目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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生徒会選挙編です。


……しかし、毎度のことながら更新が遅い。申し訳ありません。


5章 生徒会選挙編
43話 面倒事は、常についてまわる。


修学旅行が終わると一気に寒さが厳しくなってきて上着無しで行動するのは自殺行為とも言えるようになってくる。しかしコートやマフラーを必要とするほどの寒さではないから少し重ね着をすればどうにかなる程度だ。

 

修学旅行の後、葉山一派は特別何も変化せず普通の日々を過ごしている。もしかしたら俺が知らないだけでなにかしら起こってるのかもしれないが、そんなこと俺には関係ないため気にすることはない。

学校も終わり、奉仕部の方も特になにもなく下校時刻になりダラダラと家に帰る。

 

そう、なにも変わらない日々だ。

 

だが俺のサイドエフェクトが近々なにかあることを予感していた。それも面倒事の類。その面倒事がいつになるかビクビクしながら生活していること以外は本当になにも変わらない日々。

 

「平和って素晴らしいわ」

 

いや本当マジで。こんな風にマンガ読みながらゴロゴロしてられるほど平和って素晴らしいと思う。

 

「まるで世の中は平和じゃないみたいな言い方だねお兄ちゃん」

「なにを言っているんだ小町。世の中は平和じゃないだろう。仕事というモンスターに追われてる社畜がごまんといるんだからな」

「お兄ちゃんも例外じゃないじゃん」

「それを言うな小町、昨日沢村さんに(佐々木さんが)押し付けられた仕事のこと思い出しちゃうから」

 

昨日急にダンボール持って帰ってきたと思ったらその中には大量の書類。これを今週までにやれとか俺らに死ねと言ってるようなもんだ。そして当の佐々木さんは

 

「いやー、響子さんに頼まれちゃった〜」

 

と供述している。

だが俺はいろいろと我がまま聞いてもらってるから逆らえないんだよね!そしてそれを受ける佐々木さんも佐々木さんだよな。あの人スキルで『菩薩EX』とか『幸運E』とか持ってるんじゃないの?

 

「それは忘れちゃダメでしょお兄ちゃん」

「世の仕事が無くなればハッピーになると思う」

「そしたら世界は崩壊するよ。それになんだかんだ言いながら最後はちゃんとやるじゃん」

「それはな小町、仕事はサボったりしたら余計後が面倒になる。だから俺はできる限り楽をするために仕事を率先して終わらせてるだけなんだ」

「お兄ちゃんがまともなこと言ってる〜」

 

おいコラそこの可愛い可愛いマイリトルシスター、俺を一体なんだと思ってるんだ。

 

「ほっとけ。でもそれは勉強にも言えることだからな。今のお前には言わなくてもわかってるだろうけど」

「まーね」

「そーいやこの前の模試の結果はどーだったよ」

「お?それ聞いちゃう?」

 

なんだよ。ニヤニヤしてねーでさっさと出せよな可愛いらしい。おっと、無意識に小町への愛が……。

 

「じゃーん!」

 

どれどれ……。

 

「ほお、総武高校評価Aか。頑張ってんじゃねーか」

「へっへへーごまんとの努力の成果なのです!」

 

ちょっと前までBとかCを行ったり来たりしてたのにな。大した進歩だ。

 

「よし、ご褒美に今日は俺がうまいもん作ってやる」

「え!本当⁈なに作ってくれるの⁈」

「天ぷら」

「え、お兄ちゃん天ぷら作れんの?」

「佐々木さんにならった」

「さすがママン……」

 

その夜、俺と小町は多量の天ぷらを平らげたのだった。うむ、やはり天ぷらは天つゆに限る。小町は塩派だけど。

 

 

翌日放課後

 

