目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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ものすごくお待たせして申し訳ありません。令呪使って自害します。

弟子入りです。


0-1話 人の全力は、時に思いもよらぬ方向へ行く。

佐々木琲世と名乗る高校生くらいの青年からチーム結成の誘いを受けたのは俺がボーダーに入ってから一週間ほどのことだった。

 

「…や、俺まだC級なんすけど」

「わかってるよ。君がB級に上がった時の話だよ」

「………」

 

A級を目指す以上、どこかでチームは組まなければならない。しかもコミュ力的に俺が自分からチームを組みに行くのはなかなかハードルが高いことも自覚しているため、この申し出は正直ありがたかった。

だがそれと同時にいくつか疑問点が生じる。

一つ、この青年はどの程度本気で今後ボーダーに所属するかだ。俺はA級を目指すが、この青年がB級止まりでも構わないと考えているならその認識の差はどこかで軋轢を生む。そしてその軋轢がせっかく組んだチームを解散させ、今後その人と気まずくなるなんてこともあり得る。

二つ、仮に本気でそう考えていたとしても俺と合うかがわからない。戦闘面でも人間面でも、だ。俺の戦闘スタイルはまだ確立していない。そのため前者は組んでからしかわからないが、人間面で合わなかったらもうそれはどうしよもない。人間面のことを考慮すると俺はこの青年と多少の時間を共にしてから考えた方がいいだろう。

三つ、なぜ俺をスカウトするのか。単に訓練の結果が良かったからというだけの理由かもしれないが、最初の訓練の結果なんぞのちにいくらでもひっくり返せるだろう。そのためスジがいいかどうかを見るだけのものだと俺は考えている。もし最初の訓練の結果だけで判断してるなら、それは少し浅慮が過ぎるだろう。

 

なんにしてもまずは俺をスカウトする理由を聞いてからだろう。

 

「いくつか、聞いてもいいですか?」

「いいよ。じゃあ場所を変えようか」

「うす」

 

ーーー

 

ラウンジ

 

「はい」

 

そう言って青年は缶コーヒーを渡してきた。

む、マッカンじゃない。

 

「あれ、コーヒーダメ?」

 

エスパーかこの人。

 

「いえ、コーヒーは好きです。ただマックスコーヒーが一番好きってだけなんで」

「ああ、マックスコーヒーね。あれ、僕も結構好きだな。勉強してる時とかなら糖分とカフェインの両方を同時に摂取できるしね」

 

なんと、まさかこの青年もマックス愛好家だったとは。これはもうチーム組むしかねーわ。

 

閑話休題

 

缶コーヒーのプルタブを開けて流し込む。いつも思うけど微糖コーヒーって全然微糖じゃないよな。思いっきり砂糖入れてるよな、絶対『微』の量じゃねーよな。

 

「じゃ、聞きたいこと聞いてくれていいよ」

 

青年もコーヒーを飲むと、本題を切り出してきた。

…あれ、この人名前なんだっけ。

 

「……じゃあ、まず……えっと、佐藤さん?」

「佐々木ね」

「すんません。佐々木さんはどの程度の気概でボーダーに所属してるんすか?」

「つまり?」

「俺はやる以上、本気でA級を目指してます。そのためにやれることは全部やるつもりです。

でも俺がA級を目指す以上、そのチームメイトにもそれを強いることになる。だから佐々木さんがもしA級になる気はないのなら俺はチーム組めません」

「なるほど。やるなら本気で、やる気ねー奴と組む気はない、と」

「まぁ、そうっすね」

 

割と歯に衣着せない言い方するなこの人。

 

「僕もね、A級になるためにボーダーに入ったんだ」

「そうなんすか?」

「うん。まぁもっと言えば強くなりたい。それだけなんだ。だからそのために研鑽を怠るつもりはない。常に上を目指す」

 

……思ってたより本気なんだな。雰囲気ほんわかしてるからもうちょっと緩いのかと思ってた。

俺との単純な相性は……まぁそれは聞いても仕方ねーか。

 

「佐々木さんのポジションは?」

「僕は攻撃手(アタッカー)。メインは弧月でサブにスコーピオンを入れてる」

「…ポイントは?」

「8051。一応マスタークラスだよ」

 

お?知らない言葉が出てきたぞ?なにマスタークラスって。師範代的な感じか?

