48話です。
なんとなく嫌な雰囲気の人から逃げるようにして帰ってくる。
「ただいまっと」
当然、小町は塾にいるためいない。カマクラもこたつの中で丸くなってるため出てくる気配など微塵も見せない。おい、飼い主帰ってきたぞ。お出迎えもなしかと言うためにこたつの布団をバッとめくるとカマクラはびっくりして飛びついてきた。あまりに突然すぎて反応できずにカマクラは俺の顔面にタックルを食らわせた。
痛かった。
ーーー
しばらくして小町が帰宅。
「ただいま〜」
「おう、お疲れ」
「いやー今日も疲れたー」
「メシあるぞ。食うだろ?」
「食べる!」
「その前に」
「手洗いうがいでしょ〜?わかってるよ。すぐにやる」
「よろしい」
このシーズンから特に気合いいれて体調管理に気を使う必要がある。年内で受けられる最後の模試も近いらしいし、ここで体調を崩すわけにはいかない。試験が終わるまで体調管理には気を抜かないことが必要だ。慢心したらそこで体調崩すビジョンが見える。なにせ俺がそうだったから!
そんな過去の失敗を振り返りつつ、小町のメシの準備に取り掛かった。
ーーー
「ごちそうさま〜」
「お粗末さん」
割と多めに作ったメシも、勉強でエネルギーを消費しまくってきた小町はぺろりと平らげた。
「今日もありがとうね〜美味しかった!」
「そりゃよかった」
「お兄ちゃんまた料理うまくなったかもね〜。佐々木さんのおかげかな?」
「まぁ料理関連なら大方あの人の影響だろうな」
うちに来てくれないかな。お母さんとして。性別?瑣末な問題よ。
「まぁ俺が受験の時、小町にも散々面倒かけたし。これくらい当たり前だ。なんならもっと頼ってくれていいまである」
「ほんと⁈ならクリスマスプレゼント買って来て!」
「そういう頼られ方を期待してたわけじゃないんだがなぁ……」
まぁ買ってくるんだけどさ。
そんなどうでもいい会話をしつつ、小町とともに食器を洗うのだった。
ーーー
食器も洗い終え、こたつで一息つく。いくら試験が近いとはいえ、ここで休憩を挟まないで根つめてやると最後まで保たない。休憩も適度に必要なのだ。
こたつでリラックスしつつみかんを食べてる小町の目の前に湯のみを置く。
「あれ、なにこれ」
「生姜湯。体を温める効果がある」
「コーヒーじゃないんだね」
「コーヒーでもいいが、本来コーヒーは体を冷ます効果を持つ飲み物だからな。眠気覚ましに飲むくらいにしとけ、この時期はな」
「ありがと」
そういって小町は一口生姜湯を飲む。
「おお、なーんかあったまる感じするね〜」
「だろ?この前佐々木さんに教わった」
「さすが佐々木さん」
そんなことを話しつつ俺も一口生姜湯を飲む。うむ、容赦無く生姜だな。そういやジンジャエールのジンジャーって生姜って意味だったな。生姜エール……名前だけだとあんまうまそうに思えんな。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃん、なんかあった?」
……なんかあったかと聞かれても、特に……。あ、クリスマスイベントとかか?いや違うな。多分小町が聞いてるのはそういうことじゃない。
「………なんでそう思った?」
「なんとなく」
「えー…」
さすが超直感を持つ俺の妹。カンが鋭い。
とはいっても俺本人がよくわかってないんだが。その『なにか』についても超直感についても。
「……よくわからん」
「そこで誤魔化さなくなったあたり、お兄ちゃんも成長したね〜。小町は嬉しいよ」
妹に成長を喜ばれる兄って一体。
「よくわからんって、なにがよくわからんの?」
「それがわかりゃ苦労しねぇよ。……なんかな、ずーっともやもやしてんだわ。ただ、なににもやもやしてんのかよくわからん」
「ふーん。ちなみにどんな時にもやもやしてるの?」
「…………」
どんな時に………って言われてもな。
色々と記憶を遡ってみるが、どうもハッキリしない。あの嫌な雰囲気の人に出会った時?確かにあの人の存在はずっと引っかかってる。今のうちにどうにかしておかねばならない。そんな気が。
だが違う。そうじゃない。多分、このもやもやはもっとずっと前からあったものだ。
「……わからん」
「……そ。じゃあいっぱい悩んで考えることだね〜」
「なんでさ」
「いいから、ちゃーんと考えること!いいね?宿題!期限なしの!」
それは宿題と言っていいのか。
*
「じゃあ、今日の授業はここまで」
教師はそういって教室を出ていった。
これで今日の授業は終了。ふと外を見るとすでにだいぶ日が傾いてきている。冬至はもう過ぎてるはずだが、相変わらず日は短い。
「ヒッキー」
すると、背後から由比ヶ浜に声をかけられる。まぁ、気配でなんとなくわかってたが。というか四六時中気配感知してるとか俺はどこの暗殺者だよ。いや、この場合泥人形の方がいいか?
