アイドルマスターシンデレラガールズ~花屋の少女のファン1号~   作:メルセデス

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アニメで言うところの、1期最終回となります。


第9話

学校は既に夏休みに入り、夏真っ盛りでエアコンも扇風機も今が一番稼働期、というこの季節。

俺は夏休みに学校から指定された課題を全て終わらせていた。こういう時に普段の予習や復習がためになるし、日々の積み重ねは大事だと改めて思うことが出来た。毎朝のジョギングもこなしてはいるが・・・あまり気温が上がってると時に走るのは避けたいため、朝の起床時間をいつもより早く起きるようにして、涼しい時間帯に走るようにしている。夏休みに入る直前からこの試みを実施した・・・のだが、一つ問題があった。

いつも走った後にシャワーを浴び、学校がある期間はその後登校していたのだが、ある日、時間に余裕があると思い気が抜けたのか、二度寝をしたのだ。次に意識が覚醒して時計を見た瞬間、とりあえず着替えて学校まで全力で走ったのは記憶に新しい。シャワーを浴びたのが意味を成さないくらい汗をかきながら、教室の扉を開けた時には、先生が既に出席確認をしてる最中だった。

 

「芳乃がギリギリに登校してくるなんて珍しいな」

 

とクラス全員がこちらに注目している中で、代表者として発言したような感じだった。先生からは順番が来てなかったため、遅刻扱いにはされなかったが、せめて学校が終わるまでは普段通りの時間帯に行おうと決意した瞬間だった。その事の顛末を彼女に聞かれた際に、詳細を説明すると

 

「試みは良いはずなのに・・・。この前もそうだったけど、どこか抜けてるのが芳乃らしいよ」

 

と笑われがちに言われた。・・・別にいいのだが、バカにされている気がする。・・・別にいいのだが。

 

そんな彼女・・・渋谷凛の同じユニットの島村さんから以前連絡があったのだが、『346プロIDOLサマーフェスティバル』というのが開催され、そこにユニットとして出演するとのことだ。彼女達のユニット名であるニュージェネレーションを始め、以前に見かけた凸凹の三人の凸レーション、それにCANDY ISLAND、LOVE LAIKA、Rosenburg Engel、Asteriskと言った渋谷達の所属するプロジェクト全員と、城ヶ崎さんを含む先輩アイドルも何人か参加して行うとのこと。詳しいわけではないが、規模的には大きいのだと思う。彼女たちのプロデューサーが、その分のチケットを用意してくれたとのことだ。翌日がフェスなのを控え、用意して貰ったチケットを受け取りに向かっている。まだ日は昇っているが、あと1時間もすれば街灯が点灯しだす時間に、待ち合わせ場所の公園へと到着した。少し早めに来たが特に問題はないだろう。ちゃんと、渡すものも持ってきている。

 

「芳乃さん、こんばんは!」

「久しぶり、島村さん。渋谷も・・・まぁ、久しぶりに見た気はするな」

「確かに、学校では毎日顔を会わせるから、そんな感じはするね」

「芳乃さんと顔を会わせるのは久しぶりですけど・・・メールでやり取りをしているので、そこまで久しぶりに会うって気はしないです!」

 

数分後、二人で並んで到着した。レッスン終わりというのに、島村さんはこちらに笑顔を見せてくれる。この印象に残る笑顔を見るのも久しぶりだ。実際、島村さんに会うのは二ヵ月以上前だ。学校が一緒ではないし、こういう機会がなければ会うことも難しい。ただ、メールでは割とやり取りをしている。毎日というわけではないが、同じプロジェクトのメンバーのライブを見に行っただとか、お菓子のリクエストの連絡だったりとか・・・最近は合宿に行ったらしくその風景の写真付きで送信してきたくらいだ。そのお陰もあってか、彼女の所属するプロジェクトのメンバーの顔と名前は一致するようになっている。

 

「そんなにやり取りしてるの?」

「はい!その時あったことを思い出しながら送ってたら、楽しくなって。この前は電話もしたんですよ!」

 