 

「マスタークラスってなんすか」

「あぁ、さすがにまだ知らないよね。マスタークラスっていうのは、その武器におけるポイントが8000を超えた証かな。実際にボーダーからなにか支給されたりするわけじゃないけど、一つの基準として存在するボーダーラインだよ。B級には真面目にやってればいつかはなれるけど、マスタークラスには多少素質がいる……って言われてる」

 

となると、佐々木さんには多少なりとも素質があるってことか。

 

「これ以上ポイントあげるのはなかなか難しくてね。なにしろまだボーダーの最高ポイントが10000いかないくらいだから」

「へぇ……」

 

ポイントは高くなるほど上げづらくなるのはどうやら正隊員になっても同じようだ。

 

「で、まだある?」

「あーじゃあ最後に、なんで俺をスカウトしたんすか?」

「というと?」

「まぁ、正確にいうなら俺の『なにを』見てスカウトしたのかが知りたいですね」

 

結局知りたいのはそこだ。

訓練の結果や現在のポイントという数値のみを見て俺をスカウトしたというなら正直あまり信用できない。色々と考えた結果、俺をスカウトしたというなら組んでも大丈夫そうだと思う。

多分年上であろう人に対してすごい上からな思考回路だと我ながら思うが、俺の今後の人生に大きく関わる可能性のある選択だ。だからこちらとしても細心の注意を払って選択する必要があるのだ。

 

「そうだねー、理由の1番としては新しいトリガーの『バイパー』を使ってるとこかな」

「?」

「バイパーって、弾道を自由に設定できるでしょ?まぁ、作った人本人は弾道を予め設定したものを撃つっていうことを想定してたんだ。でも君は、その弾道を『撃つ前に』設定して撃ち、それがなおかつ正確無比なものだった。で、それを見て僕は思ったんだ。『これはやりようによってはかなり強力な連携ができるんじゃないか』って」

 

……確かに、中距離の俺が自由に弾道引いて仲間に当たらないように正確無比な援護ができれば相当強力だろう。

攻撃手の邪魔にならないように乱戦の中弾バンバン撃たれたらそらうざいだろうし、中距離戦闘になっても攻撃手のこの人がガードと牽制の二つを行える。

 

「なるほど」

「それに僕、攻撃手なのに実はあんまり攻撃得意じゃなくてね。返しや捌き、カウンターならボーダーでも上位に食い込むと自負してるんだけど、どうも自分から攻撃しに行くのは得意になれなくて……。それでそれをカバーするのにも君のやり方は合うんじゃないのかなって」

 

どうやらこの人はある程度は信用できそうだ。想像よりはるかに考えて行動している。

 

「他に聞きたいことはある?」

「……いえ、とりあえずはいいです」

「そっか。チーム組む件だけど、君が本気でA級を目指している以上簡単に答えは出せないと思う。それに、僕と相性がいいかもわからない。だからすぐに結論は出さなくていいよ。君がB級に上がる時にでも教えてもらえれば」

 

……思ってたより随分こちらのことを考えてくれる人だな。なにか考えがあってのことか、それともただのお人好しか。

 

「まぁ、そっすね。すぐには多分結論出せないと思います」

「うん。でも、多分色々教えてあげられるとは思うからなにかわからないことあったら言ってくれていいよ。僕は答えられることはちゃんと答えるから」

「…はぁ」

「はい。じゃこれ僕の連絡先」

「こんなポンと簡単に渡していいんすか?」

「うん。君は無闇にばらまいたりしないでしょ?」

 

まぁ、そうだけどちょっとお人好し過ぎんか?

