各鎮守府に宝島の噂が流れている。やれ旧帝国海軍の秘密財産が眠る、一生使っても使いきれない資材がある、豊かな自然があり食料に困らなくなる、そういう島があると。しかしその島へたどり着くには気流、海流、ありとあらゆる『流れ』が乱れる嵐を抜けなければならない、そしてその島は今まで見たことないような深海棲艦が守っているという。
「ふあぁ~あ~」
私はその島で暮らす黒い髪、白い角を持つ一人の深海棲艦。かつては泊地棲鬼と人間に呼ばれていた。資材の魅力に魅いられて集めまくっていたらこんな島に流れ着き出られなくなった。しかしここは私にとって夢の島だ。湯水の如く鋼材燃料弾薬ボーキサイトを始めその他色々涌き出てくる。今までは他の深海棲艦を食って集めてきた資材がなんの苦労もなく手に入る。
「今日も、いい天気、向こうは、嵐だけど。」
基地型の私はこの夢の島を拠点にして鬼の時から発展し続けてきた。平和に何事もなく。運良く艦娘に会うこともなく。
「さて、今日は、どれぐらい沸いた、かしら。」
のっそりと巨体を動かし、島を巡る。結構な大きさの島だが、私の体では一週するのにそんなにかからない。楽でいい。あ、決して太っているわけではない。資材で肥えてはいるけれど。
「ふむ、今日は、オイルと、鋼材四千くらい、か。」
資材の数は五百万を越えたあたりで数えるのを止めた。まぁこの数も自分換算だから正式な数なんて知らないし、深海棲艦と呼ばれている我々と人間の数え方は違うだろうし、なんでもいいが。
「お、これは、怪我が治る、不思議な水、汲んでおこう。」
海岸で見られる海水が変異したと思う不思議な水、エメラルドグリーンで綺麗だ。艤装にげっぷが出るまで飲ませて蓄えておく。
「ふむ、暇だ。今日も何も起こらな・・・」
海岸から戻る時に見つけたそれは小さな小さな少女。手のひらで掬い上げてじっくりと観察する。煙突、艦橋、魚雷、高角砲・・・あぁこれは艦娘か。長い間見てなかったから艦娘だとすぐ気づかなかった。
「損傷して、いるのか、どう、しようか。」
暫く手のひらの艦娘を見つめた後、少し思い付いた。私は艦娘や人間に憎悪等無い。資材さえあればそれでいい。
「いい、だろう。直して、やろう。」
艤装の前に寄せて、飲ませたばかりの怪我が治る水を滝のように浴びせてみた。
「どれ、くらい、浴びせれば、いいのか、わからない、わ。」
「あぶぶぶぶ!?」
「お、起きた、か。」
「げっほげほげっほ!なに、なに!?何が起きたの!?」
「艦娘、大丈夫、か?」
「え・・・?ひぃぃ?!」
「燃料も、弾薬も、ある、ぞ。補給、する、?」
「あ、ぇ、ひ・・・?!」
この小さな艦娘は、言葉が不自由なのか?さっきは喋ってたのに。
「し、深海棲艦!?ど、どうして・・・」
「弾、と、燃料、ほら。」
ざらざらと弾薬とドラム缶を出して見た。怯えるばかりで手をつけない。ふむ。艦娘ならここはさっさと補給して私に砲を、向けるかと思ったが
「私は、敵意、ない。早く、補給、しなさい。」
「あ、あわわわわ・・・」
「あら、気絶、したのね。」
仕方ない。適当に葉っぱ敷き詰めて寝かせておきましょう。起きて落ち着いたらこの島の事を話してあげましょう。
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「ひゃあああ~!」
起きても、変わらなかった。艦娘とは思っているよりも情けないな。
「あなた、名前は、なに?」
「はぇ!?」
「名前は、なんだ、と聞いた、の。」
「あ、暁・・・」
「そう、アカツキ、あなたは、運が悪かったの、ね。この島からは、出られない、わ。」
「あ、貴方を倒せば!出られるわ!」
ほぉ勇ましいことだ。しかしそうじゃない。私を倒しても仕方がない。
「わわわ私を治した、ことを!こっここ後悔するのです!」
「私を、倒しても、無駄。あれを見て。」
「へっ?ちょっ!?」
アカツキを掴んで私の頭と同じ高さまで持って行くとさらに怖がって泣いていたが、そんなに泣いたりしていたら話が進まない。
「びゃあああーーー!!!じれーがーーーん!!!」
「泣くな。」
「ぴいっ!?」
「あの、雲の壁が、見えるか?」
「・・・!!!」
ぶんぶんと頭を振っているがこれは肯定でいいのか。まぁ見えてないわけないので進めよう。
「あれは嵐、それも特大の。気流も、海流も狂わせる嵐。普通は、入ったら、体をバラバラにさせる。強い、嵐。アカツキは、ぐちゃぐちゃの、海流を、上手く抜けてきた、と思う。」
「・・・!!」
こっちを見て頭を振る。なるほど、嵐を理解したか。じゃあ次は。
「ここ、嵐の目、ずっと晴れ。私も出れない。無理。私は、何もしない。資材があれば、それでいい。」
「・・・た、戦わないの?」
「戦ったら、資材、すごく減る、だろう?だから、戦わない。それに、アカツキ、は、ここで、初めて会った艦娘、よろしく。」
「・・・よ、よろしく。」
「閉じ込められた、仲間、だな。」
「は、はは、あはははー・・・」
「とりあえず、アカツキ、は、補給する、?」
「補給できるの?」
「燃料、弾薬、鋼材、いっぱいある、わ?」
艤装の口をあけてざらざらと資材を吐き出すと、アカツキは顔を青くしていた。フフ、怖いか?
「い、いっぱい、あるのね・・・」
「アカツキ、一人分、なら、余裕。」
大きな手でブイサイン。にしてもアカツキは小さいなぁ。まぁ話は出来るみたいだし、暫くはひまじゃなくなるか。
「えっと、貴方は、私を、艦娘を攻撃したりしないの?艦娘が憎くないの?」
「攻撃、は、しない。理由、は、さっき、言った。資材、が、減る。艦娘、は、たぶん、憎くない。それより、資材が、欲しい。」
「・・・と、とりあえず!停戦!停戦よ!暁は早く司令官のとこに帰らなきゃならないんだから!」
「だから、帰るの、は、無理。」
話を理解してないのか。意外とポンコツだな。アカツキ。
「どうする、アカツキ。今、ここで、出来ること、は、ない、わ。」
「そ、それは・・・どうしよう。」
こうして、艦娘と私の無人島生活が始まった。資材が集まれば私はそれでいい。アカツキは帰りたいらしいけどそれは無理だから、どうしたいのかわからない。まぁ、なんとかなるでしょ。
小ネタ
「ねぇー!どぉーしてそんなにおっきくなったのー?」
「まじめに、資材、を、集めてきた、から、かな?」