夏休みの課題中に着信音が鳴って相手を確認せずに通話ボタンを押したら、島村さんの声がしたから、あの時はかなり驚いた。なんせ、「びっくりさせちゃいましたか?」、と電話越しで聞かれるくらいだ。内容は、送ってくるメールの内容と大差はないのだが。メールだと、こっちが返信して大体終わりなのだが、彼女の話に相槌をしながら、たまにこっちの話をするといつの間にか時間が過ぎていた、というのが島村さんの言う電話のことだ。

 

「俺としても必要な情報をくれるからな。助かってるんだよ」

「・・・そうなんだ」

 

島村さんとのメールのやり取り自体は、ただの報告と言うわけでもなく、彼女のその時思ったことも書いてくるものだから、内容を読んでいる俺も共感・・・というわけではないが、その当時の心境が伝わるため、こちらも楽しくなってくるのだ。

 

「・・・とりあえず、明日のチケット渡しとくよ」

「あぁ。プロデューサーにもお礼を言っておいてくれると助かる。それのお返しと言ってはなんだが・・・ほい」

 

渋谷からチケットを片手で受け取ると同時に、ラッピングした品物を差し出す。少々戸惑いながらも、渋谷はそれを受け取った。正確な人数を把握出来なかったため、少し多めに用意してあるのだ。

 

「今回は、袋が大きいね」

「出演者が何人いるかわからなかったからな。多く作って、一つ一つ袋詰めしてたら、大きくなったんだよ」

「これ、中身は何ですか?」

「マフィン。言ってしまえば、生地を作った後に中身を紙コップに流し込んで焼いたっていう単純な物」

「・・・相変わらず、女子力高いね」

「凛ちゃん、私もう既に負けてると思います・・・」

 

女子力が高いと言われると嬉しい気はしないのだが。男気があるとか言われた方がまだ嬉しい・・・と思う。実際、言われたことはないが。味見はしているので、美味しいかどうかについては問題ないだろう。二人が落ち込んでるのか感心してるのかは知らないが、補足説明だけはしておこう。

 

「シンデレラプロジェクトが13人だろう? 後は渋谷達の・・・先輩の方々になるのか。その方達が何人参加するかわからなかったから、その数も作っている。余ったら分けるなりプロデューサーに渡せばいい」

 

まぁ、女性にとってデザートは別腹、というのを聞くので食べきれるだろう。俺には縁のない言葉ではある。

実際に、夕飯を食べた後にお菓子作りを行い、味見のために試食を行ったらお腹を壊し、トイレに籠るという事象が起きたのだから間違いない。

 

ほどなく、用事が終わったということもあり解散ということになった。また連絡しますね!、と島村さんが帰り際に言って帰ったが、彼女のことなので明日のライブが終わってひと段落したら、またメールでも来るのかもしれない。それはそれで楽しみにしている自分がいるのだが。

 

「・・・あのさ」

 

島村さんとは別れたが、渋谷とは同じ方向のため自然と一緒になる。今思えば、渋谷と帰り道を共に歩いたことなんて、恐らく初めてだ。普段、彼女は放課後そのまま事務所に行っているのでこういう機会は遭遇したことはない。以前、登校を共にしたことがあったが、あれは渋谷が俺の学生証を渡しに来たという明確な要件があったからだ。

 

「・・・何か考え事してる?」

「あ、悪い。大したことじゃないんだがな。で、どうかしたか?」

 

どうやら渋谷は俺に話しかけたらしい。わざわざ顔を覗き込んでくるものだから、驚いて少しだけ早口になったような気がする。いつの間にか、彼女の家の前まで来ていたことに気付いた。それほどあの公園から距離はないのだが、思ったよりも考え込んでいたようだ。

 

「今更なんだけどさ・・・お互いの連絡先、知らないよね」

「・・・確かに」

 

言われてみれば、渋谷とはメールのやり取りや電話で話したりなどはしたことがない。今は長期休暇なので違うが、平日の学校で毎日顔を会わせていた。なので、毎日ではないにしろ、用があれば、俺も渋谷も互いに話し掛けていた。それで今まで特に困ったことはないので、そこに気付くこともなかった。

 

