ブラック★ロックシューター THE・GRAY WAR 作:イビルジョーカー
いよいよ、物語の終幕が近付いて来ました…。
長い戦いの果ての勝利は一体、どちらに?
チーム・アタッカーがクロワの10個大隊を率いて第二防衛網の西側を攻めている一方。その反対に位置する東側第二防衛網では4人の精鋭たちと同じ4人の幹部による戦闘が勃発していた。
「チッ、よくやる!」
「お褒めに預かる。けど手加減はしないよ」
青いショートヘアの髪型。白の生地の上に奔る、黄色い雪の結晶を思わせる幾何学的ラインが施されたロングコート。首に巻かれた髪と同色の青というトレードマークを身につけた風貌の男こそ、12人いる精鋭の中の1人にして水を応用した能力戦と近接射撃のプロフェッ
ショナル『カイト・ストローク』。
通称はカイトと呼ばれ、愛武器は両腕手首に装備されたブルーハワイなカラーリングをしたガントレット型キャノン砲『スイ・アームド
』。氷や水を生成・自在に操るパーソナルスキルを有し、水場や氷のある雪原などにおいてはその力を遺憾なく発揮することが可能だ。
カイトはこの能力を利用してスイ・アームドから水氷の弾丸を発射。更には盾、剣を作り出しての得意の水術戦法でリリオと遜色のない、互角な戦いを演じていた。
「月光・斬!」
そんな中、不意に冴え渡るかのように響く男性の声。それと同時に三日月の形状をした斬撃という現象がリリオの首へそのギロチンの如し刃に殺意を乗せ迫っていた。
「ふんッ!!」
しかし。リリオの首を落とすには至らなかった。
リリオを主と仰ぎ守護する騎士兵団の長ナイトリッターが、その主の首へと迫る斬撃を二つに切り裂いて見せたからだ。
「まったく。油断も隙も無いな…剣士スライザーよ」
ナイトリッターが近くにある一際大きい鋼鉄の巨木へ鋭い視線を送ると、まるでそれに応えんばかりにクロワの精鋭にして剣士。スライザー・カムイがその物陰から姿を現した。
「見事。相変わらず拙者の攻撃を防いでくれる」
「ふん…戯言を。先ほどの攻撃は加減したものだろう」
両者互いに剣を扱う者としての戦意溢れた視線が交錯する。そして何を思ったのか、リリオへと視線を移す。
「分かっている。存分にやれ。手加減は無用だ」
ナイトリッターの心情を察したリリオは迷う事は無く、即座に命令を下した。
つまるところ、ナイトリッター自身は『剣と言う刃』を扱う者として、同じく剣ではないが『刀という刃』を扱うカムイと一戦交えたいようなのだ。故にリリオは特に不都合があるわけでもない為、それを汲んだというわけだ。
「ハハッ! 身に余る心遣い、感謝致します!」
主からの承諾を得たナイトリッターは感謝の念の詰まった言葉で返答し、すぐさま地を蹴って駆け、カムイへと攻撃を仕掛けた。
「ハアアッッ!!」
「てりゃああああああああッッッッ!!」
剣と刀。この二つの刃がぶつかり合い交錯し、金属と金属が甲高い音を奏でる。ナイトリッターは『騎士』。対するカムイは『侍』。地球の概念でそう表すのに相応しく適った両者の剣戟勝負は互いに一歩も引かず、安易に入り込もうとすれば忽ち巻き添えを食って切り刻まれてしまうだろう。
傍から見れば、まさに圧巻の如しに近い。
「せいっ! やああああッッ!!」
「む、くっ!」
しかし純粋な剣技においては両者は互角。そこでカムイは木々の間を自前の瞬発力と俊敏でもって行き交い、地形を生かした翻弄戦術を行使して見せた。
ナイトリッターはパワーとガードには優れているものの、いかんせん俊敏性などのスピード方面には非常に優れていない。
故にこうしたスピードを生かした戦法は正直不得手で不利になりやすい。が、それをまったく意に返していないほど、愚鈍な脳筋思考の持ち主ではない。
「ぐっ、舐めるな!」
吼えるナイトリッターは自らの相棒である大剣を天へ掲げたかと思えば、自身の身体に流れるラックワイトエナジスを剣へ集束。
そして次の動作はそのままの状態で宙に円を描くように無造作に振るう、たったそれだけの行動。
だがそれによって発生したエネルギーの嵐は鋭い刃に等しき切れ味を帯び、ナイトリッターを中心点に20m以内の木々を粉々に。それ
こそまるでミキサーのように粉砕してしまった。
