目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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今回は難しかった………いろいろ悩んだ末、こうなりました。




では34話です。どっかで番外編とか書きたいなぁ…(遠い目)


34話 菩薩は菩薩でも、その菩薩は時に阿修羅と化す。

翌日、保留になったスローガンが決まった。

 

スローガン 【千葉の名物、踊りと祭り!同じ阿呆なら踊らにゃsing a song‼︎】

 

………それでいいのか。

いや、まぁいいんだけどさ。もうどうでも。

 

「……では今年の文化祭のスローガンはこれに決定します。相模さん、スローガンの刷り込みをした方が…」

「あ、ああうん。じゃあ刷り込みをお願いします」

 

形式上相模の指示により作業が始まる。

 

「了解!野郎ども!ポスター再作成だ!」

「おいちょっと待て!まだ予算がおいついてない!」

「知るか!算盤なんて後にしろ!俺は今なんだよ!」

「ちょっと、画鋲もちゃんと回収してきてよ⁈」

 

わーとてもちょっと前までとは同じ組織とは思えないなー。なにこの活発な活動風景。もうこれ俺いらなくね?いらないよね?帰っていいかな?……ダメですよね。

 

「副委員長、HPにテストアップ完了です」

「了解。相模さん、確認を」

「うん、オッケー」

 

そういいながらも自分でも確認する雪ノ下。

 

そして俺はというと無視にシカトにハブにされ陰口を叩かれる始末。それでも仕事はしっかりさせるから偉いもんだ、上司が。

あ、おいコラそこの誰かは知らんお前。勝手に俺の前に書類の束置いていくな。それ俺の仕事じゃねーだろ。ふざけんな。

 

「やあやあしっかり働いてるかね少年」

 

内心でモブ相手に悪態つきまくってたら知らぬ間に大魔王が来てた。

 

「ご覧の通りですよ」

「……どれどれ?あー……しっかりとは働いていないみたいだね」

 

なんでだよ、超やってんだろ。

 

「あら不満顔。だーってさ、この議事録には比企谷くんの功績はのってないでしょー?」

 

んなもん議事録に書けるか。

 

「ここでクイズです!集団を最も団結させる存在はなんでしょ〜?」

「………敵」

「お、せーかーい。そう!まさしく敵の存在です!ま、その敵がちょーっと小物だけどね」

 

小物で悪かったな。

 

「いいんだよ、君みたいな悪者がしっかりやってるとそれだけで対抗心が出るでしょ?争いこそが技術を発展させるのであーる!」

 

すごくうざいが言ってることは正しい。

なんだかんだボーダーのランク戦だってそういうことなのだし、人類の長い歴史の中でも技術発展はだいたい争いが起点だ。

 

「……その争いの原点はあなたでしょうけどね」

「あら?なんのこと?」

 

クスクス笑いながら余裕ぶっこいていられるのも今のうちだ。こちとら、大事なチームメイトをやられてるんだ。ちょっとやそっとで許すと思うな。

 

「………あら、そういえば今日『私の』ハイセくん来てないわね」

 

さりげなく『私の』強調してきましたよこの人。どんだけ佐々木さんのこと好きなんだよ。多分好きのベクトルがおかしい方にいってるけど。

 

「……今日は来るなと言っておきましたから」

「あら、どうして?」

「病み上がりなので」

「え、ハイセくん体調崩したの?」

 

あんたが変なことしたからだよ。

 

「ええ。過労で」

「あらら」

「それと」

「ん?」

 

 

 

 

「佐々木さんはあんたのモノじゃない。俺のパートナーだ。いつまでも魔王気取ってんじゃねーよ人でなし」

 

 

 

 

全力の殺気を込めてそう言い放つと、僅かに雪ノ下姉は俺と距離を取った。

 

「………こわーい比企谷くん。でも、ハイセくんは私のよ」

「ハッ、どうですかねぇ」

「………」

 

少しは効果があったと願いたいな。

と、そこで急に俺の横に大量の書類が積み上げられた。

 

「雑務、仕事をしなさい」

 

お前か雪ノ下。

 

「スローガン改定に伴う書類の廃棄、それから議事録……は今やってるのね。じゃあ各団体にスローガン変更のメールを送っておいて。ついでに企画申請書類をサーバーにアップもしておいて」

 

おいコラついでってなんだ。仕事増やすなこのやろう。

 

