ブラック★ロックシューター THE・GRAY WAR   作:イビルジョーカー

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 長らく待たせてすみません(汗)

 分割する気はなかったんですが、個人的に更新が遅くなってしまうという理由からPart分割することにしました。

 けっこう鬱展開とかあるので気をつけて下さい。

 では、どうぞ。






★ 中編 part1 ☆

 

 

 

クシロロ。この世界は黒と白の勢力が混じり合い、そして対立し破壊と悲劇……そして死が繰り返される場所。

 

 黒の勢力である『クロワ』は現在、白の勢力たる『ハクト』によって奪われた鍵の宝物『ワールド・クラース』の奪還に尽力を注いでいた。ワールド・クラースと言うのは形はどうあれ本質は『鍵』だ。で、あればこそ当然だが『鍵』としての役割が存在する。ある物を起動させると言う役割が。

 

 それこそが『ワールド・ヴィレッジ』。

 

 曰く、名は様々あるがこれが一般的な呼称とされている。クシロロの民たるハートレスたちの文明は、自分たちの世界以外の他世界を観測できるほどの知識と技術を保有していた。

 

 嘗て、まだハクトがホワイト☆ロックシューターの手によって一個の大勢力の組織として君臨する以前。まだクロワがこのクシロロ世界の覇権政権を握っていた頃、新たなる物資や資源確保の為と他世界生命との交流を目的にワールド・ヴィレッジを用いて様々な世界を行き交った。それによって他世界における知的生命体に纏わる文化の品々や物資並び資源を手に入れ、クロワは今以上に繁栄を黄金のように輝かせたと言っても過言ではなかった。

 

 しかし、ある時期に運悪く闘争主義のハートレスたちがワールド・ヴィレッジの技術を奪い、拙いながらも擬似的なワールド・ヴィレッジを製作しクシロロ世界から他世界へと侵攻。この事態に対処する為、数百数千もの討伐部隊が一個一個と各他世界へと派遣され、闘争主義らによる暴虐と殺戮を数百年かけて完全に鎮圧させた。

 

 とは言え、その代償は安いものではなかった。

 

 闘争主義のハートレスたちによって他世界の多くが犠牲と破壊によって血塗られた。中には間に合わず無残にも生命が一個も残さずに死して滅びた世界もあった。

 

 クロワの王朝たる『7人のブラック★』は、この事態を重く……そして悲痛に感じ受け止め、もう他世界に災厄を持ち込まないようワールド・ヴィレッジとそれに纏わる技術・計画の全てを半永久的に凍結。このクシロロ世界から闘争主義のハートレスたちを根絶、あるいは巧く沈静化させる日が来る、その時までは……。

 

「これが、あの鍵の全てを」

 

 東と西、南と北。

 

 この東西南北の四つに隔たれた大都市区画によって形成されたクロワの都市国家。

 

 その東の大都市区画に存在する様々な集いを目的とした大広場では、クロワの精鋭全員が欠けることなく集結しており、そして目前にはクロワの精鋭以上の実力と指揮能力を誇るクロワの統率者『ブラック★ロックシューター』こと、『ステラ』がワールド・クラースに関する全てを語り終えていた。

 

 ステラは今まで明かすことのなかった、クロワの宝物にして先代統率者だったゴールドソーの遺産『ワールド・クラース』についてその全てを明白なものとした。

 

 そしてこのような光景に至っているわけだが、12名全員が揃う精鋭たち皆の表情は様々な物が伺える。

 

 ある者は困惑を、ある者は冷静に受け止め、またある者は少し残念そうな雰囲気を醸し出す。

 

 果ては悔しさに溢れる者やハクトに対し、その認識を今一度改めるかのように憎悪の炎を燃やし滾らせる者など。

 

 その心中はどうあれ、本当に様々だ。

 

「ワールド・クラースの本質は『鍵』。その鍵を使うべきワールド・ヴィレッジがあってこそ、初めて真価は発揮される。つまりハクトが

ワールド・クラースを狙い略奪したと言うことは……」

 

「何らかの方法でワールド・ヴィレッジを手中に収めている……と言う事になるな」

 

 ステラよりも先にそう結論付けるようにして答えるストレングス。それにステラは押し黙って頷く。

 

 上記で言ったが、ワールド・ヴィレッジに関わる技術や計画、全てはある場所へと凍結され厳重保管されている。そこがハクトによって破られた形跡はないし、盗まれた痕跡もない。だが、いかに全てが厳重保管されている形で封印されているとは言え、そうする前に一度は流出し他世界に災厄を齎したのは言い逃れのない事実。

 

 そのことを鑑みれば、一度流出し紛失したものを見つけたか……ともかく装置を手に入れたその過程はどうあれ、ワールド・ヴィレッジを所持している可能性は極めて高い。ホワイト自身も、ワールド・クラースを『鍵』として使うと明言していたことも相成って、ほぼ確実と言って良いだろう。

 

「でも、装置の居場所が分からないとなると……正直、最悪ね」

 

 デッドマスターが溜息混じりにそう零す。

 

 クシロロの世界規模は、地球と同じ太陽系に属する惑星である『木星』と同等の広大さを持っている。無論ながら限られた時間内で探すことなど不可能である。そこでクロワは『ワールド・ヴィレッジを設立するに値する場所』を想定して考え、その捜索範囲を絞った。ワールド・ヴィレッジを正常に何の問題もなく起動運営する為には、発動と同時に余波として放たれる膨大且つ強力な余剰エネルギーを受け止められる『地盤』が必要だ。

 

 いかに地球よりも広大な…それこそ『木星』に等しい規模の世界でも、その条件を満たすことのできる場所は現在確認されている限りでは三つしかない。

 

 まずは、この『クロワの大都市区画』。

 

 しかしリスクが非常に大きく、防衛システムも決してザルなどではないクロワの本拠地でそう易々とできる筈もない。

 

 二つ目は『アルカナの谷』。クロワの王朝たる『7人のブラック★』がこの世界の創造神『アルカナ』によって誕生したとされる場所。

伝説に等しいクロワ最古の歴史において、創造神アルカナは自身と対極を成すとされる邪悪と破壊の権化『マーラム・ムンドゥス』を相手に7人の眷属たるブラック★と共にこれを討ち破ることに成功。そして共に戦った、まだ名も無き集団に過ぎなかった平和主義者のハートレスたち等を束ねて『クロワ』を創成したと伝承されている。

 

 クロワにとってはまさに神聖な場所であるばかりか、余剰エネルギーを受け止めるに最適な『地盤』もある。ならばハクトがここにワールド・ヴィレッジの装置を設立していてもおかしくはない……が、装置その物を安定的に設立するのに適していないのが問題だ。

 

 いかに地盤が良かろうとも、安定的に設立できなければ意味がない。

 

 最後の三つ目は『ハクトの本拠地たる火山の地下都市遺跡』。ここも地盤その物は良いが『火山』が有ると言うのが厄介な欠点になる。

余剰エネルギーが火山を刺激し、本拠地に重大な壊滅的ダメージを与えてしまっては元も子もない。

 

 三つのどれもが地盤自体は良い物の環境が最悪なせいで設立には不向きだ。三番目はともかく、それを踏まえた上で最初と二番目には念入りな本格的捜索を実施したものの、やはり何の成果もないまま二つとも杞憂に終え果てた。

 

「いいえ、居場所の検討はつくよ」

 

 そんな事情を知っていながら、ステラは敢えてデッドマスターの言葉を否定した。

 

「『カタスロット・インフィス』。そこしか考えられない」

 

 カタスロット・インフィスとは、簡単に言ってしまえば『巨大な穴』である。しかし穴と言っても横幅は100kmで、縦幅は180kmにもなる大規模を有する奈落の底。遥か昔においてマーラム・ムンドゥスから強大な力を授かったハートレスの一族が封印されたとされる場所。

 

その穴の底たる最下層であれば、余剰エネルギーを受け止めるには最適な地盤とワールド・ヴィレッジを安全且つ安定的に設立できる場もある。まさに好都合な立地条件というわけだ。

 

「チャリオット。すぐに斥候部隊をカタスロット・インフィス派遣して調査をお願い。他の皆は斥候部隊の調査から得た情報を下に軍備を整え、各強襲部隊の編成を。我がクロワの上位戦力を全て投入しての決戦を仕掛ける!」

 

「わかったよ、ブラック」

 

『了解!』

 

 チャリオットと精鋭全員は互いに承諾の意を含んだ言葉を発し答えた。かくして、クシロロ及び異界の地たる地球の存亡を掛けた大決戦が始まろうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒と白。

 

 たった二色のみで染められた歪なオブジェクトのような建物。それによって形成された街並みが広がるクロワの四つの大都市区画。

 

 その住民であるクロワのハートレスたちは皆、戦いばかりではない平和な日々を過ごしている。四つ全ての大都市区画の総人口は現在において2億15千。中小を合わせれば6億にも達し、その半分は非戦闘員である。

 

 ハクトの場合は所属する者全てが戦闘に関する技術・能力に特化した者のみ故に非戦闘員など、まるで存在しない。

 

 闘争主義であるハクトと平和主義たるクロワ……両者の特性が隠然とだが確かに示されていると言えるだろう。

 

「なぁ、聞いたか? 近々すげー作戦が始まるって」

 

「ああ。知ってるぜその話」

 

「なんでも、あのカタスロット・インフィスに精鋭を含めた上位戦力で臨むらしいな」

 

「おいおい、大丈夫かよ。んなことして、ここがガラ空きになったら……」

 

「俺達の命が危ないじゃないか!」

 

「でも、今までにない総力戦ってことは……ブラック様は、この戦いを終わらすつもりかもしれないわよ?」

 

「ハッ、ありえないって。クロワとハクト……この戦争はもう800年は続いてんだぜ? 敵の戦力・兵力だって全然ピンピンだ。一気に片を付けようなんて土台無理な話だっつーの!」

 

 街中の話題は常にコレだ。『クロワ前代未聞の上位戦力全ての投入!? それに基づくカタスロット・インフィスにおける大規模作戦!