これほどの強力な技…いくらカムイでも防ぎ切ることも回避する事もできなかった為、所々傷が生じ、その右腕は肘の先からが完全に無くなっていた。切られた腕の断面からは白と黒の筋肉繊維が覗かせ、グロテスクな光景であると同時にあの大技の恐ろしさが嫌と言うほど分かってしまうだろう。
そして腕もそうだが、欠損ではないにせよ、足もそれなりに深い傷を負ってしまった。これでは自前の俊敏性はもう使えない。
少し程度なら可能かもしれないが……それでも使えないも同然。
戦局の有利性はナイトリッターに傾いてしまった。
「な、なんという……」
「貴様の地の利を生かした戦術は見事。それに関しては素直に賛辞を送ろう。だが、相手が悪かったな。貴様もここまでだ」
「ぐっ……舐めるな。拙者の片腕を奪ったところで、何もならんぞ」
騎士と侍の剣戟勝負。有利と不利を得た両者は再度、剣と刀を交わし打ち鳴らした。
一方、同東側防衛網の空域であるこちらは、魔女のような幹部『ミー』と精鋭にして天才科学者『テト=グラビオン』の両名が激しい空中戦を繰り広げていた。
かたや『魔法術』という呼ばれる、アーマメント術式やパーソナルスキルとも違う未知の力で。もう一方は『重力』を駆使して。
「グラビック・バースト!」
「ふふ、無駄よ無駄」
戦況はミーに分があった。
テト自身の愛武器は先の戦闘で壊れてしまった為、今は相棒となる武器が手元に無い。従ってそれ以外の武器…すなわち銃器で戦っているのだが、本人は銃器の扱いには慣れておらず、その全力を出し切れていない。
そこで唯一の頼みの綱がテトのパーソナルスキルである『重力操作』になるが、これがいかんせんミーの魔法術と相性が悪かった。
スキルの技で攻撃しても、それを容易く打ち消してしまうので太刀打ちできない状況なのだ。
「……何度見ても如何わしいし珍妙だね。その『魔法術』とやらは」
「ふふふ、負け惜しみと受け取っておくわ」
そんな言葉を交わしつつ、攻撃を交えていく二人。しかし空の戦いを演じるのは彼女等だけではなかった。
「ヒャッハッハッハッ! そらそら、どうしたァ~? 全っっ然当たってないぜ!」
「ええい、忌々しい!」
「こんのクソアマが! 大人しく俺達に落とされろや!!」
航空将官バード・スラッシャーの下卑た嘲笑いの声に顔を顰める巨大な漆黒の頭蓋骨…『デッドスカル兄弟』だ。今回はデッドマスター
と行動を共にすることはなく、ここ東側防衛網の制空権獲得の為にバード・スラッシャーを相手に戦っていた。
とは言え、この空の戦いで戦況の有利性を得ているのはバード・スラッシャーだ。
彼女は空を飛ぶ為に生まれたと言っていいほどに飛行テクニックのプロ。ハクトでもクロワでも、彼女の実力に追随することは適わず。
まさに『空の覇者』と言っても過言ではないだろう。
尤もヘタレで無駄に自尊心が高いという、そんな矮小な器でなければの話だが。
「ぐアアアッ!」
「ぬゥゥッッ!!」
何とかバード・スラッシャーの繰り出す攻撃の数々…ある時は翼を刃のように斬り付け、ある時は羽毛を弾丸のように飛ばして爆破させ
、またある時は強烈な風圧を叩き付けるなど。色々防いではいるものの、あまり長くは持たないのが正直な所だ。
「くっ、一か八か……アレを使うぞコニー!」
「アレか。しゃーねぇー、いっちょやるか兄貴!」
このままでは状況的に拙いと判断したデッドスカルのコニーとジニーは、すぐさま打開し得るかもれない一つの手段の行使に出た。
ジニーは自らのラックワイトエナジスをコニーに。
その逆にコニーは自分のラックワイトエナジスをジニーへ送り返し、エナジスをループさせることで加速的に増幅。そして限界を迎えた。
瞬間、眩い緑の蛍光が空域を大々的に飲み込んだ。
「ぐぬっ、な、なんだ。今の光は…!」
突然の事態に驚くバード・スラッシャーだが、ここである異変に気が付いた。
それは自身の著しいまでの飛行速度の低下だった。しかも、それだけでなく全体の力が一気に吸い取られるかのように抜けていく。そんな妙な脱力感も敏感に察知していた。
この奇妙な現象の原因は明らかだった。
「貴様等! 私に一体何を!」
「はぁ…はぁ…何、ただの一時的な弱体化だ。尤も効果は……三日間続くがな」
「でもまっ、こいつを使うと……それなりに負担はあるがな」
先ほどの大技の名は『デッド・リヒット』。
