目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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引っ越しが完了しました。

キャンパス移動マジやめて欲しい。引っ越しってすごく面倒!
新学期が始まってしまった……。でも多分更新速度は変わりません。だって元から遅いから!(震え声)


今回は難産でした……。ちょっとお気に召さない方もいるかもしれませんので先に謝っときます。ごめんなさい。……あ!やめて!蹴らないで!

44話です。


44話 真摯な言葉ほど、心には突き刺さる。

最初に来たのは映画館。千葉駅のすぐ近くにあるところだ。

 

「じゃあ、なに見ようか」

「やっぱ恋愛ものでしょ〜」

「ねー」

 

恋愛ものねぇ。心の底から興味ねぇ。

 

「比企谷もそれでいいかい?」

「ん、お好きに」

「よーし決まりー!」

 

面倒くせえ。

 

ーーー

 

各々適当に飲み物を購入してシアターに入る。当然といえば当然だが女子2人に葉山が挟まれ、その横に俺がいるという配置だ。ちなみに隣は折本。

葉山が女子達と雑談して、俺はぼんやりスマホをいじくりながらジンジャエールを飲んでいた。

しばらくするとシアターが暗くなりCMが流される。前から思ってたけどNo more映画泥棒のあの動きってすごいよな。

 

CMもおわり映画本編が開始するが、俺は特別内容に興味がないし内容もよく知らないからほとんど眺めてるだけ。内容も頭に入ってこない。だって興味がないから。

と、不意に横からなんか突かれる感触。

 

「ねぇ」

「ん?」

「比企谷と映画って、中学のみんなが聞いたら絶対ビビるよね」

「だろうな」

「だよねー!ウケる」

 

それだけ言って折本は映画の方に戻った。

 

 

 

もう帰っていいかな。

 

ーーー

 

2時間ほど無意味な時間を過ごして、映画は終わった。

 

「ていうかあの爆発超ハデじゃなかったー⁈」

「ああ、あれな。ちょっとびっくりしたな」

「ウソー!葉山くん超普通にしてたじゃん」

「ねー全く動揺してなかったーあたし超びびったのに」

「でもその瞬間の比企谷はビビった〜」

 

なぜそこで俺に触れる。その瞬間多分俺なんもリアクションしてねーだろ。

 

「だーって超興味なさげに見てんだもーん。あの映画のあのシーン見てなんのリアクションも示さないとか比企谷心あんの?って思ったし!ウケる」

 

ほっとけ。どんな爆発かイマイチ覚えてねーけど、普段からメテオラぶっ放してるから映像の爆発とか見てもなんも思わねーんだよ慣れてるから。

 

やはり、というべきかどうやら俺が折本をどうでもいいと思ってるように向こうも俺をどうでもいいと思ってるようだ。多分今折本は俺をネタにして葉山を持ち上げようとでもしてるんだろう。なぜわかるかって?

 

目が『俺』を見てないからだ。

 

普段から佐々木さんのように常に人の『中身』を見て話すような人と関わりあってるのだ。その程度読み取れる。

 

別にその扱いについてはなんとも思わない。なぜならこうなることは予測していたし、なによりお互いどうでもいいと思い合ってるのだ。どうでもいい人間にどう思われても俺にとってはそれこそどうでもいい。どうでもいいが、どうでもいいがゲシュタルト崩壊しそうなくらいどうでもいいを連発してる。なにそれどうでもいい。

だが俺にも一応意見を求めるあたり、最低限の気遣いはあるようだ。

 

ただ、こんなに人の心理を読み取れる俺でもなぜ葉山が俺をここに呼んだのか。それは未だにわからなかった。

 

ーーー

 

ショッピングモール

 

「ねみぃ」

 

現在、ショッピングモール内の服屋にて女子2人のコーディネートを葉山が審美するということが行われていた。俺?やることないから外でぼんやりしてるだけ。だっているだけ邪魔だろうし。……帰っていいかな。

なんとなーく視線を横に逸らす。するとそこには海老名さんがいた。あと三浦も。

 

「あ」

「あ」

「どしたーん海老名」

 

葉山グループの2人がいた。うわーなんでこんなとこで会っちゃうんですかねぇマジで気まずくなっちゃうよ。俺じゃなくて葉山が。

 

「あれ」

 

三浦が俺の存在に気づく。そしてそのまま視線をスライドさせていき、女子2人といる葉山を見つける。あーあ、見つけちゃった。

 

「は、はや……」

 

三浦は葉山に声をかけに行こうとしたが、ブーツの試着が不完全だったためバランスがうまく取れず転んでしまった。

………僕はなにも見ていない。というかそろそろ移動した方がいい。いろんな意味で。

 

「葉山」

「ん?どうした」

「そろそろ移動した方がいい」

「え?」

 

こいつ、割と鈍感なのか。あれ?なんか寒気が……気のせいか?