「そういえば、前にお母さんから言われてハナコの散歩を手伝った時って、どうやって頼まれたの?」

「あぁ、あの時は渋谷の母親から連絡があったからだな」

「・・・なんでお母さんが知ってるのかって思ったけど、花の関係?」

「そういうこと。事前に貰いに行くときは連絡するようにしてる」

 

突然言行っても問題はなさそうだけど、取りに行く前には一応連絡をするようにしている。まぁ、断られたことは1度もないのだが。夏休みの間にも行ったが、あの時は俺のほかにお客の人がいたので、用意して貰った花だけ受け取って帰ったな。・・・しかし、クラスメイトの番号を知らずにそのクラスメイトの母親の番号を知っているって、自分で言うのも何だが、特殊なケースな気がする。

 

「・・・俺の連絡先が必要になった場合は、渋谷の母親に聞けば・・・いや、流石にないな」

 

絶対に弄られる。彼女は間違いなく、俺も会った際に同じ目に高確率で遭うだろう。

 

「・・・あの時も相当問い詰められたんだから・・・」

「あの時?」

「・・・学生証。学校の中で渡すのは気が引けたから、もしかしてお母さんなら知ってるかもって思って、芳乃の家の方角を聞いたんだよ」

「だから俺の通学路で待ってたのか。・・・というか、その時点で俺の連絡先を知ってれば良かったんだな」

実際に渋谷の母親は来たことはないが、俺の家の場所まで知ってる。確か、以前に一度聞かれたことがあって伝えたことがある。・・・学生証を届けてもらう、なんてことは二度もあって欲しくはないが、渋谷に連絡先を伝えておいて損はないだろう。

 

「俺の番号とアドレス教えとくよ」

「いいの?」

「前回のようなことは稀だけど、今後連絡を取り合う必要がある時が来るかもしれない。それに、花を取りに行く時だって店の方に電話しなくても、渋谷のほうに連絡して伝えて貰ってもいいからな」

 

お店の電話に連絡するよりも、同じ家に住んでる人に伝えて貰ったほうが、わざわざ電話を取る手間もなくて良いはずだ。取りに行く日も、余裕を持って数日前に連絡すれば問題ないだろう。

 

「送ったけど、届いた?」

「大丈夫だ」

 

携帯に着信、メールが来たことを確認したので、彼女の連絡先を登録する。同級生の異性と連絡先を交換する機会はないな。少なくとも、高校に入学してからは二人目だ。一人目は島村さんである。

 

「・・・ちょっと話し込んだな。明日は本番なのに、悪かった」

「いいよ。元はと言えば、私が話題を振ったようなものだから」

 

今更だが、家の前で話し込む、いうのも悪いかもしれないな。今日は既に閉店しておりシャッターも閉まっているから、問題ないとは思うが。

 

「そうか。まぁ、メールでも電話でも何かあったら・・・というか、雑談でも何でも連絡してくれて良いからな」

「うん。私の方も別に連絡してくれて構わないから」

 

彼女はそう言っているが、俺から連絡するのは花の受け取りに関することだけだろう。島村さんに対してもそうだが、二人ともアイドルとしてだけでなく、学生としての生活もある、普段の勉強とかの妨げになるようなことでもないかもしれないが、こちらからの連絡は控えている。現に、島村さんに対しては返信しかしたことはない気がする。・・・そろそろ本当に帰ろう。

 

「じゃあな。明日は・・・怪我しないようにな」

「そんな気を遣わなくてもいいよ。でも、ありがとう」

 

頑張れ、とか、期待している、とかだと気負いするかと思ったが、悟られてしまった。まぁ、この渋谷の表情を見る限り大丈夫だろう。そんな確信を持って、俺は自宅へと足を向けた。

・・・後日、渋谷の母親から、自分の娘に連絡先を教えたことを弄られるのは、また別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の天気予報で雨という予報はなかった。朝、家を出る際に再度天気予報で確認したのでそれは間違いない。ただ。現状で雷雨に見舞われている状況は、ここにいるほとんどの人達が予想出来ていなかったのではないだろうか。

 