』などという、そんなキャッチフレーズが特徴的なこの話題の内容は言わずもがな、カタスロット・インフィスに精鋭全員を含めた上位戦力で攻め込む大規模作戦……通称『コードK』。

 

 クロワが誇る12名の精鋭たちと、それに近い実力を有する最上級・上級の戦士による『上位戦力』を余すことなくなくカタスロット・インフィスへと投入し、敵が保有するワールド・ヴィレッジと強奪されたワールド・クラースを奪還……もしくは破壊するというのがこの作戦の趣旨だ。既にクロワが派遣した斥候部隊からの報告によれば、目標とするワールド・ヴィレッジその物はステラの読み通り『カタスロット・インフィス』の奥深くにて、設置され厳重な警備体制にあるという。

 

 機械その物はハクトが発見したばかりの当時は大破状態だったらしいが、今では修復を十全に終え残すところは『最終調整』のみ。その工程さえ済んでしまえば後は軍勢を確固としたものへと編成し、地球へと攻め入るのみ。

 

 かの総督たる少女が。ホワイト☆ロックシューターが。

 

 焦がれ哀愁と待ち望んだ『地球再世』への第一歩が始まるという訳だ。

 

「どこもかしこも、カタスロット・インフィスの作戦で持ち切りだな」

 

「それだけ、今回の作戦は今までにないってことよ。こうなるのも無理はないわ」

 

 北の大都市区画『アイルコン』。

 

 その5-00エリア群の一つである5-02エリアにおいて、一軒のバーの店でストレングスとデッドマスター&デッドスカルが三角形のガラス瓶を傾けながら、他愛ない談笑に口を侍らせていた。

 

 このクシロロにも『バー』がある。尤もあくまで異世界からの産物であって、元々あった概念ではないが。店に有るものは大抵が『酒』か『リキドー』と呼ばれる様々なエネルギーを液体に含ませたもの。

 

 そして液体ではなく固体にエネルギーを含ませた『ソリドス』がある。

 

 その種類と展示数は一軒でも数百に及び、来店した客は様々な味に舌鼓を鳴らすことができるのだ。

 

 そんなバーに精鋭たる彼女等が来ている理由は、端的に言って英気を養う為だ。

 

 既にチャリオット直属の斥候員部隊の調査は完了済みだ。それによって得た情報によれば、やはりカタスロット・インフィスの奥深くにワールド・ヴィレッジの大規模な装置が存在し、現状では幾重にもなる最終ラインを終えた後に装置を起動させる予定であるとの事。

 

 敵であるハクトが、最終ラインを完全に終えるまでの期間は今日から数えれば5日後。

 

 その前日にクロワはカタスロット・インフィスへと総攻撃を仕掛ける計画を立て、既に軍備及び精鋭率いる強襲部隊の編成も終えてある。後は決戦の日に備えての英気の養い…というわけで、精鋭含め作戦に参加する戦士全員にその日までの自由時間が設けられる事となったのだ。

 

「英気を養えとは言われたものの……正直有り余ってる感じだ」

 

「あれだけ戦っておいて?」

 

 2人の会話はそれほど感情的なものはなく、非常に淡々としてはいるものの、それなりには少し程度だが感情が垣間見せていた。

 

「ヒャーハッハッハッ! 俺もストレングスの意見に同意だァッ! 俺も早くハクトのクソどもをぶち殺したくて、ウズウズしちまってるぜェェェェーーーーーーーー!!!!!」

 

「ジニー。黙っていろ」

 

 有頂天もかくなるものかとばかりにハイテンションで、はしゃぐように返すデッドスカル兄弟の弟ジニー。それを厳格な態度をもって諌める兄のコニーの静止の声は、ただ傾聴だけなら平淡に聞こえるが愚弟の喚き声に嫌々とした感情が滲み出している。

 

「しかし、ブラック様も相当な賭けに打って出たな。上位戦力…それも精鋭全てを戦線投入とは」

 

 コニーの言葉には、やはりと言うべきか驚きが混じっていた。そもそもカタスロット・インフィスの戦線投入ばかりに力を入れこのクロワの総本山たる大都市区画を疎かにするなど、どうかと思うのが正直な所だ。無論それはコニーのみならず主たるデッドマスターやストレングスも同意はする。

 

 故に、だからこその意見をストレングスは述べる。

 

 「不安なのは無理もない。万が一ここが襲撃された場合を想定すれば、我々を含む精鋭全員を戦線投入するなどありえない。だが考えても見ろ。ハクトが異世界へ渡り今以上の力をつけたら……クロワの勝利はない。奴等の軍事力増強を阻止するという意味で考えれば、決して安易な作戦ではない筈だ」

 

「ま~それによ兄貴。俺達クロワの総戦力は上位戦力だけってわけじゃないだろう? 中位戦力と下位戦力…おまけに『切り札』があるんだぜ? よっぽどの事でも起きない限りは大丈夫だろうさ」

 

 ストレングスとコニーの正論で論破されたジニーは何も言えず、渋々だが一応は納得したように溜息を吐きながらコップに入った緑色の

酒を少し口に含み嗜む(口を器用に巧く使いながら)。

 

「それでは、そろそろ失礼する」

 

「ん? もう行くのかジニー」

 

 酒を一気に飲み干し、店を出ようとするジニーは淡々と『用事がある』とだけストレングスに返し、バーを後にしていった。

 

「珍しいな。いつもなら我々より長くいる筈だが……」

 

「あ~多分アレだな」

 

「ええ、アレね」

 

「アレ?」

 

「保護教育センターだよ。兄貴はあんなんでも子供好きだからな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保護教育センター。人間世界に当てはめて言えば『学校』になる場所だ。

 

 ハートレスは基本的に二通りの誕生経緯が存在し、一つは地球の生物でもよくある『異性同士の交配』。もう一つはラックエナジスが比較的多く集まりやすい場所にコアが形成される『単独発生』とある。

 

 保護教育センターは、親が存在しない単独発生児を文字通り保護し育成を全面的にサポートする『孤児院』としての顔も待っており、四つに分かれた大都市区画には総数で58箇所。中小区画では一区画につき5~8箇所ほどがある。

 

 中でもアイルコンにあり、施設の規模が大きくクロワの戦士を将来的に希望する子供達が日々座学と戦闘技術を学ぶ保護教育センター『ミリターウェア』は屈指の知名度を誇り、入学希望者はクロワ内で最も一番に多いと称しても過言ではない。

 

「デッドスカル様! 見て下さい!」

 

「ほう、私の似顔絵か? 上手だな」

 

「コニー~! 今日もゲームして遊ぼうぜ!」

 

「ああ、望むところだ」

 

 そんな場所で1人、コニーは大勢の子供達と戯れていた。人間のような人型もいれば、デッドスカルのような異形型も多くいる中で彼は嫌な顔一つせず子供等の相手に勤しんでいる。傍から見ればあまりのギャップに驚く者がいても無理ない光景だろう。かくいうストレングスもこの光景を見たとすれば、驚愕に呆けてしまうに違いない。

 

 何せ、いつも厳格で物静かな性格なのだ。そうなれば当たり前のように元気に騒ぐ子供というのは、コニーからしてみれば一番相手にしたくない存在かもしれない。少なくとも仲間からはそう見られているのは仕方のないことだ。

 

「いつもありがとうございます、コニー様」

 

「気にする必要はない。好きでやっているに過ぎないからな」

 

 色々と子供たちの相手をしていたコニーは一旦、施設内にある休憩スペース内に入っていた。丁度そこにいた彼の幼馴染である人型ハートレスの女性でこのセンターの院長である『ラウニー』と他愛ない会話をしていた。

 

 ラウニーは地球でいう所のシスターのような純白と漆黒の服装を身に纏っており、嘗ては優秀なクロワの戦士だった。

 

 コニーとは共に戦場を駆け抜けた仲で、その強さは当時のゴールドソーに匹敵するほどだと。ゴールドソー本人や精鋭たちをそう言わしめた猛者だ。やがてその正々堂々とし、凛とした麗しの姿から『聖戦姫(せいせんき)』とまで敵から恐れられるようになった彼女はゴールドソー直々の精鋭襲名の際、それを断り今のような教育者としての道を選んだ。