 

 

「スノボのウェアとか見ておきたいんだよね」

「あー葉山くんスノボとか超似合いそう!」

「ねー」

 

場所は変わってスポーツウェアとかが売ってる店。スポーツウェアは割と持ってる。早朝トレーニングとか武術トレーニングの時に着るから。

ちなみに佐々木さん流武術トレーニングは生身で行うことが多い。生身でトレーニングして生身で動けるようになればトリオン体ではもっといい動きができるようになるとのこと。ただし、生身でも容赦ないため油断すると歯が折れるくらいの一撃が飛んでくる。

 

と、そこでエスカレーターから降りてくる人影を発見。なんか見覚えある人だった。

 

「おお!隼人くんじゃーん!」

「戸部」

 

というか戸部と一色だった。

 

「隼人くーん聞いてよ〜いろはすが新しいジャージ欲しいっていうから付き合ってたんだけどよ〜……」

 

そこで葉山の後ろの女子2人を発見。さすがの戸部でも色々と察する。

 

「あ、あれ?邪魔しちった?わ、わりー隼人くん!ほら、いろはす行くぞってあれ⁈」

 

そう言って振り返ったところに一色はいなかった。

 

というか、俺の隣に知らぬ間に移動してた。なんでさ。

 

「せーんぱい!」

 

早い、いろはす早い。そして怖い。いや、横山の方が怖いけど!

 

先輩なにしてるんですか〜?(お前仕事忘れて女子と遊んでんのか)

あ!遊んでるんですか!(いい度胸だな)

 

なんか変なルビふられてない?仕事とか忘れてねーから。今日の防衛任務夜だから!え?そっちじゃない?

 

「遊んでねーよ」

「へーそうですかー」

 

そう言って一色は俺の服を引っ張り顔を寄せてくる。

 

「ていうかあの女なんですか。あ、彼女とか?でも2人いるじゃないですかどーいう繋がりですか」

 

こっわいろはすこっわ!なんでこんな笑顔で冷たい声が出せんだよ。

 

「いろは、ごめん。俺が付き合ってもらってるんだ」

「あーそうなんですねー!」

 

切り替えが早いよ。怒られてる最中に電話きてそれでた時の母ちゃんみてーじゃねぇか。

 

「あー私もーちょうど今遊んでるんですけどーよかったら一緒にー」

「ほらいろはす、俺らもう行くべ」

 

そう言って一色は戸部に連れて行かれた。空気を読んだのかな、あいつも。知らんけど。

 

「いろはも君にはああいう姿を見せるんだな」

「は?」

「いろははいろんな人に愛されたいからああいう態度を取る。だから素の部分を見せるのは珍しい」

「あれで本当に愛されたいんならあいつの脳内はお花畑だな」

 

というかそれ遠回しに俺には愛されたくないって言ってるのと同じだからね。どうでもいいけど。

 

ーーー

 

「中学の頃の同級生だって?」

「ん?」

 

女子2人がスキーウェアを見ていて、それ待ちの時に葉山が唐突に割とどうでもいいことを聞いてくる。

 

「それがどうした」

「ああいうのがタイプだったりするのか?」

 

なぜそっちへ飛んだ。俺と葉山は別にそんな仲良いわけじゃないからそんな話題が出てきた時点で驚きだ。

 

「まさかお前が俺に対してそんな話をするとはな」

「ちょっとした与太話さ。本気で言ってるわけじゃない。気を悪くしたなら謝ろう」

「別に悪くはしてねーよ」

「そうか。で?どうなんだい?」

「嫌いじゃねーけど、好きでもねーよ」

「じゃあどんな子がタイプなんだい?」

「どんなのって………」

 

なんだ、やたら今日はグイグイ聞いてくんな。なにかいいことでもあったのか?

どんなタイプが好きか。そんなの考えたこともなかったように思う。今まで興味ないで済ませてきたから。

どんなの、か……。

 

頭に思い浮かべたのは、『あの』後ろ姿。

 

「………」

「? どうした?」

「………さぁ、な。今までロクに考えたことなかったからよくわからん」

 

なぜか、この言葉を発した瞬間胸に小さなトゲがちくりと刺さった気がした。

 

「そうか………きっと、本当の意味で人を好きになったことがないんだろうな。君も、俺も」

「………かもな」

 

俺は、人を好きになったことがないのだろうか。

 

 

その日はずっとその言葉が頭をぐるぐるしていた。

 

 

夜7時を回った。

 

「ちょっとおなかすかない?」

「減ったー」

「じゃあなに食べる?」

「なんでも〜」

「あたしも〜。ちょっとオシャレなとこがいいかも!」

「あ!それいいね!」

「比企谷は?」

 