ジニーとコニーが互いのラックワイトエナジスを加速的に供給し合い、限界を迎えたラックワイトエナジスの爆発的な威力を光として放つ技。効果としてはバード・スラッシャーのように身体能力の大幅な低下や全体的な身動きの一切を封じる麻痺など、あるいはバード・スラッシャーと言った幹部より下の、実力的に弱小者であれば多数の際には一斉殲滅できるほどの威力を有している。
ともかくバード・スラッシャーの動きを大部分的に低下できたのは好機だ。ジニーは口から緑色のエネルギー弾を。
コニーは両目から野球ボールほどの大きさをした頭蓋骨型の自立エネルギーミサイル『スカルケット』を発射。大多数のいくつかはさっきと同じように回避されてしまったが、それでも残り少ない攻撃は確実にバード・スラッシャーに命中した。
この事実に内心、頭蓋骨の兄弟は思わずほくそ笑んだ。
「ぐウゥッ! くそったれめェェェェェェェッッッ!!」
「とは言え、尚も攻撃を回避するとは流石ハクト航空戦力のナンバーワン幹部だな」
「つってもあんな性格じゃなけりゃ……素直に賞賛できねぇがな」
攻撃を当てられ、ダメージを負ってしまったバード・スラッシャーの怨嗟の声をデッドスカルは軽く聞き流し、上記の会話を口から零しては軽く和む兄弟。
そんな姿がより一層とバード・スラッシャーの神経を逆撫でした。
「もういい……徹底的にぶち殺してやるよ! お前等は!」
「「来るなら来い、手羽先女」」
カタスロット・インフィスの東側防衛網。空中と地表とで、戦いの勝敗は未だ掴めない……。
一方、ブラック★ロックシューター率いるチーム・アタッカーはチャリオットとその護衛20名から成る部隊『ガード・ブロック』との合流を果たしていた。
「ロック、何とか指定ポイントに全員到着できたね!」
「うん。本当に良かった。でも、まだ正念場はここから」
合流地点である指定ポイントに無事合流することが出来た、チーム・アタッカーとガード・ブロック。両チームに軽傷者はあれど重傷者も死者も出ていなかったのが幸いだろう。
だが、ステラの言った通り『正念場』はここから。
第1防衛網を突破したとは言え、未だ第2で止まり、その先には第3がある。更に先に行けば目当ての物が最深部にて設立されているカタスロット・インフィスへと到達することができる。
その過程には必ず『総督』が直々に、そして幹部が大多数で勢揃いして立ち塞がっている筈。彼等ハクトが守っているそれにはそれだけの事をするに値する価値は十分ある。それを鑑みれば、ここからが正念場と言うのも間違ってはいない。
「で、どうするロック。もうあと1km行けば第二防衛網と第三防衛網の境目…そこを突破できれば第三防衛網まで侵出できる。だが難関
は『防衛守護官』がいるってことだ」
ストレングスが嫌々と言った風に語る防衛守護官とはハクトの幹部であり、その真名は『ディーフェン』。ザハやナフェ…そしてエルダと並び、ホワイトが信頼を厚く寄せる忠臣である。その肩書きにある通り主に防衛任務に就く事が多く、これまでにおいて彼は自らが就い
た防衛任務に失敗したことなどない。
チーム・アタッカー以外にも特殊強攻部隊はおり、彼等はアタッカーがいる西側を除く北側、東側、南側を侵攻中だ。だが西側には防衛守護官がいる。
いかなる策も戦力も意に介さぬ鉄壁無双の守護者が。すなわちそれは西側を侵攻するチーム・アタッカーとその護衛たる部隊ガード・ブロックはここで終わる事を意味していた。
「みんな、聞いて。防衛守護長官は私が引き受ける…私だけで一騎打ちするわ」
「!ッ 何を言っている」
「ダメよ。もしもの事があったら……クロワはどうなるの?」
平坦な口調ながらも、僅かながら不安と憤怒をそれぞれ含ませるストレングスとデッドマスター。
無論、他の面々も驚愕を隠し切れない様子だ。
「ブラック様。その案は賛成しかねます」
厳格な雰囲気を纏っての異議を申し立てのは、サウズだった。
「貴方は今、上位戦力によって構成されたこのクロワ軍勢の筆頭です。頭なくして身は動かず……貴方にもしもの事が、我々は終わりです」
「囮なら私達が引き受けます。命を捨てる覚悟はあります」
サウズに続くように声を挙げるカルファ。その後も続くようにガード・ブロックの面々は声を張り上げて囮を買って出た。無論、それはチャリオットも同意だった。
「ロックが囮なんてダメだよ! みんなの為にも、ここは…ッ!」
「いいや。行かせてやりな」