 

「……どーも。なんかあったら連絡させてもらいます」

「うん」

 

そう言って佐々木さんはコーヒーを飲み干し近くのゴミ箱に缶を投げ込んだ。綺麗に入って軽くビビった。

 

「お、ハイセじゃん」

 

そんな俺を無視するかのように知らない声と気配が近づいてくる。

近づいてきたのはサングラスをかけたどことなく飄々とした人物だった。

 

「あ、迅くん」

「よーっす久しぶりでもねーな」

「会ったのは3日前だよ」

「そーだったな。お?こちらは?」

「あ、ども」

「彼は比企谷くん。今期入ったC級の訓練生だ」

「ほー!となると、ハイセはスカウトでもしてたか?」

「まぁね」

「ほーほー。とうとうハイセもチームを組む時が来たか!おっと自己紹介が遅れたな。おれは迅悠一。ハイセの友人だ」

「ども、比企谷八幡です」

 

軽い自己紹介を終えると、迅と名乗る青年は俺のことをじっと見て来た。あれ?寝癖でもたってる?

 

「……へぇ」

「なんすか?」

「いや、面白いものが見えたんでな」

「?」

「迅くん、比企谷くんはまだサイドエフェクトのこと知らないと思うよ」

 

サイドエフェクト?副作用?なにそれ知らない。

 

「えーっと、サイドエフェクトっていうのはね…」

 

ーーー

 

「要は、トリオン器官が肉体の一部の機能を向上させたものってことっすね」

「そういうこと」

 

人間の能力の延長みたいなものか。

この迅とかいう人の未来視だったら……予測能力の究極形みたいな感じか。

 

「佐々木さんはサイドエフェクトあるんすか?」

「うーん僕のはサイドエフェクトじゃなくて、ただの体質かなぁ」

「ハイセのはちょっと特殊なんだよな」

「まぁ、ね」

「?」

「まぁ僕のは戦闘には全く役に立たないし、そもそもボーダー側もサイドエフェクト認定してないから、気にしなくていいよ」

「はぁ」

 

しかしサイドエフェクトか。俺には目立った能力もないし、特にサイドエフェクトと呼べるものもないだろう。

しかし

 

「サイドエフェクトのことなんて訓練生の俺に話していいんすか?」

「いやほんとはよくない」

 

よくないのかよ。

 

「でも君は多分そんなに時間かからずB級に上がるでしょ?だからいいかなって」

 

どうやらB級になれば普通に知れる程度のことらしい。

 

「比企谷くんはなにかあったりする?人よりちょっと優れてるとことか」

「んなもんねーっすよ」

「あはは、まぁないのが普通だからね」

 

人より優れてるとこなんぞ俺にはないだろう。あったとしてもそんなずば抜けたものはない。

……これ以上ここにいるのは時間の無駄だな。

 

「……じゃあ、俺はこれで。チームの件ですが…」

「うん、君がB級に上がってチーム組む気があって、その時に誰も組む人がいなかったら組むかくらいの気持ちでいいよ。あとなにかわからないこととか、頼みたいことがあったら連絡してくれれば対応するよ。一年ボーダーにいるからそこそこツテもあるし」

「………ども」

 

そう言って俺はその場を去った。

……ここまで良くしてくれるってのはなにか裏がありそうだな。良くしてやった代償に報酬の7割持ってくとか、チームリーダーになって俺に馬車馬の如く働かせるとか。

なんにしても、あの2人は警戒しつつ、使えるとかは使う程度にしておこう。

 

 

……この時、頭の隅ではわかっていた。あの2人、特に佐々木琲世は見返りなど求めておらず、単純に俺の能力に可能性を感じてスカウトしてきたと。だがこの時の俺は無償の優しさを受け入れることができるほどできた精神をしていなかった。

 

