では、23話です。
「ん……」
僅かな日差しを感じ、眼が覚める。時計をみるとまだ5時過ぎだが、普段の早朝トレーニングによりこの時間に起きるのが習慣になったのだろう。横を見ると他の3人はまだ寝ている。起こすのもアレだから外にでも出るか。
足音を殺し外に出る。この程度隠密行動訓練で1位以外とったことのない俺には造作もない。
朝の山中はかなり寒い。厚手のパーカーを羽織ってきてよかった。深呼吸をすると冷たい空気が肺を満たす。
起床時間は6時半なので当然誰もいない。適当に散策を始める。
さて、なにか面白そうなのでもないかね。
ーーー
時間は5時半を過ぎた。ここは地味に広いから割と散歩するにはいいかもしれない。
「ん?」
ロッジの方に人影を発見。誰だ?
「ん」
「よぉ奈良坂、早いな」
「お前こそ早いな、比企谷」
「俺は毎朝この時間だ」
奈良坂は少し厚めのジャージを着ていた。……こいつ、割となんでも似合うな。ジャージでもイケメンに見える。
「いつもそんな朝早いのか」
「俺は早朝トレーニングしてるからな。毎朝8キロくらい走ってる」
「まさかお前がそんな勤勉だとは思わなかった」
「おいコラ」
「冗談だ。お前はあの二宮さんの恐ろしいトレーニング耐え切ったし真面目にこなして来たのは知ってる。だからそれくらいしててもおかしくはないだろう」
「………あんま修業時代の話すんな、吐く」
「そんなにか」
「そんなにだ」
いや本当キツかった。別にあのトレーニングは理不尽ではない。凄く効率的だし実際に俺は強くなれた。ただ、鬼のようにキツかった。本当にそれだけ。多分俺じゃなかったら途中で投げ出してるレベルだ。だから俺が那須に教える時は何倍もソフトにした。
「その恐ろしい精神力は一体どこで身につけた」
「ぼっちなめんな」
「なんだそれ」
「HAHAHA」
「やれやれ」
朝の森の中に2人の笑い声がわずかに響いた。
*
時は進み、既に俺たちは朝食を終えた。ついでに言うと寝起きの戸塚は眼福でした。
平塚先生がなんか新聞の束を机に叩きつけながら嬉しそうに声を発する。…多分、こういうのやりたかったんだろうな。
「さて、今日君たちは夜にやる肝試しとキャンプファイアーの準備をやってもらう。昼間小学生は自由行動だからその間に準備をしてくれ」
うへぇめんどくせー。
「比企谷、顔にめんどくせーと書かれているぞ。シカマルですらそんな露骨な顔しないぞ。まぁそれだけ目が腐ってれば脅かし役には最適だろう」
ほっとけ。
「フォークダンスやるやつだ!」
「おお!ベントラーベントラーとか踊るやつですね」
「オクラホマミキサーよ。最後の長音しか合ってないわよ……」
小町ちゃん、馬鹿が露呈するからあまり外では変なこと言わないように言ってるよね?君そんなに成績悪くないのになんでそんなどうでもいいとこで馬鹿なの?