「私もやろうか?」

 

あなたはそろそろ帰ってくれませんかね雪ノ下姉。

 

「姉さんは邪魔だから帰って」

「ひどい!雪乃ちゃんひどい!ま、暇だから勝手にやっちゃうんだけどね」

「はぁ……予算の見直しをするからやるならそっちにして」

「ん?……ふふ、はーい。やーっぱり文実はこうでなきゃ!あー今すっごく充実してるなあー」

 

………この人、本当に性格悪いな。わざと相模に聞こえるように言ってる。そしてそれ以上に切り替えが早い。確かに佐々木さんが『僕1人では彼女には勝てない』と言ったのもうなずける。

今の文実の状況を肯定すること、それは相対的に過去の文実の状況を否定していることになる。それは相模を否定すること他ならない。

相模が机の下でプリントをクシャッと丸めた。

 

ま、自業自得だな。

 

 

下校時刻になり、チャイムが鳴る。今日の作業はここまでだ。今日の進捗状況を見た限り、文化祭はちゃんと行えそうだ。

 

「ふー……」

 

俺の1日の仕事量もかなり減ったため、今までほどの疲労は感じない。

 

「お疲れハッチー」

「おう」

「今日も遥手伝ってくでしょ?」

「そうだな」

「んじゃあたし行くから遥のことよろしくー」

 

それだけいうと横山はとっとと行ってしまった。本当あいつはよくわからん。

 

「やあやあ比企谷くん」

 

げ、まだいたのか雪ノ下姉。

 

「………なんすか?」

「いやー大したことじゃないんだけどねー」

 

大したことじゃなくともロクなことじゃないでしょうに。

 

「ハイセくん、今どこにいるか知ってる?」

「……本部じゃないですか?」

「そっかーじゃあ電話でもしてみようかなー」

「……なんでそんな佐々木さんにこだわるんすか?」

「決まってるわ、私のお気に入りだもの」

 

………。

 

「とっくにあなたのモノじゃなくなってますよ」

「私がそんなこと許すとでも?」

「あなたがなにしても、『俺たち』は負けませんよ」

「あなただけで私に勝てるとでも?」

「話聞いてます?俺じゃない。『俺たち』だ」

 

1人で勝てないなら、誰かの手を借りればいい。そんなことができる仲間がもう俺にはいる。

 

「俺や佐々木さん単体ならともかく、俺たちが組めばあなたにも負けませんよ」

「…………」

「んじゃ、俺は仕事あるんで」

 

それだけ言うとおれはその場を後にした。

 

あの大魔王は大魔王のように振舞ってきただけありプライドはかなり高い。今まで負けた経験などほとんどないだろう。

そんな相手に有効な一手はなにか。

 

まずはその相手に自分達が怯えたり畏怖したり勝てないと悟ってないということを伝えることだ。それだけであの大魔王の精神にはそれなりにダメージが入る。そしてそのダメージは冷静な判断力を削る。

 

今はこれだけでいい。俺がしてやれるのは協力とお膳立てだけだ。

 

最後に決めるのは佐々木さんだ。でも、あの人はもう負けないだろう。

そう思いながら俺は綾辻と共に見回りに向かった。

 

 

 

誰もいなくなった廊下で雪ノ下陽乃が1人、普段の表情からは想像できないほど歪んだ表情をしていたことを知る人間はいない。

 

 

翌日も文実は似たような状態で活発に活動が行われていた。違う点といえば今日は佐々木さんがいるくらいだろうか。といっても有志の合間に来ただけのようだが。

 

そして今日も下校時刻になり作業が終了する。

 

「お疲れ様」

「うす」

「お疲れー」

 

佐々木さんはもう完全に回復しトレーニングも普通に行っている。それに今日は有志の方でいろいろあるらしく雪ノ下姉は来ていない。そのためかなり落ち着いて仕事ができたようだ。というかなんでこの人未だに手伝いに来てんの?

 

「んじゃ、俺らは見回りの手伝いして帰るんで」

「そっか。じゃあまた本部でね」

「うす」

 

そう言うと佐々木さんは出て行った。そしてそれを見届けて見回りに向かおうとすると視界の端に相模をとらえた。

おかしい。あいつ普段なら速攻で逃げるように帰るはずなのになぜ今日はまだ残ってる。

 

「………すまん横山、今日ちょっと見回り任せていいか?」

「え?いいけど、どうしたん?」

「いやぁ、その……」

「………まぁなんかあるのね。わかった。その代わり後でそのこと聞かせてよ」

「わりーな」

 

横山に礼を言って会議室を出る。すると廊下の向こうのほうに佐々木さんと相模を見つけた。なにを話してる?

