ブラック★ロックシューター THE・GRAY WAR   作:イビルジョーカー

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ブラック★ロックシューター・THE・WAUGHの方が少々行き詰まりを見せ始めたので、もしかしたらの事も一応考えてこの作品を投稿しました。

ちなみに『WAUGH(ウォー)』ですが、これだと人名になってしまうらしく、
正しく戦争の意味で書くと『WRA(ウォー)』が正解らしいです(汗)

本当にすみません(汗)

なのでそっちの方は今月中に訂正する予定です。


では、どうぞ!





★ 前編 ☆

 

 

 

 

 

 虹色という、サイデリックな色彩を放つ天空に火花が弾け飛ぶ。

 

 空を舞うのは、漆黒に塗りつぶされたかのような色合いの髑髏に、蝙蝠のような翼が生えた形状を有する異形。彼等はギリギリと軋むような音を立てて下顎を動かし、口を開放させる。

 

そして、紫色の光弾を発射。

 

 その威力を例えるなら、戦車の砲撃の約10倍に相当し、喰らえばひとたまりもないのは傍から見ても理解できてしまうだろう。そして当然の如く、光弾を喰らい髑髏の異形と相対する勢力が次々と地に落ちていく。

 

 両翼の異形髑髏という、そんな勢力と敵対しているのは、姿形こそカラスそのまま。しかし頭部に一本の角を有し、左右二つずつ。計四つのを持った目を持つという奇妙なカラスの群れの勢力だった。髑髏が放つ紫色の光弾はカラス達に当たったものの、その全てに命中したわけではない。生き残ったカラス達は角から蒼白い電撃を放出し、それが一片の隈なく纏わり付くように髑髏たちを絡んでいく。

 

 そして、2分もしない内に爆発。

 

 先程のカラスたちと同じように地へと、その身に死を抱え重く落ちて行く髑髏たち。中には原型を残さないほど粉砕した状態で欠片を降らす者までいた。

 

「行けぇ! 奴等を殺し尽くせ!!」

 

 髑髏の勢力を率いている頭角。それは髑髏という点では他と同じだが、その下からは蜘蛛のような足が伸び、蝙蝠ではなく鳥のような両翼が左右に生えていた。彼は他の髑髏と同じように紫色の光弾を吐き、次々とカラス達の命を略奪し地へと叩き落す。

 

「怯むな! 我等の力、骨クズどもに思い知らせてやれ!!」

 

 カラスの勢力を率いる頭角の叫びで、一気に士気が向上していき次々と髑髏を倒していく。

 

 その姿は、カラスの翼のようになっている腕以外を除けば、極めて普通な少女だ。鳥をディフォルメに意匠したような黒のフードパーカーを上に羽織り、その下は青と白の縞模様のブラジャーのみ。

 

下半身は鳥の羽毛がびっしりと生えたスカートで覆い、足には鳥の翼を丸くしたようなデザインの白の刺繍が施されたブーツを履いている。

 

 まさしく、その姿はギリシャ神話に登場するハーピーに近いものだった。

 

 電撃と光弾。凄まじい爆発の連続。それらの応酬はまさしく戦火、戦い、闘争の形を実現したものに違いない。いつ終わるとも分からない壮絶な空中戦線だったが、それは別の勢力の介入による強制的に終わる事となった。

 

 突如として降り注いだ、様々な色の光弾とミサイル。幾千幾万にも渡る量のそれらにカラスと髑髏の勢力は共ども落とされる結果となってしまった。

 

「ぐっ、あァッ……一体何が」

 

「い、痛てぇ……」

 

 ハーピーのような少女『バード・スラッシャー』と、髑髏の『ボーン・アウター』は敵から受けたダメージに悶絶し、蹲る。

 

「貴様等、ただちに戦闘行為の一切を停止しろ。さもなくばここにいる全員皆殺しだ」

 

 凛としながらも、重圧とした厳格な声が戦場が響き渡る。その声の主は白い少女だった。長い白髪を右側

が長く、左側が短い左右非対称のツインテールに纏め、上半身の服装は、純白のビキニの上に、裾がコートのように長い前開きのパーカーのみを羽織っている。

 

パーカーの背中と左胸には黒い星マークがあり、袖には黒のラインが走っている。これに対し下半身は白のホットパンツに黒いベルト、白色のロングブーツを着用。

 

 まさしく全身が白を多めとした白装束に包まれたその姿は、まさしく『白い少女』と称するに相応しかった。そして一番他者の目を引き寄せる彼女の特徴は、右目に灯った双眸の瞳とと同じ『憤怒』と『邪悪』を連想させる『真紅の炎』と、右腕の手首を飲み込むかのように装着された身の丈ほどの白い筒状のカノン砲

 

 そしての銃口は、バード・スラッシャーとボーン・アウターの両名へと向けられていた。

 

「今、この状況下において貴様等に与えられる選択肢は二つに一つ、この妾の手で直々に命を失うか。もしくは妾の傘下に入るかだ。それ以外は決して認めん」

 

 ダメだ。この少女に逆らってはいけない。

 そんな思考が、バード・スラッシャーとボーン・アウターを支配した。そう確信させる根拠は二つ、一つは白い少女の気迫だ。オーラとも言うべきそれは、まるで高い数値の重力であるかのような強い圧迫感を心身共に感じさせ、そのせいでバードとボーンの両者はまったく動けないのだ。無論、先程受けたダメージによる所もあるだろうが、それを踏まえたとしても……まったく微動だにできないほど石像のように硬直しているのだ。

 

 もう一つは、彼女の背後に立つ大規模な軍勢。その数はバードのカラス勢力とボーンの髑髏勢力を合わせたとしても足りないほど、圧倒的な数だった。

 

 白い少女やバードのように人間に近いフォルムの者が多いが、動物や植物の意匠を持つ者や外見的に機械や無機物を感じさせる者。人間には遠いフォルムの者達も軍勢の中に多種多様と混じっていた。

 

「できるだけ早く決めてもらうぞ? いつまでも、こうしいるわけにもいかないからな」

 

 向けられた銃口に少しだけ赤く光るエネルギーが集束される。つまり…もう残り時間は少ないと言うことになる。自分の命とさっきの攻撃で生き残った仲間たちの為、ここは絶対的な勝者である白い少女の傘下に入り従僕となる以外に道は無かった。

 

「よし。良い判断だ。妾の名は『ホワイト☆ロックシューター』。全てを壊し支配する者……覚えておくがいい」

 

白い少女、『ホワイト☆ロックシューター』は鋭く尖った歯を見せながら、凶悪的な笑みでバードとボーンに語りかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クシロロ。

 

 そこは虹色の空とチェス盤のような白黒柄の大地が広がる、地球の浮かぶ宇宙とはまったく違う法則で縛られた異空間。そこでは日々二つの派閥に分岐した両者の戦いが、永延と思うほどの時間の下に繰り広げられていた。

 

 この世界には様々な物質を生成する力を秘めた『ラックワイトエナジス』という特殊なエネルギーがある。そして、それを脳と心臓の代わりとし、生命維持と意思を司る中心核とする知的生命体が存在する。

 

 彼等は自らを『ハートレス』と呼び、心底から絶えず沸き起こる闘争本能に従い、常に生死を賭けた終わらぬ不毛な戦いに身を投じていた。

 

 彼等の最大の特徴は、生まれた時から秘め持つ戦闘能力と頑丈な身体。そして人間で言う所の『感情』がタイプにそれぞれ差はあれど『欠如』、あるいは『低い』のである。

 

 簡単に説明すれば、例えばAのハートレスは『喜怒哀楽』の内の一つである『怒り』がなく、『後悔』と言う感情も欠如している。更にBのハートレスがいたとして『喜怒哀楽』の内、『哀しみ』が表情として顔に出ることが一切ないほど低いと同時に『楽しさ』が欠如している為、『娯楽』関連における概念が理解できないなど。

 

 欠如している感情の種類と数、低さの度合い、それらは個体ごとによって千差万別なのである。

 

 それ故か人間の倫理観では理解できない部分も当然ある。そもそも当然の疑問として、彼等は何故こんな利益もない何もない不毛な戦いに身を投じるのか。

 

 それはハートレスたちにも分からないもの。強いて言うならば沸き立つ戦闘欲を満たす為……と言えば、それまでであり、ハートレスたちも容易く納得してしまうだろう。何せ彼等は自分達が戦うと言うことに関して疑問など抱いたりはしないのだから。

 

 彼等にとって生きるとは、戦うことも同義。

 

 どれほど惨めで滑稽でも、その身がある限り戦士としての誇りを失くさず最後まで戦い抜く。それがハートレスの存在定義でもあったのだ。

 

 だが、そんなハートレスたちの中になんと戦いを好まぬ者達が続出した。彼等は人間の概念で言い表すなら、まさしく『平和主義者』と言う部類に属する者達だった。しかし、ここは戦いこそが物を言い決定する残酷な世界。通常のハートレスたちにとって彼等は絶好の獲物に過ぎなかったのだ。

 

 しかし彼等は、何もせずに平和とのたまい続けるほど脆弱ではなかった。この残酷な世界を変える為に争いという争いの根絶を成そうとした結果、この世界における一般基準のハートレスならば絶対にしないことを彼等はして見せた。

 

 『徒党を組み、連携プレーで敵を倒す』。

 

 地球における人間や狼などの社会性を持った生き物ならば、生存率を上げる為に当たり前の事として実行する何でもない合理的な行為。しかし、互いが互いを敵同士と認識して来たハートレスにとってしてみれば、異様な行動以外の何物でもなかったのだ。

 

 とにかく、この戦略によって平和主義者のハートレスたちは、そうではない者達の手によって狩られる事はなくなり、逆に敵対して向かって来るハートレスを次々と返り討ちにしていった。

 

 その姿は、まさに敵対するハートレスたちにとって脅威そのものに違いなかった。

 

 平和主義者のハートレスたちはその勢力を次第に拡大させていき、それに伴い、今まで旧い考えだった闘争主義のハートレスたちが減少。中には闘争主義をもう時代遅れの考えだと、そう認識し割り切って平和主義に鞍替えする者たちもいた。

 

 だが、それでも頑なに闘争主義を掲げるハートレスたちはおり、その思想を諦めることなどなかった。

 

 平和主義者たちに抗う為に彼等が取った手段は、皮肉にも平和主義と同じ『徒党を組み、連携プレーで敵を倒す』というものだった。

 

とは言え、闘争主義者たちにとってそれは難攻不落の課題に等しかった。

 

 連携しようとしてもうまくいかず、それどころか下手すれば些細な原因一つで自滅する杜撰な始末。そこで戦闘能力の高いハートレスが暴力での圧制を用いることで強制的に従わせるという、そんな手段が用いられるようになった。

 

 酷い話だが、闘争主義者たちにとっては効果覿面と言わざる得ない成果だった。

 

 こうしてクシロロ世界はいくつかのグループ勢力に分かれた闘争主義者たちと、勢力を強大的なものへと成長させた平和主義者の勢力『クロワ』という相対的な形となった。しかし闘争主義者たちはグループ同士での潰し合いを頻繁に起こし、かく言うボーン・アウター並びバード・スラッシャーの両名も例に漏れず該

当していた。

 

 しかしそんな彼等も、今ではクロワに匹敵する闘争主義者の大規模勢力『ハクト』の傘下に加わり、幹部級ハートレスとして任に付いている。

 

 ここに来て平和主義と闘争主義の勢力図が大きく変わろうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クシロロには、東西南北に位置する大都市区画が数えて四つ存在する。総面積は東京都一個分に相当し、一つの区画に対しその周りを囲むように小中区画が点在。四つの大区画は平和主義を掲げるハートレスの勢力『クロワ』が統制する地域として治めていた。

 

 そして、この上記二つの勢力に属さない中立的位置にいるハートレスは皆、クシロロの様々な場所で拠点となるコロニーを形成している。

 

「……甘い。これって、ロックの言ってた『ぢちゅう』ってところの……え~っと…」

 

「地球よ、地球。そしてこれはお菓子。マカロンって言うものだよ」

 

クロワの東大都市区画『シューティー』。

 

 その一角にあるクロワの東大都市区画防衛本部は、漆黒に塗り潰されたかのようなカクカクとした歪な形状の塔であり、その天辺にある円形の展望広場にて腰を下ろす二つの影がいた。

 

