今異能科高校内は騒然としている。何故なら第2級警報が鳴り響いているのだから、本来であれば生徒たちは避難活動を最優先にするところを美化委員会と生活安全委員会、そして生徒会の役員は逆に警報が発令されることとなった元凶の場所へと急行していた。その中には生徒会役員である十六夜の姿もあった。
「まったく、何故こんな事態になったんでしょうね。【付喪神】、いいえ【式神】が大量に出現するなんて。」
十六夜は建前上、今回の事件について何も知っていないというスタンスで、美化委員会・委員長【仏前
鍾次(ぶつぜん かねつぐ)】に話しかけた。
「全くだ、だが、お前は大体感づいているんじゃないか。お前の勘の良さは俺もそれなりに解っているつもりだ。それに色々嗅ぎ回っていることを俺の耳にも入っている。建前やなんかの類で取り繕わなくてもいいぞ。」
霊前の言葉に十六夜は少し間を空け「判りました」と頷いた。そもそも今回の騒動の発端は2時限目に異能工学科二年の生徒が実習のために設備棟のプログラミングルームに入ったところ、いきなりそこにあった備品の類が全て暴れ出したのである。これには異能工学科の人間も最初は多少は驚いたが直ぐに持ち直した。何故なら、異能科高校を含む異能力関係施設内でならイリーガルの発生は大して珍しい話ではないのだからである。しかし、すぐ後におかしいことに大半の人間が気付いた。
異能師は異能力を行使するにあたって、その異能力の質が少なからずその時の感情や精神状態に左右されることがあり、その調子の差をなくすことがプロフェッショナルの異能師になるうえで欠かせないことだ。イリーガルとは異能師が普段生活する上で無意識下に感情や精神状態の変化で放出してしまう精神子《ユネサス》が手近にあった物質に干渉しそれが積み重なり干渉値が一定値以上になった場合その物質に対して異能力が発生する現象で、異能師無自覚放散精神子干渉偶発異能力発現現象(ポルターガイスト)と呼ばれていて、これの対象となった物質を【付喪神】というのである。【付喪神】は通常コード化されていない無作為な精神子《ユネサス》によって干渉されたため方向性を持たずに暴れまくる。飛び回ったと思ったらいきなり燃えだしたりと、一般的に異能師が暴れまくるより厄介なのである。
しかし、干渉値は時間とともに減少していくものであり、そう高い頻度で起きるものではない。しかも、通常異能科高校の様な異能師が集まる場所にはばら蒔かれた精神子《ユネサス》を除去して【付喪神】の発生を防止する機関の設置が義務付けられている。異能科高校では美化委員会がそれに当たる。なので避難勧告が出されるような事態になること自体、非常に稀で、異常なのである。しかし、前述した美化委員会や、こういう非常事態に対応するための機関である生徒会、揉め事等に対応し、その処罰や予防対策などをする風紀委員会の人間はただの【付喪神】ではなく、【式神】だということに気づいていた。
【式神】とは意図的に付喪神化された物体のことで第三次世界大戦では市街地戦闘等で盛んに使用された。しかし、その後APM(アンチ・ポルターガイスト・マジック)という技術体系が構築され、現在では【式神】は囮や撹乱等の意味合いしかなくなってきている時代遅れな技術なのである。
「しかし、今回の騒動、どこの差し金だと思いますか。」
「そうだな…、直接手を出してきたのは異能力廃絶運動とか言ってテロ運動をやっとるどっかの馬鹿どもだとは思うが、南東亜連合(みなみとうあれんごう)当たりか?。あそことはインドネシアあたりで起きた反政府紛争の鎮圧とかで色々と揉め事があったらしいからな。その時あちら側もかなり痛い目にあったらしいからな。少しでも戦力をそいでおきたいとかか。だとしたら、この騒動自体、でかい事件の一部でしかないという話になるんだが、お前はどう思う?。」
「まあ、直接やってきたのが体裁を取り繕っただけのテロ組織なのは間違いないですけど。俺なら南東亜連合に加えて東欧協定国もリストアップしますね。」
「そうだ「ダァァァァーーーン」おっとまずいな!、話は後だ!。」
霊前が十六夜の言葉に同意しようした瞬間目の前の防火壁が吹っ飛んだ。そして中からイスやら書類から沢山の【式神】が出てきた。それに対しての生徒会長である霊隗 金鎖(れいかい こんさ)の反応は的確だった。
「美化委員会はAPMに集中。風紀委員会はオフェンスに回って前線を押し上げろ。生徒会役員は遊撃とオフェンスの援護に回れ。」
「「「はい」」」
【閑話休題】
(奇妙だな、オイ…こりゃやっぱり予想通りってことか?)