「どした」
「今日もいろはちゃんのとこ、手伝いにいくよね」
「ああ。まぁ一旦部室で雪ノ下と合流してからいこうや」
「わかった。じゃあ、後で」
そういって由比ヶ浜は席に戻っていった。
「今日の晩飯、どうすっかな」
家になんか食材あったっけ。
ーーー
コミュニティセンター
「まだ全体の内容が固まりきってないから、前回のブレストの続きからやっていこう」
会議はとりあえず始まったが、固まりきってないどころか未だにノープランだということしか俺は知らないのだが。
「ヒッキー」
「ん?」
「内容って、なんか決まってたっけ?」
「いや、なーんも」
「だよね…」
この流れからいくとまたなんも決まらない気がするんだが。
「せっかくだし、もっと派手なことしたいよね」
「それーあるあるー!とりあえずドカーン的な〜?」
語彙力ねーな。もっと他にねーのか。
その言葉を聞いた玉縄はパソコンをなんかキザったらしく叩いたあと、あごに手を当て考えるそぶりをみせる。佐々木さんの方がもっとかっこよくパソコン打つぞ。
「……確かに、小さくまとまりすぎてたかもしれない」
いや待て。まとまる以前の問題だろ。なんもまとまってないどころか土台すらねーよ。
「え、俺なにするかなんも知らないんだけど……」
議事録にはロジカルシンキング云々しか書かれてないし。
「まぁ、具体的にはなにも決まってないんですけどね」
それなのにそんなニコニコしてんのかお前。そんな面白いかこれ。ニコニ◯動画の方がまだ面白いぞ。
「ちょっと規模を拡大しようと思うんだけど、どうかな?」
いやダメだろ。
「あの…」
と、そこで雪ノ下が小さく挙手をする。
「どうかした?」
「規模を拡大する、と言ってますがそもそも現時点で土台となる方向性すら固まっていません。その現状で規模だけ大きくするというのはどうかと思うわ」
「ノーノーそうじゃない。ブレインストーミングはね、相手の意見を否定しないんだ。確かに現状では方向性はまとまりきってない。なら規模を拡大するにはどうすればいいのか。そうやって議論を発展させていくんだ。だから君の意見はダメだよ」
「……あの、いや、そうじゃなくて」
「規模を大きくした後に入って来たメンバーと一緒に方向性をまとめていくこともできると思うんだ」
「…………」
おお、雪ノ下が絶句するところ初めて見た。多分これはもうなに言ってもダメだと思ったのだろう。
さて、ここは俺も助け船を出そう。
「なぁ、規模を大きくするには時間と人手が足りないぞ」
「なら、それもどうするか話し合おう。そのための会議なんだし」
俺の助け船はあっさり沈没させられて海の藻屑と化した。いや、この場合会議か。うん、どうでもいい。
「どう可能にするか話し合おう」
「近くの高校をさらに入れるってのは?」
おいおい、なんで意識高い系の奴ってこうも人と一緒にやりたがるの?これ以上増やしてなんのメリットがあんだよ。
「いいね、地域コミュニティを巻き込むっていうかさ」
単純な否定はすぐに潰される。なら、奴らのルールに則って案を否定していけば……。
「これはフラッシュアイデアなんだが、二校のより密接な関係を築いて、最大限のシナジー効果を産んだ方がいいと思うんだが」
「……なるほど、じゃあ高校じゃない方がいいね。大学生とか」
ダメかー。
「いや待て、それだとイニシアティブが取れない。さっきも言ったが、より密接なシナジー効果を生むために互いによりよいパートナーシップを築いてだな…」
「なるほど、なら小学生とかの方がいいね」
は?え?話聞いてる?