あ、一応俺にも聞くのね。

 

「まかせる。何であっても文句は言わん」

「うっわ一番面倒なやつ〜」

「それ〜」

 

いやお前らがそれ言うか。

 

ーーー

 

「はー美味しかった〜」

「ねー!」

「そうだね」

「…………」

 

今俺らはショッピングモールのすぐ近くにあったカフェで飯を食べたところだ。もちろん葉山の提案で。

 

「やーっぱここのカフェでよかったねー!」

「ほーんと!」

「さすが葉山くんだよね〜」

「ねー」

 

遠回しに俺が残念みたいに言われてるようなもんだよなそれ。まぁいいんだけどさ、どうでも。

 

「比企谷もさ〜、気持ちはわかるけどもーちょい自分の意思とか持った方がいいっしょ〜」

「ん?」

「まかせるじゃなくてさ〜、いいと思うとかそういうのでいいんだよ」

「はぁ」

 

なんで俺説教されてんの?

 

「比企谷って本当に心無いんじゃないの?ウケる」

「あるかもね〜」

 

失敬な。俺にも心くらいある。たった今だって面倒くせぇからさっさと帰りたいって思ってるんだから!

 

「……そういうの、あまり好きじゃないな」

「え?」

「え?」

「は?」

 

笑顔の葉山から発せられた言葉は、なぜかそんな言葉だった。そして僅かながらの怒気を感じる。え?なんで?

 

「え、えっと?」

「あー、え?」

 

わけわからなくなり、なんとなく視線を逸らすとなんか帽子を被ったなんとなく見覚えのある人を見かける。

というか、魔王だった。

 

「…………ん?」

 

そしてその逸らした視線を遮るように現れたのは

 

「……これは?」

「えー、えっと?」

 

雪ノ下と由比ヶ浜だった。

 

 

 

…………なんでや。

 

 

 

え、マジでなんでいんのこいつら。

 

「俺が呼んだんだ」

「は?」

 

余計なんでだよ。

 

そんな俺の疑問をよそに葉山は葉山は折本たちに向き直る。

 

「彼は、君たちよりもずっと素敵な子達と関わってきたんだ。ロクに知りもしない、知ろうともしないのに勝手な事を言うのはやめてくれるか」

 

………なんでこいつ怒ってんの?

 

というかなにこの状況、もうやだ帰りたい。

 

「…………」

 

折本は驚いたように俺と葉山を見つめていた。隣の友人はなんか状況を飲み込めていないみたいで表情がおかしい。

 

「……ごめん、帰るね」

「え⁈ちょ……あ、私も……」

 

そうして二人はそのまま帰っていった。

その際、折本が雪ノ下と由比ヶ浜をちらっと見たのが謎に印象的だった。

 

「…選挙の打ち合わせだと聞いていたのだけれど」

 

雪ノ下もいまいち状況が飲み込めていないのか少し声に戸惑いが混じっている。

というか選挙?なにそれ。

 

「あ、ヒッキーは昨日の部活防衛任務で出てなかったじゃん?それでね、隼人くんに選挙に出てもらえないかなって話になって……それで……」

「なるほど」

 

確かに葉山なら生徒会長もやれそうだし、一色の注文(ワガママ)も満たせる。悪くない判断だと思うが、俺には葉山が生徒会長をやるとはとても思えない。

理由?勘だ。

 

「で?」

「ん?」

「なぜこんな事を?」

「俺はただ…できることをやろうとしただけだ」

 

なんだよできることって。ますますわからん。

 

「ふーんなるほどね〜」

「やっと出てきたか、ストーカーさん」

「比企谷くんひどーい!」

 

事実だろう。周囲に気を配ってなかったから確信はなかったが、今日(多分最初から)ずっとストーキングしてただろ。でなければ、このカフェに、しかもあんなまさしくストーカーみたいな格好でいないだろう。

 

「姉さん」

「雪乃ちゃんが生徒会長やるんじゃないんだ〜。てっきりそうするのかと思ったのに」

「あ………」

 

まるでその考えを失念していたかのような反応。

そしてそんな雪ノ下の顎に大魔王は手を添える。

 

「そうやって誰かに押し付けたりするところ、お母さんそっくり。ま、雪乃ちゃんはそれでいいのかもね〜。あなたはなにもしなくていい。いつも誰かがやってくれるんだもんね」

 

まーた雪ノ下おちょくって遊ぶ気かこの人は。

そうげんなりしていたら乾いた音が響くのが聞こえる。雪ノ下が大魔王の手を払った音だった。

 

「そう……そういうこと」

 

そしてその雪ノ下の目は、何かを覚悟したかのような目だった。

 

