俺としおりんちゃんと時々おっぱい。   作:Shalck

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029 《Virgin Night》

 バクバクと鳴り止まない心臓を、どうか止めていただきたい。

 確かに寝るとは言ったさ。皆が寝る前には寝てやるって言ったさ。

 でも――寝れる訳無いだろ!

 俺の現状を説明してやろうか!?

 俺が二段ベッドの上の奥に寝ていて、それをしおりが抱きしめてきてるんだよ!

 動いたらふにっだよふにっ!

 しかもそれ以上動こうとすると、妙に艶かしい声を出しながらギュッと抱きしめてくるしもう何なの!?

 眠れるわけがないだろうが!

「タッ君……好きぃ……」

 寝言が聞こえてきた瞬間、俺の理性は吹き飛びそうになったけれどそれを耐える。

 頑張れ息子よ。後数時間の辛抱だ。

 ――数時間もこの状態を続けなきゃならないのかぁ。

「……ねぇタッ君、起きてるでしょ?」

「おはようしおり。いい朝だね」

 実はしおりが起きていたことに気がつきながらも、このことを隠すことによっていい感じのムードを作ろうとしていた多々です。

「大丈夫だよ。みゆきちはこの時間に絶対に起きてないから」

「流石は相部屋」

「ねぇタッ君。あたしに隠し事してるでしょ?」

 俺は少し和らいだ拘束のおかげで振り向くことができた。

 そこには――涙を溜めているしおりの姿があった。

 何故泣いているのかと聞きたくなったけれど、その答えは聞くまでもない。

 俺のせいだ。

「タッ君はどうしてあたしに隠し事をするの? 前にタッ君にあたしの過去も話した。それで約束したじゃん。二人でならダイジョーブだから、絶対に隠し事をしないって」

 真っ直ぐに俺を見て言うしおりに、俺は答えられなくなる。

 既に俺は、しおりの真実を知っている。

 自分のことを隠したくないからと、しおりが教えてくれたことだ。

 なのに俺は――しおりに隠し事をしている。

 いや、俺の存在の99%以上が隠し事で出来ていると言っても過言ではない。

「そんなにあたしには話せないことなの?」

 ここで頷けば、しおりは今後一切俺に隠し事のことを聞いてこないだろう。

 しおりはそう言う子だ。

「――ごめんしおり。俺隠し事してた」

 でもそれは俺が許せなかった。

 自分のせいで泣いてしまっている女の子を放って置けるほど、俺は悪い男になりきることは出来ない。

「実は、さ。この世界に俺の姉さんがいるかもしれないんだ」

「それって――」

「うん分かってる。ラジオを聞いているはずなのに俺のところに来ないってことは、多分いないか俺のことを恨んでいるってことなんだと思う。でも一般生徒が言うには、そんな生徒何処にもいないらしいんだよ」

