ブラック★ロックシューター THE・GRAY WAR 作:イビルジョーカー
ブラック★ロックシューターとディーフェンの戦いは苛烈を増すが、徐々に押され始めたのはディーフェンだった。
「はああああッッ!」
「ぐっ、うおおおおおッッ!!」
互いに刀と刀による剣術勝負。
ディーフェンはステラに若干ながら押され始めていた。
剣術もそうだが、彼の総合的実力評価はステラのそれと比較すれば低い。最初こそ互角には行けれるだろうが結果的に不利な方へと差が出てしまう。しかし……それはあくまでも『純粋な正面切っての戦い』であればだ。
「やはり純粋な正攻法では難有りか。ならば…」
ふと呟いたデーフェンは愛武器である両刀を消失するかのように返還し、自身の周囲に計30個の鬼火を召喚した。
「ムーカ、セン、ピード!」
およそ理解不能な呪文的言語を介し、忍者がするような手の形…印を結ぶのに似たポーズを取る。するとディーフェンの周囲にいた鬼火が一つに集結したかと思えば、巨大な炎のムカデとなってステラへと巻きついた。
「ぐゥゥッ! がっ……」
「ふふ。これで終わりと思うなよ? ロー・コ・ウソック!」
また新たに呪文を唱え、今度は計10個の鬼火が出現し火炎の縄のようなものを形成し、更にステラを拘束。これで二重に身動きを封じた事になる。
「エクス・プロージョア!」
爆破の呪文。これによりステラを身を封じていた火の縄も炎のムカデも凄まじい威力を伴う爆発を起こし、無残にもステラを飲み込んでしまった。
「……ふむ。やったか?」
水晶のような赤く光り輝く単眼で爆煙を見据えるデーフェン。
瞬間。
煙が四方八方胡散するかのように割れ、その中から青蒼と輝く火を左目に灯したステラが一気に飛び出し、デーフェンの首を討ち取ろうと彼でさえ対応できない音速の剣筋でもってノワール★ソードを一閃と振るう。
ギィィンッ!
「チッ!」
首へと接触したノワール★ソードの刃は、そのままデーフェンの首を落とす事はなく、甲高い音と共に未遂に終わる。
故に思わず、ステラは舌打ちを鳴らしてしまう。
「惜しいな。実に惜しい。しかし我が防御能力……知らなかったわけではなあるまいに」
彼がハクトの幹部として『防衛守護官』と言う異名を冠する由縁。それは優れた防衛戦術も然ることながら、自身の鉄壁過ぎる防御能力も一因となっている。
己が身体を合成する『カルシウスト』は、このクシロロにある物質の中でも最高峰の部類に位置し、同時に身体を包み込む不可視の特殊エネルギー磁場はホワイトでさえ押し通すのにやっとなほどの堅牢さを秘めている。
二重防御の守りに固められたディーフェンを打ち負かした者は、未だ誰一人としていない。
それは彼が絶対の主と仰ぐ総督ホワイト☆ロックシューターも例外ではない。
「総督閣下でさえ、我が二重防御を破る事適わず。この歴然たる事実を前にしては何もなるまい。大人しくその首、我等が総督閣下への贄となれ」
「ほざけ。ホワイトにできなかった事が、私にも通用するなどと言う道理は存在しない!」
ステラの左目に蒼青の火が灯る。
それはまるでステラの言葉に発破でもかけられたが如く、激しさを増して燃え上がり、蒼炎と化す。
同時に炎がノワール★ソードへと燃え移り、青き劫火の刀を生み出した。
「ふん!」
一つ息を吐き、ステラは特に意識することはなく当たり前のようにノワール★ソードを振るい上げ、そして一気に下ろす! たったそれだけの他愛ない動作で悠々に燦燦と。そんな風に輝く蒼炎の一閃を生み繰り出した。
「(何かと思えば……フッ、そんなものか…)」
心内において、ディーフェンは嘲笑を零してしまった。確かに見た目だけなら十分威力はありそうだし、実際あるのだろう。だが見た限りにおいて、同じく火炎を操るハクトの幹部『マズマ』でも同じような事は可能だ。
マズマが再現できる程度の攻撃では、二重防御の突破は不可能も同然。
より単純に言ってしまえば、造作もなく防げる。
ただそれだけだ。少なくともディーフェンはそう結論付けていた。
だが……。
「なっ、グアアァァッッ!!」
しかし、現実は彼を、彼の持つ二重防御の鉄壁ごと蒼炎の刃をもってして打ち砕いた。
蒼炎の刃による破壊の一閃はディーフェンの右半身を頭部以外まるで喰い去っていくかのように消し炭と化してしまった。
本来ならば斬撃の後、全身を炎が包み込み塵すら残らなかった筈だが運良く対応に成功し、紙一重でズラしたのだ。
故にコアは無事だ。コアさえあれば右半身もそれなりに時間は労するが必ず再生できる。しかし自身の誇りの体現たる二重防御を亡き者も同然にされ、何の感慨も抱かぬほどディーフェンは寛容でも無関心でもない。
