ヒノモトの精神は侵されていた。「あれかぁ!感じたものは!オーラロードが開いたかぁっ!」
ヒノモトの見るスクリーンには蟲のような機体が映っていた。スプウェル・フェムーリオはビームサーベルを構えオーラバトラーの一小隊へ突進していった。
「奴を止めろ!」「言われなくたって!」
フィリアスとメイの言い合いにクロードの通信が割って入った。
「こちらクロード、お前たちの近くにエンジンがあるぞ!フィリアスを追っている!」
2人は沈黙した、嫌な感じだ。「それって…」「あいつがッ…!」
「あの銀色がエンジンを持っている!」
メイとアラウダはベルポッドとゲドラフで発進した。
アドラスのメインブリッジから見ても一機を相手に優勢とは言えず、アキラはいてもたってもいられなかった。「何か他にないんですか!モビルスーツは!?」
「あなたが行ったところでどうにもならないでしょう。よしなさい」
「あなたができるんですか!僕の方が上手いんですよ!」
アキラはモビルスーツのドックに向かった、もぬけの殻同然のドックに。
「くそぉっ・・・!」
自らの頭を叩いた。加勢の道を断たれた・・・かに思えた。
『そうだ!』
アドラスのメインブリッジに戻り舵を取った。
「何をっ!?」「助けに行くの!」
アドラスを泥の民の船、バレンドラの上から限りなく寄せると
「マニさん!このままお願いします!」と言いアドラスの底面にある脱出口を開けバレンドラへ飛び降りる。バレンドラの甲板に降り立つとその先にはオーラバトラーが飛び立ったであろう入り口があった。
ドックに入るとただただ広い空間があった。ここにあったオーラバトラーは全て飛び立ってしまったのだ。そう思いながら一通り見回すと広い空間の奥の隅の方にただ一機、取り残されたように一機残っていた。
『思ったよりでかいなぁ…』
この時のアキラにはわからなかったがこのオーラバトラーは通常の倍の、モビルスーツと同等の大きさがあった。
『なんの形だろう?』
大型のオーラバトラーの周りを一周してわかったことは腰に武器がある事だけであり、どう乗ればいいかわからなかった。無重力であればまだしも重力の井戸の中では6メートル近く上にある腹部のキャノピーまで飛ばなければならなかった。『どうしよう…』
焦っているとバレンドラが大きく揺れた。
バレンドラからジュラルミンの塊に主砲が放たれていた。
「生け捕りにするっつったろうが!」少しでもずれていたら巻き込まれていたメイは吠えた。「いや、この程度であいつは死なないか・・・」
揺れでバランスを崩した大型オーラバトラーはそのまま倒れ、腹部のキャノピーが床に着いた。「しめた!」
アキラは乗り込みオーラバトラーを叩き起こした。
起動したオーラバトラーは立ち上がると前進し、背中に畳んでいた翅を蛹から羽化するように広げ
飛び立った
スプウェル・フェムーリオを視界に捕えたアキラのオーラバトラーは急加速、そして激突。
波動がその場にいた人々の内臓に響く。
それまで劣勢だった戦いは次第に巻き返しを見せつつあった。スプウェル・フェムーリオがまともに攻撃を食らったのはこれが初めてであり、それは彼らをわずかに安堵させた。
ところがアキラは碌に操縦しておらず、このオーラバトラーの意思が大いにはたらいていた。しかし楽観的な性格故に影響をほぼ受けずに済んでいた。
「このままケリをつけてやる!」「そういうのを若気の至りだというのだ、小僧!」
しかしアキラは自身の体力が消耗していることを気づいていなかった。
「はぁっ!なんで当たらないのっ!」「貴様がバカだからなぁ!」
オーラバトラーの打撃は空を切り出した。
「ふんっ!」
スプウェル・フェムーリオは攻撃を避けると掌を突き出した。
「アトミック・フィンガーとでも言おうか、これで終いにしてやる」掌が青白く光り、それは目も当てられないほど眩くなっていった。