「フォークダンスなー。よく覚えてねーや、友達とふざけてたくらいしか」
「おめーらしいよ、槍バカ」
俺は気配を消して隅っこで座ってたけどな。先生にも同級生にも気付かれなかったぜ。
*
キャンプファイアーの元のやつをジェンガみたいに適当に積み上げた後に清涼を求めてその辺をゾンビみたいに徘徊していると、川を発見する。おお、なんかいいなこういうの。魚もいるし。
「冷たーい!」
するとどこからか声が聞こえる。声のした方を見ると小町と由比ヶ浜が水着で遊んでる。あー……そういや水着持って来れば遊べる的なこと書いてあったな。そう、お察しの通り水着忘れました。
「おーお兄ちゃんだ!おーい」
「うわわ、ヒッキー!」
「よお」
「お兄ちゃん水着は?」
「忘れた」
「さすがお兄ちゃん……。まぁそんなことより!ほーらお兄ちゃん新しい水着だよ!感想をどうぞー」
「ん、世界一かわいいよ」
「うわテキトー……」
適当ではない。俺は事実を言った。何も悪くない。
「じゃあじゃあ!結衣さんは?」
「うわわ、小町ちゃん!」
そう言って小町は由比ヶ浜を俺の前に突き出す。
「ん、いいんじゃね?」
「そ、そっか……。えへへ」
別段悪くないと思うし、似合っているとは本当に思う。
「あら、何をしてるの?由比ヶ浜さんに手を出そうものなら私のあらゆる手段を尽くしてあなたを刑事告発するわよ」
相変わらずキレキレな毒舌をかますな。その毒舌がした方を見ると雪ノ下がいた。
「なんだ、比企谷も来てたのか」
「来ちゃ悪いですか」
そして知らぬ間に平塚先生も来てた。………これならアラサーと言っても通じるなとか思ったのは内緒の話だ。んなこと言ったら面倒なことになる。絶対パンチ飛んでくるし。あ、この人まだアラサーか。
と、そこで再び声をかけられる。
「あ、八幡くん」
「おお、綾つ…じ…」
そこには綾辻がいた。いや、まぁ綾辻は綾辻なのだが……
「あ、えと、どうかな?」
水着でした。
………………………目のやり場に困る。ボーダーのマドンナが赤いビキニ着てますよ。加えて上目遣い。……これ写真とって売ればかなりの男性隊員が飛びつくんじゃね?そしたら俺が社会的に終わるな。
どうにかビッグビジネスの予感を消し去ることには成功したが、いろいろとまずい。
「その、なんだ?よく、似合ってる……」
「そ、そっか!ありがとう!」
いくら昔馴染みのやつとはいえ、さすがにこれはきょどる。絶対今の俺の目は泳ぎまくってる。とりあえず煩悩を消し去ることに集中。
「あ、比企谷くん」
「あ、比企谷だ」
「比企谷くんも来てたんだ」
「あら?比企谷いたんだ」
「おーハッチだ」
上から那須、熊谷、三上、小南、横山だ。……そしてお察しの通り全員水着。美少女が水着着てるのは非常に眼福ではあるのだが、やはり目のやり場に困る。
「………」
「なに固まってんのあんた」
熊谷、察しろ。
「比企谷くん、その、どうかな」
「え、えと……」
那須、やめろ。そんな顔で俺を見るな。グッと来ちゃったじゃねーか。
「比企谷くん、私は?」
「あ、いや……」
三上、お前もやめろ。いろいろとまずいから。
「ちょっと、あたしはどう、なのよ」
「えーと……」
ブルータス(小南)、お前もか。
とりあえず全員いっぺんに聞かないでもらえますかね?リアクションに困るし状況的に死ねる。
「………みんなよく似合ってる」
そう言うと満足そうな美少女達。胃が終わりそうだぜ……。特に平塚先生からの視線が恐ろしい。なんか「比企谷の野郎ハーレム築いてんじゃねーかなにがぼっちだあの腐り目がぁ」とか言ってる。一応言っとくがハーレムは築いてない。俺がそんなラノベ主人公みたいな状況になるなどありえない。
「じゃあじゃあ!お兄ちゃんは遥さん達の中で誰が一番似合ってると思う⁈」
小町ぃぃぃぃぃぃ!余計なこと言うなァァァァァァ!
「あ、それ気になる」
「私も気になるなー」
「私も〜」
「それはあたしも気になるわね」
なんでだ。そんなの優劣つけられるわけないだろ。
しかし困った。こんな時に限ってスケープゴートとなる佐々木さんがいないし、他にスケープゴートになりそうなやつもいない。出水と米屋、奈良坂もどこいった。
あれ、これ詰んでね?
どうする、どうするよ⁈働け俺のサイドエフェクト!
………。
……………。
「………こ」
『こ?』
「小町、で」
これでどうだ!小町はあくまで「綾辻達のなかで」といった。つまりその中に小町がいないとは誰も言ってないのさ!