 

そのまま佐々木さんと相模はそのまま外へと出て行った。

 

俺はそれをつけていった。

 

 

 

決してストーカーではない。

 

 

 

気配を消しながらつけていった結果、ついたのは学校からほど近い海沿いの道だった。俺は自販機の陰からそれを見ている。端から見たら完全に不審者だ。だが見つからない。周囲に人はいないし気配を消すことで俺の右に出る者はいない。

 

「それで、話って?」

 

お、始まったな。

………思ったけどこのシチュエーションって告白みたいじゃね?

 

「…………その、お願いがあって」

「お願い?」

「………はい」

「そのお願いって?」

「…………私を、助けてください!」

 

あいつ、この後に及んでまだそんなこと………。

 

「今のままじゃ私は、実行委員でいらない存在になってしまいます!雪ノ下さんみたいに仕事ができないし、そもそももう委員長としての存在価値がなくなってきている……。どうすればいいのかもうわかりません……。お願いします、私を助けてください………」

 

自業自得だろうに。自分が周囲の人間を利用して踏み台にしようとして自分だけ楽しようとした結果だ。甘んじて受け入れやがれ。

 

「…………そうか」

「お願い、します。なんでもしますので……」

「………僕と初めてあった時のこと、覚えてる?」

「……え?」

「僕は聞いたよね。『君は責任取れるのか』って。それで君は『取れる』って言った。その結果がこれだ」

「あ………」

「僕は君を助けない。助けたくない。これは、君が招いた結果だ」

「で、でも……」

 

すると佐々木さんの気配が一気に冷たくなった。あまりの冷たさに身体が反応してしまいそうになるが、なんとか堪える。

 

「というか」

 

なお佐々木さんは続ける。

 

「逆に聞きたいんだけど」

 

夕日によって影ができた佐々木さんの顔は、酷く冷たく、普段の菩薩のような彼からは想像もできないようなほど冷酷なものだった。

 

 

 

「なんで僕が君みたいなヒト(ゴミ)救わないといけないんだ?」

 

 

 

相模の顔が絶望に染まる。

多分、相模は優しい佐々木さんなら助けてくれると思ったのだろう。来馬さんあたりなら助けてしまいそうだが、佐々木さんは来馬さんほどの菩薩ではない。そもそも言質はとってるんだ。助けるはずがない。

ま、あわよくば相模は佐々木さんと付き合おうとしてた節もあるんだろうが。なんでわかるかって?

 

俺のサイドエフェクトがそう言っている。

 

「この世の不利益は全て当人の能力不足。恨むなら自分の無能さを恨みなよ」

 

それだけ言うと佐々木さんは去っていった。多分本部に向かうのだろう。

 

終始佐々木さんは無表情だった。

 

 

時刻は9時57分。

暗闇の中生徒達の声がざわめきたっている。

インカムのスイッチを入れ僅かに時間を置いてから話し始める。ボーダーの無線ならすぐに話し始めてもいいのにな。

 

「開演3分前、開演3分前」

 

僅かに間が空き、インカムにノイズが走る。

 

『雪ノ下です。各員に通達。オンタイムで進行します。各員現状報告をお願いします』

『照明問題なーし』

『舞台裏、キャストさんの準備僅かに遅れてますが本番には間に合いそうです』

『PAも問題ありません』

『了解、では各員時間まで待機』

 

少し時間が経ち10秒前になる。

 

「10秒前」

『………5、4、3、2、1』

 

カウント0の瞬間、ステージにまばゆい光が降り注ぐ。その中心にいたのは生徒会長の城廻先輩だ。

 

「お前ら、文化してるかー⁈」

『うおおおおお!!!』

 

なにこの出だし。

 

「千葉の名物、踊りとー?」

『祭りぃぃぃぃ!!!』

 

このスローガン浸透してんのかよ。

 

「同じ阿呆なら踊らにゃー?」

『シンガッソーーー!!!』

 

