異物(イレギュラー)の少年   作:堕ちた人間

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今回は十六夜の出番は少なめです。


特攻隊の持久戦

| そこはまるで雨風の無い嵐の中の様だった。あっちこっちを飛びかいあい、壁や床、天井にピンポン玉の様にぶつかり合い、暴れていた。そんな中で生徒会長の霊隗 金鎖は十六夜のと同じように考えていた予想が大当たりしたことに不満の声を漏らした。

 

「まったく、完全に薬に当てられているな。馬鹿が!」

 

まず言っておかなければならないことが有るが、異能力は何も人間だけのものではない。異能力を使う上で理論上絶対に必要なモーションは、精神子《ユネサス》に方向性を持たせ、その精神子《ユネサス》を使って対象の物質に干渉する。これだけである。指向は感情又は意思だけで、干渉に至っては生物なら個体差は有れど誰でも常時放出している。よって、極端な話を言ってしまえば異能力を使うのに人間である必要は一切ない。生物であるならば少なからず感情や意志は持っている。細菌であっても生存本能というものがあるのだからその限りではないだろう。つまり何が言いたいかというと、現状目の前にいる九十九(つくも)兄弟の様に意識の無い半ば畜生の様になってしまっていても、異能力をただ使う分には些かの支障もないということである。

 

「くそっ、面倒くさい。あいつらを直接叩くことができれば話が早いんだが。待つしかないか。」

 

十六夜は出入り口から外に精神子《ユネサス》が出ないように防壁を張りつつ苛立ちを隠すことができずにいた。現在彼らの前に居る九十九兄弟は霊隗家の筆頭御家人家・九十九家の直系の人間である。九十九家は座標変更系統・加速の中でも複数の小物の同時操作を得意としていて、そのことから「弾丸の嵐」という異名を持っている。この異名は荒事関係の仕事を領分とする人間の間では割かし有名だ。そう九十九家は霊隗 金鎖の家の門人なのだ。それがゆえに彼は普段の彼からは考えられない言葉を口にしたのだ。

 

そして、彼が苛立ち気な顔を浮かべていたのもちゃんとした理由が有る。まず彼らは薬に当てられている状態だ。異能師は異能力を使う上で感情・意思等を含めた自我、或は人格を用いる。異能力は自我によってコントロールされるが、逆もありうる。異能師は異能力を使う上で自らの中に存在する個人固有現実《パーソナルリアリティー》の中に存在する法則を現実に持ち出すのだ。具体的に言うと異能師はは自らが持つ余剰精神子を自らの精神領域にある無意識領域である個人固有現実《パーソナルリアリティー》に送り、そこにある、実在するものだと無意識下に認識している法則をという名の自己暗示を用いて意識的に指向性を持たせているのだ。そして指向性を持たせた複数の精神子《ユネサス》を感覚的にバランスをとり、対象の物質に干渉する。ここで概念に干渉するという言い方をする場合もあるが、物質という表現が一般的である。そしてインシュランスが強化させる

 

・精神子《ユネサス》感応能力

 

・視力の良さ

 

・異能力の発動速度

 

は簡単にいえばどれだけ無意識下にある個人固有現実《パーソナルリアリティー》を使いこなせるか、ということである。だがここで皆に考えてほしい、現実を認識する能力、例えば視覚や聴覚等の五感や、それを伝達する神経、そして処理する脳神経これらの能力を無理矢理引き上げて本人の体になんの負担が無いことがあり得るだろうか。そんなことは現実的に見てありえない。投薬にしろ、改造るにしろ、何かしらの反動(リバウンド)がくる。インシュランスを異能師に過剰投与した場合、異能師は自らの自我の一部として個人固有現実《パーソナルリアリティー》を持っていて、その人間の自我そのものが侵されるのである。その極端な結果の例が只の異能力発生装置となり果てたあの九十九兄弟である。

 

そして、現在十六夜達特攻隊の人間は、苛立ちをどんどん募らせてきている。というのもこの乱舞を鎮める方法はいたって簡単なのだが、その方法が禁じ手となってしまっているのだ。それは九十九兄弟の消去《デリート》である。しかし、彼らは何一つ違法行為を行っているわけではない。むしろ彼らは被害者側だ。なまじ死傷者の類が出ていないので、薬に当てられたことによって暴走にあるかれらは現時点でも体にかなりの負荷がのしかかっている。よって彼らは首謀者側に利用されているだけで、勿論彼らが自ら手を貸したという可能性も無きにしも非ずではあるが、彼ら自身が罪を犯しているという確証が得られない以上、法曹でも何でもない、あくまでも表向きは一介の学生でしかない彼らには目の前の九十九兄弟を直接取り押さえるという行為はできないのである。なので、彼らにできることはできるだけ被害を最小限にすることだけで、治維管の人間の到着を待つしか彼らに手は無いのだ。しかし、そんな中風紀委員長仏前 鍾次はある決断をした。

 

「霊隗、バイタルダウンを使おう。手伝えるか?!。」

 

仏前の精神子波動通信による呼びかけに霊隗は渋皮を食べたように顔を歪めた。バイタルダウンとは相手の呼吸器官に力場操作系統を用いて負荷を与え強制的に血圧や血中酸素濃度を低下させ意識を、時には命を奪う魔法である。その性質上、単なる心不全等と見分けがつきにくいことから、過去に暗殺等の後ろ暗いことにに多用された記録もあり、通常の異能力教育機関では習得方法が公開されていないのは勿論のこと、関係するデータを持っているだけでも異捜官に捕まる危険きまわりないな魔法である。だが霊隗は何故仏前がバイタルダウンを使えるかについては言及しなかった。する意味が無いからだ。

 

「本気か?、確かに薬に当てられている状態ならバイタルダウンと同じ現象も高確率で起こりうるし、後々ばれても、多少は融通を聞くけど治安維持管理局の到着を待った方が賢明じゃないか。」 

 

霊隗は最善とは言えない妥協点の方法を危険であると同じく精神子波動通信によって警告したがそれを仏前は聞かなかった。

 

「どうやら治維管の到着が意図的に偶然遅らされているようだし、このままじゃ到着前にあいつらが息絶える。勝負に出るしかない。まさかあいつらを見殺しにしろとでも言うつもりか。仮にもあいつらはお前の家の門人だろ。」

 

仏前の言葉に霊隗は一言発しないまま、数秒黙り込んだ後に無言で頷いた。

 

 

 




バイタルダウンは人間の体内にあるがゆえに対象の指定が難しい魔法の一つです。

【異捜官】異能力犯罪の中でも通常の法治機関では対応の難しい案件を対応する義務と権利を保持している国連異能力捜査官資格を有する人間のこと指す言葉。
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