目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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全然間に合わなかった。
中間テスト死すべし。

土下座


38話 彼といえども、感情というものは存在している。

「お疲れっす」

「いいよ。それより、ここからが正念場だよ」

「うす」

 

菊地原を落として佐々木さんに労いの言葉をかける。ここまでは作戦通りだが、ここから先は思い通りにならない可能性の方が高い。なにしろボーダー1のバトルバカとNo. 1スコーピオン使い、加えてA級の強者共が残ってる。簡単に策にはまるとは思えないし、そもそも俺らへの警戒は菊地原を落としたことにより跳ね上がってるはずだ。

 

「多分俺らのこと分断させようとしてきます。きついと思いますけど極力離れないようにいきましょう」

「うん」

 

佐々木さんはバッグワームを起動したままで走り出し、俺もそれに続いた。

 

 

「……目標確認」

 

残ってるメンバーの乱戦してるところを確認。濃霧だからシルエットしか見えないが、だいたい誰かはわかる。

 

「多分もう暗殺戦法効かないんで普通にいきましょう」

「了解」

 

佐々木さんはバッグワームを解除すると改造孤月を抜き、そのままの速度で乱戦に乱入した。

 

「っとぉ、ようやく来たな佐々木ぃ!」

「……」

「旋空弧月」

 

乱入していきなり旋空ぶっ放す佐々木さん。なかなか強気な姿勢だ。強気じゃなきゃ勝てないだろうけど。

太刀川さんと風間さんは少し下がり、そこから再び距離を詰めて三つ巴の剣戟が始まった。

 

「バイパー」

 

佐々木さんに当たらない軌道でなおかつ出水と歌川への牽制も忘れない。我ながらすごい嫌がらせだ。

 

『チッ、比企谷が邪魔だな。出水、無理やりにでも比企谷と佐々木を引き離せ』

『無茶言わないでくださいよ太刀川さん、んなことしようとしてもグラスホッパーで逃げられてカウンター食らいかねませんよ』

『そうでもしないとこっちの身が保たん。風間さんと佐々木同時に相手するだけならともかくそこに比企谷の横槍が入っちゃたまらん』

『………このままじゃあいつらの思うツボっすね。わかりました、どうにかしますけど、多少そっちの戦いに支障が出るのは許してくださいよ』

『ああ、できれば佐々木とタイマンになるようにしてくれ。今日のあいつは、いつもと違う』

『マジっすか……』

 

くそ、こんだけ撃ってるのに風間さんも太刀川さんも全部防ぎきってるな。援護だけに集中できんなら何発か当たってただろうが、牽制もしなくちゃいけないとなるとさすがにきついか。

そう思った瞬間、太刀川さんが少し下がり旋空を放った。

……上か!

 

変化炸裂弾(トマホーク)

「うお」

 

合成弾が上から降り注ぐ。出水か。

トマホークは的確に俺と佐々木さんの間に降ってきた。そして風間隊の2人の前にも。

…来る!

 

ガキィン!

 

濃霧の中で火花が散った。下がった太刀川さんが旋空で俺を攻撃しようとしたのだろう。そしてそれを佐々木さんが防いだ。いや、まぁ普通にかわせたけどね?

 

「!!」

 

その瞬間、背筋に凄まじい寒気が走り、反射的に下がる。

爆煙に乗じて風間さんがカメレオンで奇襲してきた。そしてそのまますごい速度で追撃してくる。俺はシールドを手に纏わせどうにかいなしていく。

 

『ハッチ、上』

『マジかよ…』

 

上から歌川が現れ俺を狩りに来る。

やべ、このままだと詰む。

 

「っ!」

 

風間さんと歌川の同時に放たれた斬撃を半ば無理やりかわす。風間さんのスコーピオンは俺のシールドを微かにかわして体に掠らせる。そして次の攻撃に2人が移る前に歌川を蹴り飛ばしグラスホッパーで距離を取る。

同時に向こうから爆発の音が響いてきた。多分佐々木さんに出水がメテオラでもぶっ放したのだろう。

 

ゾク

 

「っ!!」

「チッ」

 

背筋に走った寒気と同時に体を反らせると、目の前を光る刃が通り過ぎた。

風間さんまでこっち来やがった……。なるほど、出水の分断メテオラに乗じて俺を抑えて分断させようってことね。なに?俺はどこでもぼっちじゃなきゃいけないの?泣くよ?