 

 コニーがギャップに反する子供好きであるように、彼女もまた大の子供好きだったのだ。

 

「そう言えば、風の噂からクロワが大規模な作戦を実行しようというものを聞き入れたのですが……」

 

「……ああ。最上級たる精鋭全員を含め上級戦士全てを戦線投入し、カタスロット・インフィスにある異世界へと渡る装置を破壊する。無論、俺達デッドスカルもデッドマスターと共に行くつもりだ」

 

「……やはり行かれてしまうのですか」

 

 ただ嘆息する彼女の顔には、その言葉と同様に言い知れぬ悲壮を漂わせていた。

 

 彼女は分かっていた。もうすぐ幕を開ける今回の戦いでは、高確率に精鋭の誰かが命を落とすだろうと。向こうは精鋭と同レベルの幹部全てをもってしての防衛ラインで守りを固めているのだから、それを突破しようと考えるならば幹部とまもとに遣り合える戦力を必要とするのは当然。

 

 最下級、下級、中級から成る『下位戦力』では到底話しにならない。

 

 突破しようとしても近辺にまで接近することすら叶わず、壊滅されるのがオチというものだろう。

 

 だからと言って上位戦力を投入すれば何とか突破できる……という考え方は、あくまで成功率が高くなるというだけの可能性の話に過ぎない。今までにない本気以上の敵の戦力を相手に何処までやれるか、刺し違えたとしても任務を達成できるのか、と問えばできると断言することはできない。

 

「……私は」

 

「言うな、言う必要はない。お前はお前にとって…いや、クロワの未来において最善の道を選んでくれた。今この施設にいる子供達は皆が誰一人欠けることなく『未来』その物だ。ありとあらゆる可能性に満ち溢れた…な。お前はその未来を導く者だ、決して卑怯なんかじゃない!!」

 

 ラウニーの内に秘めた迷いは今一度戦士としての顔を取り戻し『コードK』に自分も参加すべきではないのか、という点だ。

 

 ここでかつて戦場を駆け抜けた戦友を見送り待つだけでいいのか? それは卑怯なことなんじゃないのか?

 

 そんな悩みを一掃するかのようにコニーは違うと説く。

 

 子供は未来その物だと。行きつく先の結果が良し悪しどうであれど、確かに今後のクロワを左右する次世代だと、漆黒の髑髏はそう語った。

 

「……すまない。少し声を荒げてしまった。許してほしい」

 

「いえ、こちらこそすみません。そう言ってくれるだけでも本当にありがとうございます」

 

 謝罪をしつつ、何処か安心したような笑みを浮かべる彼女の姿に思わず背を向けた。今まで感じた事の無い『気恥ずかしさ』という未知の感情からに由来する行動だった。

 

「別に礼を言われるようなことではない。そろそろ時間だ……名残惜しいが、俺は仕事に戻る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を遡る事『昨日前』。

 

 クロワの都市区画領域から、少し離れた西の方角に位置する場所にある険しい岩肌の渓谷。

 

 特に名前はない。あるのは人型ハートレスを餌としている獰猛な異獣型ハートレスらと、希少な鉱物が数種類ほど採れる採掘ポイント。

 

 そしてここを根城に渓谷産の異獣型ハートレスを飼い慣らし、『番獣セキュリティ』を構築している組織がいた。

 

 名は『ハンティン』。

 

 クロワはおろか、ハクトにも属していない中小規模の組織だ。しかし組織の規模は中小程度なれど、その狙った獲物を逃がさない技と才はきちんと報酬のある依頼を受ければ、例えハクトの幹部やクロワの精鋭であろうと獲物を巧妙な罠と高性能な武器で確実に狩り獲る。

 

 まさに狩猟戦術において、お誂え向きな集団だろう。

 

 そんな彼等の拠点施設である渓谷の洞窟は、天井に配置された細長いカプセル形状の蛍光灯が迷路のように入り組んだ洞窟内を照らし出し、各部屋の一室一室には必ず何らかの用途で使用される機材が置かれている。そんな場所のある一室において秘密裏の話し合いが行われていた。

 

「その情報、確かなの?」

 

「間違いない。あの聖戦姫は保護教育センターの『ミリターウェア』って所で教師をやってる。随分と似合わないがな」

 

 一方はハンティンの女ボス『サンドイーター』。黒いウエットスーツのようなタイツ姿をし、金属と鉱物で形成された歪なドリルの左手。顔には二つの赤い特殊レンズが光る迷彩柄の暗視スコープを着用しており、ボサボサとしたショートな髪型が彼女元来の面倒臭さがりな性格を躊躇なく表している。

 

 かたや、もう一方は今回の依頼主にして旧知の男。

 

 人型でまさに中年のおっさんと称せるほどにハゲで小太り。

 

 しかし髪の代わりとばかりに一本の角が屹立し、肌の色は赤。

 

 服装は紳士服に似た物でそれなりには小綺麗にしているらしい。だが背中に生えた三対六本の生々しく、赤黒に紫の斑点という不気味な色彩に染められたワームアームがそれを見事なまでに台無しにしているが。

 

「まぁ、んな事はどうでもいいがな。俺の目的はその聖戦姫様ことラウニーの首だ。奴に関してはお前も狙ってるって事は知ってる。だからお互い共通の敵を倒そうじゃねぇか」

 

 背中にワームアームを持った男……彼の名は『ワームデモン』。

 

 かつてはハクトの幹部の座に据わり、それ相応の権力を誇っていた実力者だったがホワイト☆ロックシューターの存在が目障りになり、ハクトを無断で抜けた裏切り者でもある。それ以降はクロワの打倒を掲げ秘密裏にテロ組織を結成。現在はクロワの都市区画内と郊外にいくつか拠点を設け秘密裏に動いているといった状態。

 

 そんな彼がラウニーを狙う理由はただ一つ……『復讐』だ。

 

 ワームデモンの顔面には、丁度顔全体をすっぽりと覆うようにX字に交差した切り傷と服の下の胸から腹部かけて斜めに奔ったもう一つの切り傷が今も凄惨に残っている。無論だが自分でやったものではない。このような傷を残したのは、当時まだ聖戦姫だったラウニーだ。

 

 初めての戦闘の際、最初こそデモンワームは善戦していた。だが次第に押され始めた上で止めとばかりにこの傷を受けたのだ。

 

 少々深い傷を負ったが命辛々逃げおおせることはできた。だが肉体のみならず、幹部としてのプライドにまで傷がついたワームデモンはいつか雪辱を果たし、この屈辱を晴らすと。そう誓って今それを成し遂げようと姦計しているのだ。

 

「報酬も十分に用意する。損はさせねぇよ」

 

「……いいわ。乗ってあげようじゃない。報酬は正直どうでもいいけど、奴には私も借りがある。舐められっぱなしは私の主義に反するから、面倒臭いけど重い腰を上げようじゃない」

 

「よし! それでこそ悪名高きハンティンの頭目だ!!」

 

「んで、あんたのプランを聞こうじゃないか。どんな感じで奴を追い詰めて狩るのぉ?」

 

 彼女のその笑みは、何処までも凄惨で醜悪。相手の苦痛を是とし悦とする、悪しき本性が滲み出していた。

 

 ともかく、そのあとの約1時間後。

 

会談はプラン関連で色々とあったものの、何とか終わりを迎えた。同盟は見事締結されて『ラウニーの打倒』という共通目的から協力方針を取り決めた。ワームデモン案の『ラウニー抹殺プラン』の為の準備は着々と進んでいた。進んでいたのは大変良かったのだが、一つ問題が起きてしまった。

 

「く、くそがっ! 離せ! 離せよ!!」

 

「お兄ちゃん……」

 

 運悪く人型ハートレスの兄妹に渓谷の拠点施設を見られてしまったのだ。

 

 現在2人は両手に鎖付きの腕輪を嵌められ、少し地面から浮いた宙吊り状態の形で拘束されている。少しボサついた短めの黒髪に白いラフな服装をした兄は無駄だと分かっていても尚抵抗の意志を見せ、黒髪が腰まで長く兄である少年と同じような格好をしている妹はそんな

兄に対する心配と今後の事への不安から兄の名を零していた。

 

「いや~元気良いね、君。もう最高なくらい」

 

 コツコツと足音を立てて、軽快にそんな言葉を零しながらサンドイーターが近付いて来た。

 

 広い四角の形状をした空間に拘束された兄と妹。それを面白おかしく見つめるという光景は何とも言えないだろう。実際隣の一室から事の次第を見ているワームデモンとその部下らは、『何処かそっち系の犯罪的臭いを覚える』だと、正直な所そう思っていた。

 

「んん? その黒い服……あっは~なるほど! うんうん、君達『ミリターウェア』の生徒でしょ!」

 

「そ、そうだったら、どうしたってんだよ!」

 

「いやね~お姉さんたちはこれからミリターウェアに奇襲を仕掛けるの。分かる? ラウニーって女を殺す為に」

 

「なっ!」

 

「!!っ」

 

 兄妹が驚愕するその反応を見て、サンドイーターはその不気味な笑みをより一層と深めた。

 