「他に話がないなら、私は帰るけど」

「あ!待って!ゆきのーん!」

 

そうして二人は帰っていった。

その中で、俺は一人腰を下ろす。

 

「なんでこんな事を?」

 

コーヒーを飲みながら、大魔王にそう聞く。

今回のこれは、ただのちょっかいにしては手間かけすぎだ。

 

「決まってるでしょ、いつものことよ」

「はっ」

「…………比企谷くんはなーんでもわかっちゃうんだね〜。まるでハイセくんみたい」

 

あの乾いた嘲笑だけで全ての意味を覚るこの人もなかなか化け物だな。というか佐々木さんもこんな風に嘲笑するの?やだ、怖い。

 

「君は面白いね〜。常に人の行動や言動の裏を読もうとする。悪意に怯えてるみたいでかわいいじゃな〜い?」

「お生憎様、普段から悪意どころか弾丸とか刃とか狙撃にも怯えてますよ」

「ふふ、やっぱり面白い。なんでもそつなくこなす人間なんて、面白味がないじゃな〜い?」

 

そういって葉山に視線を移す。

見られた葉山は、視線を伏せる。

 

「それは、あなたにも面白味がないと言ってることと変わりませんよ」

「えー私はこんなに面白味に満ち溢れてるよー?それに、私を『そつなく』レベルに評価するのはいただけないなぁ」

 

なーんか今のはイラッと来たぞ〜。努力をバカにしてるような言い草に聞こえましたね。

 

「あんたに満ち溢れてるのは悪意と邪気だけだろうが。それに、あんたもロクに努力せずになんでもできるタイプだろ。そして、継続しない。なら所詮『そつなく』レベルだよ。そんなこともわからない頭じゃねーだろ」

「…………」

「これ以上話ねーならとっとと帰れよ。佐々木さん同様、俺もあんたとできるだけ同じ空間にいたくねーんだ」

 

殺気を放ちながらこう言った俺に対して葉山は驚愕の表情を俺に向けてきた。ま、だろうな。普段あんま喋らない俺がいきなりこんなことあの大魔王に言ったんだから。

 

「……まーいっか。じゃ、私帰るね〜。なーんかシラケちゃったし」

 

そういって大魔王は帰っていった。

よし、ここ最近俺は大魔王耐性がついたように思える。佐々木さんに感謝。

 

「………すごいな君は」

「そうか?まぁそうかもな。あの人相手にこんな態度取れるのは俺とあの人(佐々木さん)くらいだろうよ」

 

他の人はあの人の内面に気づくことすらできないだろうからな。仮に気付けてもあんな態度はそうそう取れない。

 

「で、お前はなんであんなことしたんだ」

「……さっきも言ったろ。やりたいことをしたって」

「折本達にあんなこと言ったのもか?いーのかよあんなことして」

「…最低の気分だよ。二度としたくない」

「ならなんでしたんだ?そんな無駄なこと」

「……………」

 

本当に無駄なことだ。こいつがなにをしたところで特になにかが変わるわけではないのだから。

しかしここのコーヒーもなかなかうまいな。そんなどうでもいいことを考えつつ葉山の言葉を待つ。

 

「……ずっと考えていた。俺が壊してしまったものを取り戻す方法を」

 

壊してしまったもの、か。失くしたではなく壊した。つまりは、そういうことか。

 

「俺は君に期待していた。その結果、君は俺の考えのさらに上をいった。………俺には、とてもできないことだった。

でも、君が俺の期待以上のことをしても、それでも俺がやってしまったことは……変わらない」

「…………」

 

期待、か。まさかこいつが俺に『期待』するなんてな。

 

「……お前が俺になにを期待してたのかは知らんし興味もない。でもな、お前が自分のやってしまったことを後悔しているのなら、お前自身もその周囲も『葉山隼人』という存在の価値を正しく認識するべきだな」

「………」

「お前、多分今までも自分だけで解決してきたんだろ。本当に解決できたかどうかは別としてな。そしてお前は、それができちまうだけの要領の良さと度量を持ち合わせていた。

だが人間一人の力なんてたかが知れてる。雪ノ下にも言ったが、人間一人でできることなんぞごく僅かなことだけだ。お前がそうやって悩んで苦悩するのは結構だし、必要なことだが……」

 

 

 

そのまま(1人で苦悩している状態)じゃいつまで経ってもお前は先には進めねーよ」

 

 

 

それだけ言い残し、俺はカフェを後にした。

葉山は多分、今までにも何度かあの修学旅行の一件みたいなことがあったのだろう。そして、それら全て失敗して壊してしまった。

この前の一件で、奉仕部に流れる空気が硬く、俺と雪ノ下、由比ヶ浜の間に僅かに亀裂が入っていることを敏感に察したのだろう。実際亀裂が入ってるかと聞かれたら、亀裂というほどではないと思う。雪ノ下はともかく由比ヶ浜はそれなりに話すし。

