目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

57 / 86
お待たせしました。
諸事情により投稿が遅れましたが、そのぶん3話ぶんまとめて更新しました。遅れたぶん取り返すためとはいえ、長い話を連続3話も更新することになったことをお詫び申し上げます。

53話です。


53話 ようやく彼女らは向き合い、彼はその先を予感する。

「…以上が、報告です」

『……ネイバーの襲撃、か』

 

帰宅後、すぐに本部長に電話をかけ襲われたことの一部始終を伝えた。

黒い靄に包まれて、顔や声といった個人を特定するのに役立つ情報を一切断ち、それでいて俺の気配感知をもすり抜ける気配遮断能力。触手のようななにかで攻撃されたことも全て伝えた。

 

そして、俺がいると奴らの邪魔になることも。

 

『三門市全域に貼られているレーダーには君のトリガー反応以外に反応はなかった。だがバッグワームのようなトリガーがある以上不思議ではないな』

「攻撃の瞬間は気配が感じ取れたので、多分、レーダーは防げても気配そのものは攻撃の瞬間は消せないんでしょうね」

『そう考えるのが妥当だろう。……それに、そのネイバーは『バレた』といっていたのだな?』

「ええ。最初は本部にバレて誰か向かってきたのかと思ってたんすけど、そうじゃないみたいなんで多分上司かなにかかと思われます」

『……独断専行ということか』

「断言は出来ませんが」

『情報が少なすぎるから仕方ない。だがそれ以上に気になるのが…』

「……俺が邪魔、ってとこっすね」

 

あのネイバーは間違いなく『俺がいるとよくない』と言った。つまり、俺のことを知っているということだ。少なくとも、俺のサイドエフェクトがどんなものかは気づかれているということになる。

問題はそれをいつ、どこで知られたかだ。防衛任務以外でトリガーを使ったことなどほぼないし、そもそも最近は休暇中だ。防衛任務はない。

ネイバーバラバラ事件と三雲の一件、そして新型ネイバーの事件。このどれかで俺のサイドエフェクトのことを知ったことになる。

だがそんなこと可能だろうか。全く知らない人間が闘っている現場を見るだけでわかるなど。サイドエフェクトはあくまで人間の能力が強化されただけのもの。自分で気づくことはできても、他からみたらそんな簡単にわかるものではないだろう。

 

だがそういうサイドエフェクトだったりするのかもしれない。俺の超直感のようなサイドエフェクトがあるのだ。他に似たようなものがあっても不思議ではない。

 

『……こちらでも警戒を強めるなどしてネイバーの動向を探る。君たちは今休暇中だから調査を依頼したりはしないが、もしなにかわかればこちらにも伝えてほしい』

「りょーかいっす」

『あと、念のために君になにかしらの形で護衛をつけようと思うのだが、どうだろう』

「いやいいっすよ…」

 

ぼっちに護衛とか拷問かよ。誰つけるかは知らんけどさ。

 

『しかし、君の安全の為でも…』

「そー言ってくれるのはありがたいっすけど、俺の勘だとその襲ってきた奴は当分来ないんで」

『超直感か……だがいつかは…』

「ええ、多分近くある大規模な侵攻で来ると思います」

『……わかった。プライバシーにも関わることだ。無理強いはできない。だがくれぐれも気をつけてくれ。君を大切に思う人がいることを常に忘れないようにな』

「……どーも。それじゃ」

 

そう言って俺は電話を切った。

……今後どうなるかはわからないが、言いようのない不安だけが俺の中に燻っていた。

 

「とりあえず、明日のことだな」

 

現状、最も大きな問題をまずはどうにかせねば。

 

 

翌日

一色と綾辻、そして残りの生徒会のメンバーを奉仕部の部室に集めていた。

 

「あのー、これ、なんで集められたんですかね?」

「方針の確認と、今後について話すためよ」

「はぁ」

 

わかってんのかこいつ。

 