「きひっ。知ってるんだ~? なら、ちょっと改造して利用させてもらうわよ?」

 

 そう言って彼女は左手のドリルを一気に高速回転させたかと思えば、それを少年の眉間へと喰い込ませた。

 

「が、あっ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「ヒィッ! いやあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

 肉を裂き、骨を砕き、歪で不快な音と少年の断末魔の叫びを発生ながらドリルは深く、より一層深くへと突き進んでいく。

 

 その戦慄の光景に妹の少女は圧倒的恐怖とパニックで

 

 有る程度まで掘り進んだのを手応えで感じ取ったサンドイーターはドリルを止め、今度はドリルの尖端部分を本体から切り離しゆっくりとドリルを抜き戻した。

 

「がっ、あ……ぅぁ……な、何を……」

 

「お? 意外と口利けるんだ。これをやった奴等はみーんな精神ぶっ壊れたけど……ふむふむ。クロワも惜しい逸材を失くしたね……あ、

ごめんごめん。何をしたかっていうとさ、アンタの頭に私特製の制御装置を付けさせてもらったの」

 

「せ、制御……装置?」

 

「うん。まぁこんな感じで?」

 

 パチンッ。

 

 そんな軽い音を立てて指を鳴らすサンドイーターだが、すぐに変化は少年の兄に起こった。

 

「が、あ……アアアアアッッ!!!!」

 

 先程ではないにせよ、相当なまでの苦痛が少年の頭から発生しそのまま身体を蝕み、徐々に感覚を奪っていく。

 

「お兄ちゃん!」

 

「安心しなよ妹ちゃん。死ぬなんて事はない。ただ、意識はあるけど身体の自由が亡くなるだけさ。そして意のままに動く傀儡と化して一個の駒として成立、って感じになるけど」

 

 そう説明してしばらく少年の苦痛に歪む顔に愉悦を感じていたサンドイーターだったが、またドリルを高速回転させ、その狙いを少女の頭部へと定めた。

 

「んじゃっ、君もなってよ。私の傀儡にね」

 

 その言葉と笑みは、何処までも残酷で悪性に塗れていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ダージス』と『ロメア』は、一体何処にいるんです!」

 

「ちょ、まっ、落ち着いて下さいって!」

 

 時間を戻し、デッドスカルのコニーがミリターウェアを後にして30分……ラウニは同僚であるダンゴ虫のような姿の男性ハートレスを

相手にかなり取り乱していた。何故こうなったのかと言えば、きっかけはこの同僚からの報告だった。

 

 『自分の担当生徒で単独発生児の兄妹、兄のダージスと妹のロメアが昨日から行方不明』だと。

 

 ミリターウェアの単独発生児並び孤児生徒はその全員が寮生で、彼等にのみ『外出許可』の権利がある(親がいる生徒は帰宅制である為に必要ない)。正当且つ、簡単な記入手続きを踏めば一日だけクロワの都市区画のみに限り、外出権利が与えられるシステムになっている。

 

 しかし、その一日を過ぎても兄妹が戻って来ることはなかった。

 

 ラウニーは仕事柄の用事で別の保護教育センターへと行っていた為に知らず、代わりに任されていた同僚は間抜けにも昨晩の点呼確認を

し忘れたとの事だった。

 

「発信ブレスは?! それで場所を特定すれば…」

 

 発信ブレスとは、このミリターウェアに通う生徒が必ず手首に付けているもので、赤と青。緑と黄の四色タイプが存在する腕輪型の端末機器だ。これさえ身に着けていれば、例えクロワの都市区画郊外から出たとしてもその居場所を特定することができるという代物である。

 

 しかし……。

 

「できたらやっています! ブレスからの反応が全く一切検知されなんですよ?! おそらく何らかの要因のせいで故障したと思われます」

 

「そんな……なんてこと」

 

 発信ブレスによる居場所の特定は不可能。

 

 そんな無情な現実が叩き付けられ、ラウニーは不安と焦燥からそんな言葉を零すと同時に最悪の未来が浮かび上がってしまう。

 

 無論、無事であると信じたい。

 

 彼女にとって生徒は大切な宝であり、自身の命を懸けてでも守らなければならない者達だ。特に両親のいない子供達はもはや自分の家族も同然。故にダージスとロメアの兄妹も他の子供達同様、自分が守るべき家族に他ならない。

 

「あとクロワの治安維持部隊の方に捜索願いは届け出ましたが……何分、例の作戦の準備諸々で今すぐにというわけにはいかないそうで…

…」

 

「結構。仕方の無いことです。始めから誰かを当てにするより、自分達で行動して探した方が良い場合もあります。頼るのは後でも大丈夫

です」

 

「わ、分かりました。では…ん? あ、アレは!」

 

「!! ダージス! ロメア!」

 

 施設の一室の窓から、行方不明になっていた筈の2人の姿が見えた。

 

 センターは凸型の形状をしており、広大な二つのグラウンドに挟まれるようにして屹立している。敷地内の入り口である正門は地球のギリシャ神話に登場するかのような神殿の一部を切り取ったのかと。そう思うほどに美しい神聖さを垣間見せ、そして彷彿とさせるデザインに

なっている。

 

 その門の前に2人はいた。

 

 ダンゴムシ型の同僚とラウニーの目には、確かに見間違えなどではなく映っていた。

 

 それを確認したラウニーの行動は逸早く転移系統のアーマメント術式でテレポートを実行。二人の前へと降り立った。

 

「貴方達……一体何処に行ってたの?!」

 

 厳しくも安堵を含ませた怒声で2人を叱咤するラウニーの目には、言葉に相反して涙が溜まっていた。それほどまでに心配だったからだ。故にその無事な姿を見て何も思わないなどと彼女の性格から鑑みればありえない事だろう。

 

「さあ、言いたい事とか聞きたい事はありますが、まず詳しい話は中に入ってからにしましょうね」

 

 立ち話するほど気軽な雰囲気ではない為、ラウニーは自分の両手で二人の手を取ると門を難なく潜り抜けた。そして少し急いだ足取りでグラウンド内へと入っていく。

 

 門を潜ってある程度離れてから、ラウニーは兄妹の2人が顔を上げず伏せたままでいることに気が付いた。

 

 反省している為……と言えば納得いくかもしれないが、それを差し引いても2人の様子が何処かおかしいのは明らかだった。

 

「ダージス? ロメア? 大丈夫…?!」

 

 急に2人は顔を振り上げた。そして泣いていた。

 

 今までにないほどの悲哀と後悔によってその幼い顔を酷く歪ませていた。

 

「ラウニー先生……ごめん、ごめんなぁぁさい……!!」

 

「ヒック、ウゥ……ごぉ、ごめんなさい……!!」

 

 二人の口からどうしよもなく漏れ出てくるのは、謝罪の言葉。そしてそれが同時に『狼煙』でもあった事をラウニーは知る由もなかった。刹那。2人の兄妹を中心に膨大な熱エネルギーが光と共に爆ぜ、側にいたラウニーと正門を容赦なく飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ!」

 

「急に爆発が…」

 

「ねぇ、あそこってミリターウェアじゃない?」

 

「ミリターウェアから爆発が上がったってことか?」

 

「早く治安維持部隊に連絡しなきゃっ!!」

 

 施設の周囲にあった住宅街は騒然と混乱を極めた。

 

 何せこのクロワにおいて最も有名随一と権力を誇っていたミリターウェアが爆発を起こすなどと…誰が思うのだろうか。いや思わないだろう。そう思わなかった故のパニックなのだから。

 

 そして、爆発によって生じ黙々と高く上がる大煙を目撃しながら、少し買い物に寄っていたデッドスカルのコニーはほんの数分前までいたミリターウェアへと方向を戻し切羽詰る勢いで駆けて行った。

 

「まさか……ハクトか?!」

 

 そんな彼の脳裏にふと駆け巡ったのが、あの爆発の原因だ。できれば只の事故だと思いたいが、ハクトによる人為的な物だった可能性も否めない為、『不安』という感情が沸々と彼の精神をまるで蝕むかのように沸き起こって来る。

 

「ラウニー、みんな……無事でいてくれ!」

 

 しかしこの時、爆発を引き起こした元凶たる存在がハクトではなく、有る意味それ以上に悪辣で残虐的な狩人によるものだと。コニーが

知らぬのも、その可能性を考える暇もなかったのは仕方なかった。

 

 一方、場所を戻しセンターの正門。

 

 爆発の威力は伊達ではなく、センターの守りでもあった正門を跡形もなく木っ端微塵に破壊し尽くし、もはや少し大きいだけの石ころが散乱するだけと化してしまった。そんな正門だった瓦礫の石ころを潰していくかのように歩み寄るのは……。

 

「だっ~~~~い成功! 本当まさかここまで旨く行くなんて思ってもみなかったよ! アッハッハッハッハッ!!!!」

 

「おいおい、こいつは予想してたのより派手だなぁ……まぁ、最高だけどよ! ガッハハハハハハ!!」

 

 嘲笑染みた高笑いを隠さず、意気揚々と『サンドイーター』と『デモンワーム』はやって来た。

 