なんだかんだで俺はちゃんと防衛任務が無い時は奉仕部の方に顔を出してる。あそこは由比ヶ浜が雪ノ下に話しかけまくってる声がする以外に基本物音がしない静かでいい空間だ。勉強や読書にうってつけだろう。どことなく空気が堅い気もするが、それは多分修学旅行の時のアレが引きずってるからだと思う。

ならサボって本部に行けばいいのだが、本部の作戦室だと時々米屋とかがサザエさんの中島の「磯野野球しよーぜ!」と言わんばかりに「比企谷ランク戦しよーぜ!」って来るからな。それにそもそもちょっと堅い程度で気まずいほどではないのだ。

 

現在俺は部室で勉強ではなく読書をしている。理由は特にない。ただ今日は気乗りしなかっただけだ。

 

そのまましばらく由比ヶ浜と雪ノ下の話し声だけが聞こえる空間が続いたが、それを破るように部室の扉が開かれた。

 

「邪魔するぞ」

 

それは平塚先生だった。気配でなんとなくわかってはいたがな。というか最近俺見聞色の覇気でも身につけたのかと思うくらい気配感知がうまくなってるな。スキル『気配感知B』くらいになってんじゃね?

 

「今は大丈夫かね?」

「構いませんが……どうかしたのですか?」

「よし、入ってきたまえ」

 

そう言われて入ってきたのは城廻先輩だった。

 

「こんにちは〜」

 

おおう面倒事の予感。城廻先輩ではなく後ろにいる気配がその元凶だと思う。理由は勘だ。

 

「ど〜も〜」

 

入ってきたのは、亜麻色の髪をした女子生徒だった。

 

「あ、いろはちゃん!」

「結衣先輩!こんにちは〜」

「久しぶり〜」

 

ほう、この様子からすると由比ヶ浜はこの女子生徒と知り合いなのだろう。まぁ、今時女子高生って感じだもんな。

ふとその女子生徒と視線が合う。すると女子生徒は困ったように軽く微笑んできた。

 

なにこれあざとい。というかさっさと要件を言えや。

 

ーーー

 

「生徒会長候補者?」

 

生徒会長?こいつが?なにそれ向いてなさそう。

 

「あ、今向いてなさそうとか思いませんでした?」

「さぁ?」

 

なんでわかんだよ。

 

「よく言われるからわかるんですよー!トロそうとか、鈍そうとか〜!」

「そーかよ」

 

……あざとい。目に見えてわかるくらいあざとい。なんかちょっとイラッとするし。こいつ男子はともかく女子にはめっちゃ嫌われるタイプだろ。

というかさっさと要件言えやマジで。

 

「それで、どうしたのですか」

「その……一色さんは生徒会長に立候補してるんだけど……当選しないようにしたいの」

 

ならなんで立候補した………ああ、なーんかわかった。あくまで予想だけど。

 

「それって……生徒会長やりたくないってこと?」

「はい、そうですね」

 

即答かよ。

 

「ならなんで立候補したのかしら?」

「えーっと、私が自分で立候補したんじゃなくて〜、勝手にされてて〜」

 

やっぱりか〜……そーだと思ったわ。絶対こいつ女子に嫌われるタイプだし。男子を手玉にとるタイプだ。中学にもいたわ、ジャグラー並に男子を手玉にとるやつ。

 

「やりたくねーなら落ちりゃいいだろ。というか他に方法ねーだろうに」

「それが……立候補が一色さんの他にいなくて……」

「となると、信任投票ということになりますね」

「信任投票で落選とか超カッコ悪いじゃないですか〜」

 

なぜお前のメンツをこちらが立ててやらにゃならんのだ。

 

「難しいですね……信任投票で落選するのができないとなると、誰かしらもう1人立候補するようにするしか方法がないので……」

 

そんなやつがいるとは思えんがなぁ。なにしろそんなやる気があるやつならすでに立候補してるだろうし。

応援演説でクソみたいな演説をすることによって不信任にする、という手もあるが、これは厳しいだろう。仮に不信任になったとしても再選挙なんてそんな七面倒くさいことするはずがない。そもそも生徒会なんて一部のイベントがある時くらいしかロクに表に出てこない。つまり、みんなそんなに生徒会の存在を気にしているというわけではないのだ。

