というわけで艦これにエミヤをぶち込んでみたけど、今思ったのだが艦砲射撃とかエミヤの弓より遠くまで届くよね?
そこは薄暗い、工場のようなところだった。
正確に言えば、ということだ。実際のところ、そこは工場以外の何物でもなかった。正確には工廠という。
やたらめったらと様々な機械が並び、隅の方には鋼材やドラム缶、弾薬の箱などが雑多に積み重ねられている。
時は21世紀、だというのに全ての設備が実に古臭い。そして工廠の中をうろつく作業服の人影はやたらと小さく、お人形さんのようだった。
マスコットキャラクターのような愛らしい顔立ちに、ちょこまかと可愛らしい所作。この工廠に出入りする者達は、端的に「妖精さん」と呼んでいる。そんな彼らが、今日はいつもより慌ただしい。
工廠の真ん中、開けた場所に魔法陣を書いて、えっちらおっちらと大量の資材を運び込んでいた。特に整理することなく、無造作に積み上げていく。それを見ていた一人の少女は、眉間に皺を寄せて呟いた。
「‥‥こんなもので、本当に艦娘が“建造”できるの?」
真っ白なワンピースのようなセーラー服と、黒いストッキング。背中の中程まで流れる銀髪の上には、うさぎの耳のような機械が浮かんでいる。
彼女こそ駆逐艦叢雲と呼ばれる艦娘。すなわち、人型の戦闘艦艇。深海棲艦という脅威に怯える人類のパートナーであり、この鎮守府と呼ばれる基地では秘書艦なる役割にある最古参の
「大体いつも建造の様子を見せないアンタ達が見学を許したときから、妙だとは思っていたのよ。新しい試みに、こんなに資材を浪費して‥‥建造失敗なんて目も当てられないものね」
叢雲の肩に乗っていた、立派な口ひげを生やした妖精がブンブンと腕を振ってとんでもないと抗議した。
これは秘書艦である貴艦にしか許されぬことだ、名誉なことなのだと。妖精は喋らないが、なんとなく艦娘は彼ら彼女らの伝えたいことが理解できた。
ただ基本的に妖精とは気まぐれで能天気なものだから、なかなか円滑に意思の疎通が捗らない。
艦娘の着任には二通りある。出撃した海域で深海棲艦を倒した時に自然発生した者を見つける“ドロップ”と呼ばれるものと、こうして工廠で妖精達に資材を渡して行う“建造”がある。
その建造の具体的なやり方を、工廠妖精達は誰にも漏らさなかった。鎮守府の長である“提督”も立ち会うことができるのは建造の始まりと終わりだけ。建造の間は絶対に工廠へ誰も入れない。理由はさっぱり、「企業秘密」としか答えなかった。
「噂の“大型艦建造”、司令官も期待しているわ。失敗は建造の常だけど、出来れば盛大に成功させたいものね」
もちろんである、任せてくれ。次々と待機していた工廠妖精達が意気も高らかに拳を突き上げる。背後で待機していた、バーナーのような形の高速建造材を持った妖精達も親指を立ててアピール。この妖精達、ノリノリである。
今回の建造は普段の建造とは毛色が異なる。“大型艦建造”と呼ばれる新たに発明された建造方式だ。普段の建造よりも大量に資材を投入し、より強力な艦娘を建造する技術である。
深海棲艦との戦いは激化している。élite、flagshipなどの強力な敵艦に加え、姫級や鬼級と呼ばれるネームドシップの出現。強力な艦娘は喉から手が出るほど欲しい。
戦艦や空母の中でも最新鋭とされる艦娘のドロップ報告が上がっている中で、何とか意図的に彼女達を実装できないかと各鎮守府は躍起になっているのだ。
「数少ない高速建造材を全て使うのよ。比叡じゃあないけれど、気合い、入れて、建造しなさいよ」
合点承知だい。叢雲の号令に力こぶを作って応え、妖精達はすぐさま動き出した。
どこから掘り出してきたのか、埃をかぶっていた古文書に書かれていた通りの魔法陣。そしてありったけの資材を投入し、妖精達は呪文を唱え(るように口パクしたり踊ったり意味も分からず走り回ったりし)始める。
