アイドルマスターシンデレラガールズ~花屋の少女のファン1号~   作:メルセデス

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さて、今年もあと半月ほどになりました。
恐らくこれが年内最後の更新となります。
相変わらずの駄文ではありますが、楽しんで頂ければ幸いです。


第八話

週末の課題。その最後に手をつけ終わり、開いている冊子を閉じた。まだ休みの日が終わるまで余裕はあるものの、順調に消化をしていったお陰で余裕を持って終わらせることが出来た。…、消化してる間は外に出る時間も少なかったため、今からは日の光を浴びたい。朝の日課であるランニングだけはしていたので、外に出ていないわけではないのだが。少し遠出…というか街の方に行ってみてもいいかもしれない。普段は近所で物が揃ってしまうため行かないのだが、せっかくの夏休み、別のことをしても良いだろう。時間は善は急げ…とも言うし、準備に取り掛かるとしよう。

 

 

………さて、割と遠くまで来た。来たのはいいのだが…別に何か用事があって来たわけではない。なので、ウィンドウショッピング、という名の暇つぶしをしてみることにした。…高校生の男1人でそれはどうなんだという話ではあるが、じっとしていても仕方ないからな。

 

あの日以来、ニュージェネレーションズは立ち直ったらしく次のライブに向けてレッスンを重ねてるらしい。らしい、というのは実際のレッスンを見た事がないためその表現をしているが…実際は技術を磨いているのだろう。ちなみに、そう言った事を察する事が出来るのは島村さんのお陰である、というのもメールを送ってくれるのだ。今日はレッスンをしたとか、この予定があるとか、同じプロジェクトの仲間達等の写真付きで送ってきたりする。ある意味定期報告みたいなものだが、お菓子を食べた際は毎回コメントをくれたり、たまに要望も送ってきたりするので、こちらとしては次のお菓子作りの献立になるので願ったり叶ったりだ。ただ、今日に関して言うなら、次に作るものは決めてるし、材料も足りてるから買い足す必要はない。島村さんからは風邪が完治した直後に「凛ちゃんの彼氏さんだったんですか!?」とメールが届いたが、「クラスメイトです」とだけ返信しておいた。…恐らく、本田さんから詳しい事の次第を聞いたのだろうと推測はしてる。本田さんにはちゃんと否定はしたんだけどな…次に渋谷に会った時に嫌な顔をされなければ良いんだが。

 

色々な店を見ていく中で購入したものは、医薬品というよくわからないことになった。こんな場所まで来て医薬品を買うってのもどうなのかと思うが、最初から予定なんて決めていなかったようなものだ。家の必需品ではあるから、買って損はないだろう。むしろ、今まで家になかったんだよな…いや、風邪薬とかはあったんだが、外傷を治療するものがなかっただけで今まで必要としてなかったわけであるが…。そう思うと、良く怪我をしなかったものだ。毎朝のランニングもこけたことは一度もないし、そういうところは幸運なのかもしれない。

 

「…っと」

 

危なく目の前のしゃがんでいる人にぶつかりそうになる足を止める。しかし、こんな場所でわざわざ座り込んでいる理由はなんだ…と改めて見ると、帽子を被っていた。ただ、後ろから見ても金髪とわかるほど髪は長い。金髪の子が手に持っている携帯は、画面が割れていて電源がついていないのだが・・・どこかで落としたりでもしたのだろうか?

そして付き添い人なのか、近くに同じくらい背で金髪の子と同じような眼鏡をかけている黒茶色の髪の女の子と、背丈は恐らく俺よりも大きく、同じく帽子を被っている女性の3人だ。…デジャビュと言えばいいのか、見たことがある気がする。しかも一人だけじゃなく、全員だ。

 

「莉嘉ちゃん、大丈夫?」

 

黒茶色の髪の子が視線を同じ高さにするためにしゃがむ。足の方を見ているので、足に視線を向けると炎症を起こしていた…恐らく靴擦れか。しかし、りかちゃん、と言ったか。髪色の金髪でりか、ということは城ヶ崎莉嘉か。渋谷と同じアイドルで、カリスマアイドル城ヶ崎美嘉の妹。

