アイドルマスターシンデレラガールズ~花屋の少女のファン1号~   作:メルセデス

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自分ではかなり執筆?が捗った方でありますが…相変わらず文章には自信がありません。

それでも見て頂けるなら幸いです。


第六話

夕方。

先生からの依頼事で学校から出るのが遅くなってしまった。断ることも出来たが、別に断る必要もなかったから引き受ける事にした。

…ここまで時間がかかるとは思わなかったけど。

今日、渋谷本人から聞いた話では、お菓子は中々に好評だったらしい。お菓子好きな仲間もいるらしいが、その人も納得する美味しさだったとか。毎日作っているわけでもないが、不評はないのでこちらとしては安心してるし嬉しいものだ。

現状だと簡単なのしか作れないから、もっとレパートリーを増やしても良いかもしれないが、持ってる本だとそんなに種類は載ってなかったはずだから、買いに行かないといけないな。………本屋に行くか。

 

 

今思えば、趣味と呼べる事が何もないため、お菓子作りというのは趣味にして良いかもしれない。ただ、自分で食べないから食べてくれる人が必要ではあるが。…しかし、こういうのは職業にしている人には失礼かもしれないが、男の俺がお菓子作りが趣味とはどうなんだろうか。朝のランニングは趣味というよりは日課だし、ゲームというのは問題がある気がするし、他に何があるかと言われると何もない気がする…。運動部に所属というのも考えたが、考えるだけで終わってしまった。なんだかんだで自分の時間が使えるというのは大事なことだと思うしな。

 

…さて、目的の本を買い外に出たところで電話に着信があった。

着信の相手は…渋谷の母親。用件としては、時間があったらお願いしたいことがあるとのことだ。特にこの後の予定を決めていたわけではなかったため、了承の返事をして現地に向かった。

「ハナコを散歩に連れて行って欲しいの…お願い出来る?」

と言うのが用件。店番で離れられないからとのことだ。いつも散歩をする渋谷は、例のバックダンサーの件で自主練してるらしい。で、代役を頼まれたのが俺ってわけだ。今日くらい散歩に行かなくても良いんじゃないかとは正直思ったが…口に出さなかった。了承したのは俺だし、反論することもないだろうしな。

 

 

散歩ルートは特に決まってはいないため、適当に歩いて帰って来れば良いらしい。とは言うものの、犬を散歩するなんて初めてなわけでどこを歩こうか迷ったのだが…学校へ行く道を歩き、帰りに公園に寄って帰ることにした。

特に何か事が起きるわけでもなく、(ハナコは大人しく散歩に付き合ってくれた)公園の入り口に差し掛かる。珍しく人の姿がない…と思ったが、端の方に激しく動いている姿が目に映った。動いているのではなく、ダンスの練習だと気づくのとそれが知ってる人物だと気づいたのは同時だった。ここで練習してたのか…。まぁ、距離的にも近いし無難だとは思う。こちらから見たら後ろ姿だから、渋谷は気づかない…かもしれなかったが、愛犬は彼女の方に行きたいらしい。さっきから腕が引っ張られている。俺としては練習の邪魔をしたくはないが…まぁ、ここでハナコの機嫌を損ねるのも良くないだろう。手綱から手を離すと、飼い主の元へ全力で走っていく。俺もゆっくりとハナコの後を追って歩きだした。

 

「ふーん、お母さんから頼まれたんだ」

そう言って渋谷がペットボトルの蓋を取り、中身を口にした。

現状、俺がどうして渋谷の愛犬を連れて行くのかの説明をしたところだ。少し怪しまれたが…どうやら信じてくれたようだ。まぁ、その気持ちがわからなくもないんだが…こっちとしては説明のしようがないから信じて貰うしかなかったんだ。最悪、渋谷の母親にも連絡しなければならなかったかも…と思ったが、そこまでの事態にならなくて良かった。

 

「でも他人のお母さんから頼まれるなんて、普通はないよね…」

「俺も頼まれるとは思ってなかったよ…むしろ、依頼されたことなんて初めてだ」

 

まぁ…他人の母親から飼い犬の散歩を頼まれることなんて、普通はないと思うがな。当の飼い犬は、飼い主の足元で大人しく座り込んでいる。幸せそうだな。そういえば、と渋谷が言葉を続けた

 

「お母さんと割と仲良いよね…何で?」

「この前みたいに花を買いに行ってるからだな。最低でも1ヶ月に一回は行ってるよ」

「変わった趣味してるよね…」

「まあ、趣味というか…何というか」

「何かはっきりしないね…」

 

…まぁ、隠しても良い事じゃないし、言っとくか。誤魔化すことも出来るだろうが、それはそれで後で面倒になったら嫌だしな。

 

「…亡くなった母親にお供えしてんだ。花が好きだったからな」

 