1人は黒髪を右側が短く左側が長い左右非対称のツインテールにしており、その肌は雪のように美白で上半身の服装は黒のビキニの上に裾がコートのように長い前開きの黒いパーカーのみを羽織っており、パーカーの背中と左胸には白い星マーク。袖には白のラインが奔っていた。 そして下半身は黒いホットパンツに白いベルト、黒のロングブーツを着用。

 

 まさしくその姿は、『黒の少女』へと反転を果たしたホワイト☆ロックシューターのようだったが、彼女とホワイトはまったくの別人同士であって、決して同一人物ではない。

 

 もう1人は黒いゴスロリ衣装に身を包み、両足にはバイクのような黄色のタイヤが装備されている。頭には黒の冠が装飾され両手は漆黒の外骨格に覆われており、髪型は少々癖の入った黄色のロング。瞳も髪と同色である。

 

 黒き少女の名は『ブラック★ロックシューター』。

 

 平和を掲げるハートレスたち『クロワ』の二代目統率者で、その力は闘争主義のハートレスたち『ハクト』の総督であるホワイトに匹敵する程のものを秘めている。

 

 そしてそんな彼女の隣に座る車輪少女の名は『チャリオット』。

 

 両足のタイヤ部分を生かしたスピード戦で相手を翻弄して倒す、クロワにいる数少ない精鋭の1人である。彼女の手にあるのは本来、この世界には存在しない筈の物である筈のお菓子マカロン。

 

 何故あるのかは、まったくの不明だ。

 

『ロック! こちら東大都市区画2-0エリア担当のストレングス! 応答を頼む』

 

 少しエコーがかった、青い星の立体映像エフェクトが宙に発生すると同時に幼さを感じさせる少女の音声が響き渡る。様子から察するに相当な緊急事態と察したブラックとチャリオットは立ち上がり、いつでも迎撃できるよう互いの愛武器をテレポートさせる形で召喚。

 

 “★Rock Cannon(ブラック・ロックカノン) ”

 

 ブラックの左腕を飲み込むように装着された、身の丈ほどもあるエネルギー機関砲の名称。

 

 威力は相手を麻痺程度にさせるまで弱められ、相手に大きな風穴を開けさせるほど中ぐらいに。

 

 そして相手を一欠けら残さず、木っ端微塵以上に吹き飛ばすほど強くすることが可能。

 

 更にエネルギー弾のみならず実弾での使用や連射、ライフルのように狙撃できるモード機能まで備わる、まさに至り尽くせりの万能武器だ。

 

 これに対し、チャリオットの愛武器は自立意識を持った蜘蛛型戦車『メアリー』。大きさは横10m、縦7mを有し、口から追尾ミサイルやレーザー光線を発射する。主人であるチャリオットとブラックの命令には純粋に従うが、他の者は大抵無視を決め込む(無視しなかったにしても激しい攻撃を喰らうので、無視された方が断然良い)

 しかし『○○○の命令に従いなさい』と命じられれば、間接的にチャリオットやブラックが指名した相手に従う。その代わり指名した相手に対して少し粗暴で雑な面があるが……。

 

「ストレングス。こちらブラック。状況の説明をお願い」

 

『ああ。私が担当の2-0エリアにハクトが強襲! 2-01、2-02、2-03、2-04の全区域がハクトからの攻撃を受けている。こちらだと武器も戦力も足りない……至急増援を頼む』

「分かった。私達が向かうから待ってて」

 

 通信を一旦切り、同時に青い星のエフェクトも消えた。ブラックとメアリーに搭乗したチャリオットは、展望広場から一気に跳躍。下にあった歪なデザインの建物へと移る。

 

 そして次々と建物と建物の間を跨ぎ駆けながら、目的地である2-0エリアへと急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2-0エリア群は、2-01と2-02。そして2-03と2-04の計四区域に分割されている。ここでは武器や兵器研究・生産の為の施設や工場が多く点在されている。その中には一般のハートレスたちには知られていない『ある物』が厳重保管されていた。

 

 今回のハクトの奇襲は、それが原因でもあった。彼等はその『ある物』を奪取することこそが目的であり、同時に戦略的な面での『敵側の兵力潰し』も行っていた。

 

 無数無限とも思える実弾とレーザー弾。更に絶大な殺傷力を秘めた閃光が戦場と化した2-03区域を駆け抜け、そこはもうこの世の地獄と称しても大差ないほどの凄惨を極めていた。

 

「ぐっ…」

 

「あっ……」

 

 前線で白兵戦を展開していたクロワの戦士が二人ほど、呆気なく死んだ。二人とも男性で精鋭には入らずともそれなりの実力を持っていたのにも関わらず、一瞬の内に殺された。

 

「これがクロワどもの実力か? 脆弱にも程がある」

 

 二人の命を奪った死神の正体は黒を基調とし、緑色のラインが入ったラフな姿の青年だった。白髪で右の前髪が黒い稲妻模様となっており、履いているハーフパンツには手に持った二丁のライフル銃に装填する為の銃弾が巻き付いている。ラフでありながらも、色々と物騒な格好をした彼の名は『リリオ』。

 

 『兵長』という称号を持ったハクトの幹部で、主にハクト兵士の育成・指揮を担っている。その戦力は申し分なく、クロワの精鋭二人を同時に相手取る力量が備わっている。

 

「ハクトの兵長リリオだ!」

 

「殺せ!」

 

 今度は重厚な騎士の鎧を彷彿とさせる白い外骨格を身に纏い、その手に持ったマシンガン銃でリリオを討ち取ろうとするクロワ戦士の戦闘部隊の一つ。総数は38に及んでいた。

 

「随分と鈍そうなのが出てきたな」

 

 そんな軽口を叩きながら銃弾の雨を余裕に掻い潜り、トリガーを引く。ライフルの銃口から緑色のレーザー弾を吐き出させるリリオだが、その堅牢な外骨格が障害となり、中身を貫くことは敵わなかった。

 

「チッ!」

 

 ライフルによる攻撃が無意味だと瞬時に理解し、半壊した建物の陰へと身を避難させる。

 

「俺の位置が見えるかマズマ。見えるならお前の狙撃で敵を一掃しろ」

 

 リリオの顔の横に緑色のマークのエフェクトが展開される。ブラックの時と同じく『伝播系統』に属す『アーマメント術式』と呼ばれるものだ。

 

『了解だリリオ………さぁ、我が真髄をとくとご覧あれ!』

 

 仰々しい向こう側の相手の声と共に一筋の赤い光弾が敵の1人に撃ち込まれる。貫通する事なく、そのまま体内に残留した赤い光弾は急速分裂し膨張。敵を体内から弾け飛ばすように始末するばかりか周りにいる残り37の敵に被弾、次々と蜂の巣へと変えていく。

 

「助かったマズマ。その芝居がかった口調はともかく、狙撃の腕は賞賛に値する」

 

『まぁ、これも俺の任だからな。あと一言余計だ』

 

 リリオのいる地点から上空100mの位置にあるステルス戦闘機『メルバス』。全長は20mほどあり、その形状は地球で言うところのエイに似通ったものをしている。そして、その背中に当たる部位で悠然と立ち、その手に身の丈以上の赤いカラーをしたスナイパーライフルを持つ1人の青年。

 

 彼こそがリリオが通信で言っていた『狙撃士マズマ』。無論ながら幹部の1人だ。

 

 狙撃を己の力を最大限に生かせるフィールドワークとしているものの、白兵戦・空中戦においても遜色ない実力を持っている。好戦的な性格で、真っ赤なトレンチコートのような服と左右非対称のガントレット並び服と同色のブーツを着用した赤ずくめの格好をしている。

 

 更にその赤という色に似合い、炎を操る能力が備わっている。故に火のある場所では圧倒的有利を誇る。

 

「しっかし、『アレ』を手に入れる為だけに、強力な武力・兵力が集中してるこのエリア群を狙うなんて。とんだ蛮勇者だな~あの方も」

 

 リリオとの通信が向こうから先に切れ、マズマはそんな感想を空から零す。赤い髪を空の風に靡かせる彼の目には、敵味方関係なく命が消え続ける戦渦が広がっていた。それに呼応するかのように彼は語る。

 

 まるで劇場に立つ役者のように。

 

「おお、死よ。災厄よ。何故貴方らは我々の命を奪うのか。それは我等の業故か、それとも、世界の絶対的なルール故…か」

 

 マズマが1人そんなことを呟いているのを尻目にリリオは戦闘を続行しながら、2-03区域内の制圧に向けて戦闘行為を続行。

 

 その一方、リリオのいる2-03区域とは違う別の区域『2-02』において、先程ブラック★ロックシューターに応援を要請したストレングスとハクトの突撃部隊と衝突していた。

 

「喰らえ」

 

 削岩機のように巨大な漆黒の両腕の愛武器『オーガアーム』を変形させてガトリングガンにし、弾丸を連射する形で敵を攻撃するクロワの精鋭の1人『ストレングス』だ。体躯は小柄な部類に入り、顔を少し隠した黒のフードと同色の服を着用した格好となっている。

 

 ストレングスのガトリングを受けて人間に近い姿の者や、人間とは大きくかけ離れた姿の者問わずハクトの兵士達は、次々と餌食にされる。そんな中で彼女のガトリングによる猛攻を不可視の防壁で遮断する者がいた。

 

 黒と紫の魔女のような格好をした、一人の女性。年齢的に20代後半くらいに見える妖艶な魅力を孕んだその女性は、自身が手に持つ箒のようなデザインのショットガン『ウィッチ・バレット』の銃口を向けながら軽快な声を上げた。

 

「ハーイ! ブエナス・タルデス! 久しぶりね、ストレングス」

 

「……ミー」

 

 警戒を解かず、ストレングスもガトリングの標準を目の前の女性……ミーに向ける。

 

「あらら。随分なご挨拶ね」

 

「敵と流暢に話す気はない。死んで失せろ」

 

 にべもなく断るストレングスだが、それが正しい判断だろう。そもそも先に殺意ある攻撃を仕掛け、銃を向けたのはミーと彼女が率いる奇襲部隊だ。非の言いようがない。

 

「可愛げがまったくないわね。そんな子はお姉さんがお仕置きして上げる!」

 

 ウィッチ・バレットを変形させ、一振りの大鎌『ヘル・マジック』にさせたミーは一気にストレングスへと詰め寄り、横一線に彼女の身を切り裂こうとする。コレに対しストレングスは即座に後方へ下がる事で回避。

 

ガトリングを容赦なく浴びせるが、先程と同じ不可視の防壁が銃弾を阻害してしまう為、無意味に終わった。

 

「多く撃つだけじゃ、私のこのバリアは破れないわよ?」

 

「……そのようだな」

 

 ここでオーガアームを元の手腕形態へと戻し、その鋼鉄の拳へと力を込める。そして一気に防壁を砕かんと、左右のラッシュで一方的に殴り付けた。

 

「ふふっ、さっきに比べれば良いのは認めるけど。それでも全然足りないわよ?」

 

「なら、もっと上げればいいだけのこと」

 

 その言葉と共に両手の甲から小型ブースト装置が展開。

 

 ラッシュを止め、噴射の推進力で更に威力を高めた二つの拳は先程のラッシュよりも強く、不可視の防壁を抉っていくかのように徐々に増していく。

 

 そして……。

 

 

 

 バリィィィィィィンッッッッッ!!