謎のコールアンドレスポンスにより会場は熱狂に包まれる。間をおかず流れる爆音ミュージックにダンス同好会とチアリーディング部によるオープニングアクトが始まった。

うち、そこそこ偏差値高いはずなんだけどなにこの頭の悪そうなやりとり。なんだよ文化してるかって。

 

あ、仕事しねーと。

 

『こちらPA、間もなく曲あけまーす』

『了解。相模委員長スタンバイお願いします』

 

ダンスチームが下手袖にはけて上手袖に城廻先輩が入る。

 

『では続いて文化祭実行委員長からのご挨拶です』

 

城廻先輩の司会進行により相模がステージ中央へと歩いていく。なんとなく歩きもぎこちないし表情も硬い。やらかすビジョンしか見えない。俺のサイドエフェクトがそう言っている。

相模が一声放つ瞬間、マイクのキーンというハウリングが響く。タイミング良すぎて苦笑いしか出てこない。

 

『 で、では!気を取り直してどうぞ!』

 

その言葉で我に返った相模はポケットからカンペを出すが、それを落としてしまった。どっかから「がんばれー」なんて超無責任な声も聞こえるまである。

そこからどうにか進行していくが、とちるし噛むしつっかえる。あまりの酷さに逆に同情してしまうほどだ。

想定の時間を過ぎてしまったためタイムキーパーの俺が巻くように指示を出すが全く見えてないようだ。

 

『比企谷くん、巻くように指示を出して』

「やってるが見えてないっぽい」

『……そう、私の人選ミスかしら』

「そうだな、お前のミスだ。多分誰でも変わんないだろうけど」

 

そんくらいテンパってるし。

 

『………以降のスケジュールを繰り上げます。各員そのつもりで』

 

その通信が来てからしばらくなにも来なかった。

ようやく相模の挨拶が終わった。次のスケジュールに即座に移る。

 

 

前途多難だなこりゃ。

 

 

オープニングセレモニーが終わり各自一旦自身の教室に戻る。しかし俺は教室でやることなど微塵もない。だからすみっこでおとなしくしてようと思ったら海老名さんに見つかって「暇なら受け付けやっといて。聞かれたら時間答えるだけでいいから。時間は外の看板に書かれてるし」と言われ現在は教室の外のパイプ椅子に座ってボーッとしてるだけ。なんという夢ジョブなのだろう。この経験を活かし将来はこういう職に就きたいと思います。

 

教室の中からは生徒達が円陣を組んで掛け声をあげてるのが聞こえる。相模はさぞ肩身狭い思いをしてるんだろうな。なんでわかるかって?

 

 

俺のサイドエフェクトがそう言っている。

 

 

ーーー

 

暗闇の中、星の王子様の公演第一回が始まる。見たところ、席は全て埋まり満員御礼のようだ。といってもいるの全員女子だけど。

 

ちょうど中では王子様がキツネを誘うシーンだった。俺はこのシーン好きだからいいタイミングだったな。

 

「僕と一緒に遊ぼうよ。僕は今すごく悲しいんだ……」

 

顔を俯かせ寂しげに言う戸塚に思わずグッと来てしまう。仕方ないよ、戸塚だもの。

ちなみに海老名シナリオ第一稿はここのセリフ「やらないか?」になっていた。あの女はなにを考えて………BLですよね。

 

「最初は草の中で、こんなふうに、お互いちょっと離れて座る。俺は君を目の隅で見るようにして、君の方はなにも言わない。言葉は誤解のもとだからね」

 

王子様とキツネは対話を重ねていくが、それでも別れは来てしまう。

最後にキツネは王子様に1つ秘密を教える。星の王子様の中でも有名なシーンだ。

 

 

大切なものは、目に見えない。

 

 

本当にその通りだと思う。大切なものは常に目に見えないようなものばかりだ。お金とかは別だけどね。

 

キツネと別れた王子様はいろいろな場所を巡り再び砂漠へと戻ってくる。「ぼく」と王子様は砂漠の井戸を探しにいくのだ。

 

「砂漠が綺麗なのはどこかに井戸を1つ隠しているからだよ」

 

戸塚の言ったセリフから観客席から感嘆の声が漏れた。

やがて「ぼく」と王子様は会話を重ね、時間を重ね、心を重ねた。しかしそんな2人にも別れはやってくる。

ちなみに海老名シナリオ第一稿は唇と身体も重ねたことになっていた。うん、一回あなたはどっかに修行に出た方がいいね。なんなら二宮さんに弟子入りさせて………やめよう、思い出したら気が重くなってきた。