彼は今、この瞬間において絶対に癒えぬ心の傷をステラより与えられたのだ。
「き、貴様ァ……よく…もッ!!」
「しばらく眠ってなさい」
そう言ってステラはブラック★カノンの威力を最小限に留めたエネルギー弾を砲口から吐き出し、ディーフェンを気絶させると言う形で沈黙させた。
あの一閃はステラにとって殺す気で放った一撃だ。それを運良く無傷とは言えないものの、回避してしまう力量は敵ながら感服する他ない。そして生き残った以上、重傷で弱体化した彼に止めを刺すのは彼女の流儀に反する。
「こちらステラ。アタッカー及びガード・ブロックのみんなに報告。ディーフェンの撃退に成功。至急の援護が必要なら今すぐ向うわ」
『こちらストレングス! 現在デッドマスターと共にザハと交戦中だが、今のところ援護は必要ない。安心してほしい』
「分かったわ」
『こちらメイコック。私の方も問題ないわよ。こっちもまだマズマと交戦中だけど大丈夫よ』
「うん。分かったわ。でも、無理をしてはダメよ?」
『サー、承知の上!』
オープンチャンネルを使い、各々がステラの通信に応答していく中、ガード・ブロックだけは緊迫し焦燥を滲ませたような声で答えた。
『た、大変です! ヤツが……ハクトの総督ホワイト☆ロックシューターが先刻現れ交戦! 部隊は大半がやられ、チャリオットが……あの子が我々を逃がす為に…1人で!』
声の主はカルファだった。
そして彼女から齎される情報の内容を一瞬の内に把握したステラは、カルファに今すぐ向うと返答。そう言って第2防衛網の周囲一帯の中、唯一強大なホワイトの力を感知。その根源たる現場へと駆けるように向って行った。
拳は嵐。動作の一つ一つが別個の生き物が如きしなやかさ。
そんな表現を用いた絶妙な動きでストレングス並びデッドマスターを相手に優勢に立つ者こそ、ハクトの幹部して。他の幹部らを管理する役目を担う管理元帥のザハ。
肉体戦術に特化した彼は愛武器以外の武器や道具の類を持たず、ただ自らの肉体とその肉体を覆い包む巨大ロボのような漆黒の厳つい金属的外見を有する愛武器…名を『アーマー・ボディ』。
それは鎧。そして武器その物。
攻防一体を絵に描いたような高性能を誇るものの、その注目すべき最大の利点は装着者たるザハの身体能力を底上げできるという点にある。
「……」
「ぐっ!」
「ッッ!」
すなわち、それが意味成すところは今、この瞬簡における戦局と大きく関係している。
アーマー・ボディを身に纏っていない平常時ならば苦戦はすれども、勝ち目は十分にある。
逆にそうでないのなら……ストレングスとデッドマスターは無残に敗北を喫す事に繋がる。どう言い訳しようとも…だ。
「とにかく、あのクソデカイ金属のゴミをどうにかすることが先だ」
「アレにそんな表現を用いていいのか疑問だけど…この際だから不問にしとくわ。で、どうやって? ザハから引き離す?」
「それ以外ない。まぁ、簡単には行かないだろうがな」
「同意だ。我が鎧にして武器。そして何より、身体の一部も同じコレを引き剥がす事が簡単な所業なぞありえん」
ストレングスの言葉をザハは厳格なる低めの声でもって応じる。
戦場において、ザハは無敗を誇って来た猛者だ。
総督ホワイト☆ロックシューターが幼少の頃から彼女に仕えていた身であり、その手で彼女に襲い掛かる災いや敵を屠って来た。
おそらくだが……このクシロロの世界において拳や足などの肉体部位をフルに使った体術戦法において、ザハに勝てる者などいないだろう。純粋なる体術でもって彼を敗北に下すことのできる者は、やはり彼の主たるホワイト☆ロックシューター。
そして、その姉であるクロワ統率者ブラック★ロックシューターのみ。この他にいるのかは分からないが…少なくとも現状ではこの2人だけである。
「同時に……お前達がこの私を打ち破り、勝利を手にする事もまた……不可能」
一旦言葉を区切り、沈黙したザハはまた先程のような嵐の如き拳の乱舞による連撃で攻め始めた。
しかし、よく見ればさっきと違う点があった。
ザハは両手腕を巧みに動かし、カーブを重点的に多く決めつつ、的確に相手のほんの僅かな隙を見出しては突く。俗に言えば『搦め手』を用いた戦法だった。
だが今行っている攻撃はそれには該当せず、どちらかと言えば……正面切っての正攻法と捉えるのが正しいか。
ただ一心に全てを貫かんばかりの勢いを有し、それ故に真っ直ぐと一直線に曲がることのない挙動となっている。
何故、体術の型を変えたのか?
