やはり俺の青春ラブコメがゲームなのは間違っている。   作:Lチキ

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彼とアルゴはこうして始まる。

 気まずい空気の中、長いような短い沈黙を果てた結果。というか普通に話し合った結果。彼女と俺との間にあったすれ違いは解消を見せた。

 

「いや~悪かったナ。てっきり俺は元ベータのアホが自暴自棄になってるものかと思っテ」

 

 テヘぺロ!と、まではいかないが「にゃはは」と反省の色が見えない笑い声を上げる。だが、世の理不尽にメスを入れる天才プロぼっち、人呼んでヒキタニハチマンにはそんなの通用しない。

 まぁ今回は仮にも命の恩人という事もあり不問に付すがな。あらやだ。なんかめっちゃエラそうだな俺。

 

「いや、むしろこっちの方があんたに助けられたんだし」

 

「ん、それじゃあお相子ってことだナ。それとあんたじゃなイ。おれっちの名前はアルゴ、情報屋のアルゴダ!」

 

 と言いながら自然に右手を突き出すアルゴ。一瞬なにこの手?金でもとるの?と思ったがよくよく考えてこれが握手である事に気付く。

 おいおい、あったばかりに異性に握手を求めるとかこいつはリア充かよ。

 本来存在する勘違いによる気まずさを自己紹介からの握手(友好の印)というフレンドリーコンボを決めてきやがる。

 

 しかも、相手側に不自然さを感じさせないように親近感の湧く笑顔を向けてくる。

 

「お、おう・・・よ、よろしくな」

 

 それに比べて俺はアレだな。なんか凄い不自然。言葉、笑顔、握手した手。どれもこれも不審者と間違われてもおかしくないレベル。

 

 くっ、ここまでコミ力に違いがあるとは!

 例えるなら猟銃持った農家のおっさんと宇宙の帝王くらいの差だ。戦闘力・・・たったの5・・・ゴミめ・・・とゴールデンフリーザとか絶望的な戦力差だ。

 

 俺のコミュ力がごみいちゃんである事は置いておき、彼女の自己紹介で聞きなれてるけどこのゲームでは聞きなれない言葉があった。

 

「ところで情報屋?」

 

「そ、このSAOのあらゆる情報を収集シ。対価に応じて提供シ。公理に叶えば拡散し場合によっては秘匿すル。ちなみにこの情報は10コルだゼ」

 

 八重歯がきらめく少女の笑顔は地味に可愛いものだった。最後の1文がなければさらに可愛いのに、誠に残念である。つーか金とんのかよ。

 

 しかし、このゲームにジョブチェンジ機能は存在しない。故にアルゴの言う情報屋とは正確には自称情報屋、もしくは情報屋(仮)であるという事か。俺は良く知らんがネットゲームで攻略サイトを非公式に作ってる奴も見方を変えれば情報屋だし、別に彼女のようなのがいてもおかしくはないのか。

 

「それとだ、名前を聞かれたらプレイヤーネームを言ったほうが身のためだゼ。ニュービーさん」

 

 俺がアルゴの事をあれやこれやと考えていると目の前の当人はそんな忠告をしてきた。

 現実に近いから忘れがちだがこの世界はゲームの中。それも分類的にはネットゲームであり本人の実名バレとかは確かに良くない。

 掲示板ではやたらと本人を特定してくる奴らも、ゲームの中では現実や本人に関する事に触れるのはマナー違反とされるし、郷に入っては郷に従えとも言うしここは素直に忠告を受け入れよう。ついでに釘もさしておこう。

 

「ああ分かった。忠告あんがとよ。それとだ…できれば名前は忘れてくれると助かる」

 

「心配しなくともそれはおれっちの商品じゃねえヨ」

 

 情報屋というイメージでは 噂話から裏の界隈の情報まで集めて人間が好きとか恥ずかしげもなく叫んじゃうような某池袋にいる感じの奴を想像してしまうが、アルゴはそういう感じではないらしいな。