仮に、さっきのクソみたいな演説をする、という案でいったとしてもその演説をやるやつがいない。そんな都合のいいやつはいないだろう。俺がやってもいいが………

 

『……もう、そういうことしないで。君が傷つくとね、一緒に傷つく人がいるってことを、お願いだからわかって』

 

目に涙を溜めながら俺を見る一番古い付き合いのあるやつの顔と言葉がフラッシュバックする。

 

『君は優しい。だから、きっと君に救われた人はたくさんいると思うんだ。まぁ残念なことにその救われた人が救われたという意識があるかはわからないけどね。でもね、比企谷くん。君のそのやり方は、本当に救いたい人が出来た時に、なにもかも取りこぼすやり方だよ。僕は経験者だから、よくわかるんだ』

 

白髪が色濃く混ざった髪をしたお人好しな笑顔をする青年が、悲しそうに笑う顔と言葉が脳裏をよぎる。

 

ま、できるはずがないよな。

 

「うーん……他には……」

「すぐに結論は出そうにないな。また後日にしよう」

 

その平塚先生の言葉でその日の会議(?)は幕を閉じた。

 

 

学校を出てチャリをぼんやりこぐ。今日は、防衛任務ねーしちょっとダラけていってもいいか。なんか疲れたし。いつもダラけてると言ってはいけない。

ふと目にミスドがとまる。

 

 

 

 

……ちょっと食ってくか。

 

ーーー

 

適当にドーナツを選んで会計を済ませて空いてる席に移動しようとする。

 

「あれ?比企谷くんだ」

 

振り向くとそこには魔王がいた。

なぜこういう時は反応しない!我がサイドエフェクトよ!お前が訴えかければ俺はここには来なかった!

 

さて、どうする。この場合選択肢は3つ。

 

1、戦う。

2、適当に会釈して逃げる。

3、ガン無視して逃げる。

 

選択肢の3分の2が逃げるって時点で終わってる気がする。ここは3で行こう。三十六計逃げるに如かず!

 

「なにも逃げることないじゃなーい」

 

そう言って魔王は俺の横に移動してきた。デスヨネ!わかってた!ここに来た時点で俺の運命は決してたんだよね!

 

「ねぇ比企谷くん」

「………」

「なんか面白い話して」

「そんな面白い話なんてありませんよ」

「そのすっごい嫌そうなリアクション!やっぱ君面白いな〜」

 

あれーおかしいなーなんでこの人俺にこんな話しかけてくんのー?俺最後にこの人に超喧嘩売ったようなことしか言った記憶ないよー?

 

「雪乃ちゃんは元気〜?」

「いつも通りっすよ」

「ハイセくんは?」

「最近また仕事持って帰ってきました」

「あっはっは!さすがハイセくん。で〜?なんか進展あったの?」

 

なんのだよ……。

 

「最近修学旅行あったんでしょ〜?」

 

なんで知ってんだこの人。

 

「実家にお土産送られてきたの」

「ナチュラルに心読むのやめてくれません?」

「君がわかりやすいだけだよ〜」

「ほっとけ……というかわざわざ宅配便でお土産届けるって……。律儀か」

「あれはそういうのじゃないと思うよ〜」

 

はい?なんでもいいからさっさと帰ってくれませんかね?

