管理人だ、アドミニストレーターだ。ここはこれからの人間を生み出している」
「これからの…?」
「地球以外の太陽系惑星に住む人間の殆どは居住ブロックを設けそこで暮らしている。たまに住めるように環境を作り変えることもある。
しかしどちらにしてもコストがかかる。
もし人間が、人間自体がこの地球上のように大地に立って生きる事が出来たら?」
「・・・・なるほど…作り出すか、作り変えているように見えるがな」
「ゼロから作るわけじゃない。重犯罪者や死刑囚、そして最下層の人間に実験台になってもらう」
「貴様らも大概だな」
「・・・恵まれないものを救済しているんだ…成功すればフロンティアに行けるんだぞ!これのどこが大概だ!」
「・・・・・・・・」
「人が暮らすために場を作っても永くは続かない。これからは自らを作り変えるんだ。本来の生き物に戻るんだ」ベジェルの顔に影がかかった。
「そんな簡単にできるわけないだろう!」
「出来るようにするのが我々の使命なんだ!」
沈黙が続いた。フィリアスは先程から脳裏に何かが引っかかっていたが、
思い出した。
「そうか・・・貴様らは…悪魔に手を出したんだな?」
インダストリアでは異変が起きていた。ドルドレイはアンナと通信回線をつないでいた。
『オセアニアにはヒノモトを向かわせました。開発区から緊急回線です、繋ぎます』
通信画面がアンナから開発区の女性に切り替わった。
『所長!プレアデスが突然光りだして・・・!』
「何っ!?光っただけか!?」
『今のところは・・・』
プレアデスと呼ばれているソレは、今から三年前、突如彼方より飛来した物体である。インダストリアはそれを捕獲すると、レーザーを始め反陽子やスペクトルを用いるなどしてあらゆる解析を行った。
結果、プレアデス星団のどこかからか飛来したことがわかるも、明確な事柄はこれくらいであった。
「アンナ、君はどう思う」
『姿形を見る限り、ガンダムと呼ばれたものに近いかと・・・』
「やはり、我々は・・・」
南太平洋の青い空にジュラルミン色の機影があった。ジン・ヒノモトはスプウェル・フェムーリオを駆り北大西洋から踵を返しオセアニアに向かっていた。ジブラルタルに向かっている最中に通信が入り命令が下ったのだ。ポイントマーカーの印された地点に近づくにつれ、ヒノモトの意識は圧迫されていった。
『意識が乗っ取られそうだ』
そう感じたヒノモトはアンナにこの機体の正体を聞き出そうとしていた。
「教えてくれ…私は今何に向かっているんだ?」
『…オセアニアでトラブルがあったのでその対処に』
「そのトラブルとはなんだ」
『機密漏洩の恐れがあるとして』
「じゃあなぜ私の頭が締め付けられていくんだ!!」
『おそらく、その機体の気圧制御が』
聞きだすのは不可能とわかり、通信を切るとエアーズロック定め出力を限界まで上げた。
ベジェルはティアドールに、フィリアスはアルサザーに乗り互いに凌ぎを削っていた。
「あんなものを使ったらどうなるかわからないのか!?」
「だから改良を重ねたんだよ!」
「その結果一部が先祖返りをしているんだ!」
「そんなデタラメ!」
「お前たちはリペアジオジウムを改造し動物で生体実験をしたな!それが寄生し蝕んでいったんだ!」
「何の話だ!」
「こいつに寄生された動物が身体中から金属の触手を生やして死んだ!」
「なに・・・?」
「その金属片を見てみるとリペアジオジウムの外核は中から突き破られていた」
「・・・・・・」
「それを解析装置にかけると」
ベジェルは沈黙を貫く。
「デビルガンダム細胞とあった
デビルガンダムといえば500年以上前に大厄災をもたらした
そんなものが今蘇ろうとしている
いや蘇らせようとしているんだ、貴様らインダストリアがなぁ!!」
「じ・・・人類が生き延びるためだ・・・!
