目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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過去編です。

二回に一回くらいの頻度でできればと思ってます。

0話です。


過去編
0話 全ての運命に、偶然などないのだと思う。


あの日、世界が変わった。

 

 

 

その日は休日だった。だから昼まで寝るという普段のライフスタイルに合わせた行動(?)を取ろうとしていた。

だがその日はなぜかはわからないが全身が総毛立つような悪寒に常にさらされていたため寝ることもままならなかった。風邪かと思い熱を測ってみたが、特に熱はない。昔からこういうことはよくあったが、今日のは特に酷い。

 

訳もわからず部屋でゲームをしていたら、突如、空が暗くなった。そして轟音と爆音が遠くから聞こえてきた。

 

両親は社畜らしく休日出勤。家には小町だけ。

 

とにかくすぐに小町と一緒にリビングにいるようにした。テレビをつけると、現状がテレビに映し出され、それをキャスターが忙しなく状況を伝えている。

 

………なんだこれは。

 

映し出された風景は白いよくわからん化け物が街を闊歩し、そして人を襲っていた。自衛隊らしき人たちが銃やらなんやらの銃火器で応戦しているがまるで効いてる様子がない。

 

どこのSF映画だ。

 

顔を引攣らせながらそう言ったが、それが事実であることは自分もよくわかっている。

指定された地区の人は指定された場所に避難するようにテレビでは訴えかけている。そしてその地域に俺たちの場所も含まれていたが、どうしてもそこへは行ってはいけないような気がしてならない。何があってもそこへは行くな。そう俺の中のナニカが訴えかけてくる。

小町はすぐにそこへ行こうと言ったが、俺はその場から動かなかった。

 

いや、動けなかったというべきだろうか。

 

その訴えかけててくる本能のようなものが俺をここから動かそうとしない。小町にとにかくここから動かない方がいいと言うことを言い聞かせる。絶対に行ってはいけない。根拠はない。でも行ってはいけないんだと。

 

小町は昔から俺の勘が無駄にいい事を知っている。そのため俺のその言葉を割とすんなり受け入れて、お兄ちゃんを信じると言ってくれた。

 

それからテレビを見ながら両親からの連絡を待った。下手に動けない状況で、しかも俺の本能は避難するべきではないと言ってくる。当時俺らはケータイを持っていなかった。そのため両親が連絡してくるとしたら家の電話しかない。

その連絡を『ボーダー』と名乗る白い化け物ーー後に『ネイバー』と言われるーーを倒すことができる組織が現れ、騒動を終わらせるまでずっと待ち続けた。

 

 

そして最後まで電話がなることはなかった。

 

ーーー

 

両親が戻らないまま1日経った。

 

各地で犠牲者の確認のために自衛隊が派遣されており、騒動の爪痕は痛々しく残っている。

もう白い化け物がいないのはわかっていたため、両親を探しに行こうとした。

そこで自衛隊の人がうちに訪ねてきた。聞いたのは一つだけ。

 

『君たちが、比企谷八幡くんと比企谷小町ちゃんかい?』

 

そうですと答えると、その人は苦い顔をしながらついてきて欲しいと言われ、車に案内された。

本来ならこんな風に言われてほいほいついていくようなことはしない。だが直感的にこの人にはついて行ってもいいと思えた。というより、行かなければならないような気がしたのだ。

 

そしてこの時点で俺はこの後なにが待っているのかもなんとなく察してしまった。

 

 

連れてこられたのは市街地。周囲にはまだ犠牲者の運搬が済んでおらず痛々しく生々しい犠牲者の遺体が横たわったりして、それに縋って泣く人も多く見える。雨が降りながらも、それを気にかけるような余裕はない。

小町はまだわかっていないようだが、嫌なことに俺の直感はすでに事態に感づいていた。

 

案内されたところには、1組の男女の遺体があった。

言うまでもない、両親のものだ。

 

小町はそれを見た瞬間に声をあげて泣き出した。俺はそんな小町を抱きながらその受け入れがたい事実を少しづつ理解し、そして泣いた。いや、どうだろう。俺は泣いていたのだろうか。泣けたのだろうか。今となってはよく覚えていない。悲しいという感情はあった。それが俺の許容範囲を超えているのもわかった。