 明らかにおかしい。

 この世界に七不思議が存在しているかわからないけれど、いないはずの生徒が現れると言う事態が起こるはずがない。

 なにせこの世界に来た時点で、この世界の生徒からは元々いた人物だと思われるのだから。

 ならばどうして――この世界にいないはずの姉が居るのか。

 それが問題だった。

「ねぇタッ君、こうは考えられない? ありえない可能性かもしれないけれど、この世界にいるのは何?」

 この世界にいる者。それを考えて俺は――止まった。

 しおりが出している可能性は0.001%とかそう言うレベルの話だ。

 だけれどもNOと言い切れない部分がある以上、否定することが出来ないのもまた事実だ。

「この世界にいるのは、NPC。そしてあたし達人間。更に天使。もう一つ、いるんじゃないかな?」

「――姉さんが神かもしれないってこと? 幾ら厨二病とは言えそれはありえないかもしれない」

 自ら私は神様とか言い出しちゃうようなレベルでは無い厨二病だったけれど、もしかするともしかするかも知れないという事実が俺の心を縛る。

「でも可能性が無いわけじゃない。NPCが感じられるけれど何者かわからない存在なんてそれこそ、神しかいないと思わない?」

 ありえないとは言い切れない。

 もしかすると天使がいるんだから悪魔もいるかもしれないけれど、そんなのはいるかわからない空想の産物だ。

 でも天使という存在がいて仕えている以上、いる可能性が最も高いのは神だ。

「あくまで可能性だからそこまで気にしないで」

「……いや可能性はある。もし神だとしたら、俺の存在がここにあるのもわかる」

 何らかの思考があって、俺はここに送られた。

 それも人間としてではなくNPCとしてここにいる。

 そんな新技が出来るのは神しかいないだろう。

「タッ君。一人で悩むよりもダイジョーブだった?」

「うん。ごめんねしおり。いつも迷惑ばっかりかけてるよね」

 ぎゅっと、俺を抱きしめる力が強くなった。

 もう目の前にしおりの顔があって色々押し付けられて割とマズイ状態です。

「そんあこと――あるね。迷惑ばっかりかけてくるし。流石はタッ君」

「いえいえそれほどでもありますってばー」

 二人で暫くしてからクスリと笑う。

 自分が本当にNPCなのかという疑問は、未だに尽きることなく俺の心にある。

 姉さんが本当に神なのかという疑問は、未だに尽きることなく俺の心にある。

 でもそれ以上に、しおりという巨大な存在が俺の心にはあるんだ。

 誰にも譲れない、今の俺のたった一人大切な人。

「タッ君ダイジョーブ?」

「ダイジョーブダイジョーブ。俺はやっぱりしおりがいないとダメだなぁ」

 更にしおりの大切さに気づかされたと思って、俺は自分からしおりを抱きしめた。

 互いに抱き合うようになっているから、誰かに見られたら結構危ないかも知れない。

「例え俺が消えたとしても、例えしおりが消えたとしても俺は必ず忘れない。しおりという大切な少女がいたことを絶対に忘れない」

 だってしおりは俺の最高のパートナーだから。

「愛してるよしおり」

「……あたしもだよタッ君」

 二人で抱きしめ合いながらそう言って、俺達は微笑み合う。

「ねぇタッ君……したい?」

 理性が吹き飛びそうになるその一言を告げられて、俺の動悸が非常に速くなるのを感じた。

 ヤバイ。ヤバ過ぎる。

 ここで童貞を捨てるのか俺は?

 ここで俺はチェリーから大人のボーイへとジョグレス進化をしていいのか!?

「――二人ともそう言う話は別の部屋でしてくれないかなぁ?」

「「え」」

 ジト目で登ってきていたみゆきちちゃんを見て、俺達は完全に止まっていた。

 と言うかジョグレス進化って合体進化って意味らしいから、卒業するのに一番合ってる言葉だよね。

 しかもこの世界は生命は生まれないので、避妊の必要は無いというご都合主義。

 あはははは――現実逃避はやめだ!

「い、いつから起きてたんすか?」

「ひさ子さんに頼まれて起きてた。多分しおりんが起きてて多々君を起こして暴走させようとするからって」

 読まれていただと……と呟いたしおりはさておき、これは結構マズイ状態ではないか?

 抱きしめ合っていて、しかも人の寝ている上でヤろうとしていたなんて……ねぇ?