 

「嫌いだけど、嫌われたくはないんだよ」

 

相変わらず雪ノ下はよくわかんねーな。嫌いなやつになら別に嫌われてもいいだろうに。まあでも、家族だからそう単純なことでもない、か。

 

「そーなると、もうあと大きな行事もないからあとは受験に集中ってところ?退屈じゃない?」

「そーですね」

 

もともと学校は退屈なとこだけど。

 

「あと今年あるのは生徒会選挙くらいですかね」

「あーもうそんな時期か。めぐりももう引退か〜。どーせめぐりのことだから雪乃ちゃんに生徒会長やって〜とか言ったんじゃない?」

「いや、そういうことはなかったですね」

「へぇ、意外」

 

あいつが生徒会長ねぇ……なーんか想像したくない。俺に優しい世界じゃなくなりそう。

 

「ま、私はやらなかったけどね」

 

知らんわ。

 

「はぁ……つまんないなー」

 

そういう魔王の声は、酷く冷たくドス黒いものだった。

そしてこの感じは以前にも見たことがあった。

 

『なんで僕が君みたいな(ゴミ)助けないといけないんだ?』

 

そういう時の佐々木さんと、似ていた。正直佐々木さんの方が怖かったけど。

闇ササキは、もしかしたらこの魔王から生まれたのかもしれない。

 

「ん?なに?」

「いえ、別に……」

 

ちょっと怖かったですなんて言えるはずもない。

 

「というかそれなに読んでんの?」

 

露骨に話題変えたなこの人。

 

「……巌窟王、モンテ・クリスト伯……」

「古。なんでそんなの読んでんの?」

「作戦室にあったんすよ。佐々木さんのですけど」

 

「あれ?比企谷?」

 

そんなクソどうでもいい会話にはいってくるやつがいた。

声がした方を見ると、そこには軽い染めた茶髪にウェーブをかけている女子高生がいた。

というか、折本だった。

 

「よお、折本か」

「うっわ超懐いんだけど!レアキャラじゃなーい?」

「人のことを珍しいポケモンみたいに言うな」

「なにそれ、ウケる」

 

ウケねーよ。

俺は今日、ここにくるべきではなかった。この時心からそう思った。別に俺は折本となにかあったわけではない。ただボーダーに入る前の時代の中学の連中になんぞあってもなんにもならない。疲れるだけだ。

だが俺はここにまったりとした憩いの時間を求めてきたのだ。なぜこんなどうでもいいやつらと会話せにゃならんのだ。

 

「比企谷くん、友達?」

「いえ、中学でクラスが一緒だっただけです」

「そうだよねー、比企谷くんが友達ってないもんね〜」

 

それはそれでなんか傷つく!

 

「で、で、実際のとこどうだったの?なんか恋バナとかそういう系はないの?」

「いやぁ本当になんもないですよ?比企谷とはクラス一緒で時々話したり、メールしたりする程度でしたから」

 

本当にそれしかないから他になんとも言いようがない。

 

「なーんだつまーんなーい!」

 

知るか。

 

「あれ、比企谷って高校どこだっけ」

「総武」

「へー比企谷ってやっぱ結構頭よかったんだ〜。あ、総武ならさ、葉山くんいるじゃん」

 

なぜそこで葉山が出てくる。

 

「比企谷知り合いだったりする?」

「顔と名前が一致してる程度だ」

「おお〜マジ?ほらチカ紹介してもらえるかもよ」

「ええ〜私はいいよ〜」

 

いや話聞けよ。

クソ、なぜこういう日に限って防衛任務がなかったのだ。帰りたい。これなら米屋とランク戦してた方が何倍もマシだ。

 

「んふふ〜面白そうなことになってきたな〜」

 

嫌な予感しかしねぇ!

 

「すんません帰りまっ!」

 

ヒールで!足の小指を踏むな!痛い!

 

「はーい!お姉さん紹介しちゃいまーす!」

 

そう言って魔王はスマホを取り出し、電話をかけはじめた。

嫌だ!面倒くさい予感しかしねぇ!帰りたい!

 

 

「じゃー葉山くんまたねー」

 

そう言って折本たちは帰っていった。

……もう帰っていいよね?