「現状の案はぶっちゃけ無理だ。そんくらいわかるだろ?」

「えぇ、それくらいはまぁ」

「できてもあの中の一部分だけ。打ち出した看板の割にはかなりしょぼいイベントになる。そうならないために、どうすればいいと思う?」

「はぁ、わかりませんけど」

「なら現状の問題点はなんだ?」

「んー、なにも決まってないことですか?あと予算」

 

ほう、さすがに最低限の問題点は理解しているようだな。これもわかってなかったらさすがに詰んでるけど。

 

「そうだ。意見は纏めるが誰も決定を下していないあの会議に全て問題がある。だからそういう馴れ合いみたいなのを排除したちゃんとした会議にする。これが必要だ」

「でもそれだと対立しません?」

「本来会議というのは対立して成り立つものよ。満場一致というのが一番楽ではあるけれど、そうならないことの方が本来は多いわ。そしてその対立をどうやって互いに納得するものにするか。もちろん納得できないで片方が妥協なり挫折なりすることも多々あるけど、そうして互いによりよいものを目指す。それが本来の会議の姿よ」

 

今のあの会議はただ漫然と自分達がやりたいものを出し合ってそれを全部まとめたものにしようとする『否定』がない会議だ。そして否定がないということは方針もロクに定まらないということ他ならない。そんなものは会議ではない。ただの会議のごっこ遊びだ。

 

「だが、そのためにはこちら側の方針がどのようになるか。それがまず必要だ。そのためにもまず一色、お前が変わる必要がある」

「え?」

「俺が会長にした手前、こんな説教じみたことするのは気が引けるが、お前遠慮しすぎだ。副会長の綾辻が先輩だから礼節を弁えることはわかる。遠慮してしまうのもわかる。

でもな、立場としてはお前の方が上なんだ。それに会長やるなんて初めてのことだしわからないことも多いのも当たり前だ。だからな、もっと周囲の人間を頼れ。俺らじゃなくて、生徒会のメンバーを」

 

そう、そもそも最初に俺らに頼りにきてる時点でおかしいのだ。しかも綾辻の最初の態度から一色はここに来ることを他のメンバーに伝えてなかった。

そうさせてしまった原因の一端を俺らが作ったとはいえ、ここはもうさすがにきっちりさせないとならない。一色や綾辻のためにも。

 

「え、えーっと……」

「いろはちゃん」

「は、はい!」

「私じゃ頼りないし、歳上だから頼りづらい時もあると思うの。でもね、私達は貴女に頼って欲しいの。いろはちゃんは一年生だし、会長だってなにも知らない状態で始めたからわからなくて当たり前。だからわからないことがあったらちゃんと聞いてくれると嬉しい。私達も言ってくれなきゃどこがわからないかわからないから。でも頼られたらいろはちゃんがわかるまでちゃんと教えるし、私達でもわからないことがあったら、その時はみんなでちゃんと話し合おう?そういうことができる生徒会に私はしたい」

 

綾辻の言葉を聞いた一色は呆然としていた。

恐らく綾辻がこんなにちゃんと自分のことを考えてくれてるとは思ってなかったのだろう。前にも言ったが、真摯な言葉を真摯な態度で伝えれば相手にはより深く突き刺さるのだ。とくに一色のような人間には効果があるだろう。

無論、今の言葉は綾辻の本心なんだろうけど。

 

「……私、こういうこと今までやってきたことなかったんで。多分皆さんが思ってるより迷惑かけちゃうと思うんですよ。それでも、そんな私でも、いいですか?」

「うん」

「………あ、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

 

……どうやら、内部の方はこれで一安心といったところか。

 

「んじゃ本題に戻ろう」

「対立の話でしたよね」

「いろはちゃんはどうしたい?」

「うぇぇ⁈いきなりですか⁈」

「うん、もちろん。まず一番上の人の意見をはっきりさせなきゃ」

 

おおう綾辻スパルタだな。

 