「土下座したら許してくれますか?」

「許すと思う?」

 ピクピクと眉を動かしているみゆきちちゃんを見て、俺達は冷や汗が止まらない。

 みゆきちちゃんのものとは思えないほどの殺気が放たれているのを見て、俺はオワタと思った。

「二人共、外で寝てろ」

 拒否権なんて存在するわけがなかった。

「「イエッサー」」

 二人して廊下に出たら確実に見つかるので、外を一度見てからどうするのか決めた。

 取り敢えず教師がいることは理解したけれど、多分抜けるのは容易かな。

「――しおり。俺の部屋に行こうぜ!」

「おうさぁ!」

 俺はしおりをお姫様抱っこすると、そのまま飛び降りて着地する。

 俺が降り立った場所は教師の目の前で、唐突に落ちてきた俺を見て教師は目を開いている。

「お、お前――」

「ウルトラソウルッ!」

「へい!」

 教師の前で両手を叩いて猫だましを行ってから、すぐに走り出す。

 そして木の上へと走って登ると、そのまま自分の部屋のベッドの上に足をかけた。

 中を見ると――中にいた俺の相方と目があった。

「あ、雨野!? こんな時間に帰ってくるなんて珍しくないか!?」

 本郷君に中に入れてもらうと、しおりをゆっくりとベッドに座らせようとして――止まる。

 そこには何故か膨らんでいる俺のベッドがあった。

「オーケーオーケー」

 俺はペラリと布団を捲ると、そこには目を開いたままこちらを見ている教師の姿があった。

「よぉ」

「本郷君。君に頼むよ。この教師が俺のベッドに入って俺のケツを狙っていたという事実を――全校生徒に伝えるんだ!」

「そんなことはさせん!」

「残念だったなぁ! どうせ俺がラジオで全部話しちまうからなぁ!」

「タッ君! 君のケツはあたしが守る!」

 しおりが俺の前に立とうとするのを俺が止める。

「反省室に行きたい奴はどいつだー?」

「仕方がない。しおり、跳ぶよ」

「え?」

 俺はしおりを再び抱き抱えると、そのまま寮の部屋から飛び降りた。

 それを予想していなかった教師と本郷君は驚いたような顔をしていたけれど、そのまま降り立つと下にいた教師に対して笑みを浮かべる。

「お前行ったり来たり忙しい奴だなぁ!」

「でしょ? でも俺も色々忙しいんでね」

 教師が近づいてくるのを背後にジャンプしてから避けると、一気に走り出す。

 真夜中の追いかけっこって奴も割と楽しいなぁ。

 でもこれはある意味面倒だからっと。

「どこに逃げるのタッ君」

「取り敢えず教室だよね」

 俺は走ったまま校舎に入ると、急いで対天使作戦本部こと校長室へ入って鍵を閉めた。

 誰か入ってこようとしてもこれで安心だね。

「ふぅ。全く面倒な相手だぜ」

「あれ? いつもならタッ君あそこまで来たら捕まってるんじゃないの?」

「今日はしおりがいたし、明日はまさみちゃんの最後のライブだからね。こんなところで捕まる訳には行かなかったんだよ」

「……そうなんだ」

 理由を話して納得してもらうと、俺達はソファーに座ってコーヒーを飲みながら温まる。

「しおり。今回のライブは成功させなきゃならない。確かにこれは誘導の為のモノでもあるけれど、俺達にとってはそれ以上でもあるんだ」

「戦うんだね」

「たった一人でもいい。誰一人として教師は通さないし、天使ちゃんも通さない。生徒会も何もかもを、俺が止める」

「できると思うの?」

「やるしかないだろ」

 俺がそう言うとしおりは俺に微笑みかけた。

 つまりこれは無謀かつ現実味の無いありえない作戦なのかもしれない。

 ライブを成功させるなんてことは、本来のオペレーションに必要の無いものなのだから。

 でも――やりたいんだ俺は。

 大切な人の為に戦わせて欲しいんだ。

「タッ君のそう言うところが好きだよ。誰かの為に無我夢中になれるところが」

 にっこりと微笑みかけてきたしおりの表情に、俺は聖母マリア的なものを見た。

「じゃあ今日は明日タッ君が頑張れるように、好きなことをしていいよ」

 やっぱり俺の理性が弾けそうになったのだが、それをしてしまえばこの対天使作戦室が白濁室へと変わってしまうので頑張って抑えた。

「じゃあ膝枕してくれない?」

 そう言ってしおりの太ももに抱きついた俺は悪くない。

 そしてそのまま頭を撫でられて、俺は眠気に襲われる。

 まるで昔姉さんに撫でられていた時の様な感覚に、俺の体がふわりと浮かぶような感覚に陥った。

 あぁ、やっぱり守りたい。

 最後のライブを――まさみちゃんがいるガルデモのライブが成功することが、今の俺の一番の救いなのだから。

「必ず守るよしおり」

「ありがとうタッ君」

 俺はそのまま意識を落としていった。

 目が覚めた時に俺としおりの二人共寝ていて、入ってきたゆりちゃんに二人の愛の巣にされたと叫ばれるまで。

 




次回予告
「大切な人達が、ドンドン増えていって困るよ全く」
「貴様のことはよくわからん。僕からしてみれば、その行いはただの偽善だ」
「わかってるよ。お前がそう言う奴ってことくらい」
「いいのか日向。あいつ放っておいて」
「そうか。危なくなったらすぐに逃げろよ」
「多々さん。ゆりっぺさんからの伝言です。無茶はしないようにと」
「頑張ってください。応援しています」

「――皆の声を、俺にも届けてくれ」
第30話《Important People》
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