目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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クリスマスイベント編突入。
そしてWT本編にもほんの少しだけ触ります。



47話です。


6章 クリスマスイベント編
47話 不穏な空気は、知らぬ間に漂う。


休暇を出されて少し経つ。季節も12月中旬になり、寒さが一層厳しくなってきた。そろそろコートを出さずに学校に来るのは限界だとみれる。今まではヒートテッ◯とカーディガンでどうにかしのいできたが、これ以上は風邪を引きかねん。

 

そんな無駄思考を働かせながら、寒い廊下を歩く。向かう先は部室だ。防衛任務もないため、ここ最近は部室にちゃんと顔を出してる。あそこはストーブがあって暖かいし、基本誰も来ないから勉強に集中できる。由比ヶ浜と雪ノ下の話し声程度で俺の集中力は削がれない。加えてそこそこうまい紅茶もあるのだ。なかなかいい環境だと思う。

 

部室の勉強空間としての有用性の高さを再確認していると、部室に到着。

 

「うーす」

「こんにちは」

「ヒッキー!やっはろー!」

 

やはりというべきか、二人は既にきていた。

 

「ヒッキー最近ちゃんと来るね。どしたん?」

「まるで普段はサボりまくってるみたいな言い方はやめろ。防衛任務ねー時はちゃんと来たんだろ」

「いやーわかってるけどさ、ヒッキーって週に3回以上は防衛任務で早退とかしてたからさ。最近はあんま早退してないなーって思って」

「ああ、まーな。ちょいと休暇出された」

「ヒッキークビになったの⁈」

「違う」

 

なんで休暇=クビなんだよ。永遠の暇と勘違いしてんだろ。あれ?それだと俺死んでね?

 

「なにかあったの?」

「いや、結論を言えばなにもない」

「そうなの?ボーダーって有給制度とかある組織なの?」

「なかったらとんだブラック企業だ」

 

あ、でも開発室はないに等しいかも。

 

「その、直属の上司に最近働きすぎだって怒られてな。それで来シーズンまで休暇出された」

「ヒッキーそんなに働いてたの⁈」

「驚きね……」

「俺はともかく、他がな」

「ああ、なるほど」

 

いやそこで納得すんのかよ。俺だって働いとるわ。

 

「佐々木さん、わかるだろ」

「あーサッサンね」

「あの人、ボーダー隊員としての仕事の他に開発室の研究レポートまとめをほぼ一人で全部やってたんだ」

「ええ⁈」

「それは…学生がやる仕事の範疇を超えているように思えるのだけれど」

「その通りだ。あの人、なんでもかんでもすーぐ一人で抱え込むからさ。拒否しないから開発室の方もどんどん仕事押し付けて、しかもそれをこなすだけのスペックがあの人にはあったんだよ」

 

事実、今まで押し付けられた仕事は期限内に完璧にこなしてみせてる。あの人が途中どっかで期限を過ぎるなり断るなりすればここまでにはならなかったろうに。

 

「うちの隊は基本県外の仕事を受けない代わりに他の仕事を率先して請け負ってたんだが、それがちょいと率先しすぎたみたいでな。そんで今回休暇を言い渡されたってわけだ」

「なるほど、学生がやる範疇を超えていたってことね」

「そーだな、そんな感じ」

 

佐々木さんはマジで社畜。

 

「ま、そんなわけで当分防衛任務ねーよ」

「そっかー、やっぱボーダーって大変なんねー」

「仕事だからな。バイトとは違う」

 

バイトなら気楽なものだろう。やめたくなったらやめられるのだし。無論ボーダーもやめられるのだが。

 

「へー、そーなん。あたしもお金に困ったらボーダー入ろうかな〜」

「遊ぶための金を稼ぐならまぁいいだろうが、今まで通り遊びたいならやめとけ。ボーダー入ったら今まで通り遊ぶなんてことは無理だ」

「うぇ、それは……」

「ま、個人の自由だ。入りたいならそれなりに覚悟して入れよってだけだ」

 

生半可な気持ちで来てもC級でやめるハメになるだろうからな。

と、そこで外に気配。どこかで感じたことのある気配だ。

 

「せーんぱーい!」

「お引き取り願おうか」

「ひどいです!」

 

やはりと言うべきか一色だった。

 

「って!そうじゃなくて!やばいんですー!やばいんですーやばいんですーやばいんですー!」

 

