目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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お待たせしました。夏祭りです。
お気に入り2000突破しました。読んでくださる方、ありがとうございます。

初登場人物
月山習
美食家。東京喰種からのパロキャラ。ボーダーのスポンサーである月山グループの御曹司で、唯我や雪ノ下姉とも交流がある。当の本人はボーダーにはあまり興味がないようだが、ボーダーのメンバーとの交流はなぜかそれなりにある。顔はいいため実は何度かTVにも出演したことのある有名人。言動や行動がいちいち大げさで時々ウザい。ある意味最強のネタキャラ。お気に入りは琲世と八幡と3バカ。現在大学三年。

霧嶋董香
東京喰種からのパロキャラ。夏希並みの暴力少女。八幡とは同年代だが、通ってる高校は普通校。ハイセの行きつけの喫茶店「あんていく」でバイトをしており、八幡とはハイセを通して知り合った。初見で八幡に「目が怖い」と言われていきなり顔面に正拳突きを放ち、八幡の中で伝説となっている。実は理系で、大学は国立に行きたいと思っていて、最近受験勉強を始める。現在高2。

霧嶋絢人
東京喰種からのパロキャラ。トーカの弟で、こちらも姉同様普通校に通っている。あんていくでバイトはしていないが、姉伝いで八幡とハイセに知り合う。ついでに夏希とも知り合ったが、なんとなく夏希がトーカに似てるため苦手意識を持っていると同時に、正拳突きの威力がすごいため畏怖の意識も持っている。現在高1。

笛口雛美
東京喰種からのパロキャラ。とても素直でちょっと人見知りするけど明るく可愛い女の子。本が好きでよく本屋に出没する。八幡のことは兄のように思っていて、夏希とトーカを姉のように慕っている。絢人は普通の友人。ハイセのことが気になっているが、それをトーカ以外の誰にも悟らせていないため、ある意味演技派女の子。現在中3。小町との面識はない。




29話 祭りとは、いつでもフェスティバっているものである。

夏祭り

それはリア充のリア充によるリア充のためのイベントである。(親子連れは例外)リア充である彼らが「自分たちがリア充である」ということを再確認し、同時に色恋沙汰にうつつを抜かす輩もいる。加えて恐ろしいほどの人混みだ。そんな空間、本来の俺なら絶対に行かないのだが、金がもらえるなら話は別だ。金があればなんでも解決。金さえあればAll OK。

 

「つまり、結局世の中金なんだよ」

「ハッチなに言ってんの?」

「金の有り難みについて脳内で語ってた」

「ごめん、ちょっと意味が」

 

ダメだなー佐々木さん、金の有り難みがわからないなんて。世の中金さえあれば大抵のことは解決するんだぜ?え?わからないのはそっちじゃない?知るか。

 

「しっかし屋台バイトかー。売る側に回るってのも新鮮だなー」

「そうだね、僕たちは基本買う側だもんね」

「これはこれで貴重な体験になるかもねー。男が少なければ尚良し」

 

そりゃ無理だ。こういうとこには大抵ウェイウェイしてるバカ共がいるから横山レベルの顔なら絶対声かけられる。ま、正拳突きで終いだろうけど。

 

「でもいいんすか?俺に合わせて一緒にバイトなんて。2人は誰かと屋台回りたいとか無いんすか?」

「うーん、無いかなー」

「あたしはまかないとお金が欲しいだけ」

「あ、そ…」

 

横山、お前の理由不純すぎ。

 

と、そんなこんなしてると会場に到着。時間が時間なためまだ屋台は売り始めたりはしていない。聞いた話だと屋台は既に組み終わってるから、後は時間になったら売るだけだとか。もちろん焼きそばとたこ焼きを作る必要があるが。

そして近づいてくるこの気配…………いや、うん。もとはあの人からの申請だから会わざるを得ないんだけどね…。

 

「やぁ比企谷くん!佐々木くん!Miss横山!よく来てくれた!」

 