「そうですねー、私としてはしょぼいのいやなんで!ちゃんとしたことやるためにも対立でもなんでもしますよ!」

「うん、それがいいよ。他のみんなはどう?」

「私も、それがいいと思います」

「僕はみんながそれでいいなら」

 

どうやら他のメンバーからの承諾も得られたみたいだし、その方向で行くようだ。

しかしこういうとこで私的理由を持ち出すあたり、こいつはもしかしたら大物かもしれん。

 

 

「そうかもですけどー、私的にはこっちの演劇やりたいなーって。そっちの音楽とこっちの演劇、両方見れるとか超お得じゃないですかー」

「ただ、セパレートするとシナジー効果薄れるし、ダブルリスクなんじゃn」

「デスヨネー!でも予算的な問題ってあるじゃないですかー」

「それをみんなで解決していこうよ。そのための会議なんだし」

 

こんなやりとりがかれこれ20分以上続いている。そろそろうんざりしてきた。

今日の会議が始まろうとした瞬間、一色はこちらの案を出して先制攻撃を仕掛けた。とりあえず演劇をやるということで生徒会全員で最低限必要なことは決めておき、現在の案(?)に対立させるという戦法だ。

これそのものは問題ない。問題なのは玉縄だ。さっきからシナジー効果うんぬん言ってどうしても対立させる気がない。

なぜこいつがこんなに対立させたがらないのかはわかっている。そしてそれの解決方法も。

 

だが綾辻は会議が始まる前にこう言った。

 

『みんなには色々手伝ってもらったから、この会議のことは私達だけでどうにかしたいの。だから、見ててもどかしいこともあると思うけど、静観しててくれると嬉しいな』

 

つまり、自分達だけでどうにかするから手出しはするなということだ。これも一色の今後を考えてのことだろう。

 

「あの、二部構成でやることに反対の理由ってなんですか?」

 

名前知らない書記のおさげちゃんがそう発言する。ほう、あの子も動くとは、いい傾向だな。

 

「んー反対ってわけじゃないんだけど、ビジョンを共有するしたほうがより一体感をだせるし、これは合同イベントだ。一緒にやるってことはマストなんじゃないかな」

 

一緒にやった結果、ロクなイベントにならなかったじゃただの笑い話だ。現状なにも決まってないに等しいのだし。

 

「あの、一つ聞きたいんですけど」

 

そこで綾辻が手を上げ、発言する。

 

「なにかな?」

「合同でやる意味ってなんですか?」

「それは合同でやることによってより高いシナジー効果を…」

「それは現時点でなにも決まってない現状でも言えることですか?」

「コンセンサスは取れてたし、グランドデザインは共有できた」

『それあるー』

 

おい有象無象共は黙ってろよ。さっきからロクに案も出さないクセにそれあるしか言わねーだろ。

そこで綾辻は一息つくと、こう言った。

 

「この際ハッキリ言わせてもらいます。あなたは間違えてる。でも、それを認めたくなかったのでしょう?だから周囲の案を全て取り入れてみんなに責任が分散するように仕向けた。初めがどういうつもりだったかは知りません。でも現時点でこの有様ならこれはもう間違えてることに他ならない。このまま間違えたまま漫然と会議のごっこ遊びをしていても、このイベントはイベントとしての形を為さずに終わります」

 

綾辻の凛とした態度とどストレートな言葉に会議室はわずかな時間静寂に包まれる。

 

「……これってただ単にコミュニケーション不足なだけなんじゃない?」

「ではお伺いします。現状、このイベントにおいてなにか確固たるものは決まっていますか?」

「それは、前に決めたあの…」

「それについては不可能です。予算の問題を仮に解決させたとしても聖歌隊等の予約は昨日の時点で終了しています。クリスマスのイベントで聖歌隊を呼ぼうとするのはここだけではないですからね。

次にバンドについてですが、バンドの外部発注をするならそのバンドの練習場所、報酬等でさらに予算が必要となります。発注だけならギリギリ現在の予算でも大丈夫ですが、練習場所となると学校の音楽室やライブハウスの予約が必要となりますが、この時期で今から間に合うように予約するのはできないことはありませんが、他の案と並立させるとなると不可能でしょう。

