俺としおりんちゃんと時々おっぱい。   作:Shalck

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 あけおめことよろ!
 ほんと遅れてすみませんでした
 活動報告の通り頑張ります!



第8章 《晴れ時々豪雨~Clear sometimes heavy rain~》
059 《I want to help you》


 救いたい人がいる。

 助けたい人がいる。

 だから手を伸ばした。

 だから愛を知りたかった。

 きっと私は彼のことを愛していたのだろう。

 だけど愛しているという感情を知らなかったから、死んでから漸く気が付くことが出来た。

 知ることが出来た。

 あぁ、私は彼のことを愛していたのだと。

 こんな小さな思い出でさえも、私の心の奥底にずっと止まっているのだもの。

 なんで気が付かなかったのだろう。

 なんで気が付けないんだろう。

 救いたかったのに、助けたかったのに。

 私なんかの為にそんな思いをしてほしくなかったのに。

 この閉じられた世界から、救い出してあげたかっただけなのに。

 なんでこう、私はうまくいかないんだろう。

「悔しいな……。こんな思いをするなんて思わなかったよ」

 こんなんじゃ誰も救えない。

 だからこそ私はここにいるというのに、神様になってまで無力なのか私は。

 まぁ、無力だから神様になったのかもしれないけれど。

「でも今度こそ、救うよ多々」

 

 

 

 助けたかった人がいた。

 救いたかった人がいた。

 だから手を差し伸べた。

 だから愛を教えてあげたかった。

 きっと彼女は俺のことを愛してくれていたのだろう。

 だけど彼女は愛しているという感情を知らなかったから、死ぬまで気が付くことが無かったのだろう。

 悲しい最期だった。

 あぁ、俺は何故彼女を救いたかったのだろうと。

 思いは一つだったはずなのに、いつからその思いを失ってしまったのだろう。

 彼女を救いたいという思いしか無くなっていた。

 何故俺が彼女を救いたかったのかを、もう俺は思い出すことすらできない。

 なんでこう、俺はダメなんだろう。

「辛い……な。こんな思いをするなんて思ったことも無かったや」

 こんなんじゃ救いたい人も救えない。

 こんな世界に来たというのに、俺はまだ人が救えないのか。

「でも、今度こそ救って見せる。姉さん」

 

 

 