 

頬を流れるのが雨なのか涙なのかわからなかった。

 

 

その後はよく覚えていない。気づいたら避難所にいて、そこで綾辻一家とも再会した。

小町はまだ泣いており、とても話せるような状況ではなかった。俺は形上では持ち直し、普段通りの強がりをしてみせた。

多分、綾辻も、綾辻の両親も俺が無理して強がっているのは理解していただろう。俺自身完全に誤魔化せるなどと思ってはいなかったが、それでも他人に弱いところを見せられないひねくれ者の性分と両親がもういないという事実がそうさせた。

 

そしてその後は両親の葬儀やら遺産相続やらで色々あったが、そこは割愛させてもらう。俺自身、今より子供だったためあまりよく覚えていないとうより理解できてないことが多すぎたのだ。親戚が手伝ってくれたおかげでそこまで大変ではなかったし、その親戚に遺産が持っていかれたりもしなかった。

なにより両親の死を受け止めきれていなかったため、記憶がいまいち定かではない。

 

その後俺たちがどうするか色々問題があった。

初めは親戚の家に引き取られるという話もあったが、その親戚は大家族で経済的に2人の子供が急に転がり込んでこれるような状況ではなかった。別段両親と仲が険悪とかではなかったため、最初は無理して引き取ろうとしていたが、さすがに無理があったため泣く泣く断念した。

両親の両親、つまり俺らにとっての祖父母はどちらも他界していたため引き取る以前の問題だ。

 

結局孤児院やらなんやらに行くよりボーダーが家を失った人達用に安く買い取ったマンションに移住する方がいろいろと便利でなおかつ費用も安く済むということからマンションで二人暮らしになった。元の家は警戒区域に入ってしまっていたため退去せざるを得ない状況だ。他に選択肢はなかったと言ってもいい。

 

当然いきなりガキ2人がマンションで暮らすと言っても色々とわからないことも多々ある。そのため最初の一年くらいは綾辻の母親と綾辻本人がよく来て色々やってくれた。

 

後に知ったが、避難するように指示されたシェルターは襲われて避難していた人は半分以上が亡くなったらしい。

……俺の直感もバカにできないな。

 

 

 

そして2人暮らしに慣れる頃には一年が経ち、俺は中2に、そして小町は小6になっていた。

 

そして中2の冬ごろに俺は人生の分岐点を迎える。

 

 

ある日、テレビをつけると記者会見のようなものが映されていた。

それはあの日、ネイバーから街を守ったボーダーと呼ばれる組織のものだった。

 

「……もう一年か」

 

あの日から今この時まであっという間だった。

色々とやることが多く、慣れるために毎日必死だった。これを今まで母ちゃん1人でしかも仕事をしながらやってたとなると、母親というのは物凄い胆力がいるなと日々実感させられる。

今はボーダーから両親を亡くした子供に当てられる手当金を使って生きている。このマンションは子供2人で住むには十分過ぎる広さと利便性を兼ねているが、ボーダーが安く買い取り俺のように警戒区域内に家があった人達に格安で貸し出しているのだ。手当金は両親共に亡くなったため、家賃を差し引いても普通に生きて行くには十分過ぎるほどの金額が手元に残る。無論節約して必要な時に備えるというようにはしている。

 

だが今後のことを考えると、手当金だけでは些か心許ない。

今はいいにしてもいずれは大学に行ったりする。真っ当な教育を受けて来た身としては将来のことを考えて大学には行っておきたい。そしてそれは小町も同様だ。小町にはちゃんとした教育を受けさせてやりたい。そんな思いが俺にはあった。

 

だがそうなると何かしらして金を稼ぐ必要がある。奨学金という手もあるが、あれは社会に出た時既に借金をしているということだ。しかも割とバカにならない額で。

極力使いたくはないが、視野には入れておくべきだろう。そう考えながらボーダーの記者会見をぼんやり見ていた。

 

そして最後に広報としての宣伝だろうか。ボーダーの隊員を募集しているとのこと。給料もでるし、しかも俺のような中学生でもやる気があれば入れるのだとか。無論、選考は受けてそれに沿わなければ落ちるようだが。

 

「…………」

 