まとめて映画にする、という案もありましたが、撮影時間、編集時間を考えると今からでは到底間に合いません。論外です。

さて、たった今仰った前に決めたことに対する現状をお伝えしましたがなにか反論はありますか?」

「………なぁ、これ一度クールダウンの時間を取って…」

「そんな時間ありますー?ぶっちゃけ、すぐにでも取り掛からないといけないくらい時間ないと思うんですけどー」

 

おお、一色が反論した。雪ノ下と由比ヶ浜も驚いている。

 

「それでですねー、私達ー、正直これ以上そちらの中身のないことに付き合うのは嫌なんですよー。今まで素直に従ってきてなにを今更と思うかもですけど、私達もやるからにはちゃんとしたものにしたいんですよ。だから、これ以上時間を無駄にするのはやめてほしいんですよねー」

 

綾辻に感化されたのか、一色が思いの外ハッキリとものを言ってる。今までなんかぼかしたり曖昧な態度で向こうに従ってきた手前、これはなかなかインパクトあるな。

 

「で、でも……」

「聞こえませんでしたか?ごっこ遊びがしたいなら他所でやってください、と言ったのですよ?誰もなにも行動を起こさないものが前に進むとでも?そんなものにこれ以上私達を付き合わせないでください」

 

……そーいや、綾辻ってキレると怖かったな。なんか寒気がするぞ。覇王色の覇気かな?

 

「まぁ色々言いましたけどー、別でやったほうがそれぞれの学校の良さってのがでると思うんですよー。どうですかね?」

 

そう言って一色が目を向けたのは、折本。いつもそれあるーしか言わないからワンチャンこの言葉もそれあるーで返してくれると思ったのかも。いやさすがに…

 

「あ、うん。それもある、かな?ねぇ?」

 

マジかよ。

 

 

「あー緊張したー。もー先輩がやれっていうからあんなこというハメになったじゃないですかー」

「俺はそんなこと一言も言ってねーよ」

「まぁまぁ、結果としていい方向に進んだんだしいいじゃん!いろはちゃんと遥ちゃんかっこよかったよ!」

「私はちょっとカッとなって論破しちゃった感あるけどね…」

「貴女がやっていなかったら私がやってたわ」

「だろうな」

 

こちらも手出しするなと言われてなければなにかしらアクションを取ってただろう。俺は言うに及ばず、雪ノ下が。

 

「で、こっからどーすんだ生徒会長」

「ええ⁈えーっと……」

「さっきも言ったが礼儀はわきまえても遠慮はすんなよ」

「……はい。じゃあ、まずは劇の題材からですね」

 

その後、綾辻に色々聞きながらではあるが一色は着実に指示を出して作業を進めていった。

 

ーーー

 

休憩と言われて俺は一人自販機へと向かった。

マッカンがないとわかった途端買う気が失せたが、なにかしら飲んで気持ちを切り替えたいと思ったためなにを買うか迷っていると

 

「はい、オゴリ」

「ん?」

 

横から紅茶を渡された。

そちらを見ると、なぜか折本がいた。

 

「おお、サンキュ」

「いえーい」

 

乾杯のつもりなのか折本は俺に軽く缶を当ててきた。いや飲み会じゃねーんだからんなことする意味ある?言わないけど。

 

「比企谷ちょっと変わった?」

 

なんだこいつ藪から棒に。

 

「いや知らんわ」

「昔はなに考えてるかよくわかんなかったしねー。それに、あの最初の侵攻以来なんか怖かったし」

 

…………。

 

「かもな。あの時は色々といっぱいいっぱいだったから」

「色々って?」

「色々だ。ありすぎてなに言えばいいかわからん」

「ふーん」

 

ほんと、色々ありすぎたからな。我ながらあのメンタル状態でよく高校受験乗り切ったな。

折本は俺がこれ以上喋る気がないのを感じたのか、それ以上はなにも突っ込んでこなかった。

 