ドォンッ
ヒノモトは頭を殴られたかのような衝撃を受けた。「アキラ!今だ、やれ!!」
スプウェル・フェムーリオに集中攻撃が浴びせられた。
「オオオオオオオオオオォォォ!!!」
アキラのオーラバトラーは吠え、腰に携えていた二本の剣を鞘から抜き、二刀流で斬りかかった。これを機とし、その場のモビルスーツ、オーラバトラーはスプウェル・フェムーリオを八方から取り囲んだ。
「こいつは捕獲じゃすまなそうだね・・・」
「数さえ多けりゃ勝てるというのか・・・?」ジブラルタル域の大気が変わった。
宇宙世紀、かつてこの地域は『アーティ・ジブラルタル』と呼ばれており、地上から宇宙に物資などを第一宇宙速度まで加速させ放り投げる、マスドライバーという装置がそこにあった。
さすがのアキラでも大気の異変に気付いていた。
「なんだろう、これ・・・」「アキラ危ない!」
アキラのオーラバトラーはスプウェル・フェムーリオに力一杯蹴り飛ばされた。吹っ飛んだ先で何かに嵌ったように固定され、動けなくなった。
「う、うわあああぁぁぁ!!!!!」
アキラの声の方向に、今までなかったものが出現していた。オーラバトラーはマスドライバーに、いや、崩壊しかけているマスドライバーを支えるように嵌り、身動きが取れなくなった。
なんとか抜け出そうともがく物の、その抵抗は意味をなさない。そうしているうちに突如アキラの眼前に見たことのない、どこかベルポッドを彷彿とさせるモビルスーツが現れた。
そのモビルスーツはビームを放出していないサーベルの柄を持ちオーラバトラーのキャノピーに突きつけ・・・
ヴンッ
ビームの刃がオーラバトラーを貫き、アキラは身が焦げていく痛みを感じた。
「!!!!!!!ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
アキラの叫びが尽きると共に、辺りも元に戻っていった。アキラのオーラバトラーは地へ墜ちていった。
アラウダのゲドラフはアキラを追尾し降下した。オーラバトラーのキャノピーを引っぺがし、アラウダはオーラバトラーのコックピットへ入るとアキラを抱き寄せた。
「アキラ…さむいの…?そう、さむいのね・・・」
アキラを片付けたジュラルミンの鋭い眼光はどこかを捉えている。
「まずいぞ…奴はギアナへ行く…!」
マニは総員に通達し、ジャレドは選抜隊を結成した。
スプウェル・フェムーリオは一気にトップスピードを出しギアナへ向かった。
「追うぞっ!」
といってもそのスピードは桁違いのものであり、追いつくのは不可能に近かった。
「クロード!そっちに化け物がそっちに向かった!」
「・・・・・わかってる」
クロードの見るマップには、接近している印が二つあった。その頃、インダストリアでは混乱が起きていた。
クロードとパンタの他にもマップを覗き込む者がいた。
アベニールだ。「今度こそ・・・」
そう呟くと「マオはどこにいるかな?」とクロードに尋ねた。
「ん?マオ?」
「安全なとこにさ」
アベニールは柔らかな笑顔を浮かべた。
ギアナ高原は物々しい空気だった。
「戦闘配備!?なんだってんだ!?」「姐さんたちが交戦中のまま来るんだってさ」
「それよりも」「問題は」アベニールとクロードは呟く。
彼方から轟音が近づいてくる、大気が歪む、ギアナ高地を機体が埋める
そこに奴が現れた
「かかれぇー!!!」ペイジがのろしを上げ、アラクネやブレッツェル達が一斉に飛びかかり、単体で乗り込んだ怪物は前後からの挟み討ちにされる
「多勢に無勢は無駄だと学習しなかったのかアホどもが!」
スプウェル・フェムーリオから青白い閃光がほとばしる
「動かない!?」