 その背後にはデモンワームの部下であるミミズのようなワーム型とパワードスーツのような機械的外骨格を有するカブトムシやクワガタ

に似た意匠を持つ人型ハートレスが50。

 

 続いてサンドイーターの部下であるリザードマンのような形態に、砂色に近い色彩を有するトカゲ型ハートレスと茶色に白と黒の斑点模様という柄のまんま大蛇の姿をしたヘビ型ハートレスがデモンワーム側と同等の50。

 

 しかもこれだけでなく、他の部下たちが別の方角からセンターへと侵入し生徒達を冷酷非常なまでに虐殺している頃合だろう。

 

「! やっぱりか」

 

「でしょうに。あの爆発ぐらいで死んだらこっちが逆に困るわよ」

 

 ふと、2人が視線を前へと注げば何かがいた。

 

 ラウニーだ。しかしその身は汚れと服の切れ目でボロボロな風体で爆発前までの清楚な感じは微塵も感じられない。

 

「……………随分と、酷い事をするんですね」

 

 サンドイーターとデモンワームを見るラウニーの目には、心底冷え切った殺意が宿っていた。しかしその反面、その心内は凄まじい熱を秘めた憤怒というマグマがおぞましいまでに煮え滾り、いつ爆発して溢れ出てもおかしくない状態だ。

 

「あの子達が、何をした。あの子達はただ、日々を過ごしていただけだ。あの子達はただ……幸せを望んでいた。それを絶やす理由があったのか? いや……あったとしても、そんなものを認めるなど……断じてありえない!」

 

 心底から沸き起こる、激情をありたっけ乗せた言葉が咆哮となり、ある種の威圧となって猛威を振るう。それをまともに受けたデモンワームとその部下、更にサンドイーターの部下までもがそれに戦慄し気負される形で思わず一歩下がる。

 

 だが彼女だけは笑っていた。嘲笑を止めることなく、サンドイーターは更に彼女を煽る。

 

「いやいや~アレね。どういうわけかクロワの外に出て、私達が根城にしてる場所を知られちゃったんだよ。で、生かすわけにもいかず、でもせっかくだから貴方を抹殺する為の道具にしてあげようって思ったの。現に私達の目的は貴方の首だし」

 

「………」

 

「このミリターウェアを守るエネルギーバリアはクロワでもハクトでも、ちょ~~最高ランクに部類できるだけの鉄壁を誇ってる。そしてこのエネルギーバリアを発生させ制御していたのが、あの正門。つまり私達がここへ侵入する為にはどうしても門を破壊する必要があるけど、それをバリアが邪魔してる。なら、どうすればいいか分かる?」

 

「……『爆弾に見えない爆弾』……ようはうちの生徒を利用した……という事だろう?」

 

「正解! 爆弾がこのセンターの生徒なら容易に入れる。そんなわけで調達しようと矢先、あの兄妹が捕まってくれてね。助かったわ」

 

「………ッ」

 

「爆弾でもあり、私の意のままに動く傀儡にする為の制御装置を頭に埋め込んで利用させてもらったわ。あ、さっきの謝罪に関しては予想外だったわよ? あんなの指示なんてしてないし、する必要もないもの。まさか最後の最後で制御装置に逆らうなんてね~、将来はとってもいい戦士になったでしょうけど、私達に捕まったのが運の尽きだったわけよ」

 

 ここまであまり表情を出さず、沈黙を貫いていたラウニーだったがいよいよ限界の刻が来てしまった。

 

 ボロボロになったシスターに似た服装を強制転移で送還し、それと入れ替えるようにかつて自分が『聖戦姫』として戦場を駆け抜けたアーマー装備を着用。左手に十字架の模様が刻まれたT字型の大剣『セイントルム』を。対する右手には十字架のエンブレムモニュメントを中心に薄いながらも、強力なエネルギーによる反射板が円形状に形成された盾『パーラティーン』を握り締めている。

 

 アーマー装備はまさに聖職者を思わせるような十字デザインがふんだんに盛り込まれ、メインカラーは赤でサブカラーは白というものに

なっている。簡単に言えば『シスターの修道服と一国の姫様が着るドレスを二対二で割ったような感じ』だろうか。

 

「貴様等全員、生きて帰られると思うなよ!」

 

「あっは~~! それはこっちの台詞だよクソビッチが!」

 

 ラウニーは怒りの咆哮を。サンドイーターは侮蔑の嘲笑を。両者は今ぶつかり合う。

 

「ふん!」

 

「あはっ!」

 

 ラウニーの剣筋から成る一閃。並みのハートレスなら対応できることなく首をはねられ終わるところだろうが、サンドイーターは違う。

 

 余裕で見切り、ジャンプをとって回避。そして左手の歪なドリルを伸長させ脳天を射抜き、コアを破壊しようとするが彼女の脳天にドリルが届く瞬間何かがドリルを遮る。彼女の愛武器たるセイントルムの刀身だ。

 

 思わず舌打ちを漏らし、ラウニーが次のスタンスを起こす前に間を取ったサンドイーターは部下に参戦するよう命令を発する。

 

「あんた達! ボサッとしてないで来な!」

 

「俺等も行くぞ!」

 

 自らのボスに激を飛ばされ、我に帰ったサンドイーターの部下達はすぐさま攻撃の意をラウニーに見せ突撃。それに釣られる様にデモン

ワームは部下を率いて攻撃を開始。まずラウニーめがけ、背中のワームから赤黒い液体爆弾を放つ。

 

 しかしラウニーはそれを軽く薙ぎ払い、飛散した液体爆弾はサンドイーターの部下を容赦なく粉砕していった。

 

「あーーーー!!!! ちょっ、何やってんだよ!」

 

「うるさい! 返されたんだから仕方なかろう!」

 

 デモンワームのミスで自分の部下を殺されたサンドイーターはラウニーの攻撃に一つ一つ対処していきながら抗議の声を上げるが、とうのデモンワームに反省の色などまったく無く、むしろ今のは攻撃を跳ね返されたのだから仕方なしだ、と言い張る始末。

 

 こんな事を言っている間に自分等の部下たちは次々とラウニーが繰り出す剣戟の餌食となり、100はいた数もたった5分間で75人に減らされている。それほどまでに部下達とラウニーの間には個々の戦闘能力において大きな差が有ることを示していた。

 

「(このままやっても部下を死なせるだけか…)チッ! お前等は守りに徹し隙を見計らって攻撃しろ! 切り込みは私が勤める!」

 

「俺もいるんだ、ちったぁいいとこ見させてくれよ!」

 

 サンドイーターは不本意ながらも便乗して来たデモンワームと共に切り込みを務めた。

 

 いかに数が多くとも、相手が部下達を容易く……それこそ人間が無視を踏み潰すのと変わらない絶望的なまでの戦力差が明確にある以上、ただ闇雲に攻撃させるのは戦術的によろしくない。故に部下達を防衛と援護に配し、切り込みはこの中で最も戦闘能力が長けているサンドイーターとデモンワームに任せた方が部下の犠牲が少なくなる。

 

「そらそら! 俺のワーム捌きの味はどうだァ?!」

 

 背中のワームを変則的且つ高速で操り差し迫るデモンワームの姿は、かつてハクトの幹部だけあって口だけではないものがある。しかしだからと言ってラウニーが遅れを取るという事はありえず、こちらも見事な捌きで対応している。

 

「いい加減、その薄汚い芋虫にも見飽きたな」

 

 最もその気になれば対応だけでなく本気で切り落とすことも可能だ。実際、今それをやってのけたのだから。

 

「ぐっ、がアアアアアアアアッッッ!!」

 

 ワームを左右二本ものの見事に切断され倒れるデモンワームを尻目にサンドイーターはドリルを先程のように伸長し、剣のように振るってラウニーの剣とぶつかり合う。

 

「貴様等は、私が目当てなんだろ! 何故幼き命を利用した! 直に狙ってくればいいものを……」

 

「あんたには、それをするだけの怨恨と憎悪があんだよ!」

 

「……デモンワームならば分かるが、私はお前と面識は無いぞ?!」

 

 ラウニーは、基本的に自らが殺した者を絶対に忘れたりなどしない。その全ての目撃データをコアに徹底保存しているので、人間の記憶と違い意図的でない限り『忘れる』ということはまずない。つまり彼女の言っている『サンドイーターと面識はない』というのは事実なのだ。それを突き付けられても、彼女の心内にある憎しみと嫌悪は消え去りはしない。

 

「シガム・トルル。知ってるだろ? クロワとは別にいた平和主義のハートレスが築き上げ、それなりに繁栄してた街の名前さ」

 

「! 貴方は……まさか!」

 

「あんたの考え通りさ。かつてクロワのクソ元老会どもが独断で決行したシガム・トルルの壊滅作戦。私はその生き残りだ!」

 

「なんだ…と?」

 

 それはラウニーにとって衝撃的な一言だった。

 

 クロワの上層部はその頂点をかの伝説のアルカナ眷属の『ブラック★』とし、その下に7人のブラック★と共に生きた最古参メンバーを中心に構成された『元老会』。クロワの都市に関する大小様々な問題を解決する為の『評議会』の三構成となっている。

