ブラック★ロックシューター THE・GRAY WAR   作:イビルジョーカー

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 ハクトの参謀にして、ホワイト☆ロックシューターがザハに次いで最も信頼する
腹心にして親友たる少女『ナフェ』。

 これはまだ…彼女がハクトに組する前。

 参謀ナフェとしてではなく、ただ1人のハートレスでしかなかった頃の。

 彼女という存在の原初の物語である……。






★ 中編 part2 ☆

 

 

 

 クシロロ。

 

 ハートレスと呼ばれる知的生命体が繁栄し、平和と闘争の二つの思想が反発し対立。両者の間で行われる熾烈な戦いが終わることなく、幾度も繰り返される世界。

 

 そんな世界の遥か西方に変わった山脈が壮大に佇んでいた。

 

 名を『スタープラネ山脈』といい、特徴としては歪な星型の鉱石『スターリウム』が大量に採掘できるのともう一つ、山脈その物が鉱石同様に歪な星型をしているという点だ。

 

「さっさと詰め込め!」

 

「モタモタするな!」

 

 山脈内部の採掘場。

 

 そこでは腕が機械のような金属部位と化している人型ハートレスや昆虫のような形態のハートレス。様々なタイプをしたハートレスたちが右往左往と忙しそうに作業しており、その傍らでは監視係らしき黒服フードを身に纏った人型ハートレスの何人かが怒声に近い指示を飛ばし、場の停滞や怠りが何一つ無いよう目を光らせ場の空気を正しく律していた。

 

 ここで働いている作業員は余さず、その全てが闘争主義で占めらている。

 

 理由は単純。彼等はある種の捕虜奴隷として平和主義派の権力者ハートレスに支配されているからだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 その片隅に彼女はいた。せっせとその巨大な機械化された腕と手で土を掘り、岩を削り、大幅に体力を消費しながらも一生懸命に身を粉にして労働に従事していた。

 

 やがて休憩の時は来た。

 

 大半のハートレスはその顔に疲労を見せてはいるものの弱音を吐く者はおらず、ただ休憩の一時に一息つくだけだった。

 

「おう! お疲れさんナフェ!」

 

 座り込んでいたナフェに後ろから疲労を微塵も感じさせない元気な声が響き渡る。後ろを振り返ればナフェと同じ機械の両腕を持ち、黄色のヘルメットらしきものを頭に被った男性の人型ハートレスの姿があった。格好は少しダボついた灰色のボトムズを履き、上半身は何もない裸。

 

 初心な乙女ならば思わず赤面ものだが、生憎とナフェに裸体に対する羞恥という感情はない。

 

 なので特に何の問題もなく直視できた。

 

「ソーンさん…」

 

 ソーン。それがこの男性ハートレスの名だ。

 

 闘争主義でありながら闘争主義らしかぬ感性の持ち主で、それ故大抵の者は彼のことを変人としか見なしていない。だが世話好きで誰に対しても気を使える姿勢はナフェを含む一部の者からは好意的に見られている所もある。

 

「おいおい、『さん』なんてやめろって。階級はお前と一緒さ」

 

「でも私より年上。それに私が好きで呼んでいるだけだから気にしないで」

 

 ナフェはソーンに親しさを込めた思慕の念を抱いていた。それはまさしく子が父を思うそれとあまり変わりないかもしれない。この点を鑑みれば、闘争主義でありながらこのような感性を持っている時点で彼女も変人の部類に入るだろう。

 

「そうか? まぁ好きに呼べばそれでいいわ」

 

 ナフェの意見に対して嫌悪感も苛立ちも無く、自ら妥協してソーンは笑顔を浮べる。そしてナフェの頭に自分の手を乗せたかと思えば、その無骨な機械の手で撫で始めた。彼の両腕と両手はナフェのように巨大ではなくむしろ人間のそれとあまり変わりない。よって普通に小さめサイズで少女の頭を撫でる事も可能なわけだ。

