時刻は深夜2時。理子との定時連絡の時間がきた。
まあ、使う通信機器は携帯である。
今回はドロボーが任務なのでコネクトの支援は無理だからな。
複数の人数が話せるサービスを利用して通話を開始する。
「みんな聞こえるか?」
「聞こえてる」
と、キンジ
「聞こえてるわ。理子、あたしの声はどう?」
「うっうー!トリプルおっけー!それじゃアリアから中間報告ヨロ!」
テンション高いな理子……夜型なんだな。
「理子。あんたの十字架はやはり地下の金庫にあるみたいよ。一度、小夜鳴先生が金庫に出入りするのを見たけど……青くてピアスみたいに小さな十字架よね?棚の上にあったわ」
「そう、それだよアリア」
「だが、地下にはいつも小夜鳴がいるから侵入しにくいぞ。どうする」
「だからこそのチームなんだよ、アリアとキーくんは。超・古典的な方法だけど「誘きだし」を使おう。先生と仲良くなれた二人が先生を地下から連れ出して、その隙に一人が十字架をゲットするの。具体的なステップは……」
と理子の説明が終わる。
「分かったユーユー?」
なぜ、俺が名指しされるかわからんが……
「ああ」
毛布を頭に被り小声で返す。
「あ、アリアそれと後一つ確認なんだけどね」
「何よ?」
少しだけ理子の言葉が沈む
「十字架と一瞬に何か横に置かれてなかった?」
「何かって……銃弾が一発ケースに入れられて置かれてたわ」
「口径は分かる?」
「45ACP弾よ。あたしも使ってるから多分、間違いないわ」
「おい、何の話してるんだ?」
キンジが会話に割り込む
「その銃弾に何かあるのか?それも理子のなのか?」
だとしたらおかしな話だ。
理子のワルサーと違うそな銃弾。
武偵弾か何かか?
「理子の宝物だよ。でも、十字架を優先して回収して」
会話が終わり電話を俺は切るときれたばかりの携帯を見ながら思った。
その銃弾何かあるな……
取り戻す必要があるな……
そのためにはこの泥棒作戦をなんとしても成功させないとな……
そう思いながら俺は目を閉じた。
夢を見た。
あのルーマニアの城の夢だ。
牢獄の鉄格子越しに少年は少女に話しかけてブラドを倒すと少年は宣言した。
少女は虚ろな目で少年を見て無理だよと言った。
「無理じゃない!僕は椎名の天才なんだ!理子ちゃんは必ず僕が助ける!師匠と合流できたらどんな相手にだって勝てるよ!」
ああ、これは俺の記憶だ……どうしようもないぐらい世間知らずのガキだった俺の……正義の味方は絶対に負けないと信じていたあの頃の……
「本当?」
少女……幼いぼろ布を纏う理子が言った。
「本当に助けてくれるの?私この城から逃げられるのブラドから解放してくれるの」
「うん、だって僕はヒーローだから!」
「ヒーロー?」
理子が何を言ってるか分からないというように首をかしげる。
「ヒーロー知らない?ヒーローはね。女の子を決して見捨てないんだ。だから、僕は世界一のヒーローになるんだ」
「じゃあ……は……の……ね」
理子が何かを言った。
瞬間、俺は目が覚めた。
体を起こして辺りを見回す。
「最低だな……俺……」
あの夢は記憶だ。
だが、今まで忘れていた記憶……
あんなことを言って俺は理子を見捨てたのか……
もし、今回ブラドを逮捕できなくてもいずれ、必ず逮捕してやる。
ローズマリー共々な。
決心を固めると俺は洗面所に向かった。
潜入10日目の夜、窓から雲間に満月が見えてる。
広い食堂で俺達は小夜鳴に夕食を出していた。
潜入捜査ってのは怪しまれないようにするのが基本だからな。
「山形牛の炭火串焼き、今日は柚子胡椒添えです
俺が作った料理をキンジが出している。最初はアリアに任せようとしたんだがアリアは理子との特訓でオムライスだけは作れるようになったが別のメニューはキッチンで爆発が起こったりとんでもない味のメニューが出たりと命が危ないので俺が担当することにしたのだ。
ちなみに、料理は古賀先輩に叩き込まれたのもあるが元々、ある程度は作れるので腕前はアリア以上ではあるのだ。ま、とはいえ古賀先輩に叩き込まれた料理もあまり意味を為さなかった。
なぜなら、小夜鳴は簡単な料理しか注文してこなかったのだ。
串焼き肉。
毎晩それでニンニクを使うなとか注意はあったが実に簡単な料理なのだ。
栄養は片寄るがまあ、正直この先生のことだしどうでもいいな。
料理を出したら食堂の片隅で立って指示を出すだけだ。
楽なバイトだな。
小夜鳴が選んでいた古い洋レコードが夜想曲を奏でている。
「フィーブッコロス」
ん?
月光に照らされ出された庭のバラ垣を見て気分良さそうに呟いた小夜鳴にアリアが何か外国語で話しかける。
「驚きましたね。語学が得意なんですか神崎さんは」
「昔、ヨーロッパで武偵をやってましたから必要だったんです。先生こそどうして……ルーマニアをご存知なんですか?」
「この館の主人が、ルーマニアのご出身なんですよ。私たちは、ルーマニア語でやりとりするんです」
といった小夜鳴は初めてアリアに興味を持ったように
「神崎さんは何ヵ国語できるんですか?」
「えっと。17か国語喋れます」
「フィーブッコロス!素晴らしい。もしかして、月島さんも数ヵ国語がしゃべれたりしますか?」
どうやら、女装してる俺は知的に見えるらしく小夜鳴が聞いてくる。
「私はアリアと違って頭が悪いので7ヶ国語しか喋れません。ルーマニア語も……申し訳ありません」
「いやいや、謝らないでください! 最近の女性は優秀な方が多い。遠山君はどうですか?」
「日本語だけです……」
劣等感を感じたのかキンジが小さく言った。
ま、アリアはともかく俺は我流で覚えたからな。
というか覚えないと死にかねない状況もあったから……
感謝はしてるけどな。
「しかし、神崎さんはぴったりですね」
「?」
「あの庭のバラは私が品種改良したもので17種類のバラの長所を集めた優良種なんです。まだ、名前だけが無かったんですがアリアにしましょう」
深紅のバラにいきなり自分の名前を命名されたアリア目を丸くした。
「フィーブッコロス。アリア。いい名前です。神崎さんのおかけで、しっくり来る名前をつけられた。フィー・フエリチート―アリア」
ワインで酔ったのか小夜鳴はご満悦だった。
面白くない……アリアを口説いてるわけではないんだがあの空気はなんとなく腹が立つな……
そういえば、小夜鳴は武偵高の女子生徒に手を出すとか噂があったな……
うぉーんと森から野犬か何かの遠吠えを聞きながら俺は小夜鳴の食事が終わるのを待つのだった。