その瞬間謎の悪寒に襲われる。見たのは、小町、横山、熊谷が拳を振り上げてるとこだった。
「死ねぇ‼︎」
アンパンマンもびっくりな威力で3人のトリプルパンチが俺を襲った。
解せぬ。
*
目がさめると、木にもたれかかっていた。どうやら俺はトリプルパンチくらって意識が飛んだらしい。平塚先生のファーストブリット以上の威力があった。……まぁよくよく考えると小町はともかく熊谷と横山は日頃からパンチしてたな。でもそれを俺に向けるのはやめよう。というかなんで俺殴られたの?
「起きたか」
横を向くと奈良坂がいた。
「おお」
「災難だったな」
どうやら奈良坂はことの一部始終を聞いたらしい。奈良坂は水着ではないが、朝に比べたらかなり軽装になっていた。ちなみに米屋と出水は葉山とかと遊んでる。さすがやつらのコミュ力は高い。
「奈良坂はいかねーのか」
「俺はいいよ」
まぁお前がやつらと水遊びしてるとこなんて想像できないけどな。ちょっと見てみたいような気もするが。
あ、それはそうと…
「なぁ奈良坂」
「ん?」
「結局俺はなんで殴られたんだ?」
「………………………………」
なぜ呆れた目で俺を見る。なんか変なこと言ったか?
「なるほど、朴念仁とはよくいったもんだ……。いささか度が過ぎてるがな……」
解せぬ。
ーーー
暫く奈良坂と木陰でぼんやりしてると、鶴見が横に座る。
「よお」
「……」
無言のまま頷く鶴見。……確か小学生は昼間自由行動とか言ってたが、今こいつは1人だ。まぁ、サイドエフェクトで大体何されたかは想像つく。
「1人か?」
「今日自由行動なの。朝ごはん終わって部屋戻ったら誰もいなかった」
………なかなかそれはきついことされたな。
すると由比ヶ浜が近くに寄ってくる。
「あの、留美ちゃんも一緒に遊ばない?」
「……いい」
「そっか……」
我ながら面倒な問題に首をつっこんだもんだ。そのまま少しぼーっとしながら女子(平塚先生を除く)の水かけ遊びを眺める。戸塚が水着着るとやたらアレなのはなんでだろう。というかなんで本当に戸塚男なんだろ。
そこで鶴見が唐突に話しかけてくる。
「八幡はさ」
いきなり呼び捨てか。なかなか肝が据わってるなこいつ。
「小学校の頃の友達っている?」
「……いるにはいるが、1人だけだしそいつは幼なじみだ」
「綾辻か?」
「ああ」
なんなら小学校も中学校も綾辻しかいなかったまである。
「ヒッキー友達いたんだ」
「失礼だなお前」
「そういえば、俺も会うのはほとんどいないな」
「私もいないわ」
雪ノ下、そもそもお前は友達いないだろと思ったのは秘密だ。言ったら面倒事間違いなしだ。
「……留美ちゃん、この人たちが特殊なだけだからねー」
「特殊でなにが悪い」
英語にしたらスペシャルだぞ。なんか優れてるっぽいだろうが。
「おっ、何してんだお前らー」
米屋と出水が近寄ってくる。どうやら一旦休憩のようだ。
「米屋、出水、お前ら小学校でまだ関係続いてるの何人いる?」
「え?あー……1人2人か?米屋はどうだ?」
「俺もそんなもんかなー」
「お前らの学年何人いた?」
「俺は30人4クラス」
「俺も」
「そう、つまり小学校から未だに友達やってるのはこのハイスペックコミュ力をもつこいつらでさえ、精々1.6%くらいだ。だがみんながみんなハイスペックコミュ力の持ち主じゃない。精々その半分くらいのコミュ力が平均だとすると、0.8%。そんなの無いに等しい。だから切り捨てたところでどうにもならん。四捨五入という名台詞があるだろ」