これはストレングスとデッドマスターも疑問を抱かざる得ない事だった。
ザハが優勢に傾くこの戦局において何の脈絡も無く体術の型を変えて攻撃するなど意味の無いことだからだ。
加えてザハ自身、相対した敵の前では一度見せた型のみで戦い、それ以外の型には一切変えず決して見せない…という信条がある。あまり手の内を多く見せず、できるだけ一つの型でもって敵を確実に仕留める。
『能ある鷹は爪を隠す』。
そんな諺を体現したような戦いを武人としての信条と決めた彼が、自らの信条を曖昧な理由で捻じ曲げるなど断じてありえない。
明確で、確固とした理由は必ずある。
そしてそれはすぐに判明した。
「「!!ッ」」
ザハの一直一線に突貫する拳を何とか防いでいくストレングスとデッドマスターは気付いた。徐々に…本当に微細なものだが、それでも確実にザハの両拳に集中的に込められたラックワイトエナジスが上昇していくのを察知した。
同時に、何とか避け防いでいたザハの攻撃も避ける事ができず、防ごうとしてもダメージを受けてしまうに至っていた。
「チッ、何の脈絡も無く。ましてや意味さえもなく体術の型を変える筈無いと思ってはいたが……理由はこれか」
「攻撃を繰り返す都度に鋭さと威力が増す拳……厄介ね」
「あの型でも良かったが、お前達を確実に。一切の命を無に還すが如く潰すのであれば……それに特化したこの型で挑むのが最善の策にして合理性を伴った戦法なのだ!」
今のザハの型『正孔拳』は突進一直線とばかりに真っ直ぐな拳だ。
立ちはだかる者も障害も、この拳の前では形無しの敗北に屈する他無い。実際彼はこれを用いて過去28名いた精鋭の内10名の命を奪った。その当時の惨劇をストレングスとデッドマスターは情報として把握していたが、知った当時は信じられなかった。
殺された10名は精鋭の中でもトップに立っていた『スレイヤー・フォールン』と称され、多くの者に讃えれた歴戦の英雄たちだからだ。故にスレイヤー・フォールンの敗北は凄まじい衝撃となり波紋を呼んだ。
それから管理元帥ザハの総督ホワイトに匹敵しかねない実力が明白なものとなり、精鋭以外は決して手を出してはならず。遭遇した場合はどんな理由があったとしても即撤退が義務付けられようになった。
もはやザハはクロワにとって総督と同列に等しい『災厄指定者』扱いとなっている
。
「デッドマスター! あのフォーメーションでご大層なゴミを引き剥がすぞ!」
「不安はあるけど、それしか手はなさそうね!」
ダメージを受けつつもザハとの間に距離を作る事に成功した二人は瞬時に移動し、位置的にデッドマスターがザハの前方。ストレングスが反対に後方となった。
無論、この配置には意味がある。
「武装展開・キュムノ!」
言葉と同時に鋼鉄の巨大な両手を合わせる。すると瞬く間に小さな無数のボックスへ分解・縮小していき波立つように形状を変化させていく。やがて確固とした形になったのは、長方形状の台を有した大砲の砲身のようなもの。だがその左右に掃除機の先端のような長い四角形型の補助装置が付属され、本来砲口のある部位には球体のようなものがあり、球体一周をできる円形状のラインが三重に奔っていた。
この武器の名は『キュムノ』。ストレングスが持つ愛武器『オーガ・アーム』が持つ武装形態の一つで、その特性は物質を引き寄せる『特殊なエネルギーを相手に向け照射。そして認識した物を相手から奪うと言う、謂わば『引力兵器』。
エネルギーをチャージするかのように最初に一本。次に二本。そして三本のライン全てに蛍光色の橙が灯り、発射準備が完了された。
「ショット!」
放出される不可視のエネルギー。だが空間がほんの少し揺らめいている為、よく集中してみれば目視はできる。
しかし運悪く避けるタイミングを逃したザハはエネルギーを浴び、アーマー・ボディが徐々に自分から引き離されるのを感じた。
