【異能科高校 教室】
十六夜がいつも通り本を読んでいると近づいてくる人間が居た。
「よう、十六夜。いつもにもまして不景気そうな顔をしてるな。」
「何の用だ、鏡花。不知火家の人間が俺(十六夜家の人間)に話しかけてくるなんて珍しいな。」
十六夜が今話している人間は不知火 鏡花(しらぬい きょうか)、不知火家の次男である。不知火家は十六夜家や四谷峰家にとって仇敵といえる家なのである。何故かというと、もともと「不」、「無」、「未」等の意味を打ち消す漢字の入った家は「準帝道家」、「準王道家」と言われていて、帝道家や王道家である家が除名処分を受けたりした場合そのあとを継ぐことを決定されている。それに対して御家人家は「普段は我々が巳錠家を支えている分家や傍流の家なのに巳錠家の跡目を掻っ攫っていくのか」
といった感情を持っているのである。不知火家はそれに対して「貴様ら程度が巳錠家をつごうなど片腹痛いわ。」といった感情を持っていて大変仲が悪いのである。
「やだなーやめてくれよ。異能科高校内でそういう家関係の話を持ち出すのはマナー違反だろ。そんなこともわからない君じゃないだろ。」
不知火は軽い笑い顔を浮かべながら含みを持たせた言い方をしてきた。
「それはわかっているが、こんなに校内がピリピリしているのにわざわざ俺に話しかけてきたのが不自然に思えてな。お前のことだ何か理由が有るんだろ。」
十六夜が目を細めて低い声でいうと不知火は「ふーん」といって含み笑いを浮かべた。
「お前昔より疑り深くなったんじゃないか。昔よりね。」
「お前の気のせいだ。さっさと本題に移れ。家関係のことを表だって口に出すのはマナー違反でもお前(不知火家の人間)と話しているだけでも余計な噂をたてられるかもしれないんだから。」
十六夜がピシャリと言い放つと不知火は「わかったって」と言って答えた。
「お前、今回の騒動について嗅ぎ回っているみたいだけど。俺も一枚かませろよ。」
不知火が不敵に笑いながらそう言うと十六夜は露骨に顔をしかめた。
「実質、不知火家の次期総領になる人間がわざわざ厄介事に首を突っ込みたがるとは乱心したか。」
顔をグイッと近づけて話しかけてきた不知火に対して十六夜は低く重い声で問いかけてきた。
「そんなんじゃないよ。それに次期総領といっても、父さんは未だに明言しているわけじゃないからね。理由としては自分の知り合いに手を出されて黙っていられなくなった、といっておこうかな。」
不知火がわざとらしい薄ら笑いを浮かべながら答えると、十六夜は口に手を当てて少し考え込んだ後「放課後、本家(巳錠家)の屋敷に来い。そこで詳しい話をしてやる。」と答えた。それに対して不知火はこうなることがわかっていたような笑い顔を浮かべ静かに頷いた。
【巳錠家 別邸応接間】
「ズズー…」
ここは巳錠家に使える又は準ずる家の人間の詰め所の一室、そこに不機嫌そうに茶をすする音が響く。そしてそこに割り込むがごとく口が開いた。
「で、どうなんだよ実際。お前はどこまでつかめてるんだ。」
不知火鏡花はきつく睨みながら十六夜葉花に問いかけた。それに対して十六夜は茶を啜っていた口を茶碗から離し指を眉間に当てて「は~~」と溜め息をついた。
「お前な、本気で今回のことに首を突っ込む気か。悪いことは言わない、考え直せ。仮にもお前は不知火家の次期総領なんだから。」
十六夜が真剣そうなまなざしでそういうと不知火もまたお返しするがごとく「は~~」と溜め息をついた。
「お前は俺のことをバカにしているのか。俺はお前にそんなことを言われたからといって、引き下がるような半端な覚悟でお前(十六夜家の人間)にこんな事を頼んでいるわけじゃないんだぞ。そんな前置きはどうでもいいからさっさと本題に移れ。」
そういうと十六夜は何か諦めがついたような、達観した顔をみせた。