妖精達の手によって、適当に資材が積み重ねられたり、またぶちまけられたりしている。それはやがて大雑把に人のようなシルエットを作り、満を持して駆け寄ってきた高速建造材妖精が、勢い良くバーナーで資材に炎をぶちまけた。
「‥‥こんな適当に作られてたのかしら、みんな」
大型艦建造、というか高速建造材を使った建造のプロセスは通常とは違う。プロフェッショナルである我らが長い時間をかけて技術の粋を尽くして行う建造を無理やり短縮しているのだ。と班長妖精が偉そうに講釈を垂れる。
長くなりそうな話だったが、高速建造材を使った建造は直ぐに終わる。バーナーにかけられた資材は光を放ち、そのシルエットをさらに圧縮、やがて完全に人型の光と化し、そして――
「っ?! な、なによ何が起こったの?!」
――盛大に爆発した。
魔法陣の周りにいた妖精達がみんな車田飛びで吹っ飛ぶ。背後に「BOOOOOM!!」という擬音すら見える勢いで。
辺りには煙が立ち込め、艦娘たる叢雲の視力を以ってしても一寸先すら見えない。
「え? 失敗?! アンタ達あんだけ自信満々に大口叩いておいて――技術の進歩には失敗が付きもの、我々も憑き者って誰が上手いこと言えって言ったのよ!」
というか付喪神だったのかアンタ達。慌てた様子なく口髭を整える隊長妖精に叢雲が怒鳴る。
煙はまだ晴れない。散らばった妖精達も段々と集まってきた。おそるおそる魔法陣の中心の様子をうかがっている。普段の失敗では謎のぬいぐるみが出てくるが、勿論そのときはこんな爆発なんて起きはしない。
これは単純な失敗というだけではなくて始末書モノ、下手すれば軍法会議モノの事態なのではないか。責任とらせるために呼ばれたのか私は。
そんな少し絶望的な感覚に急かされ、煙の中を見通そうと叢雲が更に目を凝らした時だった。
「‥‥やれやれ、どうやら私は乱暴な召喚にばかり縁があるようだな」
煙の中から、男の声がした。
思わず一歩後ずさった。声に力があるとすれば、今まで聞いたどんな声よりも強い力を持っていた。歴戦の古強者である叢雲を自然と後ずさらせる程に。
妖精は喋らない。ここには妖精に許された自分以外に人影はなかった。じゃあこの声は誰が? 建造された艦娘が? この太い声、まさか女子のもの?
「いったい誰! 建造された艦娘なら、艦種と艦名を応えなさい!」
艤装はない。だが軍人として一通りの訓練は受けている。
叢雲は油断せずに腰に提げていた護身用の拳銃を煙の中へと向けた。妖精達も手に持ったバールのような何かやドライバーやら木槌やらで警戒している。
だんだんと煙が晴れてきた。シルエット、足下から順番に明かになる。今まで見たことのあるどんな大人よりも高い身長。頑丈そうなブーツにベルトが巻き付けられたズボン。炎のような真っ赤な外套、灰色の、刃の色をした鷹の目。
その鷹の目に射貫かれて、全員が更に一歩後ずさった。
「クッ、喚び出しておいて随分な言いようだな。ともあれ、これは両手を挙げておいた方がよさそうだ」
眉を片方上げ、皮肉げに唇を歪める。鼻で笑われたのに、怒るよりは安心した。
ひとまず、コイツが敵対することはなさそうだと。確信した圧倒的な戦力差を振るわれることはなさそうだと。
「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した。問おう、君が私のマスターかね?」
全く現実味のないような台詞に、むしろポカンとする叢雲以下工廠妖精達。
その様子にこちらも面食らったように少し目を見開く不審者。曰く、アーチャーのサーヴァント。
妖精達が大本営からの要望に応え、適当に気まぐれに面白がって考え出した大型艦建造。多分にオカルトが混ざって意味不明、絶対に成功するはずのないナニカに成り果てた儀式が“建造”した艦娘。
それは
かくして紅い弓兵は鎮守府に舞い降りたのであった。今回は幸運なことに、物理的にではなく。