 

「外したか……さすが超直感。だがまぁ、分断できただけいいか」

「うーわきっついメンバーだなぁオイ」

 

気持ちは同じだ、出水よ。というかお前が元凶だろうが。

 

「ここで全員狩るぞ」

「はい、風間さん」

「太刀川さんに頼まれてるから、ここは簡単に通しはしないぜ」

 

やれやれ、皆さんやる気マンマンですね。

 

「……負けるか」

 

臨戦態勢に入り、俺は飛んだ。

 

 

琲世side

 

「………やられた」

 

僕は見事に比企谷くんと分断されてしまった。しかも相手は太刀川さんのみ。

 

「ようやく存分に撃ち合えるなぁ佐々木」

 

やる気マンマンじゃないですかヤダー。

 

「…………」

「今日のお前はなんか違うからなぁ。存分に斬り合ってみたかったんだ」

「相変わらずですね貴方は…」

「最近やってなかったからなお前とは。そらいくぞ!」

 

その瞬間、僕はユキムラを鞘から半分ほど抜き太刀川さんの弧月を防いだ。

 

「さすが!この程度不意打ちにもならねぇか!」

「本当に貴方は……!」

 

太刀川さんを蹴りで押しもどすとユキムラを完全に抜き、臨戦態勢に入る。

 

「さぁ来い佐々木ぃ!」

「テンション高いですね!」

 

剣同士が火花を散らした。

 

ーーー

 

「オラオラどうした佐々木!下がってばっかじゃねぇか!」

「………」

 

太刀川さんの孤月が僕の頬を掠める。

さすがNo.1攻撃手と言うべきか、彼の攻撃は一撃一撃が重く速い。気を抜けば一瞬でやられてしまうだろう。

僕はビルの壁を蹴りながらビルの屋上まで上がっていき、太刀川さんは僕を追う。更に上まで上がろうと隣のビルへと飛び移り更に高いビルへと登っていく。

 

『夏希ちゃん、比企谷くんは?』

『風間さんと歌川くん、あと出水と交戦中。とりあえずは問題なさげだけど、やっぱちょっときつそう』

『ヘルプ行きたいけど、ちょっとムリかなぁ…』

『サッサンはとりあえず太刀川さんね』

 

その声と同時に僕が先ほどまでいたビルの屋上がバラバラになった。太刀川さんの旋空弧月だ。

 

「ムチャクチャだ…」

 

そう言いながらも足は止めない。あっという間に1番高いビルの屋上へと至った。

 

「なんだ?逃げるのは終わりか?」

 

当然太刀川さんも来る。彼はグラスホッパーを持っている。来ようと思えばもっと早く来れただろう。

 

「ええ、ここで貴方を倒します」

 

簡単にはいかないだろうけどね。

 

「いいねぇ。風間さん相手の時のピリピリした空気もいいが、お前とやり合う時の空気も好きだぜ。しかも今日のお前はなんか違う」

 

さすが太刀川さん、気付くんだ。

 

「すぐに見せてあげますよ」

「来い」

「旋空」

 

ガキンと金属がぶつかり合う音が響く。

そして一気に近づきユキムラを振るう。剣と剣がぶつかり合い、散った火花がわずかに夜の闇を照らす。とはいっても今いるビルの屋上は普通に明るいんだけどね。

 

僕が振るったユキムラを太刀川さんが受け止めると、今度は太刀川さんの弧月が僕を狩ろうと凄まじい速度で僕に向かってくる。それを最低限の動きでかわし更に斬撃を加える。

 

「腕上げたな。休隊してる間も訓練怠らなかったな?」

「当たり前、です!」

 

太刀川さんは僕に話しかける余裕があるのか。

なら、その余裕を無くしてやる。

 

太刀川さんの斬撃を逆手に瞬時に持ち替えたユキムラで受け流すと僕は

 

「ぐっ!」

 

鞘にスコーピオンを纏わせて攻撃した。

かわされたが、足を少し削り体制を崩した。

 

ここだ。

 

流れるような動きでユキムラを太刀川さんに振るう。

 

(この程度なら)

 

多分太刀川さんはそう思ってるだろう。それはそうだ。

 

 

『わざと』甘い斬撃にしたんだから。

 

「⁈」

 

太刀川さんがユキムラを受け止めようとした瞬間、ユキムラの刃が変形した。

 

「ぐっ!」

 

そしてそのままガードを抜け、太刀川さんの胸に向けて思いっきり振るう。

しかし太刀川さんはグラスホッパーで瞬時に僕から離れたため傷は浅くトリオン供給器官には届いていない。

 

「………お前、今のは」

「秘策ですよ」

「……『幻踊』か。今まで使ってなかったろ」

「隠してたんですよ」

 

さすが太刀川さん。瞬時に僕の秘策を見破った。

 