・・・思い出したが、デジャビュの正体は島村さんから送られてきた写真だ。同じプロジェクトのメンバーの写真を送ってきたことがあるため、そこで見たことがあったのか。となると、背の高い方は諸星きらり、もう1人は赤城みりあか。

俺にとって彼女らは知り合いというほどではないし、向こうからすれば完全に知らない人だ。ちょうど仕組まれたみたいに新品の治療品があるし、声をかけても損はないだろう。

 

「靴擦れしてるな。ちょっと見せてくれるか?」

 

…なんと声を掛ければ良いか迷ったが、普通にすれば良い…はず。

中腰になりながら目線を下げ、怪我の状態を確認する。

 

「…えっと…」

「…お兄さん、誰?」

 

困惑する小さい2人。まぁ、そうなるよな。警戒されるのが普通の反応だろう。とりあえず新品だったため、箱を開けてから渡すかどうか考えたが、買った時についてきた袋毎そのまま赤城みりあに差し出す。

 

「この中に治療できる物が入ってるから、これで治療してあげると良い」

「みりあちゃん、貸して」

 

彼女がそれを受け取ると、諸星さんがそれを手に取る。…それはそうか、諸星さんに最初から渡せば良かったな。怪我人の治療をしていく中で、本人は多少染みるのか目を瞑るのが伺えた。あまり見て良い表情ではないし、長居するのも迷惑だろう。

 

「それはそのまま使って良いから。それじゃあ、俺は行くよ」

「お兄さん、ありがとう!」

 

立ち上がり、背を向けるとお礼の言葉が耳に届いた。恐らく、赤城みりあの声だろう。・・確かあの子は小学生だった気がする。俺があの子の年代だと、状況を理解してお礼など言えただろうか。そう思うと、凄く賢い子なのかもしれないな。しかしあの三人、考えれば身長の高低差があって凸凹だ。

 

「もう少し、背が伸びてくれればな・・・」

 

諸星さんを嫌ってるわけではないが、なんとなく話辛さを感じていたのは・・・彼女には失礼かもしれないが、俺が欲しかったものを持っていたからなのかもしれない。

 

 

 

「っ」

「あ、ごめん。アタシ急いでるから!」

 

それから5分も過ぎないうちにまたも人にぶつかりそうになる。今日はこういう日なのか、運が悪く感じる。今回はどちらかというと、相手の不注意ではあるのだが。人混みの多さも相まってか、その相手は走ることはせず、早歩きでどこかに向かおうとしていた。帽子を被り、眼鏡をかけている。・・・よく見れば、さっき見た帽子と眼鏡によく似ている。後ろ姿の髪の色が桃色だ。まさか、本物のカリスマギャルか? しかし、仕事で来ているなら、こんな人混みの多いところをわざわざ一人歩くこともしないだろう。・・・もしかして、探しに来たのか?

 

「城ヶ・・・」

 

後ろを振り返り、呼び止めようと思ったところで自分の発言を止める。浅はかだな、俺は。こんな人混みで名前を出したら、カリスマギャルの知名度だと大騒ぎになることは間違いない。少し気が引けるのだが・・・上手く人混みを避け、手を直接触らないように服の裾を掴む。

 

 

「え、なに!?」

 

・・・事は上手くいかず、思いっきり腕を掴む形になった。服の上からではあるが。急に腕を捕まれ、驚いたであろうカリスマギャル、城ヶ崎美嘉さんがこちらを向いた。

 

「悪い、突然腕を掴んで。貴方、妹さんを探してはいないですか?」

 

掴んだ腕を離し、自分よりも年上だったと思いながら、途中で敬語で話しかける。実年齢は知らないが、恐らくは年上だろう。

 

「莉嘉がどこにいるのか知ってるの!?」

 

とりあえず、本人の空似ではなく間違いなく本人だとは判明したのだが、よほど焦っているのか今度はこちらに迫ってきた。近い、顔が近い!