「でも、そう考えるとちょっと気楽かもね。やっぱみんなと仲良くってのはしんどい時もあるし」
この由比ヶ浜ですらみんなで仲良くするのにかなり無理をすることがあるのだ。普通のやつには無理難題だ。
「今のままなら話は別だが、高校入りゃ少しは変わるぞ。高校はかなり進路がバラけるからな。つってもお前次第だがな」
現に俺がそうだったのだし。結局ぼっちなのは変わらないけど。
「……でも、お母さんは納得しない。いつも友達と仲良くしてるかって聞いてきて、林間学校でもたくさん写真とって来なさいってデジカメ……」
それはまた随分アレな親だな。まぁ心配してのことなんだろうけど。
「それに、シカトされると自分が一番下なんだなって思う。ちょっとやだな、惨めっぽい……」
「……」
「でも、もうしょうがないかな……」
諦めたような声。とても小学生には思えない。
「なぜ?」
「………私、見捨てちゃったし、もう仲良くできない。仲良くしてもまたいつこうなるかもわからない。なら、このままでもいいかなって……」
「でも……」
「それに、せっかく手を差し伸べてくれた子もいたのに、その手も降り払っちゃった……。もう、どうしようもない……」
「どうしてそんなことしたの?」
「………今度は、その子も私みたいになるから……」
多分、その手を差し伸べてくれたやつは三上の妹のことだろう。そして三上の妹の予想通り、こいつが差し伸べられた手を取らなかったのは三上の妹を巻き込みたくなかったからだ。
多分、鶴見は根が優しい。だからどんなに辛くてもその手をつかめなかった。巻き込みたくなかったから。今までなら耐えられたが、ここでこの林間学校だ。普段なら学校だけだがここでは四六時中その辛さと闘わなければならない。そして精神力が、ここにきてとうとう限界に達したのだろう。だから今こんな懺悔みたいなことをしている。
そしてなにより、この子はもう見限ったのだ。自分が変われば世界が変わるというが、そんなのは嘘だ。人が人を決めるのは固定観念と印象だ。リア充がリア充であり続けるようにぼっちはぼっちであることを強要される。全員に当てはまるとは言わないが、小学生ならこれはほぼ当てはまる。そして何かを頑張り目立とうとすれば攻撃の材料にされる。何もしなくても攻撃されるのだ。なにかすれば余計攻撃されるのは自明の理。それが、子供の国の腐りきったルール。
この場合選択肢は2つだ。『立ち向かう』か、『座り込む』か。
「お前は惨めなのと、1人なの。どっちが嫌だ?」
「え?」
「どっちが嫌だって聞いてんだよ」
それによって今後の俺の、俺たちの行動が変わってくる。
「シカトされて、惨めなのも嫌だけど……1人はもっと嫌」
静かに、鶴見はそう言った。
そうだ、たとえ周囲が自分をシカトして孤立させいじめたとしても、その時近くに、そばに誰かいてくれるのがそいつにとっては何よりも救いなのだ。
俺のように1人でいることの好きなやつもいるだろう。だが、例え俺であっても『独り』になるのは、嫌なのだ。
人間、みんなそうなのだから。
「そうか、わかった」
俺は立ち上がり、その場を後にする。
さて、これは俺がやるよりもっと適任なやつに任せよう。
できないことは、できるやつに任せるに限る。
ふと思ったが、佐々木さんどこいった?