もともと幻踊は普通の弧月でも使えるが、僕はどうやらあまりセンスがなかったようだ。そのためユキムラで幻踊を使いこなせるようになるのに半年近くかかった。

だがそれだけの期間隠しながら訓練したおかげで今は指先のように操れる。

 

「いいね、面白くなってきた」

 

太刀川さんは僕に好戦的な笑みを向けた。

その言葉に僕も笑みを返すが、内心顔を顰めていた。

正直、僕は今ので仕留めるつもりでいた。これをあのタイミングでかわされるとはさすがに思ってなかったのだ。これがただのソロランク戦なら多分倒せてた。だがこれはチームランク戦。その緊張感が太刀川さんの反射神経を強化させたのかもしれない。

 

「さすがに一筋縄ではいかないなぁ…」

「ヒトスジナワ……?なんだそれ」

 

………僕、こんな人に勝てないんだ。なんかショックだなぁ。

 

 

刃同士がぶつかり合う。

 

「はぁ!」

「おら!」

 

凄まじい速度で刃がぶつかり合う。当然と言えば当然だが僕が押されていた。

太刀川さんは弧月二本。それに対して僕はユキムラにスコーピオン。スコーピオンは撃ち合いには向かないから実質ユキムラだけだ。加えて技量は太刀川さんが上。少しずつ刃が擦りそこからトリオンが漏れ出す。僕も削ってはいるが、僕が与えられたダメージの方が大きいだろう。

ギィン!と音がし鍔迫り合いになる。

 

「くっ……」

「そら!」

「がっ」

 

剣を上に押し上げ、弧月の柄で僕の顔を殴る。生身なら歯が折れてただろう。

だがそれでは終わらない。僅かに怯み、隙ができた僕に太刀川さんは一気に攻め入ってくる。

 

「っ…」

「おら!」

 

太刀川さんの猛攻にどうにか耐えているが、体制が崩れた状態ではすぐにやられる。そう思いどうにか体制を立て直そうとするが、太刀川さんの猛攻がそれを許さない。

 

「はっ!」

「っあ!」

 

一際強い一撃に吹き飛ばされる。

 

「旋空弧月!」

「しまっ…」

 

太刀川さんは体制が整う前に旋空で攻撃をしてくる。どうにか防いだが、勢いを殺しきれず屋上から投げ出されてしまった。

 

「っと!」

 

弧月を壁に突き刺し、その上に器用に立つ。

追撃を確認するために上を向く。しかし、太刀川さんはいなかった。

 

「……?」

 

追撃してくる様子もない。

おかしい、彼ならすぐに追撃してくると思ったのだが。

 

そう考えていたら、一瞬光の筋が何本かビルの壁を走ったのが見えた。

 

「………まさか」

 

僕の予想は、見事に的中していた。

 

ビルが切られ、切れたビルが降ってきたのだ。

 

「デタラメだ……」

 

トリオン体だから潰されても死なないだろうけど、そんな状態だと瓦礫の上から旋空で真っ二つにされる。

僕はユキムラにぶら下がるとその状態から壁を蹴り自由落下を始めた。当然瓦礫の方が早くかわせるだけの余裕が無かったのでスコーピオンも出し瓦礫を切り裂いていく。

 

「そおら!」

「!」

 

目の前の瓦礫が十字に切り裂かれ、太刀川さんが現れる。

太刀川さんの弧月を防ぎ落下する瓦礫の1つに飛び乗る。太刀川さんも瓦礫に飛び乗ると僕に旋空を放ってきた。それを違う瓦礫に飛び乗ることにより回避する。

この状態じゃ満足に立ち回ることもできない。だから僕は瓦礫の滝から脱出するために旋空で瓦礫の滝を切り裂いた。

 

「お?」

『テレポーター』

 

テレポーターを使い近くのビルの屋上に脱出する。

 

『夏希ちゃん、僕と太刀川さんの距離を正確に表示してくれる?』

『了解!』

『あと僕の方はしばらく太刀川さんとのタイマンになるから比企谷くんの方見てあげて。必要なら指揮もお願いしてもいい?』

『オッケー、任せて』

 

よし、これで彼の方は平気だろう。

お、来たな。

 

「待てよ佐々木」

 

距離……50。

 

……40

 

……30

 

……25

 

ここだ!