ん?」
ベジェルがあたりを見ると景色が歪んでいた。フィリアスもあたりを見回した。
薄気味悪く歪んだ空の中を一つの飛行体が向かってきていた。
スプウェル・フェムーリオはエンジンの反応を探知するとジュラルミンのボディを青白く発光させ更なる加速をかけた。ヒノモトの意識は殆ど飛んでいたがエンジンに近づくにつれ取り戻すとともに精神が研ぎ澄まされていった。そしてエンジン、ティアドールを前にするとコックピットを鷲掴みにし、一気に引き抜いた。
フィリアスは目の前で起こっていることが飲み込めずにいると、さらに不可解なものとなっていった。
オセアニアの空にスペースコロニーが落ちてきた。
宇宙世紀0079、1月4日、ジオン公国はスペースコロニーを落とし、それは地球上に甚大な被害を与えた。その威力はヒロシマ型をはるかに超え、有史以来最大の人為的災害となった。
フィリアスの眼にはその光景が広がっていた。
それは遠く離れたジブラルタルでも見えた。
「オセアニアに誰か行ってるの!?」
「あちらには今、フィリアス・パスパルト様の小隊がいるようです。」
メイたちはチベットからジブラルタルにたどり着いていた。
「フィリアス!聞こえる?フィリアス!」
メイはフィリアスのアルサザーへ通信を送っていた。
「あんたか、今オセアニアには」「見えてるよ!今すぐジブラルタルに来な!」「承知!ウィリー、フォグ、サリバン、トランスファー、私に続け!」
フィリアスは4人の部下に呼びかけオセアニアを離れた。
ヒノモトの意識に言葉が流れ込んできた。『ジブラルタルへ行こう』
スプウェル・フェムーリオもオセアニアを離れた。そらから落ちてくるスペースコロニーは跡形もなく消えていた。
ジブラルタル海峡海底域のさらに下、そこに砂漠化から逃れ住み着く人々がいた。彼らは自らを『ドロノタミ』と名乗り、海と陸の境にあるバイストン・ウェルを求めた。
時間は少し遡る。メイたちのアドネスクはアドラス艇に連れられ海底を地底を進みジブラルタル海峡にたどり着いた。
「そろそろ上に出たいなぁ」
「こっちが先でしょ」
ジブラルタルの陸壁にアドラス艇がすっぽり入れるであろうほど巨大な蓋のような人工物があった。
「開けてもらいましょう。」
「壊せばいいんじゃないですか?」
「戦いに来たのではありません。気づいてくれるといいのですが・・・」
セナがアドラスから音波信号を出した。しばらくすると蓋が重々しい唸りを上げてスライドし、アドラス艇は栓を抜いた浴槽の水のごとく吸い込まれた。その先にはまた厳重な扉があり、今くぐった蓋が再び栓をすると開いた。その先にも第二第三とブロックがあり、さらに第四第五ブロックを通過すると地底空洞に出た。そこには彼らを出迎えるように8体の人型の機体が待ち構えていた。
「アラクネみたいなのがいる!」
人型の中に二回りも小さい蟲と人の形を合わせたような機体が3体いた。
『あの機体…やはり…』
マニが蟲型の機体を見ていると突如攻撃態勢になり、こちらに銃口を向けてきた。
「戦いに来たのではありません!」
セナが白旗をアドラスに掲げると彼らは銃口を突きつけたまま態勢を解いた。しばらくすると「私たちのような鎧はあるか?」と返ってきた。
「鎧とはなんでしょうか?」「私たちが纏っているコレだ。これを着て降りてこい」
メイとアキラはベルポッドに、アラウダとシルルはゲドラフに、マニはセルムの機体に、カントはセナの機体の掌に乗り彼らの元へ向かった。彼らは足元のふたを開け、来訪者を招き入れた。その下には広大な空洞があり、彼らのコロニーが広がっていた。
降り立つと小さい蟲型の機体の腹部が開き、半裸に恐ろしげな面をつけた筋骨隆々の男が現れ、しきりに合図をしていた。
「降りても大丈夫なようです。」
セルムの呼びかけに応え、外へ出ようとハッチを開けると、辺りは明かりのない深い闇で何も見えない。自動処理されたディスプレイ越しで見ていたために気づかなかったのだ。メイはベルポッドのツインアイライトを点けようと前のめりになった。汗の匂いがアキラの鼻孔をかすめた。
ライトが付くと男は慌てて腕で面を覆った。アキラは咄嗟にスイッチを切った。セルムが「すみませんでした。」と謝罪すると面の男は「少し待っていろ」と残し闇の中に消えた。