 

「……どうしてこんなマネを?」

「だって面白そうだし」

 

それに付き合わされるこっちの身にもなれよな。

 

「またそれか……」

 

この時だけ、俺は心の底から葉山に同情した。

 

「で?どうして彼も?接点なさそうなのに」

「実際大して接点ねーよ」

「あのパーマの子、比企谷くんの昔のクラスメイトだったんだってー」

「はぁ……」

 

葉山は「え?それだけ?」って顔をしている。うん、俺も逆だったらそういう顔してると思う。

 

「うん。いい感じに時間も潰せたし、私は行くね。比企谷くん、付き合ってくれてありがとう」

「どーでもいいんでさっさと消えてくれませんかね?正直あなたのことは親の仇くらいには思ってますから」

「ええ〜酷〜い!」

 

そう思われても仕方ないでしょうに。さすがに親の仇は誇張してるけどね。

 

「じゃ、まったねー」

 

そういって魔王は去っていった。嵐みてーな人だな相変わらず。

んじゃ、俺も帰るとするか。

 

「君は陽乃さんに好かれているんだな」

「あれを好いてる、というのかは些か疑問だが?」

「彼女は、興味のないものにはちょっかい出したりしないよ。……なにもしないんだ。彼女は好きなものに構いすぎて殺すか、嫌いなものを徹底的に潰すのどちらかしか」

「デッドエンドしかないのかよ」

 

どちらにしろ、あの人に関わるとデッドエンドしかないのね。

確かに佐々木さんはデッドエンドになりかけたしな。

 

「安心しろよ、俺は潰されないから」

 

それだけ言うと俺はミスドを後にした。

俺単体ならともかく、束になりゃあの人にも潰されねーよ。

 

 

翌日

 

結局今日の会議もロクに進展しなかった。もう1人誰かしら候補を立てるという方針は変わらないのだが、その候補をどうやって探すかだ。しかも一色は

 

「私的には〜すごい人に負ける〜ってのがいいんですよね〜!」

 

とかほざきやがる。ふざけんな余計ハードル上がってんだろ寧ろお前が自分で見つけろやうちは何でも屋じゃねーんだよ。……あれ?違うよね?

でも最近マジで何でも屋になりつつある。この前の修学旅行だってあれなにも自立を促してねーじゃん。いや最後は自分で行こうとしたから促してんのかもしれねーけど内容だけみたら完成にただの何でも屋になりつつあんじゃん。

 

 

 

奉仕部の理念って、なんだっけか。本当。

 

 

 

ーーー

 

 

そのあと、俺は太刀川隊との防衛任務があったため早めに会議を抜けてきた。防衛任務が終わり次第太刀川さんは本部長に連れていかれた。なにしたんだ今度は。

そして作戦室でそのことを台所に立ってコーヒーを淹れる佐々木さんに愚痴ってた。

 

「以上が、今回の依頼内容っすよ」

「あはは、それはまた面倒そうなのが来たね」

「ハッチって本当面倒なことに縁があるわね」

「そーだなぁ。なーんか前の文化祭の時もそーじゃなかったか?」

「なんだその嬉しくない評価……ってお前いつからいた出水」

 

なぜか出水が知らぬ間にいた。なんでだ。

 

「ああ?最初から」

「どこが最初なのかがわかんねーよ」

「防衛任務終わってすぐ。戻る時に佐々木さんに会ってコーヒー淹れてくれるっていうからついてきた」

 

マジか。全く気づかなかった。出水のやつまさか『気配遮断A』とかスキル持ってんじゃない?

 

「しっかしなぁ、その……一色だったか?そいつもそいつでなんだかなぁ…」

「ん?」

「自分のせいで立候補させられてるってのに、『信任投票で落ちるのはやだー』とか、『すごい人に負けたいー』とか、ちょっとわがまま過ぎじゃね?」

「その手のタイプの女子は大抵わがままよ。本人は自覚してないんだろうけどさ」

 

ご尤もだ。

 

「なーんかいい案ないっすか佐々木さん」

「そこで僕に聞く〜?」

「女子の扱いに手慣れてそうじゃないっすか」

「確かに。佐々木さん女子慣れしてるじゃないっすか」

「ええ〜そんなにチャラそう?僕」

 

チャラいのではなく……こう……ねぇ?