 なかなか誠実な商売の様だ。

 

「さてと、そんじゃあおれっちはもう行くけどそっちは・・・ええと・・・」

 

「あー…ヤハタだ」

 

「ヤハタな・・・で、ヤハタはどうすル?近場の村までなら100コルで送ってやるゾ」

 

「金取るのかよ・・・」

 

 誠実であるが金に汚いなおい。

 

「もちろン!こっちも慈善活動じゃないからナ」

 

「はぁ・・・ホルンカまで頼む」

 

「毎度あリ!」

 

 なぜだろう。幻聴か何かか分からんが今一瞬チャリンという音が鳴った気がする。

 渋々とストレージから100コルを取りだしアルゴに渡す。折れた剣の変わりも買わなきゃいけないというのに地味に嫌な出費だ。ゲームの中で貧乏苦を味わうとか、これも全て茅場が悪い。おのれ茅場!

 

 

 

 さて、働かざる者食うべからずという慣用句がる。ようは働こうとしない者は、食べることもしてはならないという怠惰に対する戒めの言葉だ。働く意欲がないのなら食べる事、ましてや生きる事なんてするんじゃないというアンチニート、社畜をリスペクトしたような格言である。

 まったくもって正当だが、ゆとり世代にはキツイとしか言いようがない。

 

 仮にこの言葉通りの社会になると1年しない間にニートは全滅する事になるかもしれない。もし生き残る奴がいるならそれはニートじゃない。もしくは人間じゃない。

 ん?でもそれはむしろいい事なのか。政府の犬どもにこの事実を知られるとやばいな。でも、俺は別にニートじゃないし、将来の夢は専業主夫なので関係ないか。

  ッチ、政府の給料泥棒ども仕事しろよ。

 

 ただ、人は生きてるだけで尊いものだ。命の価値を尊さを何かに比べる事なんてできるはずがない。

 

「つまり、働かない事で人の価値は決まらない。生きてるだけで人は正義の味方である」

 

「屁理屈こねてないでさっさといくゾ」

 

 恐らく俺の人生でトップ10くらいに入るであろう名言を屁理屈と一蹴しやがった。

 つかつかと小さな歩幅で進むアルゴの背に醜悪な瞳を向け放つが、効果はないようだ。むしろ、見た目中学生くらいの女子にそんな眼差しを向ける目の濁った男とか社会的に俺への効果は抜群だ。雪ノ下がいたら速攻通報されるレベル。

 

「つーか情報屋の仕事の説明してるだけなのになんでそんなダメ人間専用の慣用句ができるんだヨ」

 

「誰がダメ人間だ。俺が駄目なんじゃなくて人間そのものが駄目なんだよ」

 

「心配すんナ。そんな事言ってる奴は間違いなくダメ人間ダ」

 

 にゃはははと笑うアルゴの笑みは屈託のない子供のように明るい。

 ただ1つ言っておこう。なんでもかんでも子供の様だと例えると、あたかもいい意味のように聞こえるが子供は加減を知らないぶん下手な大人より冷酷で惨忍な事とか平気でする。

 

 1人を取り囲んで数人で「しゃーざーい」コールだってするし、靴やカバンを投げ合い「比企谷菌バズーカ!」とかだってする。なんだよ比企谷菌バズーカってなんか強そう。でもランドセルとか投げたら普通に痛いからな。

 それで誰かの顔とかに当たり泣き出そうものなら、みんなして比企谷が悪いと再び「しゃーざーい」コールを開始する。何このデススパイラル。

 

 ちなみに、教師が見つけても「よし、2人とも同時に謝ろう!」とか言われちゃう。俺は純度100%の被害者のはずなのになんでだよ。しかも謝るのはいつも俺の方が最初。算数の小野崎マジ許さん。

 

 つまり、子供に使う無邪気とは邪気がない純真無垢なさまではなく。邪気がないのに邪悪な事を平然とやらかす奴らに対する皮肉を利かせた言葉である。

 