閃光を浴びたモビルスーツの機能が一斉に停止し、次々と高地に、あるいはテーブルマウンテンの麓まで落ちていった。
「貴公らの船をいただく、そこにあるんだろう?」
スプウェル・フェムーリオが剥き出しになったスリチュアンのトップマストに降り立ち、未だ埋まっている大部分に手をかざし、掌を青白く光らせた。
「うううおおおおああああああ!!!」一機のアラクネが怪物に特攻を仕掛けた。
「ふんっ!」
アラクネは片手で払い除けられた。
再び掌を向けるとその先には避難途中のクロード、アベニール、そしてマオがいた。マオは青白い光を見つめていた。
その光は赤みを帯びてゆき、空にもう一つの太陽が現れつつあった。
ジュラルミンの怪物の中で、ヒノモトは涙を流していた。行き場のないものが奥底からこみ上げ、唸りを上げながら
第二の太陽は白みを帯びてゆく。ギアナ高原がジリジリと熱くなりクロードの肌に痛みが走る
『溶ける』
クロードがマオを引っ張りスリチュアンに引き返そうとした時
凄まじくけたたましい轟音が炸裂した
世界が白に包まれ、細胞が焼かれ原子へ還る
事はなかった。
第二の太陽は消えた。スプウェル・フェムーリオは殴り飛ばされ、そこには、光に包まれた巨人の姿があった。
頭と四肢は白く、胴体は青、赤、黄のトリコロールカラーの光を放っており、右腕が大きく裂けていた。全身が傷だらけだった。
巨人はクロードの方に顔を向け、見つめているかのように動かずにいた。
「な…何だ…?」
クロードの額から一筋の汗が垂れた。
機械人形はほんのわずかに首をマオの方に傾けると光が一層強くなり、やがてシルエットもわからないほどの眩い光に包まれ、
消えた。
『何だったんだ・・・』
「!!!」
耳をつん裂くほどの鋭い音が響き、姿を消した巨人が再び現れた。
光は消え、身体の色はトリコロールから白金になっていた。その身体はまるで陶器のようであった。
白い機械人形は
マオと対峙すると
手のひらを差し伸べた
腹部のコックピットキャノピーが開いた。
そこに人の姿はなかった。
ただの空洞だった。
「マオ、ごらん」
アベニールはマオを機械人形のもとへ連れて行く。
「おい、何考えて…!」
「マオを呼んでいる」
「やめろ!」
「まだ終わってない」
「え…?」
アベニールの後ろで機械人形が吹っ飛んだ。
「!!!」
スプウェルフェムーリオが左手を伸ばし新たに原子の塊を生み出した。
機械人形が態勢を翻し原子の塊を生み出している左手をつかむ。
そして
引き千切る。
ちぎられた左腕から液が垂れて滴る。
「今だ、行け!マオ!」
アベニールに答えるように機械人形が再び手のひらを差し伸べた。
マオは導かれた
機械人形はマオを手のひらに乗せ、キャノピーの奥へ入れた。
白金色の身体に色がついてゆく。頭と四肢は白く、胴体は青、赤、黄のトリコロールカラーの光を放つ。
クロードは全身に力が入っていた。
「その色…その姿…」スプウェル・フェムーリオ、いや、ヒノモトの声が辺りに木霊する。「なぜ現れた・・・ガンダム・・・!」
残った右手を青白く光らせ『ガンダム』に向かっていく。
「オオオオオオォォォ」
ガシィッ
『ガンダム』の掌が頭部をコックピットごと掴んだ。
ググッ
そのまま
力を籠め
一気に
脊髄ごと引きずり出し、
ジュラルミンの怪物はこと切れた
「マオはまだ起きてないのか」
戦闘終了後、機械人形『ガンダム』はマオをクロードとアベニールのもとに返した。手のひらの上のマオは気を失っており、クロードがいくらゆすっても目を開けなかった。
「まだ早すぎたかな…次からは僕がのる」
「・・・・・・・・・・」
クロードは一睨みしてマオを自分のドームに運んだ。
引き抜かれたスプウェル・フェムーリオのコックピットには核、メインエンジンがついており、レトはそれをスリチュアン内のラボで解析していた。