 

 一方で何の抵抗も見せないナフェはされるがままにそれを受け入れ、嬉しそうに目を細め口元を緩める。

 

 彼女は本能的に『愛情』というものに飢えていた。

 

 それは人間の赤子が親を求めるのに近い感覚なのかもしれない。しかしこのロジックパターンは他のハートレスと比べると極めて異例と言っていいだろう。

 

 『愛情に対する強い渇望』。

 

 感情の一部が希薄・欠如している種であるハートレスにとって、特に闘争主義に『愛情』に関連する感情など無いに等しい。 

 

 少なくともクロワならそういったものは有るにはある。しかし、他者を常に敵としてでしか見なさない闘争主義には持ち得ないものだ。

 

 あっても所詮は邪魔になるだけで、戦いには何の価値も見出さないからだ。

 

 しかし……ナフェは違った。

 

 他者の愛が欲しい。受け取りたい。そして自らもその愛を返したい。

 

 そんな稚拙で儚げな…同時にこの世界にとって数少ない『温もり』を彼女は持っていた。

 

「あっ、そうだそうだ。あっちで飯の配給があるから行こうぜ? まだなんだろ?」

 

「はい!」

 

 気さくな笑みに同じく笑い返すというその光景は闘争主義らしからぬものだ。しかし、このような場所においてはあった方が良い子とこ

 

の上ないだろう。

 

ナフェという1人の少女は他ならぬこの山脈で生まれ育った。

 

彼女は当初、聴覚が強力過ぎてありとあらゆる微弱な音を拾い上げてしまい苦悩していた。幸いだったのはそれが永続的に続くのではなく断続的だった事。

 

 それでも聞き取れないような微弱な音さえも大きく拾い上げ、それが何千何万と耳へ入る感覚は地獄の呵責そのものだ。

 

 生きる事さえ億劫に感じるようになり始めた頃、そんな時期に出会ったのがソーンだった。始めて会った時は是非も無く襲い掛かり彼の

 

命を奪おうとした。当時のナフェは闘争主義が徹底的で言語すら覚えず、ただ本能のままに獲物を求めて生きて来た。であるならばその反応は決しておかしくはない。

 

 それこそが闘争主義に属するハートレスが唯一無二と掲げるルールなのだから。

 

 結果は惨敗に期した。

 

 ナフェはこれでも元来の戦闘能力が高い方だ。今まで多くの強敵に出くわしたが、その全てを凶悪的馬力を誇る機械の両手と戦闘センスで乗り切って来た。だがソーンはそんな彼女の上を遥かに行き見事に打倒してしまった。

 

 もはやここまで。というように覚悟を決めてはいたもののソーンは彼女を殺すような真似はせず、自分の仲間の1人として彼女を自分が統括する組織へと迎え入れた。それも実力やらは一切興味なく苦しんでいる自分を放ってはおけなかったら……という理由でだ。

 

 ナフェからしてみればあまりに荒唐無稽でおかしな話だった。闘争主義の世界は全てが『実力』で決まる。劣る者はただ果てるか、あるいは優れた者によっての栄えあるネブレイト行為の生贄となるか。

 

 優れた者こそが生き残り、未来がある。

 

 そんな世界を理解し順応して生きている筈のソーンはどうしようもなく慈悲深く、他者を切り捨てることのできない情緒を併せ持っていた。ソーンに対し当初のナフェの態度は嫌悪極まるという感じだった。

 

『お前のやり方は甘い』

 

『いつか身を滅ぼす。改めてろ』

 

 そんな台詞を口煩く、酸っぱくなるほど言い続けていたものの、やがて彼女は彼と彼の仲間達の事を大切に思うようになっていた。

 

 自身と同じ能力を持ち、その制御の仕方を根気良く丁寧に教えてくれたソーン。

 