「ふむ。どうあっても奪う気か。なれど無駄だ」
無論、このまま持って行かせるわけもない。ラックワイトエナジスをフルに使い『斥力』として利用する事で、ストレングスのエネルギーの引き寄せから逃れようと奮戦する。
だが、ここにいるザハの敵はストレングスだけではない。
「はアァァッ!!」
一喝咆哮と声を上げ、愛武器たる大鎌から淡い緑色の斬撃を薙ぎ飛ばすデッドマスターの標的は『ザハの周囲を包み、吸引エネルギーを阻害している彼自身のラックワイトエナジス』そのもの!
身動きの出来ないザハは、もはや楽な的に過ぎない。
斬撃はデッドマスターのパーソナルスキル『無生物の死』の効果を乗せ、彼のラックワイトエナジスを『消滅』と言う形で殺した。
「ぐっ、ぐおおぉぉぉぉ……」
大半のラックワイトが消失した事で途方も無い喪失と無気力の感覚が襲いかかり、百戦錬磨のザハを弱らせるに至った。
その結果。
アーマー・ボディはストレングスの手に渡り、デッドマスターのパーソナルスキルで『風化』させて殺した事で無残にも破壊されてしまった。
「くっ……中々の戦法だな……だが我が愛武器を奪い、ラックワイトを消失させたとて…それで私を倒したも同然だと思うのは愚者の思考。真に私を殺したいのであれば、我が全力を打ち破り……この命たるコア、その手で掴んでみせろ!」
弱っているのは確かだ。しかし、それが丁度いいハンデと言わんばかりの漲らんばかりに溢れる覇気は、それが決して痩せ我慢や強がりなど精神論に基づくものではない事を如実に示していた。
忘れてはならない。ザハにとって自分達は弱者なのだ。
その事実を強く噛み締める2人は、ようやくザハと同じ土俵に立つ事ができたのだ……。
「各員、即撤退を命じる。すみやかに退避せよ。その為の囮は私が担う!」
この場から今すぐ退避させる事。
それが総督という途方も無い強大な敵を前にして、チャリオットが考えた末に下したひとつの決断。
「撤退?! それに囮って……そんなの、貴方1人で!」
「分かった。その判断に従おう。このガード・ブロックの全指揮権限はチャリオット、隊長たるお前にある。ここは任せたぞ」
「サウズッ…!」
チャリオットの決断に異議を上げる事なく、むしろ当然とばかりに彼女の命令を受諾するサウズ。そんな彼にカルファは非難の目を向ける。いかに精鋭が相手取ると言っても、相手はたった3分そこらで自分達の部隊を……最上級戦士含め、大半を屠って見せつけたハクトの総督ことホワイト☆ロックシューター。
まさに自分達とは別次元に位置するモンスターと言っても蒙昧ではない。本当に事実だ。
そんな強大な敵を前に囮目的で相手取るなど、もはや自殺志願者にも等しいもの。
それは他ならないチャリオット自身がよく理解し把握している。だからこそ、カルファに向け説得した。
「聞いて、カルファ。私達の任務はアタッカーを援護する事。敵の殲滅じゃない。私は大丈夫だから、早くロックのところに行ってこの事を伝えて? ロックさえ来てくれれば鬼に金棒ってやつだからさ」
チャリオットの口から紡がれる切実な言葉。
しかし本人に意図は無いが『上級戦士の皆では成す術なく殺されるから、ステラにこの事を伝える為にも逃げろ』と。
残酷かもしれないが……そう言っているようなものだ。
出来る事なら否定はしたくとも、現実は十分に把握しているし、チャリオットの指示はきちんと合理性に伴ったもの。なればこそ、さしものカルファも何も言えないず、肯定の意として首を縦に振るう他ない。他のメンバーも思うところはあるがカルファ同様に従い、この場からチャリオットの意向に背く事なく去って行った。
「仲間を庇うか。殊勝な事だな」
眼前のホワイトは一連の光景に関しては今まで何も言わず、行動も起こさなかったが完全にガード・ブロックの面々が去ったのを確認してから、その口を開いた。
淡々としているが、そこに嘲笑や侮蔑。あるいは皮肉の感情などは込められてはいなかった。