 

 

 

「う、うそっ?!」

 

「終わりだアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」

 

 障害を自らの手で打ち破り、そして凄まじい威力の篭った鉄拳がミーの腹部へと突き刺さる。そして、大きく彼女を吹っ飛ばした。

 

「ぐゥッ……見事にやっちゃって、くれたわね……」

 

 近くの半壊した建物の壁に激突したミーは腹部の大きな損傷を抑えながらも、何とか立ち上がる。

 

そんな彼女に冷酷ながらも止めを刺す為、死の鉄拳を見舞おうと灰色のエネルギーを右拳へと注ぎながら一歩、また一歩とミーに近付いていく。

 

「これで、お前の命は潰える」

 

 死の宣告だった。

 

 それを発言した以上、今更撤回などありえない。

 

「(あ~あ、私死ぬのかな。まぁ、これも戦場に立つ者の定めってやつかしらね)」

 

 ダメージと損傷のせいで攻撃ができない状況ながらもミーは達観していた。ミーは他ならぬ闘争主義のハートレス。命をもって生まれた時から他のハートレスを無差別に駆逐し、闘争の在り方を長く見つめて来た彼女にとってしてみれば、これは当然のこと。

 

 弱い者が死に、強い者が生き残る。

 

 弱肉強食こそ闘争主義のハートレスたちが敷くたった一つのシンプルなルール。故に自分はストレングスという強者の下に死ぬ……そんな思いを心中に駆け巡らせていた。

 

 しかし、そうはならなかった。

 

「ミーッ!!」

 

「ぐっ!」

 

 ミーを呼ぶ声と共に一筋の緑色の光弾がストレングスめがけ向かって来る。それをオーガアームの甲で防ぐが威力を完全に殺し切れず、先程のミーのように吹っ飛んでしまった。

 

「大丈夫か、ミー?!」

 

 そんなストレングスに目も当てず、少し焦燥を浮べた表情でミーの下へと駆け寄る1人の青年リリオ。あの攻撃はどうやらリリオの物のようだ。

 

「リリオ……ええ、腹部の損傷は酷いけど生命維持に問題はないわ」

 

 その言葉を聞き、安堵の表情を浮べるリリオ。そして憤怒に満ちた視線をストレングスに向ける。

 

「やってくれたな、ストレングス」

 

「……お前は、リリオ」

 

 ハクトの幹部である兵長リリオとは、ストレングス自身何度か戦った経験のある相手だ。いつも互角に終わるだけで未だ決着がついていない、油断ならぬ強敵だ。

 

「リリオ、貴方2-03区域の制圧任務に従事していたんじゃなかったっけ?」

 

「それなら部下に任せた。俺とミーは互いに『コア』が繋がっている。ミーの危機を察知し助けに来た

 

 ミーの問いにリリオは戸惑いを見せず真っ直ぐにそう答えた。しかしストレングスは、それを鼻で笑って見せた。

 

「ふん。闘争を是とし、他の命を奪うことしか頭のない連中の言葉とは思えないな」

 

「お前がどうこう言おうが関係ない。俺がここに来た目的はミーの救出と貴様の殲滅だ!」

 

 ハクトの兵長とクロワの精鋭。両者の火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~まったく。リリオの奴、与えられた任務をホッポリ出すなんて……まぁ、それだけミーの奴が大事ってことか。おお、何と素晴らしい旧き良き時代の契り……けど、俺にはそういうのサッパリだけどな」

 

 厳重に管理された2-04の地下中枢施設。しかしマズマはそれを意に介さず、あらゆるトラップや敵を撃破。そして目的の物がある『地下10階 秘密格納室』の自動ドアの前に立っていた。

 

「ふむ。こいつはクードゥーカー(人間で言う所のパスワード)式か。しかも五重になってるな……こういうのはナフェが向いてるんだけど、面倒だが仕方ない」

 

 己の愛武器『イクトゥス・フレイム』という名の、歪なフォルムをした巨大な銃剣を自身の下へテレポートさせ召喚。そして刀身に膨大な熱エネルギーを集束。一気に噴火させた。

 

「さぁ、我が身の炎に焼かれろ!」

 

 またも芝居がかった口調で獄炎と化した刀身をドアへ叩きつけるようにして、熱と刃で一気に切り裂く。そのまま足を踏み入れようとしたマズマだが一瞬、何かを感じ取り数m後方へと跳躍する。

 

「……感が良いのね、貴方」

 

「『デッドマスター』……そんでもって『スカルヘッド』か」

 

 先程まで彼がいた位置には深い三日月状の切れ込みがあり、あともう少し反応が遅ければその身を無残に切り裂かれていたに違いない。そして、それを行使した者はドアの先にいた。

 

 まるで、死を厳然と纏ったかのような少女だった。

 

 背中を思い切りパックリと開いた漆黒のワンピースドレスを身に纏い、骨格を彷彿とさせる尖端が緑色に染まった角。背中には鎌の刀身のような部位が存在し、その部分も角と同様の色で彩られている。

 

その左右には巨大且つ、両目と口から不気味な緑色の光を発する骸骨の頭部が浮かんでいる。

 

 少女の名は『デッドマスター』。

 

 クロワが誇るストレングスやチャリオット等と同じ精鋭の一員である。そしてその左右に浮かぶ頭蓋

骨は『スカルヘッド』という名の兄弟。ちなみに外見的区別がない為、皆彼等の性格と雰囲気、そして口調で見分けるらしい。

 

「兄者! 見ろよ、敵だぜ敵!」

 

「……言われずとも分かる。マズマだろ」

 

「んじゃ、とっととぶっ潰そうぜ! ヒャッハハハハ!!」

 

 と、このように弟『ジニー』はハイテンションで軽快溌剌。

 

 対して兄『コニー』は寡黙的で、厳格な雰囲気を発している。

 

「お喋りはそこまでにして。行くよ」

 

 その手に持った骨格を意匠を持つ大鎌『デッドサイス』を振るい、マズマの首めがけ駆け出した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん。どうかね~これ」

 

 2-00エリア群がまさに激戦を休む暇もなく繰り広げているその頃。3-00エリア群の部隊は暢気に2-00エリア群全域を一望できる『2-02エリア展望塔』、その頂上の広場にて戦闘の様子を伺っていた。

 

 そして上記の声はクロワの精鋭の1人であり、3-00エリア群の一部隊を引き連れた隊長『テト=グラビオン』。ドリルを彷彿とさせるロール状のツインテールをし、軍服をモチーフにしたようなノースリーブにスカートを履いた格好として風貌を整えている。

 

 クロワの精鋭の中で、随一の『科学者』である彼女は一刻も早く向かうべき戦場に行かず、ただ困った表情を顔から滲ませ傍観するのみだった。

 

「あ、あのテト様。我々の任は2-00エリア群の援護ですよ? であればこのような場所で傍観など……」

 

「……君は実に馬鹿だなぁ~戦士君」

 

 ただ正論を述べている筈が、まるで彼の言葉が正しさとしては不合格とでも言いたげな不満に溢れた顔で見ているテトは、一つ溜息を漏らしながら答えた。

 

「はぁぁぁぁ………いいかい? 確かに僕等の使命はこの2-00エリア群の援護。それは間違いない。けど、まずは敵側の戦力がどのような構成になっているのか。あと、何処をどのような形で援護に入るか。これを考えずして闇雲に戦場に入ってこようなんて大間違いさ。

僕の言いたいことが解るかい?」

 

 戦場では何が起こるか分からない。常に万全の態勢で臨めるよう策を弄することは、戦場において非常に必要なことであり、その為の状況分析もまた必要なことに違いはない。テトは実行するよりもまず考える方だ。考えてから実行に移す……それが彼女なりの戦法であり、

合理的に基づく論故に外野がどうこう口出することはできないのである。

 

 尤も、今回に限っては思考の時間を長めにしてしまったことが仇となった。

 

 3-00エリアの援護部隊に狙いをつけたハクトの航空部隊が、およそ900ほどの多数による襲撃を開始。900から成る航空部隊の

一個隊を指揮するのはバードスラッシャーが最も信頼する唯一の親友『フレイム・ファルコン』。真っ赤な髪をライオンのような…あるいは炎のように逆立て、オレンジのファイアーパターンが刺繍されたルビーカラーのロングコートを着用。そして両腕はバードスラッシャーと同様に両翼となってはいるが、こちらの場合は暗黒と称するほどに黒い炎そのものが翼の形を成している。

 

 両足は太股辺りからダークブルーの外骨格に覆われ、左右共に三本の足指には鉤爪が獲物の肉を切り裂こうと鋭利に輝いていた。

 

「我が部隊の全兵に告ぐ! あそこにいるクロワどもを生かすな。全て例外なく皆殺しにしろ!」

 

 高速で飛行しながら、その後を続く白き衣に身を包むハーピーに似た航空部隊の兵達はクロワの戦士たち目掛け『ハイパーボイス』と呼ばれる、音波振動弾を口から生成し発射。クロワの戦士はその身に纏う鎧のような重装備で何とか防ぎつつ、同時に手に持ったレーザー銃

で赤、青、緑の三色に分かれた閃光を放ち応戦。

 

 やがて閃光に撃たれ墜落死した者。重装備が大破して死んだ者が出始めた。

 

 そしてクロワとハクト、両者の部隊を率いる頭角は頭角同士の戦闘を繰り広げていた。テトは自らの能力である『反重力』で空を飛び、

自らの愛武器である回転式ドリル『グランド・スピアー』に『重力増加』を付与させ、威力を倍増。それによって速く重い攻撃のラッシュを繰り返すも、それをフレイム・ファルコンは冷静且つ的確に捌いていく。

 

「ふむ。中々どうして練度の高い攻撃か。しかし、一つ一つが計算された動きと言うのは存外読み易いものだぞ?」

 

「ははっ、安心してよ。こーゆー時は合理的ではなく、非合理的に行けばいいって、ちゃんと認識してるからさ!」

 

 互いに軽口を叩きながらも、一切の隙も見せない両部隊の頭角による攻防戦。

 

 この熾烈な空中戦、果たして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東の大都市区画2-00エリア群に存在する2-03エリアにある地下中枢施設。その内部で繰り広げられているのは、クロワの精鋭の1人『デッドマスター』とハクトの幹部である『狙撃士』の称号を持つ『マズマ』。

 

 この両名がそれぞれの愛武器である大鎌『デッドサイス』と銃剣『イクトゥス・フレイム』を打ち鳴らし合い激突。

 

 そして精鋭ではないが同等の実力を保有する巨大な頭蓋骨のみの姿をした兄弟『スカルヘッド』の両名がデッドマスターを援護するという構図になっていた。

 

「おらァァッ!」

 

「ふんっ!」

 

 スカルヘッドのジニー&コニーは口から緑色の光弾、目から光線を放ち、マズマへと攻撃を加える。まるで大雨のような弾幕の嵐だが、マズマはそれを全て回避してみせた。そしてイクトゥス・フレイムの銃口から炎の弾丸を射出。

 

 吐き出された炎を纏まった弾は、不規則な動きを披露した後にスカルヘッド兄弟へと被弾。それなりのダメージを与えることに成功する。

 

 だがその瞬間、スカルヘッドの背後から飛び出して来たデッドマスターがデッドサイスを振るう。

 

 マズマはそれを防ぐ為、イクトゥス・フレイムを前へ翳すがデッドマスターはそのまま勢いを殺さずに生かし、マズマへとその身をタックルさせた。

 

 激突したマズマは仰向けの状態にされ、強制的に床へと伏させた。

 

「貴方がここへ来た目的は……例のアレ?」

 

 デッドマスターは、マズマの上に馬乗りして首を狙い、デッドサイスの刃をぐいぐいと押し付けながらもそんな問いを口にする。一方でマズマは咄嗟の判断として、右腕のガントレットを盾の代わりとして応用することで、大鎌の刃の進行を妨害していた。

 

 そしてほんの少し、苦笑気味に答える。

 

「そりゃね。ここまで来たんだから……当然さっ!」

 

 押し返し、自身の上に乗っていたデッドマスターを退かせたマズマ。両者の攻防戦はそれほど容易には終わらない。

 

「まぁ、そんなわけだからさ。すんなり通してくれると助かるんだけど」

 

「できない。貴方はここで……私に命を刈り取られる」

 

「お~怖い怖い」

 

 相応の実力者の前でも、マズマは絶えず軽口を叩く。

 

 それは自らも実力者であるからこそであり、そうでもなければ『処刑の死神』と恐れ称されるデッドマスターを相手にこんな余裕ではいられない。

 

 次の先手はマズマから出た。

 

 マズマはイクトゥス・フレイムのエネルギーを高め、炎の斬撃を飛ばす。その形状はまさに魚その物。炎魚の斬撃はデッドマスターを一片の塵さえ残さず焼き喰らおうと迫る。対するデッドマスターは、デッドサイスを構え、横一線に奔った深緑の閃光と共に炎魚を切り裂き薙ぎ払ってみせた。

 

 しかし、これで消え去るほどマズマの攻撃は甘くない。

 

 残留した火の粉が稚魚のように舞い、結集する。さながら魚が身を守る為に群れを成そうとしているかに見えなくもないが、結集することで生まれるのは『群』ではなく『個』。

 

すなわち、あの炎魚の再臨だ。

 

