今日は初登校だ…とはいえあまり気乗りしない。なぜならこれが10回目の転校になるからだ。正直この感覚は慣れすぎて、むしろ気持ち悪い。人生ここまで引っ越すことがあるのだろうか。俺は某絵師なのだが絵を描くつもりはさらさらない。しかも俺が望んで転校しているわけじゃない。親なんだ、親の仕事の都合で転校している、おそらくこれで日本一周など簡単にこなせるであろう。
そんなことを思いながら学校に向かっていた。運悪く踏切に引っかかってしまった。初日から不幸だな…電車が通り過ぎるのを待っていたが、次の瞬間思いもない光景が目に入ってきた。なんと踏切に中年のおじさんが胡坐をかいて座っていたのだ。俺はとにかく焦った。遮断機を超えようとするが、時すでに遅く右から電車が迫っていた。そして目の前を通過していった。朝から人の不幸を見る…それも初めて通る場所での自殺を見届けるなんて、俺は自分のことをとてつもないほど不幸に思った。遮断機が上がりまた重い足を一歩だし、学校へ向かおうとした。だけど通ろうとした踏切にはおじさんの死骸は見当たらず、むしろ轢かれたはずのおじさん胡坐で線路の上に座りが顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
学校の新学期が終わり、憂鬱な気持ちで帰り道を歩いていた。まさか、登校初日で挨拶途中に消しゴムを投げつけられるわ、罵倒されるわ、隣の席の子は無反応(これはどうでもいいや)の嵐でとても疲れた。今までの歓迎会では最悪だった。気付けば俺は朝の踏切まで歩いていた。あのおじさんはいるだろうか、電信柱から覗き込んだ。案の定おじさんは胡坐をかいて座っていた。そこを通る車は全く支障なく通行して、人も驚きの顔を見せない。パトカーが通りかかったので僕は止めに入った。パトカーの中の警官は少し不満げな顔で降りてきた。
警官は「なにかね?パトロールの邪魔をするなら話をしようか?」と言ってきたがそんな回答より別のことを聞いた。
「あの踏切のおじさんはなんなんですか?道路交通法とかなんかで捕まらないんですか!?」
これに対し警官は、「別に気にするものでもないんだけどなぁ…」といいパトカーに乗り込み行ってしまった。謎だ。謎すぎる。俺は今日からおじさんの観察日記をつけることにした。
初登校から、一週間がたち踏切おじさんも見慣れたとある土曜日の早朝、俺は隣町まで出かけようとしていた。バスに乗るという手段もあったのだが、なぜか、鉄道に身を任せたい気分になった。あのおじさんのせいだろうか、おじさんのいる踏切を通りながら思った…がなぜかおじさんがいない。まさか、出て行った?周辺を探すが何もない。やはり、ちゃんとした家があったのだろうか、と思ったとき信じられない光景を見てしまった。何と踏切の線路の下が開き、中にはそう、おじさんがいたのである。
(ーーーーー!?)呆然と立っている俺に対しておじさんはとぼけ顔。何に驚いているがわからないようだが、こんな光景見たら誰だって腰を抜かしてしまうであろう。これさえも警察は見逃しているのだろうか。俺は見て見ぬふりをして、踏切から出ようとした、がおじさんは僕の足をつかむものだから、俺は転んでしまい、中に引きずり込まれた。洗脳されてしまうのか・・・軽く走馬灯が見えた気がした。そうか…このおじさんと共に俺は人生を終えるんだな。が、ふと思い出す。そういえばこのおじさん、死なないんだ…
線路の下は真っ暗でうっすらおじさんの顔が見えるぐらいだった。やがて電車が上を通っていき、とてつもないほど轟音が響いた。そんなこと知らない俺は見事轟音に耳を持っていかれた。すごく耳が痛い。そしてしばらくの間、周りで何が起こっているのかわからなくなった。
数時間が経ち、耳がやっと回復したところでおじさんに線路下から出してもらった。そして、俺は一つの質問をする。
「おじさんはさ、なんでここにいつも待ち構えてるの…?」その質問を聞いたおじさんは慌てふためく。が、俺が持っていた携帯を見て指差してくる。そして、こちらに寄せるジェスチャーをする。「これを…貸せ?」おじさんは受け取ると、携帯に文字を打つ。いったい何を言ってくるのか…期待していた。
『お前さん、約束の時間過ぎてるんじゃないか?』
見せられた形態の文字は俺をだいぶ驚かせた。慌てて近くの駅に走りこんでいく。そのとき、携帯を返してもらっていないことを、俺は電車に乗ってから気づくのだった。