この時、琲世は小学生に千葉村周辺で採れた山菜料理を振舞っていた。
*
人生は自分1人なら物事に対して『立ち向かう』か『座り込む』の2択だ。
今までの学校生活において、俺は間違いなく後者を選んでいた。サイドエフェクトにより学校というものが『こういうもの』であることを悟った俺はぼっちであることを受け入れた。我慢して、嵐が去るのを待った。ずっとそうしてきた。何年も、何年も。
だが誰でもそれには限界がある。そしてその限界に達した時に、誰でもいいからそばにいてほしいものだ。多分、鶴見もそうだ。だから「1人は嫌だ」と言った。
だが、その救いの手がなにもせずに差し伸べられるのはごく稀だ。その時周囲にすごくいいやつがいればそういうこともあるだろう。だがそこまでいいやつはそういない。
俺はたまたま近くにいたが、鶴見同様一度その手を拒んだ。巻き込みたくなかった。そしてその手を拒んでから限界になった。そういう意味では俺とあいつは似た者同士だ。
一度拒んだから相手は再び手を差し伸べることを躊躇う。手を差し伸べたくても、また拒まれるのが怖いのだし、人間自分が大切なのだ。それが悪いとは思わないが。
だから、あいつが救いを求めるなら今度は自分から行かなくてはならない。救われるためには最低限その問題に『立ち向かう』必要がある。なら俺たちがやるのは、きっかけを作るだけだ。あいつが最後どうするかは、あいつが決めなければならない。そこは俺たちにはどうすることもできない。
だから俺たちがやる事は、『立ち向かう』ための仲間を増やさせることだ。
*
川の上流の方へ来ると流れが少し速くなっている。普段都会にいるためこのような景色を見ることがあまりない俺は素直に感動した。そして近くにあった少し大きめの手頃な岩に座る。そしてそのまま川を眺めていた。
少しすると、人の気配が近づいてくる。……あまり知ってる気配じゃない。つまりボーダーの連中ではないということだ。
「ヒキタニくん」
予想通り、ボーダーの連中ではなく葉山だった。
「なんか用か」
「ああ、いや。特にそういうわけではないよ。ちょっと上流に来てみたらヒキタニくんがいたから声かけただけだ」
「そーか」
まどろっこしい。その上流いったら俺がいたから話かけたというのは嘘じゃないが、用がないというのは嘘だ。俺のサイドエフェクトがそう言っている。
「お前、つまんねー嘘つくな」
「えっ」
「100パーじゃねーし、誰でもわかるわけじゃねーけど俺に嘘ついても無駄だぜ。なんとなくだがわかる」
とは言っても俺のサイドエフェクトは100パー嘘を見抜けるわけじゃない。普通なら確率は40〜60パーくらいの的中率だ。
「で、なんの用だ」
「………あの、鶴見って子のことだ」
ああ、そのことか。
「それがどーしたんだよ」
「あの子の為になにか俺たちもできないのかなって……」
「はぁ……。あのな、何かをすることが常に最善とは限らないんだ。俺らが下手に手を出して事態が悪化したらどーすんだよ」
「……それでも、なにもできないのはもう嫌なんだ」
普段の葉山とは違う、どこか悲痛な声だ。
「……なにもできないとなにもしないは違うと思うが?」
「……」
「それに、仮になにかやるにしてもなにをするんだ。その案をお前自身が出せないんじゃ、どうしよもねーよ」
「………そうだな」
俺の案はあるにはあるが、片っぽはあくまで解決ではなく解消だ。問題そのものはなくなってない。鶴見のためにもかけらもならない。もう一つのは…………これは完全に他力本願だ。だが、少なくとも成功すればあいつの救いにはなるはずだ。
「君にはなにかあるのかい?」
「あ?」
「ヒキタニくんはなにか思いついてるように見えたんだけど」
なかなか鋭いな……こいつ。
「……あるにはあるが」
「そうか。君はすごいね」
「お世辞ならもう少しまともなこと言え気持ち悪りぃ」
「ハハハ……」
「それに、これは俺たちは特になにもしない。きっかけを作るだけだ。どうなるかは、あいつ次第だ。やるなら、そして成功すればの話ではあるがな」
「それは、どういうことだ?」
「言葉通りだ」
「………やっぱり、君はすごいよ。まぁ、君がなにをするにしても俺は協力するから、必要なら遠慮なく頼ってくれ」