「火は水と同じで不定形だ。確固たる形を持たず、悠々と幻影のように揺らめく不確かな存在…でも、一度燃え移ればどんな命をも奪う『死神』と化す。まさしく君のように!」

 

 火を操る劇場の役者は、炎魚を再びデッドマスターへと差し向ける。全てを飲み込むかのような大口を開け、一気に突撃して来る炎魚の動きそのものは、実に単調的だ。

 

 回避するに至ってはそう難しくなく容易いだろう。

 

 だが、何度でも復元されるというのが厄介だ。

 

 マズマの炎魚は『生体系統』と呼ばれるアーマメント術式の一種で、概容は『無生物に擬似的な生命活動を与える』と言うもの。マズマは自分の火に擬似的な命を与え、尚且つ自分がイメージした『魚』という地球の生物の形を提供した。

 

 そうして生まれたのが炎魚であり、敵を喰らい、燃え尽きるまでその劫火を消すことはない……まさに『生ける炎』。

 

「くっ!」

 

 また緑色に輝く閃光を伴う一閃で、炎魚を一刀両断するデッドマスターだが、また同じように再生する。更にマズマの援護射撃もあり、実に厄介極まりない。

 

「おい、マスター! こいつは俺等が引き受けるから、生みの親をやっちまえ!」

 

「ふん。お前にしては的を得てるかもな。臭いを消すには…発生源を絶つが如し!」

 

先程よりも更に強力な光弾と光線で炎魚を攻撃するスカルヘッド兄弟。左右同時に絶え間なく攻撃することで炎魚は離散した身体を元に戻そうとするも妨害され、再生できなくなる。

 

 とは言え、これでは消耗戦も同然だ。

 

 エネルギーの燃費が比較的少ないスカルヘッド兄弟と言えども、この状態を維持できるのは30分が限度。すなわちデッドマスターは30分という間にマズマを倒さなければならないと言う事になる。

 

 デッドマスターに迷いはなかった。

 

 迅速にマズマを殲滅する為にデッドサイスを振るい、その命を刈ろうとする。しかし無論、それをマズマが良しとするなどありえない。

 回避やガントレットを用いた防御で彼女の攻撃を無効化していく。

 

 これでは埒が明かないと察したマズマは一旦距離を取り、イクトゥス・フレイムを返還。同時に一丁のスナイパーライフルを召喚し手に取る。

 

「こういう形での狙撃は狙撃らしくないが、この方が俺の性分に合ってるもんでね」

 

 真紅一色に黒いラインが奔る狙撃銃はクロワの一部隊を壊滅させた身の丈以上の物とは違い、至って普通サイズの代物。全体のデザインも無駄に凝った部分がないシンプルな形状になっている。

 

 この武器をマズマが選択した理由は、己の戦闘領分が狙撃にあるからだ。いくら白兵戦や空中戦で戦えたとしても、それらは自分自身を最大限に生かす戦いには残念だが成り得ない。従って、自分を生かすことのできる狙撃戦で一気にケリをつけようと言う考えなのだ。

 

「炎填、アーダーバレット!」

 

 マズマの火を生み出し操る能力。その力を利用するのがこの狙撃銃の特性だ。マズマが送り込んだ炎熱エネルギーを更に増幅させ、それを弾丸の形状に精製。発砲の際には銃その物が壊れない規模での内部爆発を起こすことで、加速力を飛躍的に上昇させる。

 

 そして、撃鉄は引き起こされ、劫火の弾丸がライフルの銃口より射出される。

 

 デッドマスターという標的めがけ、圧倒的な回避不能の速度をもって襲い来るそれには防御さえも間に合わない。弾丸の先はある一点。ラックワイトエナジスにより形成されている生命維持の中枢器官『コア』のある胸の中心部。

 

 そこに確実な致命傷を与えれば、あるのは『死』という結果のみ。

 

「これで勝ったつもり? 笑えないわ」

 

 消えた。文字通り何の比喩でもなく、そのままの意味である。デッドマスターのコアへと到達する前に、劫火の弾丸は何の予兆もなく突然消滅したのだ。

 

「なっ! バカな、どうなってる! なんで……」

 

「貴方の火炎を操る能力もそうだけど、ハートレスには『パーソナルスキル』が備わっている者がいる。私もその1人。私のパーソナルスキルは『無生物に死を与える』。まぁ…簡単に言ってしまうと鉱物や金属なら錆びさせたり風化させたりして、劫火なら消滅させる……ということ」

 

 淡々と説明しながらもデッドサイスを振るい構え、いつでも攻撃できる態勢を形作る姿にマズマは先程までの余裕を完全に喪失。真剣さを孕んだ鋭い視線で銃を返還。前の装備であったイクトゥス・フレイムを手に取り、そのままデッドマスターへ肉薄。

 

 鎌と銃剣。凄まじい攻防と剣戟が繰り広げられるが、この戦いに分があるのはやはりデッドマスターだ。

 

 

ギィィィンッ!

 

 

「あっ」

 

 甲高い金属音と共にイクトゥス・フレイムが宙を舞う。武器のない身に容赦なく鎌の刃がマズマの身体を斜め一線に切り裂いた。

 

「おっ?」

 

「ふむ。やったかマスター」

 

 炎魚が消滅した為、デッドマスターの勝利を確信した兄弟は彼女の下へと戻る。

 

 案の定だが、マズマは仰向けの体勢で地に伏してはいた。だが予想外なことにその命は失われる事なく、今尚も存命中のままだった。

 

「ぐっ、はっ……あ…」

 

「切られる直前に身を少しズラして急所を避けたのね。でも、無意味よ」

 

 冷酷に死の宣告を告げる死神の少女は、デッドサイスを振り上げる。自らがマズマの身体に刻み込んだその傷口から覗く白色に光り輝き、黒いうねり模様が浮かび蠢く球状の物体…『コア』めがけ断罪の刃を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? これは…」

 

 クロワの大都市区画から遥か遠く離れた、灰色のマグマと漆黒の炎が沸いて噴き出る火山地帯に点在する大規模な地下都市の遺跡。ここを独自に改造し居城としているのがクロワの敵対勢力たるハクトであり、その広さは東京都の約2個分ほどだろう。

 

 ハクトの巣窟たる場所のある一室……そこは床も天上も壁も、四方八方の全てが白一色に染め上げられている。そんな施設の一室にて、周りの白と同化するような白装束の少女『ホワイト☆ロックシューター』が怪訝な声を上げた。

 

「どうしました? ホワイト総督」

 

 声だけでなく、顔にまで怪訝さを顕したホワイトに反応し質問の声を上げるのは1人の小柄な矮躯の少女『ナフェ』。メカニックなウサ耳、とも捉えることができる聴覚センサー端末を頭部に装着し、両腕がストレングスのようにメカニックアームの仕様となっている。

 

 格好はストレングスと同じフードで両目の瞳と髪はピンク色。その声は外見通り相応の可愛らしさはあるものの、少し機械的な印象を受ける。

 

「マズマの生命反応が消滅したようだ」

 

「死んだ、と?」

 

「ああ。呆気なく…な」

 

 部下…それも貴重な上位戦力である幹部を失ったと言うのに、ホワイトはそう淡々と答える。

 

 しかし、その顔には言葉とは裏腹に少しばかりの悲壮感が滲み出ていた。

 

「狙撃士マズマの死は痛手だ。幹部を1人失うとは………ミーとリリオの状況は?」

 

「ミーは腹部にレッドレベルの損傷を受け、リリオはグリーンレベル程度の損傷。ストレングスを相

手に奮戦しています」

 

「クロワの精鋭1人とか。まぁ、それなら心配は無さそうだが問題はミーか」

 

「いかが致しますか?」

 

 ホワイトは瞼を閉じ、冷静に思考する。そして結果を出すにそう時間は要さなかった。

 

「今回の任務は極めて重要且つ、失敗は絶対的に許されないもの。妾も出る」

 

「直々にですか!」

 

「ああ。ザハと御主、そして妾を筆頭とした増援部隊を編成する。異論はないな」

 

「はい、では早速準備に取り掛かります」

 

 そう言い残し、その場から瞬間移動で退場する。ホワイトも足取りを少し早め一室を出るが、その際に一つの言葉を残す。

 

「……ブラック★ロックシューター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東の大都市区画2-00エリア群は、熾烈を極めた戦いの色に染まっていた。

 

 クロワとハクトの戦士兵士は互いに衝突し合い、いくつもの命が消えて無くなる。だがそれでも両者は戦闘行為の一切を中止することは決してなく、常に闘志を燃やし奮戦に徹していた。

 

「チッ、アクタ!」

 

「なにっ?!」

 

「敵の増援が空から来る! 対空砲火を部隊に伝達しろ!」

 

 灰色のショートヘアーにブラック★ロックシューターに似た黒のロングコートを羽織る少女『アクタ』に対し、左右に黒と茶の二色に分かれた短髪を逆立て、黒に赤と緑のラインを奔らせたチャイナ風の中華衣装を身に纏った少年『ロン・ドラグーン』は、両手に装備されたブラウン色のマシンガンを敵めがけ乱射しながら命令を下す。

 

 彼はこの2-00エリア群の『第2番防衛大隊』と『第2番防衛支援部隊』を纏め上げる防衛司令官の1人で、その補佐官であるアクタと共に迫り来るハクトの敵に対し徹底した激戦を繰り広げていた。

 

「まったく! よりにもよってハクトが大勢攻めて来やがるなんて……いや、それほど…予想外でもないかっ!」

 

 マシンガンの弾切れを確認したロンは、すぐさまマシンガンをレーザーモードに切り替えし、攻撃を再開。0.01秒で20発にも及び吐き出されるいくつもの小さな閃光は風を切り、ハクト兵士達の命を次々と奪っていく。

 

 加えてアクタはロンの命令通り、各小部隊の仲間たちに対空砲火令を伝達。新たに来た天空の敵を相手に地上から実弾や光弾、レーザー光線が解き放たれる。

 

「くそっ! 増援に来ても無意味だったか?」

 

 そんな言葉を吐き捨てる、空の襲撃部隊を指揮する隊長『バード・スラッシャー』はクロワの対空砲火に苛立ち、歯を食いしばりながらも攻撃の雨の中を掻い潜って行く。

 

「否! この『航空将官』を甘く見るな! 全隊、防御シールドを二重にしろ! 攻撃その物はそこまで強力じゃない!!」

 

 言われた通り、各空中兵士たちは自分の身を守るエネルギー状の防壁力場であるシールドを二重に張り巡らせ強化する。すると、シールドごと兵士の命を奪っていた攻撃はたちまち通じなくなり、その事実によって兵士たちの士気が一層と高まって来た。

 

「恐れるな! 我等の力…クロワのゴミどもに教えてやれ!」

 

 航空将官の咆哮と共に空の反撃が始まった。遠距離攻撃の術のない者は近接でクロワの戦士のコアを刃物系の武器で串刺しにしたり切り裂いたり、遠距離攻撃が可能な者は近接の白兵戦に挑む仲間を援護射撃で支援。

 

 見事な連係プレーでクロワの戦士たちを次々と殲滅していった。

 

「死ねっ!」

 

「ぐっ!」

 

 一方でバード・スラッシャーは、防衛司令官のロンを相手に得意の空中攻撃で攻めて行く。そして自身が繰り出したタックルの衝撃で倒れた、ロンの首元と胴を足で踏みつけると同時に嗜虐心に満ちた表情を顔に張り付かせた。

 

「まったく、貴様等クロワも往生際が悪いな。我等の為の贄と化せば良いものを」

 

「ふっっざけんな! 俺は……いや俺達は! テメェらなんかに屈するほど……弱くねぇ!!」

 

「ハッ! そのザマで口にする言葉がそれか? このまま貴様を切り裂いてやる!!」

 

 片翼を硬化させ、剣のような鋭利さを秘めた刃物へと変化させる。そしてそのままロンを切り裂こうとした瞬間。

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

 

「なに、ぐわァァッ!」

 

 凄まじい咆哮と共にバード・スラッシャーの身体は意図せず宙を舞い、そのまま地表へと無様な格好で激突。突然の事態によって呆気に囚われるロンだが、そんな彼に差し伸べる手を見せた一人の黒き少女。

 

 そう、ブラック★ロックシューターだった。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

 優しく心配を孕んだ言葉。そしてブラックの姿と二つの要素が重なり合い、ロンは覚醒を果たした

 