ここで一つの肯定の声が上がった。それは両手にマシンガンを携えた精鋭『メイコック・ガンナー』だ。
「メイコック!? なんで!!」
「認めたくは無いけどさ、防衛守護官……『ディーフェン』はあたし達やあんた達が囮になったところで長くはもたない。ちゃんと足止めが務まる囮は……ロックを除いて他にいないんだよ…」
心底嫌になる。まさしくそんな苦虫を噛み潰したかのような表情で語る彼女を前にして、誰も責め立てる者はいなかった。
実際に彼女の言い分はどうあっても変わらぬ事実を示しているからだ。例え相手が精鋭だろうと、自らの守護の任を貫き通し成功させて来た戦歴は曇りなく。故にクロワにしてみれば厄介極まりない、まさに死角無き鉄壁の要塞に等しい存在なのだ。
「で、でも……」
「……この戦いは、結果次第で今後の未来が左右される。このクシロロと地球の両方においてね。だから悪いけど、退くことはできない」
真っ直ぐにその蒼き瞳で全員を見据えるステラの姿は、仲間達から見れば勇猛で貫き通すことを曲げない信念に満ちていた。こうなった以上、ステラは何を言っても止まらないだろう。
ステラを除く全員は沈黙ながらも否定を撤回し、肯定した。
その時。
「!ッ ハクトの反応を感知、位置は……上空だ!!」
この中で最も感知に優れたダムロは敵…ハクトの存在を感知するないなや、そう言って上を見た。
全員が見上げる上空には、いくつかの影とステルス機能で透明化していた戦艦が一隻があった。正確に影の数を言えば三つ、よく目を凝
らして見れば1人は『マズマ』。2人目は『ザハ』。
最後の3人目は……。
「まさか…防衛守護官!」
驚愕とした感情を含ませて叫んだのはステラだった。
それは言うなれば、人の全身骨格そのもの。デッドスカルの兄弟がいい例に同じ『骨格型』のハートレスだ。ただ下半身は無く、頭部には不気味に妖しく光る水晶のような単眼。その身を鎧武者のような甲冑で包む姿は、あたかも死した落ち武者が異形の悪霊として舞い戻って来たかのような幽鬼の如き風貌。
彼こそが件の防衛守護官……ディーフェンだ。
「ふむ。やはりクロワの統率者たるブラック★もこの戦いに出ていたか」
「ディーフェン。貴方は第2と第3の防衛網の境目を防衛していたのではないの?」
「それなら心配無用だ。先ほど私のスキルを応用して開発されたエネルギーバリアが展開され、今も何の不備もなく作動している。すなわちクロワは一匹も第2防衛網から、その先へ行く事は叶わない」
ステラの質問にディーフェンは無機質に、しかし確信を秘めた上で答える。
「だが計算上、全精鋭+ブラックの力を結集すれば破壊されてしまう。よってその前に貴様等を始末させてもらう」
「……なるほど。それはいい事を聞いたわ。教えてくれてありがとう、間抜けな幹部」
「ああ。どう致しまして。尤も…せっかく得た情報も無意味に終わるがな」
互いにそんなジョークを交わし、ステラは左腕にブラック★ロックカノンを装備。そして右手に刃の部位が白い黒刀『ノワール★ソード
』を握り構える。対するディーフェンは開いた両手の虚空から淡い青と紫の妖しい鬼火を出現させ、青の鬼火は長刀へ。紫の鬼火は短刀へとそれぞれを変化。
己が愛武器たる弐振り…長刀『幽鎧(ユウガイ)』と短刀『空斬(クウザン)』と化した。
そしてステラと同様にいつでも戦えるよう構える。
「ハッハ! いいねぇ。この臨場感…ホント最高だ」
「気分を昂ぶらせるのもいいが、それで隙を作ることが無いようにな」
意気揚々と吼えるマズマをザハが冷然と窘める。
2人も愛武器を顕現させ、いつでも始められる状態となっていた。
「ディーフェンは私が相手をする。ストレングスとデッドマスターはザハを。メイコックはマズマをお願い」
「了解した」
「分かったわ」
「はん、上等さッ!」
自分達のリーダーにして親友の言葉に三人のクロワ戦士達は、ストレングス。デッドマスター。メイコックの順に異議などなく、立派に答えてみせた。
「ガード・ブロックのみんなは、周辺のハクト兵士の掃討をお願い。存外結構な数がこっちに集まって来てるから注意して。いいわね?」
「う、うん!」
『了解!』
チャリオットを含むガード・ブロックの全員にも指示を伝達し、こうしてクロワ側の戦闘方針は決まった。
今ここに新たなる戦いの火蓋が切って落とされた!