やばいのはお前のボキャブラリーの無さだ。

 

ーーー

 

「クリスマスイベント?」

「そーなんです……海浜総合高校ってとこと合同で、私たちというより保育園の子ども向けのイベントらしいんですけど…」

「生徒会としての初仕事か。頑張れ。じゃあ出口はあちらだ」

「来て3分も経たずに帰らせようとしないで下さ〜い!」

 

いや、もう3分経ってるから。お前のボキャブラリーの無さが露見してる間に経ってるから。

 

「そのイベント、どちらから言い出したのかしら?」

「向こうからですよー!私が言うわけないじゃないですかー!」

 

だろうな。

 

「で、そんなイベント断るに決まってるじゃないですかー!私もクリスマス予定ありますしー!」

「断るに決まってるんだ…」

「理由が私的過ぎる」

 

それでいいのか生徒会長。

 

「でも……平塚先生がやれっていうから…」

「やーっぱりあの人一枚噛んでんのか」

「それでいざ始めてみたものの…うまくまとまらないっていうか…」

「お前、まずこっち来る前に城廻先輩のとこいけよ」

 

ここ何でも屋じゃないから。なりかけてるけど本来は違うから。

 

「あー、いや……その…………あ!受験生に迷惑かけるわけにはいかないじゃないですかー」

「お前が城廻先輩のこと苦手なだけじゃねーか」

 

苦手とか言ってる場合か。

 

「というか、綾辻はなんも言わなかったのか?」

「え、えーっと……」

 

なるほど、『あの人はちょっといろいろと完璧すぎてしかもまだ慣れてないから相談してないし、先輩は綾辻先輩と知り合いっぽいから大丈夫だろうと思って綾辻先輩には無断でここに来ました』って感じか。やだ、俺ほとんど一色何も言ってないのにこいつの思考を雰囲気だけで大体察しちゃった!俺のサイドエフェクト怖い!

 

「まいいや。で?」

「それで〜先輩たちに手伝って欲しいんですー!もう先輩たちしか頼れる人がいないんですよ!」

 

面倒くせぇ。本当に面倒くせぇ。しかも勘だけど絶対この事態の主犯となるやつ俺とソリが合わないだろうし。

 

「どうするゆきのん」

「そうね……私としては受けても構わないと思うけど、二人はどう?」

 

ほう、俺も一応意見は聞いてくれるのね。

 

「あたしは、やりたいかな。最近こういうのなかったし」

「……本音を言えば面倒くせぇからやりたくねぇ。でも一色を生徒会長にしたのは俺だし、あんま断れる立場でもねーかなって」

 

綾辻もいるし、いいだろ。

 

「じゃ、お願いしますねー!」

 

変わり身早えよ。もうちょっとありがたがれ。

 

「というか、こういう時こそ葉山呼べよ」

「……今回のはガチで大変で重いから、迷惑かけちゃうかなって」

 

俺らならいいのかよ迷惑かけて。

しかし、あざとくしつつちゃんと恋する乙女やってんのね。どーでもいいけど少し感心しちゃう。

 

「それに、こーいうのってミスしちゃうのがいいんじゃないですか。ガチの厄介ごととか重いって思われちゃうんで」

 

こいつ本当にいい性格してるわ。返して!俺の感心返して!

 

「じゃあこの後校門前でお願いしますねー」

「は?今日からやるん?」

「あんま時間ないんですよー。じゃ、よろしくお願いしますねー!」

 

そう行って一色は出て行った。

 

「相変わらず勝手なやつだな……」

「あはは……でも、それがいろはちゃんのいいとこでもあるっていうか」

 

それをいいとこって言っていいのか些か疑問だけどな…。

 

 

その後、準備をして待ち合わせ場所へと移動する。

しかしその場に一色の姿はなかった。

 

「あれ、いろはちゃんいないね」

「そういえば、さっき買い物がどうとか言ってたのが聞こえたわ」

「え、そんなこと言ってた?」

「ええ、確かに」

 

地獄耳かよ。実は雪ノ下も強化聴力のサイドエフェクト持ってるんじゃね?