しばらくして男が戻ってくると手には面をいくつか持ち「これをつけろ」と言うように掲げた。セナは機体の掌を地面まで下ろしカントを差し出した。男がカントに面を被せると『ピピッ』という音とともに起動した。カントが無事なことを確認するとメイたちも男の下に行き、面を被った。
面をかぶると暗闇だった世界に色が灯った。
「周りが見えるのはいいけど…」「すごいデザインだなぁ」
ある程度の整理がつき、男が「お前たちはなんだ」と聞くとメイとセナがここに至るまでのことを話した。
「そんな事が・・・申し遅れた、私はジャレド・カラット」
「こちらにあるエンジンを譲って頂けないでしょうか?」
「あれは使い方次第でこの世を地獄に変えるかもしれない。私達が必要最小限で使っている。渡せない」
「同じものがあと11個もあります!一個隠したところで何も」「あいつらよりましですよ!」アラウダとアキラは熱がこもっていた。
ジャレドは考え込み、「皆で決めよう」と言うと雄叫びをあげた。それはコロニー内の隅々に響き渡った。
やがて民が集結し、彼らを取り囲んだ。ジャレドが聞き慣れない言葉で来訪者からの言付けを伝えると辺りは静かになった。
沈黙が限界に近づいた時、群衆の一人が立ち上がり「Wait to for industria.」と言った。
「Wait… and… it be done how?」「It's one-sided only by them. We judge industria.」「And?」「If which are vice, we kill it.」
「私たちはあなた方を信頼しています」
シルルが言った。
「ところで」マニが割って入った。
「あなた方の持つマシーンについて教えていただけないか?」
「マシン?」
「先ほど鎧と呼んでいたものだ」
「ああ、あれは全てここにあった、埋まっていたものだ」
「小型のは?」
「それは…」
「オーラバトラーではないでしょうか?」ジャレドが言葉を迷っているとセルムが答えた。ジャレドが目を見開くとさらに「バイストン・ウェルでしょう?」と続けた。
「お前達は…」その時、オーラバトラーと呼ばれる蟲型の機体が一斉に動き出した。
「な、なんだ!?」
「みなさん!地上へゆきましょう!」
シルルは地上で起きている異変を捉えていた。オーラバトラー達も上へ行こうとしていた。
「Move! Come here!」
ジャレドは自身のオーラバトラーを駆り一族を引き連れ暗闇へ消えた。
間も無く、コロニー全体が揺れ出し洞窟が崩れるのではないかというまでになった。
「我々も急ぎましょう!」
セルム達も自分の機体に乗りアドラスへ向かった。
アドラスが海底に出ると陸壁が裂けた。亀の甲羅のような、ドームのような形をした船、バレンドラが姿を現した。二隻の船が海上まで浮上した。
メイたちはアドラスの甲板に出るとそれまでの閉鎖的な空間から一気に解放された。
青く澄み渡り、ガリアからの風が吹いていた。
メイは風を浴び、遥か遠くを眺めていると
「何だ・・・あれ・・・」
その先には見たこともない景色があった。
「オセアニアに誰か行ってるの!?」
「今あちらにはフィリアス・パスパルト様の小隊がいるようです。」
「フィリアス!聞こえるか!フィリアス…見えている!今すぐこっちへ来い…ジブラルタルにだよ!」
ジャレドたちにもオセアニアの景色が見えていた。
[あれは…コロニー落とし、じゃないのか…まずい!]
バレンドラを再び海中に戻そうとした時、コロニーが消えた。
「It come... Attaaaaaack!」
バレンドラからモビルスーツとオーラバトラーがそれぞれ出撃し、オセアニアから来るものに向かっていった。
フィリアス隊はジブラルタルを目前にしていた。
「隊長!前方から何か来ます!」「多分援軍だ!我々はまず合流する!」と言いつつも前方から来る機体をよく見れば援軍かどうか疑わしかった。『こっちに奴らはいないはずだ…』と言い聞かせながらメイたちの元へ向かった。
クロードはエンジンのマーカー示されたマップを見ていた。
「インダストリアにあったエンジンの一つがオセアニア、そしてジブラルタルへ向かっている…」
「つーことは、姐さんのとこか」
いつの間にやらパンタがいた。
辺りにはタバコの煙が漂っていた。
「吸うか?」「よく持ってたな、これ吸うと落ち着くんだ」パンタはクロードのタバコで一服した。「久しぶりだ」