カタスロットインフィスの最深部。そこにはこのクシロロと地球を繋ぐ次元転移装置『ワールド・ヴィレッジ』が屹立し、そのすぐ目の前の位置にホワイトはいた。ホワイトは自らの『情報転移』の他にいくつかあるパーソナルスキルの一つ、『広域把握』で戦況を全てを隙無く隅々まで把握していた。
故に、ホワイトは自身の片割れたるステラを見つけてはニヤリと。その顔に邪悪な微笑を張り付かせた。
「聞こえるかエルダ。ブラック★ロックシューターがいた。丁度いい機会だから息根を潰して来るぞ」
『はい。ですが、離れていてよろしいのですか?』
外部でワールド・ヴィレッジの補助装置の点検をしていたエルダに通信し、その返事に対しホワイトは不敵な笑みを浮かべる。
「ワールド・ヴィレッジを守るエネルギーバリアの有能性は既に実証されている。この妾の『切り札』をもってしても破れぬバリアの前で
は、クロワの雑兵など意を成すまい」
『…確かに。ご尤もな答えです。では、行ってらっしゃいませ』
エルダの送りの言葉にホワイトは『ああ』と答えると、後ろの虚空へと手を向けるように翳す。すると赤い炎のような簡易移動ゲートが出現。
そこを通ってホワイトはステラのいるポイント地点へと向った。
「よし、みんな! いっちょ掃除するわよ!」
『おうっ!』
チャリオットの言葉にガード・ブロックの戦士達は声を上げて気合良く吼える。
「遅いわよ」
カルファは、自身の愛武器である紅蓮の弓と一体化したガントレット『クリムゾン・スピア』で生成したエネルギー矢を放ち、敵を射抜
いて行く。
「ふん!」
一方のサウズは自身の愛武器である鉛色の斧『クロム・ハルバドス』を振るい、敵を容赦なく切り捨てていく。
その他の上級戦士は装備された通常武器やアーマメント術式、スキルなどを用いてハクトの軍勢たちを相手に奮戦する。
「まったく。次から次へと沸いて来る…」
『精鋭候補』たる最上級戦士に位置するダムロは何匹倒そうとも沸いて来る敵に対し、苛立ちと呆れを孕んだ溜息を零す。だがそれでも、彼の顔に張り付いた嗜虐的な笑みは消えない。
沸いて来るなら、絶対に潰す。
ダムロは平和主義のハートレスとは思えないほど好戦的な気質でもってハクトを蹂躙していく。両手の甲に展開した光の爪でハクト兵士を切り裂き、抉り、時に口にある二本の牙で喰らいつく様はまさに野獣そのもの。
ダムロの野性味溢れた戦いとは裏腹にチャリオットの戦法は華麗だった。両足の車輪を高速回転させ、ローラースケートの如く疾走し、手に持った剣で舞うように敵を切り裂いていく。
さながら、それはダンスに見えようか。
踊るように舞い、斬り、壊す。
そんな風に戦いながら、先程まで100もあった敵の数は半分の50にまで減少していた。
「!っ みんな、気をつけろ! 空に巨大な反応がある!」
またもダムロの優れた感知センサーが何かを捉えた。それも生半可なものではない、尋常ならざる強大な何らかの存在だった。
そして全員がそれを目撃した。
それは巨大な炎としか表現できないものだった。そこから一つの影が生まれ出でるかのように出て来ては足場の無い空中から地上へと落下していく。
ほんの数秒ほどの時間をかけて落下した影は、既に着地の態勢を整えた上で着陸していた。そして、その影の姿を的確に視認したことでガード・ブロックの誰もが息を呑んだ。
それは、まさに白い悪魔だった。
姿だけはブラック★ロックシューターことステラと瓜二つ。だが、その顔は彼女特有の心優しき慈愛と他者への敬意の念を含んだ微笑とは異なり、むしろ対極の位置にある何処までも残虐な悪魔を思わせるほど冷厳とした嘲笑。そう例えるのが一番か。
彼女こそ、ステラの妹にして、今このクシロロの世において一大勢力『ハクト』を束ねし者。
総督の地位を冠する白き帝王『ホワイト☆ロックシューター』その人だ。
「チッ、少しばかり位置計算をヘマしたか……とは言え、精鋭の小娘が一匹に最上級の小僧が一匹。そして残りが上級か……まぁ肩慣らしには丁度いいか」