 

 その内の一機関である元老会は、日に日に勢力を増していていくシガム・トルルに危機感を覚え始めた。

 

 シガム・トルルはクロワと同じ平和主義でありながらその枝を分かったが、あくまでもそれは『闘争主義のハートレスに対する在り方の違い』から来るもの。シガム・トルルは闘争主義者に対して基本的に無干渉を徹底させ、その敵意がこちらに向いた場合のみ攻撃するという方針に対し、当時のクロワは徹底撲滅というスタンスだった。

 

 故に元老会は欲した。この世界に数え切れないほど蔓延る闘争主義の害虫どもを一掃できるだけものを。

 

 そこで目を付けたのがシガム・トルルの保有する超高密度エネルギー『ビビス』だった。

 

 ビビスはクロワが誇る最高峰のアーマメント術式の技術を持ってしても作り出すことのできない非常に貴重な代物で、その威力はたった数滴でクロワの大都市区画を一個分壊滅せしめるほど。そんな危険なものを自分達ではなく他の連中が持っていることに対しての懸念もあったが、何より元老会はビビスを非常に欲した。

 

 そしてそれを手に入れる為にとうとう…犯してはならない強硬手段に打って出た。

 

 ビビス保有のシガム・トルルを壊滅させビビスを奪取する為の作戦『オーダー・ビビス』を秘密裏に計画。

 

 クロワの最高統率者たるブラック★ゴールドソーには『勢力を増している闘争主義ハートレスの根城を撲滅する為』という虚偽報告で欺き、その発令の承認の受諾を得る事に成功した元老会は作戦開始を発令。自らの保有戦力をもってシガム・トルルを戦火で包み込んだ。

 

 対抗するシガムの戦士を殺すだけでは飽き足らず、一般市民を口封じとばかりに虐殺していき、一つの街で引き起こされた惨劇は地獄のようにおぞましい光景だった。

 

 当時幼かったサンドイーターはまさにその渦中にいた。

 

 劫火に焼かれる多くの友。

 

 容赦なく剣や槍でコアを貫かれる父親。

 

 自分を庇い獰猛な大型ハートレスに食い殺された母親。

 

 自分を守ろうと最後まで戦い、その首を刎ねられた兄。

 

 物陰から自分の存在を感付かれないよう事の一部始終を見ていたサンドイーターの目には、自らの兄を殺した者の顔が嫌というほど鮮明に映っていた。

 

 その顔こそ、今彼女自身が相対している女性……聖戦姫ラウニーに他ならない。

 

「そ、そんな……」

 

「『ランド・イーター』……兄は貴方にそう名乗った筈だから、覚えてるでしょ?」

 

「あ……あ……」

 

「私の! 兄を殺しておいて……どの口で語るか?! 幼い命を奪った? 私の街も同じようなことされたんだよ、お前等に!!」

 

 会話する為に間を取っていたが、もはや激情に駆られたサンドイーターに残された行動選択は『攻撃することだけ』。

 

 その一撃一撃は……先程よりも重く鋭さを光らせていた。

 

「でも今、ようやく清々した気分になれるよ。同じやり方で絶望に陥れて殺せるんだから……全部アンタのせいよ。あの兄妹が死んだも、私にこの施設を無茶苦茶に破壊されるのも……全部お前のせいだよ!」

 

 眼前で互いに武器を交えるサンドイーターが、その口から紡ぎ解き放った言葉はラウニーの心をナイフのように抉り、彼女の全てを崩壊させていく。

 

 あの作戦に襲名され、参加したことはラウニー本人が一番後悔していた。

 

 自分が愛しいと。

 

 大切だと。

 

 そう思える子供達という命。そんな彼等の両親を殺し、あまつさえ子供達までその手にかけて命を奪ったのだ。決して許されない所業である事に変わりなどないし、逆らわなかったことに関しては言い訳も出来ない。

 

 当時の彼女は非常に恐れていたからだ。

 

 今までの功績を元老会に否定され、底の見えない奈落の失墜に堕ちることを。もしも自分がそうなってしまえばミリターウェアの継続維持はままならなくなるばかりか、親のいない孤児や単独発生児らの子供達は賎しく狂った元老会の最古参の1人『マッドハンド』の手でおぞましい実験の為の実験体にさせられる危険性もあった。

 

 それだけ当時の元老会は汚泥に足を浸かせているかのような悪徳卑劣で腐り切っていた。

 

 否定の余地など無い。

 

 実際元老会はそのような脅迫で彼女を言い包めて、彼女を作戦に強制参加させていたのだから。

 

 しかしそんな元老会も、ゴールドソーが密かにスパイとして侵入させていた直属の部下により自分達の今までの行為が白日の下に晒された為、築き上げて来た地位と栄華を失い、組織的に解体されてしまったので今はもう存在しない。

 

構成されていたメンバーはきちんと員数違わず捕縛され、正しき法の下厳粛な裁きを受けた。

 

だがそれでも彼女の過去が消えるなどありえない。彼女は…ブラック★ロックシューターがそうであるように、感情が他のハートレスと

比べ情緒豊かに溢れている。子供を愛しみ、誰かの死に悲しみ、己が過ちに償いを求める。

 

だからこそ強い罪の意識に苛まれ苦しみ、常に後悔して今日この日に至るまで生きているのだ。 

 

まるで罪を自覚し、それを背負い足掻く『人間』のように。

 

「はあああああーーーーーーーーーッッ!!っ」

 

 今まで鋭く重く繰り返されたサンドイーターの一振りが、とうとうラウニーの愛剣を砕き散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミリターウェアは、もはや地獄だった。

 

 人型。亜人型。獣型。節足型。機械型。姿形の是非を問わず、公平にその幼き命が奪われていく。ある者は四肢を切り落とされ、ある者は胸を抉られコアを引き摺り出され、またある者は首を刎ね落とされた。

 

 『恐怖』という感情が薄い…あるいは欠如している者にとっては『自身の死』という現実に対し、『ただ当たり前の結果』として受け入れ精神を侵され壊されることなく逝けただろう。だがそうじゃない者にとっては……おぞましいほどに地獄の呵責だ

 

「いやアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッッッ!!」

 

「し、死にたくない! 誰か助け…がアァッ!」

 

「ぐっ! や、やめ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」

 

 もはや情けなど皆無だ。

 

 サンドイーターとデモンワームの部下達は慈悲の一欠けらも子供達へは向けず、向けるのは殺意と命を奪う為の武器と牙のみ。

 

「急げ! 早く地下の避難所へ!!」

 

「みんな焦らないで落ち着いて!」  

 

 既に158名に及ぶ生徒が無法且つ情けを知らぬ侵入者の手にかかり犠牲となってしまったが、まだ生存している455名の生徒らは教員の指示に従い誘導され、施設の安全区域である地下の避難所へと収容されていく。

 

 生徒達を誘導しているのは非戦闘員のみ。戦える教員は幼い命を脅かす侵入者の駆逐に当たっていた。

 

「ヒャッハーーーーーー!! 汚物どもめ、一人一人じっくり消毒してやらァァァァァァ!!!!」

 

 荒事を嗜好とするモヒカンヘアーに黒のレザーコートに似た服装をした人型の男性教員は、そんなことを吐きながら手に持ったマシンガ

 

ンで次々と侵入者を蜂の巣へと変えていく。もはやどちらが悪党か分からない。

 

「ファル! 治安維持部隊に連絡は!」

 

「さっきした。近辺に精鋭が何人かいるそうだから、その人たちを向わせるって」

 

「いいね! そいつは心強い!」

 

 一方二階のラウンジでは三階の回廊から射撃し、ラウンジにいる侵入者を苦戦を強いられつつ掃討していく男性教員が2人いた。

 

 1人は白衣の下に黒タイツという風貌の短金髪の男性で、もう1人は黒く赤のラインが入ったパーカーを着こなし、フードと二つの目穴しかないシンプルなデザインのマスクで顔を隠している『ファル』という男。

 

「ラウニー院長は?」

 

「センターの正面グラウンドで敵と交戦してる! おそらく何かしらの因縁有りだな、雰囲気的に!」

 

 そんな会話をしながらも敵を次々と掃討していく2人だが、しかしここで予想外なことが起こった。

 

 一匹の大蛇型ハートレスが何と跳躍を行使して来たのだ。

 

 しかもかなり高く、跳んだ先にはファルと短金髪がいるまさに眼前だった。

 

 大蛇型が口を大きく開けて二人を食い殺そうと迫った瞬間、黒い何らかの物体が側面の位置にあった壁を突き破るようにして現れ、そのまま大蛇型へ横からタックルする形で見事粉々に吹き飛ばしてしまった。

 

「フゥゥゥゥ………自らのラックワイトエナジスを放出して纏い、突進の威力を強めてみたが……うむ。上出来だな」

 

 やや満足気に呟いた黒い物体の正体はコニーだった。

 

 更に天井の天窓を突き破り、現れたのはバーにいたストレングスにデッドマスター、そしてコニーの片割れたるジニーの三名。

 