「とにかく、おれっちはベータ時代の記憶を頼りに一般プレイヤーでも分かるような攻略本を作ってるって事ダ」

 

「攻略本ね・・・そんなもんがあるとか知らんかった」

 

「そりゃあそうダ。何せまだ情報を集めてる最中だからナ。・・・遅くてもあと3日以内に第1弾を出す予定ダ」

 

「集めてるって・・・ベータ時代と今じゃ何か違うのか?」

 

 俺がそういうとアルゴは「へぇー」と意外そうに呟き説明を続けた。

 

「ああ今確認されてるだけでも少なくとも3つの変更点があっタ。モンスターのレベルが1違うとか、オブジェクトが変わってるとか些細なものだけど‥‥そんな些細な事でも命に関わるからナ」

 

 途中から俯き気味に項垂れるアルゴの横顔はフードにより見る事はできないが、その声から予想するのは容易だ。

 

「‥‥」

 

「‥‥ま、そんな訳ダ。もしよかったら見てみるカ」

 

 重い沈黙を流す様にアルゴはストレージからいくつかの紙の束を取り出した。

 沈黙や気まずさに対して抵抗感を感じる性分なのか、切り返しや話のそらし方が絶妙だ。不自然なほどに絶妙すぎる。

 

 なんだろう、明言できない違和感をしばしば感じる。その正体は分からないが多分気のせいではない。

 

 出された紙の束を受けとるとアルゴは「今回は特別タダにしてやるヨ」とどこか自慢げにない胸を張った。

 表紙に『アルゴの攻略本(見本版)』と飾り気のないフォントで書かれたそれをパラパラとめくっていくとそこには、初日に俺がキリトから習ったような基本的なソードスキルのやり方にモンスターのアルゴリズム、クエスト情報などがずらりと並んでいた。

 

「‥‥凄いな」

 

 それは意図したのではなく、単純で反射的についつい口から漏れた言葉だった。この攻略本はそれほどまでに魅力的だった。

 

「だロ?なんせこのおれっちの自信作だからナ!」 

 

 調子に乗っているような、天狗になっているような尊大な態度だがその自信も頷ける。ゲームの攻略本なんてポケモン以外のを見た記憶はないが、むしろそんな素人目線の俺だからこそ分かる凄さがある。

 情報の有無以前に全体を通して非常に見やすい。フィールド別に区分けされ、ほしい時に欲しい情報が見れる。なにを優先させるべきかを明確にし、それでいてある程度の自由度もある。

 もう、プロが作った物といって問題ないクオリティーだ。

 

「ああ、本当にすげぇよ。短時間によくこんなもん作れたな」

 

「お、おう。そうだろ‥‥」

 

 俺が素直な感想を述べるとアルゴは赤みのある頬を掻き、照れ臭そうに顔を背けた。

 

「‥‥照れんなよ。こっちまで恥かしいだろ」

 

「ば!べ、別に照れてねぇーし!・・・ただ、ちょっと意外だっただけダ。お前そんな素直に人を褒めれるんだナ。以外というか・・・なんか気持ち悪いゾ」

 

 あったばかりの奴に変な偏見を持たれる俺。いつも通りだな。普通で普遍的なありふれた日常だなこんちきしょう。

 というか、こいつは人の事をなんだと思っているんだ。

 

「別に他意はねぇよ・・・俺はただ思ったことを言っただけだ。気に障ったんなら謝るが」

 

「~~~~~~」

 

 花が綺麗なら綺麗というし、空が青かったら青いという。妹が可愛いと言うなら愛してると囁くし、戸塚が可愛ければ結婚を申し込む。そんな極々ありふれた感情を言葉に出すなんて普通の事だ。捻くれてる俺でもそういった慣性まで捻くれてるわけじゃない。

 

 なぜだかどの口がほざいているという声が聞こえるが幻聴だろう。そもそも口に出してないし。これモノローグだし、もしくは地の文。

 というかなぜアルゴは言葉無く悶絶してるんだ。

 