 闘争主義とは思えないほど互いを思いやり、険悪的な態度を取るナフェに対しても世話を焼いてくれる仲間達。

 

 実は密かに抱いていた感情を、求めていた渇望を彼等がきっかけとなり教えてくれた。

 

「おい、貴様何をしている!」

 

 配給された紅いクリスタルのような外見の食糧を食べながら過去の記憶に浸るナフェを引き戻す、一つの怒声が作業場に響き渡る。

 

「何してる? ハッ、ネブレイトしているだけだろうが」

 

 既に数多くの野次馬が群がっているその中心に3人の監視員と2人の作業員がそれぞれ対峙していた。作業員の足下には『作業員だったモノ』が無残に転がっており、その一部を彼等は口をモグモグと動かし咀嚼していた。

 

 ネブレイド。その単語の意味を簡単に言ってしまうならば『捕食行為』に他ならない。

 

 ただ普通の捕食と違う点は『経口摂取した物質や生き物の特性を受け継ぐ形で自身に付与させることができる』という点にある。

 

 さらに個人のレベルによっては記憶までも自分の中に取り込む事が可能で、まさに『己に他を取り入れて強くする』と言う方面においての進化に特化した術だと言える。

 

 閑話休題。

 

 そもそもの原因は監視員の1人が作業員等のネブレイト行為を咎めた事がきっかけだった。作業員間でのネブレイト行為は特に禁止されてはおらず、むしろこの山脈一帯を取り仕切る平和主義者側からしたら、闘争主義というゴミが使い潰した上で勝手に消えてくれる方が助かるのだ。

 

 それにいくらネブレイトしたからと言っても以下の問題点がある。

 

 ・許容範囲があり、それを超えてしまうと悪くて死。良くて後遺症が残るかの結末を迎えてしまう。

 

 ・大体の捕食数の程度として一日1~5とし、それを毎日行ったとしても非常に微々たるもの。なので一定の強さを得る為には相当長い

 

時間を労してしまう。  

 

 ・食べるモノと自分との相性もあり、逆に弱くなるリスクも背負う破目になる。

 

 以上の点を踏まえた上で考えれば純粋に訓練し、戦闘面で自身を鍛えていく方が正直手っ取り早いだろう。

 

 しかし別段ここの連中に『強くなる』という、そんな高尚な意志は毛ほどもない。ただ味わいたい。もっと食い物が欲しい。そんな動物的思考で自分たちの同類を食っているに過ぎないのだ。 

 

 よって力をつけてクーデターを起こされる心配もないし、もしそうなった場合の手段と戦力は既に想定して整えてある。

 

 ならば何故…監視員の1人はネブレイト行為に咎めの声を上げたのか?

 

「お前等、仲間なんだろ! どうしてこんな…」

 

「はぁ? 仲間? はっはっはっはっは!! おいおい、お前アレか? 俺達闘争主義にお前等平和主義どもが語るところの友情やら思い

 

やり精神があると思ってんのかぁ? んなもんあったらな、とっくにお前等と仲良しこよしカマしてるっつーのアホが!」

 

 上半身が人型で、下半身がムカデのような形態になっているムカデ人間のような姿の作業員が自分たちを咎めて来た監視員にそう叩き返えす。傍から見ればイケ好かない言動ではあるものの、その言葉はどうしようもなく正論だった。

 

「だ、だが!」

 

「おい、その辺にしとけよ」

 

 それを突付けられて尚も反論しようとする監視員の肩を丁度先輩の立ち位置にある、2人の内1人の監視員が諌める。

 

「その正義感をアイツ等なんかに向けるな。アイツ等にそんな価値などない」

 

「先輩! しかし!」

 

「くどいぞ! さっさと持ち場に戻れ!」

 

 穏やかな口調だった先輩監視員の声は激昂へと変わり、その気迫に負けて後輩監視員は口を閉ざし自分の持ち場へと戻ってしまった。

 