現れたのは高身長美男子の変人、月山習。ボーダーのスポンサーである月山グループの御曹司で変人。とりあえず変人。

 

「いやすまない。もともとやる予定だった者たちが急遽できなくなってしまってね。さすがに僕1人でやりくりするのは不可能だろうから君達に応援を頼んだのさ」

「はぁ」

「安心したまえ、報酬はちゃんと出す」

「出さなかったらあんたの首が180度回るからね」

「いや、Miss横山。君の場合シャレにならないから是非遠慮したい」

「取り敢えず顔がむかつくから1発殴るね」

「ハハハッ!冗談だろぅげぼっ!」

 

綺麗に鳩尾に突き刺さる横山の拳。

すげえ声出たな。顔もやべぇし。写真とっときゃよかったぜ。

 

「ぐ、うぅ……相変わらず素晴らしいパンチ力だ。君が戦闘員でないことが不思議でならないよ……」

「あたしにはオペレーターの方が合ってる」

 

そもそもトリオン的に無理だろうに。

 

「そうかい……じゃあ、仕事の方の話に入ろう。僕たちは、この祭りで焼きそばとたこ焼きを作る。たこ焼きの方は松前達の月山家の方でどうにかなるが、焼きそばの方もとなると人手が足りない。だから君達は焼きそばの方を頼むよ」

 

焼きそばか。まぁ、たこ焼きってあれなんか慣れが必要とかなんと聞いたし妥当かな。

 

「始まる少し前にはある程度の量を作っておく必要がある!さぁ!君達のgreatでsmartなcooking skillを見せてくれ!」

 

greatでsmartなcooking skillを持つのは多分佐々木さんだけですよ。

 

 

「はい焼きそば3つお待ちどーさまー!」

「比企谷くん2つ追加ね」

「うす」

 

現在、社畜の如く働いてます。

さすが焼きそばだ。祭りの定番といえるだけあり、ガンガン売れる。さっきまで止めどなく人が来ていたが、この列を捌けば一旦楽になるだろう。

 

「はい!焼きそば4つで1400円になります!」

「ハッチ!2つ追加!」

 

クソ、横山の野郎こき使いやがって。でも佐々木さんは焼きそば製作に加えて接客もやってるからなんも言えねー。横山も接客はかなりちゃんとやってるからなー。

 

しばらくすると、大分人が少なくなる。作り置きしたやつでも十分足りるだろう。

 

「少し休むか……」

 

ずっと鉄板の前にいたから汗の量が尋常じゃない。首にかけてたタオルで汗を拭き取る。水を豪快に飲んだところで、嫌な予感がする。

 

「おい比企谷、何サボってんだ」

 

この声は……

 

「霧嶋……」

「佐々木と夏希は働いてんのにあんたはなにサボってんのよ」

 

霧嶋董香。もとは佐々木さんの知り合いだが、ひょんなことから知り合う。口調がやたら荒い時もあるが、基本落ち着いている。手の出る速さは横山並み。ついでに横山と中学同じだとか。

 

「うるせー、こちとらずっと鉄板の前で凄まじい熱気に当てられてたんだぞ」

「佐々木だってやってんでしょ。どー考えてもあんたが1番楽な仕事やってんだからサボんな」

 

ぐぬぅ……佐々木さん出されるとなにも言えん。

 

「来てくれたんだね、トーカちゃん」

「おっすトーカ!依子は?」

「依子はたこ焼き買いに行ってる。比企谷、サッサとしろ」

「接客は俺の仕事じゃねーし」

「まぁまぁ……トーカちゃん、2つでいい?」

「ああ、2つで。知り合いなんだし、量ちょっとくらいサービスしてよ?」

 

解せぬ。

 

「はい、トーカちゃん。量はちょっとサービスしといたよ。700円ね」

「サンキュー。じゃ、依子待たせてるから。じゃーね」

「はよ行け」

「あ?」

 

怖い、怖いよ。お前の顔こえーよ。特に目が。

 

「またね、トーカちゃん」

「じゃーねトーカ」

「うん、またね。サービスありがと」

 

俺の対応が佐々木さんと横山の対応とでなんか差別化が露骨だよ?