 

「………」

 

あれからボーダーで会うたびに佐々木琲世は俺に話しかけてきた。人懐こい笑顔で俺にいろんな話をして、そして俺の話にも耳を傾ける。そのせいでほとんどランク戦をやれていないが、悪い気はしなかった。早く防衛任務に就きたいと思ってたのだが、それでも彼と話している時間は嫌ではなかった。

 

「あの人は、多分本当のお人好しなんだろうな」

 

そんなことを呟く俺は、多分あの人のことをすでに信頼してる。

 

「……ダメ元で頼んでみるか」

 

そう呟いて俺は渡された紙切れに書かれた番号に電話をかけた。

 

ーーー

 

「師匠を紹介してほしい?」

「えぇ、まぁ」

 

結局俺はまだ知り合って間もない年上の青年に今後の自分のボーダーライフを左右する存在の紹介を託すという選択を取った。

 

「いいよ。僕のツテで紹介できる人がいたらすぐに紹介してあげるよ」

「……ども」

 

この人本当にお人好しだな。なんかそのお人好しなとこにつけこんでるようで謎の罪悪感を感じるな。

 

「んー僕が紹介できそうな射手は2人かなぁ」

「2人…」

 

思ったより少ないな。

 

「あ、今少ないって思ったでしょ?」

 

なぜわかった。エスパーか。

 

「まぁ、少ないのは確かなんだけどね。そもそも射手はもともとの人口が少ないのもあるし、ボーダーもまだできて一年だ。そこまでたくさん隊員がいるわけじゃないんだ」

「なるほど」

「うーん、どっちを紹介するべきかな。あ、そうだ」

「?」

「この前の迅くん、彼の力を借りようかな」

 

ほう、未来視のあの人か。

未来視して俺の今後を見てもらおうってことね。占いかよ。

 

ーーー

 

「ほー、なるほど。師匠をどっちを紹介するかってことね」

 

迅さんは佐々木さんが呼んだらすぐにきた。

 

「で、ハイセは誰紹介する気なんだ?」

「僕が信頼して紹介できる射手は二宮さんと加古さんくらいだよ」

「それもそうか……さーて」

 

そうして迅さんは俺をジッと見た。

……あんま見ないで欲しいな。ぼっちは視線に弱いんだよ。

 

「へぇ、面白い」

 

なんだよ面白いって。

 

「比企谷には3つ選択肢がある。どれを選んでもお前はA級レベルにはなれるけど、強さに色々と違いが出てくる」

 

強さに、違いが出てくる?どゆこと?

 

「強さにも色々あんだよ。例えば、相手を倒す強さ。これがみんなが目指す強さだろう」

「逆に他にあるんすか?」

「あるある。例えばハイセ。こいつは相手を倒す強さよりも、生き延びる(したたか)かな強さ。ハイセは相手を倒すよりも死なないこととか守ることに重きを置いた強さ。他に自分ではなく周囲を活かす強さもある。これは今の射手だと、強いて言えば加古さんが強いかな。あの人も主力レベルだけど周囲を活かす戦法もできるし。ま、こんな感じで強さにも色々あんだよ」

「はぁ」

 

つまり、師匠によって俺が手にする強さもまた変わってくると。

 

「お前は、どういう意味で強くなりたい?」

「………」

 

俺はどういう意味で強くなりたいのか考えたことなかった。というか強さにも色々あるということを今この場で初めて知ったから考えたことなくて当たり前なのだが。

それでも俺は、どういう風に強くなりたいかすぐにわかった。

 

「俺は、1人で戦い抜く強さが欲しいです」

 

その言葉を聞いて少しだけ迅さんの表情が固くなるのをなんとなく察したが、なぜ固くなったのかはわからない。

 