 

「うーん、僕はその手の女子はあんまり関わりないんだよね。なんか知らないけどそういう子からは避けられてるというかなんというか……」

 

多分、佐々木さんの菩薩オーラに謎の天敵臭を感じたんだろうな。

 

「あーでも関わりが全くなかったわけじゃないんだ。まぁ、僕にも合わないからこちらからも関わりに行かないってのがあるんだけど……。それでその僅かな経験から言わせてもらうと、その手のタイプの子はわがままだけど周囲に流されやすくて、それでいて真摯な言葉には弱い。だから説得とかはしやすいんだ。だからどうにかしてその子をやりやすい方向に説得してみたら?」

 

説得しやすい……か。

 

「……言ってみて思ったけど、これ役にたった?」

 

佐々木さんは俺らの前にコーヒーを差し出しながら困ったように笑った。

 

「……ええ、大いに役立ちました」

 

さすが、女子慣れしてるだけありますわ。

 

 

 

 

 

 

「よし、今からスマブラしようぜ」

「出水、お前今の時間わかってる?」

 

深夜4時だ。もう寝たい。

 

 

次の日の学校も終わり、放課後の防衛任務も終えて帰宅する。途中食材補充のためにスーパーに寄った程度で特に特筆すべきことはない。

自分で飯を用意して、食べる。我ながら最近料理スキルが上がってきてることを感じる。さすがわれらのママン(佐々木さん)、人に教えるのもうまいとは。小町は塾があるため今日も遅い。

 

「食った食った……」

 

食事を終え、食器も洗い終わりコーヒーを淹れて一息つく。カマクラが俺の横に近づいてきて丸くなり寝始めた。

カマクラをモフりながらコーヒーを飲んでると、スマホが振動する。ボーダーの方のスマホではないから学校関連の人間からだろうか。そこで表示された番号を見るが……

 

「……なんだこの番号」

 

知らない番号だった。もしかしたらなんかあって緊急の連絡かもしれないからとりあえず出てみるか。

 

『お、出た出た。ひゃっはろー比企谷くん』

「人違いです番号間違えてますかけ直してください」ブツッ

 

よし、これでなにも問題ない。再びカマクラをモフるとしよ……

 

ブー、ブー、ブー

 

………出ない。出ないぞ俺は!負けてたまるか!

そう決意し、しばらく放置しているとバイブは収まった。よし、諦めた……ん?ライン?

 

『雪ノ下陽乃 電話出ないと家まで行っちゃうぞ★』

 

な ん で だ

なんで俺の連絡先知ってんだよ!教えた覚えねーぞ!怖いよ!

再びスマホが振動する。おとなしく出た方がよさそうだ……。

 

「なんすか」

『おー出た出た感心感心。比企谷くん電話切るなんて酷いよ〜。お姉さん泣いちゃうぞ〜?』

「好きにしてください。それと、さっさと要件を言ってくれます?」

『なーにーお姉さんと話したくないの〜?』

「話したいか話したくないかだったら話したくないですね」

『酷〜い!』

「で、何の用ですか?暇つぶしとかだったら速攻で切りますよ」

『違うよーちょっとお願いがあるんだけどー』

 

ええ……嫌な予感しかしない……。

 

『なんか隼人がねー、今度この前の折本ちゃん達と遊びに行くことになったんだってー』

「で?」

『それに比企谷くんも連れてきてほしいんだって』

「おことわる」

『うーわ即答』

「というか俺の連絡先どっから入手したんすか」

『ん〜?妹ちゃんから』

 

よし、後で小町再教育プランを立てよう。

 