 

「まーなんかありゃ向こうから連絡くるだろ」

「それもそうね」

 

それから2分ほど経った。

コンビニから一色が出てきた。雪ノ下が言ってた通り、買い物をしていたようだ。手にはそこそこ大きな袋があり、中からお菓子やら飲み物がわずかにのぞいている。

 

「お待たせしましたー」

 

パタパタと駆け寄ってくる一色は、俺らの前に来るとふぅと軽く息を吐いた。……重そうだな。これはあれだな、重いから持ってくれアピールだな。

 

「ん」

「え?」

「いや、重いから持ってくれアピールじゃねーのかよ」

「いえ、今のは素で……はっ!もしかして口説こうとしてます?すいません一瞬ときめきかけたけど冷静になったらやっぱ無理ですごめんなさい」

「へーへーなんでもいいからさっさと行くぞ」

 

一色から買い物袋を奪いさっさと歩き始める。

 

「ど、どうも」

「ん」

「ヒッキーってなんだかんだ優しいよね」

「優しいかどうかは知らんがそういう教育を受けたからな」

「へー、いいご両親だね」

「小町にな」

「妹からだった⁈」

 

なにをそんなに驚く。妹から教育される兄なんてザラにいるだろう。……え、いるよね?

 

「でも意外ですー。先輩ボーダーあるから断るのかと思ってたんですけど」

「今は休暇中だ」

「え?クビになったんですか?」

「アホか」

 

なんでみんな休暇=クビなの?俺基本真面目よ?

 

「それに綾辻もいんだろ?なら特別断る理由もねーよ」

「綾辻先輩とお知り合いでしたね〜。意外です。どこで関わりがあったんですか?やっぱりボーダーですか?ボーダーですよね?」

 

なんでボーダーで関わり持ったことを強要してくるの?そんなに俺と綾辻がプライベートでも関わりがあるのおかしい?

 

「ただの幼馴染だよ」

「いやそういうのいいですから」

「いや本当だから」

 

こいつなんで頑なに俺と綾辻は仕事仲間であって友人じゃないみたいな固定観念つけてるの?

 

「親同士が知り合いでな。親繋がりで知り合った」

「ご両親はどういう繋がりだったのかしら?」

「詳しくは聞いてないが、確か昔住んでたとこで隣だったとかなんとか」

 

その頃の話は俺がまだ生まれる前の時代だから『らしい』しか言えない。

 

「そんな昔からの知り合いなんですか〜。じゃあ〜特別な感情とかもあったりするんですか〜」

「アホか。さっきも言ったろ。綾辻はただの……」

 

『ただの幼馴染』と言おうとして、次の言葉がすぐに出て来なかった。その言葉を言おうとした瞬間、なぜか胸にほんの僅かに、だがとても深いところに針が刺さったように感じたからだ。

 

「先輩?」

「ただの幼馴染だつってんだろ……」

 

その声は掠れて、どことなく震えてるように思えた。

そして得体の知れないモヤモヤが胸の中で盛大に燻るのを感じた。

 

「なんだ、これ」

 

 

誰にも聞こえないくらい本当に小さく、俺はそう呟いた。

 

 

 

 

「お疲れ様でーす」

 

コミュニティセンターに到着し、来てるメンバーをざっと見てみる。

やはりというべきか、海浜総合の方が明らかに人数が多く、総武の方は肩身狭そうにしていた。

なるほど、これじゃあ綾辻がいても事態の収拾は難しそうだ。綾辻は副会長であり、会長じゃない。所詮はNo.2だ。最終決定権があるわけじゃないし、立場的には下だ。

これはなかなか面倒な感じだな。

 

ーーー

 

「僕は玉縄。海浜総合高校の生徒会長なんだ。いやぁよかったよ、フレッシュでルーキーな生徒会長同士、企画できて。お互いリスペクトできるいいパートナーシップを築いて、シナジー効果を生んでいけないかって思っててさ」

「…………………」

「…………………」

「…………………」

 

いきなりこれかよ。あの雪ノ下ですらなんか唖然としてんぞ。由比ヶ浜は多分なに言ってるか理解できないから唖然ときてる。

 

「いろはちゃん、ちょっといい?」

「はーい」

 

………これ、大丈夫なん?いやまだなにもわかってないしなにも把握してないけどさ。

 

「あれ、八幡くん?」

「よ」

 

今回の頼みの綱、綾辻。

 

「なんでこんなとこいるの?あ、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんも」

「やっはろー!」

「こんにちは、綾辻さん」

「あ、奉仕部で来てるのか。久しぶりってほどでもないかな?あれ、でも依頼するなんて聞いてないけど……」

「あれだ、一色の独断」

「あ、そういうことね。でも来てくれてよかったー!こっち人数も少なくてちょっと肩身狭かったんだよね〜」

「人数も向こうの方が倍以上いるものね」

「そうなの。だからみんな来てくれてよかった」

「で、なにが問題なんだ?」

「あー……それはそのなんというか……会議の風景見てくれればわかるかな…」

 

なるほど、習うより慣れろか。

 

「それは違うわよ、比企谷くん」

 

なぜわかった!エスパーか!