 ストレングスはオーガアームを変形させてガトリングモードで攻撃を。

 

 デッドマスターは手に持った大鎌を振るい、周囲にいた敵を無駄なく一掃。

 

 ジニーは口から蛍光緑色の弾頭と火炎を吐いて敵を焼き尽くし、爆破していく。

 

「ヒャッハー! クソハクトは全員消毒して粗大ゴミにしてるぜ~~!」

 

「周囲の敵の殲滅完了。それとコニー、テンションを抑えろ」

 

「他愛ないわね……」

 

 まさにあっという間だった。

 

 自分達が苦労してやっと数を少し減らせた程度だというのに精鋭メンバーは少しどころか、その場にいた敵勢力を全員容易く全滅せしめてしまった。この事実を前に2人は精鋭がいかに他の凡夫と一線を駕す卓越した戦闘能力とセンスを有しているのか、それを再確認させられる他無かった。

 

「そこの2人。降りて来てくれないか? 現在でのミリターウェアの状況を詳しく知りたい」

 

「わ、分かりました」

 

 ストレングスにそう言われてファルが返事をし、すぐさまファルと短金髪の2人は三階の回廊から、高さ15mはある二階ラウンジへと

 

そのまま飛び降りる。

 

 人間の視点で見てみれば、彼等が何気なくやった行動は恐ろしいほどに狂人紛いな自殺行為だろう。しかし生憎と彼等は人間ではなく、人間よりも強靭な肉体と身体能力……そして戦闘能力を有した『ハートレス』という、人間とは根本から違う異世界の知的生命体だ。

 

 つまり何が言いたいのかと言えば、飛び降りても特に問題はないということである。

 

「生徒は全員…とはいきませんが、何とか地下の避難所へ収容しているので今のところは安全です」

 

「全員じゃないという事は…」

 

「はい。我々の力足らずが故に……我々の、責任です」

 

 ファルはそう言いながら、短金髪がそうしているように自分の無力さに対する責任と後悔。怒りと悲しみ。その全てを込めるかのように

 

拳を握り締め…そして震える。

 

 それを眼前にて見据えるストレングスとデッドマスター、並びジニーの三名は特に何も言わなかった。

 

 彼等の気持ちを汲んで敢えてそうしたという事も含めてはいるが、『憤怒』と『悲哀』の感情が薄い為に彼等が今感じている『精神的な苦痛』が完全にとはいかないまでも、あまり理解出来ていないのだ。故に共感することなどできず、下手をすれば悪意は無くとも彼等に対し酷な言を投げかねないという意味も含んでいる。あくまでもその二つの感情が希薄なだけで決して皆無という訳ではないのだが。

 

 これに関して言えば彼等だけでなく他のハートレスにも言える事なので、むしろ『ハートレス』という種族はそれが普通のこと。

 

 何らかの感情が希薄であるか。あるいは元から無いのか。

 

 どうして? と質問されたとしても生まれた時からそうなっているので、これに関しては文句など言い様がない。

 

 逆にそれ以外…つまり軽薄や欠如していない感情の部分はきちんと備わっている。妙な特異性質だが、これこそがハートレス固有の精神構造なのである。

 

「いや、よくやってくれた。確かに犠牲は出してしまったが、同時に守れた命も確かにある。その事を忘れるな。君達は十分に『使命』を全うした」

 

 しかし、コニーだけはそんな彼等に声をかける。非難でも中傷でもない…ましてや感情のない酷な言葉でもなく、純粋な労いと励ましを秘めた言葉。それに幾分か救われたかのように顔に明るみを出す二人。

 

 コニーはそんな2人に対し束の間もなく質問をして来た。

 

「ラウニーが何処にいるか知っているか? 嫌な予感がするんだ……頼む、教えてくれ」

 

「院長なら正門のグラウンドで敵の首領らしき二名と他数名を相手に交戦中です」

 

「分かった。デッドとストレングス、ジニーは施設内にいる敵の掃討を頼む。私はラウニーの援護に向う」

 

「分かった」

 

「うん、気をつけてね」

 

「ヒャッハー! 任せとけって兄貴ィィィィッッ!! クソッタレな悪党は俺が皆殺しにしてゴミにしてやらァ!」

 

 三人はラウニーとコニーの事を知っていた為にその事に関しては特に追求せず、彼からの頼みを否定も異論もなく承諾する。

 

 こうして彼等は二手に別れ、それぞれの任に当たる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……ウゥ……」

 

「散々痛めつけてゴメンね。私も感情的になってた……今度こそ本当に殺してあげる」

 

 優しさなど一切毛頭ない台詞を口にし、ドリルの尖端を向けるサンドイーターは嗜虐的な嘲笑としての笑みが張り付いていた。

 

 尖端の先には愛剣が折れ、その麗しき姿までもがボロボロのズタ袋のようにされたラウニーの無残な姿。

 

 精鋭に行き届いた実力を有する彼女がこんな状態になったのは他でもない、サンドイーターの口から出た『彼女自身の過去の真実』に基づく精神的なダメージによって生じた戦意喪失が原因である。サンドイーターの過去…それはクロワとは違った平和主義の考えを唱えたシガム・トルルの住民であり、それをクロワの元老会の手で何もかもを壊され失った1人の被害者。

 

 脅迫染みた命令を元老会に押し通され、強制的に参加させられたラウニーも被害者と言えば被害者だが、シガム・トルルの住民を虫でも踏み潰すが如く殺戮した事実に変わりはない。

 

 罪は罪でしかない。

 

 犯した事を無かった事になどできず、故に償いなんてものは存在しないだろう。

 

 犯した罪は背負うべきもの。それ以外にないのだ。

 

「じゃあね」

 

 端的にそう言ってドリルを振り上げ、そして一気に振り落とそうとするサンドイーターの顔に張り付いた嘲笑の表情は決して変わらず、ラウニーの命を刈り取るその時まで変わることはないだろう。

 

 だが、『ラウニーの死』という結果は容易く裏切られた。

 

 突如としてセンターのある方角から黒い物体が一直線、しかも驚きの急速接近で向かい、あっという間にラウニーとサンドイーターの位置まで来たかと思えば、ラウニーの前へと突き出しサンドイーターを轢き飛ばしてしまった。

 

「なにっ!」

 

 それを後方で見ていたデモンワームは驚愕の声を上げ、部下も同じく声は出していないがデモン同様、驚いた様子を見せている。

 

「無事か、ラウニー」

 

 正体は言わずもがな、コニーだ。

 

「コ、コニー……どうして……」

 

「ああも馬鹿騒ぎすれば、誰かが治安維持の方に通報するものだ。あとここの教員の1人もな」

 

「………ああ~、最悪に痛いわ~これ。本当やってくれたわね……」

 

 頭を片手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がるサンドイーター。当たった衝撃で暗視ゴーグルは罅割れてしまい、右の方は完全に砕け散ってしまっていた。

 

そして、その奥には敵意と殺意がダブルで滾っている闇色の瞳が覗いている。

 

「ハクトにしては計画性の無い犯行という点で冷静に考えてみたが、貴様等はハクトではないな?」

 

「はっ、そう思った時点で馬鹿よ馬鹿。私は狩猟集団組織『ハンティン』の首領サンドイーター。んでこっちの赤デブがデモンワーム」

 

「なっ、で、デブ?!」

 

「それで何しに来た?」

 

 赤デブと呼ばれて不服剥き出しに声を上げるものの、コニーはお構いなしにスルーしてサンドイーターに事の真意を問い質した。

 

「何しに? あんたの後ろにいる奴の始末よ」

 

「………なら、子供達は? 彼等を殺す理由なぞない筈だ」

 

「!!っ」

 

 コニーの言葉に対し、ラウニーは衝撃を受けらざる得なかった。そして自分がまんまと『陽動』に嵌められたのだと気付くが今更過ぎてもう遅い。

 

「う……そんな……」

 

「全部。全部がそいつのせいよ。幼い生徒達が今この瞬間にも殺されるのはそいつのせい。私はシガム・トルルに生まれてクソ元老会とそいつに家族や友達…故郷の何もかもを失った。そして今度は私が奪う。確かこういうのって、どっかの世界の言葉で『因果応報』っていうんでしょ?」

 

 さも当然とばかりに断言するサンドイーター。しかしコニーは呆れを含んだ溜息を吐いて鬱陶しいものを見るような視線で彼女を見据えた。

 

「自惚れるな。誰かに何を奪われようと、自分がそうしていい免罪符になどならん」

 

「……」

 

「まぁいい。貴様も覚悟あってのことだろう。何が悪く、何が良いのかなど、言ってしまえば瑣末な事だ。ただそれが自分の成すべき使命と考えるのであれば、貫けばいい。故に私はお前の所業を否定する。お前がこれ以上犠牲を増やすつもりならば、私はこの身が砕かれようと止めてみせる。それが善悪の何であれ……クロワとしての私の使命だからな」

 

 コニーという1人のハートレスの男に『憤怒』と『悲哀』は一切無い。どれほど楽しい時間を過ごした子供達の死に対しても、残念ながら彼が思うものは『憤怒』でも『悲哀』でもなく、確固たる『使命』のみ。