 

「旋空」

「!!!」

 

普通よりかなり長く伸びたブレードが太刀川さんを襲う。

旋空は発動時間が短ければ短いほどブレードの伸びる長さが長くなる。普通は1秒発動させて精々15メートルくらい。でも僕のは0.5秒程で長さは約30メートル未満25メートル以上だ。

これは『生駒旋空』と呼ばれる生駒くんの得意技だ。生駒くんに教わって最近ようやくモノになってきた。とは言っても生駒くんは30メートル以上伸ばすけどね。

 

「なんだ?とうとう生駒旋空まで覚えてきたか?」

「まだ未完成ですけどね」

 

これでもダメか。やっぱ太刀川さんには不意打ち効かないか。

 

「ふ!」

「っとぉ」

 

突きの旋空を放ち、避けた太刀川さんにすぐに旋空を放つが、どれも防がれる。

 

「おら!」

「ぐ…」

 

そして再び鍔迫り合いになる。

気を抜けば、ユキムラごと叩き斬られるな、これ。

 

「どうした佐々木。まだ隠してる手があるなら出し惜しみはしなくていいんだぜ?」

「…………」

 

残念ながらもう隠してる手はない。もう出し切ってしまっている。あとはもう実力勝負しかないのだが、彼と僕でどっちが強いかなんて目に見えてる。

 

「………」

 

どうすれば勝てる。仮に勝てなくても、どうすれば『僕ら』が勝てる。

 

「どうやら、もう手はないようだな。ならこのまま押し切らせてもらうぜ!」

 

鍔迫り合いの弧月に力が入るのがわかる。

………そうか、この状態なら、あれが使えるかも。

迷ってる暇はない。すぐに攻撃に移ろう。

 

「!」

 

いきなり太刀川さんの足から光るブレードが現れた。

 

「佐々木……テメェ」

「僕の武器はユキムラ(コレ)だけじゃないですよ」

 

少しでも多くダメージを与える。それが結果的に僕らの勝利につながるんだ。

そしてその状態からテレポーターで背後に瞬間移動し即座に攻撃。しかしそれは防がれる。

防がれることくらい予想通りだ。超短距離のテレポーター連続使用で翻弄しながら攻撃していく。フードで視線を隠してるため、瞬間移動先はわからない。しかし太刀川さんは勘なのかなにかしら感じ取ったのか、瞬間移動した瞬間の僕に攻撃を加えた。

体勢を立て直し、幻踊も混ぜながら攻撃していく。

だが太刀川さんはすぐに反撃に移ってきた。

 

「旋空弧月!」

「っ!」

 

太刀川さんの連続的な猛攻に再び追い詰められる。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

全ての斬撃を防ぐことはできず、トリオン体が削られていく。

 

「そら!」

「っ!」

 

一際強い一撃の勢いを殺しきれず吹き飛ばされ、屋上から投げ出された。

そして太刀川さんは僕にトドメを刺すべくすぐに追撃してきた。

 

「旋空弧月」

 

今の僕にグラスホッパーはない。

空中で身動きはほとんど取れない。

あの斬撃を防ぎきることはできない。

なら!

 

「ここだ」

「!」

 

テレポーターで背後へ飛んで、そのままユキムラを突きたてようとする。

しかし

 

「甘いぜ」

「な!」

 

ユキムラは刺さることなく空を切り、代わりに僕の左腕が消えた。

グラスホッパーで、太刀川さんは回避、そして攻撃したのだ。

 

「危なかったぜ。そら!」

 

そしてなす術もなく右腕も飛ばされる。両腕を失い、もう僕に防御する術はない。シールドではとても太刀川さんのブレードを防ぐことはできない。

 

 

詰み、か。

 

 

「楽しかったぜ、佐々木。これで終わりだ」

 

 

太刀川さんの孤月が僕の顔に迫ってくる。

終わる?このまま一矢報いることもできずに?秘策まで使ったのに、なにもできずに僕は終わるのか?

 

『また』比企谷くんの助けになることができないまま?

 

嫌だ。

まだ、終わってない。

どうせ終わるなら、せめて彼が少しでも戦いやすくするんだ。

 

そんな僕の思考とは裏腹に、弧月は僕の顔に迫る。

 

そしてそのまま僕の顔を

 

 

「なぁ!」

 

 

切り裂かなかった。

 

「歯ぁ⁈」

 

僕は、全神経を集中させ孤月を口で白刃取りした。どんなに不恰好でも、みっともなくても、僕は僕のできることを最大限やるんだ。

歯で孤月を抑えたまま無くなった右腕からスコーピオンを出し、太刀川さんに切り掛かる。

 

「んのやろ!」

「…っ」

 

部位欠損させたりすることはできなかったが、足を少し削り機動力を落とし、そしてトリオンもそこそこ削った。

 

「ふん!」

 

そして僕の最後の抵抗は虚しく終わり

 

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

僕はベイルアウトしてこの戦いでロクな戦果を上げることなく退場した。

 

 

『ハッチ、サッサンがベイルアウトした』

『わかった』

 

マジかよ太刀川さん、佐々木さんの秘策全部破ったってのか?相変わらず化け物じみてるなおい。

 

「っ!」

 

その瞬間、目の前をスコーピオンが通り過ぎる。

 

「佐々木が落ちて気が動転したか?さっきより反応が鈍いぞ」

「…んのやろ」

 

風間さんの相手してるだけでもきついってのに加えて出水に歌川もいる。出水は風間さんも攻撃してるけど俺の方に重点を置いてる。歌川は出水を足止めさせたりしてるがスキあらば俺を仕留めようとしてる。

あれ?これ詰んでね?