野外フェスの会場でそれは起こった。開催前から快晴で始まった。順調に進み、渋谷達と同じプロジェクトのメンバーである、ラブライカが歌い終わった直後だった。正確に言うのであればラブライカではなく、今回は編成を変えたのか、ラブライカのアナスタシアさんとRosenburg Engelの神崎蘭子の二人で、ラブライカのユニット曲であるMemoriesを歌い終わった直後だった。青空だった空が暗くなり、大雨が降り始め、雷まで鳴る始末だ。この状態で続行するはずもなく、一時中断となり観客のほとんどは屋根がある場所へ避難している。避難していないのは、雨合羽を着ている人と、折り畳み傘を準備していた俺くらいだろう。出歩く時に持参しているバックの中に折り畳み傘が入ってるのだ。用意しておくことに損はない、と言った理由ではあるが今回は役に立ったというわけだ。

 

通り雨らしく、雨はすぐに止まった。だが、瞬間的な雨量は多く、ステージ上には水捌けが必要だったのだろう。会場のスタッフの何人かが作業を行っている。恐らく、時間の都合の問題もあるかもしれないし、大幅な延期は出来ないかもしれないため、作業が終わればすぐにでも続きを行うだろう。その場合、避難している人達がすぐに戻って来るかどうかは微妙なところかもしれないが。

 

「こんにちはー!」

 

スタッフが舞台裏に下がり、数分後にステージ上から聞こえる三人の声。俺にとっては、全員面識があり、会話を交わしたこともある。

 

「ニュージェネレーションズです!!」

 

ステージ上に立つその姿は、緊張している様子は見受けられず、まだ観客が完全に戻りきっていないのに、表情は今から楽しみで仕方がないという表情だ。

 

「待っていて下さって、ありがとうございます!!」

「雨、大変だけど、盛り上がるように頑張ります!!」

「聞いてください!」

 

立て続けに彼女達が一言ずつ発していく。・・・俺が初めて見る、彼女達のステージが始まる。これは、間違いなく俺が見たかった光景である。

 

ただ、何故だろうか。きっと、俺から見ても彼女達から見ても、そう離れていない位置にいる。下手をすれば、俺がこの場所にいることに気付いているかもしれない。

 

「できたてEvo! Revo! Generation!!」

 

それなのに、渋谷を・・・彼女達をこれほどまでに遠く感じたのは、初めてだった。

 

 

 

 

 

 

終わった後は静かなものかと思ったが、そうでもない。一緒に来た人とその日の感想を言い合ったりしているのか、色々な角度から聞こえてくる。

 

クラスメイトのアイドルが出演している、野外フェス、346プロIDOLサマーフェスティバルは突然の雷雨があった以外は、無事に終了した。勿論、観客視点からの見た判断ではあるがそうだと思う。季節は夏真っ盛りだと言うのに、その暑さに負けないほど会場は盛り上がったと思う。俺自身はその熱狂に飲まれていたが、十分な高揚感を味わった。こんな経験は初めてではあるし、ライブでしか味わえないというのもあるのだろう。改めて、チケットを用意して貰ったプロデューサーを含め、渋谷や島村さんには感謝をしよう。

 

「凄かったなー…」

「ニュージェネの渋谷凛って子、同じ中学だったんだよね」

 

会場から離脱している途中、ふと聞き覚えのある名前が聞こえたため視線をそちらに向ける。

クルクルとウェーブのかかった髪を二つ結びしている後姿が視界に入る。その隣に、もう一人髪のボリュームが多いと見た目で分かる人は、友人だろう。そして、声と髪から判断するに異性だ。さすがに同性であのような髪を結んでいる人は見たことがない。そして彼女達もまた、渋谷凛のファンなのかもしれない。

ただ・・・あの二つ結びをしている、コロネみたいな髪型は覚えている。同じ学校ではなかったが、別の場所であったことがあるのだ。・・・こちらには気付いてないみたいだし、人混みがただでさえ多い状況だ。声を掛けて足を止めるのは、俺よりも後ろの人達に迷惑がかかるだろう。

 

「・・・しの?」

 