「なぜ、小学生なのかしら?」
「こう、小学生みたいに楽しみながら作業できる、ゲーミイディケーションっていうのかな。そうすれば地域の小学生の力を借りられるんじゃないのかな」
………………話聞いてないじゃないですかヤダー。
「win-winだね」
「win-win……うん!それある!」
どれが、あるの?
「小学校へのアポイントとネゴシエーションはこっちがやるとして、その後の対応をお願いできると嬉しいんだけど」
「そうですねー」
棒読みですか生徒会長。
「あ、あの!」
「ん?なに?」
お、綾辻。さすがに見兼ねたか。
「小学生への対応をするにしても、こっちの明確な方針が決まってないんじゃ、対応することなんてできません!せめて方針だけでも決めないと……」
「うん、それを小学生を交えて決めていこう」
「え………あ……いや、でも……」
「そのための会議だからさ」
綾辻は顔を引攣らせると力なく席に座った。
俺や雪ノ下、綾辻も向こうがよくわからん謎のペースに乗せられながらもどうにかカウンターを当ててきた。なのに全て無効化させられた。個人的にはかなり頑張ってやったつもりなのだが結果はこのザマ。
ダメだこりゃ。
*
翌日
今日も雪ノ下と由比ヶ浜と共にコミュニティセンターに向かっていたが、その足取りはどこか重い。
「今回はちょっとは進むかな、内容」
「進まんだろ。1日で、しかも多分外部からもなにもされてないのに意識改革なんてするわけがない」
「そうね。それで変わるなら綾辻さんがどうにかしてるでしょうし」
「だよねぇ……」
気は全く進まないが、引き受けた以上やるしかない。
そんなこんなでコミュニティセンターに到着。会議室に入る。
海浜総合の方はすでに集まっているようで意識高い言語を垂れ流しながら
総武の方を見たが、すでに事務作業のようなことをしていた。しかしその中に一色の姿がない。
「綾辻」
「あ、みんな。来てくれたんだ」
「まーな。それよか、一色はどうした」
「まだ来てないの。多分、部活の方が……」
そうか、あいつサッカー部のマネージャー辞めてなかったな。
「連絡はしたんだけど……」
「まだ来てない、と。しゃーねぇ、俺が見てくる」
「うん、悪いけどそうしてくれる?」
「おう。ってわけでちょっと一色呼んでくるわ」
「構わないわ。こちらのトップがいないわけにもいかないものね」
「うん!こっちでやれることやっとくから、ヒッキーよろしくね!」
「へいよ」
そういって俺は足早に来たばかりのコミュニティセンターを後にした。
ーーー
学校に着くと校庭の方へ向かう。活発に声が聞こえるあたり、まだまだ部活の最中だろう。
「声出せ声ー!」
葉山が部員達に色々言ってる。さすが葉山。ちゃんと部長もこなすんだな。
と、そこで葉山と目が合う。近くにいるマネージャーに一声かけてこちらに向かって来た。タオルを渡されて。ほぅ、マネージャーにタオルを渡されるって現実で本当にあるんだな。
「やぁ、なにか用かい?」
「一色は?」
「いろはなら、さっき用があるって抜けたよ。そろそろ来るんじゃないかな?」
「そうか」
どうやら取り越し苦労だったようだ。さっさと戻るとしよう。
「生徒会に頼まれて、色々やってるんだって?」
「まーな」
「なにをしてるか知らないが、忙しいってことは匂わせて来るから」
「わかってんならお前が手伝え」
こっちは貴重な休暇中なんだよ。好きでやってるわけじゃねぇ。
「別に頼まれたわけじゃない。頼られたのは君だろ?」
「いいように使われてるだけだろ?」
「断らないからな、君は」
「よく言うぜ。お前だって別に断らないだろうが。それに、今はお前と違って暇だしな」
「? ボーダーがあるんじゃないのか?」
「今は休暇中だ」
「仕事のしすぎとでも言われたか?」
やだ、初めてクビ以外のこと言われた!嬉しい!でも素直に喜べない!