 

「……っ」

 

出水の弾もあるし、佐々木さんが落ちたってことは太刀川さんがこっち来るってことだ。そうなれば攻撃手のいない俺が圧倒的に不利になる。

もうトリオンケチってる余裕はねーな。

 

「グラスホッパー」

「お?」

 

グラスホッパーで下がっていき、ビルとビルの間に逃げ込む。

仕込みをして、レーダーを確認。

どうやらこっち来てるのは1人。多分歌川だろう。風間さんは出水を仕留める気だな。

 

さぁこい。

 

 

数分前

 

『歌川、お前は比企谷を足止めしていろ』

『足止めですか』

『お前といえども、比企谷を1人で仕留め切るのは難しいだろう。だがこのまま出水が残ってる状況で太刀川に合流されると厄介だ。だから俺が迅速に出水を仕留める。その間比企谷を足止めしろ』

『了解』

『目的は足止めだ。落ちないことを第一に考えていけ』

『はい!』

 

ーーー

 

来たのは予想通り歌川だけだった。

正直、今後の展開を考えて邪魔なのは俺より出水だろう。あの太刀川さんがいるのだ。同チームの出水の方が邪魔だと思うのは当たり前である。

そもそも出水は自分でとるより人にとらせる方がうまい。それで太刀川さんと組まれたらいくら風間さんといえども生きてられないだろう。

そら来た。

 

「はっ!」

「よっと」

 

歌川の斬撃を躱し、下がりながらバイパーを放つ。狙うは足。

 

「くっ」

 

僅かではあるが削ることに成功。だがこの程度では機動力はほとんど変わらないだろう。

歌川が距離を詰めてきて、次々と斬撃を放つ。しかしそれを俺はシールドを纏わせた腕で捌きいなし躱す。

しかしこのままではそのうちやられる。何より歌川が完全に攻め切ろうとして来ないのか厄介だ。多分、時間稼ぎでいいと思ってる。

 

ま、そんなこと予測済みだけどな。

 

「グラスホッパー」

「な!」

 

歌川の斬撃を躱した瞬間、グラスホッパーを起動。

しかし飛ばすのは俺ではなく歌川。胴体にグラスホッパーを当てて後ろへ弾き飛ばした。

 

「くっ……さすが比企谷先輩、予想外のことをしてくる」

「予想は裏切ってナンボだろーが」

 

でなきゃ勝てねーし。

そして距離が離れたから多分…

 

「メテオラ!」

 

そらきた。

 

 

そしてそれも

 

「計画通り」

 

歌川のメテオラが路地裏だからすぐに壁に当たり爆発する。

そして

 

 

俺の仕掛けたメテオラも大爆発する。

 

 

「んな!」

「時間稼ぎだけならどうにかなるって思ったか?」

 

悪いがこちらはガチだ。そんな生温い覚悟でこっちに来た時点でお前の負けだ。

 

「なら!」

 

お、逃げ切りは無理だと悟ったか?今度は取る気で来たな。斬撃が更に鋭くなった。

でもまぁ

 

「ここに来た時点でお前の負けだよ、歌川」

「え」

 

その瞬間、上から変化炸裂弾が降ってくる。

初めの仕込みでそこら中にメテオラを仕掛け、そして上に置き弾の変化炸裂弾を用意しておいた。ただそれだけ。あとは必勝のタイミングで変化炸裂弾を放てるようにするだけ。俺のサイドエフェクトを使えばこれくらいできる。

歌川は強い。一対一で初めからやればやられることもある。だがこれはチーム戦。多少卑怯でも勝てば官軍だ。

 

「…く、そ」

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

悪いな歌川、トラップなんて姑息な技で仕留めちまって。後でなんか奢るから許してお願いします君みたいな素直で性格のいい後輩に嫌われたら暫く引きこもる自信あるから。

 

でもまぁ、これからが本番なんだよな。

 

空に二筋の光が伸びる。

 

「…………」

 