 仕組まれた学園祭。

 まさかの生徒会と戦線の全面戦争となってしまったのだけれど、俺にとってはまだありがたかったのかもしれない。

 生徒会側にいる姉さんと、正々堂々勝負する時が来るなんて思ってなかったから。

 俺にとって姉さんは、一度も戦ったことが無い相手だ。

 ゲームでの対戦も殆ど無いのは、俺がゲームを好きになった時には姉さんはゲームなんて出来ない状態だったし。

「いつもよりも燃えてるわね多々君」

「まぁね。相手に姉さんがいるとわかれば、それはちょっとテンションが上がるというか」

 俺と姉さんの関係を大体把握しているゆりちゃんにとって、まぁわからなくもないというのが事実だろう。

 そもそも本来ならば決着なんてつけれる筈もない、最初で最後の対決だ。

 死んだ後に決着をつけるというのも、中々な話だけれども。

「証拠はないのにいるとわかる……か。そんな関係は憧れるものね。私もそんな存在になりたかったなー」

 軽く言ってはいるけれど、ゆりちゃんもきっと重い何かを背負っているはずだ。

「なってるんじゃないかな? 案外そういう関係って、気が付いたらそうだったりするものだよ」

 そう。きっと姉さんと俺の関係は別に特別なものじゃない。

 大切な人と、言葉を交わさずとも通じる。

 親友や恋人とはそういうこともよくあったはずだ。

「なるほどね。なら私もそうだったのかもしれないわね」

 校長室に二人きり。

 エロゲのシチュエーションでありそうなこの状況に正直ドギドキしながらも、そんな雰囲気じゃないしそもそもそんなことしたらしおりに殺されてしまうし。

 この世界だと蘇るから本気で殺しにきそう。

「ところで多々君。貴方はどんな仮装をするつもりかしら?」

 不意の質問にちょっと言葉が詰まる。

「生徒会との勝負……とは言ったものの、正直なところ実質貴方と貴方のお姉さんとの勝負であることはわかっているわ。だから聞きたいの。貴方はなんの仮装をするの?」

 シリアスなのかシリアルなのかわからない表情でゆりちゃんが聞いてくるので、俺もネタで答えるべきか迷う。

「そりゃ勿論女装――」

「するのね?」

「――じゃないです。すみません。俺は学生服にするよ」

 どこの、とは聞かなかった。

 聞かれて困ることじゃなかったし、聞かれれば答えるつもりだったけれどもそれで黙ったということは凡そ察してくれたのだろう。

 学生服。その中でも白いブレザーは、俺の通っていた学校の制服だ。

 きっと姉さんも気が付くだろうし、俺も俺で決心がつく。

 こんな世界で、死んだ世界で姉さんと会えるなんて思ってなかったし、今でもどんな顔をして会えばいいのかわからない。

 でも会う。その決意の制服だ。

「貴方はまた一歩進もうとするのね」

「進まなきゃ、俺を信じてくれてる人たちに示しが付かないからね」

 

 

 

SIDE:しおり

 わかってはいた。

「やぁやぁ久しぶりだね我が妹よ」

「平然と私のことを妹扱いしてくるその心の広さには驚きますけど、唐突の登場はやめてくれませんか?」

 唐突に現れた人物の名前は、雨野悠。

 タッ君のお姉さんにして、この世界を作り上げた張本人。

「まぁどうせ妹になったところで子供の姿は見れないんだけどネ。君の様に可愛い妹が出来るなら大歓迎さ」

「え、えっと……」

 現在いるのは私の部屋。

 つまりみゆきちもいるんだけど、みゆきちはあっさりと登場したラスボスにおろおろとするばかりである。

 私も最初そうだったし。

「おや君も可愛いね。私は可愛い子は好きだよ。ベッドに連れ込んでいい?」

「ダメです」

「二股かな? この子にも実は気があるとか?」

「みゆきちは私のものです」

 この愛玩動物を誰が他の人に渡すかー!

 それよりもこの人がここに来た理由が一番気になるんだけど、きっとこの人に馬鹿正直に聞いたところで教えてくれないのは目に見えている。

 いやー、本当にこの人はラノベとかで出てくる胡散臭い敵役がすごい似合うなぁ!

「タッ君とは会えないんじゃなかったんですか?」

「会えないとも。きっと多々は会うつもりだろう? まぁ商品としてそれを用意してもよかったんだけれども、生憎私個人の力では何とも出来ないんだ」

 それではいくら何でもタッ君がかわいそうだ、とは言わなかった。

 この人も会いたくて会えないんだろうし。

「これ以上わからない話をしてもそこの可愛い女の子が困惑するだけだし、別の話をしよう」

 はぐらかされた。

「みゆきちちゃんと言ったね。黒幕のおねーさんに言いたいことはあるかい? 質問でもいいよ。今のお姉さんは気分がいいからね」

 みゆきちはそんなこと言われてもすぐに質問なんてできない。

 だからこそ私が他愛のない話で質問をするまでの時間を作るとしよう。

「悠さんは今何の役職してるんですか?」

「ん? あぁ生徒会顧問だよ。君達の敵って言ったほうが早いかもしれないけれどね」

 なんでこう毎回爆弾を突っ込んでくるんだろう。

 というかこの人まだ出てくるつもりなかったとか言ってなかったっけ?

 そんなことはもう関係ないとでも言いたいような状態だー。

「な、なんでこの部屋に?」

「それを考察させるのが私の仕事なんだけどね。君は初めて会ったから今回は優しく教えてあげよう」

 嘘つけ私の時は最初から考察させられたゾ。

「部屋に入るのに幾つ理由があるか。それは用事があったか、無いけどそこにいたかのどちらかに主に分けられる。今回の場合は前者だね」

「え、ぅ?」

「うむうむ。そのいきなり言われてわからないみたいな表情好きだよ。私は基本こんな話し方だからね。さてさて用事があるとしてそれはどんな用事なのか。それは四つに分けられる。即ち君に用があるか、妹に用があるか、二人に用事があるか、全員に用事があるかだ」