「それと、俺も断らないって言ってたけど」
「あ?」
「それはわからないぞ。俺は、君が思ってるほど、いい奴じゃない」
その言葉を聞くと、なぜか俺は吹き出してしまった。
「ハッ!」
ただ、それは相手をバカにするような吹き出し方ではなく、皮肉がこもった笑いだった。
「なにを今更」
それだけ言うと、俺は葉山に背を向けた。
「いろはのこと、よろしく頼むよ」
そう言って葉山は練習に戻っていった。
「お前も不憫な奴だな」
俺の言葉は誰の耳にも届かなかった。
その後、近くのコンビニから出て来た一色と合流した。
*
会議室に戻ると、なんか小学生がいた。
ああ、そういや呼ぶとか言ってたな。マジで呼ぶとは思わなかった。
「わからないことがあったら、なんでも聞いてね」
玉縄が小学生の対応をしていたが、それだけいうと海浜高校の方へ行ってしまった。
いや、呼んでおいて放置かよ。そしてなんも決まってないから俺らに対応丸投げなんだろどうせ。勘弁してくれ。
「……で、なにするの?」
「え、わかんない」
「なにするか聞いてくる?」
「じゃあ聞いてくるね」
そういって小学生の二人が総武高校の生徒会の人に近づく。
なーんか見覚えあるような……というか知ってるやつだった。
あの夏休みの鶴見と、三上の妹歌世だった。そういやここの近くの小学校だったな、あいつら。
「えーっと、どうしましょう」
向こうに聞いてくるってのが一番楽ではあるが、対応はこちらに任された以上最低限こちらでやる必要がある。
「あ、飾り作りとかそういうのなら今ならできるんじゃない?」
「あ、そうですね。そうします」
由比ヶ浜の提案を一色はそのまま小学生に伝えにいった。そしてその際鶴見と三上妹と目が合う。すると鶴見は「なんでいんのこいつ」みたいな視線を、三上妹は「あ、あの時の人だ!」みたいな視線を向けてくる。どうリアクションすればいいかわからずとりあえず軽く手を上げて玉縄の方をみる。
差し当たってはこれでいいが、肝心の中身がまだなにも決まってない。
「さすがに中身決めないとやばいよな」
「そうね。決めないとできる対応にも限界があるものね」
そういって俺と雪ノ下は玉縄の元へ向かう。
「なぁ、ちょっといいか」
「なに?」
爽やかスマイル気取ってんなよ……。
「さすがに、そろそろ中身の方を決めていかないと人手があってもどうしよもないんだが」
「そうだね。じゃあみんなで考えよう」
「いいえ、漠然と話し合ってるだけでは永遠に決まらないわ。こちらである程度やることを絞っておくべきだと思うの」
「でもそれって、視野を狭めることにならないか?」
「いいえ、選択肢を絞ることは作業をより効率的に進めるための手段よ。現状、あまり時間は残っていないわ。なら……」
「選択肢をすぐに排除せず、みんなで納得いくものを作っていくべきだと思うんだよね」