「……1人でも戦える強さ、か。そーなると、二宮さんだろうな」

「二宮さんかぁ……」

「なんか問題あるんすか?」

「先に言っとくぞ。二宮さん相手だと、まず弟子入りするのに相当根気がいる。そして修行は多分もっと根気がいる。でも短期間でお前は劇的に強くなる。それでもやるか?」

「ええ」

 

さっさと金稼ぎできるようになるならなんだってやるさ。

 

「わかった。じゃあ今からラウンジに行ってみろ。そこに二宮さんいるから」

「はぁ」

「一応僕からアポは最低限取っておくね」

「…よろしくっす」

「うん。行っておいで」

 

まさか今からとは思わなかったが、これで弟子入りして強くなれるなら俺はなんだってやるさ。

そう覚悟を決め、俺はラウンジに足を向けた。

 

ーーー

 

「行ったな。アポは取れたか、ハイセ」

「うん。『お前からの頼みなんて珍しい。見るだけ見てやるが、期待はするな』だってさ」

「二宮さんらしい」

 

暫しの沈黙。

 

「1人でも戦える強さ、か」

「まぁ、比企谷は全部自分でやろうとするタイプだから仕方ないさ」

「うん、わかるよ。でもそのうち彼もわかるよ。そりゃ、1人でどんな敵も倒せるなら苦労はしないよ。でも現実はそう単純じゃないから」

「それは、経験(・・)からくるものか?」

「……うん、そうかもね」

 

そういってハイセは静かに目を伏せた。

 

 

ラウンジ

 

「えーっと、あ、あの人か」

 

ラウンジで二宮さんとやらを探していると割とすぐ見つかった。一応画像は佐々木さんに見せてもらったし、身長高くてスタイリッシュだからすぐわかると言われてたが、本当にスタイリッシュですぐ見つかった。

ぶっちゃけ俺のコミュ力は高くないどころか低い。そのため最初に声をかけるのもかなりきつい。だがこれは乗り越えなければならない試練(?)だ。だからやらねばならない。

 

「ふー……」

 

深呼吸。よし、いくぞ。

 

「あ、あの、二宮しゃん」

 

盛大に噛んだ。

 

ーーー

 

「……………」

「……………」

 

噛んだせいですんげー目で二宮さんに見られてる。

 

「……え、えっと」

「お前が佐々木の言っていた比企谷八幡か?」

「は、はい」

「…………ふん」

 

品定めするように俺を見る二宮さん。この人眼光鋭すぎじゃね?

 

「で?」

「え、あ。その、弟子入りのお願いに来ました」

「断る」

 

えー。

 

「俺は弟子を取る気なんぞない。お前のようなやつに時間を割く気もない」

 

マジかよ。

だがここで引き下がるわけにはいかない。なんとしてもここで弟子入りして1人で戦い抜く強さを手に入れるためにも。

 

「お願いします。二宮さんに弟子入りさせてください」

「断るといったろう」

「お願いします」

「断る。お前のように見込みがあるように見えない奴に俺の時間を割いてやる義理などない」

「お願いします!」

「………佐々木の紹介で来たそうだが、とんだ見込み違いのようだな。佐々木の紹介だからもう少しマトモそうなのが来ると思ったが」

 

散々な言われようだが、それでも引き下がる気はない。

 

「そこで頭を下げるのは自由だが、いくら頭を下げても無駄だぞ。俺は弟子なんぞ取る気はない」

「お願いします」

「これ以上は時間の無駄だな」

 

そう言って二宮さんは席を立った。

どうする。このままでは本当に弟子入りできない。どうすれば認めてもらえる。

どうする、どうする、どうする。

こうなったら一か八か、俺の全力を持って頼み込む。これしかない。

 

ラウンジを出て行こうとした二宮さんの前に全力で滑り込み。

 

 

「お願いします!弟子にしてください!」

 

 

全力のスライディング土下座を繰り出した。勢い余って全力で頭を床にぶつけたが、戦闘体だったため痛くなかった。

 