そーいや弟のアヤトはどーしたのだろう。

 

 

「比企谷ー交代だぜー」

 

2時間ほど働いて、米屋と出水が来て交代になる。ようやく、ようやく社畜生活からおさらばできるぜ!あ、普段も社畜だわ。

 

「よく来てくれた!米屋くん!出水くん!」

「よっす月山さん」

「うーっす」

「君たちとこの焼きそばを作ることができて、僕は今、非常にdólceな気分になっている!」

 

わー相変わらずよくわかんねー言葉つかうなこの人。

 

「なー比企谷、dólceってなんだ?」

「知らん。俺はもう行く。頑張れよ」

「おー」

「そういや緑川は?」

「あいつまだ中学生だし、校則でこーいうのダメなんだとさ。今は普通に友達と屋台めぐりしてるぜ。それに、月山家の人もそろそろ来るから俺らだけでも回せるさ」

「なるほど」

 

まぁさすがに中学生働かせるのはいかんわな。

さて、とっとと退散しないとまた働かされる。俺のサイドエフェクトがそう言っている。

 

 

時刻は7時過ぎ

 

まかないでもらった焼きそばとラムネをビニールに突っ込んでメシが食えそうなとこを探す。屋台裏で食べようと思ったのだが、そこにいたら働かされる気がしたから逃げてきた。これ以上社畜みたいに働かされてたまるか。

 

どっかいいとこねーかなーとブラブラしてると、なんとなく見覚えのある後ろ姿を見つける。

 

あれはたしか……

 

「霧嶋の弟か」

「あ?」

 

あ、声に出てた。

 

「んだよ比企谷か」

 

一応俺年上なんですけど?

 

「よお霧嶋、1人か?」

 

霧嶋絢人。霧嶋董香の弟で普通校に通っている。こいつも霧嶋姉同様短期ではあるが、手の出る速さは姉ほどではない。でも一度キレると手に負えないとか。多分手に負えるのは横山だけ。

 

「ああ、さっきまでクラスのやつといたんだが、はぐれちまった。連絡は取れてるから合流はすぐできる。つってもみてーとこは見たしそろそろ帰ろうかって思ってたとこだ」

「花火とかは見てかねーのか?」

「こんな人がクソみたいに多いとこで見たかねーよ」

 

ですよねー。確かに人は恐ろしく多い。人酔いするレベルだ。ここはあんまいないけど。

 

「比企谷がこんなとこいるとは思わなかったな」

「バイトしてたんだよ」

「相変わらず金の亡者みてーだな」

「オイコラ」

 

貴様、年上に対する礼儀がなってないぞ。

 

「そういやさっきおめーのねーちゃんがうちの屋台に来たぞ」

「あ?姉貴が?だからなんだよ」

「いや、おめーもうちの屋台で焼きそば買ってけ」

「お前がバイトしてたのって、月山のとこのか?」

「ああ、そーだ」

「なるほどな、比企谷がバイトなんて変だと思ったぜ」

 

解せぬ。ボーダーでも働いてるしそんなに俺は働かないイメージついてるの?