「これは…!」
ヒノモトはクロードの尋問を受けていた。
「失礼します、クロードさん…」部屋の扉があきクロードが呼び出され
「………わかった。ヒノモトさん、あなたの機体でなにかわかったみたいです。少し待っていてください。えーっと」
彼は誰かを探している。
「レプリ!レイと頼む!」と言って彼は部屋を出て行った。一人の女性が部屋に入ってきた。
スリチュアンの発掘作業はペースを上げていた。
「ガンダムさーん!こっちお願い!」メイは早速機械人形をこき使っている。
「い、いいんすかねぇ?」「いいんじゃない?割と素直だし」
「せめて何か喋ってくれたらいいんすけど」「モビルスーツがしゃべるわけないでしょ」
クロードは嫌な汗をかいた。
「インダストリアが・・・不完全とはいえ造っていたとは・・・」「エンジンを基に作った劣化版というところでしょうか…」
スプウェル・フェムーリオの核と、彼らの集めているエンジンには不完全同一ながらも幾つかの共通点があった。
「あのガンダムがこっちにいる以上いつでも、いや、早いうちに潰さないと…」
レトの背筋に冷たい物が走った。『なんて怖い顔』
「クロードさん!!!」レトに通信が入り、クロードに渡す。
「どうした!?」「レプリがヒノモトを連れ出した!」
レプリはヒノモトをカントのもとへ連れて行き、彼を渡すとそのまま引き返していった。
「ご苦労レプリ。救援が来るまで隠れましょう」「どうするのだ?」
カントは掘削作業中の機体を指し「あれで下に降ります」と言った。
レプリは掘削の作業を見ていた。
「ん?手伝うのかい?」作業中のメイが話しかけた。「はい、あれを貸して頂けますか?」
「アラクネ?いいけど…ちゃんと使いなよ?」
レプリはアラクネに乗るとあらぬ方向へ歩き出した。
「あぁもう言わんこっちゃない…そっちじゃないよこっち!」
メイの声は届かない。
「様子が?」「そう、なんていうか、人が変わったみたいな…」
クロードとレイはレプリを探していると外に出ていた。
「何してんのアンタ・・・?」「レプリを見なかったか!?」「え?レプリならあれに」
といってメイが指をさした方向で一機のアラクネが大地から消えた。
「っ…!やられたっ・・・」「えっ?」メイが困惑している。
「レプリは乗っ取られていたんだ!」
一連の流れがあり、再び話し合いの場が設けられていた。
「―――――というわけで、仕掛けるなら今しかないと思う」クロードの提案に皆頷き、賛成の意を表していた。ただ一人を除いて
「それはどうだろうね?あのガンダムはインダスとリアから来たんだよ?」
アベニールだ。
「お前は……あれは罠だと?」
「そうじゃない。それもゼロではないだろうけど・・・
ガンダムを封じ込めるなにかがあってもおかしくはない。」
皆、首をかしげた。
「あのガンダムはどこから来たか・・・」
「それはインダス…トリ…ア…」インダストリアから来てはいるが開発したのはもっと別の…
拭えない違和感だ。
クロードはレプリのもとへ向かった。
「クロードだ、入っていいかい?」「どうぞ・・・」
真っ暗な部屋だ。
「ま、まぁ気にするな。君が悪いんじゃない」「でも…」「いいんだ、それよりも聞きたいことがある。知ってたらだけど」
「・・・・なに?」
「インダストリアでガンダムを見たか?」
インダストリアにいた彼女に聞けば何か掴める、そう思った。しかし彼女は眉間にしわを寄せ
「ガンダムの事はある程度なら…けど、インダストリアでは・・・」
「そうか…」
「私達はただの捨て駒みたいなもの、ほとんど何も知らされない。さっきのヒノモト…が乗っていた物も」
頼みの綱が断ち切られ、レプリの話は半分も入っていかなかった。行き詰ってしまった、と同時にふと思う。
なぜアベニールはマオを?