多分夏休み終わりに迅さんが言ってたのはこのことなんだろうな。綾辻とか会ったことあるやつならもっと的確に未来が見えていただろう。でも雪ノ下や由比ヶ浜は迅さんと会ったことがない。ならほぼビンゴだろうな。

 

そしてそれを自分の手で修復したい。そういう思いがあったのだろう。

 

だが実際部外者であるあいつがなにをしたところで無駄だ。何しろ部外者なのだし、あいつは自身の価値を正しく認識しきれていない。自分がどういう存在で、周囲がどう自分を認識できているのか。それを認識しないで先になんぞ進めない。

 

昔、俺も同じ道を通ったからわかるのだ。

 

そんなことを考えながら、街の光で星が見えない空を見上げた。

 

 

 

 

………なんで俺こんの説教じみたことしてんだろうと、後に軽く後悔した。

 

 

翌日

 

「今日、雪ノ下が報告に来たよ。生徒会長に立候補する、と」

「そーですか」

「おや、その反応は知っていたのかね?」

「ええ、まぁ」

 

どーせ大魔王に挑発されたからやるんだろうに。安直な奴だ。負けず嫌いもここまでいったらもはや長所になるんじゃね?ならないか。

 

「それで比企谷、君はどうする?」

「どーもしませんよ。単純な資質ならあいつは適任でしょうし。他の教師陣も大喜びじゃないんすか?」

「そうだな、彼女がやると知れば教師達は諸手を挙げて喜ぶだろう」

「やっぱりまだ言ってないんすね」

「ああ。気づいていたのか」

「もし言ってたらどっかで話題に上がるでしょう」

「それもそうか。で、比企谷。もう一度聞くが、君はどうする?」

 

答えるまでもないだろう。俺は俺でどうするかもう決めてる。

 

「だからどーもしませんよ。俺は、俺が決めたことをやるだけなんで」

「そうかね。じゃあそのことを全力で取り組みたまえ」

 

この人最近やたら聞き分けが良くなったな。

 

ーーー

 

昼休み

 

「雪ノ下、お前生徒会長やるんだってな」

 

入ってそうそうそう言い放つ。我ながら喧嘩売ってるような言い方だと思うが、そこは気にしない。だって実際喧嘩売りにきたようなもんだし。

 

「え………」

 

どうやら由比ヶ浜は知らなかったようだ。

 

「ん、聞いてなかったのか」

「う、うん……」

「………これから相談するつもりだったのよ」

 

それは相談とは言わない。事後承諾というものだ。

 

「お前の姉さんがそう言ったから、か」

 

その言葉に雪ノ下は視線を一気に鋭くして俺を睨みつける。

 

「関係ないわ。これは私の意志よ」

 

あの状況を見てからだと、その言葉にどれだけ説得力がないのかがよくわかる。どんだけ煽り耐性ないんだよ。

 

「ゆきのん、部活は……」

「大丈夫よ、この部活はそれほど大変でもないし、生徒会活動についても理解はしているからそれほど負担にはならないわ。

客観的に見て、私がやるのが最善だと思うわ」

「ご尤も」

「それで、あなたはそんなことを聞くためだけにここに来たのかしら?」

「いんや、少し腑抜けたこと言ってるお前に説教染みたことしに来た」

「どういうことかしら?」

 

睨むなよ、事実なんだし。

 

「なぁ雪ノ下」

「なによ」

 

「なんでそこに『一色がやる』って選択肢がねーんだ」

 

その瞬間、空気が固まったような気がした。

 

「お前、俺に言ったよな。『この部活の理念は相談者の自立を促すものだ』ってよ。まぁでもさすがに全部の依頼でこれができるとは思わねーさ。理念から外れた物でも受けちまうような依頼はある。そこは仕方ない。

でもよ、今回のは自立を促すこともできんだろ。いつからこの部活は何でも屋になったんだ?」

「…………」

「そんなんなら奉仕部じゃなくてよろず屋雪ちゃんにでも名前変えちまえ」

「ヒッキー、それ銀魂」

 

おっといけねぇ。ついうっかりふざけネタをいれてしまった。ま、雪ノ下はなんのことかわからずキョトンとしてるけど。今度銀魂貸してやろうか。横山のだけど。

 

「一色さんの依頼は生徒会長をやらないことよ。そんな依頼主の依頼に反することをするつもりはないわ」

 

ま、予想通りの反応だな。多分これはどういっても聞かない。

 

「そう言うと思ったよ。まぁ好きにしろ。俺は俺で勝手にやるから」

 

そう言って俺は部室を後にした。

 

 

やることは決まった。

 

 

帰り道、下駄箱

 

「ヒッキー!」

 

防衛任務があるから帰ろうとしていた俺に由比ヶ浜が付いてきた。どうしたんだ?