「いやだから時間が」
「それも、みんなでどうするか考えよう」
なんだその残業をなくすために残業として会議するみたいな思考回路は。
「焦る気持ちはわかるけど、みんなで頑張ってカバーしていこう」
そういって玉縄は俺と雪ノ下の肩を叩く。
「……そのみんなでやる、ということを貫いた結果今のこの現状だというのに、それでもまだ続けるの?」
「みんなの力を合わせれば、できるはずだよ」
ここまで人の話を聞かないのは、三輪以来か?いや、三輪はそもそも聞こうとしないどころか俺のこと視界にも入れたくないレベルか。
「……その会議、やるならすぐにやった方がいい」
「そうだね。じゃあ早速会議に入ろう」
そんな玉縄を見て俺と雪ノ下は同時にため息をついた。
ーーー
その後遅れてきた綾辻を交え、会議を開始した。
「大まかなグランドデザインは共有できたと思う。だから今日はもっとクリエイティビティな部分をディスカッションしていこう」
……なんでわざわざそんな意識高い言葉を入れなきゃいけないのかねぇ。
「クラシック音楽の演奏とかは?」
「ジャズの方がクリスマスっぽくないか?」
「若いマインドのことも考えると、バンドとかもよくないか」
「聖歌隊とかは?」
「ミュージカルとかもいいかも」
「それある!」
おお、今までの会議と比べればはるかによくなった。具体的な案の名前が出てくるだけで随分よくなった。今までロジカルシンキング云々しか言われてなかったし。
そうなると、この中からできなさそうなやつをすぐに排除して、そっからできそうなのをざっと検討していくべきだろうな。
「よし、じゃあ一度全部検討してみよう」
oh……。
「この中から選んだ方が早くないか?」
「すぐに意見を否定するより、みんなの意見を取り入れたものを作るべきだと思うよ」
「いやでもだな……」
「系統的に近いものは多いと思うものはあるし、一緒にできるものはあると思うんだ」
「音楽系にまとめて、いろんなジャンルのクリスマスコンサートはどうかな?」
「まとめる観点でいえば、音楽とミュージカルって親和性高いよな」
「いっそ全部まとめて映画にするのは?」
「それある!」
………いや、君らが言ってることをやるには今ある予算では到底不可能だよ。カンパとかいやだよ俺。そして折本、事あるごとにそれあるっていうな。そろそろうざいから。
ダメだ。雪ノ下も綾辻も唖然としてる。この現状をどうにかすることができる人材がいない。
ダメだこりゃ。
*
帰り道、雪ノ下由比ヶ浜、それと綾辻と別れた後信号待ちしていると
「はちまーん!」
天使のような声が聞こえた。
というか、戸塚だった。そしてなぜか傍らには見慣れた人物がいた。
「あ、比企谷くん」
「佐々木さん、なんで戸塚と?」
仏と天使が並んでいる、だと?