表通りに出ると

 

「よぉ比企谷」

 

やっぱりいた。ボーダー1のバトルバカ。

残るなら風間さんか太刀川さんのどっちかだと思ったけどやっぱり出水いたし太刀川さんか。

同時じゃなかっただけマシか。

 

「………」

 

この人と一対一でやるの久々だな。

軽く息を吐き出し、前を見据える。

 

「いきます」

「こい」

 

ここで、貴方を超える。

 

 

解説席

 

「ここで状況が動いた!出水隊員を仕留めに行っていた風間隊長の元へ駆けつけた太刀川隊長が出水隊員の捨て身の拘束をモノにし風間隊長を倒した!」

 

出水は太刀川が近くまで来ていることを知っていたからわざと風間の攻撃を受け、風間を拘束。そしてその隙に駆けつけた太刀川が出水もろとも旋空で風間を斬り裂いたのだ。

もっとも、出水の分の点数は風間につけられたが。

 

「相変わらず出水は味方に取らせるのがうまいですね」

「そしてここで残った2人の一騎打ちが始まりました!この状況はどう思いますか東さん」

「そうですね〜普通にやれば太刀川が勝つでしょうけど、佐々木相手に結構消耗したっぽいですからどっちが勝ってもおかしくありませんね。比企谷もソロランク5位の強者ですし。佐々木が結構トリオン削ったしトリオン体も傷ついてるので比企谷が勝つ可能性も充分にありますね」

「琲世も結構いいとこまでいったんですけどね」

「全く結果が予想できないこの状況!バトルはさらにヒートアップしていってます!」

 

 

「旋空弧月!」

「アステロイド」

 

状況は今の所均衡している。間合いを離せば俺がバイパーでガンガン撃っていくが、少しでも距離が詰められたら太刀川さんが切ってくる。佐々木さんと訓練してなかったら多分もう落ちてたな。

休隊する前は基本佐々木さんに前衛やらせて後ろから取ってくって感じだったが、俺は距離詰められたら終わりだった。だから距離を詰められても大丈夫なようにしたのだ。

 

旋空を避けてビルの壁を走る。グラスホッパーでいろんなところを飛び回り、障害物を壁にして太刀川さんよりも高い機動力で削っていく。真っ向から勝負するよりこっちの方が可能性がある。

向こうもグラスホッパーかあるためそこまで大きな差はないけどね。

 

というかなんなのあの人。佐々木さんにちょっと足削られてるはずなのになんで俺にギリギリついてこられるの?機動戦士ガンダムなの?

 

そんな俺のムダな思考とは裏腹に

 

「っ!」

 

太刀川さんの斬撃はキレを増していく。

どんなにバイパーいいコースで撃ってもこの人はシールドの扱いもうまいから大体避けられるか防がれる。どんな戦闘レベルだよ。

 

「旋空弧月」

「っとぉ」

 

孤月が俺の眼前を通り過ぎる。そしてその際僅かに髪が切られた。本当にギリギリだったな今のは。あ、アホ毛は切らないでね。

どうにか孤月は流せてるが、このままいけばジリ貧は必然。さて、どうする。この状況じゃロクな仕掛けもできないだろうしそもそもあの人に生半可な戦法じゃ返ってやられる。

 

「…………」

 

ならここはもう

 

「押し切る」

 

フルアタックバイパーで10×10×10で計1000の弾丸を降らせる。脳筋かもしれないけど二宮さんもよくやってるし脳筋とは言わせない。

 

「ぐ………相変わらずふざけたトリオンだなぁ!二宮にますます似てきたじゃねぇか!」

 

太刀川さんはもう結構削れてる。佐々木さんが頑張ってくれたし風間さん仕留める時にもちょっと傷負ったみたいだ。ならもうあとは全力で押し切るだけだ。

ま、ゴリ押しだけじゃないんだけどね。

 

「ちっ…」

 

この状況はまずいと思ったのか、太刀川さんはビルの陰に隠れた。その瞬間、俺は再びバイパーを放ちできる限りの仕込みをする。普段ならこんなにトラップ類使わないんだけど、今回は仕方ないよね!相手が相手だもん!

 

と、そんな無駄思考を働かせながらせっせと工作してると

 

 

「旋空弧月」

 

 

左腕が消えた。

 

 

「……⁈」

 

この人、ビルごと俺を切りにきやがった!確かに理論上は可能だけど普通やるか⁈

この距離……確かにギリギリ旋空で届くな。劣化版生駒旋空ってところか。

 

「くそ、トリオンがもったいねーじゃねーか」

 

勿体無いお化け出てくんぞこのやろう。

そしてビルの陰から出てきた太刀川さんは一気にこちらに迫ってくる。これ以上長引かせる気はないってか?