 

「どした」

「一緒に帰ろ!」

「はぁ」

 

ーーー

 

「ゆきのん、選挙出るんだってね」

「ああ、みたいだな」

 

あの後も、結局意思は変わらないのか。強情なやつだ。

 

「………あたしも、やってみようかな、なんて……」

「は?」

「あたしも、選挙、出てみようかなって……」

 

なぜそうなった。

 

「あたしさ、なんもないの。できることもやれることも。だから逆にそういうのもアリかなーって」

「そうか。よく考えたのか……ってのは、どうやら愚問みてーだな」

 

こいつの目を見ればわかる。確固たる意思が、こいつの目にはあった。

こいつはこいつなりに、悩んで、苦悩して、考えた結果こういう行動に至ったのだろう。

 

「あたしね、気づいたの。あたしも、ゆきのんも、ずっとどこかでヒッキーを頼りにしてきたんだって。だから、今度はあたしが頑張るの」

「………お前らは俺を頼ってたのかもしれないが、結局俺は誰かの手を借りなきゃなんもできてねーんだけどな」

 

それと頑張るベクトルが少々おかしい。

 

「うん、そうだと思う。ヒッキーは誰かの手を借りて解決してるけど、でもそれの中心はヒッキーなの。

あたし達はまだヒッキーに頼ってもらえるほど、できることがない。だから頑張るの」

「……そうか」

「それにね、ゆきのんが生徒会長になったら、今までの誰よりもすごい生徒会長になって、学校のためにもなると思う。……でも、この部活はなくなっちゃう」

「だろうな」

 

雪ノ下は一つのことを究極まで極めることはできるが、二つのことを並行して極めることはできない。どちらかを必ず切り捨てる羽目になる。そもそもあのプライドがアホほど高い雪ノ下だ。中途半端になんて絶対にさせないだろう。

 

「………ヒッキーはもしかしたら違うかもしれないけど、あたしはあの場所がすごく好きなの。あたしがいて、ゆきのんがいて、ヒッキーがいる、あの奉仕部が」

 

由比ヶ浜の行動は、あの奉仕部を思っての行動だ。今言ったように、由比ヶ浜は奉仕部がきっとすごく好きなのだ。

 

「ヒッキーは、無理やり入れさせられて、それにあたし達は頼りっきりで全部ヒッキーに押し付けてた。だからヒッキーが奉仕部が嫌いでも、正直仕方ないかもしれない。でも、あたしは……」

「はぁ……本当に嫌いだったらとっくにいなくなってるっての」

「え?」

「最初は嫌だったさ。雪ノ下はいらん罵倒してくるわお前はうるせーわ平塚先生は殴ってくるわ。でもまぁ、そこそこ長く入りゃあ愛着も多少はわいてくる」

「………そっか」

「勉強スペースとしてうってつけだしな」

「用途が変わってる⁈」

 

おお、用途って言葉は知ってるのな。

そんなこんなしてると、バス停が見えてくる。

 

「んじゃな」

「うん。またね」

「ま、今回はお前はお前で行動するといい。俺は俺で勝手にやってる」

「わかった」

「今回はみんな別行動だ。今回の結果で勝負にケリがつくって思ってもいいんじゃねーか?ま、俺が勝つんだけど」

 

雪ノ下に超くだらない一発芸、やらせたいし。

 

「ま、負けないし!」

「そーかよ。じゃな」

 

我ながら似合わんことをした。

 

 

翌日

 

俺は1人で部室にいた。

雪ノ下と由比ヶ浜はそれぞれが選挙のために動いているため、部室には来ない。由比ヶ浜は自分で雪ノ下に選挙に立候補する旨を伝えたようだ。その時どんなリアクションをしたのかは知らない。だが大体予想はつく。

 

1人でノートにペンを動かしていると、戸を叩く音がする。これスルーしちゃダメかな?ダメだな。

 

「どーぞ」

「失礼しまーす……って先輩だけですか?」

 

一色だった。あれ?俺呼んだ覚えないんだけど?やることは明日やる予定だったんだけど?