十六夜はオフェンスが撃ち漏らして、美化委員会の陣地に飛んでくる式神を力場操作系統の異能力で防壁を作り、停止させ、時には化学変化操作系統・燃焼を用いてフィールドに転がった物体のうち燃やして片づけられるものの後始末をしながら疑問を眉間にしわを寄せながら浮かべていた。
といっても彼は近づくで戦っているわけでも、勿論のこと、正攻法で戦っているわけでもない。彼は飛んでくる物体が当たるタイミングを見極めて、当たるであろう場所の防壁を意識的に出力を上げているのである。前述したとおり、異能師が異能力を使うに当たって少なからずむらが出る。防壁を作る場合コンディションによって出力にむらが出てしまう。彼を通常無意識下に起きる出力の偏りを意識的に行っているのである。意識的にむらを作る技術は高難易度技術だ。異能力の同時発動と並ぶほどに。しかし、そもそもそれ以前にこの技術はあまり異能師の間では習得が奨励されてはいない。何故なら前述したとおり異能師はできるだけコンディションによる異能力の質むらを減らすのが奨励されているがゆえに、異能師は常に異能力の質にむらが出ないようにしているのに、意図的にむらを起こすというのは一般的な指導方針とはかけ離れていて、例として防壁に使うためにこんなものを覚える暇と労力が有るのであれば少しでも魔法の切り替え(スイッチ)速度を上げることに時間を使うべきだからだ。他にもこの技術が奨励されていない理由は有る。それは扱いの難しさである。例えば力場操作系統で人間を押し潰す時にこの技術で心臓等の急所を破壊しようとしても戦闘中に相手の急所の位置を的確に即座に把握できる人間は限られてくるし、十六夜の様に防壁に使うとしても彼の様に乱舞する物質相手にその場その場で実用レベルで使いこなせる人間自体稀なのだ。
異能力はあくまでも「能力」であって「技術」ではない。ある程度技術体系化された異能力であれば多くの人間が使えるが、それは「多く」であって「全て」ではない。異能力はあくまでも俗人的な技能で、全ての人間が使える異能力の開発は不可能の領域だというのが異能力学会の公式的な見解だ。そして俗人的な技能であるが故にテスト形式の計測手段では実戦で役に立つかどうかは判断しにくく、模擬戦等のルールの中での実践ならともかく実際にやらせてみると学校や教習所の数値より役に立つという話は珍しくないのだ。特に彼、十六夜 葉花は極端で学校の計測方式では10段階のうち「レベル2」となっているが、国指定の委託民間業者の計測結果では「レベル7」に指定されている紛れもない実力者なのである。(因みに十六夜に異能理論科に転属を打診していたのはテスト結果しか見ない学校側だけである)
(普通ならこんな騒動を起こしたんならできる限りただのAPだと装いたいはず、なのにこいつらに干渉している異能力は座標変更系統のみだ。こりゃ、とうとう薬に当てられている可能性が高くなってきたな。くそが!!)
十六夜はできることなら当たってほしくなかった予想が現実味を帯びてきたことに、心の中で悪態をついていたのだが、
「あ~~、しかし本当に面倒くさい。」と、文句を垂れていたりもする。
【閑話休題】
十六夜がグダグダと思索に落ちいっている間に急編成された特攻隊は目的地、即ち設備等4階プログラミングルームのすぐ傍に到着したのだった。実はこのプログラミングルームは異能科高校内では最辺境に当たるのである。何故かというと、まず異能科高校は南東から北西へ、生徒の教室のある「生徒棟」、職員室や教会や事務室等がある総合棟、工房や資材室等が有る設備棟、この三つの校舎が「王」字状に並んでいる。で、プログラミングルームが有るのは設備棟四階の一番端であるが故である。
「いいか、お前らまず風紀委員会の無飯(なしいい)と刹那(せつな)が先行して風紀委員会の人間が突っ込む、生徒会の人間のうち応用力のある十六夜と三谷(みつや)は風紀委員会の援護をしつつ続いて突っ込め。俺と風谷(かざだに)、八津原(やつばら)は十六夜と三谷の合図の後突入する。美化委員会の人間は内部状況がはっきりして、俺の合図が有るまで待機、以上。十秒後に突っ込む全員構えろ。」
「チク、チク、チク、チク、チッ!ダァァン」こうして特攻隊は本丸に突っ込んだのだがそこ気まっていたのは、
「やっぱりか」うめき声を上げながらのたうちまわっている生徒だった。
どうでしょうか。出来は悪いと思います。