 まるで褒められる事に慣れてない少女の様だな。と、そこで気が付く。これが違和感の正体か。

 アルゴの言動はまんまリア充の理想形態のような感じだ。独特のイントネーションや1人称は個性的だが、話やすい朗らかな口調に、親しみをわきやすい屈託のない笑顔。距離を近づける過度になりすぎないスキンシップ、空気を読むスキルも合わせて俺の想像するリア充そのもの。

 そう、ぼっちが想像するリア充そのものだ。

 

 まるで由比ヶ浜の様に空気に敏感で、まるで葉山の様に周囲を調和しようとし、まるで雪ノ下陽乃の様に仮面を被っている。

 

 作られた虚像に、仮面をかぶせた要はただの演技。

 アルゴと言う少女はキャラクターを演じている。

 

 と言ってもあの陽乃さんと比べると仮面の強度はだいぶ低いようだがな。そろそろ悶えてるアルゴを正気に戻すか。

 じゃないと、ほら道わかんないし。

 

「おーい、次はどっち行けばいいんだ」

 

「!―――ゴホッ、次はみ、右だ。右の小路の方」

 

 まぁ、どうせ短い付き合いだ。他人のアレやこれやに首をツッコむ必要はないか。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 ホルンカの村入口。

 あれからしばらく歩くと見覚えのある道に出てさらに進むとホルンカの村まで戻ってこれた。

 

「ついたか・・・」

 

 安全地帯まで戻れた事に安堵の息を吐く。

 どうやら、手持ち無沙汰な武器でモンスターのいるフィールドを歩くというのは予想以上に俺の精神にダメージを与えていたようだ。

 

「お疲れさン。無事帰れてよかったナ」

 

「ああ・・・おかげさまでな」

 

「そういやヤハタは、この後クエスト続けるのカ?もしそうならこいつを言い値で売ってやるゾ」

 

 そういうアルゴの手の中には、緑色のピンボールほどの大きさのアイテムがある。それはあの窮地の場面で目にしたあの玉だ。思い出しただけでも顔を顰めるレベルの強烈な臭いを発生させるアイテム。

 

「臭い玉。リトルペネントなんかの視力を持たないモンスターに効果てきめんの道具ダ。もちろん普通のモンスターにも使えるゾ」

 

 あのクエストを続けるのならあっても問題ない、むしろ大分助かる部類のアイテムだ。仮にまた囲まれる事があっても今度は1人で逃げる事ができる。

 値段にもよりだが、1つか2つほしい所だが。

 

「遠慮しておく。それにあのクエストはリタイアするつもりだ」

 

「諦めるのカ?さっきも言ったけどドロップ率は低いが2,3人のパーティーでやれば割といけるゾ」

 

 今なら元ベータテスターも何人かあの近くにいるし、と続けるアルゴの言葉はそれなりに魅力的な話だ。

 

「生憎だがこちとら生粋のぼっちなんでな共同作業とか苦手なんだよ。それに折れた剣も買い換えないといけないしな。これ以上あのクエストに割く時間も金もねぇよ」

 

 が、それ以前の問題で答えはノー。

 ぶっちゃけた話、あれはもうトラウマになってるから例え時間と金があっても受けはしないだろう。

 1度抱えたトラウマはそう簡単に払拭できない。ソースは俺。俺の人生トラウマの連続だが逃げる事と目を背ける事は覚えてもトラウマを克服した事なんてない。

 

 が、そんな俺の内心とは裏腹にアルゴは哀れな物を見る様な憂いある表情でこちらを見てくる。

 

「お前、自分でぼっちとか言うなヨ。悲しい奴だな、なんならお姉さんが友達になってやろうカ?」

 

 同情、哀れみ、憐み、憂い。そんな言葉が合いそうな切ない視線だ。おいおいそんな視線向けられると俺のトラウマが刺激されちゃうだろ?