 まさに解説者。

 この悠さんという人物の話し方は、毎度毎度喋りたいことを全部一気に話す傾向があると思う。

 きっと話したくても話せない状況がずっと続いてたからだと思うけれど。

「今回は、しおりんに用があったんですか?」

「その通り! 賢い子は好きだよ。彼女への用があったからこの部屋に来た。それが紛れもない事実で、この部屋に来た理由そのものだ。だけれども君達が知りたいのはそれじゃない」

 来た理由。私達が知りたいその現実は、私への用が何だったのか。

「この世界は私が作った。それは変えようのない事実だ。だけれどもこの世界を終わらせることが出来るのは、私でも多々でもない。終わらせられるのは君達だけだ」

 そしてこの場所に来た理由は、告げられる。

「この世界を終わらせて欲しい。勿論、今すぐではないけれどね」

 あまりにも簡単に届いた願いは、私達の思い描いていたよりも酷く難しいものだった。

「え?」

「私、達が?」

「その通り。この世界には明確なクリア条件が存在している。だからそのクリア条件を探し出し、クリアするんだ。それが君達に頼める、最後の願いだ」

 あぁ、きっとこの人は本当にタッ君のお姉さんなんだと再度認識させられた。

 この人は自分なんてどうなったっていいんだ。

「本当、そっくりだなぁ……」

 思わず心の声が漏れてしまったのは、悪くなかったはずだ。

 この二人は本当に、自分が犠牲になる方法しか選べないんだろうか?

「んじゃそういうことだからよろしくねー!」

 あっさりと帰っていった悠さんを見送り、残された私とみゆきちはなんとも言えない表情になる。

「あれが、多々君のお姉さんなんだね」

「そうなんだけどね……。本当に不器用なところとか、すごいそっくりでしょ?」

「うん」

 私達の思いは変わらない。

 ガルデモはタッ君が救われるまで誰一人として欠けるつもりはない。

 ただちょっと追加されるだけだ。

「みゆきち。私は悠さんも救いたい」

「奇遇だねしおりん。私もそう思う」

 みゆきちを見て微笑む。

 こういうところが大好きだ。

「確かに私達は世界なんてよくわからないし、タッ君が抱えているものも、悠さんが抱えているものも何も肩代わりすることは出来ないし、その抱えてるものの大きさもわからない」

「だけどしおりん、私達にしか出来ないこともあるはずだよ。当事者だけじゃどうにもならない問題があることも、私達は知ってるしね」

 悲しそうに言うみゆきち。

 私達は当事者だったからこそ、外部の人達からの思いを意味が無いものだと決めつけていた。

 だけど違う。外部だからこそわかることがある。見えるものがある。

 それを気が付かせてくれたのは、他でもないみゆきちだ。

 今思えばなんで周りを頼らなかったんだろうと思うし、なんでこうも強く生きようとしてたんだろうと思う。

 強くなくたって良かったのに。

「やろうみゆきち」

「うん」

 救える範囲に手が届くかもしれないなら救って見せる。

 それが私を救ってくれたタッ君への、そのタッ君を救おうとしてくれた悠さんに出来る最高のことだから。

「でもどうするのしおりん。クリア方法なんてわかるの?」

「わかるよ。でもどうすればクリアできるかはわからない」

 それが一番の問題だった。

 私はクリア方法というかクリア条件を知っている。

 でも条件が意味わからない。

「タッ君を救う。それがこの世界のクリア条件」

「――なら簡単なんじゃないかなぁ?」

 みゆきちの言葉に絶句する。

「多々君を救う為には、まず悠さんを救わないといけないからね」

 思ってみれば簡単なことだ。

 タッ君が悠さんをこの世界に残したままにするわけがない。

 自分を犠牲にしてでも悠さんを救おうとするに違いない。

「悠さんとタッ君を救うことがこの世界のクリア条件なら、頑張るしかない!」

「でも悠さんを救う方法って、多々君を救うことなんだよね……」

 すごく……めんどくさいです。

 


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