「は、はい! ありがとうございます! ブラック様」

 

「良かった。でもここからは私とチャリオットに任せて」

 

「そうそう! いっちょ派手にやるよ~」

 

 蜘蛛型戦車『メアリー』搭乗しているチャリオットは、メアリーの座席から飛び降り、黄色の刀身に黒い柄の西洋剣を手に自慢のスピードを披露。ハクトの兵士を次々と屠り切り捨てていく。

 

 そんな己が主人の活躍を目にしたメアリーはその闘志を燃やし、口から追尾ミサイルを吐き出して空中の増援部隊を次々と駆逐。更に重量による破壊力を秘めた八本の足で地上の敵を踏み砕き、許しを乞う悲鳴の諸々を蹂躙していく。

 

 これに負けじとブラックはその手に持った黒き鉄槌の武器『ウォーハンマー』を掲げ、一気に敵へと振り下ろす。青い波紋状の衝撃波が多くの敵を襲いそのまま爆散。別方向から迫って来た敵に対してはハンマーその物を振るい、圧倒的な重量の一撃を叩き込むことで地に伏させた。

 

 まさに一騎当千と言わんばかりの凄まじい光景。こんな物を前にしては、さすがのロンも圧巻されるばかりだ。

 

「す、すげぇ~。もうなんか、本当に凄いぜ」

 

「ロン。そんな呆けた顔してる暇があるなら、さっさと仕事して」

 

 そんなロンを尻目にいつの間にか隣に来ていたアクタが、手に持ったレーザーガトリング銃で次々と敵を射撃し殲滅していく。その様子に再度正気に戻ったロンはアクタと共に二人を援護する為、二丁のマシンガンで迎撃体勢に入った。

 

 ブラック★シューターとチャリオットの二名が2-00エリア群の援護に駆けつけた、その同時刻。

 

 リリオとストレングスは苛烈な銃撃戦を展開していた。互いに障害物に身を隠し、機を見計らって発砲。始まってから約55分はその繰り返しだったが、さすがにケリがつかないと判断したストレングスは、オーガアームのモードをガトリングからキャノンモードへと変更。

 

 凄まじい威力を秘めた砲撃がリリオを襲う。

 

「クッ、舐めるなっ!」

 

 リリオが吠える。

 

 彼は今まで使用していたライフル銃二丁を捨て、今度はボウガンの形状をした自身の愛武器『クロスヘアーズ』を召喚。ストレングスの砲撃に引けを取らぬエネルギーが銃口に集束され、一撃必殺の閃光が解き放たれる!

 

「ストーム・バースト!」

 

 緑光と共に解き放たれるは暴風の息吹。凄まじい風速は捕縛した者を決して逃さず、その者の肉を裂き骨を砕く。

 

 そんな風の砲撃に対し、ストレングスの砲撃が激突。凄まじい衝撃波を生み周囲を瓦礫へと変貌させていく。二つの砲撃は互いに押し合いをしていたものの、最後には爆発を生み相殺した。

 

「ちっ! 威力は互角だったか」

 

「だが、これで終わりだ」

 

 ストレングスがオーガアームを再びモードをガトリングに戻し、リリオに銃弾の雨を浴びせる。

 

 リリオのクロスヘアーズは大技を発動させると一定時間、およそ3分間は使い物にならなくなると

いう欠点がある。

 

 武器が使えなく、代わりの武器もありはしない。

 

 そんな状況が戦場にとってどれほどの死活問題になるのか、無論それを視野に入れていないほどリリオは愚か者ではない。しかし、これに関しては彼流の拘りなのだ。

 

 『常に動き易くする為に武装は最小限に留める』

 

 実際の事実として、彼は早かった。

 

 それこそフルパワーを発揮さえすればチェリオットも凌駕するほどのスピード戦を展開することも容易だ。それを生かせていれば、ストレングスに後れを取ることなど皆無だった。

 

 しかし彼はそれをしなかった。いや、できなかった……というのが正しい。

 

 俊足状態は短時間……大体で3分か5分ほどしかない。タイムリミットを過ぎれば身体に負荷を与え麻痺状態を齎す結果になってしまうからだ。

 

 そのタイムリミットまでに、ストレングスを速やかに殲滅する自信や術を残念ながらリリオは持っていない。ストレングスは、クロワの精鋭の1人だが、その実力は火力と腕力。そして戦術面ならばブラック★ロックシューターに匹敵する。

 

 そんな実力者を前に容易く倒せるなどと、リリオは豪語できる強者にはまだ至っていない。

 

「ぐっ…」

 

「兵長リリオ。これで七度目の戦いなわけだが、とうとう決着が付いたな」

 

 体中が蜂の巣状態も同然なリリオ。それでも立つことは自体はままならないが、膝を地に付ける程度でなら、その重い身体を奮い立たせることはできる。尤も、それでこの危機的状況を打破することは適わないが。

 

 だが、運は彼を見逃さなかった。

 

「終わり? 何をほざいている。終わるのはお前だぞ、ストレングス」

 

 凛とした、しかし途方もない威圧を孕んだ声と共に一筋の赤い光弾がストレングスの背中を直撃。無数の火花が縦横無尽に弾け飛び衝撃波を生んだ。それによって彼女の身体は風を切りるような勢いで吹っ飛ばされ、周囲にあった瓦礫同然の壁へと激突した。

 

「そしてクロワもだ。長きに及んだこの戦いも、終結する時は刻一刻と近付いている」

 

「お、お前は……」

 

 背中のダメージに苦悶の表情を浮かべるもすぐに立ち上がり、赤い光弾が向かって来た方角を見据える。そこにいたのは純白の砲身を有するエネルギー機関砲の銃口から赤い煙を漂わせ、その背後に見知った顔馴染みや覚えのない兵士の軍勢を従えた白き少女。

 

 彼女の名は……

 

「ホワイト☆……ロックシューター!」

 

 ホワイト☆ロックシューター。闘争主義のハートレスたちを一つに束ね、一大勢力たる『ハクト』を創り上げた王。

 

 そんな彼女が、自身の眼前の先に立っている。増援の軍勢と共に。その事実はストレングスの戦意を削ぐのに少々だが、実に効果的だった。

 

「随分とやられたな。リリオ」

 

「も、申し訳ありません、総督。あの、ミーが……」

 

「既に救護班が彼女を搬送した。治療は十分に受けさせる、安心しろ」

 

 ミーの確実的な安全の確保に安堵の表情を浮べるリリオ。そんな彼を一瞥すらすることはなく、ホワイトは壁に寄りかかりながらも立ち上がり、尚もこちらを睨むストレングスをその目で捉える。

 

「随分と久しいなぁ、ストレングス。我等ハクトとクロワの戦いが始まって800年……その間にも、来るべき時の為に進めていた計画を進行して来たが………とうとう来るのだっ!」

 

「ぐふッ!」

 

 機関砲を持たないホワイトのもう片方の手が、ストレングスの腹部を手刀で貫く。生じた傷口から、地球上の生物で言うところの『血液』が溢れ出すことはない。彼等には血液自体やそれに相当する体液の類が存在しないからだ。

 

 故にハートレスは出血多量で死ぬことなど、まずありえない。

 

「け、計画だと? 貴様……『アレ』をどうする気だっ!」

 

「ふん。これから死ぬ者とは言え、易々と答えるほど殊勝な器ではないのでな」

 

 ストレングスの外装と皮膚を破り、肉を裂いて貫いていた己が手を無造作に。それこそ丁寧の一文字さえないかのような雑な抜き方をし、苦悶に顔を歪める眼前の敵に己が愛武器である白き砲身『“☆Rock Cannon(ホワイト・ロックカノン) ”』の砲口をストレングスへ向け、赤きエネルギーを集束し始める。

 

 回避できようのない至近距離からの攻撃は、『死』も同意義だ。

 

「では、さらばだ。クロワの精鋭ストレングスよ」

 

 集束が終わるほんの一歩手前で、そしてストレングス自身が死を覚悟した瞬間、それは起きた。何処からともなく飛んで来た一発の青いエネルギーの弾丸。それはホワイト・ロックカノンの砲身をズラすのに一役買い、ストレングスの命を奪う筈だった凶暴な赤いエネルギーは的外れな方角へと飛び抜き、丁度上空にあった戦艦一隻を紙の様に容易く貫く。

 

 そして当然ながら、戦艦一隻は木っ端微塵に吹き飛び地上へと沈んでしまった。

 

「くっ、よってくれたな……ブラック★ロックシューター!」

 

「それはこっちの台詞よ、ホワイト☆ロックシューター」

 

 ホワイトが青いエネルギーが飛んで来た方向を睨み叫ぶ。そこに立つは、クロワの精鋭の1人であるチャリオットを従え、大勢のクロワ戦士による援軍を引き連れて立ちはだかるブラック★ロックシューターの誇り高き勇姿。

 

 黒と白とで両者相対する、総督と統率者。瓜二つの姿を持つ少女等は敵意の篭った視線で互いを見合う。

 

「ストレングス…ごめんね。遅れちゃった」

 

「ブラック。貴方のことは誰よりも信じているつもりだ」

 

 味方の救護班による介抱を受けるストレングスは、気にするなと同義の言葉でやんわりと答える。普段の物静かで厳格な雰囲気を放つ印象とは大違いだ。

 

「ねぇねぇ! こういうのって確か、『ツンデレ』って言うんだっけ?」

 

「………その言葉の意味についてはまったく知らない筈だが、妙に腹立ってくるな」

 

 チャリオットの突拍子もない唐突な言葉に対し、ストレングスはその意味を解せないが不思議と妙な苛立ちを覚えたらしい。そんな二人にブラックは顔に出さないものの内心苦笑し、改めて眼前の敵へと己が愛武器を向ける。

 

 ホワイトも同様に愛武器を向けたこの瞬間。それが戦いの始まりを告げる狼煙となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストレングス! 大丈夫?!」

 

 クロワとハクト。両者共に総戦力に近い規模での戦いが始まった頃、スカルヘッド兄弟を引き連れて戦場へとやって来たのは、他ならぬデッドマスターだった。

 

「だ、大丈夫だ。救護班…早く治療を頼む」

 

「言われずとも!」

 

 白いロングコートを羽織った彼等『救護班部隊』は治療用のアーマメント術式を展開。四人の班員たちがストレングスを囲む形で立ち、エメラルド色の円陣のようなマークエフェクトを宙に出現させ、そこから溢れる青い粒子のようなもので治療を行う。

 

「一応、外見状の損傷は軽傷の部類ですので、そう時間はかかりません。しかし、中身はそうはいきません。チェスバーの損傷が思ったよりも酷く、無理にこのままの状態で戦闘を行えば、何らか障害が後遺症という形で出てしまう可能性があります。なのでそれなりに時間はかかってしまいますがご了承下さい」

 

 チェスバーとは、ハートレスの腹部にある渦巻状に連なる臓器のことだ。その役割は摂取したエネルギーや物質を体内に必要な栄養素として体中に循環させることにある。それが損傷を受けると言うことは、当然身体に悪影響を及ぼすと言うことに繋がる。

 

「………ああ、分かった」

 

 本当ならば外傷だけ治してさっさと前線に戻りたいが、この戦場を無事乗り切ったとしても後に後遺症のせいで足手まといになってしまう可能性も否めないので、ここは大人しく従う事にした。

 

「待って。私がやるわ。私ならそう時間は取らせないわ」

 

 しかしここで、思わぬ声が上がった。なんとデッドマスターがストレングスの治療に名乗りを上げたのだ。

 

「でもデッド様。貴方は貴重な戦力です。ブラック様たちの援護に向かわれた方が…」

 

「いいえ。私はコレでもクロワの『軍医』……軍医としての使命を果たせと、ブラック直々に命を受けているわ。貴方達は2-00エリア群の他の患者をお願い。あそこは救護班の人手が少ないわ」

 

「……分かりました! お二人とも御武運を!」

 

 救護班たちは班長を筆頭に2-00エリア群へと向かっていった。

 

「さて、こっちはこっちで始めるわ」

 

「頼むぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナフェだっ!」

 

「気をつけ…ぐあああッ!」

 

白色のボックスに黒いメカニックな手足を付け足し、更に点二つと横棒線という、安直なデフォルメの顔面が映し出されたモニターを貼り付けるクロワの情報戦略員の1人『ニターコン』。彼とその隣にいた、白い服装をしたクロワの少年『コマンド』。