 むしろ、今このときに新たなトラウマができるまである。

 

「・・・おかまいなく。養われる気はあるが同情されるいわれはねぇよ」

 

「ふーん。お前やっぱり変わってるナ!」

 

 俺自身が普通と違う事は分かっているが少なくともにゃはははとかいう笑い声をしてる奴に言われたくはない。

 何より俺の変わってるはアレだ、英語で言うスペシャル的な意味合いだから。なんかうまく言えないが特別な感じがする奴だから。マジで。

 

「変わってるとか関係ねぇよ俺は俺だ。それに歌にもあるだろ、一人一人違う種を持つその花を咲かせることだけに一生懸命になればいいって。 

つまり、人間は生まれた時から1人で自分の事だけ頑張れば何とかなる」

 

「おフ・・・なんかカッコイイようなこと言ってるけど酷い内容だナ。その歌そんな悲しい感じの奴じゃないから。本当に良くそんなのでここまで生き残れたナ」

 

「自分の事だけ頑張れば何とかなるんだよ」

 

「もうそれはいいヨ!」

 

 元々たれ気味な瞳をさらに細めじとりとした眼差しを向けるアルゴ。しかし、今更そんな視線の1つや2つで動じる俺ではない。

 日夜雪ノ下の絶対零度の睨みを受けてきた俺にはこの程度ぬるいは!

 まぁ、利かないとは言ってないけどな。

 

「そんじゃこれからどうすんダ?メインの武器も壊れてるし買い換える金もないんだロ」

 

 効果はいまひとつの攻撃に地味に苦しんでる俺に更なる追加攻撃を加えるアルゴ。背けていた現実という名の重しを高層ビルから落とされたくらいのダメージを負った。

 

「‥‥」

 

「なんだ、なんも考えてないのカ?」

 

「ぐっ‥‥悔しいが、図星だ」

 

 そりゃね、少し考えれば分かるじゃないですか。愛用の曲刀は折れ、ここまで来るのに金を使い果たし、トラウマを負ったクエストを受けるのは不可能。さらに、これから先のあてなんてない。もうほとんど詰んでるよね。これ。

 

 ホルンカまで帰ってこれたけどこれからマジでどうするか。

 とりあえず先に進むのは無理そうだし一旦始まりの街まで戻るのが最善か‥‥俺は1人で無事に戻ることができるのだろうか。甚だ不安だ。

 

 と、途方に暮れながらも懸命に次を考える気丈な俺カッコイイをやっていると目の前の少女に目線が行った。あれ、意外と余裕があるな俺。

 

 自称であれど情報屋を名乗る彼女は、SAOの全て・・・とは言わないでもかなりの情報を有してる。もっとも、そのもとになっているのはベータ時代のもので正規版と変更があるらしいが、それでも彼女が情報通である事には違いない。

 

 少なくともあの攻略本(仮)を見る限りでは優秀な事も証明されてる。なら、今の俺に適切な、必要な情報も持ってる可能性は高く、何なら断言できる。

 

 金さえあればぜひともその情報を買いたいところだ。

 

「なんダ?・・・あ、もしかしてお姉さんの後姿に興奮でもしちゃったカ?」

 

 貧乏の苦しみにあえぎ、再三にわたる茅場に対して恨みつらみの呪詛を心の中で呟いていると、そんな俺の恨みがこもった視線に反応したアルゴは、ニヤリと頬を上げイタズラ好きの悪がきのような顔でそんな事をうそぶいた。

 

 生憎とこれは劣情ではない怨恨である。

 

「いや、流石にお前みたいなチンチクリン相手に・・・っ」

 

 いらぬ誤解が無いように訂正しようとすると、懐かしさすら感じる風切音が頬をかすった。

 

 下から覗く殺気に近い瞳と頬のすれすれに突き刺さる拳に軽く命の危険を感じた。

 

「おいハチ公、これはお姉さんからの有難い助言だ。女相手には言葉を選んだ方が身のためだぜ」

 

「お、オーケー・・・」

 