 

「落ち着け!何をそんなに慌ててるのか知らないが大事はない!」

「大事はないって何!?怪我してるの!?」

「あぁもう!俺の言い方が悪かったからとりあえず落ち着け!!」

 

いくら変装しているとはいえ、カリスマギャルと世間から呼ばれている相手に、ここまで詰め寄られるとこちらも焦る! 周りが何事かとこちらを見ているため、とりあえず頭を下げておいた。城ヶ崎美嘉も少しは落ち着いたらしく、少し距離を取っている。

 

「とりあえず、妹さんと別れたのは数分前です。それから、靴が合わなかったのか軽い靴擦れを起こしていたんだですが、それに関しては偶然治療品を持ってたので、諸星さんに渡して治療して貰ってます。ちなみに場所は、真っ直ぐ行ったところです」

 

渡した相手が違うが、治療していたのは諸星さんなのだから説明としてはこれで良いだろう。

言葉を聞き、一息吐く姉の方。改めて見るこちらの視線は、幾分か疑いが晴れたように思う。

 

「教えてくれてありがとう!」

 

これで合流出来るといいのだが。妹に会いに行くためにその方向に向かう姉。しかし、あそこまで心配される妹となると、姉妹の仲は良好のように思える。普通の姉妹がどうなのかは知らないが、姉妹でアイドルで仲が良いのなら、二人で歌って踊るステージも近いうちに見れるかだろう。

しかし、久しぶりに遠出してみれば、アイドル4人を見かけるような事態になるとは。普段であればありえないだろう。・・・とも思ったが、平日は同じクラスにアイドルが在籍しているし、また別のアイドルからメールが来たりしている。もしかしたら、俺はとんでもない境遇にいるのかもしれない。

そんな思考をしながら歩いていると、背後で大きな歓声が鳴り響いた。きっと、それがアイドル達によっての歓声なのだろうと思いつつ、俺は家に帰る道を歩き出した。

 

 

 

週は明け、1週間の始まりの曜日の登校。特に学校に行く際に憂鬱になることはなかったのだが、今日は人生で初めてかもしれないほど憂鬱だった。

・・・学生証がないのだ。

実のところ、学生証はバスに乗ったり電車に頻繁に乗ったりもしないもので、今ひとつ役に立った試しはないのだが、そんな学生証をなくしてしまった。財布の中に入れておいたはずなのだが、今日家を出る際に財布の中を見ると、学生証を入れておいたスペースが完全に空だった。

流石に学生証がないことを報告しないわけにもいかないため、今日は少し早めに登校しようと思い、家を出たのだ。もうすでに夏服になり、高校生になって初めての夏休みが近づいて来ている。そろそろ家のクーラーでも掃除をしようかと思い通学路を歩いていると、ここで見かけるには珍しい姿が見える。昨日会った4人の中にはいなかったが、その4人の所属する事務所と同じアイドルだ。こちらの視線に気づいたかのようにこちらを振り向く。

 

「おはよう、渋谷」

「・・・おはよう。忘れ物、渡しに来たよ」

 

一度、立ち止まり挨拶をする。友人でも待ってるのかと思ったが、どうやら俺に用があったらしい。向かう先は同じため、自然と横並びに並ぶ。しかし、忘れ物?何か渋谷に対して忘れ物があった記憶はないが・・・。

 

「これ」

「・・・おい、マジか」

 

と、短い言葉で渋谷のポケットから出されたのは、俺の学生証だった。自分の学生証など、貸す理由はないし、何故彼女が持ってるのかと思ったが・・・。

 

「袋の中に入ってたか・・・」

「正解。きらりが持ってた袋に絆創膏とかと一緒に入ってるからビックリしたよ」

 

知り合いの学生証が会ったことのないはずの人が持ってたら驚くだろうな。しかし、何で袋の中に入ってたかは謎だが。考えてもわからないだろうなこれ。

 