 

ーーー

 

「じゃあ、会議を始めよう。まずは前回同様ブレインストーミングと内容面でのアイデアのピックアップからだ」

 

なんでいちいち意識高い感じの言葉を出すの?由比ヶ浜混乱してるからやめてお願い。

 

そこで海浜総合の方からすっと手が上がる。

 

「俺たち高校生の需要を考えると、やっぱり若いマインド的な部分からイノベーションを起こしていくべきだと思う」

 

………………俺は語彙力ある方だと思うけどそれでも翻訳するのに一秒かかった。誰か!誰か俺に翻訳こんにゃくを!

 

「?????」

 

おっと隣にもっと翻訳こんにゃく必要なやつがいましたね翻訳こんにゃく追加でお願いします。

 

「そうなると、俺たちとコミュニティ側のウィンウィンな関係を前提条件とする必要があるな」

「じゃあ戦略的思考でコストパフォーマンスについて考えていく必要があるな」

 

なぜそこで指を鳴らした。焔の錬金術師か、それともイシュヴァールの英雄か。あれ、これ同一人物か。

混乱してる由比ヶ浜はとりあえず雪ノ下が解説してくれてるからいいとして………

 

「今これなにやってんの?」

 

そう、そもそもそれがわかってない。

 

「え?まぁ向こうがいろいろ提案してくれてるんですよ」

「…………」

 

つまり、一色にもわかってないってことだな。

 

「みんな、もっと大切なことがあるんじゃないのかな」

 

ここで玉縄が声をあげる。さすが生徒会長か。

 

「ロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ」

 

それ同じことだろ。何回考えんだお前。

 

「お客様視点になって、カスタマーサイドに立つっていうかさ」

 

それも同じじゃん。お前実行する側だろお客様になりたいの?

 

「ならアウトソーシングも視野に入れて…」

「今のメソッドだとスキーム的に厳しいけど……」

「一旦リスケする可能性もあるよね。もっとバッファを取ってさ」

 

そんな意識高い言語が飛び交い、そしてなにも進まないまま時間だけが進んでいった。

 

ーーー

 

「はぁ……」

「なんか……」

「どっと疲れたわね……」

「ねー、なんか難しいこと言ってるし」

「解説するのに疲れたのよ」

「あたしに対して疲れてた⁈」

 

多分解説なくても疲れるだろうがな。

チラッと海浜総合の方をみると、彼らは雑談なのか会議なのかよくわからない会話をしている。それに対して総武側は書類を書いている。しかも軽く山ができてるし。なにこの差。ブラック企業?

 

「大体どんな感じかわかりました?」

「いや、なーんも」

「あたしもちょっと……」

「そうね」

「あー、なんか難しいこと言ってますからねー。でも『すごーい』とか『私も頑張らなきゃー』とか言ってるとちょーウケいいですよ。後はメールの相手だけしてればオッケーみたいな」

「お前いつか刺されるぞ」

 

それでいいのかよ。というかお前やる気あんのか。なかったな。

 

「とりあえず、やることはあるので取り掛かっちゃいましょう」

 

休暇中に仕事をするとか社畜の鑑かよ。

と、そこで机を軽く叩く音がする。そちらをみると玉縄が書類を持ってスタンバッてた。

 

「いろはちゃん。これもお願いしていい?あとこれとこれと、これも」

「あ、はーい」

「…………」

 

また仕事が増えたみたいな雰囲気出してるなー総武側は。気持ちはわかる。佐々木さんがダンボールいっぱいの書類持って帰ってきたときは思わずため息でたし。

 

これは、なかなか面倒なことになりそうだ。

 

 

書類作業の手伝いをしていたら地味に遅くなってしまった。雪ノ下がいてくれたおかげてかなりスムーズに作業ができたのだが、それでもあの山を片付けるのはなかなか骨が折れた。

そして今はすぐそばにあった喫茶店で一休みしている。

 