 

「……ま、気が向いたらな」

「おお」

「じゃーな」

 

そういって霧嶋は去っていった。

 

 

 

 

あとで佐々木さんに聞いた話によると、霧嶋は焼きそばをちゃんと買いに来たらしい。

なんだあいつ、ツンデレか。今時流行んねーぞ。

 

 

霧嶋と別れ、人がほとんどいないベンチで焼きそばをもさもさする。ほう、我ながらよくできている。

 

そんな自画自賛しながら焼きそばを食べていると、人の気配が近づいてくる。この気配は……

 

「あれ、比企谷くん」

「あ、佐々木さん。仕事は終わったんすか?」

「うん、ちょっと前に月山グループの人がヘルプに入ってくれたから僕の仕事はおしまい」

「そすか」

「あ、八幡お兄さん」

「お、ヒナミか」

 

笛口雛美。佐々木さんの行きつけの喫茶店、あんていくの常連客の1人。少し人見知りがちだが、俺は高槻泉の作品の話で盛り上がれたためすぐになかよくなれた。ちなみにやたら佐々木さんに懐いてる。

 

「八幡お兄さんも月山さんのところでアルバイトしてたの?」

「おお」

「そうなんだ。ヒナミ、お兄ちゃんの焼きそばだけじゃなくて八幡お兄さんの作った焼きそばも食べたかったな」

「今度作ってやるよ」

「本当⁈ありがとう!」

 

花が咲くような笑顔を見せるヒナミ。守りたい、この笑顔。

 

「比企谷くんはこの後どうするの?」

「小町に土産買って帰ります」

「そっか。僕はヒナミちゃんをリョーコさんのとこに送ってくるよ。じゃあいこっかヒナミちゃん」

「うん。またね、八幡お兄さん」

「おお」

 

そうして2人は去っていった。

2人が話してる後ろ姿を見ると本当の兄妹のようだった。

そういや、ヒナミは小町と同い年だったな。そのうちあわせてやろうかな。

 

 

ちなみに小町は日浦と一緒に塾の夏期講習にいってる。

 

 

くじ引きをサイドエフェクト使って無双して、ゲーム機とソフトを300円で当ててくじ引き屋のおっさんを撃沈させた後、もう特別用事は無いから帰ろうとしていた。

え?花火?そんなもん家から観れる。

 

「あれ?ヒッキー?」

 

俺のことをヒッキーとかいう引きこもりみたいなあだ名で呼ぶのは1人しかいない。

 

「由比ヶ浜」

「やっはろーヒッキー。ヒッキーがこういうとこいるなんて珍しいね」

 

やはり貴様か由比ヶ浜。

 

「よ。1人か?」

「うん。優実子達と来てたんだけど、人が多くてはぐれちゃった……えへへ…」

 

うん、要はあれだな。

 

「迷子か」

「……………ひ、ヒッキーは1人?」

 

こいつ、露骨に話題変えやがった。

 

「ああ、バイトしてたから」

「え?ヒッキーがバイト?」

「オイコラ」

「なんてね、ヒッキーがボーダーで頑張ってるのは知ってるから不思議じゃないよ。なんのバイトしてたの?」

「ん?ああ、焼きそばの屋台やってた」

「へーそうなんだ」

「んで、お前どうすんだ?」

「あー……ケータイで連絡とれて、合流地点も決めたんだけど……」

「………そこに行くまでにまた迷子になったと」

「………」

 

お前は小学生か。人はやばいけどそんな激烈に広い会場じゃないしそもそも構造はかなり単純なハズだ。なぜ迷うのだ。

 

「はぁ……その合流地点はどこだ?」

「え?」

「お前1人だとそこまで永遠に辿りつけないだろ」

「こんなに人いなかったら着けるもん!」

 

雪ノ下だったら辿りつけないだろうな。あいつ方向オンチだし。

 

「んじゃ、行くぞ。そこどこだ」

「えーっと、本部がある方の駐車場だって」

「OK、んじゃ行くぞ」

「うん」

 

……なぜだ、サイドエフェクトが反応している。

 

ーーー

 

「ねぇヒッキー」

「ん?」

「ヒッキーは花火見ていかないの?」

「家で見る」

「なんで?ここで見た方が綺麗じゃん」

「それについては否定しないが、こんな人が多いとこで見るより家でゆっくり見てーんだよ」

 

ジンジャエールでも飲みながら。

 