恐らく、その選考はなんらかの方法で素質を見るのだろう。

正直、素質といわれると自信はない。

自慢ではないが、俺は大体のことはある程度できる。あ、コミュニケーションとかは除くけどな。え?それ重要?ほっとけ。

だが逆に飛び抜けてできるようなことはない凡人だとも言えるのだ。そんな人間に素質を求められても自信はないのだ。

 

だが、なぜだろう。

 

やってみるだけやってみるかと、そんな気になった。

 

思い至ったが吉日という言葉がある。

俺は募集要項を取り寄せる方法をメモし始めた。

 

 

とりあえず応募したところ、割とすぐに試験を受けるように通知が来た。

そして試験を受けたのだが、これで本当にいいのかというくらい簡単なものでこれだと役立たずも入ってくるんじゃないかと思ったが多分そこらへんは俺の知らないようなとこでなにかしらやってるんだろうと勝手に解釈した。

 

そして、少しして合格者発表が掲示され、俺は無事合格した。

 

ーーー

 

入隊式当日

 

「………」

 

俺は本部のホールのようなとこに来ていた。

そこには俺と同じように多数の訓練生となる者が集まり、これからの自分に思いを馳せていた。

そんな中でもエリートぼっちである俺は端っこの方で始まるのを待っている。こんな空間でもさすがエリートぼっちと言うべきか、1人になれる。そもそも周囲の奴らは俺のことなんぞ認知していないかもしれない。

 

「………」

 

周りを見ても、俺と同じ(・・)眼をしてる奴はいない。いや、腐ってるって意味じゃないよ?俺みたいになにか確固たる意思を持ってる奴はいないって意味だよ?

俺は、今後俺たちが生きて行くに置いて不自由なく生きていけるようにするためにここに来た。そして現代社会において不自由なく生きて行くのに必要なものは?

 

金だ。

 

教育を受けるのにも、飯を食うのにも、なにをするにも金は必要なものだ。

それには今もらってるだけの補助金だけでは足りない。

だから俺はボーダーで強くなり、A級部隊に入る。A級になれば月々固定給が支給されるだけでなく、その他いろいろな仕事をこなすことによりプラスでボーナスが入る。他にもいろいろ融通が利くようになるだろう。

 

無論簡単になれるとは思っていない。血反吐吐きながらでもやる覚悟はある。

 

俺のために、そしてなにより残された家族である小町のために。

 

ーーー

 

入隊式はすぐに終わった。

本部長と名乗る人が挨拶したらすぐにテレビで見たことある人がボーダーのシステムについて説明を開始した。

どうやらポイントを4000まで貯めればそれでB級に昇格でき、防衛任務に就くことができるらしい。

 

「まずはB級になるとこから、か」

 

そういえば、綾辻はどうしてるのだろうか。

前のシーズンに俺より一足早くボーダーに入隊したはずだ。俺とは違いオペレーターとして志願したらしいが。

 

「………」

 

ここ最近、綾辻とは会っていない。

互いにいろいろと忙しかったのだ。俺は家のこと、綾辻はボーダー。会う時間は減ってしかるべきだ。

まぁ、この一年であいつとの関わりは戻っていたが、基本的にあいつとよく関わっていた時期は保育園までだ。

小学生になってからは、俺の自意識が芽生え始め、他のやつとズレた自意識をもつ俺はクラスとかでいじめられるようになった。もともと話すのが得意ではないことが拍車をかけ、俺はぼっちへの道を歩み始めた。

綾辻はそんなことないから、あいつを巻き込むのが嫌で綾辻と距離を置くようになった。そしてそれと同時に綾辻が同じ三門市内だが、少し離れて蓮乃辺の方面に引っ越したため余計関わりが減った。蓮乃辺に引っ越した理由は昔聞いたが忘れた。

 

「難関は、チーム組むとこだな」

 

自分にセンスがあるとはカケラも思わないが、愚直に努力していけばとりあえずB級になることはできるだろう。だがA級になるにはB級の時にチーム組んでそのチームがA級部隊に昇格する必要がある。

 

「まぁ、まずは上がるとこだよなぁ」

 

そんなこんな考えていると、気づいたら説明はとっくに終わっていた。

 

 