「アヴァロンはここにあった」
「え?」
「そのセリフはまずイギリスに行ってから言おうか」
おっと思わす声に出てた。不覚。
「で、なんで二人が一緒にいるんすか?」
「僕はこのあたりのテニスクラブに行ってて、その帰り」
ほう、戸塚が行ってるテニスクラブはこのあたりなのか。ならこの曜日のこの時間意味もなくウロウロしてみようかな。いや、あんまりにも遭遇率高いとキモいからやめよう。
「僕はすぐそこの本屋にいたんだ。で、そこ出たら戸塚くんに会ったからご飯でもどうかなって」
そういやこの二人、夏休みの林間学校で会ってるんだったな。どっちもほんわかしてるから割とすぐに打ち解けて仲良くしてた記憶があるな。というか佐々木さんが仲良くできない人なんているのか。いたわ、三輪だわ。
「よかったら比企谷くんもどう?」
帰って小町のメシ作って置きたいんだがなぁ。ご飯はセットしてあるが、おかずがまだ下ごしらえの段階で終わってるし。まぁ小町帰ってきてから作っても全然間に合うくらいなんだけどさ。
「僕の奢りだよ」
「行きます」
即答だった。
ーーー
「さて、何食べる?」
え、行くっていうからもうなに食べるか決めてあるのかと思った。
「決めてないんすか?」
「決めてる段階で君に会ったからね〜」
なんかすんません。
「戸塚くん運動の後だし、タンパク質を摂るのがいいかな。そうなると肉類だね。どう?」
「はい。僕も運動後でお腹空いてたんでがっつりしたものがいいです!」
「比企谷くんは?」
「俺もいいっすよ」
「じゃあ、あれかな」
といって佐々木さんが指差したのは、ほんのちょっと高いファミレス。確かあそこは肉メインだったな。
「いい?」
「はい!」
「うす」
そういって俺らはそちらに足を向けた。
*
ファミレスの中に入り席に通される。
「うわー、中暑いね〜」
「そうですね。外が寒かったから余計暑く感じますね」
そういって戸塚はマフラーを外した。わずかに汗をかいた首がやたら艶めかしい。
……おかしい。戸塚は男子だ。なのになぜこんな感情になる。今顔が赤いのは暖房がきついから。それか風邪か何かの病気だ。落ち着け、落ち着いて一句詠むんだ。
「一句詠んだらそれは本当に病気だよ?」
なぜわかった!エスパーか!
「?」
「戸塚くんはわからなくていい」
「えー!なんですかー!」
そういって頬を膨らます戸塚はかわいかった、まる
「じゃあなに頼む?僕もうだいぶお腹減ってるしさっさと頼んで食べたいんだよね」
「じゃあ僕これで!」
そういって戸塚が指したのは結構がっつり量ある定食だった。
「結構量あるな、これ」
「うん。普段こんな食べないけど、運動後だと結構食べるんだよ、僕」
「お、おう」
そういっていたずらっぽく笑う戸塚もかわいかった、まる
そんな俺たちのやりとりを穏やかな表情で琲世は見ていた。
*
全員注文を取り、料理が運ばれてきたから食べる。
うむ、肉はいい。肉は元気になるからな。それでも俺の目は腐ったままだが。
「ねぇ、八幡」
「ん?」
料理をもさもさ食ってると、戸塚が少し神妙な表情でそう聞いてきた。
「なにかって?」
「いや、わからないけど……最近の八幡ちょっと疲れてそうだったからさ。どこか上の空な感じの時もあったし」
「そう、か?」
「うん」
「そうなんすか?」
「そうだねー」
そんなにわかりやすいか俺。
「まぁ、ちょいと面倒がな」
「そっか……それって、僕も力になれる?」
「……今抱えてる問題に対しては、悪いが多分なれんな」
戸塚が加わったところで、玉縄と一色の意識が変わるとは思えない。
「そっか……やっぱり、八幡はかっこいいな」
あれ?なんか急に褒められたよ。もしかして告白⁈違うか?違うな。
「なんだ急に」
「辛くても、泣き言言わずにやろうとする姿勢に、相手に対して変な希望や期待を残さず、ダメなことはダメってちゃんと言えるところ、かな?」
「はぁ」
「そういうのかっこいいなって」
「んなことねーよ。泣き言も言ってるし、恨み言も超言ってる」
「そうだねー、この前夏希ちゃんに恨み言つぶやいて腹パン食らってたもんねー」
「…………あれは痛かった」
「あはは、そうかもね。でも、困ったらちゃんと言ってね?」