「最後の方は怖かったし、今の方がいいよ。ウケるし」

「さいで」

 

ウケねーよ。

 

「次同窓会とかあったら比企谷も来たら?」

「誰が行くか」

「だよねウケる」

「一生言ってろ…」

 

 

あの会議が終わってから今まで滞っていたのが嘘のように物事は進み始めた。

劇でやることが決まったためその衣装等の小物や舞台に使う大道具等の製作、そして当日配るクッキーやらケーキやらのお菓子作り用の予算の整理などなどやることは多い。

 

みんなが作業してるのをぼんやり眺めていると、例の小学生二人組がせっせと手を動かして衣装に使う小道具を作っていた。

他の小学生は手は最低限動かしているがおしゃべりに夢中で作業効率はいいとは言えない。ぶっちゃけ時間はないからサクサクやってほしいんだけど。

ちょうど暇だったし、手伝おうと二人組に近づく。

 

「あ、お兄さん手伝ってくれるの?」

「おう、暇だから」

「いつでも暇なのね」

「ほっとけ」

「じゃあお兄さん手先器用だからこれとこれとこれとこれやって!」

 

おっふ手伝い程度の気持ちで来たのに大量に押し付けられたよどうしよう。三上の妹強い。

 

「まさかできないなんて言わないよね?」

 

鶴見留美(ブルータス)、お前もか……!

こうなったら腹をくくるしかない。小学生に舐められたとあっては部隊長の名折れだ!うん、絶対これ関係ないね。

 

「ぼっちの手先の器用さなめんな?」

「私たちとお兄さんどっちが早く作れるか競争ね!」

「負けないよ」

「それは俺のセリフだ」

 

そう言って俺たちは黙々と手を動かし始めた。しかしぼっちの手先の器用さをもってしても2対1はさすがに部が悪い。ここはちょいと話を振って見るか。

 

「お前らさ」

「違う」

 

お?

 

「留美」

「歌世!」

 

ああ、名前で呼べと。なんか女子ってお前呼ばわりされんの嫌いだよな。なんで?

 

「留美、歌世」

「ん」

「そう、そういうこと」

 

どういうことよ……。

 

「二人とも、うちの劇に出てみねーか?」

「え?」

「それ、お兄さんが決めていいの?」

「なんなら出るやつ探してこいとまで言われたんだよ」

 

一色のやつ、遠慮すんなってのはあくまで生徒会のメンバーに対してだからな?俺らには遠慮しろよ。仮にも部外者だぞ俺ら。

 

「そっか……」

「どうする留美ちゃん」

「……やってみたい」

「留美ちゃんがやるなら私も!」

「OK、上に伝えとく。ところでお嬢さん方?手が止まってるぜ」

「え?あ!」

「ずるい!」

「ほい、できた」

「八幡、それは大人気ない」

「ずるいよ!お姉ちゃんに言いつけるよ!」

「それはやめろ。とりあえず二人とも劇出るってことでいいか?」

『うん!』

「ほいよ。じゃ、あと頑張れ」

 

そう言って俺はその場から去った。

ちゃんとこのわずかな時間で歌世にやれと言われたもの全てを完璧にこなして。スピードワゴンはクールに去るぜ。

 

「あ、お兄さん。これもやって」

「うそやろ」

 

 

イベント当日

俺たちは急ピッチでお菓子作りを進めていたが、ある問題が発生した。

 

人手が足りない。

 

なぜか俺らは来るであろう客全員分のお菓子を作らされていた。おかしい。普通なら海浜総合の方も半分やらせるのがスジだろう。なのに

 

『僕らはお菓子作りできる人いないし、ステージのセッティングは全部こっちでやるからお願いしていい?』

 

とかほざきやがって丸投げしてきやがった。確かにバンドとかのやつと俺らの劇じゃセッティングするやつの量も大変さも違う。でもこちらはこちらでやることあんのに丸投げってどうなのよ。