「へー」

「あと、もう少ししたら小町も帰ってくるからな。小町が帰ってくるまでには家にいておきたい」

「そっか。相変わらずシスコンなんだね」

 

夏期講習は結構遅くまであるみたいだし、講習が終わってからも塾が閉まるまでずっと自習してるらしい。確か塾閉まるのが9時だったからそれまでには家にいたい。佐々木さんの焼きそばと、月山グループの松前さんが作ったたこ焼きを今日の晩飯にしよう。炭水化物ばっかだから少しタンパク質とれるやつも買ってくか。

 

……しかし、なんだこのモヤモヤする感覚は。サイドエフェクトなのはわかるが、何に反応してるのかがわからん。

 

 

 

「あれ、結衣ちゃん?」

 

 

そして、その元凶が現れる。

 

「あ、さがみん」

「やー結衣ちゃんも来てたんだ。1人?」

「あ、今は……」

 

……俺を見んな。せっかく空気になってやってんだから。俺といることは由比ヶ浜にとってマイナスポイントにしかならんぞ。

 

「…へぇ」

 

さがみんと呼ばれたやつが俺を見て目をすっと細める。その目はまるで蛇のような目をしていた。

 

…気色悪りぃ。

 

「へーそうなんだ。じゃあ邪魔しちゃ悪いねー。じゃ、またねー」

「あ、うん」

 

さがみんとモブ2人はそう言って去っていった。

 

 

……なぜだろう。俺はあんなやつと関わるハズがないのに、今後あいつに関わるとロクな目にあわないことがわかる。俺のサイドエフェクトがそう言っている。

 

ーーー

 

さて、合流地点の駐車場についたが、あのリア充共はいない。

 

「いねーな」

「まだ優実子達こっち向かってる途中だって」

「なんで迷子の由比ヶ浜より遅いんだよ……」

 

大方、あの縦ロールがいろいろ我儘いって他の連中もそれに付き合ってるってとこだろうな。それか心配していろんなとこ探しまくってたか。

 

と、そこで人影。そこにいたのは

 

「あれー比企谷くんとガハマちゃんだー」

 

雪ノ下姉だった。

なんでいるんだよ。

 

「あーひどーい比企谷くん、そんな嫌そうな顔しなくてもいいのに」

 

あなたといたらロクな目にあわないのが目に見えるんだもん…。

 

「なにしてるんすか?」

「父の代理で役員の皆さんにご挨拶。うち、こういう地元のイベント系だと結構顔がきくんだ」

「はぁ」

「で、比企谷くんはデートか?デートだなこのこの!」

 

やめろ、胸板を肘でガンガンするな。地味に痛いから。

 

「あの、陽乃さん」

「ん?なーにガハマちゃん」

「ゆきのんはいないんですか?」

「うん、こういうとこに来るのは長女である私の役目だって父がね」

「そう、ですか」

 

あいつはまぁ呼んでも来ないだろうな。

すると、雪ノ下姉の近くに黒塗りの車が停まる。

………これは

 

「私はこれから帰るとこだったんだー」

「え、陽乃さんは花火見ていかないんですか?」

「見たいんだけど、ちょっと疲れちゃった。本当は貴賓席があったんだけど、思ってたより挨拶する人が多くてね」

 

…………………。

 

「……ヘコミはもうないんですね」

「うん、一度修理に出したしね」

「やっぱか」

 

予想通りだ、この車は俺を撥ねかけた車だ。

 

「あれ、もしかして雪乃ちゃんから聞いてない?」

「聞いてはいませんが、多分そうだろうとは思ってました」

「どうして?」

「この前のキャンプの帰りにあなたが雪ノ下を迎えに来たでしょう。その時運転席に座っていた人が、あの時捻挫した俺の治療費をだしてくれた人だったから。三門市はそこそこ広いとはいえこんな黒塗り高級車なんてそんな多くないからあの日あの時間に走ってる黒塗り高級車は十中八九総武高校関係者が乗ってると考えられる。雪ノ下とあなたの関係性。決定的な証拠はないにしてもほぼ決まりでしょう」