おいおいなんだこのクマを睨み殺すがごとし瞳は。ついつい英語が出ちゃうほどビビったじゃないか。

 

 ところでハチ公って俺の事?あらやだいつの間にあだ名で呼ばれる関係になったのかしら?あだ名というか蔑称の様にも聞こえるが、あの忠犬はいい奴なので違うと願いたい(希望的観測)。

 

「フン、次はねえゾ?」

 

「‥‥次というかすでにもうアウトだと思うんですけど」

 

「あん?」

 

「・・・なんでもないです」

 

 見るからに年下の女の子に睨まれドスの効いた声で震えあがる。そんな情けない高校生が俺じゃない事を切に祈る。しかし、祈りが叶わないという事はまどマギで証明されている。

 友達を求めた先輩はマミってしまい、好きな相手の夢を背負った少女はNTRれ、家族の幸せを保とうとした少女はホームレス生活。ループを果てまどかを助けたほむほむも叛逆しちゃうし、夢も希望もありはしない。

 

 つまり、情けない高校生とは俺である。証明完了。そして自爆。

 

「まぁ、お前が言いたい事は分かるゼ。クエストを失敗して武器もなくしタ。これからどうするかも分からない、って感じだロ?」

 

 ふむ、驚くほど正確に図星をついてくるな。一瞬北斗神拳でもくらったのかと思ったぜ。ひでぶ!?

 あ、これくらってますわ。

 

「で、情報屋のおれっちに『どうか御助言をくださいませアルゴ様~』と頼みたいけど金がないからそれもできなイ。そんな感じカ?」

 

「・・・アルゴ様以外の所は概ねそうだな」

 

 いやいや、俺はそんなへりくだる感じのキャラじゃないから。アイデンティティークライシスまったなし御免蒙る。

 ドラゴンの女の子が住みついたりするなら歓迎するけどな。

 

「なんだ、せっかくおれっちが無料で教えてやろうと思ったの二」

 

「この無知なるわたくしにどうか御助言をくださいませアルゴ様!」

 

「嘘だよアホ」

 

「なん・・・だと・・・」

 

 俺が90℃の角度で頭を下げると嘲笑うかのような無慈悲な言葉がかけられた。おのれ図ったな・・・!

 

「おまえプライドとかないのかヨ?」

 

「ハン、舐めるなよ。俺が本気を出せば土下座しながら靴舐めくらいできちゃう自信があるね。プライドの塊と言っても過言じゃないレベル」

 

「過言だロ。なんでプライドない事にプライドもってんだヨ・・・」

 

 憐れみを通り越しどこか達観したような顔のアルゴは一旦おいておこう。それにしてもまさかあれほど注意していた女に騙されるとは、何たる不覚。訓練されたプロぼっちのプライドに致命的なダメージが与えられた。

 ほら見ろおれってプライド高いだろ?

 

「まぁ冗談は置いといテ。金もなければあてもないどうしようもなく詰んでるハチ公にいい話があるんだが・・・どうする」

 

 上目遣い&小悪魔的な微笑みを持つアルゴ雰囲気に思わず一歩後ずさり、ごくりと喉が鳴る。

 今さっき騙されたばかりだと言うのに何を動揺してるんだ俺は。こんなのはさっきと同じで嘘だよ~んとからかわれてるだけだろうに。

 

 だが、彼女の纏う空気が先ほどと全く違う事に俺のレーダーは敏感に反応していた。

 少ない、それも0か1か位の可能性だがアルゴの言葉には嘘ではない何かが含まれている。

 まぁ、どっちにしろ今の俺は相当詰んでる状況なのだしこの誘いに乗るのが攻略に大きく繋がる。

 何より、女に騙されるのは俺の専売特許だ。

 首を縦に振る事で了承の意を伝えるとアルゴは心底性格の悪そうな明るい笑い声を上げくるりくるりと右足を軸に回転すると材木座が好みそうなかっこいいポーズを取り高らかに発言した。

 

「おれっちの仕事を手伝うってのはどうだ?」

 

 

 


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