俺は普段から料理はするがそんな凝った料理はしない。なんならお菓子なんぞほとんど作らない。元を辿れば同じようなものだが、それでもやることは色々と違うためおっかなびっくりな状態で作業を進めている。綾辻や一色はコミュニティセンターや客への対応に追われていて他のメンバーも劇のための下準備をしている。由比ヶ浜はダークマターを生成した前科があるため袋詰めのみ。

 

実質、雪ノ下一人でやってるようなものだ。

 

「時間はあとどんくらいだ?」

「ざっと2時間弱ね。あと20分以内にケーキのスポンジやクッキーの生地を全部作り終えないと焼く時間が無くなるわ。そんなことを気にしてる暇があるなら手を動かしなさい」

「わーってるよ」

 

……こうなることが目に見えていたから一応助っ人を呼んだのだが、来るだろうか。どちらも来るとは言ったが、向こうにも予定があってもおかしくない。遅刻するなんてことはないだろうから、来るならそろそろだが……。

 

「ハッチー、よーっす」

「あ、いた」

「おお、待ってたぜ」

 

と、そこで調理室の扉が開き入ってきたのはうちの隊の2人。

 

「おお!なっちゃん!サッサン!やっはろー!」

「おー結衣!またダークマター生成してんの?」

「してないし!」

「やぁ。比企谷くんに頼まれて助っ人に来たんだ」

「今恐ろしく人手が足りてないんで来てくれてよかったっす」

「いいよ。で、僕らはケーキとクッキーを作ればいいんだね?」

「ええ、お願いしてもいいですか?」

「OKOK、あたしはサッサンほど戦力にはならんけど多少はできるから」

「じゃ、早速始めようか」

 

そういって取り掛かってからは早かった。

まず佐々木さんの作業の早さが雪ノ下よりも早い。だがその雪ノ下も横山と協力することにより佐々木に勝るとも劣らない作業効率を見せる。というか佐々木さんが化け物じみてる。なんだあの人、色んな作業並行して進めてやがる。

そして雪ノ下が若干悔しそうにしてる。いや、そこ張り合うとかじゃないからな?

 

ーーー

 

開演15分前舞台裏

 

「あーもー!絶対やばいですー!」

 

一色がテンパっていた。

 

「シナリオはよくできてたし、リハでもちょっとつっかえる程度だったし大丈夫だろ」

「シナリオはうちの書記ちゃんと綾辻先輩が頑張ってくれましたから!」

「ならあとはお前がしっかりやるだけだな」

「なんでそういうこと言うんですかー!」

「ショック療法だ。そういうことにしとけ」

 

そんだけ言い返せるなら大丈夫だろ。

 

「んじゃ行くわ。どーせどうにかなるから気張らずにやれ」

「そこは『俺のために頑張ってくれ』とかじゃないんですか?」

「んな気持ち悪りぃこと言えるか」

「実際先輩が言ったらキモイですね」

「だろ?んじゃな」

 

そう言って俺は舞台裏を去った。

 

 

バンドの後の劇はつつがなく進んだ。

思いの外、留美の演技力は高く、客受けもよかった。歌世の方もあまり物怖じしない性格からか堂々とした演技が様になっており、スカウトした側からすればちょっと誇らしげに思えるほどに良いものであった。

 

客には一色が呼んだであろう葉山達や妹が出てるらしい川崎の姿も見られた。ちびっこ達のかわいらしい演技は客には全体的にウケが良さそうに見えてやってよかったととりあえずは思えるレベルだったと思う。最初の案(仮)をそのままやろうとしていたら客は苦笑いしながら帰っていただろう。

 

劇もそろそろ終盤になったとこで俺はみんなが休んでいるであろう調理室に足を向けた。

 

ーーー

 

調理室では疲れ切った雪ノ下と横山、クッキーのあまりをかじってる由比ヶ浜、そしてなぜかまだお菓子を作っている佐々木さんがいた。いやなんでまだ作ってるの?