「貴方なんかに仲間の命を差し出す訳にはいかないよ」
「フフッ、そうか。本当に敵ながら素晴らしいなお前は。そこは素直に賛辞を送ろう……だが、我が目的を阻む為に立ち塞がる障害である以上、お前はここで終わる。このホワイト☆ロックシューターの手にかかって」
「そんなの、とっくに覚悟してるよ!」
チャリオットは覚悟と勇気を伴って叫び、両足の車輪を急速に回転。キックの連撃を繰り出していく。僅か2秒間に10発という速度の蹴りは中々の威力だと言えるが、ホワイトが相手ではそれもあまり意味を成さない。赤炎と滾り纏っていたオーラを消し、キックの連撃を両腕のガードだけで容易く防ぎ切り、僅かに生じた隙を見逃さずチャリオットの首を掴み、そのまま締め上げた。
宙にぶら下げられる様を淡々と見据えながら、ホワイトは空いた片手で胸のコアを抉り出そうと迫る。しかし、それを車輪の両足が左右片手を封じ込めるかのように挟みつけ、コアへの侵攻を未然に防いだのだ。
そして何と、チャリオットの首が手榴弾の如く衝撃と炸裂音を伴って破裂し、頭部と身体を繋いでいた首が喪失した事でチャリオットはホワイトの魔の手から解放され
、同時に頭部と身体も分離。
本来ならばそれで仮死状態に陥る筈だがしかし、陥る事はなかった。
寧ろ、そうなってしまった前と変わらない動きで素早く間を取ったチャリオットの身体はユラユラと宙に浮かぶ頭部と瞬時に再生した首で繋がり、きちんと元に戻った。
「これまた……珍妙なものだな」
「どうも。私は特異体質だから、頭と身体が離れても仮死状態にはならないよ」
自信満々。そんな風に答えるチャリオットに対しホワイトは凶悪的な笑みを浮かべる。
「そうか。では、今より本当の死をその頭と身体に叩き込んでやろう」
それはホワイト本人にして見れば、少し力を込めただけの何気ない跳躍だった。しかし瞬く間にチャリオットの眼前へと移動できてしまう時点で普通ではないだろう。急速接近したホワイトは彼女の顎へアッパーを仕掛け、更に手を花弁の如く開放したかと思えば張り手の応用でチャリオットを軽く吹っ飛ばしてしまった。
そうして地面へ仰向けで倒れたチャリオットの頭を掴み押さえつけ、その手に握力を込めた。
「ぐゥゥ……アァァッ!!」
「終わりだ。精鋭というのも存外良かったと褒めてやるが、それでもやはり我が宿敵としては役不足だ」
更に握力が掛かる。
先ほどのように頭と身体の分離は出来ない。何故なら頭が無事でなければ身体を動かす事はできないからだ。頭は言わば司令塔で、その司令塔からの命令がってこそ身体は動く。人体の動きの仕組みと同じようなものというわけだ。
このまま行けばチャリオットの身体は果実のように崩壊し、無慈悲にコアが引き摺り出される他無い。
だが、そうはならなかった。
「ふん。大方さっき逃がした連中がお前を呼んだか。ククッ、待っていたぞ…ブラック★ロックシューター!」
ホワイトの背後に立つ者…ブラック★ロックシューターが今ここへやって来たからだ。
しかしいつもの慈愛に満ちたような優しい雰囲気は消え去り、殺気と怒気を溢れんばかりに滾らせその目は酷く鋭い。
それを前にしてホワイトは叫ぶように呼んだ。
家族として愛した嘗ての姉の名を。
しかし今となってはもう自身の目的を妨げる障害たる壁であり、自分が討ち滅ぼすべき最強の宿敵。
「チャリオットを放せ!」
「ああ、いいとも」
言われた通りすぐにチャリオットの頭から手を放したその僅か一瞬、もう片方の手に刃の部位が黒く染まった白刀…『ヴァイス☆ブレイド』を召喚。
不意を突いた唐突な一閃を繰り出したのだ。
純白の一閃はステラの首へと殺意を乗せて向う。だが、それを一本の刃の部位が白々と染まり切った黒刀『ノワール★ソード』が切っ先を天に向けた縦の状態で防ぐ。
ステラがホワイトほぼ同速で召喚したのだ。