「…ああ」
ちらりと佐々木さんの顔を見るが、彼は依然として穏やかな表情だった。
*
その後、メシを食い終え戸塚と別れて佐々木さんと帰路につく。
「戸塚くんも言ってたけど」
「なんすか」
「なにかあったね」
「………」
「でも、そのなにかを君は自覚してない。違う?」
「……やっぱエスパーだろあんた」
つい砕けた口調になるほど図星だった。
「多分、戸塚くんに言った面倒とはまた違う件だと思う」
「……ええ、まぁ」
「それが具体的になにかはわからないけど、きっとそれは君が自分で考えて答えを出すべきものなんだと思うよ」
それはわかっていた。
小町に言われたように確かに俺はなにかに気づいていながら、それを理解できず見て見ぬフリをしている。いや、もしかしたら理解すらできているのに見て見ぬフリをしているのかもしれない。
「………なーんか、ずっと引っかかってるのがあるんすよ」
「へぇ」
「それがなにかはわからないし、なんでこんなモヤモヤすんのかもわかんないっす。つまり自分で考えるのには現状お手上げですわ」
「そっか。なら、そのモヤモヤが『いつ』、『なにによって』生まれたかをよく思い出して、考えて見るんだ」
「………」
いつ、なにによって、か。それが簡単にわかりゃ苦労しないんだがなぁ。
と、そこでボーダーのスマホから緊急着信が入った。
「もしもし?」
『ハッチ、サッサン!今大丈夫?』
「おう」
「うん、大丈夫だよ」
『サッサン達がいるとこから南に2キロのとこに民間人が入ったの!』
「こっから2キロって……警戒区域じゃねーか」
『そう!で、しかもそこにトリオン兵が出現したの!急いで救助に向かって!』
「オッケ」
「了解!」
即座にトリガーを起動して目的地を目指す。
警戒区域外でトリガー使うの久々だな。屋根伝いに行くが、今は人が住んでる屋根伝いに行くことになるからできるだけ静かに行かないと苦情が入る。
「近くに隊員は……いないからこっちに救助要請来てんだよな」
『この時間、ちょうど交代の時間だから部隊は基地に戻っちゃってて近くに誰もいないの。一番近くにいる部隊も向かってるわ』
「ちなみにそこは?」
『三輪隊』
……一悶着ありそうだなこりゃ。
と、そこで警戒区域から爆音が聞こえる。と、同時に閃光も。
「急ぎますよ」
「うん」
俺たちは更にスピードを上げた。
ーーー
現場に到着すると、バムスターが真っ二つにバラされていた。バムスターは強くないが、デカくて硬い。こんな芸当できるのはA級部隊しかないハズだが、A級部隊どころか他の部隊すらいなかった。となると……
「
佐々木さんも同じ結論だった。
こちらの部隊がやったのではないのなら、十中八九そうだろう。わずかに訓練生のトリガーという可能性もあるが、そんなことできるトリオンの持ち主は多分今の訓練生にはいない。
『ハッチ、付近に気配は?』
「……無い。殺気も攻撃の瞬間だけ。僅かな余韻も残ってない。かなり強いぞ、こいつ」
「君が言うなら相当だね」
と、そこで気配が近づく。
三輪隊が到着したようだ。
「ひゃ〜バラバラじゃん。やるなぁ比企谷!」
開口一番それか米屋。
「……やったのはお前らか?」
そんなに睨むなよ三輪。怖いから、割とマジで。
「違う。ここに来た時にはこうなってた」
「なに?」
「は?なら誰がこれやったんだよ」
「察しがつくだろうよ」
「………
「多分な。まぁこいつを解析に回せばわかるだろうよ。それより救助要請があった民間人ってのは、あのチンピラ擬きの中学生でいいのか?」
そこそこの人数が固まって助かったことにむせび泣いていた。一人は足を怪我したのか、立つことすらできない様子。
「……こちらで保護する。非番の貴様らはさっさと失せろ」
「へいよ」
極力俺らを視界に入れようとすらしないのかよ、どんだけ俺のこと嫌いなん?
しかし、こんだけ派手にバラバラにしたのに加えた攻撃は多分
その近界民(仮)の持ってるトリガーは、
「やれやれ、面倒なことになりそうだ」
本編が絡んできたぁ!やったのはもちろんあの白い悪魔。
そして八幡の自身の感情と向き合い始めました。今後どう変化していくのか(遠い目)