まるでガンダムの事を知っているかのような、いや、そうとしか思えない。頭に血が上っていたせいで考える余裕もなかったが冷静になればおかしい
「すまない、邪魔した」クロードはアベニールのもとへ引き返した。
「どう?」
クロードは戻るや否やアベニールを睨み
「お前次第だ」
「・・・・・ついてきて」
アベニールは再び地下深くへ向かっていた。エンジンのある場所だ。
「インスパイア―エンジン」
「・・・・・・・・?」なんだそれは
「この船のエンジンの大元、基礎になった物、2つ目の西暦ではそれがテンダー、モビルスーツに搭載されたんだ。」「なぁ」たまらず口を挟んだ。
「2つ目の西暦って・・・なんだ?」
「………んっ」
「!!!マオ!?マオ!かあさん!マオ起きた!!」
マオがガンダムから出て初めて目を覚ました。2日ぶりの事だ。ナユタはその間マオを看ていた。
「ほんと!?よかった」メイは安堵の息をついた。玄関が開き、クロードが帰ってきた。
「!マオ!大丈夫か!」
マオの表情はぼーっとしていた。「ん――――」頭はまだ冷めていないようだ。
「もう少し寝かせとこうよ」「あ、あぁ」
マオは再び寝息を立てた。
「―――おかーさん・・・」
『お母さん…か』
「で?進展は?」メイは夕飯の支度をしていた。
「え?あぁ…えーっと」何から話そうか「なに?」メイの眼つきが鋭くなる。
「あのガンダムはこの船のメインエンジンになるとかなんとか…」「・・・・随分なエンジンね」
もはや飽きれ顔になっていた。「いいよ。明日やってみる、食べよ?」
翌朝、日が昇る頃、ギアナ高地の空気は薄く冷たい。
スリチュアン発掘隊は冷たい空気の中におり、その中心にメイが立っている。
「これまで続いた発掘もいよいよ今日で終わる。みんな、気を引き締めて行こー」
「おぉーっ!」
発掘隊はメイを除いて気合十分であった。
その下で、スリチュアンの中でもう一つの作業が始まっていた。
「正直言ってこの船の全体像には完全にはわかっていないので、どこまで掘ったらいいかもわかりません。なのでスリチュアンそのものを起動させる。何か質問は?」クロードは発掘隊以外の人員をほぼ総動員していた。
「エンジンはまだ揃っていないんですよね?動かせるんですか?」リム・ペダルだ。
「アベニールが言うには…性能を完全に引き出すのに必要だから動かすだけなら何個かあればいいそうだ。そんで・・・あのガンダムがこのエンジンになる、らしい」
「じゃあ俺たちは何をするんだ?」リュウだ。「船内を隅々まで調べたい。手伝ってくれ」
日が水平線から光を放ち始めた。その光の中を2隻の船がギアナ高地に近づいていた。
「あれは・・・」
メイは目を凝らした。見覚えのあるフォルム、バレンドラとアドラスだった。
「あ、そうか」
メイは発掘隊へ「スリチュアンかあの二つの船のどっちかに避難して!どこでもいいから!」と告げた
2隻がギアナ高地へ降り立ち、アキラとアラウダとシルル、さらにチベットの一族と泥の民も姿を現した。
「メイさーん!!」アラウダがメイの胸に飛び込んできた。「おかえり、早速であれなんだけど…その船で引き上げられないかな?」
アドラス、バレンドラの2隻から錨を垂らしスリチュアンのトップマストと船首と思われる場所に引っ掛けた。
「バランス悪くないですか?」「今できるのはここしかないんだからしょうがないだろ」
「せーのっ!」
ギギッときしむ音がするも、浮上とまではいかない。それを見ていたアベニールが
「ぼくがガンダムに乗って一緒に引き上げるね」