そう言って葉山は立ち上がり、立ち去った。
「それが聞けて安心したよ」
俺の呟きに答える人は、いなかった。
*
葉山が去り、静かになった川べりで変わらず黄昏ていた。
「あ、八幡くんいた」
呼ばれて振り返ると、綾辻がいた。既に着替えて私服姿だ。
「よぉ綾辻。どうした?」
「葉山くんに八幡くんの場所聞いたらここだって言ってたから。平塚先生が肝試しの準備があるから宿舎に集合してだって」
「そうか。サンキュ」
*
「なぁ、肝試しの準備って聞いたんだが……」
いざ呼ばれて来てみたら、用意されていたのは超絶安っぽいコスプレ(笑)いくらなんでもこれは酷い。海老名さんはノリノリで巫女っぽいコスプレしてるけど。
そして戸塚はおばけのコスプレをしていた。……なにこのかわいい魔法使い。
「魔法使いっておばけじゃないよね……」
「大きいくくりでいけばおばけじゃね?」
「でも怖くないよね……」
「いや怖いぞ、大丈夫だ」
本当に怖い。このまま迷わず戸塚ルートに直行しそうで怖い。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「ん?」
小町に呼ばれて振り返ると、なんか化け猫的ななにかに変装した小町がいた。
「なにそれ、化け猫?」
「多分?」
なんでそんなのあるんだよ。というかいつの間に着替えた。
他の連中はなんか殆ど遊んでる感じしかしない。米屋は普段のカチューシャの代わりに矢がついてるカチューシャしてるし、出水によって奈良坂はたけのこの被り物させられてる。不覚にも笑いそうになってしまった。
「あ、くまちゃんこれつけてよ」
「ちょ、やめてよ玲」
熊谷がクマの耳つけられてる。……割と似合うな。
「こっちみんな比企谷!」
怒られた。解せぬ。
「いくらなんでもこれはないでしょ……。安っぽすぎ」
あの小南ですらドン引きしてるぜ。それくらいやばい。
「いや小南、このコスプレのやつ本当はすごく高いんだぞ。一つ三万くらいするって聞いたぞ」
本来こんな馬鹿げた嘘信じるやつはいない。しかし
「え⁈そうなの⁈」
こいつは清々しいほど愚直な馬鹿だった。
「こ、こんなのが三万もするなんて……。世の中わからないものね。というか比企谷はなんでそんなこと知ってるのよ」
「決まってるだろ。今思いついて適当に言っただけだ」
「……騙したわね比企谷!」
改めて思ったが、こいつ本当にいじりやすいな。ハマりはしないが時々やる分にはおもしろくていい。
ギャーギャー騒ぐ小南をスルーして横を向くと、三上と綾辻と雪ノ下が着物を着てた。三上は真っ黒、綾辻は黒地に赤い彼岸花、雪ノ下は真っ白だった。ほぉ、なかなか似合うな。
「あ、八幡くん。どうかなこれ」
「おお、よく似合ってる」
「比企谷くん、私は?」
「三上もよく似合ってるぞ」
「よかった」
二人ともちょっと怖いと思ったのは秘密。だってアレじゃん。なんか地獄◯女みたいなんだもん。雪ノ下は……マジで雪女っぽい。
「それで、例の件はどうするの?」
「やっぱり、留美ちゃんがみんなと話すしか……」
「今の現状だとそれかなりきつくねー?」
出水の言う通りだ。今の現状だと話しかけても無視されて終わるのが目に見えてる。
「じゃあ一人づつ話すとか……」
「同じよー葉山とやら。女子ってその場でいい顔しても裏でいろいろやるから結局はなーんも変わらんよ。葉山が思ってるより女子って怖いのよ」
「マジ?超怖いんですけど」
いやお前も女子だろ。というか三浦、まさにお前がやってそうなことじゃねーか。
「そうか………。じゃあヒキタニくん、君の考えを教えてほしい」
デスヨネー。まぁ考えてはあるんだけど………できればこの場所ではいいたくないな……。一つ目の案はどうなるか目に見えてるし。
「………いいけど、これから言うのは解決しないでうやむやにする案と完全他力本願な案だからな。そんな期待すんなよ」
「あなたらしいロクでもない案ということね」
なにもしてないお前にだけは言われたくない。
さて、俺の案は採用されんのかね。
***
おまけ
夜の女子のロッジにて
女子のロッジも人数の関係上二つに分けられることになった。このロッジでは綾辻、那須、三上、小南、熊谷の五人がいた。そしてこんな状況の夜のロッジだ。テンションとしてはほぼ修学旅行。そんな時夜女子がすることといえば一つである。