「……で?なんで俺が行かにゃならんのですか?」

『隼人が呼んでほしいーって言ってきたの』

 

だからなんでだよ…。

 

『隼人があんな風に人に頭下げてお願いするなんて珍しいよー。アレで結構プライド高いから』

「知りませんよそんなこと。俺には関係な……」

『それに、そうまでして比企谷くんを連れて行きたい理由も気になるのよねー……』

 

……まぁ、ただの数合わせってわけじゃないだろうな。それなら戸部とか呼ぶだろうし。

 

『とーにーかーく、別に折本ちゃんとかと気まずくなるようなことがあったわけじゃないんだから行ってね。でないと家まで迎えに行っちゃうからねー』ブツッ

 

………あの大魔王だ。マジで来かねない。

いくしかないのかねぇ……。

 

「あー面倒くせぇ……」

 

ま、いっか。陽乃さんの言うように折本とは特別気まずくなるようなこと無かったし。中学の連中の中ではまだ話せる方だしな。できるだけ空気になってりゃいいんだ。(諦めた)

 

 

「悪い、付き合ってもらって」

 

千葉駅前、集合場所。葉山の謝罪から始まった。

 

「全くだ。なんでここまでして俺を呼んだんだよ」

「はは……」

 

葉山は誤魔化すように笑うだけ。なんの意図があるのやら……。

 

「お待たせー!」

 

そうこうしてるうちに折本達が到着。

 

「よっす、比企谷」

「ん」

 

軽く挨拶を交わし、移動を開始する。

葉山を女子高生2人が挟んで俺が後ろからぼんやりついていく、という形になった。その方が気楽で俺はいい。このまますーっとフェードアウトしていってもいいかな?

と、そんな俺の考えを見透かすように折本が俺の隣にくる。なんだよ。

 

「そーいえば比企谷ってさ、ボーダー入ってたよね」

 

へー、そんなこと覚えてたんだ。

 

「よく覚えてたな。俺の存在ごと丸々忘れてるまであったと思ってたのに」

「なにそれ、ウケる」

「………」

「うちの中学でボーダー入ってたのって多分比企谷くらいじゃん?もしかしたら他にもいたかもしんないけど、ウチが知ってたの比企谷だけだったから覚えてた」

「ほー……」

 

うちの中学他にも誰かいたっけか……。

 

「まだ続けてんの?」

「ああ」

「へー、とっくにやめたかと思ってた」

「失礼だな」

「あっは。でさ、ランクとかってどんくらいなの?」

 

ネットでみろやそんくらい……。

 

「A級2位…」

「うっそA級2位ってあの嵐山隊より上じゃん。じゃあ嵐山隊の人とかよく会うの?」

「仕事仲間だ。会うに決まってら」

「マジ⁈今度紹介してよ!」

「無理だろ。あの人たち仕事ばっかなんだから」

 

特に嵐山さんとかは絶対来ない。佐鳥なら来るだろうけど。

 

「ダメかーボーダーの人と知り合いになってみたかったんだけどなー。まー比企谷もボーダーだしいっか」

 

それだけ言うと折本は葉山の隣に戻っていった。

 

「……面倒くせぇ」

 

俺は1人そう呟いた。

 

***

 

おまけ

 

本部開発室

 

「こんにちは〜頼まれてたレポートの整理終わりました」

 

本部開発室に1人の青年が入ってくる。名を佐々木琲世。A級2位比企谷隊の攻撃手だ。

彼はそのレポートを纏める能力や頭の回転の速さを買われよく開発室を手伝っている(社畜とは言ってはいけない)

 

「む、できたか。ご苦労」

 

そう琲世に形だけの労いを言うのは鬼怒田開発室長。琲世を(いいように)扱う目の下にクマを常に作った(デキる)タヌキである。

その鬼怒田は今はちょうど休憩時間なのか、カップ麺を食べていた。基本休まず徹夜ばかりしているのに加えて食事はカップ麺というなんとも不健康な生活だ。

 

