巴マミ。黄色いツインテールがチャームポイントの、『妙齢の女性』と言う敬称をされ始めたアラサー女子。その自覚はあり、まだまだ私は若いと豪語するのが強がりだと言う事も自覚している。しかしそう言った指摘をすれば、間違いなく激昂するであろうヒステリーな一面もある。良識はちゃんとある。彼女がぼっち臭を漂わせるのは、その良識が毎度毎度空回るからである。
「昔、発狂した彼女に殺されかけた事もあるもの。それを考えれば随分と丸くなったんじゃないかしら。ただ未だに一人相撲が多いようで、見てて飽きないわね」
とは、彼女の友人である黒が似合う女性の談。その女性からすれば他にも、「厨二病を恥と自覚した」や、「お菓子を食べるのに戸惑うようになった」等と言う改善点が挙げられた。「そろそろあのあざとい髪型もなんとかして欲しいわね」とは、彼女が溜め息混じりに零した締めの発言である。
因みにこの話題は、マミの後輩である『百江なぎさ』が調べた事柄だった。なぎさはマミと仲が良く、ミーハーではあれ別段人のプライバシーを根掘り葉掘り聞き回る趣味は無い。態々マミの友人をあたって彼女の心象を調べたのには、ある理由があった。
殊は一週間程前に遡る。
なぎさは久しくしていた後輩から突然の連絡を受けた。その後輩はなぎさより随分と年下で、小学生の頃の後輩と言う、昔馴染みの人物にあたる。とは言え間に五年も挟んだ後輩であれば、呼び名も『ゆうきちゃん』と『なぎさお姉ちゃん』。ここ数年は連絡を全く取っておらず、連絡先さえ知らなかった。むしろ連絡を受けたと言うよりは、突然訪問してきたと言うべきだった。
しかしなぎさは天真爛漫ではあれ、小学生の頃の後輩が態々訪ねてくる程に人情味溢れる人物だ。それこそその後輩を家に上げ、茶菓子を挟んで親身になって話を聞いた。
「なぎさお姉ちゃん。この前ケーキ屋さんで巴マミさんって方とお話されてるのをお見かけしたんですが、仲が良かったりします?」
本題はそれだった。
「はい。マミさんとはとっても仲良しなのですよ?」
と、聞き返せば、まだ大学生の彼女は非常に言いづらそうに言葉を続けたと言う。
「私の後輩が、その……巴さんに凄く失礼な事をしたらしくって。どうしても謝りたいそうなんです。場を設けたいんですが、連絡とれませんか?」
その事自体はなぎさが二つ返事で快諾したのだが、当のゆうきはその後輩が迷惑をかけた相手がどんな人物かを知りたがった。それはあくまでも後輩を案じた心遣いの一端だったようだが、そこになぎさは鬼気迫るものを感じたと言う。
已む無くなぎさは自身が知りうるマミの話を並べていく。その話は「頼りになるお姉さん」だったり、「相談事には真面目に対応してくれた」だったり、自分の経験した事をある程度要約しつつも、彼女の心象を汚さないように注意したものばかりだった。当然、当のゆうきは心配する。
なぎさがマミの友人だから、彼女をある程度庇っているのではないかと、そう言った。
なぎさは不躾にそう言われ、仕方無いと肩を落としては、ならば自分が知りうる辛辣な発言の多いマミさんの友人のもとへご案内しましょうと相成り、偶々里帰りしてきていた鹿目ほむらのもとを訪れたのだった。
ゆうきは初対面の人物が知りたがっているとすれば、なぎさと同じ対応をするかもしれないと小陰に隠れ、彼女がほむらに聞いている姿をこっそり聞いていた。
そして、思わずいたたまれなくなった。むしろ巴マミが、どうしてここまで辛辣に言うような友人を友人としているのかとさえ思ったと言う。
戻ったなぎさが、「じゃあもう一人参考にしましょう」と、先導して今に至る。
訪れたのはゆうきも何度か訪れた事のあるスーパーマーケットだった。なぎさは惣菜コーナーへ行きましょうとゆうきの腕を引く。
そこに居たのは赤髪の女性だった。
「マミの印象? あたしよりなぎさの方が詳しいんじゃねえのか?」
「そこをなんとか聞かせて欲しいのです」
「それってマミの奴の自作自演じゃねえよな? あいつ人にどう思われてるかすんげえ気にするタイプだし」
「け、決してそんな事は無いのですよ?」
キリッとした目付きの女性。しかし呆れたように話す口振りとは裏腹に、人情味溢れるような姉御肌の雰囲気を感じずにいられない。商品棚に身を隠し、ゆうきは昼過ぎの喧騒が落ち着いた惣菜コーナーで立ち話に興じる二人を見守った。
「んー……。まあマミの印象つったらアレだろアレ。ちゅーにびょーとか言うやつ」