まぁ、大体やること終わってるしいいか。

 

「よぉ」

「なんで先輩しかいないんですか〜?」

「あいつらはあいつらでやることがあんだよ」

「はい?」

「まぁ座れよ。そんなとこに突っ立ってねーで」

「あ、はい」

 

そう言って一色は椅子に腰掛ける。その腰掛ける一つの動作でもやたらあざとさが出てるのがすごい。

 

「で、なんの用だったんだ」

「依頼のことですよ〜。今後どうしていくか〜ちょっと聞いておきたくて〜」

「その無駄に語尾伸ばす喋り方やめてくんね?地味に腹立つんだけど」

「え〜これが素の喋り方なんでムリですよ〜!」

 

胃が痛くなってくるな……まぁでも確かに、佐々木さんの言う通りかもな。

よし、この際もう行動に移してしまおう。状況もいいし。

 

「なぁ」

「はい?」

「なんでお前生徒会長やりたくねーんだ?」

「えーだって〜めんど…………私じゃちょっと難しいと思うんですよね〜。それに〜私1年ですし〜」

 

こいつ今面倒って言おうとしたぞ。いや気持ちはわかるけどさ。

 

「………お前が会長選挙に立候補させられた理由は、確か勝手におふざけで、だったな」

「そうなんですよ〜!でも〜私も悪目立ちするタイプだから〜……」

「お前さ」

「?」

 

 

「悔しくねーの?」

 

 

率直な意見だった。

そんなよく知りもしないやつらにただ逆恨み的な感情でおもちゃにされて悔しくないのか。

それを一色の目をまっすぐ見て真摯に伝える。

 

「へ?」

「悔しくねーのかって聞いてんだ」

「………」

「俺だったら悔しいね。そんなよくわかんねーやつらに一時のおもちゃにされるなんて」

「わ、私は……」

「目に物見せてやろうとか思わねーのか?俺は思うね。そんな軽はずみの行動で下手に手を出してきたようなやつらに絶対俺が感じた以上の悔しさを感じさせてやるって」

「でも………そんな方法ないじゃないですか……」

 

よし、予想通りの反応だ。もう一押しだな。

 

「いいやあるね」

「え?」

 

 

「お前が生徒会長を立派にこなして見せればいい」

 

 

「あ………」

「多分、お前を選挙に出させたやつらは『お前が生徒会長をできないだろうから生徒会長にして恥かかせてやろう』ってのが魂胆だ。

なら、そこでお前が生徒会長を立派にこなして見せたらどうだろう。やつらは目論見も失敗したどころか、お前という存在にさらに箔がついちまった。仕掛けた方からすりゃこれ以上の報復はねーだろ」

「…………確かに」

「んじゃもう一度聞く。お前は悔しくねーのか」

 

ここまでくりゃもうチェックメイトだ。

 

「悔しいですよ、そりゃ。でも、できる気もしないし……」

「ま、確かにお前はまだ1年だ。最初からそんな今のめぐり先輩みたいにはできねーだろうよ。でもな、最初からそんなできるようなやつはそういねーよ」

 

雪ノ下ならやってのけそうだけど、あいつは例外だ。

 

「めぐり先輩に聞いてみろよ。『今まで失敗したことはないか』って。最初の方はどっかで失敗してるだろうから」

 

誰だって失敗する。あの雪ノ下姉妹や佐々木さん、ボーダーのメンバーだって失敗することがあるのだ。

 

「で、聞くが……お前、生徒会長やってみねーか?」

 

一色は俯いた。恐らくまだ迷ってるのだろう。なにせ生徒会長だ。簡単にできるものではないと思うのは仕方ない。

そのまま少しの沈黙が流れたが、一色がそれを破った。

 

「そーですね〜、なんかこのままやったら先輩の思惑通りになりそうでちょっと癪ですけど〜、確かにあの人たちの思惑通りになるのはもっと癪なんで、先輩の思惑通りになってあげます!」

「やるってことでいいのな」

「はい!こうなったら目にもの見せてやりますよ!」

 

その言葉を聞いて肩の荷が下りたように思う。

これで断られてたら俺はできるだけ使いたくない葉山(joker)を使う気でいたからだ。友人でもないやつ相手に頭下げる(しかもリア充)のはなかなか勇気がいる。

 

「意気込むのは結構だし、失敗するなとは言わん。でもやれることはちゃんとやれよ」

「はい!先輩も協力してくださいね!」

「わーってるよ」

 

後で平塚先生に報告しとかなきゃな。

 

「まぁアレだ、できねーこととかどうしても困ったことがあったら奉仕部頼っていいからよ」

「はい!頼りにしてますね!」

「先に言っとくが、頼るのはまず俺らじゃなくて生徒会のメンバーが先だからな。そのメンバーでもどうしてもできそうになかったら最終手段として俺らがいる。そういうことだからな。やたらめったら面倒ごと持ってきたら協力もしねーからな」

「先輩の思惑通りになってあげたんだからいいじゃないですか〜」

「元はといやお前のその薄ら寒いキャラが問題でこんな面倒事になったんだからな」

「うぐっ!それを言われると……というか薄ら寒いってひどいですー!これは素ですー!」

「はぁ面倒くせ」

 