 

ヘビに噛まれ音もなく倒れる王子様。儚げで消え入りそうな演技に観客席は息を呑む。

 

最後にスポットライトの当てられた葉山演じる「ぼく」によりラストシーンが締めくくられ観客席からは万雷の拍手が送られたのだった。

 

 

教室の扉には「休憩」の看板が貼られている。

第一回の公演を終え、うちのクラスのメンバーは外に出て文化祭を回るか中で休憩しているかのどちらかだ。俺はというと教室の前でただぼんやり座ってるだけの夢ジョブを続けている。

 

「おろ、比企谷くんじゃないか」

「お、宇佐美か」

「やあやあ」

 

宇佐美は普段と変わらないテンションだ。しかしその姿はウェイトレスのような格好になっていた。宇佐美自身美人であるためその格好は全く違和感はないし、むしろ着こなしてるまである。

 

「休憩か?」

「うん、そうだよ。比企谷くんも?」

「俺はなんもしてないから休憩というよりこれが仕事だ」

「あはは!それはいい仕事もらったね」

 

全くだ。

 

「その仕事いつまであるの?」

「ん?あー……あと15分くらいか?」

 

確か12時半までって言われたし。

 

「そっか。じゃあちょうどいいね。それ終わったらうちのタピオカ買いにきてよ。遥と夏希がその時売り子やってるし」

 

ほう、あいつらが。というか横山にやらせていいのか。あいつ簡単に手出すぞ。

 

「あいつらと一緒の時間じゃねーのな」

「うん、まーね。あたしプロデューサーみたいなもんだからそこで私情を挟んじゃいけないからね」

 

そういや横山がそんなこと言ってたよーな。

 

「栞ー」

「あ、呼ばれた。じゃね比企谷くん」

「おう」

 

そう言って宇佐美は去っていった。

 

ふむ、後でタピオカ買いに行くか。

 

 

仕事もとい休憩が終わり暇になってしまったのでタピオカを買いに2-Dの教室前にできてる行列に並んでいる。

種類は、コーヒー、カルピス、オレンジ、アップル、ミルクティーか。なぜマッカンがない。横山め、マッカンをメニューに加えとけって言ったのに。

いた仕方ない。ここはカルピスで手を打とう。

 

「いらっしゃいま……なんだハッチか」

「おいコラ」

 

貴様、俺は今神様たるお客様だぞ。なんだその態度は。ホットペッパーに書き込むぞ。

 

「まさか来るとは思ってなかったしー、それに来るならあたしのとこじゃないでしょ普通」

「あ?」

「やれやれ」

 

なんだよ。そしてさりげなく周囲からの視線(主に男)がきつい。あれか、どうせこいつのことだから近寄るなオーラ出しまくってビビらせてんだろ。で、そのオーラ出されない俺に驚愕と嫉妬の視線を向けてるということね。

 

「ま、いーや。んで、注文は?」

「カルピス。というかなんでマッカンねーんだよ」

「さすがにムリよ。コーヒー牛乳で我慢しなさい」

 

解せぬ。

 

「とりあえずカルピスね。遥ーカルピス1つー」

「了解ー」

 

お、綾辻だ。頑張ってるな。

すると横山がなんか俺のことガン見してくる。なんだよ、金は払ったぞ。

 

「……………」

「な、なんだよ」

 

すると急にニヤっと笑うと後ろ向いてこう言った。

 

「遥ーそろそろ生徒会の仕事の時間じゃない?」

「え………え?あ、ほんとだ」

 

ああ、綾辻は生徒会の仕事もあるもんな。

 

「ハッチもでしょ?」

「は?いや俺は……」

「でしょ?」

「アッハイ」

 

怖い怖いガチで怖い。マジで勘弁してよ。

 

「ほいカルピス1つ。遥もそろそろ抜けるから待っててあげて」

「それはいいけど……」

「いーでしょ別に。どーせ実行委員なんだし」

 

いや、実行委員と生徒会って仕事別のとこもあるはずだけど……。

 

 

「お待たせ、八幡くん」

「おう」

 