「お前のその頑固さは父親譲りか。「追いつめられた」って顔をしてるぞ。」
「そんなことは知らん。知りたくもない。前口上はもういい。さっさと話せ。」
不知火が苛立ちげにせかすと十六夜は「わかったよ」と言って話し始めた。
「今回の事件、本質的にいえば自爆に近いと俺は考えている。」
十六夜は淡々と自分の考えを言った。それに対して不知火は眉をピクリと動かし「やはりか」といった顔を見せた。
「やっぱり…異能力強化薬剤《インシュランス》か?。」
不知火は重々しい口調で呟いた。【異能力強化薬剤《インシュランス》】とは異能師の異能力を扱う力を増幅する薬剤である。そもそも異能力を扱う才能とは代表的なもので大きく分けて四つある。
一つめは自身の余剰精神子《ユネサス》の干渉値。
二つ目は精神子《ユネサス》の存在を感じ取る能力である精神子《ユネサス》感応能力。
三つ目は視力の良さである。視力とは物質のとらえ方、例えば水を「水」と取るのと「水素と酸素の化合物」と取るのかでは全く違ってくる。この異能力を行使する上での物質のとらえ方を視界と言い、その視界を変化させられる能力の値を視力と言い、異能力学上では視力が良いとは物質のとらえ方のバリエーションが富んでいることを指します。
四つ目は異能力の発動速度です。基本的に異能力はどれも基本的に只発動するだけならほぼ0秒で行使可能ですが。火炎を出すにしたって「大きさ」「温度」等を変えたい場合はそこを変数として発動する必要があるため、時間がかかるのです。
【異能力強化薬剤《インシュランス》】とはそれすなわち
・精神子《ユネサス》感応能力
・視力の良さ
・異能力の発動速度
以上三つの能力を強化する薬剤のことだが総合的な能力を高めるものではない。異能師は異能力を行使する上で脳の機能の中にある【異能力行使領域】という機関を用いているが、異能力強化薬剤《インシュランス》は本来脳がほかの用途のために使う機関を無理矢理【異能力行使領域】に組み込む物でその仕組み上身体に多大な負担をかけるため使用が全面的に禁止されている代物なのである。
「そこまではお前も掴めてたみたいだな。」
「まあ今回みたいな事例で考え付いたパターンの中から地取り調査をしてみて絞り込んでみた結果だがな。できることならそこには行きついて欲しくなかったんだがな」
不知火は顔をしかめ、苦々しく吐き捨てた。
「まあそうだろうな。なんせお前の親友まで倒れているんだからな。」
不知火は十六夜の言った言葉にビクッと反応した。
「お前知っていたのに、学校であんなこと言ってきたのか。」
「事件のことを調べているんだから。今回の場合被害者といっていいのか迷うところだが便宜的に被害者といっておこう。で、その被害者の身元を洗うぐらいするだろ。いやそれ以前にちょっと聞きこみをすれば、お前と親友同士だったぐらいの事は調べがつくぞ。」
「じゃあなんであんなことを聞いてきたんだ。」
不知火は声に怒気を込めて話し始めた。
「それに関しては一先ず詫びておこう。不知火家の次期総領になる人間がわざわざ首を突っ込みたがる理由にしては弱い気がしてな。他に何か理由が有るんじゃないかとおもったんだ。まあ、今ので本当にそれだけだと解ったからいい。」
十六夜は不知火の追及に対して謝罪したが、不知火は釈然としないと言った表情を見せた。
「まあいいけどよ。それでお前はどこまでつかめてるんだ。」
「その前にお前に確認しておきたいことが有るんだがいいか。」
十六夜は指を一本立てて訪ねてきた。それに対して不知火は「ズズズー」と茶を啜りやっぱりかといった顔で「ああ、聞いていいぜ」と返答した。
「お前がわざわざ俺に頼ってきたのはいくら調べても薬の出所が判らなかったからだろ。違うか。」
十六夜は神妙な声色で問いかけてきた。それに対して不知火は「はー……。」とさっきの小馬鹿にしたようなものとは違い、頭を抱え重いため息をついた。