ガンダムの白金色の機体の隙間から緑光色の閃光がほとばしった。
地面が、山頂が盛り上がってゆく、その光景をはたから見れば噴火か地殻変動の前触れに見えるだろう。
ズズズズズズズズズズズズズ
地面が割れ、次第に明らかになってゆく
海からクジラが顔を出すように
巨大な流線型のフォルムが
ゆっくりと姿を現した
「わぁ・・・」「すごい・・・」
赤く錆びた色が、海底から引き揚げられるかのような錯覚を引き起こす
それまであった一層の岩が、山頂が、地面が崩れていった
長期恒星間航行船スリチュアンが永い眠りから目覚めた
スリチュアンが完全に掘り起こされ、アドラスとバレンドラのスリチュアン内の移送、簡易ドームからの引っ越し、船内図作成と一層慌ただしさが増していた。
医療班や科学班は船内設備を片っ端から調べていた。
「えーっとこの装置は・・・・」
「それも酸素供給器じゃないですか?」セナとレトが行動を共にしていた。
「みたいですね・・・。」
「それだけこの船が大きいってことですね。でも・・・」
肝心の酸素生成器が見つかっていないことを思い出し、レトは顔をしかめた。酸素を供給できても生成されなければ役に立たず、乗組員は呼吸不全になり死んでしまう。水を電気分解して作り出す方法もあるが長期移民船、どこで補給できるかもわからない中、宇宙をさまようのは自殺行為であろう。
ふと、レトにある光景がフラッシュバックした。
「アベニールのいるところ・・・?」
レトはセナの手を引っ張り、塔のあるあの場所へ向かった。
「・・・・・・?」
「最初はこれのせいで大昔のスペースコロニーというものかと思いましたけど…」
「チベットより明るいですね。」
「ここが…酸素を生成する施設なんじゃ・・・」
「どうしたの?」
レトの体に緊張がはしる。アベニールが塔の中から出てきていた。
彼は澄んだ瞳をしており、真向から見据えると金縛りにかかりそうになる
「あ、あの・・・ここで酸素を生成するのでしょうか?」
「そう。ここだけじゃないけど。だいぶ永いこと動かしてなかったから完全に動くまで時間かかっちゃうな。」
「なにか必要なものはありますか?」
「うーん・・・水かな。」
「わかりました。」
レトはセナを置き去りにして部屋を出てしまった。
スリチュアンの大広場にエブリオ、チベット、泥の民がそろっていた。
「私達はこれよりこの地を立ちそらへむかう。チベット、ジブラルタル、双方から人員を募りたい。何人でもいい!インダストリアに立ち向かう力をくれ!」
クロードによる決起集会が始まっていたがレトはその中をモーセのように突き進み、クロードのもとへたどり着くと水の事を伝えた。
群衆から手が上がり「オレがとってくる」と泥の民の数人がバレンドラへ向かった。
メイやアラウダ、アキラたちは引っ越し作業に尽力していた。
「あーめちゃくちゃですね…結構下に落ちちゃったんだろうなぁ」
「さっぱりしていいじゃない」
「さっぱりねぇ・・・」
アキラに珍しくいつもの活気がなかった、あの戦闘を思い出せばこうもなるだろう。
『ま、しょうがないか・・・』「まぁ体は無事だったんだからさ、元気だしな」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「何をもたもたしている!時間はないんだぞ!!」
フィリアスがいつの間にか指揮を執っていた。
『チッ、うるさいんだよこのくそ坊や』
「メイさん、すごい顔してますよ」アラウダは恐る恐るメイの顔を覗き込んだ。
急に後ろの方が騒がしくなった。