 

 一体自分が何を成すべきか。何をする事で意味を成すのか。

 

 彼にとって『使命』は自分という存在を構成する一部なのである。

 

「あっそ。じゃあ、私も遠慮なく『使命』ってやつを果たさせてもらうわよ!」

 

 憎悪を滾らせた表情を顔に張り付かせながらサンドイーターはコニーに急接近し、彼の額を貫こうとドリルを伸ばす。が、それをコニーは口で挟むように防ぐと同時にサンドイーターごと一気に空高き宙へと放り投げた。

 

 空を自在に駆け抜ける能力を持たず、むしろ陸上・地中という環境下において、その真価を発揮することのできるサンドイーターにとって一度空中へと投げ出されてしまうということは、そこは自身の行動における自由を拘束される命取りの場所と化す事を意味している。

 

 動きの一切を宙によって束縛されている今の状態のサンドイーターは、まさしく『的』に過ぎないのだ。

 

「終わりだ」

 

 その宣言と共にコニーは口腔内に緑色に輝くエネルギーを蓄積し集束。そして、それを一筋の閃光の一線へと形作るように解き放つ。

 

 緑色に染まり輝く閃光は勢いを弱めることなく、サンドイーターを無慈悲に飲み込み爆発する。普通ならこの時点でチェックメイトものだろう。コニーの放った『グリーンプラズマル』は彼が持つ手数の中でも『切り札』の一つに入り、本来は大勢の敵を薙ぎ払い一掃する為の代物だ。

 

 故に威力はお墨付き。そんなものをまともに喰らったとしたら、肉体が無残に粉々になるしかないのだ。

 

「ぐっ……ッ!」

 

 だが現実は違った。

 

 黙々と大きく広がる爆煙の中から何かが落ちて来た。左腕を失い、腹部に焼き抉られたような傷を負ったサンドイーターだ。彼女は自分が粉々になる寸前、左手のドリル『トランスドリラ』でドリルそのものを分解し盾へと形状を再構成。それを用いて何とか即死の運命を回避することには成功したが、代償は大きい。

 

 もはや立つことはままならず、かろうじて上半身を起こすぐらいが精一杯の状態だった。

 

「諦めろ。驚きはしたが、その状態での戦闘続行は不可能だ。俺の他にも精鋭は三人いる。まともに相手に出来るのか?」

 

「グゥゥ……こ、ここまで……来ておいて!」

 

 あと一歩。たったそれだけを踏み出すことでラウニー抹殺に手が届き、己が念願だったラウニーへの復讐を完遂できる…筈だが、もはやその一歩さえ踏み出すことがままならなくなった。深い重傷と精鋭。この二つの障害が大きな壁となってサンドイーターの目的を妨げているのだ。

 

「と、言うとでも思ったぁ?」

 

 突如として苦痛と悔恨に歪めていた顔に嘲笑を張り付け、そんな台詞を吐き捨てたサンドイーター。そしてコニーがその疑問を自己解決

よりも早くラウニーに異変が起きた。彼女の胸部の中心……すなわち『コア』のある位置から極小規模な爆発が上がったのだ。

 

「!」

 

「ひひ、ぐひひひ! あーはっはっはっはっはっはっはっは!!!!! アンタが来るまでの間、私が何かしらの妨害を予想しないで何もしてないとでも思ったの? 私の勝ちはあんたが来る前から決定してるのよ!」

 

 コニーの驚く様子に笑みを更に深めたサンドイーターは、下品染みた高笑いを上げつつ己が勝利を思うままに誇り明かした。

 

「おいおい、ありゃ小型爆弾でも仕込んでたのか? でもそんな素振りは…」

 

「私のパーソナルスキルは知ってるでしょデモン。砂や鉱物を喰らい自在に操り爆発物へと変える……ラウニーを痛めつけてた時、一粒砂の塊を傷口から入れさせてもらったの。あとはそれをコアまで遠隔操作してドカンってわけよ」

 

「随分とえげつねぇな。まぁ~コアまでフッ飛ばされちゃお終いだわな」

 

 二人が会話する声など気にも留めず、コニーはラウニーの下へと駆け寄り彼女の安否を確かめる。

 

 これでも軍医助手である彼の目から判断するなら、間違いない致命傷だった。焼け焦げて開いた穴の傷口から覗くコアは通常よりも波長が大きく歪み、それがコア自体の形状にも影響を受けていた。

 

 本来ならば爆発と同時に胡散してもおかしくはなかった。だが運良く形その物は何とか保っており、揺らみ歪んではいるが跡形もなく消えるよりはマシだろう。

 

「……しばらく俺の中に入っててくれ」

 

 そう言ってコニーは口を大きく開け、緑光の粒子でラウニーを包み込むとそのまま飲み込んでしまった。

 

 コニーにはパーソナルスキルとして、体内に亜空間を持ちその中に入れたものは状態を保ったまま、あるいは雀の涙程度にだが改善することができる。おまけに防御力にも特化している為、戦場での彼の役割は戦闘の他に重傷者の安全確保・搬送となっている。

 

「やってくれたな。高くツクぞ」

 

 改めて視線をサンドイーターとデモンワームへと戻すコニー。ここで一気に身柄を拘束するつもりだが、生憎と相手が大人しく従う道理は無い。

 

「残念。もう私達の目的は達成したの。これで去らばよ!」

 

「スモーク・ポート!」

 

 デモンワームは背中のワーム全ての捕食口から赤い煙を大量に噴出させ瞬時に転移。目晦ましと転移の二つを同時利用した逃走術に何もできないまま敵を逃がしてしまったコニーは、忌々しそうに溜息を吐く。

 

「サンドワーム……か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、ぐゥ……思ったり、キツイわね…………」

 

「気を失ったか……はぁ~しっかりしろよオイ。それでも名高きハンター様かぁ?」

 

 引き連れた部下と共にハンティンのアジトの入り口前を歩くデモンはサンドイーターを優しく背負い、憎まれ口を叩きながらも面倒良く接している。

 

 対するサンドイーターは苦悶の声を滲ませる物の少し喋る程度には大丈夫そうだ。傷は重傷だが命に関わる物でない以上、変に焦る必要はなく、アジト内にある治療カプセルに入れば数時間で完治できる。

 

 もっとも、何もなければだが……。

 

「遅かったな。そこの女とデートにでも洒落込んでいたのかデモン」

 

 アジトの入り口から声がした。

 

 声音からして凛とした少女の物だろう。しかし、それにしては凄まじい重圧が錘のようにデモンたちの身に纏わり付く。この場から一歩でも進んだり、あるいは退くことを許しはしない。誰が言った訳でもないがそんな意志が明確に感じられる。

 

 デモンとサンドの後ろにいる部下たちも身動きでない現状に驚愕する中、声の主は悠然とした振る舞いで入り口の奥の暗闇から姿を現した。

 

「さてデモン。妾が何故、貴様等の住まいで待機していたのか……理由を知らぬなどと、抜かすことは許さんぞ」

 

 紅蓮の瞳を持ったハクトの頂点に君臨する覇王『ホワイト☆ロックシューター』。

 

 その鋭く重い眼差しの前では、さしものデモンワームも反抗心や戦意が萎縮する他ない。

 

「ホ、ホワイト☆ロックシューター。抜け出した俺をあんた自らが直々に始末しに来たってわけかい?」

 

「ふふ。当然の考えとしては結構…嘘を交えた言い訳をしない点も喜ばしいな。だが……間違いだ。妾の目的は貴様を始末するのではなく

 

、連れ戻すことにある。ついでにお前が背に乗せている小娘も我が軍勢へと徴兵する。異論は認めん」

 

 正直な所、耳を疑った。

 

 一度戦場へと繰り出せば其処に出来るのは屍の山。相手がどれほど幼い子供であろうとも、戦う者として戦場に立つのなら容赦なくその命を奪い、勝利を掴み取る。

 

 生きるか死ぬか……弱肉強食の掟が支配する戦場を誰よりも理解し欲する覇者。

 

 それをこそがホワイト☆ロックシューターだ。

 

 そんな彼女が何故、裏切ったも同然である自分とその協力者であるサンドの命を見逃し、再び傘下に加えようとするのか。 

 

「正気か? 手っ取り早く始末した方がいいんじゃねぇのか?」

 

「今は悲願への成功率を1%とでも上げたいのだ。その為に部下の脱走なんぞに気にかけるなど愚の骨頂。貴様の命は妾の物であり、その所有権は妾が手に有る。努々忘れるなよ?」

 

 有無を言わせない圧力を目で語るホワイトにデモンは何も言えなかった。当然ながら反論さえも。

 

「ではまず、そこの小娘の治療からだな。ここよりも優れた医療設備がある。事の説明は目覚めた時に話せば良かろう」

 

 

そう言うハクトの王には、いやに恐ろしげながらも上機嫌な笑みが顔に張り付くようにあった……。

 

 

 

 

 

 




 



 この話Part2まで行こうかと思いましたが、1に留める形にしました。

 次回は多分、ナフェメインでハクト側にスポットを当てた話になると思います。

 その後は後編でクライマックス! という予定ですね。





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