 先輩監視員はそれを見送るともう一人の自分の同僚と共に自分達も持ち場に戻ろって行く。その去り際、ヘラヘラと嫌な笑みを浮かべる

 

作業員を見ては『クズどもが…』と。小さく囁くのを一部始終の間、野次馬に混ざり見ていたナフェには十分に聞き取れた。

 

 それに対しナフェの中に言い知れぬ黒い靄のような感情が沸き起こる。それはおそらく…『嫌忌』だ。

 

「おい、気持ちは分からんでもないが落ち着け。俺等は違うが基本闘争主義ってのはあーゆー輩だって事を忘れるな」

 

 顔に出ていたのか、ナフェの胸の内の心境を察するソーンは彼女に言い聞かせ歩を進める。

 

 それに習い彼女自身も足取りを再び開始し、ソーンの後を追う。しかし、既に分かり切ったことではあるが闘争主義も平和主義も、その在り方はどうしようもなく彼女の中で嫌忌と厭悪の対象でしかない。自分も嘗ては……ソーンとその仲間達に出会う前まではそうであった事実も拍車をかけ、今となってそういった思いを抱いてしまうのは彼女にとって本当にどうしようもない事なのだ。

 

 しかしそんな彼女の心境など知る由も無く、残されたムカデ人間のハートレスともう1人の同型のハートレスは黙々口を動かし残った体の部分を咀嚼していく。

 

 そこに威厳も誇りも無い。

 

 ただ賎しいハートレスたちによる、汚辱に塗れた貪欲さがあるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「良い眺めだわ。本当にね。ダストークの屑どもはこうして利用してこそ真に価値がある。そうは、思わない?」

 

 山脈内部に大きく広がった大規模な採掘場。

 

 そこをエリアごとに余すことなく監視することのできる管制室に2人の男女がいた。

 

 1人は女性だ。その姿を地球の生物で言い表すならば『イソギンチャク』と答えた方が適切だろう。

 

 その体色はバイオレッドを中心にライトブルーとピンクのサイケデリックな水玉模様となっており、まるで他者の視覚細胞を攻撃してい

 

るかのような色彩となっている。対するもう1人は姿こそ燕尾服に似た物を着た男性だが、頭部は人間のそれではなく、まるで金属のような物質に覆われた豹のようなメカニックデザインとなっている。

 

 両手も形こそ人間と変わらないが金属に覆われていて、まるでロボットと化している。

 

「ええ、同感です。そうあってこそダストークは生存権を持つ事を許される。そうでなければ死ぬしかない」

 

 イソギンチャクの女性ハートレスの言葉に、金属の豹顔を有する男性ハートレスは淡々と事実であるかのように味気なく答える。

 

 彼等の会話にあった『ダストーク』という言葉はクシロロ言語において『塵蟲』という意味を孕んでいる。ようは平和主義派の闘争主義派等に対する侮蔑の意を込めた、差別用語というわけだ。

 

「ええ本当に……あ、ところでスターリウムの採集率はどの程度かしら?」

 

「今月の30マンスモア(月)に入ってからは7780セントラル(%)に達していますが」

 

「前に比べると些か低いわね?」

 

「ええ。原因と挙げられるのは『人員不足』と『スターリウムその物の減少』でしょうか。『人員不足』は容易く解決しますが資源減少となると……」

 

「厄介ね。せっかくスターリウムの実用がやっと軌道に乗り出したばかりだというのに…」

 

「アクティニス様。ここは一つ、人員と労働時間を増加させて作業範囲の幅を増やしてみてはどうでしょう? まだこの山脈内で採掘場にしてない箇所が数多くあります。そこに手をつけ時を待ちましょう。スターリウムの人工生成計画による研究は良い方向にありますし、万が一スターリウムが掘り尽くしたとしても、それまでにはかなりの長期間を有し計画も無事成功に収めている筈。いかがでしょうか?」

 