どうやらホワイトは自身の簡単なウォーミングアップの対象として、ガード・ブロックに狙いを定めたようだ。
対峙する者から見れば、恐ろしいまでに物理的な感覚さえ伴うと錯覚してしまう威圧感は生半可なものではないだろう。
現にチャリオット達は今、それを嫌と言うほど感じている。だがいつまでも押されていてはいけない。この中で誰よりも早く意識を覚醒させたチャリオットは皆に連携を取るよう指示を下そうとするが……。
「まさか親玉のお出ましとはな。俺が仕留めてやる!」
それよりも早く、チャリオットの次に覚醒したダムロが独断でホワイトめがけ特攻を開始した。
彼にとって自身の戦闘能力を格段に向上させるに適した最大の戦法は『スピード戦』だ。
他の最上級戦士と比較しても速さにおいてはダントツであり、他者の追随を許したことは一度も無い。更に自身のパーソナルスキル『分身生成』と呼ばれる質量を保有した分身を生み出す能力で相手を攪乱させ、その隙を突き命を奪う。
ダムロはこの得意の戦法を用いる事でホワイトを討伐する気でいた。
ここで一つ、敵の総大将たるホワイトを仕留めて見せれば、大手柄を通り越して偉業とまでになる。
いつまでも精鋭候補たる最上級ではなく、精鋭になれる可能性が……いや、確実になれるだろう。
「ダムロ! 無闇に行っちゃダメ!」
チャリオットの静止の声を聞かず、ダムロは一目散に駆けながら自身の愛武器たる形態変化を発動させ、疾走のまま姿を変えた。
頭に犬や猫などを彷彿とさせる獣耳を左右二つに生やし、通常の耳があった場所には先端が鋭く尖り全体が三日月状に滑らかなカーブを持つ漆黒の物体を形成。
まさしくそれは牛…それも水牛辺りのものに酷似した角だ。
しかし変化はコレだけでは終わらない。
両腕は爬虫類のような硬くエメラルド色の鱗に覆われ、下半身は牛のようなものへと変質を遂げる。逆関節の筋肉引き締まった両足は高熱を発して蒸気を纏い、まさに今にも暴れそうな猛牛か。
様々な生物の要素を併せ持ったかのようなこの形態の名は『ビーストアニマス』と言い、早い話がスピード特化型として俊敏性と反射神経において優れた姿なのである
。
この形態こそがまさに彼にとっての『愛武器』。しかしこの姿に成るのは自身が全力をもって討つべきと判断した敵だけにしか使わず、それ以外ではもう一つのパーソナルスキル『光合成』によって光を合成し作り出したエネルギーの鉤爪やエネルギー射撃を用いて戦っている。
過去この姿を露にしたのはハクトの幹部を二度相手した時のみ。
それ以外では全くと言っていいほどない。ダムロは基本として攻撃型のパーソナルスキルを利用し、切り札である奥の手としてビーストアニマスを行使するといった風に使い分けることで幾多の戦場を生き残って来た。
無論、天才的センスを誇る戦闘的技量も生存要因にはなっている。
だからこそ……その実績と戦果が彼に『慢心』を与えてしまっていた。
「ハッ! 鈍間のお前に本物の俺が捕らえられるかッ!!」
嘲笑の声を張り上げ、ダムロは自分の分身を総勢30体ほど具現化させた。そしての周囲を包囲するようにグルグルと旋回し、撹乱戦法を決行。これでホワイトは本物と偽者が分からず困惑し、隙ができる……筈だった。
ふと何かが本物のダムロを捕らえ、そのまま掴み上げてしまった。
「なっ! 馬鹿な…!?」
困惑したのはホワイトではなく、ダムロの方だった。
そして気付いた。
自分を捕らえるそれは『巨大な炎の手』だと。そう表現するに相応しい存在だった事を。
「ふむ。良い戦法ではあるな。敵を撹乱させその隙を瞬時にして突く、という腹積もりだったのだろう?」
この炎の手はホワイトの体から何の予備過程もなく、唐突に発生した赤い炎のオーラが手の形へと成り立ったもの。そしてそれはダムロを拳を作るようにして掴み、彼の身動き拘束していた。
「だが無意味だったな。死ね」
ボウウゥッ!