なぜか綾辻と文化祭を回るという謎の展開になった。別に嫌というわけではない。だが周囲からの視線が半端なく痛い。なにせあの綾辻と歩いてるのがこんな冴えない男だ。仕方もないだろう。

 

綾辻は生徒会の仕事で各クラスが申請した通りの出し物をしているかどうかをチェックする仕事をするらしい。んで、なぜか生徒会でもない俺がそのヘルプに入っているというね。何度も言うが綾辻といるのが嫌というわけではない。

 

「盛り上がってるねー」

「そうだな」

 

なにしろ年に一度のイベントだ。リア充がリア充であることを確認するためにも重要なイベントなのだから盛り上がらないはずがない。

俺?むしろテンション下がってるよ。ウェイウェイしてる奴らはうっせーし。

あと、前の佐々木さんが怖すぎて未だに思い出すと背筋がゾクッとする。あの人、あんな顔するんだな。これからは絶対怒らせないようにしよう。

 

「八幡くん?」

「あ?」

「どうしたの?」

「い、いや別に」

「ふーん」

 

佐々木さん、あの人あんな殺気だせるなら雪ノ下姉にも勝てるんじゃね?

 

「じゃあ次は2-Eね」

 

ああ、仕事もしなきゃいけないんだよなぁ……。

2-Eか。確か三上がいたな。他は知らん。

2-Eはドーナツを売っているためそれなりに人気があり結構な人だかりができている。そしてその人だかりを列にするべく三上とその他数名が誘導していた。

 

「あ、歌歩ちゃんだ。歌歩ちゃんー」

「あ、遥ちゃん」

「お疲れー。大変そうだね」

「今お昼時だからねー」

 

そんなガールズトークを後ろからからぼんやり眺めている俺。下手したら通報されかねない。

トークをしつつも綾辻はしっかり仕事をしていて、気づいたらチェックは終わっていた。

 

「遥ちゃん1人?」

 

お、トークが再開した。

 

「ううん、八幡くんと来てる」

 

……なぜ軽くドヤ顔。なんで三上も好戦的な顔してんだ。なに?2人はライバルかなんかなの?ナルトとサスケなの?

 

「あ、本当だ。比企谷くんも来てくれたんだ」

「おう」

「なんか買っていってよ」

「あ、おい」

 

三上に手を引かれ列に加わる。いや別にいいんだけど綾辻に許可とんねーと。あ、綾辻も来た。

 

「仕事はいいのか?」

「うん。お昼時だしこれくらいなら大丈夫だよ」

「そうか。なに買う?」

「うーん、なにがいいのかな」

 

ここは店員の三上にオススメを聞くのがいいだろう。

 

「三上、なんかオススメとかあるか?」

「えーっとね、Aセット2つがいいんじゃないかな?ミスドの人気メニューをランダムに入れてるからいろいろ楽しめるの」

 

ほう、それはいい。願わくばポンデリングとオールドファッションが入ってることを願おう。

 

「んじゃそれでいいか。綾辻は?」

「私もそれで」

 

決まりだな。つってもまだ前に数組いるから注文はまだなんだけど。

 

「あ、私そろそろ戻らなきゃ」

 

そもそも俺らだけにここまで時間割くのもあんまりよくないと思うんだがな。まぁいいけど。

 

「じゃあまたね遥ちゃん。負けないから!」

「私だって!」

 

そのまま三上は持ち場に戻っていった。

負けないってなんだよ。なんか勝負でもしてんの?あ、アレか。売り上げの勝負かな?

 

「負けないってなんだ?」

「八幡くんはわかんなくていーの」

 

なにそれ仲間ハズレ?だが以前小町から聞いた話だと女子の事情にはあまり深く首突っ込まない方がいいらしい。

ここは聞くべきではないだろう。

 

「………それに」

「ん?」

「いつかわかるから、絶対ね!」

 

満面の笑みでそういう綾辻。その顔は、今まで見た中でも一際美しかった。

 

「………」

「そ、そんなに見られると、恥ずかしいんだけど……」

「え、あ、ああ悪い」

 

おっとやばい。無意識のうちに見惚れてしまっていたようだ。

 

「………?」

 

なんとなく動悸が激しくなっているし、心なしか顔も熱い。

 

…………これは、一体。

 

 

 

 

 

 

 

 




サッサンだって怒るんです。


少し変わった八幡。しかしまだ『それ』がなんなのかは気づいてないようです。

ではまた次回。

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