 アクティニス。それこそイソギンチャクのような姿を有する彼女の名だ。

 

 彼女は元老会において最高地位の『オールドナンバーズ』に就いており、その階級は『No4』。このスタープラネ山脈を自前の権力で元老会の私物化させ、闘争主義者らを労働力としたスターリウムの採掘システムを構築した女史である。

 

 彼女がここに目を付けた根本的理由はクロワのエネルギー不足による問題を解決する為であり、スターリウムから搾取できるエネルギーの量にあった。しかしこのエネルギーの有効活用は決して彼女独自の私利私欲によるものではなく、今現状において混乱の渦中にあるクロワを救うという、正当な思想と信念によるものに他ならない。

 

 アクティニスの故郷たるクロワ大都市区画は、現在深刻なエネルギー不足が目下迅速に解決すべき問題として取り上げられていた。

 

 更に『一部権力者のエネルギー横領独占』や『中小区画へのエネルギー供給停止』など。一つの問題は鼠算式に派生し様々な問題を引き起こし、その都度に暴動や混乱は数を増し規模を増やしていってしまう。

 

 元老会はこの由々しき事態を憂い、決断を下した。

 

 クシロロの何処かにあるであろうエネルギー資源発見の為の探索。その過程で様々なエネルギー資源の発見に成功、中でも特に良質でエネルギー生産量や幅広い運用に申し分なかったのがスターリウムである。

 

 スターリウムという鉱石は手の平に収まるようなサイズでさえ、東西南北の四方に分割されたクロワの大都市区画の一区画分を十分に満たせ尽くせるほどの膨大的多量のエネルギーを得る事ができる。当然それはクロワにとって良き未来を照らし出せる素晴らしい道標も同意だ。

 

 その上、良質ともなればこの上もない。

 

「そうね。その方が良さそうね。彼等には悪いけど、更なる労働を追加して餌もより最高品質なものを与えましょう。元々餌には依存性の因子が入っていますから、文句を唱えるモノはいないでしょう」

 

「ははっ、もはや完全なる奴隷ですな」

 

「そうね。けど、仕方ないわよ。そうでなければあの者達に待っているのは『死』……なら形はこうでも生かしてあげた方が良心的でしょ?」

 

 そこに闘争主義者らを思う気持ちなど毛頭ない。彼等を消耗品としか見ていない者の言葉に過ぎないそれは、彼女がいかにして彼等をどういう風に扱い見なしているかがよく分かる。対するアクティスの秘書である豹頭のハートレス『サンパー・ブレード』は特に反論する事はなく、むしろ彼もアクティスと同じ感性の持ち主だ。そして何より主君たるこの女史に己が命と忠誠を捧げている為、彼女のモノの見方に異議を唱える事など決して無い。

 

「さて。そうと決まればさっそく第1~第17全ての採掘場に通達をお願い。私は元老会の方に顔出しに行くから、後は貴方の手腕に任せるわ」

 

「分かりました」

 

 そう言ってアクティスは忙々と室内を後にし、残されたサンパーは自身の手元にある立体モニター状の端末を指で素早く動かして操作する。

 

「サンパーだ。アクティス様が元老会へ赴かれる。至急ガードエリート編成の部隊で警護し、絶対にお側を離れるなと重々に言い聞かせろ。それと全ての採掘場に召集をかけ、作業員を余さず集めておけ。発表したい事がある。現場監督の者たちには私から内容を伝達する。以上だがいいな?」

 

『了解しました』

 

 端末の通信機能で部下の者と連絡を取り、指示を出した後切って改めて採掘場の情報の数々を直に見て確認していく。モニターに映るのは文字の羅列ばかりでなく、ここを記した地図のいくつかも記載されている。

 

「ふむ。作業自体は滞りなしか……とするとやはり、鉱石の著しい減少が原因だな」

 