黒刀と白刀が十字架のように交錯し鬩ぎ合い、ギチギチと歪な金属音を奏でる。
両者、気迫共に一歩も下がる様子など微塵もありはしない。
「ホワイト……いいえ、ノーヴァ! これ以上は何も生み出さない。ただ破壊と惨劇…その先にあるのは滅亡の未来しかない! だから!」
「……この期に及んで出た台詞がそれか。定番過ぎて…もはや笑いも怒りも出ないな」
鬩ぎ合っていた金属と金属の刃がタイミングよく同時に別れ、その際に生じた甲高い音が周囲に虚しく響き渡る。
そして彼女等は戦闘の構えを解くことはなく……当然の如く睨み合った。
「ブラック。この際故に聞いておくが貴様は人間というものをどう定義している?」
殺気の空気が漂う少しの間の静寂。それを最初に、それも人間と言う題目で質問する形で破ったのはホワイト…いや『ノーヴァ』だった
。
「……可能性に満ちていて、醜悪でどうしようもない面があるのは否定できない。けど……それに負けないくらい良い所だって沢山ある。
どんな悪があったとして、例えそれを消す事ができないのだとしても。ちっぽけでも善の部分が必ずある。とにかく一括り単純には語れない存在……それが人間なんだって、私は思ってる」
「なるほど。同感はできる。が、醜悪な面を肯定するのは賛同できんな。それでは人間は只の畜生に過ぎん。人を人として足らしめるものは一体何か分かるか? 他でもない清い心。そして何者にも屈さぬ、決して捻じ曲げぬ正しき道徳の意志。それ無くして人は人とは呼べん……それはもはや、人という皮を被っただけのヒトモドキのストックに過ぎぬ」
「違う。それは認めたくないものに目を背けているに過ぎない!」
「認めたくない事の何が悪い? むしろ、そんな易々と認める事自体が問題だ。現にそうしたヒトモドキのストックどものせいで、真の人類は数多の犠牲と尊厳の破壊を強いられて来たのだ。人間同士の戦争がその最たる例だ。土地を奪い、資源を貪り、命を殺す悪性の権化と称するに相応しいものだ。そしてそんな奴等によって父は殺された!」
思いは昂ぶり、声を荒げるノーヴァだったが依然と油断も隙もなくステラに対する警戒を解かない。
「前に妾は言ったな。人類淘汰を行うと。だが、その人類は決して人間全てを指して言っているわけではない。人間でありながら人間ではない人類…すなわちヒトモドキのストックどもの事だ。奴等を一匹残らず一掃せしめ、地球を我が支配下に置く。それが我が計画の本髄なのだよ!」
ホワイトの言い分はつまるところ、自己保存。利益優先。悪徳跋扈。
欲望や悪性的思考を一欠けらでも有する人間を徹底的に排除し、より道徳に優れ、時には自らを犠牲さえ厭わない。
そんな精神的に優れた人類を生かし、支配統治することで地球を…人間世界にこれまでに類を見ない変革を齎すと言うのだ。
「なんてことを……」
「妾の目に適った人間こそが真の人類にして、未来を生き永らえ、繁栄を謳歌するに相応しいのだよ。そして父が成し得なかった人類とハートレスによる共存世界を確固たる形で実現させるのだ!」
「そんな世界、間違ってる! 互いに理解し…時には反発しながらも最善を尽くし模索する。それこそが共存だ! 貴方は支配による圧政で傲慢にも選民し、破滅に満ちた世界を創ろうとしているに過ぎない!」
「圧政…か。確かに他者の承諾を得ず、自身の独断で選民することで一方を生かし、もう一方を殺す。それはまさしく支配による圧政に他ならないな……だがブラック。貴様はそれが真に必要だと言う事を理解していない。例え選民し、真の人類を生かしたとして共存世界を創り上げたとしても、いつの日か必ず悪性は生じる。それがどうあっても覆しようのない人間の性だからな。故に妾が力でもって支配するのだ。
それが抑止力となり、歯向かう者も押さえつける事ができる。それでも尚、あくまで妾の敵として悪性をもって立つならば……そうした者たちに未来はない。妾がこの手で直々に潰すまでのこと」