説明が終わり、狙撃手以外のメンバーが連れて来られたのは訓練所みたいなとこだった。

どうも、ここでいきなり実戦をさせるようだ。

 

「じゃあ各自、空いてるとこに入って始めてくれ!」

 

爽やかさん(嵐山)の声とともに周囲の奴らはトレーニングルームへ入っていった。無論全員分あるわけではないため順番という形になるが。

 

ーーー

 

しばらくいろんな奴の戦う様を見ていたが、やはりこの時点で才能の優劣が多少わかる。

倒すタイムが人それぞれ大きく差が出るのだ。早い奴は1分かからず倒すが、遅い奴はギリギリまで時間を使う。それでもタイムアップになるやつはいないが。

だがここで俺は妙なことに気づく。

俺が最初に選択したトリガーは『バイパー』と呼ばれ、自分で弾道を自由にセットできるトリガーだ。俺は『弾道自由とか強くね?』と思ったことと、そしてなにより俺の中の謎の本能のようなものがこれにすべきだと訴えてきたためバイパーを選択した。

ぼっちの俺の考えだ。どうせ少数派なのだろうと思った。

 

だが実際はどうだ。

 

バイパーを使うやつがあろうことか今まで1人も出て来ないのだ。

 

「いやなんでだよ」

 

俺はこんなとこでもぼっちなの?エリートぼっちはとうとう思考回路までぼっちになったの?弾道自由とか強くね?自動追尾のほうがみんな好きなの?

 

「どうかしたかい?」

 

そんな考えが近くにいた爽やかさんに伝わったのか、爽やかさんが声をかけてきた。

 

「…いや、俺が選択したバイパー使ってるやつが1人もいないなって、それで…」

「ああ、バイパーは割と最近できたトリガーでね。弾道を自由に設定できるっていう強みがあるけど、そのぶん扱いが難しいんだ。だから今期の新入隊員はバイパーを使おうとしないんだ」

「へぇ…」

「さぁ、あとは君だけだ。あそこ空いたから入ってはじめてくれ」

「………うす」

 

どーもあの人爽やかすぎて苦手だわ。リア充の一種だろうか。

そんな無駄思考を働かせながらトレーニングルームに入る。

 

今までの奴らを見てたところ、あの口の中の目みたいなやつが弱点のようでそこを撃ち抜かれたらやつらは即ダウンだ。ならばそこを狙えばいい。

とは言っても相手は動く。それにプログラムといえども自ら弱点を晒すような真似はしないだろう。

ならどうする?

弱点を撃ち抜きやすいとこに持ってくればいい。

 

「………」

 

仮入隊をしたことないやつはまずトリガーをどう扱うかのとこから始めるのだが、俺は必要なかった。最初からなんとなくやり方がわかり直感で全てできたからだ。

俺の希望したスタイルは射手(シューター)と呼ばれるスタイルで、弾丸を銃などにこめずそのまま放つスタイルだ。このスタイルの特徴は弾丸の速度、威力、射程を細かくいじれるところだ。その分銃手よりも射程が短いらしいが。

 

そしてバイパーは弾道を設定できる。

相手は鈍間。誘導は容易い。

 

『3号室、訓練開始』

 

アナウンスとともに敵が動く。

すぐに弾道を設定し、放つ。

右側から弾丸をぶち当てる。無論装甲が厚いこいつにその程度では破れない。

だが前の奴らのを見ていて威力が低くても当たるとほんの一瞬怯むのだ。普通そんなのわからないだろうが、それでもそれは十分な隙になる。

その怯んだ一瞬にあらかじめ弾道を設定したバイパーを放つ。

 

弱点の目を的確にぶち抜き相手を沈める。

 

「っし」

 

『き、記録……2.0秒』

 

さも当然かのようにやったが、俺は仮入隊もしていないし、そもそもトリガー自体今日初めて触った。なのにこんなにできるとか、俺の直感有能すぎ……?