「やーっと終わった……」

「ごめんねみんな、こんな時間まで付き合ってもらっちゃって」

「いーのいーの!大変そうだったしほっとけないよ!」

「私も大丈夫よ。こういう作業は慣れてるし」

「ありがとう。本当来てくれてよかった」

 

知らぬ間に綾辻と奉仕部女子の絆が深まってる。俺は蚊帳の外。いつもぼっちだから仕方ないね。

 

「でも、今回の会議を見る限りかなり深刻そうね」

「そうなの。毎回あんな感じで………それで時間だけが過ぎていくから中身はなにも決まってない……」

「言うほど時間もねーしな。それに、規模だけ大きくしようとしてるからどう考えても人手が足りない」

 

そもそも中身なんも決まってないけど。

 

「そうね。規模だけ大きくしようとしているせいで今の人材と資金ではどう考えても足りないわ。今回の問題は人手と資金が足りないこと……でも、多分そういうことじゃないのよね」

「うん、あたしもそう思う。なんかこう……もっと根本的なとこにある気がするの」

 

由比ヶ浜の言う通りだ。確かに人手と資金が足りないことは問題だ。だがそうじゃない。もっと根本の部分をどうにかしないとこのイベントはそもそも開催そのものができなくなる。

 

「……やっぱ上層部がなぁ」

「そうなんだよねぇ……」

「綾辻はなんもしなかったのか?」

「しようとしたの。でも、どうにかしようとして出した案を中途半端に付け加えようとしてさらに迷走していって……」

「それでなにもできなくなってしまったのね……」

「それに、現状を作ったのは私も原因があるの」

「どういうこと?」

「今回はいろはちゃんの初めての大きな仕事でしょ?だから私はあんまり口出ししないで、いろはちゃんが助けを求めてきたら手助けしようって思ってたの。でも、いろはちゃんさっぱり助けて欲しいって言わないの。それで大丈夫かなって思いながら見てたら……」

「こーなってたってことか」

「うん……」

 

綾辻の判断は上級生として間違った判断ではない思う。あれこれ手出しするのもいいだろうが、多分一色相手にそれやるとあいつはなにもしなくなる。それがわかってかわからずかはわからんが、綾辻は手出ししないで求められたら応えるようにした。

その結果がこれだ。多分、問題は………

 

「一色の意識の問題かもな……」

「うん……」

 

一色を生徒会長にしたのは俺だ。その手前、責任を感じる。

ただ、一色だけではないだろう。多分、海浜総合(向こう)にも少なからず原因はある。僕としては、まずあの意識高い言葉の羅列をやめてほしいな!翻訳するの面倒だし!

 

「意識ってのは、1日やそこらで変えられるもんじゃねーしな。でも早急に変えていかないと……」

「このイベントは成り立たないわね」

「クリスマスまで時間ないしね」

「どっかで改革でもしなきゃならんってことね」

「そうね。でも今日考えてどうにかなることでもないでしょうね」

「だね。今日は一旦解散にしようか」

「うん」

「おう」

 

そういって俺たちは各々の帰路についた。

 

ーーー

 

帰り道、綾辻とならんで駅前を歩く。

 

「大変だな」

「そうだね。でも、私が好きでやってることだし」

「物好きだな」

「酷〜い。好みの問題でしょ〜そういうのは」

「俺にはできん」

 

やらざるを得ないならやるけど、誰が好き好んで生徒会なんてやるかよ。そんな公衆の面前に立つ仕事をぼっちにやらせようとしないで。

 

「今回のイベントどうなるかな」

「このまま俺たちがなにもしなければ、十中八九ロクなイベントにならないな」

「だよね……」

「なにしろさっきも話したが、頭になる奴がアレだからな」

「はぁ……」

「一色については、綾辻がフォローしてやれ。やれることなら俺もやるから」

「じゃあ、玉縄くんについては?」

「……俺とか雪ノ下とか由比ヶ浜でやるしかねーだろーな」

 

向こうに改革をしようという気なんぞかけらも無いだろうし。

と、そこで人混みの中に白い髪をした少年が視界の隅に入った。

 

「頼りにしてるよ………って、どうしたの?」

「俺なんかより頼れるやついるだろ……。いや、なんか今髪が白い奴がいたような気がして……」

「白髪?なら佐々木さん?」

「いや、背は佐々木さんよりもはるかに低いようにみえた」

「ふーん」

 