末期の癌だった。それに気づかないくらい母親は病気という言葉が似合わないくらい健康な母親だった。だからなのか、健康診断など受けたようなことは何も聞いたことがなかった。

 

「…ごめん」

「いや、気にしないでくれ。もう心の整理はついてるしな」

 

…いなくなった人を頼っても、願っても、戻って来るわけじゃない。

それがわかっていたからこそ、一番に母さんの使用していた物、部屋の整理をした。見るのが辛い、ということも当時はあったがそうしなければ受け入れられなかったかもしれなかったから。手伝った時もあったが、母親が当時やってた家事も本格的にやり始めたのはそこからだったか。

 

「…渋谷、一つ良いか?」

「…うん」

 

俯き加減で頷く渋谷。まぁ、こんな話をされたらどう接したら正解かわからないだろう。実際、正解なんてあるかわからないが、ここはこちらから希望を出すことにしよう。

 

「難しいかもしれないが…俺の母親のことは気にせず、今まで通り接してくれると助かる。あまり、気を使われたくないんだ」

 

個人それぞれだとは思うが…気を使われると接し辛くなる。あくまでも俺の個人的な意見だがな。同級生なら尚更だ、気兼ねなく接したい。渋谷は言葉ではなく、先ほどよりもしっかりと頷いたことで返事を返してくれた。これなら大丈夫だろう。

 

「…と、邪魔したな。そろそろハナコを連れて帰らないと」

 

渋谷達が行うバックダンサーの日まであまり時間がないし、話し込んでも悪いだろう。…しまったな。それならライブが終わった後にでも話すべきだったか。退屈そうに座っていたハナコのリードを掴むと、立ち上がった。

 

「私はもう少し練習してから帰るよ。ハナコをよろしくね」

「了解。頑張っても良いが、あんまり無理するなよ」

 

自分の愛犬の頭を撫でて、俺の目を見て、視線を外した後に準備体操を始める渋谷。俺は返事を返してハナコを家に連れて帰ることにした。

微笑、というのが正しいのか。ハナコを撫でたまま俺に向けられた表情。それがハナコだけに向けられたのか、俺にも向けられたのか定かではないが、今日の最後に見れた表情としては…まぁ悪くないかな。

渋谷の性格をはっきりと知ってるわけではないが…大丈夫だと思いたい。これが島村さんならまた話は別になるかもしれないが。

 

 

 

「助かったわ、ありがとね」

「別に良いですよ。今日は予定もなかったですし」

 

無事にハナコを渋谷家へと連れ帰り、渋谷の母親に報告。終始ハナコは止まることなく歩を進めていた。自分の家に帰るなり家の中に入っていったが。

 

「公園の方で練習してたとは思うけど、凛には会った?」

 

…誤魔化しても良いが、やめておこう。どうも見破られそうな気がする。というか誤魔化す意味がない。時間的にそろそろ店仕舞いの準備をしているのか、花の植えられた植木鉢を店の中に入れている。

 

「会いましたよ。あまり練習の邪魔しては悪いと思ったので少し話しただけですが」

 

正確に何分かとはわからないが、支障のないようした…とは思いたい。

 

「もしかして疑われなかった? 何でハナコを連れてるのかって」

「予想通りです。すっごい疑われました」

 

やっぱりそうよね、一旦手を止めて渋谷の母親はこちらを見てそう答えた。表情が楽しそうだ。きっと自分の娘が俺に向けている表情を想像しているのだろう。…俺としては誤解を解けるか不安だったんだが。

「まぁ、芳乃君の表情を見る限りその疑いも大丈夫だったみたいね。またお願いする時があるかもしれないから、その時はよろしくね」

「予定がなければ良いですよ。それじゃあ、作業のお邪魔してはいけないからこれで失礼します」

「あー、待って芳乃君。お礼に良いこと教えてあげるから」

 

自分の家に帰ろうとした矢作、呼び止められる。そして手招きをされている。嫌な予感しかしない…嫌な予感しかしないが、俺は近くまで寄った。俺の左耳に口を寄せて喋り出す。この距離なら俺にしか聞こえないだろう。

 

「凛の好きな物はチョコレートよ。今度、お菓子作るときの参考にしたらどう?」

「…何で俺がお菓子を作ってること知ってるんですか」

「そりゃあ凛の母親だもの。娘のことは把握してるわよ」

「………今後の参考にしときます。とだけ言っときます」

 

それでは、と言って頭を下げて帰り道に向かって歩き出す。しかし、渋谷の好きな物がチョコレートね。あの人のことだから嘘は吐いてないだろうが、どうするか。覚えておいて損はないだろうし、本当に参考にさせて貰うとしよう。参考にはなるかもしれないが、チョコレートと言っても甘いのが好きなのか苦いのが好きなのかわからない。もしかしたら両方好きなのかもしれないが…まぁ、今日作ると思ったお菓子には関係ない。ちなみに、今日作ろうと思った物はパウンドケーキだ。チョコレートとは関係ないのは仕方ないが、今日も納得してくれるように作ることに変わりないからな。…その前に自分の夕飯を考えよう。冷蔵庫の中に食材はあったはずだし、中身を見て考えるとするか。