 

ぶっちゃけ勘が1番でかいんだけどな。

 

「へー比企谷くん結構頭回る人なのね。将来秘書に欲しいかも」

「お断りします」

「つれないね。で、2人はどうする?帰るなら送ってあげるけど」

「あ、あたしは友達と来てるんで」

「俺は普通に帰りますよ」

「そっか。じゃまたねー」

 

そう言って雪ノ下姉は去っていった。

 

「……ヒッキー、いつから知ってたの?」

「さっきも言ったろ。知ったのは今だ。多分そうだろうくらいにしか思ってなかった」

「…ゆきのん、なんで言わなかったのかな」

「言いたくなかったか、言い出せなかったかだろ。どっちにしろ俺は気にしてない」

 

……多分、向こうは気にしてる。俺と由比ヶ浜がすれ違いが解消したあの時の言葉はそういうことだったのだろう。

 

面倒事の予感しかしねぇな……。

 

「ゆいー!」

 

そこで由比ヶ浜を呼ぶ声が聞こえる。葉山を中心とするリア充達だ。

 

「ごめん結衣、はぐれちゃって」

「あたしもごめんね、勝手にフラフラしちゃって」

「もう離れないでよ〜探すの面倒だったんだから〜」

「優実子が1番心配してたくせに」

「う、うるさい海老名!」

「まぁまぁ、無事に見つかったんだからいいじゃないか」

「それな!さすが隼人くんだわー!」

 

この場に俺はいるべきではないな。

気配を消してその場から早々に退散しようとした。

 

「ヒッキー!」

 

……せっかく人が空気になってやったのになぜわざわざ俺の存在を明かすし。

 

「ありがと」

「……おう」

 

それだけ言うと俺はそそくさと退散した。

 

 

会場の公園から出てすぐの信号で信号待ちしている。もう少ししたら花火が上がるため、今はまだ人が少ない。少ししたらあの大量の人が押し寄せるのだろうな。

 

「あれ、八幡くん」

 

声をかけられ振り返ると、そこには浴衣を着た綾辻がいた。

 

「よお綾辻」

「八幡くんきてたんだね。きてたんなら教えてくれればよかったのに」

「俺はバイトで来てたんだよ」

「バイト?」

「ああ、月山さんの出してる屋台の手伝い」

「月山ってあの月山グループの?」

「そ。あの変人美食家御曹司」

「……酷い言い草だけど間違ってないね」

「だろ?」

 

なんだよdólceとか。しらねぇよ。calmatとかも意味わからん。いや意味は知ってるけど。

 

「で、綾辻は1人か?」

「うん、本当は栞と来てたんだけどね。それでさっき夏希にあって……」

「……それで、なんで宇佐美と横山はいねーんだ?」

「あ、それは……なんか、たった今『りんご飴があたしを呼んでいるー!』とかいって走りさっていっちゃって、それに栞も…」

「………」

 

なんだあいつら……ただのやばい奴じゃねーか。

 

「八幡くんはもう帰り?」

「ああ、もう用はないからな。綾辻は?」

「私も帰り。一緒に帰ろ?」

「ああ」

 

ーーー

 

街中で、俺の足音と綾辻の下駄の音だけが聞こえる。

 

「そういえば」

「ん?」

「八幡くんは花火見ないの?」

「家からでも見える」

「それは、そうだけど」

「そーいう綾辻は見ねーのかよ」

「私も家から見えるもん」

 

なんだよ、結局同じこと考えてんじゃねーか。

 

「おそろい、だね」

「なにが」

「思考回路?」

「なんで疑問系なんだよ…」

 

いや間違ってないけどさ……。

 