「……あぁ、はいです」
なぎさが少し肩を落としては、ひとつ頷く。赤髪の女性は気にした風もなく続けた。
「未だにあいつ『今の私輝いてるわ』とか思ってそうだしな。ゆまの教育に悪いからそろそろ関わるのも……」
赤髪の女性は苦虫を潰したような表情を浮かべて言葉尻を濁す。そこでなぎさが大慌てするかのように両手を振り上げた。
「き、杏子! マミさんは良い人ですよ!? どうしてそんな事を仰るのです?」
先輩の名誉を確認しにきて、まさかその先輩と絶交しようかと悩んでいると聞かされれば、それはそれは大慌てになるのも仕方ないだろう。しかしそんななぎさの立場を知った様子もなく、彼女は深々と溜め息を吐いた。
「あのなぁ……。絶交は流石に冗談だけど、マミの性格が教育に悪いのはよーく分かるだろ?」
「きょ、教育に悪いってどういう事ですか!?」
呆れたような女性は絶交こそ否定したが、しかし前言撤回とは相成らず。それを言及したなぎさの肩を掴み、うんざりしたような表情を浮かべた。
「……お前も気を付けろよ」
「え!? ええ!? 何をですか!?」
何故かゆうきには、赤髪の女性の口がとてもゆっくりと動いていくように見えた。
「体重」
そして無慈悲な宣告。
この時、ゆうきは確かに見た。
なぎさが凍り付いて、ぴしりとヒビが入ってしまった彫像と化したのを、確かに見た。……目の錯覚だとか、幻術魔法とか、そんなものだったと信じたい。
その後すぐ、赤髪の女性はパーマヘアーのおばさんに呼び立てられ、「あ、やべっ! またな!」と叫んで去って行ってしまった。
残されては、固まったように動かなくなっているなぎさのもとへ、ゆうきは急いだ。
「……な、なぎさお姉ちゃん?」
「…………」
しかし反応はない。
と、言うか目線が動かなければ、驚愕の表情を浮かべたまま微動だにしない。……唇だけが僅かに動いているが、何かをブツブツと言っているようだが――。
ワタシハフトッテナイ。ワタシハフトッテナイ。ワタシハフトッテナイ。ワタシハフトッテナイ。ワタシハフトッテナイ。ワタシハフトッテナイ。ワタシハフトッテナイ。ワタシハフトッテナイ。ワタシハフトッテナイ。ワタシハ――。
「ひぃぃっ!?」
思わずゆうきは背筋が凍り付くのを感じた。まるで呪詛のような彼女の発言に、心臓が鷲掴みにされたような錯覚を覚えた。
そしてゆうきの悲鳴を聞いてか、なぎさが動く。オイルが枯れてしまったぶりきのような音が聞こえてきそうな雰囲気の後、彼女はこちらを向いてポツリと溢す。
「……呑みに行きます。付き合って下さいです」
「わ、わたしみせいね――」
「未成年でも愚痴くらいは聞けますよね?」
にっこりと、悪魔のような微笑みを受け、ゆうきの首は縦に振る事しか出来なかった。
やがて連行された飲み屋でマミらしき人物を見かけたのだが、ゆうきには話し掛ける事が出来なかった。前回のワルプルギスの夜襲来より怖い相手が目の前に居たのと、もしもここにマミまでもが参入すれば……想像するより恐ろしい事になるだろうと思えた。
妙齢の女性の体重とは、何よりも触れてはならぬものなのだろう、きっと……。
帰ったら先ず、魔法少女仲間に伝えねば。
巴マミは中々残念な人で、関わると体重を気にしないといけなくなる。
……と。
※
「ぷはー。やっぱ花金は飲まなきゃね!」
先週のワルプルギスの夜襲来事件を乗り越え、無事に迎えられた次の花の金曜日。先週は宅飲みになってしまったが故、今日こそはと参じて少しながらの贅沢がてら居酒屋に来てみたマミ。
まさか近くに逃げ出した現役の魔法少女が、後輩の為と偽って自分の情報を収集し、挙げ句『関わらないでおこう』と相成っている等とは知る由もない。
今日もマミの中ではとても平和な見滝原なのだった。
「次の話はなるべく早く投稿します」
……とか言っていた私も居ましたね。
いやね、内容見てくれたら分かると思うのですが、マミさん全然活躍してないんですよね。タイトル詐欺になっちゃうんですよね。と言うか、マミさん最後に少し出てきただけですよね。
まあいっかと相成り、文章纏めてみました。はい。
オチについて、なぎさは体重を気にする様子は原作中無いのですが、あれ以上続けてマミさん登場と相成ると、ゆうきがティロ・フィナーレされそうなのでなぎさに泣いて頂きました。ゆうきは単なるその場凌ぎのオリキャラですので、別に重要人物ではありません。
気が向いたら続きます←
縦書き用に改稿しました。