「力で自分の意に従えさせ、自分の意に反する者を殺し尽くすのか! そんな夥しい数の屍の上に成り立った世界が……父さんの愛し望んだ世界だと語る気か!」
「違う。断じて違う。あの人は真に正しき御人であるが故に私の創世を誰よりも望まない」
「分かっているのなら、何故!」
「妾はこの方法でしか成せん。妾はあの人の娘ではあるが…父そのものではない。あくまでの妾という個に過ぎぬ以上、この方法しか知らん。知り得たとしても……それ以外の選択肢を取る気は更々無い」
人間の負の面を受け入れ肯定し、人類の皆が等しく生きる自由在れと望むステラ。
人間の負の面を拒んで否定し、人類は真の人間とヒトモドキのストックに分別され、ヒトモドキに生きる資格無しと断ずるホワイトこと『ノーヴァ』。
両者は確かに人とハートレスが共に歩む理想の世界を望んではいる。
だが思想が違い、方法も違えば、其処に在るのは何か…戦い以外にない。話し合いなど不毛の平行線になるだけだ。
「ふん。妾とした事がどうにも長話が過ぎたようだな」
「どうあっても、やめるつもりはないの?」
「そうだ。この戦いはどちらかが生き残り……そしてどちらかが死に絶えるのだ!」
ただ生き残るか。無残に死に絶えるか。
その運命の選択の言葉が狼煙となり、ノーヴァはステラへ急速的に接近。
ほぼゼロ距離にまで接近したノーヴァはヴァイス☆ブレイドを縦に振るい、そのまま振り下ろす形で一刀両断せしめようとした。
だが横に掲げられたノワール★ソードがまたしても妨害。一刀両断は未遂に終わってしまう。
「ふッ!」
「りゃああッ!」
白い吐息と黒き咆哮。剣戟は絶えず音は激しさを増し、未だ決着の行方を見せない……。
クシロロの大地は広い。それこそ太陽系の惑星における木星ほどに広大だ。しかし、そんな大地にも果てが存在する。大地も海も丸く繋がった地球には決して無い『世界の果て』。
途切れた大地はまさに何処までも高い崖のようで、その眼下に見える景色は暗闇の一色。本当に何もない宙であるそこにポツンと浮遊するものがあった。
庭付きの西洋風の小さな屋敷。それも何かもが白一色という変り種過ぎる洋装は傍から見れば清涼感はあるが、同時に奇妙さを感じることだろう。
そんな場所を目指して1人の少女が訪れようとしていた。
ショートな癖毛交じりの銀髪に幼さのある可愛らしい童顔。モノクロを意識したかのような白と黒のゴスロリ衣装。手には、先端にジャック・オー・ランタンのようなハロウィン風のカボチャ頭をつけたピンクの生地に白いハート柄模様のこうもり傘。
彼女はそんな風貌で1人傘を使い、白い屋敷の庭へと舞い降りた。
「ふう。ここまで来るのも一苦労だな~。そうは思わない?」
傘を閉じ、その先端にあるカボチャ頭へ言葉を投げ掛ける少女。
すると何をどういった仕組みなのか……傘は独りでに言葉を述べたのだ。
『まァ、そうですネ。でも仕方ナイです。あの方の呼び出しなんですシ』
「その通り。私の呼び出しはね、凄い絶対なんですよ?」
ふと、モノクロ少女と傘のいずれかではない、もう一つの声が現れた。
その声の主は傘の言葉に同意するよう述べた後、屋敷の入り口である二枚扉からドアを開き悠々と現れた。
まず一目で分かるのは女性だという事。格好は金の刺繍と装飾が施された純白の軍服にドレスを足したような装束を纏い、頭には山羊を彷彿とさせる角が生え、腰辺りからは深緑色の鱗が妖しく恍惚と輝く蛇が巻きついていた。
彼女の名は『ホワイト☆メイラ』。
かつてはクロワ王朝『七人のブラック★』の1人であった者。
とある理由から反旗を翻しブラック★に仇名す者となった事以外何も分からず、その全てが謎に包まれた女性である。
そしてこのモノクロ調のゴスロリ少女…名を『ロード・ミック』と言う。
この世界である者によって創造された『ハートレスではない知的生命体』にして、その知的生命体の一族の長子である。