 

ニターコンとは、それなりに旧知の仲で戦闘や性格といった相性も良かった。故に戦友という、そんな言葉が相応しかった彼が、目の前で『消滅』した。マゼンタに染まった閃光に飲み込まれて。

 

「コマンド…」

 

「クロワの戦士。大人しく捕虜になるか、ここで死ぬか……好きな方を選べ。捕虜になれば奴隷の身になれど命ばかりは保証しよう」

 

 コマンドを見るも無残に消滅せしめた張本人こと、ハクトの幹部にして『参謀』の地位を冠する少女『ナフェ』だ。彼女はまさしく悪魔の囁き…とも言える台詞でニターコンを自陣営の奴隷として引き込もうと一歩一歩と迫る。しかし、次にニターコンから出た言葉は、彼女の意に反する代物だった。

 

「断る。僕はクロワの戦士だ。だから、お前達ハクトと戦う」

 

 確かに彼は…コマンドは、ニターコンにとって戦友には違いない。だが、ハートレスは感情というものが人間のそれとは違い『薄い』のだ。あるいは欠落しており、彼の場合は『悲哀』とだけが薄く『後悔』が欠落しているのである。

 

 それ故に深い感情に溺れる事はない。言ってしまえば簡単に割り切ってしまえる。つまり、彼に感情に基づく戦意喪失などありえない。

 

「そう。では、死になさい」

 

 ニターコンに告げられる、参謀ナフェからの死の宣告。それと同時に彼女の周囲にナフェと同じ聴覚センサーを取り付けた六角形の物体が、陣形を組むかのように宙に配置される。

 

 これが、情報収集や攻撃の際に使用するナフェの愛武器『ラビトスパイ』。

 

 一度に同時展開できる数は八つ程度だが、武器そのものが破壊されてもナフェの手でまた量産することが可能であり、際限がない。

 

 そしてそれが、恐ろしいほどの殺傷力を秘めたマゼンタの閃光を放つ。

 

「くっ!」

 

 間一髪で避けるが、一回避けたとしても次々と集中砲火の嵐が彼を襲い、そのせいでニターコンは回避も。ましてや防御にも転ずる暇などなく、もろにその集中砲火を受けてしまった。

 

「ゥッ……クソ……」

 

「終わりだ。名を知らぬクロワの戦士」

 

 巨大なアームの手でニターコンを苦もなく持ち上げるナフェは、空いた片手に高密度のエネルギーを凝縮。それをニターコンの顔面へと叩き込もうとした時、一筋の紫の閃光と共にナフェの腕が…エネルギーを凝縮し放とうとしていた手が、見るも無残に音を立てながらバラバラと崩れてしまった。

 

「!ッ」

 

「我が同志を放してもらおうか、ハクトの幹部『参謀』ナフェよ」

 

 それは地球…更に正確に言うと日本特有の着物に似た薄紫の服装で、両肩と胸に紫のラインが渦巻きのような模様を描く日本風の黒鎧を纏い、その手にあるのはメカニックな要素が強い日本刀の一振り。

 

一本のポニーテールに束ねた紫の長髪と瞳を持つ彼の名は『スライザー・カムイ』。

 

クロワの精鋭であり、並外れた剣戟の実力者だ。

 

「剣士スライザーか」

 

 切られた腕と手を瞬時に再生される。まるで部品一つ一つが変化し重ねていくかのような異様な光景だが、ともかく敵に瞬時再生能力があるというのは拙いもの。だが、それでもスライザーの顔に不安や恐れはなく、あるのは貫き通すべきものを貫き通そうとする信念のみ。

 

「大丈夫か、ニターコンどの」

 

 敵の幹部を前に余所見をするわけには行かず、しかしニターコンのダメージ具合が心配である為、視線も顔も合わせずに問いかける。

 

「だ、大丈夫です。何とか……」

 

「そうか。では早速で悪いが、この場から一刻も早く離れるで候。戦闘の余波を喰らいかねん」

 

「は、はい!」

 

 少しダメージはあるものの、何とか走れる分には問題ない彼は、ぎこちない足取りで二人の下を去っていく。故に残るは剣士と参謀のみ。

 

「主等の悪巧みもこれまでだ」

 

「悪巧みなど、そんな茶番染みたゴミのような目的ではない。総督は…我々はこの世界の未来の為に戦っているのだ」

 

「闘争を絶対のルールと掲げ、命を摘み取ることの何が未来の為か。貴様等は所詮、時代遅れの妄信者に過ぎぬ」

 

「平和などと、そんな幻想に現を抜かす貴様等の方が妄信者だ」

 

 もはやこれ以上の問答は不要。必要なのは相手を打ち倒す為の力と技、そして意志のみ。

 

「月光・斬」

 

 先手はスライザー。己が剣を横一閃に振るい、そこから淡い光を放つ三日月状の斬撃が出現。高速を秘めてナフェに襲い来る。一方の彼女は自分めがけて接近する断頭の刃を、片腕の払いのみで軽く打ち消してしまう。

 

 まるでも虫でも払うような、とても軽い感じだ。

 

「ラビトスパイ、ファイアッ!」

 

 今度はナフェの番だ。八つ全てのラビトスパイらが結集し、極太のレーザーが発射される。閃光はマゼンタの色彩を放ち、それはあのクロワの少年戦士コマンドの命を奪ったものと同じものだった。

 

「避け防ぐ必要あらず、斬るのみぞ!」

 

 刀にエネルギーを凝縮させ、それにより刀身を紫色に光らせると同時に巨大化。強靭な、まるで神話に登場する巨人が扱うかのような刀身の大きさに、常にポーカーフェイスを張り付かせているナフェも、僅かだが驚愕の色を隠せなかった。

 

 今までナフェとスライザーが相対した戦歴は2度しかないが、その中でこのような技を振るう事はなかった。これが最近になって習得したものか…あるいは隠し持っていたものかは定かではないが、ただ厄介なものであるということは十分に理解できる。

 

「『デスボッツ』、『オクトテイル』、ユナイッティッス(戦いを開始せよ)!」

 

 ナフェは対抗策として、背中の機械バックに変形していたハートレス『デスボッツ』と『オクトテイル』に戦闘開始の命令を下す。

 

「ヒャッハー! ナフェの親分! ご使命ありがとうございますデス!」

 

「主様~、何なりとご命令を~」

 

 異様に高いテンションを口調から醸し出し、下半身が蜘蛛で上半身が人型の鎧のような姿を持つナフェの部下にして『参謀補佐』を冠する幹部『デスボッツ』。

 

 球体に無数の触腕を生やし、丸い口の穴から覗く歯車状の三つの牙が高速に回転すると同時にぶつかり合い、凄まじい火花と音を立てる。そんな異様な姿と相成すように語尾を伸ばし、不気味な雰囲気を演出する。デスボッツと同じ『参謀補佐』、『オクトテイル』である。

 

「デスボッツ、『デスフィールド』の展開と維持を。オクトテイルは私の援護を頼む」

 

「承知ィィ~。しました~~」

 

「んだよ、今回は俺様のバトルはナシかい」

 

 文句なく命令を受け入れるオクトテイルに対し、デスボッツは不満げな声を漏らすが己が敬愛する御主人様の命令を無視するなどありえない為、早速命令の実行に取り掛かる。

 

 デスボッツは腹部を開き、筒状の物体を形成。その内部から沸き立つ赤黒い霧状のものが筒状の四方から噴出。あっという間に半径20mに渡る赤黒いドーム状の霧の結界が形成された。

 

「うっ、これは……ぐゥゥッ!」

 

「デスフィールド。敵対象にとっては有害極まりない毒ではあるが、そうではない者にとって何ら実害のない只の霧も同然。対象の生命維持…その制限時間は5分か、長くて10分。どちらにしても死は免れない」

 

「その通りです~~さ~っと~~楽に殺された方がオススメですよ~~!」

 

 5分か10分という、曖昧なタイムリミット。しかしどんな状況であろうと、かの剣士に『敗北』と言う二文字はなかった。

 

「侮るな……貴様等の首を断つまで敗れ去ることなどない……」

 

 毒で震え、地に跪く肉体を奮い立たせ、自身の愛刀を握り締め敢然と立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハクトという勢力がまだなく、栄光在りし時の毎日だったクロワの大都市区画。

 

 未来において東大都市区画防衛本部として扱われていた場所も、かつてはクロワの初代統率者が座する居城だった。

 

そして彼女が腰を下ろす為の玉座の間の一室にて。

 

まだ『ブラック★』の名を授けられていなかった、かの蒼い瞳の黒き少女『ロックシューター』と初代クロワの統率者『ブラック★ゴールドソー』らがある理由により、対面を果たしていた。

 

「私が、貴方の後を…ですか?」

 

「ええ。お前ならできると、私はそう直感しています」

 

 揺ぎ無い真紅の瞳で、ゴールドソーは言葉を紡ぐ。本来ならばゴールドソーに認められた、あるいは何らかの緊急事態でもなければ決して入ってはならぬ聖域。そんな場所にロックシューターがいるということの意味は、それほど考えずとも理解できるだろう。

 

「でも、そんなの無理です。私は…弱い。『感情』に振り回されて失敗ばかりです」

 

 ハートレスは感情というものが薄い。そのせいか極端に偏りがちな傾向がある。

 

 例え、最愛の友や家族と呼べる人たちがいたとして、その人らが永遠の眠りに堕ちたとして

も彼等は『割り切ってしまえる』。

 

深い後悔や哀しみ、憎悪に囚われることなく『そういうものだ』と、『仕方ない』と。

 

それは彼ら固有の強さであると同時に、人間とハートレスの決定的な違いとも言い換えれる。しかし彼女は…ロックシューターは違った。

 

 今まで一緒に戦って来た友が、仲間たちが闘争主義のハートレスたちの手で無残に殺されれば号泣し錯乱。数々の悲劇に耐えられず塞ぎ込むなど日常茶飯事だ。『精鋭』と称される程の実力は、確かにある。だが彼女は通常のハートレスと違い『感情が厚い』のだ。

 

 それこそ人間と大差などないほどに。そんな彼女を眼前の女性は…ブラック★ゴールドソーは自分の後継者に相応しいと断言しているのだ。

 

「ロックシューター。お前は弱くなどない。他者を深く愛し、同時に深く悲しめるという事は我等にはない、そう……まさしく『人間』の秘め持つ、尊き美徳にして強さなのです」

 

 黒いロングコートを身に纏い、頭部から生えた、尖端が赤く滑らかに湾曲した黒角と鋭利で硬質な漆黒の尻尾を有する悪魔のような外見の女性。これこそがブラック★ゴールドソーの姿ではあるが、その悪魔のような妖艶さと見た目に反し周囲が認める名君だ。

 

「でも、私は!」

 

「ロックシューター。戦いは非情です。精鋭以上の力を誇る私でも、いつ死んでもおかしくない。武を持ってしての命を賭けた戦いというのは、そういう風なもの。私が死んだ日にはクロワたちがどうしていいかも分からず、右往左往し、ハクトの手により1人残らず始末さ

れてしまうことでしょう」

 

「そうならないよう、私が、クロワの皆が貴方を守ります! 不可能など、可能にしてみせます! だから……そんなこと言わないでよ……『母さん』」

 

 悲壮と苦痛。その両方を惜しむことなく顔に出し、言葉で必死に訴える姿にゴールドソーは……『母親』としての言葉で彼女を諭す。

 

「『ステラ』。己の心を強く、優しく。時には誰かに傷と痛みを伴う、そんな武を振るう勇気を持ちなさい。そして貴方のことを信じる同胞らと共に自分の信じる道を行って。そうすれば、もう迷うことなく進める筈です」

 

そう言い、ゴールドソーは玉座から立ち上がりロックシューターの前まで近寄る。そして…強く優しく、暖かな抱擁で己が子と身体を重ねる。

 

「お願い。貴方に酷なことを言っているのは承知の上よ。でも、その時が来ないなんて保障は何処にもない。私がいないクロワを束ねて導けるのは……貴方しかいないの、ステラ」

 

 先程も言った『ステラ』という言葉。

 

 それはロックシューターの持つ『人としての名』であり、『人間であった父』が彼女の為に遺してくれた宝物の一つ。

 

「………『ノーヴァ』と、もう一度やり直せるかな……」

 