その後、平塚先生に報告し、雪ノ下と由比ヶ浜にも報告した。

 

 

 

そしてその後、無事一色は生徒会長になることができたのだった。

 

 

数日後

部室

 

「生徒会、今日からもう仕事なんだってねー」

「早いな」

「そうね」

 

とは言っても綾辻の話だと仕事といっても最初の方は誰でもできる簡単な雑務しかないようだが。

 

「生徒会長か〜あたし達もやってたかもしれないんだよね〜」

「………それについてだが……」

「ん?どしたんヒッキー」

「その、悪かったな」

「え?なにが?」

「いや、お前ら2人とも選挙出る気でいたんだろ?演説の作文とか無駄になっちまって……」

 

それについては多少の罪悪感はある。俺がさっさとやってればこんな事にはならなかったかもしれないからだ。もっと突き詰めりゃ俺は悪くないけどな。

 

「いいえ、それほど気にするものでもないわ」

「そーそー、ヒッキー気にしすぎ。キモいよ」

「なんで俺今ディスられたの?」

 

解せぬ。

 

「雪ノ下、お前生徒会長やりたかったか?」

 

少し気になっていたことだ。もしかしたらあの大魔王に挑発されたからだけではないかもしれない。

だったらちょっと悪い事した。

 

「……どうかしら、でも、そうするのが最善だと思ったの」

 

………よくわからんリアクションだな。ま、いいけどさ。どーでも。

 

「せっかく頑張ろうとしたんだけどな〜」

「んだよ、文句あんのか?」

「全然ない!」

「ないのかよ…」

「でも、これからはあたし達も頑張るからね!ね、ゆきのん?」

「そうね」

 

微笑みながらそう言う2人。

さて、迅さんの予知はどうやら外れたらしい。

 

 

 

亀裂は、入らなかった。

 

 

 

俺はこいつらとこの場所が特別というわけではない。ぶっちゃけ特別な場所はボーダーの方だ。

でも、嫌いというわけではない。だから壊れたらいい気はしない。ボーダーが俺にとって大事な場所なのは確かだが、そこだけに縛られることなく他の場所にこういうとこがあってもいいだろう。

 

ま、面倒事は勘弁だけどな。

 

 

 

そう考えながら、俺は本のページをめくった。

 

***

 

おまけ

 

ボーダー本部

 

「綾辻」

「あ、八幡くん。どうしたの?」

 

探していた綾辻に早速会えたのは幸運だ。この広い本部を綾辻探してうろつくのはなかなか骨が折れるからな。……あれ、スマホで呼び出せばそれで終わりじゃね?

 

「今度、生徒会選挙があるだろ?」

「うん」

「それで、立候補してる一色の推薦人やって欲しいんだが……」

 

本当は既に集まっているが、1人でもまともな推薦人がいてくれた方がいいだろう。それに、今のうちに綾辻と一色が面識を持っておけば今後のコミュニケーションが楽になるはずだ。

 

「いいけど、どうして?」

「まぁちょっと長くなるが…」

 

ーーー

 

「って感じだ」

「ああ、また奉仕部関連のことね。うんいいよ。私でよければ」

「すまん、助かる」

「ううん大したことじゃないよ」

 

あ、そういえば……。

 

「綾辻は会長やろうとは思わないのか?」

「さすがに会長はちょっとね。ボーダーの仕事がなければやってたかもだけど」

「ま、さすがに広報の仕事があると厳しいわな」

「それにしても」

 

ん?

 

「八幡くんがそこまでするとは思わなかったな」

「そうか?」

「うん。今までは奉仕部の方は消極的に見えた気がしたから」

「まーな。でも俺、あそこ嫌いじゃねーんだ。俺の居場所はボーダー(こっち)なのは変わんねーし、どっちを取るかって言われたら間違いなくボーダー(こっち)だ。でも奉仕部(あっち)も嫌なことばっかでもなかったから、多少の愛着もわく」

「そっか。八幡くん、ボーダー入って感受性が豊かになったように思うな」

「そうか?」

「うん。とってもいいことだと思うよ」

 

そう言って綾辻は俺に慈愛に満ちた聖母のような笑みを浮かべてた。なぜか直進してられず目を逸らす。顔がわずかに熱い。

 

「と、とにかく頼むな」

「うん。あ、私の方でも推薦人になってくれる人少し探してみるね」

「すまん、頼むな」

 

そう言って俺は作戦室へと戻っていった。

 

 

 

「佐々木さんにも報告しねーとな」

 

 

 

顔の熱さをごまかすように1人そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はかなり長かったです。(遅くなったけどその分長くしたから許してくれるよね、なんて魂胆があったなんて言えない)

次回は小南とデート。その次は黒江。その次は番外編と本編から少し外れます。

ではまだ次回。

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