ラウンジには静寂が訪れた。二宮さん本人も顔は見えないがおそらくポカンとしてるのだろう。

正直、これでダメなら俺はもうどうやっても弟子入りできない。直感で全力で頼み込む方法がこれしか出てこなかったのだ。

 

そしてその静寂を破ったのは二宮さんだった。

 

「………はぁ、わかった。弟子にしてやる」

「本当ですか⁈」

 

逆にいいのかと思ってしまうが、弟子にしてくれるならなんでもいい。

 

「ただし、条件がある」

「はい」

「ブースに行くぞ。ついてこい」

「は、はい」

 

早速修行か?いや、条件つきって言ってたから違うか?

 

ーーー

 

ブース

 

「比企谷」

「ひゃい」

 

また噛んだ。我ながら酷い滑舌とコミュ力である。

 

「お前、今のポイントはいくつだ」

「え、2457です」

「お前は今から自分よりポイント1000以上高い奴と戦え。そしてそれに15連勝したら弟子にしてやる」

「え、3000超えたら?」

「そしたら正隊員とやれ」

 

マジかよ。正隊員って別のトリガー持ってるから俺圧倒的に不利じゃね?

 

「正隊員は訓練生とやるときはメイン武器のみの縛りでやる。そこは気にしなくていい」

 

あ、そうなのね。

 

「何本勝負にするかはお前が勝手に決めていいが、今から15回やって15連勝。これができなきゃ弟子にしない」

「………」

 

つまり、1回も負けれないと。

いきなりきつくね?

 

「わかったのかわかんねぇのかどっちだ」

「わかりました!」

「ならさっさとやれ。ここで見ててやる」

「う、うす」

 

本来なら凄まじい無茶振りだ。

ポイントが1000違うと力の差も結構あると思う。加えて正隊員と訓練生では実戦での経験も随分違うだろう。その差は大きい。普通なら無理だと思う。

 

だが今の俺にはなんの抵抗もなくやるべきことだと受け入れることができた。

 

ーーー

 

変だ。

 

なんか、妙に落ち着いてる。自分で自分の調子がいいことがわかる。

今までは自分より少し高いポイントの相手とやっていたが、今回のは自分のポイントよりも1000も上だ。今までの相手よりも動きがいい。相手の動きが今までよりもいいからか、その動きの良さに引っ張られるように俺の動きも良くなるのがわかる。スポーツでも上手い相手と練習すると上手くなるというが、それと同じだろう。

 

そして今は妙に『勘』も冴えてる。

 

次に相手がなにをしようとしているのかがぼんやりわかる。どうやって動くのか、そしてどう対応すればいいかがわかる。

 

今なら、訓練生レベルなら誰でも勝てる気がした。それくらい身体が良く動き、そして周りがよく見えるのだ。

 

 

 

その調子の良さはずっと続き、俺は無事15連勝することができた。

 

 

ブースを出ると二宮さんが立っていた。

 

「……どうやら、俺の見立ては間違ってたようだな」

「はい?」

「思ってたよりもセンスがあるようだ」

「はぁ」

 

褒められてるのこれ。

 

「1つ聞く」

「ひゃい!」

 

また噛んだ。

 

「お前はなんのために強くなる」

 

なんのために。金のため、というのはあるがここでそれを言うのはアレだな。

やっぱ、これが俺のボーダーに入った一番の理由かな。

 

「もう喪わないようにしたいから、1人でも戦い抜ける力がほしいからです」

「……………そうか。ついてこい」

 

え?ノーリアクション?

 

「え、えっと?」

「約束だ。15連勝したんだから弟子にしてやる」

「……え?」

「なにボサッとしてる。さっさと行くぞ」

「は、はい!」

 

こうして俺は二宮さんに弟子入りし、そしてその日から地獄のような訓練をこなしていくのだった。

 

 




次回の過去編は八幡がボロクソに二宮さんに虐められる回です。お楽しみに

八幡「楽しめねぇよ」

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