 自分と瓜二つの白き少女。それはステラにとって二つとない最愛の妹だった。

 

 だがある日、決別の言葉と共に姉と母の下を去ってしまった。その紅き瞳におぞましいほどの憎悪の炎を灯らせながら。

 

「………おそろく無理でしょう。あの子はもう、自分が果たすべき信念を見つけた。それは私や貴方とは決して相容れぬもの。殺戮と憎悪の上にしか成り立たない、修羅の道よ」

 

 母から紡がれた言葉は肯定ではなく、真っ向から逆の言葉である否定。白と黒とが理解し合い混ざり合うことなどないと、そんな意味が嫌と言うほど滲み出たものだった。

 

 そして時を戻し、現在のクシロロ。

 

 大都市東区画の2-00エリア群にてブラック★ロックシューターと、ホワイト☆ロックシューターの両者が苛烈な戦闘を繰り広げていた。

 

「ホワイト! 『アレ』を狙っているつもりなら諦めなさい! これ以上どれほどの略奪と破壊を繰り返せば気が済むの!?」

 

「貴様こそ、いつまで同じことをほざけば気が済む。はアアアアッッ!!」

 

 刃が黒く、刀身が混じりけのない純白の色を有する刀を振るいブラックを切り裂こうと肉薄するホワイト。彼女の刀がブラックの全身を切り裂こうと迫ったその瞬間、自らも刀を召喚し、ブラックロックカノンを返還。

 

 刃が白く、刀身が夜の闇を連想させる漆黒の色で染められたそれでホワイトの刀を防ぎ、黒が横一線に白が斜め一線に十字架のように重なり合う。

 

「妾はこのクシロロ世界を統一支配し、そして地球を……母と父が出会ったかの地に住む人という種を淘汰することで『再世』を行う」

 

「ぐっ! そんなこと……させない!!」

 

 ホワイトはそのハクトの王としての権力と自らの暴力をもってして、地球に住む人類の淘汰を掲げた。それが自分の進むべき信念にして修羅の道。だがそれを否定するのはクロワとその長であるブラックだ。

 

 ブラックはホワイトの刀を押し返し、すかさず切り裂こうとする。しかし既に間を取るように後方へ撤退した彼女にブラックの刀は、ただ空を切るだけで終わる。そしてそれは『隙』となり、その隙を突こうとホワイトは自身の愛武器であるホワイトロックカノンを一瞬の内

に召喚。

 

 カノン内部に凄まじいエネルギーが発生し、1分と掛からず砲口から吐き出されるようにして発射される。

 

「ふんッ!」

 

 しかし解き放たれた赤の閃光をブラックが浴びることはなく、彼女はその優れた身体能力を生かして高く跳躍。真上から自身の愛武器であるブラックロックカノンを再び召喚し、赤の閃光に匹敵…もしくはそれ以上の威力を有するかもしれない青の閃光を、ホワイトへと浴び

せかける。

 

 防御も間々ならず、無残にも喰らい爆発に飲み込まれる。黙々と濃い黒煙が周囲を覆い隠すかのように漂う様を、ブラックは静かに見守る。

 

 一応は加減した。本来ならば全力で、それこそ本当に殺す気で挑まなければならない相手だが、ブラックにはそれができなかった。

 

 無論、それに関してはちゃんと理由はある。

 

 だがその『理由』は……彼女にとって、本来ならば捨て去るべき邪魔な物にしか過ぎない。

 

「ブラック★ロックシューター。中々良い攻撃だが、妾を殺すにはちと火力が足りん……が

、それなりにはダメージを喰らってしまった」

 

 鬱陶しい黒煙を払い除け、身体の所々に痛々しい火傷を負ったホワイト。その左目はいつ間にか、禍々しく思えるほどに紅い炎が灯っていた。

 

「だが、この程度は余裕で自己回復の範囲内だ。別に気に障ることなどではない。しかしだ

…………妾を相手に手加減とはどういうことだァァッ!」

 

 吼える。感情が薄い筈のハートレスらしからぬ、凄まじい憤怒を惜しむことなく滲ませた声の気迫に思わず、ブラックは少しばかりだが後ずさってしまう。だが当のホワイトはそんな彼女の様子など気に止めず、ただ自らの刀を使った剣戟の猛攻を繰り出す。

 

 無論、それに同じく自身が扱う愛刀で対応するブラック。しかしホワイトの猛攻はブラックでも動作一つ一つに対し、防ぎ受け流していくという対応そのものが精一杯に近い状態だった。

 

「本当に貴様という奴は、どこまでも反吐を出させる! 貴様と妾は命を奪い合い、どちらかが倒れるその瞬間まで戦う定めだ! それを殺さないよう手加減するだと? 思い上がるなッ!!」

 

「ぐっ!」

 

 攻撃を受け流す際のほんの僅かな隙を突かれ、右腕と左の横腹に刀傷を負わされるブラック。そして痛みで怯んだ彼女の髪を掴み上げ、ホワイトはそのまま感慨もなく、無慈悲に地面へと叩き付けた。

 

「ゴールドソーも同じだった。頭では理解していても、まだこの妾を説得し改心させようと無駄な気でいた。それが奴自身の破滅を招き、お前も同じ末路を辿ることになる」

 

 ブラックの頭部を踏みつけ、その眼前に刀をちらつかせながら淡々と語る事柄はクロワの初代統率者であるゴールドソーについてのものだった。ゴールドソーはブラック★ロックシューター……すなわち『ステラ』の実の母親で、心の底から安心できるという意味では唯一の

肉親だった。

 

 だが、そんな母親をホワイトは……彼女はその手にかけて殺した。

 

 自分自身の野望の為に。自分自身の貫く信念の為に。そして己が果たすべき目的の為に。

 

 ゴールドソーを殺した。それは同時にステラに深い悲しみと怒りを与え、結果としてそれが彼女をクロワの二代目総卒者たる戦士へと目覚めさせる要因になった。そしてホワイトを憎んで幾度も彼女と武を交えた筈だった。

 

 だが結局、心の奥底ではまだ彼女を殺す気にはなれていなかったのだ。

 

「でも、そうだとしても!」

 

 今までされるがままだったステラは、自身の頭を踏み付けていた彼女の足を右手で掴み、逆の左手で眼前の刀身を掴み、両腕の筋力を最大限に高める。こうすることでホワイトの身体を一気に持ち上げ、そのまま投げ飛ばすことに成功。

 

 突然の反撃にホワイトは対応ができず、そのまま地面へと仰向けに倒れ込んでしまった。

 

「はアアァァッッ!」

 

 無論それはホワイトの隙であり、その隙を見逃すほどステラは甘くない。

 

「私は諦めない!」

 

 馬乗りにホワイトの身体へと跨り、次々と想いと重さを孕んだ拳で容赦なく殴りつける。

 

しばらく殴り続けていたがその打撲行為を一旦やめ、馬乗り状態から立ち上がる。すると今度は首根っこを掴み上げ、一気に空高く舞い上げる。同時に跳躍しホワイトの腹部へ渾身の回し蹴りを浴びせる。

 

「ぐがァッ!」

 

 そんな声を思わず漏らし彼女の身体は回し蹴りの衝撃で近くの建物へと激突。しかしそれでは終わらず、丁度重なり合うような位置にあった後方の建物を二つ、最初のと合わせて合計三つの建物を貫通せしめた。

 

 傍から見れば壮絶な、そしてこれじゃあもう戦えないほどダメージを負ったと。そう思う者がいてもおかしくはないが、仮にいたとしてもそれは間違いだ。

 

「……あまり妾を怒らせるなァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 凄まじいまでに憤怒を孕んだ咆哮が天と地を揺るがさんばかりに、周囲に渡って響き轟く。

 

 あれほどの猛攻を受けて尚、その姿に『手負い』や『衰弱』など一切ない。

 

「貴様の減らず口もここまでだ!」

 

 今度はカノン砲ではなく、それ以上の大きさを有する白き巨弓を召喚。赤いエネルギーの矢の狙いをステラへと固定し、いつでも発射できるよう準備を万全なものとした。

 

「お待ちを、ホワイト総督」

 

 ふと、背後からかけられた言葉にホワイトは驚くことなく、むしろ来たかと言う風な笑みを浮べて巨弓を返還。声が聞こえた後方を振り返る。

 

「お望みの物をここに」

 

「フフ、ハーーッハッハッ!! でかしたぞ『マズマ』!」

 

 そこに立っていたのは、デッドマスターの手で胸部の中心位置にあるコアを無残に切り裂かれて死んだ筈の狙撃士マズマ。そして丁度時を同じくて、両者の間に何かが降り注いで来た。それは巨大なマシンに乗り、その強靭な両腕型のアームでストレングスとデッドマスター

の首を絞める、長い白髪の老人男性の姿をしたハートレス『管理元帥ザハ』だった。

 

「ふんっ!」

 

 そんな声と共にストレングスとデッドマスターの両者をステラの下へ投げ捨て、自身は悠々とホワイトの下へと歩み寄る。

 

「ふむ。作戦は成功したようだなマズマ」

 

「当たり前だろザハ。今回の任務は今まで以上にかなり重要なんだからな」

 

 無機質で感情を垣間見せないザハの言葉に、マズマはいつもの余裕に満ちた笑みで当然だと答える。だがその光景に疑問の声を上げる者がいた。他ならぬマズマをこの手で殺した死神の少女、デッドマスターだ。

 

「ど、どうして……貴方は確かに私が……」

 

「あ~アレ? まさかこの俺がバカ正直にお前の前に立ったなんて、本気で思ったのか?」

 

「なんですって…………まさか、でもコアが……」

 

 マズマについて何か気付いた様子だが、しかしそれをありえないと否定する様子も伺えるデッドマスターの姿に彼は溜息を零し、そのタネを明かした。

 

「これが真相さ」

 

 そう言ってマズマは両腕を両側の宙へと掲げる。すると丁度手のある位置の地面から火炎が沸き起こり、まるで一つの生き物のような…そんなしなやかさを見せていき、そして段々と人型へと形状を変えていく。

 

 更にそれで終わるのでなく、可視することのできるスピードで人型を構成する火炎が別の物へと変質して行く。例えるならそれは、タコが自らの色素細胞を調整し、岩肌に変わり身を果たす様によく似ている。

 

 やがて全ての工程が完了した時、マズマの両側にあるのは『人型をした火炎』ではなく『本物のマズマと違い一点すらない完璧なまでに瓜二つの存在』だった。

 

「うそ……コアの反応まで……!!」

 

「これこそまさに俺の炎が成させるイリュージョン! 生体系統において随一を誇るアーマメント術式の極地と言っても過言ではないだろうなッ!」

 

 デッドマスターが驚くのも、ましてやマズマが『極地』と豪語するのも決して大袈裟ではない。数あるアーマメント術式の系統の一つである『生体系統』アーマメント術式は文字通り『生理現象』や『生物的事象』と深く密接する分野である。

 

 そもそも、どの系統であろうとアーマメント術式は人類の現代科学をもってしても成し得ない業を成し得てしまう力を有する。その面においては人類を遥かに凌駕していると言っても決して過言ではないだろう。

 

 そんな生体系統のアーマメント術式を用いてマズマが作り出した分身体の特徴は、ハートレスという存在の生命と精神を司る中枢器官たる『コア』がある点にある。

 

 従来の場合では、アーマメント術式を用いて作ることが可能な分身体は俗に言う所の忍術のような幻影としての分身ではなく、れっきとした実体を有している。つまりクローンに近いということになるが、コアが存在しない為に自我意識や思考能力が存在せず、ただ本体から

伝達された思念によって動くだけの人形に過ぎない。

 

 だが、擬似的ながらも精密な模倣コアを作り出すことに成功したマズマの分身体は、確固とした自我意識を持たないものの、本体から意識の一部分をトレースし思考能力を獲得。更に、戦闘能力に関しても従来では性能に個々体によって格差が激しかったが、マズマの場合は

個々であっても一定水準を保ち、尚且つ本体に勝ることも無いが劣ることもない戦闘能力を発揮するのだ。

 

「この分身体こそが計画の要って奴でね。おかげで『コレ』を手に入れることができた」

 

 マズマは両腕を払うように、ほんの一瞬の内に分身体を消して片腕を自分の真上へと掲げる。するとそこに紅蓮の炎の模様が描かれた赤く発光する円陣が出現し、その中央から何かが落ちマズマの手の中へと収まった。