 

 

 

 

翌日。予定通り作ったパウンドケーキを持参し、学校に登校した。

パウンドケーキ、と言っても切り分けて作っているので、入れ物自体はそこまで大きいのを用意せずに済むから持参するのにも邪魔にはならない。…まだ季節的には大丈夫かもだが、一応保冷剤を忍ばせてはある。念には念を入れてだ。ちなみに、いつも渋谷に渡す時は放課後になってから渡している。クラスの中で渡したり外で渡したりなど場所はバラバラではあるが、どちらかと言うと外の方が多い。クラスの中で渡した際に、「どういう関係なのか」「付き合っているのか」どうとかと男子女子入り乱れて言い寄られたことはあったが、事情を説明すると盛大に残念がられた。渡す人を同じ事務所仲間、というわけでなく友人と渋谷の母親に…ということにしたが。

「まぁ、芳乃ならありえそうだな」というのは当時の近藤の証言。

一応、渋谷にはその時のことは謝ったが「私も気にしてないから」とのことだった。

 

 

「今日は持って来てる?」

 

放課後になり、いざ渋谷に渡すために立ち上がろうとしたのだが…珍しく渋谷の方から話しかけて来た。いつもは俺から声を掛けるのだが今日は逆だ。もしかしたら声を掛けてきたのは初めてかもしれない。

 

「持って来てる。良くわかったな」

「………そろそろじゃないかなって思っただけ」

 

…本当にそう思っているのか、それとも昨日のことで気を使ってくれているのか判断がつかないが…問い詰めるべきじゃないだろうな。

問い詰めたところで、得があるわけでもなさそうだ。お菓子の入った袋を差し出すと、両手で下皿の形を作ったのでその上に乗せた。

 

「そういえば、リクエストみたいのってないか?」

「リクエスト?」

「作って欲しいお菓子とか。作れるかはわからないけど、そういうのあるのかなって」

 

自分で決めたのでもいいが、要望のあったお菓子の方が考える手間も省けるし、感想もより具体的な事を聞けそうだと思ったからだ。デメリットは好みの味にしないと味に否定の声が出てきそうなところか。

 

「今日、みんなに聞いてみるよ。多分あると思う」

 

受け取ったお菓子袋を通学鞄に入れ、自分の髪が肩にかかった部分を後ろになるように払いながら答える。

 

「じゃあ、渋谷のリクエストはあるか?」

「私の?」

「今思いついたらでいいから。何かあると今度渡す時はそれを作ってくるよ」

 

予想外の質問だったらしく彼女の目の開きが大きくなった。それから目線を逸らし、髪を触っている。彼女のアイドル仲間兼友人でもある島村さんや他のアイドル仲間達の要望があった場合、もちろん要望に合わせて作るが…目の前にそのアイドルであるクラスメイトがここにいるのだ。一番先に要望を聞いても悪くはないだろう。

 

「チョコレートを含んでるお菓子…とか?」

「含んでるお菓子…。チョコレートが好きなのか?」

「…まぁ、ね」

 

どうやら、渋谷の母親が言ったことは本当らしい。再度言うが、本当に疑ってはいないぞ。そして微妙に恥ずかしいのか視線は外したままである。なんか俺まで微妙に恥ずかしいな。

 

「………了解。ちょっと考えてみるよ」

「期待してる。感想は遠慮なく言うから覚悟してね?」

「前にも言った気はするが、お手柔らかにな」

「今日作ってくれた分から楽しみにしてるよ」

 

じゃあ、と言って彼女はレッスンに向かった。

お菓子を初めて渡した際に、前にも似たようなやり取りをした気がするが、その時よりも表情は笑顔に見える。…なんと言うか、やはり渋谷はアイドルに向いてるとは思う。あの公園で言ったことに嘘偽りはない。アイドル渋谷凛、彼女が人気になったら、その人気と同時に学校でも色々とあるかもしれないな。…実際、やはり受け入れられなくてやめてしまうこともあるかもしれないしどうなるかはわからないがな。

………なんにせよ、そのアイドルに要望されたのだ。下手な失敗はしたくないし、腕を磨くとしよう。これも良い経験…になるよな、多分。




いかがだったでしょうか? これにて城ヶ崎美嘉のバックダンサー編、アニメ第3話までは終了です。

続きはアニメでいうと数話進み、ニュージェネレーション解散の危機付近まで話がすすむところからと考えてます。お待ちくださいませ
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