「みんなは気になる人とかいんの?」
恋話である。そして意外にもその話を斬り込んできたのは熊谷。さすが那須隊切り込み隊長であると密かに綾辻は思った。
「え、なんで急に」
「いやーなんとなく?」
絶対におもしろがってると那須は思った。恐らく那須をちょっとからかおうと思ったのだろう。
「そーいう熊谷ちゃんはいるの?」
「あたし?うーん、いないかなー」
「いないの?」
「嘘ぉ、今時の女子高校生なら一人くらい気になる人とかいるでしょう?」
小南の言う通り熊谷も女子高校生である。そのためそういう人がいてもおかしくない。
「玲は比企谷でしょ?」
「ふぇっ⁈」
これからいろいろと質問攻めされるであろう空気だった熊谷が形成逆転どころか原爆を投下した。那須から変な声が漏れる。
「ちょちょ、くまちゃん⁈」
「だってそうでしょ?」
「…………」
「ま、知ってたけどね」
「知ってたなら言わなくても……」
普段落ち着いた表情しかしない那須だが、比企谷が絡んでくると年相応の乙女の顔になるのだった。それに対して他のメンバーはちょっとかわいいとか思ってたりもしたが、ライバルが増えたことに少し戦慄していた。熊谷以外。
「綾辻ちゃんもやっぱり比企谷?」
「え、え?わ、私?」
「幼馴染みだしよく一緒にいるじゃない」
「え、えっと、それは………」
どうやらビンゴらしい。ここまで狼狽えてはバレバレである。
「三上ちゃんはいる?」
「え、私?私は………」
「あ、その態度はいるな?んー歌川くんとか?」
「いや、歌川くんはチームメイトだよ(比企谷くんなんて言えない……)」
「んーなら、風間さんとか?」
「いや風間さんは隊長だし……」
「えーじゃあわかんないなー。まさか米屋とか出水はないだろうし……」
「こ、小南ちゃんは⁈」
三上はどうにか話を小南にそらすことに成功した。逆に小南が餌食になったのは自明の理。
「な、なんであたしなのよ!」
「小南ちゃんのは確かに気になる」
「あ、私も気になる」
「私もー」
「い、いないわよ!」
これはいる。熊谷は直感した。ここは少しカマをかけてみよう。
「あ、もういることはばれてるから」
「え⁈そうなの⁈」
やはり小南、生粋のチョロインである。
「な、なんでばれてるのよ……!まさかとりまるが……!」
「あーやっぱりいるんだ」
「……騙したわねぇ熊谷!」
「あっはっは」
これは烏丸がハマるのも少しわかるかも。ちょっと楽しい。
だがここで少し疑問に思った。玲も綾辻も気になる人は比企谷。そして三上も小南も気になる人がいる。さすが女子高校生、このような結論に至るには殆ど時間を要しなかった。
「まさかさ、ここにいるあたし以外みんな比企谷のこと……」
『……………』
ビンゴだった。そしてあの男の無自覚フラグ乱立のスキルに脱帽したと同時に呆れた。なぜこれだけ美少女達から好意を向けられているのにそれに気づかないのだ。あれだけ優秀なサイドエフェクトを持っているというのに。仕事しろサイドエフェクト。
「あいつは本当に………」
熊谷は心底あの腐った目をしてる男に呆れた。この様子だと他の隊員にもフラグを建ててるだろう。確か黒江が建てられてたなと思った。横山はおもしろがっているだろうが、もう一人の比企谷隊の隊員に心の中で心底同情したのだった。
一方、ボーダー男連中のロッジ。
「うお!相変わらず比企谷嫌な動きすんなー」
「カゲさんもすげーよなこのスコーピオン」
「絵馬の奴、腕を上げたな」
「この時の米屋くんもいい動きしてたよね」
ランク戦のムービーを見てた。
すごく中途半端なとこで切りましたが、字数的にこれくらいで切らないとやばいことになりそうだったのでここで切りました。すいません。
あと要望があったので雪ノ下のパラメーター書いてみました。このパラメーターは八幡と職場見学でやりあった時です。
雪ノ下雪乃
パラメーター
トリオン 3
攻撃 5
防御・援護 5
機動 4
技術 6
射程 2
指揮 4
特殊戦術 3 total32
由比ヶ浜結衣(銃手)
パラメーター
トリオン 6
攻撃 3
防御・援護 5
機動 4
技術 4
射程 4
指揮 2
特殊戦術 2 total30