 

 よく見ればそれは円筒のガラスケースだ。しかし問題として挙げるのはガラスケースその物ではなく、その中にある物だ。

 

「!ッ」

 

「「!!!ッッ」」

 

「これこそが今回の目的……初代クロワ統率者ブラック★ゴールドソーが残した遺産、異世界を渡来する『橋』を開放する為の装置の鍵。『ワールド・クラース』だ!」

 

 それは一見すれば、一部分を除いて黒一色のみに染まった長方形のカードその物。サイズは手の平にすっぽりと収まってしまう程度で、表には白く描かれた星柄があり、それ以外では別段普通と言って良いほど何の変哲もない代物ではある。

 

 しかし、この『ワールド・クラース』には莫大なエネルギーが秘められており、それこそ大都市区画全域を隈なく100年は賄うことができるほどの量と質の両方で優れたエネルギーが凝縮されているのだ。故に様々な分野においての活用が見込めるが、真の役割はたった一つ……。

 

 クシロロとは異なる世界へ渡来する為の、クシロロと他世界を結ぶ『橋』を掛ける装置を起動させることなのだ。

 

 

「使い方によってはこれで強力な兵器製造も可能と言うわけだが……これを利用するのは、あくまでもあの装置を起動させる為の鍵としてに過ぎない」

 

 そんなホワイトの言葉に、怒りが一気に燃焼し始めたステラは愛刀を振り上げ、奪還しようと迫る。だが時既に遅く……マズマの炎の竜巻がホワイトとザハを包み込み、そのまま炎の消滅と共に瞬間転移を果たしてしまった。

 

「くっ……なんてことを……」

 

 拳は固く震え、守るべき大事な物を守れなかった後悔に打ちひしがれるステラだが、同時に何としてでも奪還せしめるという思いが。決意が。静かに彼女の内心を滾らせていた。

 

 一方、毒の霧のような結界の中では絶えず激戦が駆け巡っていた。毒に犯されながらもスライザー・カムイは猛戦し、その気迫は毒にやられているとは思えないほど凄まじいものだった。

 

 しかしもうタイムリミットは残り僅か。

 

 オクトテイルとナフェは完璧なコンビネーションでスライザーを追い詰めていた。白兵戦はナフェが務め、その援護をオクトテイルが担う。オクトテイルの攻撃は非常に正確で誤射などまずありえない精密さが窺い知れる。

 

『ナフェ、そして補佐ども。作戦は成功した。余計なことをせず、速やかに帰還しろ』

 

「了解しました、ホワイト総督」

 

 幹部3名に入って来たホワイトからの通信。内容は作戦成功による撤退帰還の命令だった。ここでスライザーを始末できないのはさすがのナフェも後味の悪さを感じるものの、自らが絶対の忠誠を誓う御方の命令に逆らうことは、ホワイトを失望させるばかりか自らの信念に

反する唾棄すべき行為。

 

 よってここはスライザーを逃がすような形で補佐二人と共に転移。毒の結界を維持する者がいなくなったせいで解ける形で消滅し、消耗とダメージからスライザーはその意識を闇へと手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東の大都市区画2-00エリア群における攻防戦はクロワの敗北に終わった。

 

 この戦いにおけるクロワ戦士の犠牲者は1,789。対しハクト兵士の犠牲者は1,558に及んだものと見える。いずれも差こそあれど千の単位に達する犠牲が出たのは事実に他ならない。

 

「ここに集った幹部の皆、まずはご苦労だったと礼を言わせてもらおう。だが今回の作戦において、お前達にマズマの件をザハ以外に話さなかったのはすまない。万が一の可能性に過ぎないが、クロワのスパイを考慮しての事だ。いつどこでクロワのスパイが盗聴や盗撮をしているとも知れないからな……もし、何か発言したいことがあれば聞こう。遠慮することはないぞ」

 

 玉座に腰を降ろし、まさしく王の如き風格と威厳でその場を指揮する姿は外見こそ少女なれど、ただ一つ動作するだけ。たったそれだけでも、そこには貫禄の光に満ちるようにあった。

 

「不平不満はありません。ザハ様は我等ハクトの幹部における管理の長。言うなれば総督の意志を代弁する者でもあり、我々幹部を管理するという立場を与えられている以上、それは総督直々に絶対的な信頼を得るだけの成果がある証。その点を踏まえれば何ら問題もありま

せん」

 

そこに感情はなく、しかしザハに対する信頼が隠れながらも伺えるナフェの言葉。そして、ナフェの言葉に同意するかのように治療を完璧に済ましたリリオが発言をした。

 

「俺もナフェの意見と同じです。それに情報というものは多くの者が知れば、それだけ漏洩の危険性も高くなる。俺は情報に関するプロフェッショナルってわけじゃないが、その程度のことは心得ているつもりです」

 

「そうか。他に何か言いたいことがある奴はいるか? 沈黙はなしと受け取るぞ」

 

 ハクトを統べる総督の言葉に皆が何も言うことはなく、何らかの発言を提示する幹部は1人もいない。

 

 ただ唯一を除いては……。

 

「いや、ありますよ総督」

 

 両腕が漆黒の翼となっている少女『バード・スラッシャー』。ハクトの航空戦力における指揮を担う幹部『航空将官』の地位を有し、その類なき才覚は見事なものだが欠点がある。

 

「この私バード・スラッシャーは、今回の作戦において大いに貢献しました。して、その働きに見合う報酬を求めるのは当然の権利の筈ですよね~?」

 

 そう、これだ。

 

 相手が総督であるにも関わらず、この無礼千万な態度と厚かましいにもほどがある己が利益の要求。更には、相手を躊躇なく嵌めようとする出世欲も相成って最低極まりない性格をしている。

 

「働き? たかが援護に来た程度だろ。その位のことで自身が優れているなどと本気でのた

まう気か?」

 

 そんなバードに非難を含めた声で語るのは、禍々しい漆黒の騎士のような外骨格を身に纏う『尖兵長ナイトリッター』。ハクト幹部であり、同時に兵長リリオの忠実な側近である。

 

「はッ! だったらそっちは何した? クロワの雑魚どもを相手に苦戦してたのは事実だし

、何よりお前のところの能無しご主人様は総督の助けがなかったら、今頃死んでたぞ」

 

「貴様ァァッ! 我が主を愚弄し穢すかッ!!」

 

 腰に差した大剣を抜き、その矛先をバードへと向けるナイトリッター。まさに一瞬触発の時……しかしその間に入るかのように彼の主たるリリオの厳粛なる声が響き渡る。

 

「やめろ、ナイトリッター。総督の御前で剣を晒すな。俺の顔に泥を塗る気か?」

 

「!! いえ、そ、それは……早計且つ出過ぎた真似。申し訳ございません」

 

 自らの行為が、リリオの顔にまた泥を塗る失態だと気付いたナイトリッターはすぐに大剣を収め、平伏す礼を取る。

 

「プッ! 言われてやがる」

 

 だが性懲りもなく侮蔑を交えた嘲笑を発するバード。そのまま何か言うとしたが、総督自ら放った眼光で睨まれた為、何も言えず黙る他なかった。

 

「さて、バードよ。その薄汚い減らず口はともかくとして、確かに貴様の援軍によって作戦が効率良く進んだのは事実であり、成果の一端でもある。よって貴様には『20人分をネブレイトする一回性の権限』を与える」

 

 総督の言葉に幹部の全員が驚愕の色を示した。だが、このような反応が出るのも無理はない。総督の言うネブレイトとは、無論ハートレスを含む生物を喰らい、その性質を得る生体系統のアーマメント術式のことである。このクシロロ世界にはハートレス以外の生物は一切存在しないが、クシロロ以外の世界なら話は別だ。

 

 かつて、平和主義者らが増加し始めていたばかり頃のクシロロには、異世界へと渡る為の術が多種多様に存在していた。その全てが、平和主義者のハートレスらが異世界の者達との平和的共存、そして今後のより良いクシロロ世界の発展に繋がる可能性の高い『未知なる物』

を探索する為に生み出したものだった。

 

 結果から言って、失敗もあったが成功も確かにあった。

 

 クシロロとは違う世界に生きる、知性を兼ね備えた住人達が持つ『文明』や『文化』という概念は、争う以外に何もなかったハートレスと言う種にとって、とても衝撃的で素晴らしいと感じるものばかりだった。おかげでそれが、今のクシロロ世界を形作っているのだ。

 

 しかし失敗は当然のようにあった。

 

 闘争主義者らのハートレスらが、どういうわけかそれらの術を得て虐殺と破壊の限りをあらゆる異世界にて尽くし始めたのだ。更に平和主義者たちが干渉した世界全てが友好的という訳ではなく、ある程度まで文明が発展した異世界では研究材料の為と称され、調査部隊が何

人か犠牲になるという事態が多発。

 

 これを重く見た平和主義者らは、闘争主義たちが渡った世界で彼等を駆逐。その後、異世界との交流的な干渉は『あまりに早計だった』、『本来ならあってはならない事だった』と、そんな決断の下に異世界へと渡る術は一つ残さず歴史の闇へと葬られ、今となっては異世界

を知る者は極僅かとなっている。

 

 ホワイト☆ロックシューターも、その1人だ。

 

 しかし彼女は不完全なれど、異世界の生物をこちらの世界へと強制転移させる『位相用アーマメント術式』の系統に属する召喚術式の開発に成功。そうして異世界の知的生命体を蒐集し、それを養殖・喰らうという形でネブレイトする。

 

 クロワにおいてそれは禁忌の行為そのものだが、ここはハクトの総本山。

 

 『闘争主義』と言う名のある種の誇り、絶対的な掟。そう考える者達であれば誰もが各々自らを強くする為に犠牲など厭わぬという事。

 

 『自分を強くするのに躊躇は不要』。

 

 これは総督が直々に発した言葉であり、幹部や一般兵士らはこの言葉を胸に今日まで生きている。話が逸れたが、つまるところバードは異世界の生命体をネブレイト(捕食)する権利を得たわけだが、幹部の皆が驚く理由はその数にある。

 

 ネブレイトの行為そのものは週に一回と決められている。そして捕食してもいい家畜の数は一般の兵士で1匹、幹部でも5匹と少数に決められている。これには訳があり、ネブレイトは形こそは捕食だが、本質は他の全てを自に取り付ける……つまり『他者の能力や記憶など

を取り込み心身共に強化させる』と言うことを意味する。

 

 だが、それでも大量にネブレイトをすれば、許容量の限界を超えオーバーロードを起こしてしまい最終的には自滅の谷底へと堕ちることに繋がりかねない。

 

 ようは人間で言うところのドラッグと同じようなもの。一時的に力をつけることはできても、その代償とも言うべき副作用は、容赦なく肉体を無残に蝕む。

 

 だが総督は一回限りとは言え、家畜20匹をネブレイトしてもいいと断言した。これは別にバードを殺す意味で言ったではなく、バードは総督を除く他の幹部らや兵士達とは違い、ネブレイトの許容量範囲が高い。本来ならば1匹や5匹程度など、足りないのが彼女にとって

普通のことなのだ。

 

 しかし、その点を考慮したとしても、あまりに優遇過ぎることには違いない。しかしバードの性分を考えるならば妥当と言えるのも事実だ。妙な気を起こされて計画が破綻されては、困るどころの規模では足り得ない損害に成りかねない。かと言って数少ない航空戦力である

ことを考えれば、後先何も考えず始末するのは得策ではないだろう。

 

 従って、他の部下よりも優遇する形で静かにさせていた方が良いと。

 

 ホワイトはそう考えたのだ。

 

「おお~~! それはありがとうございます! この『航空将官』、常に御身の偉大高き御考えの下に」

 

「……ふん」

 

 調子の良い奴だ。内心そう呟く総督は、その言葉を口に出すことなく心の内側までに留める。

 

「さて、もうすぐ全ての準備が完了する。装置起動の鍵となる物は既に我が手中にある。であれば後は装置の最終調整を済ませ使うのみ。やっと……本当にやっとだ。我が大望たる『地球再世』に手が届く!」

 

 カッと大きく見開かれた両目にあるものは『確信』の二文字と、野望を内に秘めた紅色の瞳。

 

 しかしその野望を秘めた瞳に潜めた真意は……白き少女が知るのみ。

 

 

 

 

 








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