 サンパーの表情は顔を不機嫌に歪める。このスターリウムによる新たなるエネルギー資源確保の計画は要であるスターリウムが無くては始まらない。自身の主にはあのようなアドバイスをしたはいいが、実際手をつけていない場所にどれ程の量が眠っているのかが分からない。

 

 とりあえずは調査か。そう結論付けて端末内の情報を整理していく。

 

 そして10分ほど時が経ち、よく聞き慣れた監視員の1人の声がその獣のような形状を成したサンパーの耳へと入って来た。

 

「失礼します、サンパー様。客人をお連れしました」

 

 管制室の自動ドアが開かれ、クロワの監視員の1人が中にいるサンパーに入室の礼を取る。そしてある客人が来た事を速やかに伝えた。

 

「客人? そんな予定は……ああ。貴方でしたか」

 

「ははっ、突然ですまないなサンパー。特に変わらず元気そうで何よりだ」

 

 監視員に連れられる形で現れたのは、一人の男性ハートレス。その姿は一言で表すならば『鎧のケンタウロス』と言った風情だ。

 

 上半身は人、下半身は馬のような偶蹄類を思わせる蹄のある四本足と体型。その身には自らが特殊な数種類の金属を摂取し、生成した金属の外骨格が肉体そのものをあらゆる脅威から守る為に覆われている。

 

 彼の名は『タウロース・ケイロ』。

 

 この世界の創造神アルカナにより生み出された直系の眷族たる7人『ブラック★』の1人にして、彼の血と力を受け継ぐ現クロワの統率者『ブラック★ゴールドソー』の後見人兼相談役でもある。 

 

「それは私も同じ気持ちですよ。しかし、御身のような大賢者が何故このような場所に…」

 

「大賢者とはまた随分な呼び名でムズ痒いのだが……まぁ、それはどうでもよい。実はとある事でアクティニスの奴めと話をと思っていたのだが留守のようだな」

 

「ええ、先程元老会へ出立されましたので」

 

「さようか。奴も元老会の中心核…多忙なのは致し方なしか」

 

 少しばかり残念そうに顔を下に沈めるものの、すぐに戻した彼の目線は真っ直ぐサンパーを見据えていた。

 

「では、少しばかりアクティニスの代わりとして御主に聞きたい事がある。ここの現状についてだ」

 

「はい。正直なところを申し上げますと、スターリウムの採掘が前に比べ減少の傾向を見せています。しかし…」

 

「スターリウム云々の話ではない。ここの労働に従事する者たちの待遇についてだ」

 

 穏やかだった筈のかの大賢者の目は、今この瞬間に鋭さを急激に含み始めた。まるで貫かんばかりに見られているサンパーの方は特に表情も雰囲気も崩すことはなく、あくまでも先程と変わらぬ態度だった。

 

「前下りなく、率直に我が心中を申し立てよう。これ以上闘争主義のハートレスたちを利用し、その存在全てを貶めるような真似は辞めて貰いたい。我等クロワが望むは平和だ。平和の為にそれに反する者を奴隷の如きに扱い、支配するのは理念に反することだ」

 

「お言葉を返すようですが、では殺せと? 確かに。奴隷のように扱われ使い潰されるのなら、いっそ死を与えるのも一つの良心的な配慮な…」

 

「違う。断じて違うぞサンパー」

 

 正直な所、サンパーにはかの大賢者の言いたい事がまったく把握できなかった。ほぼ奴隷のように労働に従事させるのを止めろというのであれば、殺す形で始末すれば良いのか?