「どうぞ」

「………ふむ、まあまあといったところだな、此度の研究結果は。もう少し研究を続ける必要があるだろう。よし、ご苦労だった。給料はちゃんと振り込んでおく」

「ありがとうございます。………またカップ麺ですか」

 

そしてここで琲世のママン気質がカップ麺を捉えた。

 

「仕方無かろう。こちとら仕事が山積みなのだ。食事の時間なんぞできるだけ少なくせねば仕事が終わらんのだ」

「でも、それで栄養バランスの悪いものばかり食べて倒れでもしたら余計仕事のペース落ちますよ」

「余計なお世話だ!そもそもカップ麺はうまいから問題ない!」

「これはおいしいおいしくないの問題じゃないですよ」

 

なぜだか、こういう事になると琲世はやたら強い。なんだか母親に叱られているような錯覚に陥るほどだ。そのためママンというあだ名が広まってしまったのもあるが。

 

「鬼怒田さん、まだしばらく本部いますよね?」

「いるどころか今日は泊まりだ!」

「ならちょうどいい。栄養バランスのいい夜食作って来ます」

「本当か!」

 

なぜかその言葉に書類の山に埋もれていた冬島が反応する。

 

「はい。僕の料理でよければ、ですけど」

「ありがたい!」

「リクエストとかあります?」

「肉!俺は肉が食いたい!」

 

やたらがっつく冬島に琲世は苦笑いしつつ、鬼怒田の方に向き直る。

 

「鬼怒田さんは?」

「ふん!お前に任せる!」

 

そう言って鬼怒田はカップ麺のカップを捨てて仕事を再開させた。

 

「じゃあ、作って来ますね」

 

そう言って琲世は開発室を後にした。

 

 

しばらくして、琲世が開発室に戻ってきた。

 

「持ってきましたよ〜」

 

開発室のあちこちから「おお!」という声が上がる。どれだけ皆がうまい飯に飢えていたかがわかる。比企谷が社畜を恐れる理由もなんとなくわかるような気がする。

 

「どうぞ」

「おお!唐揚げか!」

「肉ならこういう方が職場では食べやすいかなって思ったんで。唐揚げなら冷めてもおいしくいただけますしね。あ、冷めてきたらこのタレとかかけてみてください。チキン南蛮になります。お好みでタルタルソースもいいですよ。あと、おにぎりとサラダです」

「いやぁ悪いな佐々木、ここまでしてもらっちまって」

「いいですよ、一応僕も開発室のメンバーなんでお役に立てたなら幸いです」

 

そう言って笑う琲世の顔は慈愛に満ちた仏の顔のようであり、なんか後光が見えてきそうだった、と後に冬島は供述していたとかなんとか。

 

「じゃあ僕はこれで」

「なんだ、もう行くのか」

「ええ、これでも学生で課題とかもあるんで」

「そうか。ありがとうな」

「いえ。じゃあ失礼します」

 

そう言って琲世は去っていった。

そして開発室のメンバーは琲世の夜食を食べて始める。

 

「うめぇ……」

「この唐揚げ、無限に食えそうだ」

「いやぁ肉はいいなぁ!お、サラダもうめぇ」

 

そう口々に感想を述べるメンバーを見ながらも冬島自身も箸をすすめる。

その視界の隅でレポートを見ながらも片手で食事を行う開発室長の姿を捉える。

 

「いやぁ佐々木のメシはうまいですね、開発室長」

「ふん!余計なことしよって」

「そんなこといって箸は止めないじゃないですか」

「ふん、心底気に食わんがうまいことに変わりはないからな!」

「そうですね」

 

そうして彼らはそのまま夜食を味わった。

 

 

やはり琲世は菩薩か何かなのだと、冬島は思った。

 

 

 

 

 




最後のおまけは完全に思いつきです。

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