ホワイトの死の宣告により、巨炎の両手が形を崩して噴き上がり、ダムロを包み込んだかと思えば、彼はそのまま三秒も満たない速さで灰燼と化し、消滅してしまった
。
無論ながら……コアもない。
「他愛ないな。まぁ、今までの奴等に比べればマシな方か」
ダムロを炎の焦熱により殺したホワイトの顔には、敵を倒した達成感。あるいは命を奪ってしまったという悲哀の情け。または討つべき怨敵への憎悪……そういったものは微塵もなかった。
そう。例えるなら赤子ですら出来る容易な単純作業をやってつまらないと呆れ返る、そんな風な淡々としたものだった。
「残るは精鋭の小娘が1匹に上級が19匹……か」
巨炎の両手と共にオーラを纏うがままのホワイトの次の動作は、右腕に純白の筒状の砲身…ホワイト☆ロックカノンを召喚しその標準をチャリオット達へと照合すると言うものだった。
「みんな、避けてェェッッ!」
この意味が分からないチャリオット達ガード・ブロックではない。
チャリオットはすぐさま仲間である上級戦士らに、今すぐこの場から回避行動を取るよう号令を発する。
同時に放たれた一筋の紅蓮の閃光。
それはとてつもない破壊力を秘めた代物で、当たれば精鋭だろうと何だろうと微塵に還されてしまう。そんな殺戮の光の餌食となったのは反応が2~3秒遅かった上級戦士10名。
彼等は断末魔の悲鳴を上げる暇もなく、ただその身を焼き、砕かれ、そのまま一気に消し飛ばされてしまった。
「これで上級の雑兵どもは9匹、となったわけだ。さて…どうする?」
ここまでにおいて、改めてホワイトという敵の元締めの異常さに気付いたチャリオット。しかし、これに関して言えば他の全員も同じだろう。ただ何の造作もなく、短時間で戦力の半分を削ぎ落とすと言う、そんな無双をやってのけてしまう怪物を相手に今まで拮抗した来れたステラには、やはり敬意の念を抱かずにはいられないだろう。
「みんな! 先手は私が務めるから、援護をお願い!」
ともかく今はそんな思考の海に浸っている暇はない。ボケッとしていれば瞬く間にその命を略奪されてしまうからだ。
『了解!』
生き残った上級全員の声が一斉に合わさる。
彼等もまた今がどういった戦況かを理解しているが故の返答だった。
仲間達の答えを聞き、チャリオットは両足先端の車輪で素早く滑走。ホワイトへと肉薄しつつ、先程のダムロとホワイトの戦闘光景をコア内部に反映させるようにして思い出す。
おそらくホワイトに撹乱や幻惑の類のスキルや武器は通用しない。それが感覚的なものか…あるいはスキル的なものなのかは不明だが、可能性を考えれば有り得ない話ではない。
よってそういった戦法はしない方が身の為だろう。
もし迂闊にそうした手段に打って出れば…それこそダムロと同じ末期を辿りかねない。
「ハアァァッ!!」
「ぐっ!」
自前のスピードをより一層と加速させる事で、渾身の蹴りを唸り上げるように打ち込むチャリオットの猛攻。これによりホワイトは蹴りの連撃を片腕で防いではいるが
、それでもダメージを極僅かにではあるが負ってしまっていた。
本当に極僅かだが、しかしそれでも自身の宿敵たるステラではない、たかが精鋭と抜かす雑兵を相手にダメージを負ってしまった事実は屈辱的だ。
しかし同時に狂喜する。自分に傷を与えられる存在という事は、自分と拮抗し得る存在だと。戦闘狂な彼女にってしてみれば嬉しい誤算だろう。
沸き起こる狂喜の感情を押し殺すように抑制し、ホワイトは炎の両手を操ることでチャリオットを捕らえようとした。
だがそれを妨害するかの如く、いや、実際妨害している色様々な鮮やかさを持った光弾がホワイトへと降り掛かるように襲いかかって来た。
「撃て! とにかく撃ちまくれ!」
号令の主はサウズだった。
彼はクロム・ハルバドスの柄の部位の先端からエネルギー弾を発射し、カルファも同じくクリムゾン・スピアを用いてエネルギーの矢を放ち、他の面々は支給された通常武器である銃やあるいは『エネルギー掌握系統』に属するアーマメント術式で両手に野球サイズ~バスケットボールサイズの光弾を生成し、それらを次々とホワイトへ命中させていく。
「チッ、忌々しいな。この程度で援護でもしているつもりか?」
本来ならば相当なダメージを負っている筈だが、そうはならなかった。何故なら炎のオーラが光弾を完璧に遮断している為だ。オーラそのものは攻撃手段なだけではなく、同時に防御手段でもある。
上級戦士程度の力では、炎のオーラという壁を突破するには実力差があり過ぎて不可能だ。
よってあくまでもホワイトの注意を自分達へ向けることしかできない歯痒い状況だが……それでよかったのだ。
「うおおおおおォォォォォーーーーーーーーー!!!!!!!」
煩い雑兵どもを始末しようと炎の両手を大きく広げ、炎の弾丸を放とうとしたホワイトの顔の側面へと。黄色いエネルギーを込めた強力
な蹴りが、気合の喝が入った声と共に炸裂した。
その正体はチャリオットのキックだった!