 

そしてこの記録は、ボーダー歴代最高記録となったらしい。

 

訓練室を出るといろんなとこから羨望やら尊敬やら嫉妬やらいろんな視線を受ける。視線受けなれしてないぼっちからすれば胃が痛いことこの上ない。

 

その後すぐに爽やかさんが別のことをやるよう指示してくれたおかげであまり長く視線を受けることにはならなかったのが不幸中の幸いと言えるだろう。

 

 

 

「……へぇ、すごいな、あの子」

 

その中に全く別の視線があることに俺は気づかなかった。

 

 

その後、一通り訓練を受けた。

地形踏破訓練はまだ慣れてないため3位だったが、隠密行動訓練と探索訓練は一位だった。こんなとこでも俺は影の薄さを発揮していた。

 

そして最後にランク戦と呼ばれる模擬戦をやるためのブースに連れてこられた。

ここではどうやら互いに模擬戦を行いポイントを奪い合うということをやるらしい。そして今日の入隊説明はここまでらしい。

 

……ランク戦をやろうかとも思ったが、今日は視線を受けすぎて疲れたからちょっと本部内をうろついてから帰ろう。

 

そう考え俺は家に帰った。

 

 

 

 

「あれ?あの子いないな…」

 

数多くのC級隊員がブースにいる中、1人のB級隊員がランク戦ブースにいた。

その青年は白髪でどことなく落ち着いた優しげな雰囲気がある。

この隊員はある訓練生を探しに来たのだが、どうもその訓練生はすぐに視界から消えてしまう。身を隠すのがうまいのか、それとも単に彼の注意力が散漫なのか。

 

どちらにしても彼の目当ての訓練生はもうブースにはいなかった。

 

「…また来よう」

 

そういって青年はブースを去った。

 

 

入隊から一週間ほど経った。

 

俺のポイントは2000を超えた。

訓練にも真面目に出て、そこで高得点を取り続け、なおかつランク戦では今の所無敗。本気でやってたらもう少し高いポイントだったかもしれないが、小町に心配をかけないように1日5戦程度しかやらないようにしていたためポイントは2000にとどまっている。とはいっても現時点で俺より高いポイントを持ってる同期はいないのだが。

 

ランク戦をやって気づいたのが、自分より高いポイントのやつに勝った方がポイントをより多く奪えるし、逆に少ないポイントのやつに勝ってもあんまポイントはもらえない。負けた時はその逆になるってことだろう。というかこんなこと教わってないぞ。いや俺が聞いてなかっただけかもだけど。うん、多分俺が聞いてなかっただけだな。

 

そして戦い方も多少わかってきた。トリガーの扱いもだいぶコツを掴んできた。

 

「……でも、我流じゃ限度あるよな」

 

実際、多少のコツを掴むのにも一週間かかってる。俺自身才能があるかはわからないが、手探りでやって強くなるならさらに時間がかかるだろう。

少しでも早く強くなるには師匠となる存在が必要だ。だが俺は入隊したての訓練生だ。誰が強くて教え方がうまいかなんて知らないし知っててもその人に直接行くのはコミュ力が低い俺にはハードルが高い。

 

「……誰か紹介してくれればいいんだが」

 

ボーダーでの知り合い/Zeroな俺にそんな人を紹介してくれる人はいるはずがない。

やはり諦めて地道に努力していくか。

そう結論を出した直後、人影が視界に入る。

 

「君が比企谷八幡くん?」

 

名前を呼ばれて顔を上げると、そこには白髪の一つ二つ上かと思われる青年がいた。

 

「え、ああ、まぁ」

「よかった、やっと会えた」

「はぁ」

 

誰だこの人。隊服を見る限り多分B級の人だと思うが俺になんの用だろうか。

 

「最初の訓練、見てたんだけど君すごいね!」

「お、おう」

「僕がやったときは45秒だったんだよ。それなのに君はたったの二秒なんてすごい!それにあの新しいバイパーを初見であんなにうまく使いこなせるセンスに僕は感動したよ!」

 

なんかいきなり知らない人にべた褒めされたんすけど。

多分今の俺の顔は引き攣ってる。

 

そんな俺の内心を察したのか、その人は少し恥ずかしそうに頬をかいた。

 

「あーごめんね。急にこんなこと言って」

「いえ……」

「それと、自己紹介がまだだったね」

 

 

「僕は佐々木琲世。B級隊員だ。比企谷八幡くん、僕とチームを組んでくれないかな」

 

 

この出会いが俺のボーダーでの今後の人生を変えることを俺はまだ知らない。

 

 

 

 


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