「……ねぇ、八幡くん」

「ん?」

「花火、一緒に見ない?」

「いいけど、どこで?」

「八幡くんと小町ちゃんの事情を考えると、八幡くんの家になっちゃうけど、その、八幡くんさえよければ……」

 

ふむ、特別断る理由もないな。

 

「いいぞ」

「ありがと」

 

ーーー

 

自宅到着

小町はまだ帰ってない。まぁまだ9時になってないし当たり前か。

 

「上がれよ」

「お邪魔します」

 

もう何回も来てるし、昔の家のことも考えるとお邪魔しますっていうのは今更感あるな。

 

うちは五階建てのマンションの3階だからそこそこ高さがあるし、方角的にも花火を見るにはちょうどいい位置にある。カマクラはソファーで丸くなっているが、綾辻を見るやいなやスクッと起き上がり足に擦り寄る。このやろう、飼い主より飼い主の幼馴染かよ。

 

綾辻がカマクラの相手をしてる間にいつも置いてあるジンジャエールを用意する。

 

「綾辻、そろそろだ」

「うん」

 

カマクラを置き、俺と一緒にベランダに出る。少しだけ涼しい風が吹いた。

 

「ん」

「ありがと」

 

ジンジャエールを渡す。この状況だと酒っぽくみえるな、なんて。

 

「いつもジンジャエールあるね」

「まーな。好きだし」

「二宮さんの影響かな」

「それは間違いない」

 

うん、間違いない。でもジンジャエールうまいじゃん。

 

 

そこで、一筋の光が空に上がる。

ドン、と音がして花火が上がる。

 

久々にみたな、花火なんて。

 

しばらくぼんやり花火を眺めていた。

 

「…綺麗だね」

「ああ」

 

去年の俺は、どうしてたんだろうか。その前の俺は?

ああ、去年は小町と見てたな。祭りも、小町と綾辻と行った。一昨年は多分見てない。見てたとしても小町とだろう。

なんとなく感傷的な気持ちになる。

 

「…もう、四年近く前になるのか」

「え?」

「第一次侵攻から、もう四年近くになるんだなって」

「……うん。そうだね」

 

あれから、いろいろあった。昔の俺は、今の俺を見たらどう思うだろうか。喜ぶか、それとも鼻で笑うか。わからない。

でも今の俺は十分幸福だ。俺にはもったいないくらいに。昔の俺では考えられないくらい交友関係は広がった。その分面倒なことや大変なこともあるけど、俺は今が好きだ。なんだかんだで今日も楽しかったし。

 

ただ、時々不安になる。この幸福が、いつか壊れてしまうのではないかと。どんなものも、壊れる時は一瞬。それを俺は両親のことで思い知った。

だから俺はそれが怖い。いつか壊れてしまう時が来るのが

 

「怖い」

 

「え?」

「え?」

 

しまったァァァァァァ!声に出てたァァァァァァ!

なにこれ超恥ずかしい!花火が怖いみたいじゃねーか!なに言ってんのバカなの死ねよバーカバーカ!!

 

「大丈夫だよ」

 

そっと俺の手に、綾辻の手が添えられる。

 

「今は、みんながいる。佐々木さんも、夏希も、私や、二宮さんだって。今なら昔みたいなことにはならない。守る力があるからね。まぁ私はオペレーターだから実際に戦ったりはしないんだけどね」

「………オペレーターいねーと俺らはすごくきついんだけどな」

「サポートしかできないけど、私たちはみんな一緒になって戦えばもうあんなことは起きないよ」

「そうだな」

 

それだけ言って俺は花火に視線を戻す。

 

 

「………綾辻」

「なに?」

「ありがとう」

「ううん、いいよ」

 

 

その言葉と同時に、最後の花火が打ち上がった。

 

 

 

 

この日、俺たちは同じ空を見上げていた。

 

 

 

 

 




夏休み編終了。

次回からは………本編か外伝です。どっち書くかなぁ……どっちも書きたいってのが本音だが、今の作者の状況的にきついものがある…

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