「ぐっ、がァァッ!!」
ホワイトの炎のオーラは確かに防御手段には成り得るが、物理攻撃に関してで言えば、そちら方面では防御性に欠けていた。
よってキックの威力を相殺し切れず、結果として顔面の頬に食い込む形で受けてしまった…というわけだ。
両足にエネルギーを込めて一点集中しつつ、車輪を高速回転させる事で加速的エネルギーを増幅。それを一気に蹴りと共に繰り出す技『ホイール・キック』は過去今までにおいて数々のハクトの兵士たちの命を奪い、中には幹部が3名さえいたチャリオット必殺の秘技。
今回は総督が相手ということもあってかその命を討ち取ったと言う、そんな過度な期待はせず。
むしろ大ダメージを与える事に成功したと。技を繰り出し、それが命中した足応えを感じつつ確信したチャリオットは確信さえしていた。
だが、現実は無情だった。
「フウゥゥ……そこそこ効いたぞ、褒めてやろう。良い蹴りだとな」
ホワイトの顔面から足を離して一気に跳躍し、後退すると言う形で距離を取ったチャリオットはまるで信じられないと。そんな風な感じ
の表情を顔に張り付かせ、ホイール・キックを受けたにも関わらず健在そうなホワイトを凝視する。
「そ、そんな……」
「言っておくが、始めから本気なぞ微塵も出してはいないぞ? 今までのはそう……所謂、遊戯とさして変わりないな」
遊……戯?
今のが?
ホワイトの言葉を聞き、チャリオットは愕然とした。
先程までの戦闘において、ガード・ブロック全員が本気での全力をもってホワイトと戦った。
チャリオットのホイール・キックも本気の全力であり、油断などなかった…というより、そんな事は総督を相手にできる筈もない。
手など抜く暇もありはしなかった。
それをホワイトは称した……『遊戯と変わりない』と。
「(くっ、ダメよ! 諦めるのはまだ早い!! 必ず勝つ事はできる!)」
心の中でチャリオットは挫けそうになる自分にそう喝を入れ込んだ。確かにホワイトは強い、強過ぎる。だが決して不死身というわけでではないし、死んでも復活するというデタラメを通り越したチート的なスキルがあるわけでもない。
生命体である以上、死の概念は必ず存在する。
チャリオットはそこに活路を見出し、自らを奮い立たせた。
「では、ちと本気を出してやろう。本当に微塵程度ではあるが……それでもすぐには死んでくれるなよ!」
ホワイトの脚力が地面を蹴り、土や小石を舞い上げる。瞬時にして上級戦士の3名の前へ立つと右手に炎のオーラを纏わせ『炎の手刀』を作り上げたかと思えば、それを横に垂直にする形で一閃を繰り出す。
ただ速過ぎるだけのそれは、その速さ故に3名の上級戦士の身体を上下分断。高熱によってコア諸共消失してしまった。
「6匹」
カウントされる上級戦士の員数。
同時にそれは全滅へのカウントダウンでもあった。
ほんの一瞬の内に3名の上級戦士の命を奪ったホワイトは僅かな暇もなく瞬時に拳を作り、それをポニーテールの髪形をした人型ハートレスの少女へと顔を的確且つ正確に狙い、全力を出し切っていない他愛ないその手で少女の頭部を吹っ飛ばしてしまう。
「5匹」
ここまでで、4人。
たった一人のハートレスに……一つの部隊が壊滅的ダメージを被ってしまった。
この事態を重く見ず、受け止めないなどと考える気はチャリオットには無い。これ以上の仲間を悪戯に死なせない為に一体どうすればいいのか。ただそれを一点に思考をフルに使い、集中し考え抜いていた。
そして、その答えは意外なほど早く見つかった。
「各員、即撤退を命じる! すみやかに退避せよ。囮は私が担う!」
自分を囮に使い、仲間を逃がす為の『陽動作戦』。
それは同時に残酷にも……自らの死を決定的なものへと確立させているも同然だった……。