 

 しかし、この考えは見当外れだったようだ。

 

 では何が言いたいのか? 疑問が尽きないサンパーの心中を察してか深く溜息を吐いた上で答えを述べた。

 

「私は彼等といかにして手を取り合い、どのように共存共栄していくかと言いたいのだ。今平和と闘争、この二つの思想が対立しクシロロの各地で紛争が起きている。

 

我々も彼等も、その尊い命が失われていく……この現状を私は何とかしたいと思うのだ。どちらかが一方を消すのではなく、双方共に歩める道を検討したい。その為にもまず、ここで過酷な労働を強いられる彼等を解放させたい。この老骨の願い…聞き届けてほしい」

 

 長々と語った答えの真意は『闘争主義との共存』。

 

 これを前にして、今度はサンパーが深く。ケイロよりも一層と深く溜息を吐き出してはその顔を歪めた。

 

「………偉大なるブラック★の1人ともあろう御方が、闘争主義との共存を語ろうとは……」

 

 侮蔑と失望を含んだ陰険な嘲笑の顔を浮かべて語るその様は、言葉には出していないものの明確な悪意と敵意が混ざり込んでいた。

 

「貴方はクロワの中で最も古い歴史を歩んだ先達者の筈。で、あるならば闘争主義者らがどういった存在かは明白でしょう。野蛮な戦いと他者からの略奪を是とし、劣る者や弱い者を徹底排除させるあの姿勢……まさに諸悪の根源そのものなのですよ?

 

そんな連中に共存の手を差し伸べるのは愚か以外の何者でもありません。何より、今クロワは深刻なエネルギー問題を抱えている。その問題が派生に新たな問題を生み出し混乱の渦を形成しています。それは下手をすればクロワを壊滅へと追い込みかねない危険な渦…これを無くす術はスターリウム以外にありません。

 

他のエネルギーでは少々の質の劣化はあれどいいとして、運用するにはあまりに効率が悪い。スターリウムは効率の面においても理想的なエネルギー資源なのです。それを貴方は無碍にしろと? 自分が今私の前で口にしている、その言葉の意味を十全に理解しておいでなのですか?」

 

「無論だ。クロワの現状を憂うその気持ちは私にも分かる。だが彼等の苦痛と犠牲の下に成り立った平和が、秩序が、最善とはとても思えないのだ」

 

「種の繁栄は他の種を滅ぼしてこそ成り立つ。かつて私は数多くの世界に生きる生命体を見て来ましたが、そのどれもが他種を滅ぼした上

 

で自種の繁栄を成り立たせていた。何も我々の世界だけの事ではない。命ある者として避けられない法則なのです」

 

「だが、彼等は我等と同じハートレスだ。考え方が違うだけであって同じ存在に過ぎない。手を取り合い共存することは可笑しい事でも何でもないぞ?」

 

「……平行線ですな。どの道、貴方にはどうする事もできない。意を介さぬ強制や暴力沙汰を嫌う貴方には…ね」

 

「………分かった。では、一先ずは去るとしよう。だが決して今の現状が続くなどと思わない事だ。その慢心はお前達に破滅を齎すしかねんからな」

 

 ただ不吉さを匂わせるそんな捨て台詞を残し、1人大賢者たるケイロは哀愁とした空気を纏い管制室を出て行く。

 

 そして大分離れていくのを足音と気配で察したサンパーは、変わらず手に持っていた端末をデスクへとに置き、忌々しいと言わんばかりの声音で呟いた。

 

「慢心? 違いますな。これは使命、絶対にして実現させるべき未来の為。闘争主義にはその礎になってもらうに過ぎない」

 

 

 

 






 本当に亀更新ですみません(汗)

 前回はクロワ側にスポットを当てた話ですが、今回は以前にも言った通りハクト側…参謀ナフェにスポットを変えた話です。

 何故ナフェなのか、と言えばコミックを読んで気になったナフェの過去。

 ホワイトと出会う前はゴミの掃き溜めのような星でただ1人ぼっちで廃人の如くという痛々しい感じでしたが、何故そうなったかについては触れられていないんですよね。

 だからこの話は『ナフェの経緯』をテーマにした、一種の補完のような物なんです。

 補完と言ってもこちらとあちらは全然設定が違いますけど(汗)。

 では、次回もお楽しみに!


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