「・・・・・?」スリチュアンの方を振り返るとやっとのことで収納したバレンドラが出てきていた。
「あー!!何してんだあいつら!!!」
夜が来た。
次に日が昇る頃にはこの大地を発つ、彼らはそれぞれの思いを馳せながら一夜を過ごしていた。スリチュアンの中で静かに過ごす者、外に出て天を見あげるもの、不安を募らせるもの、興奮するもの、様々だった。
「うぅ~やっぱ寒いや」アキラは幾分か普段に戻ったようだ。
「いよいよか…」フィリアスも見上げていた。
「怖いなぁ」ナユタも
セルムとセナは初めて星を見た。
「あれは何ですか?」
セナが天にある一際輝く丸い物を指差した。
「あれは月ですよ」
レトがいつの間にか外に出ていた。
「あれが・・・あれが、ムーン・・・美しいですね」
「えぇ、とっても・・・」
クロードやパンタ、ペイジ達は煙草の煙を肺一杯に吸い、夜空にふかしていた。
「これからどうなるんだろうな」リュウが言った。
「さぁな、しばらくは流れに身を任せようじゃないか・・・ん」
クロードは星を眺める少女を見た。
マオも星いっぱいの夜空を眺めていた。吐く息が白い。
「きれいだなぁ…天の光はすべて星なんだぞ、マオ」
クロードが語りかけた。
「うん」マオは北の遥か遠くの方を眺めていた。
全てを飲み込んでいきそうな星空は彼らに安らぎを与えていた。
インダストリア本部最上階で定例ミーティングが行われていた。
「ヤーパンでは戦闘があり、インディファイン・ギアの大損失」
「オセアニアでは実験設備に大きな損害、しかしエンジンは無事です」
「・・・・・わかりました。では開発部の方からお願いします」
インダストリア総取締役でありドルドレイの娘アルラは、父親とは似ても似つかない可憐な容姿だが冷たい目をしている。
「はい、コードプレアデスが」
「それはわかっています。それから?」
「こちらを、ここ数日のギアナ高地の様子です」
開発部員のホログラムが映像に切り替わり、高原が崩れ巨大な船が姿を現す様が映っていた。「これを受け我々は彼らの鎮圧に」
「コード・プレアデスが彼らに渡ってしまった今、手を出さない方がいいでしょう。しばらく泳がせます。どうですか?星間貿易部長官」
アルラの父、ドルドレイのホログラムに切り替わる。
「コード・プレアデスをまた奪えばよろしいかと」
「3年前を忘れました?勝手に動かなくなったから捉えることができただけ・・・私たちは何もやっていないのです」
「このままでは奴らは宇宙に行く、かと思われますが」
「CQTに目をつけられぬよう慎重に事を進めましょう」
「CQT…木星国を統治する団体に?」
「コスモ・クオン・トゥールビヨン・・・むやみに敵に回したくはありません」
夜明け近く
「これより出航する!我々は今より流浪の民スリチュアンとしてあの遥かな空を漂う事となろう!いつ帰るともわからない長旅になる。その間、よろしく頼みます」
錆色の船体に血脈の如く青い光が隅々まで迸り、ゆっくりと羽を広げるようにその体を天へと近づける。内部は全天周クリアになり、昇る日が眩しかった。
「浮上しました!」
「よし・・・スリチュアン、発進!」
スリチュアンの色が七色に発光し、船体下にリング状の粒子が出現した。
パウッ
大地が遠くなり、景色が丸みを帯びてゆく中、体にかかるGが増していった。
身体がつぶれるのではないか
そう感じ始めた時、重力がフウッと消え、身体が解放された。懐かしいような、温かいような心地よさに包まれると同時に、明るみを帯びていた景色は一気に静寂になった。
「静かだ」
悠久の刻を感じた。母なる大地を離れても、ぬくもりがあった。