「まっ、貴方のお呼び出しとなれば地の果てでも舞いりますわ。私は常にシメール白師の仰せのままに」
「ふふっ。そう言って頂けると嬉しいです」
飄々とした雰囲気でまるで淑女の如くそう宣言するミックの姿を見て、シメールは微笑ましいと良い笑顔を浮べた。空気自体は割とほんわかとしたものなのだが……やはり何処か真剣なものも混じっている妙な感じだった。
「それで白師。私を呼んだ理由ってなんなの?」
「ええ。もうすぐクロワとハクトの一大決戦が終わりそうなんです。尤もその幕引きは、あのワールド・ヴィレッジなんですが」
「……やっぱり。何か企んでたんだー?」
「もちろんです。何の考えも無く、自分の弟子にあの装置の設計図を渡したりなんかしませんよ」
シメールの言う弟子と即ち、ホワイト☆ロックシューターことノーヴァだ。
彼女の才能を見出し鍛え上げ、そして『ホワイト☆』の称号と力を与えたのは他ならぬシメール本人。彼女あってこそ、今のハクト総督がいると言っても過言ではないのだ。
「ワールド・ヴィレッジの余波はとても強大。それだけにエネルギーを巧く使えば…一体どうなると思いますか?」
「え? う~ん……わかんないなぁ」
「あの穴に眠る貴方の『兄弟たち』を解放することができるのです」
「え、うそっ! 本当に!!」
シメールの言葉に驚愕と歓喜がミックの声を上げさせた。兄弟…それはそのままの意味であり、同時に彼女の一族を指した言葉。
それが封印の眠りによる長き束縛から開放されるのだ。
ワールド・ヴィレッジの発動の際のエネルギー余波を用いて…。
「悪いですけどホワイト。私の可愛い弟子。貴方の思い……私が利用します」
そう言って浮べるシメールの笑みは、まさに人が俗に言う『悪魔』と称す事ができるほど邪悪に歪んだものだった。
「時は来ました。クロワとハクトのピース……貴方達は次元を超え世界を跨ぎ行くのです。そして、『アルカナ』に封じられし一族達よ。今日こそが復活の時です!」
トランスフォーマーアドベンチャー マイクロンの章!
やっと放送です(涙)
マイクロンの章という事は…やっぱ『マイクロン伝説』みたいにマイクロンがキーパーソンと言う事でしょうか?
まぁ、それは置いといて今回は劇中のネタを解説していきたいと思います。
まず新たに登場した『防衛守護官ディーフェン』について。肩書きと赤い単眼デザインはトランスフォーマーのディセプティコン三大参謀の1人『ショックウェーブ』がモチーフ。とは言えデザインは落武者の亡霊で性格も大分違いますけどww
前回でクロワの皆から『アイツはヤバイ』みたいな事を言われておきながら、呆気なくやられてしまう展開はまさしく『かませ犬』ww。
でも強さに関して言えば本当に強い方ですよ。現にスキルの二重防御はあの総督でも無理なほどですし……ただ、ステラが色々と本気モードになって覚醒っぽい感じになったのがいけなかったんです、はい。
あと妖術っぽい謎の呪文はムカデを意味する『センチピードル』とまんま『拘束』
を捩って造りました。爆発のアレも『エクスプローション』が元です。
そして終盤に出てきたホワイトことノーヴァの師匠様と謎の少女。
師匠様の方の名前の由来はギリシャ神話に登場する獅子と山羊と蛇を合体させたかのような怪物『キマイラ』のフランス語から。あとキリストにおいては『悪魔』の意味も含んでおり、それを題にした絵画とかもありますね。
キャラクターモチーフはDグレイマンの千年伯爵。一応はソレっぽくはなってる筈です。ついでに言うと色々と裏でやっている現時点での黒幕的存在でもあります。
謎の少女の方は同じくDグレイマンから『ロード・キャメロット』と『ティキ・ミック』が名前の由来です。飄々と妙に人間臭く、しかし裏に秘めた子供のように無垢な残虐的本性はまさに両名を組み合わせたようなもの。
では、また次回にて!