……なぜかはわからないが、あの白髪の子供(多分)はいつかまた会える気がする。というか俺の周囲白髪多くね?佐々木さんといい……あ、佐々木さんしかいねーわ。

 

「で、その子がどうかしたの?」

「いや、なーんか気になって」

「髪が白いから?」

「それもだが、なんかな」

「ふーん…」

 

それにその白髪の隣にいたやつ、どっかで見た気がする。よく見えなかったからなんとも言えないのだが。

 

「ま、いいや。いこうぜ」

「うん」

 

その時は、その白髪と今後関わるようになるとはかけらも思わなかった。

 

 

「じゃ、またね」

「おう。仕事し過ぎんなよ」

「八幡くんに言われたく無いよ」

 

そんな軽口を叩きつつ、綾辻と別れる。ぼんやりとチャリを漕ぎつつスーパーを目指す。

 

「今日は、魚が安いな」

 

そんな所帯染みたことを言いつつスーパーを目指した。

 

ーーー

 

買い物を済ませ帰路につく。思ったより遅くなってしまったため夕食は早急に作る必要がでてきた。小町が帰ってきて飯がない、なんてことは許されない。俺の扱いがさらに酷くなる。なにそれ悲しい。

 

俺が住んでるマンションの近くに差し掛かったところで、人影がこちらに歩いてくるのを確認。多分近所に住んでる人だろうと思い、スルーしようとする。え?挨拶はしないのかって?ぼっちには厳しい、知らない人に挨拶とか。

 

その人は長めの黒髪で片目が髪で隠れている。加えて泣きぼくろもある。

………あんな人、この辺りにいたのか。見たことなかっただけか?いや、でもなんか嫌な感じがするな。関わらないようにしとこ。

 

そう思いさっさとチャリを漕いでいこうと思いすれ違った瞬間

 

 

 

今まで感じたことないほど嫌な悪寒に襲われた。

 

 

 

反射的にブレーキをかけ、後ろを振り返る。

 

「あの」

 

そして反射的に声をかけてしまった。

やっべなんも考えずに声かけちまったどうしよう。

 

「え、あ、はい。なんですか?」

 

その人は佐々木さんとあまり変わらないくらいの年齢に見える。見た目はなんとなく佐々木さんに似て柔らかいような感じがある。

 

だがその目はとても冷たく、無機質だった。

 

「………いえ、すいません。人違いでした」

 

その目に恐怖を覚えつつ、声を絞り出し適当に言い訳をする。

 

「はぁ…」

 

それだけ言ってその人は去っていった。

 

「なんだったんだ……」

 

その俺の疑問に答える者はいない。

 

 

「なんだったのかな、今の子」

 

黒髪の青年が一人そう呟きつつ市街地を歩いていた。

 

「しかし、あの子まさか『僕に気づく』とはね。気配感知にでも長けてるのかなぁ」

『なにを一人でブツブツ言っているの』

 

青年の耳につけたイヤホンから声がする。

 

「いやぁ、僕に気づく子にたった今会いましたねぇ。それでちょっと関心してたんですよ」

『あなたの気配遮断に気づくような存在が玄界(ミデン)にいるとは驚きね。もしかしてトリガー使いかしら?』

「そこまではわかりませんよミラさん。あーでも、いいトリオンしてましたよ。連れて帰れればいい戦力になるんじゃないですか?」

『あなたがそういうなら相当いいトリオンの持ち主ね。ところで、仕事はちゃんとしているの?』

「してますよ〜今日やることだってとっくに終わらせましたし」

『ならいいけど、あなたはどうも快楽主義者すぎるところがあるから』

「酷いなぁ、間違ってないけど」

『用が済んだなら早い所拠点に身を隠しなさい。あなたを感知できる人間がいて、あなたの素性が知られて拘束でもされたらこちらの仕事がやりづらくなるのだから』

「はぁーいわかりましたー」

 

 

『少しは緊張感を持ちなさい、ニムラ(・・・)

 

 

「わかりました。全ては我が国と領主様のために」

『……わかってるならいいです』

 

女性はそういうと通信を切り、イヤホンからはなにも聞こえなくなった。

 

残された青年は非常に不気味な笑みを浮かべながら、夜の闇に溶けていった。

 

 

 

 

そしてそれに気づく者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あの白髪は、もちろんあの人。

そしてフルタ登場。

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