「芳乃ってこういう時に限って抜けてるよね・・・普段はそんなことないのに」

「そうそう完璧超人なんているか。俺は少なくともその類じゃない」

 

学校のテストでも1問だけ間違えていたり、数学の途中式の計算がよくわからないところでミスしてたりな。俺だって間違えたくて間違えてるわけではない。

 

「莉嘉達が、ありがとう、って言ってたよ。特に莉嘉とみりあちゃんは実際に会って作ってもらいたいお菓子があるって言ってたから」

「カリスマギャルの妹に会いたいって言って貰えるなら、それは光栄なことだな。・・・って、そこまで話したのか」

「卯月がね。卯月経由でまたメールが来るんじゃないかな」

 

実際、カリスマギャルの妹に会いたいって言って貰えるくらいなら、あの時の絆創膏と軟膏は無駄にならなかったってことだろう。むしろ、お金の価値だけで比べるくらいならお釣りが出るくらいだ。まぁ、実際会えるかどうかは別問題なわけだが。

 

「まぁ、とりあえずありがとうな。わざわざ持ってきてくれて」

「別に・・・これくらいはいいよ」

 

渋谷が持ってる学生証を受け取る。これで、心配事がなくなったため、嫌な気分のまま授業を受けずにすむ。しばらく歩き、もうすぐ学校が見えてくるところで、歩行者信号が赤に変わり、足が止まる。

 

「聞きたいことがあるんだけど」

 

すると、渋谷が不意に口を開いた。別に質問くらいなら前置きはいらないのだが、一体なんだろうか。

 

「なんだ?」

「・・・三人以外にも、美嘉にも会ったんだよね?」

「あぁ。三人と別れた後にな」

「その時、随分と焦ってたって聞いたんだけど」

「・・・焦ってたのはどちらかというと、向こうだと思うんだが」

 

というか、城ヶ崎さんとも会話するのか。やはり同じ事務所ということもあり、接する機会はあるんだろうな。

 

「年上だって知ってた割には、莉嘉のことを聞いた時に敬語も外れて顔も赤くなってたって言ってたから・・・」

「・・・待て、いや、否定はしないが・・・」

 

年上って知ってたってよく気づいたな・・・あぁ、妹さんの情報を伝えるときに敬語で話したからか。しかし、何故そんなことを城ヶ崎さんは渋谷に話したんだ。

 

「・・・仕方ないだろ。世間からカリスマギャルだって言われてるアイドルが、それこそ目の前にいたんだ。緊張はするし、焦りもする」

 

むしろ俺と同じ状況で緊張や焦りもしない人がいるのかどうか、ウチのクラスの男子でアンケートを取ってみたい。多分、結果は満場一致だ。

 

「・・・・・・・・・ふーん」

 

正直な意見を言ったつもりなのだが、渋谷本人はどうやら満足のいく答えではなかったらしい。信号が青になり、足を前に進める。・・・明らかに渋谷の歩く速さが加速している。

 

「・・・というか、ふーん、ってなんだ。質問に答えたのに明らかに興味ないみたいな反応だなおい」

「・・・別に、なんでもない」

「その反応見て、なんでもないって思えるわけが・・・って、おい待て!」

 

結局、渋谷はこの日は何を聞いても理由を答えてくれることはなかった。何が彼女の機嫌を損ねたのかはわからなかったが、とりあえず彼女の好きなチョコレートを存分に使ったお菓子を作って機嫌を直して貰うことにしよう。

 

もうすぐ高校生になり初めての大型連休の夏休みが始まるということもあり、渋谷達のアイドルとしての活動はより活発化するだろう。出演するステージの際はプロデューサーに頼んで席を用意するように頼んでみると、そう言っていた。夏休み中に、彼女たちのステージを現地で見る機会があるのかもしれない。現地で彼女が歌って、踊る姿を見て、俺はその時に何を思うのだろうか。・・・せめてその時には万全の状態で行けるように、大量に出されるであろう課題を、早めに済ませてしまおうと決意した。

 


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