 

徹甲弾(ギムレット)

 

ギムレットを放ち牽制するが

 

「甘い」

 

そのギムレットを太刀川さんは切り裂きながらこちらに向かってきた。

 

「マジかよ…」

 

一応濃霧の中だぞ?なんでできんだよ。

でもまぁ、近寄ってきてくれないとうまくトラップが発動できないんだがな。

 

ここだ。

 

「バイパー」

「?どこ撃ってんだ?」

 

そりゃもちろん

 

マンホールの中だよ。

 

凄まじい爆音と爆炎がマンホールから放たれる。

その爆発により太刀川さんは空中へと放り出される。

 

「⁈テメェ!なにしやがった比企谷!」

「ちょっと破壊工作をね!」

 

さっきの工作はマンホールの中に大量にメテオラを入れておいただけだ。射程、弾速0で威力100のメテオラだ。多量に爆発させればトリオン体でも空中に放り出せる。

本当ならもっとマシなトラップにしたかったが、あいにく時間も余裕もなかった。

そして空中に放り出された太刀川さんは

 

「グラスホッパー」

 

グラスホッパーを使う。濃霧でよく見えないが俺のサイドエフェクトにかかればどこにいるかくらい分かる。

トリオンも残り少ない。フルアタック二回できるかどうか。

 

ここで仕留める。

 

「バイパー!」

 

バイパーが、太刀川さんの方へと放たれる。太刀川さんは空中。グラスホッパーがあるとはいえ、できる動きには限界がある。これなら防ぎきれない!

 

「ぐあっ!」

 

よし、両腕を潰した。これでもう俺らの勝ちだ。スコーピオンならともかく、弧月を腕無しで扱うことはできない。そしてそのまま地面に叩きつけられる太刀川さん。

 

「トドメだ!」

 

確実に仕留めるために少し近づきバイパーを放とうとする。

 

だがその瞬間、凄まじい速度で太刀川さんが近寄ってきた。

グラスホッパーか!やべ!躱しきれない!

 

次の瞬間、俺の心臓部には弧月が突き刺さっていた。

 

「な……」

 

太刀川さんは、なんと口で弧月を咥えて俺に突き刺したのだ。

 

「マジかよ口とか……」

「佐々木が同じように口使ってまで俺に食い下がったんだ。俺もそんくらいしなきゃな」

 

……ちくしょう。最後の最後で、詰めを誤ったか。読み逃したな…最後の動き。ここまでしてくるなんて思いもしなかった。

 

「ここまで……来たのに……」

「悪いな比企谷、今回は俺らの勝ちだ」

 

 

 

『戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

 

 

こうして、俺たちの頂点への挑戦は敗北に終わった。

 

 

「………」

 

知ってる天井だ。

 

なんて冗談はさておき、いやはや見事にやられたわ。

 

「ハッチ、お疲れ」

「お疲れ様、比企谷くん」

「すんません、最後仕留めきれませんでした」

「ううん、まさか太刀川さんがあそこまで食い下がるとは僕も思わなかったし」

「ま、今回はうちの負けね」

 

完敗だ。主に実力面で。頑張ったんだけどなぁ……。

 

「総評始まるよ」

 

佐々木さんの声に顔を上げてモニターに目を移す。

 

『今回の比企谷隊の思い切った戦い方に加え、周到に用意された作戦を見事打ち破った太刀川隊。この試合を振り返ってみていかがでしたか?』

『そうですねー風間隊が見事に比企谷隊の術中にハマってしまった感じがしましたね。濃霧という視界が恐ろしく悪い中でまず活躍するのが菊地原なのですが、それを見越して比企谷隊は真っ先に菊地原を落としに行った。そして作戦通り落とされてしまった。これが風間隊の敗因でしょうね』

 

菊地原いたら濃霧の中だと厄介極まりないだろう。だから先に落とした。俺を囮にしてな。それだけだ。

 

『しかし比企谷隊は惜しかったですね。琲世も太刀川さん相手にかなり食い下がったおかげでかなり太刀川さんにダメージを負わせられたんですけど』

『そこについては運も絡んできますからね〜。まぁでも孤月使い相手に両腕落としたら油断だ出てしまうのは仕方ないと思いますよ。スコーピオンと違って体のどこからでも出せるってわけじゃないですし』

 

口使ってくるなんて誰が思うよ。キングブラッドレイかよ。

 