 

「あ、ヒッキー。お疲れ〜」

「おう、そっちもな」

「もう当分ケーキは作りたくないわね」

「わかるー」

「食べるならいい?」

 

そう言って佐々木さんはホールケーキとカップケーキを女子三人に差し出した。ちゃんとデコレーションまでしてやがる。

 

「え、これ」

「余った素材で作ってみたんだ。よかったらみんなで食べて」

「ありがとう、お母さん」

「お母さん⁈」

 

謎のショックを受ける佐々木さんを放置し、女子三人はカップケーキを食べ始めた。どうやらホールケーキはあとでやるちょっとした打ち上げで食べようということになったらしい。

俺も一つカップケーキを手に取り口に運ぶ。

 

「どう?」

「うまいっすよ。まぁでもこの前食べたミニタルトの方が俺は好みっすね」

 

牛乳と一緒に食べるとこれはよさそうだな。

 

「まぁ、余った素材で作ったやつだからね」

「余ったやつでこんだけのものが作れるあんたがおかしいんすよ」

「えー」

 

そんなことを言いつつ佐々木さんもカップケーキを齧る。

 

「後でちょっといい?」

「……極秘の話っすか?」

「うん。夏希ちゃんにはもう言ってある」

「了解っすよ」

 

今回は多分、この前のネイバーではなくボーダー内部のイザコザだろう。できるなら御免こうむりたいが、話を聞くくらいはしておかなければな。

 

 

イベントが終わり、後片付けまで手伝ってもらうのは悪いと綾辻に言われたため、俺たちは先に部室に戻ることになった。

佐々木さんはいつもの喫茶店で待っているとか言って途中で別れ、横山もそれについていった。

部室の扉を開くと、雪ノ下と由比ヶ浜はすでに到着していた。

 

「あ、おかえりー」

「お疲れ様」

「ん」

 

適当に返事をして、席に着くと目の前に湯のみが置かれる。

 

「え、なにこれ」

 

イラストパンさんの湯のみとか、絶対由比ヶ浜が形で雪ノ下がデザイン選んだろ。

 

「クリスマスプレゼント!」

「1人だけ紙コップというのも不経済でしょ」

 

……2人で言い分が違うんですけど。いやいいんだけどさ。

 

「形はあたしが選んで、柄はゆきのん!」

「だろうな」

 

予想的中すぎて面白みがねーよ。

 

「俺、なんも用意してねーんだが」

「気にしなくていいわ。紙コップの代わりだもの」

「さいで」

 

あくまでお前は紙コップ説を推すのな。

 

「あ、あと一色の依頼。色々ありがとな」

「いいのよ。元々私たち三人で受けた依頼でしょ?お礼の必要はないわ」

「そうだよ!あ!あとまだクリスマス終わってないんだし、パーティーしよ!サッサンのケーキ食べてさ!」

「やる前提かよ」

「…わかったわ。空けておくようにしておくわ」

「サッサンとなっちゃんも呼ぼうよ!」

 

どうやらやることは決定しているらしい。しかもうちの隊全員集合させる気で。

 

「……悪い、やるのはいいんだが予定は後で連絡してくれ」

「え?ボーダーの方でなんかあるの?」

「貴方は今休隊してるって聞いたけど」

「そうなんだが、だからといって本当に何もしないわけじゃねーんだ。なんかしらの理由で呼ばれて頼まれりゃやる」

「そっか。なら早めに連絡するね」

「悪いな」

「ううん。ヒッキーお仕事頑張って!」

「いってらっしゃい」

「ん」

 

そうして俺は暖かな空気の部室を後にし、冷たい空気の漂う廊下に出た。

 

 

喫茶店あんていく

 

佐々木さんの行きつけの喫茶店らしく、落ち着いた雰囲気のいい店だ。俺はまだ一回しか来たことないけど。

中に入ると、佐々木さんと横山がいた。あとバイトしてる霧島も。

 