人混みが疎らになる前に、知っている声が、耳に届いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

家に帰り着いたところで、今日の夕飯の材料がなかったことに気付いたが、今日は作る気力もなかったため、水分を補給し、シャワーで汗を流してベッドに横になった。初めてのライブに参加して、慣れないこともあったのか体が疲れているのを改めて感じる。このまま、すぐにでも眠れそうだ。

 

「あれは間違いなく、北条加蓮だな」

 

誰もいない家で、独り言を呟いた。

顔を実際に見たわけではないが、本人で間違いないだろう。姿を見かけたのは、実に1年数ヵ月振りだ。

北条とは、病院で会ったことがある。母親が入院している時に同じ部屋だったので、最初は母親が彼女によく話しかけていた。彼女は元々、幼少の頃から体が弱かったらしく、体調を崩すと周りから過剰に心配されたそうだ。俺と知り合った時も、体調を崩しての入院だったと聞いていた。母親が食べるお菓子を作っていた時に、ついでだからと彼女の分も一緒に作っていった・・・というのが知り合うきっかけだ。元々彼女は数日間の入院予定だったので、予定通りに退院した。母親が亡くなったのはその後だ。しかし、今日の状態を見る限り、外で友人と歩き、言葉から察するにライブにも参加したのだから、体の状態は良いのだろう。もしかしたら、運動をして体力がついてきたのかもしれない。・・・今更ながら、声をかけてもよかったのではないかとも思ったが、あの時の気分はそうではなかった。

 

原因は、あのライブで間違いない。だが、今一つ、どうしてあのように感じてしまったのか理由はわからない。距離は表情が確認出来るほど近かった。それは間違いないはずなのに、果てしなく遠く感じた。距離の問題じゃないとして、何が俺にそう感じさせたのか。・・・一旦、落ち着こう。これはきっと今疲労している状態で考えたところで、答えは出ないし、無視しよう。それが逃げる行為だということは理解していたが、今は得策だと思っていた。

 

まだ長期期間の休みなため、明日も当然の如く休みである。一度は眠ろうと思ったが、甘い物が欲しくなったためココアを淹れて戻ってきたところで、メールを受信している殊に気付いた。

 

まだ起きてる?

 

確認すると、クラスメイトで花屋の娘のアイドルから来た初めてのメール。

それはこちらが寝ていないかの確認のメールだった。とりあえず寝てはいないので、起きている、と簡単な返信を返す。すると、すぐに今度は電話がかかってきた。・・・疲れてるはずなのに、何か用でもあったかと思いつつも通話ボタンを押した。

 

「・・・渋谷か?」

 

彼女の携帯から連絡が来たにも関わらず、確認を取る。別に疑っているわけではないが。

 

「・・・うん。夜遅くにごめん」

「それはいいが、何か用なのか?」

 

彼女の方がよほど疲れているだろう。俺は演者の姿を見ていただけだ。演者側は観客側の比ではないだろう。

 

「直接、聞きたいことがあったから。・・・今日、どうだった?」

 

なるほど。今日のライブの感想を直接聞きたかったらしい。島村さんから電話が来るかもとは思ったが、渋谷から来るのは予想外だった。

 

「楽しかった。ありがとな、貴重な体験をさせてもらって。プロデューサーにもお礼を言っておいてくれると助かる」

 

あの昂揚感を表す的確な言葉はこれが妥当だろう。他の言葉は恐らくいらないと思う。

 

「渋谷は・・・楽しかったか?」

 

良い機会だから聞いてみようと思った。数ヵ月前に突然始まったアイドル生活。時間が過ぎてここまできた。今、このような野外フェスを経験して、渋谷自身は楽しめているのか、それが気になった。答えは、聞かなくても大体は想像出来ているのだが、敢えて彼女の声で直接聞きたかった。

 

「楽しかった・・・かな」

 

俺が抱いた感情を全て伝えたわけではない。

あの感じたことを伝えたところで、彼女にとって意味はないだろうし、これは俺自身の問題だ。

それよりも、彼女から電話越しに聞こえた言葉が、貴重だと思ったのは気のせいではないだろう。

それが聞けただけでも、今日という日が良い日だったというのは間違いない。

 




如何でしたでしょうか? 暇つぶしにでも読んで頂けたのであれば幸いです。
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