「そうなんだよな。今週に入って3人これで合計21人。こんだけ出されているのに、出所に関する情報が一切ないんだもんな。こっちもお手上げ状態だ。」
不知火の愚痴染みた告白を聞くと十六夜は「やっぱりそれか」と言って言葉をつなげた。
「それに関しては実は出所自体はこっちの方で調べが付いてるんだよ。」
十六夜の不意を突いた言葉に不知火は「ブフッ」と音を立てて飲んでいた茶を吹き出した。
「ゲフッ、ゲフッ、お、おいどういうことだよ。俺も散々調べたけど手がかり一つ出てこなかったのに、どこのソースなんだよ。」
「ソースがどこかは横に置いとくとして、実はこの事件学校の教員側に内通者がいるようだ。お前も不思議に思わなかったのか。学校の中には要所要所に監視カメラが設置されている。なのに学校側が一向に動きを見せないんなんて?。」
十六夜は指をさして不知火に問いかけた。それに対して不知火は怪訝そうな顔をした。
「おいおい、それは俺も情報が散々調べても出てこない時点で疑ったけどよあっちだって本腰入れて調べているみたいなんだぜ。あっち側が首謀者だとは思えないんだけどよ。」
「阿呆。誰が首謀者だと言った。学校側は一枚噛んでるだけだ。後ろに居るのは…。」
「完璧なる科学《パーフェクトサイエンス》か?。」
「正解だ。上手くやっているよ、本当に。」
十六夜は溜め息一つに吐き捨てた。完璧なる科学《パーフェクトサイエンス》は過激派異能力興振団体だ。過激派といってもこの組織は表向き自体は国連にもその存在が認められている優良異能師支援組織である。しかし、最近はきな臭い噂が絶えず、この前も国連特査官にガサ入れされたばかりなのである。
「なあ、はばな。なんで異能力強化薬剤《インシュランス》なんかに手を出すんだろうな。確かに異能力ってもんは殆ど才能が物を言っちまう世界だ。いくら努力をしても報われない。そんな人間の方が大多数なのが現実だ。それは俺でも痛いほどわかる。お前の特殊視界も最たる例の一つだからな。でも俺には解らないんだ。異能力だけがその人のすべてじゃない。それに異能師が異能力を行使する場合異能力の才能だけが物を言う訳じゃない。「異能力の才能」ではなく、「異能師としての才能」…、異能力を行使するタイミング、火力の調整、そしていざって時、異能力を本当の意味でで使えてるか。それが物をいう場面だって大して珍しくない。なあ、はばな…、なんでなんだよ。」
不知火はすがるような目で不知火に弱弱しく問いかけてきた。それに対して十六夜表情を隠そうとして顔が強張っていた。
「怖いんだろ。異能科高校に入る人間て言うのは殆どがちっちぇころから異能師になるっていう将来を決められてて立派な異能師になれだのなんだの言われて育てられてきたから、異能力の才能が無い存在だって言われたくないんだろ。怖いんだよ…、ひたすらな。」
十六夜は声を震わせて怒りを押しこらえた。
「やっぱり……、そういうもんなんだよな。ありがとな、俺の情けない愚痴を聞いてもらって。」
「いいって、俺も似たようなもんだからな。じゃあ今回はこれでお開きってことでいいか。俺は一応本家(巳錠家)の方にも資料が纏まってきたので一言言っておくつもりだが、おまえはどうする。これ以上本家(巳錠家)の許しも得ずに探り回っていると本家(巳錠家)の枝家の人間が黙っていないぞ。」
十六夜は少し重みのきいた口調でくぎを刺してきた。
「それに関しては父さんに頼んでうまく誤魔化しておくよ。」
「そうかじゃあな。」
行き詰っております。アドバイスをお願いします。
【用語説明】
国連特査官……国際連合特別査察官の略。国際連合が関与している組織(国や自治地域等も含む)を監視する外部顧問官。国連の定めた法律の司法権を有している。通称国際警察官と呼ばれている