「お、お疲れハッチ」

「おう。霧島、コーヒー1つ。ミルクと砂糖多めで」

「ブラックね、了解」

「おいコラ」

「店長、コーヒー1つで」

「ふふ、わかったよ」

 

あのやろう……。

とりあえず霧島への憎しみは一旦押し込め、席に着く。

 

「で、今回はなんすか?」

「城戸司令が空閑遊真くんの黒トリガーを強奪するためにもうすぐ帰ってくる遠征部隊と三輪隊を玉狛に向かわせるらしいんだ」

 

これはまた強硬策に出たなあの人も。

 

「んなこと忍田本部長が許すんすか?」

「いや。だからあたし達と嵐山隊を組ませて迅さんと一緒に迎え撃つ気らしいよ」

「へぇ…」

 

城戸司令はとことん喧嘩する気なのか。

 

「でも僕たちは一応休暇中だ。だから参加は任意だって言われたんだ。で……」

「俺らの意思をここで決める、と」

「そういうこと」

 

………。

 

「迅さんはなんて言ったかわかります?」

「『あいつら次第』とだけ」

「…………」

 

つまり、俺らが参加しようがしまいがあの人にはどんな風になるか未来が見えてるということか。

実際、嵐山隊と迅さんが組めば精鋭部隊でも勝てるだろう。迅さんがよほどのヘマしない限りではあるが、未来視のサイドエフェクトを持つあの人がそんな大ポカするとしたらよほど悪い未来が見えて動揺した時か、そもそもその大ポカが布石かだろう。それほどまでに迅さんの未来視と黒トリガー『風刃』の相性が良い。

一度佐々木さんが本気で挑んだが、一瞬で返り討ちに遭ったのを見ているだけによくそう思う。多対一でもそれは恐らく変わらない。

 

ここでネックになってくるのは恐らく遠征部隊じゃない。三輪隊だ。

 

あの人は俺たち、いや『俺』に対して三輪隊になにかさせたいのだ。それかなにかする機会を与えているかの二択だな。

今まで俺と三輪の関係を知りながらもそれを特に迅さんはどうこうしようとはしてこなかった。そもそも俺と迅さんはそこまで接点があるわけではない。最初にチームを組む際に出会い、そしてその後師匠となる二宮さんの存在を俺に教えた。それについては多大なる感謝をしているが、その後目立った接点はない。時々会いに来て予言まがいのことをする程度だ。いやそれもどうかと思うけどさ。

つまり、今後の俺に三輪はなにかしらの形で関わることが確定、または高い確率でそうなるという未来が見えたのだろう。

だからこそ俺と三輪を対立させようとしている。恐らくそういうことだろう。今までは俺たちは互いに関わろうとしてこなかった。思考回路が違うため優先順位も違う。それが決定的だったから。しかも当時の俺はまだだいぶ今より酷い状態のメンタルだったから余計に拗れた。

 

「……そろそろ、向き合う頃なのかねぇ」

「というと?」

「わかってんでしょ?俺と三輪っすよ」

 

多分仲良くするのは不可能だろう。俺はともかく向こうが拒む。

だが前に平塚先生が言ったように『無難にやり過ごす』くらいはできるようにならないといけないのかもしれない。同じ作戦に参加して、同じ配置にさせられても良いくらいには。

仮にも同じボーダーのA級部隊隊長だ。それくらいできなければな。

 

「やりましょう」

「だと思ったよ」

「ねー」

「予想どおりかよ」

「まぁね。もうかれこれ3年近い付き合いよ?少しはわかるわよ」

「俺はお前のこと未だにわかんねーけど」

「女はミステリアスな方がいいのよ」

「その思考回路がわかんねーつってんだよ」

「あはは」

「ただ、やるのは俺らだけで」

「え?」

「嵐山隊は、保険として後方待機してもらおう」

「へえ、面白いこと考えるね」

 

多分、こうなることもあのデコグラサンはわかってんだろうな。

 

 

 




次は黒トリガー争奪戦。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。