『でもまぁこの試合、正直比企谷隊が勝ってもおかしくなかったでしょうね』

『と言いますと?』

『最後に太刀川があそこまで食い下がろうとしなければ、多分比企谷隊が勝ってたでしょうからね。それ以前に、あそこまで佐々木にダメージ与えられた太刀川なら比企谷単体でも勝ち目は十分にあったと思います』

『では運が今回の2人の最終決戦の勝敗を決めたということでしょうか?』

『いえ、違いますね』

 

………だろうな。なんとなく察しはついてる。

 

『今回は、心の持ち様だと思います』

『あ、東さん?どういうことでしょうか?』

『今回、比企谷は太刀川相手に真っ向勝負で勝てない前提(・・・・・・)で最後の勝負に挑んだ。太刀川の普段の実力を考えたらまぁ間違った判断ではないでしょうけど、今回はそれが仇となった。太刀川は既に満身創痍一歩手前くらいまで負傷していた。なら真っ向勝負した方が、勝率は高かったと思います。下手にトラップを仕掛けてトリオンを無駄遣いした比企谷の負けです』

 

ぐう音もでねー。本当その通りだ。負け腰で挑んで下手にトラップに頼って、勝負するのを躊躇った。今になって思えば、その通りだ。

 

『一応比企谷もソロランクトップ5に入ってるんだから、もうちょっと自分を信用した方がいいと思いますね〜』

 

東さん、そのトップ5の中で俺はビリですよ?いやまぁそれ言っちゃ終わりなんですけどね?

 

『彼はもう少し精神面を鍛える必要がありそうですね』

 

そんなこといい笑顔で言わないで嵐山さん。心が折れる。

 

『太刀川隊は特に出水がいい立ち回りしましたね。比企谷と風間の足止めと、最後に捨て身で風間を抑えた場面。あれがなければ風間隊が勝ってた可能性も十分ありえましたからね』

『そうですね、出水は人に取らせるのがうまいですから。その点では比企谷と同等かそれ以上のレベルでしょうね』

 

ぐぬぬ、言い返せんなこれは。特に今回の試合だと特に。

 

『では時間も押してるのでこの辺りで総評を終わりたいと思います!今回の試合で今シーズンの試合は最後です!そして最終順位はこのようになりました!』

 

1位太刀川隊

2位比企谷隊

3位冬島隊

4位風間隊

5位草壁隊

6位影浦隊

7位嵐山隊

8位加古隊

9位三輪隊

 

『今シーズンのランク戦皆様お疲れ様でした!解説に来てくださった皆様にも感謝申し上げます!それでは皆様、来シーズンまたお会いしましょう!ありがとうございましたー!東さん、嵐山さん、ありがとうございました!』

『こちらこそありがとう』

『また呼んでくれ!』

 

こうして今シーズンのランク戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

そしてその時俺たちは知る由もなかった。

 

 

来シーズン、ランク戦に参加できなくなることなど。

 

とは言ってもうちはあんま順位に興味ないからいいんだけどね。

 

 

「…………」

 

2位か。まぁ十分すぎるだろう。

でもまぁ、あんだけしっかり準備してって負けるから割とショックだわ。

まぁ今回は俺が悪いな。

 

「すんません、東さんの言う通りっすわ。確かに負け腰だった。それじゃ勝てるもんも勝てないよな」

「気にしなくていいよ。僕も特に戦果あげてないしね」

「唯我は戦果に入んないの?」

「あれは運だよ。たまたま近くに唯我くんがいただけだし、他の人が近くにいたらその人が取ってただろうし」

 

今どこかで吐血したような音が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだな、うん。

 

「はぁー……頂点は遠いなぁ…」

「ま、次頑張りましょ。反省会はまた今度でいいよね?じゃあご飯いこ!あたしお腹すいちゃった」

「いいね、行こっか」

「サッサンが作るって選択肢は?」

「今日は勘弁してよ…」

「じょーだんよ!ほら、いくよハッチ!」

 

……気ぃつかってくれてんのかねぇ。いや、使うわけねーか。

 

「わーったよ」

 

これで全部終わったわけじゃない。

 

また次やってその時勝てればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、今日はラーメンハッチの奢りね」

「解せぬ」

「あはは……」

 

やっぱ気ぃ使うわけねーよな。うん、知ってた。

 




もっと風間さん活躍させたかったけど字数的にも作者の力量的にも時間的にも無理でした。

今回のトリガーセット
八幡
メイン
バイパー
アステロイド
メテオラ
シールド

サブ
バイパー
アステロイド
グラスホッパー
シールド

琲世
メイン
ユキムラ(改造弧月)
旋空
幻踊(改)
シールド

サブ
スコーピオン
テレポーター(試作)
バッグワーム
シールド





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